• 検索結果がありません。

周産期異常の臨床判断力を高める助産教育プログラムの実施と評価

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "周産期異常の臨床判断力を高める助産教育プログラムの実施と評価"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

周産期異常の臨床判断力を高める助産教育プログラムの実施と評価

Evaluation of an educational program for midwifery students

to enhance clinical judgement about perinatal abnormalities

小 黒 道 子(Michiko OGURO)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2

蛭 田 明 子(Akiko HIRUTA)

*2 抄  録 目 的 妊婦の高年齢化に伴いハイリスク妊娠が増えており,助産学生が受け持つ妊産婦が異常に移行する場 合が少なくない。研究目的は,助産教育においてハイリスク妊娠・周産期異常の知識の習得に加え,臨 床判断力および対応力の向上を目標とした新たな教育方法を用いた教育プログラムを開発し,その評価 を行うことである。 方 法 ブレンド型学習を基盤に作成した事例を用いての臨床カンファレンス形式とシミュレーションを組み 合わせた2つのプログラムを作成した。プログラムの主題は「常位胎盤早期剥離/子癇発作」「妊娠高血 圧症候群/ HELLP症候群」とした。研究参加者は助産学専攻の大学院1年の学生 11名であり,教育プ ログラム前,直後,4か月後(分娩介助実習後)の3時点における知識と自己効力感を測定しプログラム の評価を行った。分析方法はボンフェローニの検定を用いた。なお本研究は,聖路加国際大学倫理審査 委員会の承認を受けて行った(承認番号:16-A064)。 結 果 「常位胎盤早期剥離/子癇知識テスト」の合計得点は,プログラム前の中央値12.0点がプログラム直後 24.0点に上昇しており,4か月後20.0点となっていた(p=0.007)。「妊娠高血圧症候群/HELLP症候群知識 テスト」の合計得点は,クラス前の中央値24.0点がクラス後には48.0点になり,4か月後も44.0点と維持さ れた(p<0.001)。「常位胎盤早期剥離/子癇の対応効力感尺度」の合計得点は,プログラム前の中央値20.0 点が36.0点に上昇し,4か月後35.0点であった(p=0.001)。「妊娠高血圧症候群/HELLP症候群の対応効力 感尺度」合計得点は,クラス前中央値15.0点が直後は28.0点に上昇し4か月後25.0点となった(p<0.001)。 結 論 教育プログラムは,助産学生の知識および自己効力感を高め,4か月後まで維持するために効果的な 可能性がある。 キーワード:助産教育,ハイリスク妊娠,ブレンド型学習,シミュレーション,自己効力感 2018年9月13日受付 2020 年1月26日採用 2020年5月12日早期公開

*1東京医療保健大学 千葉看護学部(Tokyo Healthcare University Chiba Faculty of Nursing)

*2聖路加国際大学(St. Luke's International University)

(2)

Abstract Purpose

Midwifery students have increasing opportunities to care for women at risk for developing perinatal abnormal-ities during pregnancy and labor due to their increased age at the time of pregnancy. The purpose of this study was to develop and evaluate the new educational program targeting midwifery students to increase knowledge and enhance clinical judgement to respond high-risk pregnancies.

Methods

We developed an educational program based on the blended learning approach that combined web-learning in advance with clinical conference style and role play or simulation in class. The themes of program were premature abruption of placenta / eclampsia and hypertensive disorders of pregnancy / HELLP syndrome. Participants were 11 midwifery students in the master's course. The knowledge and self-efficacy to assess and respond to situations were measured before and just after program and four months after program. The knowledge test for premature abruption of placenta / eclampsia (9 items; 0-36 points) and the knowledge test for hypertension / HELLP syndrome (16 items; 0-64 points) were used with multiple-choice questions. In addition, the self-efficacy test for premature abruption of placenta / eclampsia (12 items; 0-93 points;α=.93) and the self-efficacy test for hypertension/HELLP syndrome (10 items; 0-40 points;α=.91) were on a 4-point Likert scale. These data were collected from November 2016 through March 2017.

Bonferroni's test was used to detect difference across multiple times. This study protocol was approved by the St. Luke's International University Research Ethics Committee.

Results

Medians of the total score of knowledge test for premature abruption of placenta / eclampsia were 12.0 points before the program, 24.0 points just after program and 20.0 points at four months after the program (p=0.007). In addition, medians of the total score of the knowledge test for pregnancy induced hypertension / HELLP syndrome increased from 24.0 points before the program to 48.0 points, and 44.0 points at four months after the program (p<0.001). The median scores of self-efficacy for premature abruption of placenta / eclampsia were 20.0 points before the program, 36.0 points just after the program and 35.0 points at four months after the program. The medians self-efficacy score before the program (15.0 points) increased just after the program (28.0 points) and remained higher four months after the program (25.0 points).

Conclusion

The educational program which we developed might be effective to increase knowledge and enhance clinical judgement after the program and keep them until 4 months after the program high.

Key words: midwifery education, high risk pregnancy, blended learning, simulation, self-efficacy

Ⅰ.研究の背景

日本の出生率は 1970 年代より減少が続き,合計特 殊出生率は 2.0 を割ったまま推移している(厚生労働 省,2018)。少子化の進行は社会の重大な課題として 認識され,様々な政策が打ち出されている(内閣府, 2015)。同時に,妊婦の高年齢化が進んでおり,第 1 子を出産する妊婦の平均年齢が 30 歳を超えた(内閣 府,2018)。また人々の生活や環境そのものが変化し, 生活習慣が健康を損なう要因となり,成人期の女性に も慢性疾患の増加が危惧される。このような背景か ら,ハイリスク妊娠や周産期の異常が増加している現 状がある。助産教育において,保健師助産師看護師等 学校養成所指定規則(文部省・厚生省,1951)に定め られた分娩介助は「正期産・経膣分べん・頭位単胎」 とされており,介助件数は 10 例程度で,基本的には 実習においてローリスクの産婦を受け持つことができ るよう調整している。しかし,ハイリスク妊娠や周産 期の異常の増加から学生が受け持った産婦が異常に移 行したり,軽度のハイリスクの妊婦を受け持つことは 少なくない。 正常な産婦が急変しハイリスクへと移行することが あるが,こうした速い展開の中でも瞬時に状況を把握 して判断し,対応できる実践力が助産師には必要であ る。助産学生が受け持つ産婦が急変することもあり, たとえ学生であってもその状況を把握する能力が必要 である。看護師等養成所の運営に関する指導ガイドラ イン(厚生労働省,2015)の助産師に求められる実践 能力と卒業時の到達目標と到達度においても「異常発 生時の観察と判断をもとに行動する」,「異常発生時の

(3)

判断と必要な介入を行う」を挙げており,急変した状 況の中で助産師が行う対応について,その必要性や目 的を理解できることが望ましい。しかし,従来のカリ キュラムでは臨床的な思考の形成は実習がその主たる 場となっており,ことにハイリスクケースは,講義中 心の教育で知識の習得に偏重する傾向がある。そのた め実習前の学生は,知識があっても,複合的に事象を 捉えたり,変化の兆しや異常に気づく力が不足してお り,実習で起こる状況を理解することに困難を抱えて いると考えられる。公益社団法人全国助産師教育協議 会(2016)が実施した平成27年度厚生労働省医政局看 護課看護職員確保対策特別事業「助産学生の分娩期ケ ア能力学習到達度に関する調査」においても,「分娩進 行に伴う異常発生のアセスメント」「母子の異常を予 防するための行動」の評価が低いことが報告されてい る。Tanner(2006)は,臨床判断力を「患者のニーズ, 不安,もしくは健康問題についての解釈や結論,そし て/あるいは患者の反応によって適切と考えられる標 準的なアプローチを使用したり即興の新しいアプ ローチに修正したりするための判断」と述べている。 これらを実習の前からトレーニングをしておくこと で,学生は実習の早期より臨床思考の回路を働かせる ことができ,効率よく臨床判断の経験を積む事ができ ると考えた。 本研究の目的は,助産教育において,ハイリスク妊 娠・周産期異常について知識の習得に加え,臨床判断 力および対応力の向上を目標として開発したプログラ ムの評価を行うことである。

Ⅱ.周産期異常の臨床判断力を高める

助産教育プログラムの概要

本研究で用いる周産期異常の臨床判断力を高める助 産教育プログラム(以下,教育プログラムと示す)で は,教育方法としてブレンド型学習(Horn, et al. 2015/ 2017)を採用した。ブレンド型学習は,「正式な教育課 程において,学習の少なくとも一部をオンラインで実 施し,時間,場所,方法または進行速度について生徒 が自己管理する。かつ少なくとも一部は自宅以外の監 督された校舎において授業を受ける(Horn, et al. 2015/ 2017)」学習方法である。本教育プログラムでは,従来 対面型の講義で教授していた疾患の基礎知識をオンラ インによる事前の個別学習とした。その後の対面学習 では,それらの知識を前提とした判断力を養う臨床推 論を用いた臨床カンファレンス形式および対応能力を 高めるシミュレーションを取り入れた。教育プログラ ムを実施した教育機関の学生は,従来,学内でハイリ スク妊娠に関する講義で知識の提供は受けるが,その 知識を活用する経験がなく実習に臨んでいた。しか し,異常の発見と初期対応に「少しの助言で実践でき る」レベルに到達するためには,その場で反応する, すなわち知識を活用しながら推論し,判断・行動する 経験を反復して積み重ねることが欠かせない。その経 験を積むためには,実習前に「臨床推論」の準備性を涵 養した上で,その後の実習で異常に移行した妊産婦の 疾患や病態を予測し,可能な範囲で初期対応できるよ う教育プログラムが必要と考えた。 教育プログラムの構成を図1に示した。本研究では, 周産期異常の中で「常位胎盤早期剥離(早剥)/子癇発 作」と「妊娠 高 血 圧症 候 群(HDP)/ HELLP 症 候群 (HELLP)」の2つを設定した。これらの異常を選定し た理由は,発生頻度が高くこれまで助産学生が実習中 に経験することがあったからである。教育プログラム の到達目標を図1に示す。教育プログラムは,①クラ ス前:オンラインによる基礎知識の事前学習(クラス 1~2週間前から学生が都合のよい場所・時間に自身の ペースで学習し,所要時間10~20分の各章終了後に表 示されるミニテスト(1問)に正解すると次章に進める。 2時間程度を想定した内容で,進行状況は教員が確認 できる),②クラス(1クラス135分):臨床カンファレ ンス形式の講義(実際の事例を基に作成された臨床事 例の経過にそって判断が必要となる重要な場面を取り 上げ,情報収集とアセスメント(鑑別診断を含む),対 応に関する問いへの回答をグループで考え,回答と根 拠について臨床助産師と学生がディスカッションを行 い,1課題を3~6分で進行)および学生が助産師役を 演じるシミュレーションで,「HDP/HELLP」はこれら の2部構成,「早剥/子癇発作」は,加えて③クラス後: オンラインにてデモンストレーション動画の視聴によ る復習の3部構成とした。 クラスにおける早剥の1課題を例示する。妊娠36週 1日のHDP且つFGR傾向の初産婦が,1時間前から性 器出血,腹痛,腰痛,および胎動減少を主訴に来院し た状況を学生に提示する。考えられる診断名すべてと その理由を3-4名で1チームの学生がそれぞれ3分で考 え,チーム毎に発表後,臨床助産師が解説を行う,と いった流れである。シミュレーションは,妊娠 38 週 初産婦の子癇発作時の場面を取り出し,子癇発作のア

(4)

ププ ロ グ ラ ム 1 : 常常 位 胎 盤 早 期 剥 離 // 子子 癇 発 作 ププ ロ グ ラ ム 2 : 妊妊 娠 高 血 圧 症 候 群 // H E L L P 症症 候 群 CC o u rs e OO b je c ti ve s ・ 妊婦の訴え や 症状から 、 常位胎 盤早期 剥離、子 癇発作 、妊娠高 血圧症 候群、 HE L L P 症 候群の各 診断の た め に どの よ う な 情報が 必要か を 理解す る 。 ・ 常位胎盤早 期剥離、 子癇発 作、妊 娠高血 圧症候群 、 H E L L P 症候 群の病 態がわかり 、 症状と 関連付 けて 理 解 す る 。 ・ 妊婦の症状 や診断 への対 応を 理 解 し 、 初期対 応がで き る 。 OO u t o f C la ss ((B e fo re C la ss ) ウ ェ ブ ラ ー ニ ン グ : ク ラ ス の 1 ~ 2 週間 前に 提 示 <常位胎 盤早期 剥離> ・ 常位胎盤早 期剥離 と は ・ 常 位 胎盤 早期剥 離の病 態・ 症状 ・ 常位胎盤早 期剥離 の鑑別・ 診 断に必 要 な 検 査 ・ 産 科 D IC ・ 常 位 置胎盤早 期剥離 と D IC 治療 <子癇> ・子癇発作と 妊娠高 血圧症 候群の 関 連( 発作 の発生 機 序・ リ ス ク 因子等) ・ 子癇発作予 防の た め の観察 と 対 応・ 治療 ・ 子癇発作へ の初期 対応と そ の後の治 療 ウェ ブラ ー ニ ン グ : ク ラ ス の 1 ~2 週 間 前 に 提示 <妊娠高 血圧症 候群> ・ 妊 娠高血圧 症候群 と は( 定義・ リ ス ク 因 子・ 母児へ の影響等) ・ 診 断 の た め の検 査と そ の 具 体 的 な 方 法 ・ 妊 娠高血圧 症群予 防 の生 活習慣 指導 ・ 妊 娠高血圧 症候群 の 管理・ 治 療( 妊娠・ 分娩・ 産 褥各期) <HE L LP 症候群 > ・ H E L LP 症候 群の症 状 、診断 ・ H E LLP 症候 群の病 態と 症状の 関連 IIn C la ss ●臨床カ ン フ ァ レ ン ス 形式 テ ー マ : 常位胎 盤 早期 剥離の 診断と 対応 課題: 7 課題( 1 課 題 3 ~6 分) 早剥の 診断、診 断 の た め の情報 収取、 対 応な ど 方法: グルー プ ワー ク と 全体デ ィ ス カ ッ シ ョ ン フ ァ シ リ テ ー タ : 臨床 指導者、 教 員 ●シ ミュレー シ ョ ン テ ー マ : 子癇発 作 の予 防的対 応/初 期対応 場面: 総 合 病 院 にて 分娩介 助実習 中で 7 例 目 の介助 。タイ ム スケ ジュー ル:ブ リーフ ィ ング 5 分 →シミ ュレー ショ ン 6 分× 2 回→デ ブリー フィン グ 6 分 ( 2 回 目 4 分 ) 事 例 : 妊 娠 3 8 週 の 初産婦 が陣痛 発来に て来院 。 血 圧 が 16 8 /9 4 、 意 識レ ベルが 少 し下 がり、 視 覚 障害の 訴えあ り。モ ニター 終了後 に子癇 発作を 起こす 教 員役割 : ファ シリテ ー タ 、 デブ リー ファ ー 、 模 擬 患 者 ●臨床カ ン フ ァ レ ン ス 形式 テ ー マ : 妊娠・ 分娩 期の HD P の 管理 課題: 1 3 課題( 1 課題約 5 分 ) H D P の診 断、リ ス ク 因子、 入院の 適応、 治療、助産ケ ア 、 胎児のア セ ス メ ン ト 、硬膜外 麻酔の 適応な ど 方法: グルー プ ワー ク と 全体デ ィ ス カ ッ シ ョ ン フ ァ シ リ テ ー タ : 臨床 指導者、 教員 ●シ ミュレー シ ョ ン テ ー マ : 入院し た 妊娠高 血圧症 候群の妊 婦への 保健指 導 場面: 産科病 棟 準夜勤 帯 2 1 :0 0 個室 タ イ ム ス ケ ジ ュー ル: ブリ ー フ ィ ン グ 2 分→シ ミュ レー シ ョ ン 5 分→デ ブリ ー フ ィ ン グ 1 0 分 ( シ ミュレー シ ョ ン・ デ ブ リ ー フ ィ ン グ 2 回 ) 事例: H D P に て 降 圧剤 使用 、血 圧管 理の た め 入 院 し た 初産 婦 緊 急帝 王 切 開 に 備え て IC、術 前 検 査 を 施行し た 。 入 院後頭 重感にて ナ ー ス コ ー ルあり 教員役割: フ ァ シ リ テ ー タ 、 デ ブ リ ー フ ァ ー 、 模擬 患者( T A ) OO u t o f C la ss ((A ft e r C la ss ) デ モ ン ス ト レ ー シ ョ ン 動画の 配信【 子 癇 発作へ の対応】 図 1 周 産 期 異 常 の 臨 床 判 断 力 を 高 める 助 産 教 育 プログラ ムの 構 成

(5)

セスメントと対応を実施した。シミュレーションおよ びデブリーフィングは 2 回実施し,1 回につき 2 名の 学生がシミュレーションに参加できるようにした。ク ラス後には,シミュレーションで行った子癇発作の場 面のデモンストレーション動画を配信し,その対応を 復習する機会を提供した。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン 本研究のデザインは,開発した教育プログラムに関 して,参加者からのデータを基盤として評価を行う事 例研究である。 2.研究参加者 研究参加者は,大学院にて 2 年間の助産教育を 行っている教育機関の1年生である。本教育プログラ ムが含まれる科目は,1年次の必修科目として分娩介 助実習前に配当されていることから,従来の開講時期 に合わせて教育プログラムを行った。 3.教育プログラムの評価項目と測定用具 主な評価項目には,周産期異常に関する知識,周産 期異常の対応に関する自己効力感を設定した。これら の評価項目を選択した理由は,本研究の対象者から, 周産期異常に関する真の臨床判断力を測定することは 難しい,と考えた点である。対象の助産学生に臨床判 断力を評価する学内演習を行い,そこで適切な判断が 行えたとしても,臨地において教育プログラムで学ん だ周産期異常のケースを受持ち,対応能力を強化する 機会は現実的に非常に乏しい。従って,周産期異常の 状況を判断し対応する力である臨床判断力を,判断の 前提となる知識と,客観的に測定できる行動変容の先 行要因である自己効力感で評価することとした。 本研究では,周産期異常に関する知識の習得の程 度を測定するために,「早剥/子癇知識テスト」と 「HDP/HELLP知識テスト」を作成した。「早剥/子癇 知識テスト」は,9項目から構成され,回答は4肢また は5肢から正答を1肢または2肢選択する形式とした。 「HDP / HELLP 知識テスト」は 16 項目から構成され, 回答形式は同様である。得点は,両テストとも1問正 答4点で合計を算出する。得点範囲は,「早剥/子癇知 識テスト」は0から36点,「HDP/HELLP知識テスト」 は0から64点であり,得点が高いほど周産期異常の知 識習得レベルが高いと判断する。 周産期異常の対応に関する自己効力感を測定するた め,「早剥/子癇の対応効力感尺度」と「HDP/HELLP の対応効力感尺度」を作成した。「早剥/子癇の対応効 力感尺度」は12項目で構成され5段階のリカート(よく できると思う4点~全くできないと思う0点)尺度であ り,得点範囲は0~48点である。プログラム前,直後 の両方のデータを用いてCronbach αを算出したところ 0.93であった。「HDP/HELLPの対応効力感尺度」は, 10項目で構成され5段階のリカート尺度であり,得点 範囲は0~40点である。プログラム前,直後のデータ を用いて算出したCronbach αは0.91であった。両尺度 とも,得点が高いほど周産期異常への対応の自己効力 感が高いと判断する。 評価項目の測定時期は,教育プログラムの1~2週間 前(2016年 11月;以下,プログラム前と示す),クラ ス終了直後(2016年 12 月;以下,直後と示す),分娩 介助実習終了後となるプログラム終了4 か月後(2017 年 3 月;以下,4 か月後)の 3 回であった。3 回目の評 価を4か月後にした理由は,以下の通りである。対象 学生は,本教育プログラム終了の翌月から8週間分娩 介助実習であったこと,さらに分娩介助実習が終了し た2週間後には助産所実習が始まること,これらより, 対象学生の負担を考慮した上で教育プログラムの学び に関する臨地での活用状況を明らかにするのは,プロ グラム終了4カ月後が適当と判断し,設定された。 3回の評価には,いずれも同一の測定用具を使用し た。また,研究参加者の特性として,年齢,看護師と しての臨床経験年数を収集した。さらに教育プログラ ムに関する感想について自由記述にて回答を求めた。 4.データ収集方法 質問紙は,評価項目の各測定時期に配布して,その 場で回答してもらい,回答後に質問紙を封筒に入れ封 をして,回収袋にて回収を行った。学生間で研究参加 の有無がわからないように,質問紙は全員に配布し, 参加しない学生は白紙で提出するよう説明した。 データ収集期間は,2016 年 11 月から 2017 年 3 月で あった。 5.解析方法 すべての量的データは,度数および記述統計量を算 出した。知識および自己効力感について,プログラム 前,直後,4か月後の3点での変化についてBonferroni

(6)

法にて多重比較を行った。 教育プログラムの感想である自由記述については, プログラムの直後と4か月後のそれぞれで内容の類似 性と異質性を検討し,カテゴリに分類した。プログラ ム 4 か月後(実習終了時)の感想は,今回取り上げた 周産期異常の特性から,教育プログラム毎に感想を記 載するのは困難と考え,一括記載とした。従って,プ ログラム直後はプログラム毎のカテゴリを示し,プロ グラム 4か月後は2つのプログラムを統合したカテゴ リを抽出した。 6.研究における倫理的配慮 本研究は研究者が教員であり研究参加者が学生であ るため,学生に研究参加への強制力が働かないように するために,自由意思で研究参加を決定できること, 研究参加諾否によって不利益を被らないこと,成績と は関係しないことを保証した。さらに,個人情報およ びプライバシーの保護,データの保管方法・期間,研 究結果の公表について説明した。なお,リクルートお よびデータ収集は,本研究に関わらない研究補助者が 行った。研究補助者は,研究参加者に対し,同意の撤 回の自由も含めて研究内容について十分に説明し,本 研究への参加について本人の自由意思による書面同意 を得た。なお本研究は,聖路加国際大学倫理審査委員 会の承認を受けて行った(承認番号:16-A064)。

Ⅳ.結   果

1.研究参加者の特性 研究参加者として大学院 1 年の 13 名に研究説明を 行 い, 13 名 か ら 同 意 を 得 た。 う ち 1 名 は「HDP / HELLP」のクラスに参加できず,1 名は 4 か月後の質 問紙は回収されなかったため,11 名を分析対象とし た。研究参加者は,20 代が 9 名(81.8%),30 代が 2 名 であった。看護師の臨床経験は,4名(36.4%)が持っ ており,経験年数は 2 年~6 年であった。プログラム 前において 11 名全員が学生または看護師として分娩 に立ち会った経験があった。なお,研究参加者の教育 プログラム前のカリキュラムとしては,分娩介助実習 に必要な科目および産褥期実習は終了していた。プロ グラム4か月後は,分娩介助実習を終えていた。分娩 介助実習にて受け持ちとして遭遇した異常は頻度が高 い順に,硬膜外麻酔分娩(8名),遷延分娩(6名),多 量出血(6名),頸管裂傷(5名),胎児機能不全(5名), 妊娠糖尿病合併(5名),早剥(3名),羊水過少・過多 (3名),妊娠高血圧症候群(1名)であった。 2.教育プログラム前後の知識及び自己効力感の変化 1)早剥/子癇発作 「早剥/子癇発作」プログラムに関する評価として, 「早剥/子癇知識テスト」および「早剥/子癇の対応効 力感尺度」の合計得点を表1に示した。「早剥/子癇知 識テスト」の合計得点は,プログラム前の中央値12.0 点(平均値 15.27±5.31 点)が,直後は 24.0 点(平均値 25.45±6.27点)に 上 昇 し, 4 か 月 後 20.0 点(平 均 値 23.28±5.31)と 3 時 点 で 変 化 し て い た(χ2=10.1, p=.007)。多重比較では,プログラム前と直後に有意 な差が認められた(p=.017)。各参加者の合計得点に 関する3時点の推移は,概ね同様であった。知識テス トの各項目のプログラム前,直後,4か月後の正答率 表1 教育プログラム前,直後,4か月後の知識と効力感の合計得点の変化 プログラム前 直後 4か月後 χ2 p値a 常位胎盤早期剥離/子癇発作知識 12.0 24.0 20.0 10.1 .007 常位胎盤早期剥離/子癇発作の対応効力感 20.0 36.0 35.0 15.1 .001 HDP/HELLP症候群知識 24.0 48.0 44.0 16.2 <.001 HDP/HELLP症候群の対応効力感 15.0 28.0 25.0 18.0 <.001 ** * * ** ** ** 注:各得点は中央値を示す。*p<.05**p<.01。Bonferroni法にて多重比較の結果を示す。

(7)

を表2に示す。プログラム前と直後で正答率が上昇し その差が大きかった項目は順に,「早剥の血液検査所 見」(+72.7 ポイント),「早剥の成因」(+54.5 ポイン ト),「早剥が最も起こりやすい時期」(+54.5 ポイン ト)であった。一方,プログラム前から後に正答率が 下がった項目は,「産科 DIC スコアの臨床症状」(−9.1 ポイント)であった。さらに,3 時点の正答率の変化 で特徴的であったのは,「子癇の前駆症状」「早剥が最 も起こりやすい時期」「早剥の血液検査所見」で,プロ グラム前から直後で大きく上昇したが,4か月後には 低下した。逆に,唯一プログラム前から直後で低下し た「産科DICスコアの臨床症状」の正答率は,4か月後 には大幅に上昇した。その他の項目の3時点の変化の 傾向として,プログラム前,直後,4か月後でほとん ど変わらなかったのは2項目,直後に上昇して4 か月 まで維持されたのは3項目であった。 「早剥/子癇の対応効力感尺度」の合計得点は,プロ グラム前の中央値は 20.0 点(平均値 20.18±6.18)で あったのが,直後は 36.0 点(平均値 34.73±5.53 点)に 上昇し,4か月後35.0点(平均値32.73±6.02点)であっ た(χ2 =15.1, p=.001)。多重比較では,プログラム前と 直後(p=.001),プログラム前と 4 か月後(p=.023)に て有意な差が認められた。各参加者の合計得点に関す る3時点の推移は,概ね同様であった。表3に対応効力 感尺度の各項目のプログラム前後の平均値を示した。 プログラム前後にて項目の平均値の差が大きかったの は,「早剥 治療開始の判断」(+1.81),「子癇 の判断」 (+1.54),「子癇発作時の安全確保」(+1.36)であった。 プログラム前直後で平均値が低下した項目はなかった。 直後から4か月後にさらに上昇した項目が5項目,低下 した項目も5項目であった。 2)HDP/HELLP 「HDP/HELLP知識テスト」の合計得点は,クラス 前の中央値 24.0 点(平均 29.09±6.95 点)が直後には 48.0点(平均 47.64±5.78 点)になり,4 か月後 44.0 点 (平均 44.36±9.37 点)となった(χ2 =16.3, p<.001)。多 重比較では,プログラム前と直後(p=.001),プログ ラム前と 4 か月後(p=.004)にて有意な差が認められ た(表1)。各参加者の合計得点に関する3時点の推移 は,概ね同様であった。プログラム前と直後で正答率 が上昇しその差が大きかった項目は順に,「妊娠前の HDPのリスク因子」(+63.6ポイント),「HDPが原因と なって起こる病態」(+63.6ポイント),「HELLPの特徴 的な症状」(+63.6ポイント)であった。一方,プログ ラム前から直後に低下した項目は,「HDP の分類」 表 3 プログラム前,直後,4 か月後における対応効力感 尺度各項目の平均値 プログラム前 直後 4 か月後 【常位胎盤早期剥離/子癇発作】 1 子癇の前駆症状の判断 1.55 2.82 2.64 2 子癇の判断 1.64 3.18 3.36 3 子癇発作時に人を呼ぶ 2.73 3.82 3.82 4 子癇発作時の安全確保 2.09 3.45 3.55 5 子癇発作時の呼吸と発作の観察 1.55 2.64 2.91 6 子癇発作後の呼吸と意識レベルの観察 1.64 2.73 2.82 7 子癇発作後の気道の確保 1.64 2.91 3.00 8 早剥のリスクアセスメント 1.91 2.45 2.27 9 症状からの早剥を判断する 2.00 2.82 2.73 10胎児心拍モニタリング所見から早剥を判断 する 1.82 2.55 2.18 11 DICを考慮して血液検査を実施する 2.15 2.91 1.82 12早剥治療開始の判断 0.64 2.45 1.64 【HDP / HELLP 症候群】 1 HDPの診断基準に基づく診断 2.00 3.18 3.36 2 HDPと白衣高血圧の鑑別 1.73 2.64 2.73 3 HDPのリスクアセスメント 2.55 3.45 3.27 4 血液検査値から HDP を予測する 1.55 2.55 2.18 5 HDP妊婦の生活相談 2.00 2.82 2.27 6 HDP妊婦の血圧コントロール適切性の判断 1.36 2.55 2.45 7 HDP妊婦の胎児の健康状態の判断 1.73 3.09 2.45 8 HDP産婦の分娩管理 0.91 2.64 2.45 9 HDP褥婦の産後管理 1.36 2.91 2.64 10血液検査値からの HELLP 症候群の診断 0.73 2.36 1.64 注:効力感尺度(よくできると思う 4,できると思う 3,ど ちらともいえない2,できないと思う1,全くできないと思 う0) 表 2 プログラム前,直後,4 か月後における知識テスト 各項目の正答率 プログラム前 直後 4 か月後 【常位胎盤早期剥離/子癇発作】 1 子癇の前駆症状 37.3% 45.5% 36.4% 2 子癇の発生の順序 45.5% 54.5% 54.5% 3 子癇発作中の対応 63.6% 90.9% 90.9% 4 常位胎盤早期剥離のリスク因子 100.0% 100.0% 90.9% 5 常位胎盤早期剥離が最も起こりやすい 時期 9.1% 63.6% 18.2% 6 常位胎盤早期剥離の成因 18.2% 72.7% 72.7% 7 常位胎盤早期剥離の血液検査所見 9.1% 81.8% 45.5% 8 常位胎盤早期剥離の主症状 72.7% 100.0% 100.0% 9 産科 DIC スコアの臨床症状 36.4% 27.3% 72.7% 【HDP / HELLP 症候群】 1 HDPの定義 72.7% 100.0% 90.9% 2 HDPの分類 54.5% 27.3% 63.6% 3 HDPの記載方法 36.4% 9.1% 27.3% 4 自宅での血圧測定の留意点 72.7% 100.0% 90.9% 5 妊娠前の HDP のリスク因子 9.1% 72.7% 63.6% 6 妊娠後の HDP のリスク因子 45.5% 90.9% 72.7% 7 HDPの病態 45.5% 63.6% 72.7% 8 HDPの病態と臨床所見 18.2% 45.5% 54.6% 9 HDPが胎児に及ぼす影響 36.4% 72.7% 36.4% 10 HDPの食事指導 63.6% 81.8% 81.8% 11 HDPに用いる降圧薬 36.4% 81.8% 63.6% 12 HDP妊婦の胎児の検査 63.6% 100.0% 81.8% 13 HDPの妊娠中断基準 45.5% 81.8% 72.7% 14 HDP妊婦の分娩管理方法 63.6% 72.7% 81.8% 15 HDPが原因となって起こる病態 36.4% 100.0% 63.6% 16 HELLP症候群の特徴的な症状 27.3% 90.9% 90.9%

(8)

(−27.3 ポイント),「HDP の記載方法」(−27.3 ポイン ト)であった。直後から 4 か月後の正答率の変化にて 特徴的であったのは,直後に低下した 2 項目(「HDP の分類」「HDP の記載方法」)は 4 か月後に上昇してい た。「HDP が胎児に及ぼす影響」「HDP に用いる降圧 薬」「HDPが原因となって起こる病態」の3項目は,直 後に上昇したものの4か月後には低下していた。その 他の項目は,直後から4か月後まで維持されていた。 「HDP/HELLPの対応効力感尺度」合計得点は,ク ラス前中央値 15.0 点(平均値 15.91±2.63 点)がクラス 直後28.0点(平均値28.18±4.71点)に上昇しており,4 か 月 後 は 25.0 点(平 均 値 25.45±5.50)で あ っ た (χ2=18.0, p<.001)。多重比較では,プログラム前と 直後(p<.000),プログラム前と 4 か月後(p=.032)に て有意な差が認められた。各参加者の合計得点に関す る3時点の推移は,概ね同様であった。プログラム前 と直後にて項目の平均値の差が大きかったのは, HDP産 婦の分 娩管 理(+1.73), 血液検 査値 からの HELLPの診断(+1.63)であった。HDP/HELLPにつ いても,プログラム前と直後で平均値が下がった項目 はなかった。直後と4か月後の正答率の変化では,上 昇したのは 2 項目のみであり,8 項目が低下していた が変化量は大きくなかった。 3.教育プログラムの感想 表3に各教育プログラムの自由記述から抽出したカ テゴリを示す。プログラム直後は教育プログラム毎に 3つのカテゴリが抽出された。プログラム4か月後(実 習終了時)は,2 つの教育プログラムを統合したカテ ゴリとして3つが抽出された。【】はカテゴリ,「」は生 データを示す。 1)プログラム直後 「早剥/子癇発作」教育プログラムに関する自由記 述としては,【ウェブラーニングとシミュレーション による知識の定着と促進】【シミュレーションによる イメージ化促進】【自分の達成レベルと課題の明確化】 の 3 点があった(表 4)。【ウェブラーニングとシミュ レーションによる知識の定着促進】では,「事前に勉強 したことで理解を深められた」「シミュレーションで 知識が確実に身に着いた」と,事前学習後のシミュ レーションはアセスメントや技術の習得のみならず知 識の定着を促進することが示されていた。【シミュ レーションによるイメージ化促進】は,「シミュレー ションはよりリアルなのでイメージしやすい」「シ ミュレーションすることでイメージができ,2回の繰 り返しで再確認することもできた」と,シミュレー ションが周産期異常の状況および対応の理解を促進す ることが示されていた。【自分の達成レベルと課題の 明確化】では,「シミュレーションを行ったことで自分 のできることできないことが明確にできた」「事例を 通して症状から助産診断する難しさを実感した。知識 の確認とシミュレーションが日頃から大切だ」と,シ ミュレーションは対応力の適切な自己評価につながる ことが示されていた。 「HDP/HELLP」教育プログラムに関する自由記述 からは,【ブレンド型学習が複雑な病態の理解を促す】 【全体としてアセスメントする視点を学ぶ】【頭をフル に使って考えることができるクラス】の3 点が挙げら れた。【ブレンド型学習が複雑な病態の理解を促す】で は「病態や数値もいろいろ複雑であったため,実際に 事例に当てはめて考えることでやっと数値の見方など がわかった」「ウェブラーニングを見ても基準値等は なかなか覚えられなかった。クラスに参加し,それら が自然に覚えられた」と,ウェブラーニングによる個 別学習と臨床カンファレンス形式の対面学習が,病態 理解を促進することが示されていた。さらに,【全体 としてアセスメントする視点を学ぶ】では,「つい母体 の状態ばかりにとらわれ,胎児や分娩進行状況をアセ スメントする視点を忘れてしまいがちだが,それらの 視点の大切さに授業を通じて気づけた」「病態の部分 から仕組みを知ることができ,何に注目して観察すべ きなのか理由がよくわかった」ことが示されていた。 表4 教育プログラムの感想 常位胎盤早期剥離/子癇発作 HDP/HELLP症候群 プログラム直後 ウェブラーニングとシミュレーションによる知識の定着シミュレーションによるイメージ化促進 ブレンド型学習が複雑な病態の理解を促す全体としてアセスメントする視点を学ぶ 自分の達成レベルと課題の明確化 頭をフルに使って考えることができるクラス プログラム4カ月後 (実習終了時) 異常に移行した受け持ち産婦のアセスメントの対応に役立った 申し送りにて異常となった産婦の状況や対応が理解できた ウェブラーニングで復習したい

(9)

【頭をフルに使って考えることができるクラス】は, 「頭をフル回転させて授業に参加でき,とても楽し かった」「話し合いの時間はそれぞれ短かったが,ス テップをのぼりながらよく考えることができた」こと が示されていた。また,両プログラムを通じて要望と して挙げられたのがウェブラーニングに関するもの で,「ウェブラーニングのレジュメがほしい」「ウェブ ラーニングの各セクションの所要時間を示してほし い」「各セクションのまとめのスライドを入れてほし い」であった。 2)プログラム4か月後 4か月後(分娩介助実習後)の自由記述では,【異常 に移行した受け持ち産婦のアセスメントと対応に役 立った】【申し送りにて異常となった産婦の状況や対 応が理解できた】【ウェブラーニングで復習したい】の 3点が挙げられていた。【異常に移行した受け持ち産婦 のアセスメントと対応に役立った】は,「血圧上昇傾向 の産婦によく出会ったため,そのリスクについて考え ることができた」「健診でHDPリスク因子や血圧上昇 がある妊婦と出会った際に,どんな対応が必要か判断 しやすかった」「血圧が高くなっている妊婦では,血 圧や尿蛋白の状況をカルテから情報収集したり,血液 データをみたり,どんな情報を収集しなければならな いかが身についていた」ことが示されていた。【申し送 り等において異常となった産婦の状況や対応が理解で きた】は,「(受け持ちではないが)子癇発作を起こし た方を病棟で見た時,自分だったら何をすればいいの か考えることができた」「申し送りで経過を聞く中で, 処置やケアを行う理由や目的を理解することにつな がった」ことが示されていた。【ウェブラーニングで 復習したい】は,「助産所実習に行く前にもう一度 e-learningを観ようと思っている」「もしそのような場 面(異常の場面)に今後実習で遭遇したら,すぐに復 習し振り返れると思った」ことが示されていた。

Ⅴ.考   察

1.知識の変化 周産期異常の臨床判断力を高める助産教育プログラ ムにより,学生の知識得点は受講前と比べて有意に上 昇し,4か月後も概ね持続していた。 本研究の対象学生は,臨床判断力の基盤となる周産 期異常の基礎知識をウェブから自己学習した後にクラ スに臨んだ。今回,ウェブラーニングのどのコンテン ツを何回視聴したかは今回調査しておらず,配信がク ラ ス の 1 週 間 前 の コ ン テ ン ツ も あ っ た。 従 っ て, ウェブラーニングの活用状況と今回の受講前後の得点 の変化の関係は,明らかではない。今後は,コンテン ツの配信を科目の開講と同時に行うと共に,ウェブ ラーニングのコンテンツ毎の視聴回数と正答率の関係 を明らかにする必要がある。 2.対応効力感の変化 対応効力感得点は,「早剥/子癇発作」および「HDP/ HELLP」のいずれも受講前と比べて直後の合計点が有 意に上昇し,4 か月後にも維持されていた。Bandura (1985)は,自己効力感に影響を及ぼす要因として, 行動の達成,代理的経験,言語的説得,情動的態度の 4点を挙げている。従って具体的には,病態からスコ アおよび検査データの推移を学生各自が精緻化や体制 化の学習方略を用いて説明できるよう事前学習の段階 から意識的に行ってもらい,クラスではそれについて 複数のグループが発表し(行動の達成,代理経験), 臨床指導者あるいは教員がそれに対してフィード バックを行ったり(言語的説得),プログラム後に受 講前後の気持ちの変化を聴き取ったり(情動的状態) することで,より長期的に対応効力感を維持できる可 能性があると考えられる。 本教育プログラムのうち「早剥/子癇発作」は, ウェブラーニング → 臨床カンファレンス形式のクラ ス → シミュレーション → デモンストレーション動画 による復習,と学生が少なくとも4段階で子癇発作を 学習する機会があった。加えて,オンデマンドで反復 学習が可能なウェブラーニングおよびデモンスト レーション動画による復習が,4か月後の対応効力感 の更なる上昇に繋がったと考えられる。以上より,周 産期異常に関する学習項目は,クラスでの反復学習と 共に,学生が学習したいときに繰り返し学習できる資 源を準備することが,臨地で実際に対応する機会の有 無に関わらず,周産期異常への対応効力感を強化する 可能性が示唆されるだろう。 3.周産期異常の臨床判断力を高める助産教育プログ ラムの評価 本教育プログラムは,教育方法にブレンド型学習を 採用した結果,対象学生の周産期異常に関する知識お よび対応効力感の獲得に有益と考えられた。助産基礎 教育においては,分娩介助に関する知識・技術の習得

(10)

においてブレンド型学習を採用した研究が複数存在す る。木戸ら(2010)は,自己学習に視聴覚教材を用い た学生はそうでない学生と比較して一部の分娩介助技 術について有意に習得度が高かったと報告する。ま た,高島ら(2011)は,対照群のない 3 名の学生に, 通常の講義と演習に加えて教員が作成した分娩技術の DVDとテキストを活用し,その教材が実習中の学生 の主体的学習行動に寄与する可能性を報告している。 また,ウェブ上で分娩のメカニズム等の情報や学生や 教員の質問コーナーを利用できるプログラムを受けた 介入群の学生が,講義だけの対象群の学生よりも,分 娩のプロセスやメカニズムに関する知識が向上してい たと報告する(Gerdprasert, et al., 2010)。これらの結 果は,ブレンド型学習により対象者の知識の一部が向 上した点が本研究と一致する。 Garrison et al.(2011)は,ブレンド型学習を 4 つの フェーズで提示する。対面前・対面中・対面後・次の 対面のどのフェーズをアナログ的に行い,どこにデジ タルを入れるかは多様性があり,学習目標に応じてブ レンド型学習を組み立てることが重要と考えられる。 本研究プログラムは,周産期異常の知識および対応 効力感の向上を目標とし,「早剥/子癇発作」は対面 前:デジタル → 対面中:アナログ → 対面後:デジタ ルで,「HDP / HELLP」は,対面前:デジタル → 対面 中:アナログで構成した。これらの構成は,いずれも 効果的であったと考えられる。「早剥/子癇発作」は, シミュレーションが子癇発作への対応といったクリ ティカルな状況設定であったため,授業終了後に繰り 返しオンデマンドで視聴することで,一連の対応の順 序性やその理由を学習できたと考えられる。「HDP / HELLP」は,対面後のデジタルがない2部構成であっ たが,シミュレーションの題材が HDP 妊婦への保健 指導であり,学生は授業内で予防的な関わりの要点を 理解できたため,対面後のデジタル配信は不要で あった。以上より,周産期異常の臨床判断力を高める 教育プログラムの構成は,周産期異常の題材に応じ て,対面の前・中・後のいずれをデジタルあるいはア ナログで展開するか検討が必要であろう。 4.本研究の限界と今後の課題 本研究の限界は 6 点ある。1 点目は,参加者の選択 についてである。助産教育を行う 1 大学院における 1 学年の学生11名のみを対象としていたため,選択バイ アスが生じている可能性がある。2点目は,研究デザ インである。プログラム前後の1群比較研究であるた め,教育プログラムによる知識および対応効力感の変 化を一般化するには限界がある。今後は,多様な助産 教育課程に在籍する,より大規模な参加者を対象に, エビデンスレベルの高い研究デザインを採用し,教育 プログラムの効果を検証する必要がある。3 点目は, 測定用具によるバイアスである。3時点の測定時期は, ①プログラム前 ―②プログラム直後(①から 1–2 週間 後)― ③プログラム4 カ月後(②から 4カ月後)と近接 はしていない。しかし,同一の問題を反復測定したこ とで得点が上昇した可能性がある。今後は,同様の内 容を問う異なる問題に入れ替える,回答肢の順番を変 える等を行った上での得点を評価する必要がある。4 点目は,4か月後の研究参加者の臨地における経験の 影響である。研究参加者は,プログラム後の分娩介助 実習で個々に異なる経験を経たことから,参加者の ベースラインに不一致が生じ,4か月後の測定結果に 影響を与えた可能性がある。今後は,結果に影響を及 ぼすイベントを避けて,研究を計画する必要がある。 5点目は,ウェブラーニングの活用とアウトカムの関 係が不明確な点である。今後は,コンテンツの配信を 科目の開講と同時に行うと共に,ウェブラーニングの コンテンツ毎の視聴回数と正答率の関係を明らかにす る必要がある。6点目は,教育プログラムのコンテン ツとアウトカムの関係についてである。ウェブラーニ ング,臨床カンファレンス形式,シミュレーション, 授業後の動画配信のどれが知識あるいは対応効力感に 対して効果的であるかを規定していないため,各コン テンツによるアウトカムへの影響は明らかではない。 今後,仮説を設定した介入研究により,プログラム内 容とアウトカムの関係を明確にする必要がある。

Ⅵ.結   論

本研究は,助産教育において,周産期異常の知識お よび対応効力感の向上を目標とした教育内容・方法を 開発し,その評価を行った。 その結果,「早剥/子癇発作」,「HDP / HELLP」の 知識および対応効力感は,プログラム前後で有意に上 昇した。学生はウェブラーニングとシミュレーション による学習を通じて,知識の定着,イメージ化,複雑 な病態理解を促進しながら,頭をフルに使って全体と してアセスメントする視点を学び,自分の達成レベル と課題の明確化を行っていた。

(11)

謝 辞 本研究に参加くださった大学院助産学上級実践 コースの学生の皆さんに感謝申し上げます。 この研究は,厚生労働省平成 28 年度看護職員確保 対策特別事業「助産実践能力を育成する教育方法に関 する調査」の一部を,加筆修正したものである。 本研究の一部は,第 58 回日本母性衛生学会学術集 会にて示説発表を行った。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない。 文 献 Bandura, A. (1985).最近のバンデューラ理論 自己効力(セ ルフ・エフィカシー)の探求.重久剛訳.祐宗省三, 原野広太郎,柏木恵子他編.社会的学習理論の新展 開.pp.55-154,東京:金子書房.

Gerdprasert, S., Pruksacheva, T., Panijpan, B., & Ruenwongsa, P. (2010). Development of a web-based learning medium on mechanism of labour for nursing students. Nurse Education Today, 30 (5), 464-469. doi:10.1016/ j.nedt.2009.10.007

Garrison, R.D. & Vaughan, N.D. (2011). Chapter 7 strategies and tools of Part Two Blended Learning In Practice. In Garrison, D. & Randy. Blended Learning in Higher Education: Framework, Principles, and Guidelines (pp.1815-2427). CA: Jossey-Bass, Wiley.

Horn, M.B. & Staker, H. (2015)/小松健司訳(2017).ブレ ンディッド・ラーニングの衝撃.pp.8-42,東京:教 育開発研究所. 木戸久美子,森本知佐子,三谷明美,中本朋子,林隆 (2010).大学生を対象とした分娩介助技術習得にお ける e-learning および CAI コンテンツの開発と学習効 果に関する研究.山口県立大学学術情報,3,1-5. 公益社団法人全国助産師教育協議会(2016).平成 27 年 度 厚生労働省医政局看護課看護職員確保対策特 別事業 助産学生の分娩期ケア能力学習到達度に関 する 調査報 告書.http://www.zenjomid.org/info/img/ 20160927.pdf(アクセス2019.12.11) 厚生労働省(2015).看護師等養成所の運営に関する指導 ガイドラインについて.https://www.mhlw.go.jp/web/ t_doc?dataId=00tc1593&dataType=1&pageNo=1(アク セス2019.12.11) 厚生労働省(2018).平成29年(2017)人口動態統計月報年計 (概数)の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/ hw / jinkou / geppo / nengai17/ index.html(アクセス 2019. 12.11) 文部省・厚生省(1951).保健師助産師看護師学校養成所指 定 規 則. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc? dataId= 80081000&dataType=0&pageNo=1(アクセス 2019.12. 11) 内閣府(2015).少子化社会対策大綱~結婚,妊娠,子供・ 子育てに温かい社会の実現をめざして~.https:// w w w . m h l w . g o . j p / f i l e / 0 5 S h i n g i k a i 1 1 9 0 1 0 0 0 -Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka /0000081807.pdf (アクセス2019.12.11) 内閣府(2018).平成30年版 少子化社会対策白書.https:// www8.cao.go.jp / shoushi / shoushika / whitepaper / measures / w-2018/30pdfhonpen /30honpen.html(アクセ ス2019.12.11)

高島葉子,中島美通子,菊池美帆(2011).統合カリキュ ラムにおける分娩介助技術報の視聴覚教材開発の意 義と教育効果.医学と生物学,155(2),65-71. Tanner, C.A. (2006). Thinking like a nurse: a research-based

model of clinical judgment in nursing.J Nurs Educ, 45 (6), 204-211. doi:10.3928/01484834-20060601-04.

参照

関連したドキュメント

There is a unique Desargues configuration D such that q 0 is the von Staudt conic of D and the pencil of quartics is cut out on q 0 by the pencil of conics passing through the points

If the S n -equivariant count of points of this space, when considered as a function of the number of elements of the finite field, gives a polynomial, then using the purity we

In this paper, we focus on the existence and some properties of disease-free and endemic equilibrium points of a SVEIRS model subject to an eventual constant regular vaccination

When i is a pants decomposition, these two properties allow one to give a nice estimate of the length of a closed geodesic (Proposition 4.2): the main contribution is given by the

In the situation where Γ is an arithmetic group, with its natural action on its associated symmetric space X, the horospherical limit points have a simple geometric

Let Y 0 be a compact connected oriented smooth 3-manifold with boundary and let ξ be a Morse-Smale vector field on Y 0 that points in on the boundary and has only rest points of

we start with Fuchsian groups representing pairs of pants, these are orbifolds of genus 0 with three boundary components, including orbifold points (matrices representing generators

The configurations of points according to the lattice points method has more symmetry than that of the polar coordinates method, however, the latter generally yields lower values for