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定期的な運動による効果の実感を認識する日常生活場面および身体部位

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 2 号 99 ∼ 106 頁(2019 運動効果を実感する日常生活場面および身体部位 年). 99. 研究論文(原著). 定期的な運動による効果の実感を認識する 日常生活場面および身体部位* ─在宅運動継続の有無と自己効力感との関連から─. 有 田 真 己 1)# 岩 井 浩 一 2) 万 行 里 佳 3). 要旨 【目的】在宅運動の実施者・非実施者における運動効果の実感の有無および自己効力感の差を明らかにし, 運動効果の実感を認識する日常生活場面および身体部位を特定する。【方法】要支援・要介護者 117 名を 対象に質問紙調査を行った。調査項目は,属性,在宅運動実施状況,運動効果の実感の有無,在宅運動セ ルフ・エフィカシーとした。運動効果を実感する者に対しては,実感する日常生活場面および身体部位 について聞き取った。【結果】運動効果の実感有りと回答した者は運動の実施者に多く,自己効力感の得 点も有意に高かった。運動効果を実感する日常生活場面は,「歩く」,「立ち上がる」,「階段昇降」であり, 実感する身体部位は,「下肢」,「腰」,「膝」であった。【結論】実感といった内在的報酬は,身近な日常生 活の中で獲得されており,運動の継続に関与していることが示唆される。今後は,運動による効果を実感 するタイミングについて明らかにする必要がある。 キーワード 運動効果の実感,運動の継続率,運動による内在的報酬. グが強く奨められている。. はじめに.  しかし,Harrison ら. 5). や van der Bij ら 6)は高齢者.  我が国が抱える超高齢社会の問題に対する対策のひと. にとって推奨されている運動を継続することはきわめて. つとして,地域包括ケアシステムの構築が急速に進んで. 難しいと報告しており,当時のアメリカのデータでは筋. いる. 1). 。一方,高齢者自らが健康を管理するための自助. 力トレーニングを少なくとも週 2 回実施している高齢者 7). 。一方,我が国の場. 力の育成も重要視されてきている。自らの健康を管理す. の割合は,わずか 12% であった. るうえで重要といえる要素のひとつには運動の実践が挙. 合では,高齢者の運動習慣は比較的高い状況にある。健. 2). げられる。 「高齢者のための運動推奨ガイドライン」. 康日本 21 では,運動を「週 2 回以上,1 回 30 分以上,. によると,運動の内容は,筋力トレーニング,バランス. 1 年以上継続して実施している者」を運動習慣者と定義. トレーニング,柔軟運動および有酸素運動が推奨されて. しているが,70 歳以上の高齢者の場合,開始時に参考. いる。なかでも下肢の筋力低下が目立つ高齢者は,立ち. にした平成 9 年国民栄養調査における運動習慣者は男性. 上がり,歩行,および階段昇降といった起居・移動動作. 36.2%,女性が 24.9% であったが,平成 28 年のデータで. 3)4). は,男性 49.4%,女性 37.4% に上昇している。また,健. 能力の低下に陥りやすい. ことから筋力トレーニン. 康日本 21(第 2 次)では,65 歳以上の運動習慣者の割 *. Daily Life Scenes and Body Parts that Reflect Realistic Effects of Regular Exercise: Relation between Self-efficacy and Maintenance Home Exercise 1)つくば国際大学 (〒 300‒0051 茨城県土浦市真鍋 6‒8‒33) Naoki Arita, PT, PhD: Tsukuba International University 2)茨城県立医療大学 Koichi Iwai, PhD: Ibaraki Prefectural University of Health Sciences 3)目白大学 Rika Mangyo, PT, PhD: Mejiro University # E-mail: n-arita@tius.ac.jp (受付日 2018 年 3 月 20 日/受理日 2018 年 12 月 4 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 2 月 8 日]. 合の目標値を男性 58%,女性 48% としており,最新年 (平成 28 年)のデータは,男性 46.5%,女性 38.0% である。 男女ともこのところ横ばいの状態が続いており,目標達 成のためには運動を継続していくことが求められる. 8). 。.  運動の継続を困難にする要因には様々な報告があ る. 9)10). 。そのひとつには,疲労や筋肉痛などが大きな. 身体的阻害要因となっている。一方,運動開始後の効果 といえば,筋力や持久力が高まるまで時間を要する. 11).

(2) 100. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. ことから,その効果を実感するまでには時間がかかると. 力の改善を実感していることが継続要因となっている。. いえる。そのため,疲労や筋肉痛などのネガティブな要. また,高齢者は感情や情動的に意味のある目標を優先す. 因が先行し,運動を継続する妨げとなっていると考えら. る. れる。. に設定する必要がある。.  運動や身体活動を効果的に継続させるためには,心理.  しかしながら,運動を継続している高齢者が,運動に. 的要素を介入方略に取り入れることが望ましいとされ. よる主観的な運動効果の実感を,どのような場面で感じ. 12). ことから,目標を実感しやすくわかりやすいもの. による要支援・要介護者を対. るか,またどの身体部位で実感しているかは不明であ. 象とした在宅運動の促進要因(運動を促進する要因)を. る。運動による内在的報酬のひとつとして考えられる運. 特定した調査研究によれば,運動による「効果への気づ. 動効果の実感の特徴を明らかにすることにより,運動を. き」といった心理的要因が関係していることが明らかと. 促進するためのより具体的で実践に取り入れやすい効果. なっている。 「効果への気づき」は,学習理論によると. 的介入方略の開発につながることが期待できる。. 運動により得られる達成感,より健康になる,あるいは.  そこで,本研究の目的は,まず在宅運動の実施者と非. 元気が増す,などを体験・実感することであり運動によ. 実施者との間で,身体的効果を実感する人数に差が認め. る内在的報酬といえる。この内在的報酬は,運動の自主. られるかどうか,また,実感のあり・なしの 2 群間で. 性や習慣,あるいは運動の継続要因としてきわめて重要. SE の得点に差が認められるかについて明らかにする。. る. 。事実,有田ら. 13). 21). 14). 。さらに,満足. さらに,運動効果の実感ありと回答した者に対し,運動. 感といった内在的報酬は,励ましといった外部から与え. 後の長期的な効果の実感の特徴について, (1)日常生活. られた報酬と比較し,身体活動の促進に対してよい成果. 場面において,どのような場面で実感するのか, (2)身. な要素であることも報告されている. をもたらすことも示唆されている. 15). 。また,高齢者に. 体のどの部位で実感するのかについて質的な側面から. とっては運動そのものを楽しむといった内在的報酬を好. データ解析を行い,その状況を明らかにすることとした。. むことが知られており,体重減少など健康に関連する直.  本研究は,QOL を高めることを目的とする多くの健. 16). 。運動. 康増進プログラムにおいて,対象とする者の運動効果の. による健康関連 QOL への効果は,高齢者にとって身体. 実感といった主観を評価し捉えることと,その実感を高. 機能の改善や体力の向上といった数値的変化に依存する. めるための効果的な介入方略を立案するための基盤とな. のではなく,運動によって得られた効果に対する個人の. る研究でありその意義は大きいと考える。. 接的な結果への期待はむしろ少ないとされる. 主観,つまり実感の認識が主要な介在変数として影響し ていると考えられている. 17). 。このように,高齢者にお. 対象および方法. いて自ら運動を継続するための自助力を育成するために. 1.対象. は,運動による内在的報酬が重要であることがわかって.  2 ヵ所の介護老人保健施設において,個別の機能訓練. きている。. や動作訓練,マシーントレーニングを含む通所リハビリ.  加えてもうひとつ重要な心理的要因とされる自己効力. テーションサービスを利用する要支援・要介護者 117 名. 感(Self-Efficacy;以下,SE)は,目標とする行動をど. (男性;48 名,女性;69 名,平均年齢 77.5 ± 9.1 歳)を. の程度成功裡に達成することができるかについての予期. 対象とした。要介護認定は調査期間にわたり,変化して. と定義される. 18). 。この SE は 4 つの情報源(生理的・. いない対象者とした。対象者の採択基準は,認知症高齢. 情動的喚起,代理的体験,遂行行動の達成,言語的説得). 者の日常生活自立度判定基準Ⅰ以下の者とし,調査にあ. から影響を受ける。4 つの情報源のうち生理的・情動的. たり言語指示が理解可能であり,コミュニケーション能. 喚起は,体調などの生理的状態を自覚することと定義さ. 力に支障をきたさないと理学療法士が判断した者を対象. れ,たとえば「階段を上がるのに息切れがしなくなった」. とした。また,対象者は運動の必要性を十分に理解し,. というような身近な変化の感覚を得ることである。つま. 日頃から積極的にリハビリを受けている者であり,面接. り,肯定的な生理的・情動的喚起が生じた後,「効果の. 時の質問として行動変容等の知識の乏しいことを確認. 気づき」といった運動による内在的報酬が発生すると考. した。. えられる。前場ら. 19). は,4 つの情報源から SE を媒介し,. その後の運動の継続に因果関係があることを示してい. 2.方法. る。したがって,運動を自ら実践・継続するためには,.  調査は調査者と研究対象者の 1 対 1 の半構造化面接に. SE を高めることが重要であり,運動後の即時的な効果. て実施した。聞き取りに要した時間は対象者一人あたり. や長期的な効果を内在的報酬として実感することが重要. 15 分程度であった。また,調査期間は,2014 年 3 ∼ 4. な要素といえる。事実,重松ら. 20). の報告によれば,週. 2 回以上運動している高齢者の特徴としては,健康・体. 月の 2 ヵ月間であった。.

(3) 運動効果を実感する日常生活場面および身体部位. 101. 図 1 研究対象者フロー 研究対象者の抽出フローの手順を示したもの.. 3.調査項目. 者に対し,自由回答形式で聴取した。日常生活場面につ.  調査項目は,(1)基本属性(性別,介護度,主疾患:. いては, 「日頃の生活の中で運動の効果を実感する時,. 整形疾患,中枢疾患),(2)在宅運動実施状況,(3)運. あるいは実感する生活場面はどのような時ですか?」と. 動効果の身体的実感の有無,(4)在宅運動セルフ・エ. 質問をした。また,運動効果を実感する身体部位につい. フィカシー尺度(Home-Exercise Barrier Self-Efficacy. ては,「運動の効果を実感する身体の部分はどこです. 22). ),(5)運動効果を実感する日常. か?」と質問をした。聞きだした回答は,臨床経験 6 年. 生活場面,(6)運動効果を実感する身体部位,について. 以上でありインタビュー内容について事前に十分な打ち. 聞き取った。. 合わせをした 2 人の理学療法士が,類似あるいは同義語.  本研究における在宅運動実施状況に関する運動の実施. とみなした回答数をまとめて合計し,回答者数で除した. 者とは,週 2 回以上,身体機能の維持・向上を目的とし. 割合を算出した。. Scale;以下,HEBS. た運動を自宅で 1 年以上にわたり継続しているものとし た。なお,本研究における運動とは,自宅での筋力ト. 4.分析方法. レーニングやウォーキング,通所リハビリにおける療法.  在宅運動の実施の有無と運動効果の実感の有無との連. 士の処方した個別プログラムを含むものとする。次に,. 2 関性については χ 検定を用い,有意差が認められた場. 「運動効果の身体的実感」とは,“疲れなくなった”,“動. 合には,さらに残差分析を行った。また,その効果の程. けるようになった”といった肯定的な生理的・情動的喚. 度について φ 係数を算出した。同様に,運動効果の実感. 起が生じた後,それらを運動後の長期的な効果として認. に影響を与える基本属性(性別,介護度,主疾患)の調. 識するあるいは,認識したこととした。また,インタ. 2 整変数効果を明らかにするために χ 検定を用いた。さ. ビューの際,「運動による身体的効果としてなにか実感. らに,運動効果の実感の有無と HEBS との関連を確認. したことはありますか?」の問いに対し,“はい”,“い. するために,運動効果の実感の有無を独立変数とし,. いえ”の二者択一で回答してもらった。. HEBS の平均得点を従属変数とした対応のない t 検定を.  HEBS とは,有田ら. 22). の開発した下位 6 項目( 「疲労」 ,. 「痛み」 , 「気分」 , 「時間」 , 「道具・環境」 , 「単独」 )のバ. 行った。また,効果量については Cohen’s d を算出した。 効果量の指標である Cohen’s d における数値の解釈は, 23). 。. リア要因に抗してでも自宅で運動を実施する自信の程度. 小さい> 0.20,中程度> 0.50,大きい> 0.80 とした. について 5 件法にて計測するものであり,モデルの適合. なお,データ解析には,SPSS 21.0 for Windows を使用. 度は,GFI = 0.98,AGFI = 0.94,CFI = 0.99,RMSEA. した。すべての分析において,有意水準は 5% とした。. = 0.04 と良好な尺度である。また,クロンバッハの信頼 性係数 α = 0.86,テストリテストの相関係数 r = 0.94 と. 5.倫理的配慮. 高い信頼性も確認されている。.  本研究は,目白大学研究倫理委員会の承認を得て実施.  運動効果を実感する日常生活場面および身体部位につ. した(承認番号;13-030)。調査対象者に本研究の目的,. いて,それぞれ運動効果の実感ありと回答した 96 名の. 研究協力の任意性等を文書および口頭で説明した。.

(4) 102. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 表 1 在宅運動の実施・非実施と運動効果の実感 在宅運動の実施(n = 117) している (%). していない (%). 実感あり. 70(61.4). 26(22.8). 実感なし. 9(7.9). 12(10.5). χ2 値. p値. φ 係数. 7.1. 0.008. 0.25. 在宅運動実施者と非実施者における運動効果の実感の有無についてカイ二乗検定の結 果を示したもの.. 表 2 在宅運動の実施・非実施と運動効果の実感における残差分析 在宅運動実施. 在宅運動非実施. 実感あり. 2.7*. ‒2.7*. 実感なし. ‒2.7*. 2.7*. *:p < 0.05 表中の数値は,調整済標準化残差を示している. 表 1 で有意な差が認められたため,残差分析を行った結果を示 したもの.. 表 3 運動効果の実感に影響を与える属性の調整変数効果 運動効果の実感(n = 117). 性別. 介護度. 主疾患. あり (%). なし (%). 男性. 39(34.2). 9 (7.9). 女性. 57(50.0). 12(10.5). 要支援 1. 16(14.0). 1 (0.9). 要支援 2. 35(30.7). 9 (7.9). 要介護 1. 29(25.4). 7 (6.1). 要介護 2. 14(12.3). 4 (3.5). 整形. 60(52.6). 14(12.3). 中枢. 35(30.7). 7 (6.1). χ2 値. p値. φ 係数. 0.03. 0.85. 0.02. 2.58. 0.63. 0.15. 0.31. 0.86. 0.05. 運動効果の実感に影響を与える属性の調整変数効果を示したもの.. 表 4 運動効果の実感(あり・なし)と HEBS 得点との差異. HEBS. 実感あり (n=96). 実感なし (n=21). M. SD. M. SD. t値. p値. Cohen’s d. 18.38. 6.31. 14.33. 6.48. 2.65. 0.009. 0.64. HEBS:Home Exercise Barrier Self-Efficacy Scale Cohen’s d:0.20(Small), 0.50(Medium), 0.80(Large) 運動効果の実感あり・なし群における在宅運動セルフエフィカシー尺度の平均得点について対応のない t 検定を 行った結果を示したもの.. 護度および主疾患といった属性と運動効果の実感の有無. 結   果. 2 について,χ 検定を実施した結果,有意な差異は認め.  在宅運動実施者および非実施者と運動効果の実感の有. られなかった(表 3)。. 無との連関性について表 1 に結果を示す。その結果,有.  次に,運動効果の実感の有無を独立変数とし,自宅で. 2. 意な差異が認められた(χ = 7.1, df = 1, p = 0.008)。. 運動を実施する自信の程度を示す HEBS 得点を従属変. そのため,残差分析を行った結果,運動効果を実感する. 数とした対応のない t 検定を実施した。その結果,運動. 者は,在宅運動を実施している一方,運動効果を実感し. 効果の実感のある者では実感のない者と比較して HEBS. ていない者は,在宅運動を実施していないことが示唆さ. 得点が高く,有意な差異が認められた(t = 2.65, df =. れた(表 2)。有意な連関性が認められ,その効果量は,. 115, p = 0.009)。また,その効果量は,d = 0.64 であり,. φ = 0.25 と中程度に近い値を示した。さらに,性別,介. 中程度の値を示した(表 4)。.

(5) 運動効果を実感する日常生活場面および身体部位. 103. 図 2 運動効果を実感する生活場面(n=96 名より回答を得た) 運動効果を実感する生活場面について聞き取った回答数と割合を棒グラフで 示したもの.. 図 3 運動効果を実感する身体部位(n=96 名より回答を得た) 運動効果を実感する身体部位について聞き取った回答数と割合を棒グラフで 示したもの..  そして,運動効果を実感する日常生活場面の回答につ.  在宅運動の実施者および非実施者と運動効果の実感の. いて図 2 に示す。その結果, “歩く時”37 名(46.8%) , “立. 有無との関係について,中程度に近い効果量を示す連関. ち上がる時”24 名(30.4%) , “階段昇降時”15 名(19.0%). 性が認められたことから,在宅運動の継続には運動効果. というように,日常の生活場面において繰り返し行われ. の実感が関係していると考えられる。一方,在宅運動を. ている行動場面が上位を示す結果となった。その他, “家. 実施していない者は運動効果を実感しておらず,また実. 事をする時”, “寝ている時(良眠)”, “起居動作時”, “庭. 感するための運動そのものの実践に至っていないことが. 仕事時”, “よろめいた時”,“下衣の着衣時”,“車運転,. 示された。この結果から,在宅運動を実践・継続する者. 旅行”といった回答が続いた。次に,運動効果を実感す. は,運動を通じてなんらかの効果を実感しており,自ら. る身体部位の回答について図 3 に示す。その結果,“脚. 進んで健康管理するための自助力の育成につながってい. ( 下 肢 )”52 名(65.8%),“ 腰( 腰 部 )”24 名(30.4%),. るのではないかと推測できる。したがって,高齢者の健. “膝”13 名(16.5%)といった部位が上位を占める結果. 康を支援する立場にある専門家は,対象者が運動による. となった。その他の回答としては, “手(上肢) ”12 名. 効果の実感を認識しているかについて評価することが運. (15.2%)や“全身”8 名(10.1%)といった回答状況であっ た。また, “なし”と回答した者も 4 名(5.1%)存在した。 考   察. 動の継続を予測するために必要であると考える。  次に,性別,介護度および主疾患といった対象者の属 性と運動効果の実感の有無との間にいずれも有意な差異 が認められなかったことから,属性にかかわらず運動効.  本研究の目的は,まず,在宅運動の実施者と非実施者. 果を実感することが可能であると推測できる。. との間に,運動効果の実感の有無および SE の得点に差.  続いて,運動効果を実感している者では,運動効果を. 異が生じているかについて明らかにすることである。. 実感していない者と比較し,HEBS の得点が有意に高い.

(6) 104. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. ことが示された。このことから,運動効果の実感を認識. ち上がり,および階段昇降といった起居移動動作能力の. することは SE が高まる要素であり,情報源である生理. 4) 低下をもたらす 。つまり,要支援・要介護者が衰えを. 的・情動的喚起であると解釈することができる。つまり,. 実感しやすい身体部位は下肢といえる。そのため,下肢. 運動により効果の実感を認識することが SE を高め,運. は少しの改善でも運動の効果を実感しやすいのではない. 動の実践・継続につながっている可能性があるといえる。. かと考える。また,実感する日常生活場面は,歩く時,.  さらに,運動効果を実感する日常生活場面は,歩く時,. 立ち上がる時,および階段昇降時を示していたことから. 立ち上がる時,および階段昇降時と回答した者が多い結. も,移動を伴う動作において下肢筋力との関係性には強. 果となった。つまり,日常生活場面において基本的動作. い関連があることが示唆される。そのため,日頃から要. であるこれら 3 つの場面が要支援・要介護者にとって運. 支援・要介護者は下肢に対する注意,意識が高く,その. 動の効果を実感しやすいということである。肥後ら. 24). 変化に敏感である可能性が考えられる。. の在宅高齢者を対象とした報告では,運動を必要と感じ.  本研究の結果から,運動効果の実感を認識しやすくす. る日常生活場面について, 「階段の上り下りをする時」. るためのポイントが絞られたといえる。実際の臨床場面. 91.8%,「体力がなくなったと感じる時」79.6%,「以前は. において,歩行や立ち上がり,および階段昇降といった. 容易にできていたことができにくい時」69.4% と,身体. 日常生活場面を利用し,さらに腰部,下肢に注意を向け. 的に実感できる阻害因子が高い比率を占め,運動の必要. させることで運動効果の実感を捉えやすくなり,運動に. 性に影響を与えている。本研究で明らかとなった運動効. よる内在的報酬の獲得につながることが期待できる。ま. 果を実感する日常生活場面は,運動を必要と感じる日常. た,運動の実践による身体の変化が直接的に運動の継続. 生活場面と類似していることから,身体能力の衰えを感. 性に対し影響しているのではなく,運動によって得られ. じやすい日常生活場面が運動による効果を実感しやすい. た効果を本人がどのように認識するかが関係してい. 場面であると考えられる。. る.  その他,運動効果を実感する日常生活場面の回答は,. て重要といえる。. 家事,起居動作,庭仕事,下衣の着衣時および,よろめ.  したがって,運動による効果を客観的に評価すると同. いた時といった生活場面が抽出された一方で,寝ている. 時に,対象者自身が実感する“楽になった”などの主観. 時(良眠)も運動による効果を実感する場面と捉えてい. 的な部分の変化を捉えることも,運動に対する動機づけ. 25). 27). ことから,運動効果の実感を捉えることがきわめ. の報告によれば,高齢. の生成に役立つことが期待できる。運動による内在的報. 者は身体機能の回復を優先して望んでいることを示して. 酬を獲得させるような介入は運動の維持促進に貢献する. おり,日頃,繰り返される重労働感,苦痛および遂行困. ことが報告されており. 難感の軽減を強く期待し,効果を実感する閾値が低いの. する場合,歩行,階段昇降,立ち上がりを実際に実施し,. ではないかと考えられる。また,寝ている時(良眠)が. 効果を聞き取るといった方略が,その後の運動の継続に. 抽出されたことは,睡眠の質を実感のひとつとして捉え. よい影響をもたらすのではないかと考える。. る者も存在した。Akishita ら. ていることを示している。高齢者の睡眠における問題 は,脳機能の加齢変化とともに睡眠および覚醒に悪影響 をもたらすことが知られており,QOL の低下を招くと されている. 26). 。そのため,効果を実感する場面として,. 14). ,要支援・要介護者を対象と. 本研究の限界  本研究は,横断研究であるため在宅運動の実践・継続 に対し運動効果の実感との因果関係についてまでは言及. 寝ている時(良眠)が抽出されたことは,睡眠の質の改. できない。さらに,睡眠の質と運動による効果の実感と. 善を期待する高齢者が少なくないことを意味している。. の詳細な関係性は不明のままである。また,運動の強度. 最後に,車の運転や旅行といった回答が挙がったこと. や頻度は対象者によって様々であることから実感に結び. は,身体能力やライフスタイルの違いによって実感する. つく運動量について統制した研究が必要である。さら. 場面にも違いが生じることが示唆される。. に,運動を開始してからどの程度経過しているのかにつ.  このように,運動の効果を実感する日常生活場面は,. いても明らかでないため,結果の解釈には注意が必要で. 多種多様であることがわかる。しかし,日常生活場面に. ある。今後は,運動の継続と運動効果の実感との因果関. おいて衰えを感じやすく,また重労働感や遂行困難感の. 係を明らかにするため,縦断的研究による実感のタイミ. 程度が軽減することに対し一貫して効果を実感している. ングなどについて明らかにする。. ことが推察される。  続いて,運動による効果を実感する身体部位について. 結   論. 特定した。運動の効果を実感する身体部位は,脚(下.  運動効果の実感といった運動による内在的報酬を認識. 肢),腰(腰部),膝といった一般的に痛みや疲労を感じ. する機会としては,歩行,立ち上がり,および階段昇降. やすい身体部位であった。下肢の筋力低下は,歩行,立. 時といった日常生活の動作場面において,特に衰えを感.

(7) 運動効果を実感する日常生活場面および身体部位. じやすい腰部,下肢に運動効果を実感することがわかっ た。そして,運動効果を実感することにより SE が高ま り運動の実施・継続に関与していることが示唆された。 利益相反  本研究において,開示すべき COI 関係にある企業等 はない。 文  献 1)厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ.http://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/bun-ya/hukushi_kaigo/koureisha/chiikihoukatsu/(2017 年 12 月 27 日引用) 2)Nelson ME, Rejeski WJ, et al.: Physical Activity and Public Health in Older Adults. Recommendation From the American College of Sports Medicine and the American Heart Association. Circulation. 2007; 116: 1094‒ 1105. 3)Lamoureux EL, Sparrow WA, et al.: The relationship between lower body strength and obstructed gait in community-dwelling older adults. J Am Geriatr Soc. 2002; 50: 468‒473. 4)Bean JF, Kiely DK, et al.: The relationship between leg power and physical performance in mobility-limited older people. J Am Geriatr Soc. 2002; 50: 461‒467. 5)Harrison RA, Roberts C, et al.: Does primary care referral to an exercise programme increase physical activity one year later? A randomized controlled trial. J Public Health. 2005; 27: 25‒32. 6)van der Bij AK, Laurant MGH, et al.: Effectiveness of physical activity interventions for older adults: A review. Am J Prev Med. 2002; 22: 120‒133. 7)U.S. Department of Health and Human Services: Strength training among adults aged >65 years ̶ United States 2001. MMWR. 2004; 53: 25‒28. 8)厚生労働省:平成 28 年度国民健康・栄養調査報告.2016. 9)Jurkiewicz MT, Marzolini S, et al.: Adherence to a homebased exercise program for individuals after stroke. Top Stroke Rehabil. 2011; 18: 277‒284. 10)Forcan R, Pumper B, et al.: Exercise adherence following physical therapy intervention in older adults with impaired balance. Phys Ther. 2006; 86: 401‒410. 11)Kawakami Y, Abe T, et al.: Muscle-fiber pennation angles are greater in hypertrophied than in normal muscles. J Appl Physiol. 1993; 74: 2740‒2744.. 105. 12)Rhodes RE, Nasuti G: Trends and changes in research on the psychology of physical activity across 20 years: a quantitative analysis of 10 journals. Prev Med. 2011; 53: 17‒23. 13)有田真己,竹中晃二,他:要支援・要介護者における在 宅運動の実施に影響を与える要因の検討.理学療法科学. 2013; 28: 83‒88. 14)Alison LP, Pier-Eric C, et al.: Intrinsic rewards predict exercise via behavioral intentions for initiators but via habit strength for maintainers. Sports, Exercise, and Performance Psychology. 2016; 5: 352‒364. 15)原田和弘:身体活動の促進に関する心理学研究の動向:行 動変容のメカニズム,動機づけによる差異,環境要因の役 割.運動疫学研究.2013; 15: 8‒16. 16)Freund AM, Hennecke M, et al.: Age-related difference in outcome and process goal focus. Eur J Dev Psychol. 2010; 7: 198‒222. 17)Emery CF, Blumenthal JA: Perceived change among participants in exercise program for older adults. Gerontologist. 1990; 30: 516‒521. 18)Bandura A: Self-Efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev. 1977; 84: 191‒215. 19)前場康介,満石 寿,他:高齢者における運動セルフ・ エフィカシー情報源尺度の開発と運動セルフ・エフィカ シーおよび定期的運動習慣との関連.健康支援.2011; 13: 19‒28. 20)重松良祐,中垣内真樹,他:運動実践の頻度別にみた高齢 者の特徴と運動継続に向けた課題.体育学研究.2007; 52: 173‒186. 21)Carstensen LL, Mikels JA: At the intersection of emotion and cognition: Aging and the positivity effect. Curr Dir Psychol Sci. 2005; 14: 117‒121. 22)有田真己,竹中晃二,他:高齢者における在宅運動セルフ・ エフィカシー尺度の開発.理学療法学.2014; 41: 338‒346. 23)水本 篤,竹内 理:研究論文における効果量の報告の ために─基礎的概念と注意点─.英語教育研究.2008; 31: 57‒66. 24)肥後梨恵子,城 仁士:一般在宅高齢者における筋力ト レーニングの認識と主観的必要性との関連.神戸大学大学 院人間発達環境学研究科研究紀要.2013; 7: 153‒158. 25)Akishita M, Ishii S, et al.: Priorities of healthcare outcomes for the elderly.J Am Med Dir Assoc.2013; 14: 479‒484. 26)清水徹男:高齢者の睡眠障害.日老医誌.2005; 42: 1‒8. 27)Sonstroem RJ, Morgan WP: Exercise and self-esteem: rationale and model. Med Sci Sports Exerc. 1989; 21: 329‒337..

(8) 106. 理学療法学 第 46 巻第 2 号. 〈Abstract〉. Daily Life Scenes and Body Parts that Reflect Realistic Effects of Regular Exercise: Relation between Self-efficacy and Maintenance Home Exercise. Naoki ARITA, PT, PhD Tsukuba International University Koichi IWAI, PhD Ibaraki Prefectural University of Health Sciences Rika MANGYO, PT, PhD Mejiro University. Purpose: This study was designed to clarify differences in self-efficacy and feelings of exercise effects in elderly people who do maintenance exercises at home, or not. Furthermore, this study was conducted to identify feelings of effects of exercise in daily life scenes and on different body parts. Methods: Study participants were 117 elderly people requiring support and care. We assessed the basic attributes, practice situation of home exercise, feelings of exercise effects, and the Home-exercise barrier Self-Efficacy Scale. From respondents who felt exercise effects, we collected reports of feelings of effects of exercise in daily life scenes and on different body parts. Results: Respondents who reported actually feeling exercise effects more frequently did maintenance exercises. Results show that the self-efficacy score was significantly higher for respondents who reported feeling exercise effects. We identified the feeling of exercise effects when walking, ascending stairs, and standing up. Furthermore, we identified the body parts that felt exercise effects as the legs, waist, and knees. Conclusions: Results suggest that elderly respondents acquired intrinsic rewards from maintenance exercise in daily living. Future studies must clarify the timing by which they felt exercise effects. Key Words: Feeling exercise effects, Maintenance of home exercise, Intrinsic exercise rewards.

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参照

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