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新学術領域研究「顔・身体学」

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Academic year: 2021

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.28

188 基礎心理学研究 第37巻 第2号

新学術領域研究「顔・身体学」

田 中 章 浩

東京女子大学

Construction of the Face–Body studies in transcultural conditions

Akihiro Tanaka

Tokyo Woman s Christian University

2017∼21 年度科学研究費新学術領域研究「顔・身体 学」(トランスカルチャー状況下における顔身体学の構 築―多文化をつなぐ顔と身体表現,領域代表: 山口真 美)は,2008∼12年度新学術領域「顔認知」(学際的研 究による顔認知メカニズムの解明,領域代表: 柿木隆 介)の関連プロジェクトとして,2017年に採択された。 「顔認知」は複合領域であったが,「顔・身体学」は人文 社会領域であるのが特徴のひとつである。「顔認知」で は心理学と脳科学・医学・工学などの領域から顔認知の メカニズムと障害について検討してきた。「顔・身体学」 では顔を含む身体全体へとその対象を拡張し,心理学お よび文化人類学のアプローチを軸に,現実の顔や身体表 現とその認識様式を実証的に検討し,文化的多様性とそ の背景要因を明らかにすべく研究を展開している。ま た,こうした知見に基づいて,哲学を中心とした人文科 学的視点から,顔と身体表現を通して時代や社会を読み 解いていこうとしている。こうした人文社会科学を中心 としたアプローチによって,トランスカルチャー状況下 における顔と身体表現について多面的に検討し,人間や 文化に対する理解を深めていく新しい研究領域を作り上 げることが,本領域の究極の目的である。 本領域は,心理学・文化人類学・哲学の計6つの計画 班と,23の公募班から構成されている。領域のイベン トのメインは年2回の領域会議である。実験心理学者の 私には,最初は哲学や文化人類学の発表内容やそのモチ ベーションを理解することが難しいと感じることも多 かったが,イベントを重ねるごとに徐々に理解が深ま り,異分野の発表や議論を楽しめるようになってきた。 顔・身体という共通のキーワードをもちつつ,まったく アプローチの異なる学問分野の研究発表とその進捗状況 を定期的に聞けるのが,毎回非常に楽しみであり,刺激 的である。 領域会議以外にもイベントが多いのがこの領域の特徴 のひとつであり,この1年だけでも以下のようなイベン トがあった。なお,こうした活動の詳細については,領 域ホームページ(http://kao-shintai.jp)から随時最新情報 を発信しているので(Photo 1),ぜひそちらもご覧いた だきたい。 2018/12/26–27 第3回領域会議 2018/11/25 第3回AA研公開シンポジウム 2018/11/22 中央大学人文科学研究所共催シンポジウム 2018/11/12 ショーン・ギャラガー招聘シンポジウム「匿名の視線 と自己の成立」 2018/11/04 第3回顔身体カフェ「顔を描く・顔を描かれる・顔を 知る」 2018/09/25 日本心理学会大会シンポジウム「顔魅力の心理学」 2018/09/01 フォーラム顔学2018シンポジウム 2018/08/24 ヘレン・ンゴ『人種差別の習慣』合評会 2018/08/22 国際シンポジウム「人と人の間にあること: 協調と競 合の対人間ダイナミクス」

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2019, Vol. 37, No. 2, 188–191

報  告

Copyright 2019. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Correspondence address: Tokyo Woman’s Christian

Uni-versity, 2–6–1 Zempukuji, Suginami-ku, Tokyo 167–8585, Japan. E-mail: [email protected]

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189 田中:「顔・身体学」 2018/08/21 シンポジウム「ムスリム女性のヴェールをめぐる学際 研究」 2018/08/02–03 電子情報通信学会ヒューマン情報処理 (HIP) 研究会 (心理班若手会共催) 2018/07/29 トークイベント「ヴァーチャル世界でワタシはどうな る?」 2018/07/26 日本神経科学大会シンポジウム「個性と身体表現の創 発に関わる神経機構」 2018/06/09–10 第2回領域会議 2018/06/02–03 文化人類学会文化会「文化人類学と異分野のコラボ レーション」 2018/05/19 公開ワークショップ「身体的経験をめぐる人類学と現 象学からのアプローチ―不完全な身体,人種と身体, 妊娠期の身体の事例から」 2018/03/16 平成29年度第3回心理班若手公開研究会 2018/03/13–14 公開シンポジウムと B. アンドリュー講演会「間とあ いだの比較現象学」 2018/03/01–05 バリ島ワークショップ ここでは,これらの中から本領域の特徴を表すいくつ かのユニークなイベントを取り上げて紹介したい。 シリーズもののイベントとしては,領域が発足する前 から,東京外国語大学で公開シンポジウム「トランスカ ルチャー状況下における顔身体学の構築」を 2016年か ら毎年開催している。第3回シンポジウムでは,前半は 「顔・身体研究の諸相」と題して本領域の公募班から, 大貫菜穂氏(身体へのイレズミに関する歴史的検討), 宮永美知代氏(外国人の顔や身体の表象をめぐる美術解 剖学的検討),橋彌和秀氏(顔と視線に関する進化・発 達心理学的検討)が,それぞれ独自のアプローチから話 題提供をおこなった。後半は,本領域のキーワードのひ とつである「トランスカルチャー」をどう考えるのかと いう点をめぐって集中的に議論を行った。 人類学班が中心となって企画したバリ島ワークショッ プでは,リラックスした雰囲気の中で舞踊・仮面製作・ 絵画などのバリ島の芸術文化を見学・体験することを通 して,顔や身体に関して日本国内にいるだけでは決して 気づくことのできない新たな気づきを数多く得ることが できた(Photos 2, 3)。それ以外にも,パフォーマーやク リエーターとの交流や,ワークショップやフィールド実 験チュートリアルを通して,顔・身体学研究における異 分野間の融合を一層進めることができた。アフリカや東 南アジアのフィールドでタブレットを用いて,いまだ報 告のない異文化のデータを収集するフィールド実験は, 実験心理学と人類学の融合のひとつの形であり,チュー トリアルでは興味深い体験ができた。 また,哲学班が中心となって「顔身体カフェ」を定期 的に開催している。直近では第3回顔身体カフェが「顔 を描く・顔を描かれる・顔を知る」をテーマとして開催 された。河野哲也氏のイントロダクションと高橋康介氏 Photo 1. Top page of the website of “face-body” studies.

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190 基礎心理学研究 第37巻 第2号 のフィールド実験紹介に始まり,「顔を描く」「顔を描か れる」という参加者のワーク,そして参加者同士の哲学 的対話という構成で,通常の自然科学系のサイエンスカ フェとは一味異なる内容となっている。 他にも哲学班と心理班の融合の試みとして,心の哲学 における世界的権威であるショーン・ギャラガー氏 (University of Memphis)を招聘し,自己主体感(sense of agency)および身体所有感(sense of ownership)をテー マにしたシンポジウム「匿名の視線と自己の成立」を開 催した。ギャラガー氏は“seeing without an I”という感 覚(誤同定免疫)をもつ珍しい症例の紹介を通して,自 己主体感や身体所有感の哲学的含意を論じた(Photo 4)。 田中は,自己主体感の個人差と文化差に関する実験心理 学的研究の結果を紹介した。河野哲也氏は,J. J. ギブソ ンの情報概念を中心にして,生態心理学の哲学的洞察を おこなった。哲学で提唱された概念を実験心理学で実証 し,その成果を哲学者と再び共有することで,新たな概 念的発展へとつながるという循環のなかに自身を位置づ けることができた貴重な経験であった。 こうしたイベントに加えて,研究成果や問題提起を広 く社会に向けて発信するイベントもおこなっている。心 理班が主体となって,日本科学未来館でVR体験会と公 開トークを2本柱とするイベント「ヴァーチャル世界で ワタシはどうなる?」を開催した。体験会では笠原俊一 氏(ソニー CSL)らの開発したParallel eyesというVR技 術を体験し,他者の視点を駆使しながら鬼ごっこをする という非日常体験を通して,自己と他者の知覚について Photo 2. Mask tour at the Bali workshop.

Photo 3. Dancing people at the Bali workshop. Photo 4. Lecture by Prof. Shaun Gallagher at the sym-posium.

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191 田中:「顔・身体学」 再考するきっかけを提供した。公開トークでは,VR体 験会の参加者の声をきっかけに,VR世界の身体性,VR がこれからの社会に与える影響などについて議論した (Photo 5)。トークで筆者(田中)が用いたスライドを 同じく登壇者の西田宗千佳氏(ITジャーナリスト)が Twitter にアップしたところ,15 万リツイート,43 万い いねという大反響を呼び,顔・身体学の活動を広く社会 に発信することができた。 以上,領域の概要といくつかのイベントをご紹介させ ていただいた。筆者は初めて新学術領域に参画して,最 初はイベントの量に圧倒されたが,実際にイベントを企 画・運営・実施する中で,こうした異分野横断型イベン トを重ねることが異分野間理解のもっとも効率のよいや り方であると感じている。この5年間を通して,人文社 会系を横断した「顔・身体学」の基盤を作り上げること を目指して,残り3年間ますます積極的に活動を進めて いきたい。2019年には第2期の公募班員の募集も行われ るので,関心をお持ちの皆様にはぜひ応募をご検討いた だきたい。

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