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個人差—連続と異質が交錯するヒト認知の多様性

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.38

個人差―連続と異質が交錯するヒト認知の多様性

松 吉 大 輔

早稲田大学理工学術院

Human variation in visual cognition

Daisuke Matsuyoshi

Faculty of Science and Engineering, Waseda University

Although an individual-differences approach takes center stage in many areas of psychology, it holds a relatively minor position in psychonomic science such that most studies focus on mean values and ignore the remarkable in-ter-individual variability in task performance. I argue that using human variation can be a valuable tool to unravel hidden behavioral characteristics and constrain possible theories of cognition. In particular, I suggest that by utiliz-ing “qualitative” factors with an individual-differences approach one can elucidate the diverse range of human cog-nitive abilities more effectively than by simply examining individual differences in behavior.

Keywords: individual differences, visual cognition, quality and quantity

1. は じ め に

人間はそれぞれ異なる。身長や体重,顔かたちなどの 外形のみならず,認知や知覚,あるいは感覚といった主 観的経験も個々人の間で同一ではない。自明であるはず のこの個人差は,しかし,一部の例外を除いて (Dane-man & Carpenter, 1980),基礎心理学の分野においてほと んど顧みられることのないテーマであったように思われ る。数人から20人程度の実験参加者のデータについて, 統制条件と実験条件との間の平均値の差分にのみ着目 し,個人間に見られる差異は誤差として捨象する。この ようなアプローチはこれまでの,あるいは現在において も基礎心理学における支配的な研究手法であり続けてい る。 しかし,潮流は確実に変化しつつある。事実,個人差 アプローチに基づいたレビュー論文が,近年,著名雑誌 に複数掲載されているほか (Braver, Cole, & Yarkoni, 2010; Kanai & Rees, 2011; Miyake & Friedman, 2012; Vogel & Awh, 2008),個人差を扱う研究論文数はここ数年で急激に上 昇 し て い る。Figure 1 は,PubMed (http://www.ncbi.nlm.

nih.gov/pubmed) 検索において 1970 年から 2016 年まで の,“cognition”あるいは“perception”を含む論文を分 母に,“individual differences”かつ,“cognition”あるい は“perception” を含む論文件数を分子として,個人差研 究の時系列遷移を割合で表したものである(2015 年 12月28日現在)。論文の内容を精査したものではなく, また検索キーワードの妥当性などの留保はつくものの,

Copyright 2016. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Faculty of Science and

Engineer-ing, Waseda University, Rm 409–1B, 59th Bldg, 3–4–1 Oh-kubo, Shinjuku, Tokyo 169–8555, Japan. E-mail: [email protected]

Figure 1. Estimated share of individual differences liter-ature since 1970. Share=the number of PubMed cita-tions identified by searching for (“individual differenc-es” AND (cognition OR perception))/the number of PubMed citations identified by searching for (cogni-tion OR percep(cogni-tion). Source: PubMed.

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全体的な知覚・認知関連論文数の上昇傾向を補正したう えでも個人差に関連する論文が増加しているであろうこ とがわかる。なお,2016年の件数は先行してオンライン で公開されている論文に基づくもので,数値の確定には 時間を待たねばならないが,2016年には知覚・認知論文 に占める個人差関連研究のシェアが2%を超えるかもし れない。 個人差への注目が集まっている背景には,各研究者が 自分自身の取得してきたデータにおいて,個人データと 平均データとの乖離を観察してきたという経験が強く影 響しているのではないだろうか。課題難易度が高く,個 人差が大きくなるような実験条件では,実験参加者の課 題成績最小値と最大値との間で数倍以上の差がつくよう な事態も頻繁に目にする。ここまで大きな差がつくよう なデータを,平均化し,個人差を捨象した値に基づいて 構成された知覚・認知の理論にどこまでの一般性がある のか。研究者ならば一度は考えたことのある問いではな いか。 平均化は実際,参加者間の変動を隠蔽する効果を持 つ。平均では条件間で差がないような場合であっても (Figure 2a, left panel),参加者群の間では全く逆の行動パ タンとなっているかもしれない(Figure 2a, right panel)。 また,平均では条件による差があっても(Figure 2b, left panel),効果があるのは一部の参加者のみで,他の参加 者では全く効果が見られない場合もあるだろう(Figure 2b, right panel)。平均化はこのように参加者間の違いを 覆い隠し,重要な知見を得る機会を逸失させてしまう危 険性を孕んでいる。 そこで本稿では,特定の知覚・認知の現象や反応にお ける個人差アプローチの有用性やそれに基づく理論的発 展について述べるのではなく,個人差研究が一般にどの ようなアプローチによってなされているかを,特に「質 的要因」というキーワードを元に概観したい。ここで質 的要因とは,一次元上の変化としては容易に捉えにくい 要因(例えば,顔と物,男性と女性),あるいは一次元 上の変化であっても十分な差異があると認知されうる要 Figure 2. Examples of hidden behavioral profiles by averaging across individuals.

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因(例えば,年齢)であって,要因の下位水準間でのカ テゴリカルな類別的表現が(慣習的に)行われるものを 指す。一見すると,個人差研究は,通常の行動実験に対 してさらに考慮すべき変数を付加して,研究者を悩ませ る元凶であるかのように思える。しかし,質的要因とい う観点から個人差研究を捉えることで,かえって個人差 へのアプローチの仕方を整理することができる。質的要 因の付加あるいは考慮が,平均化により隠されていた行 動特性を(単に個人差を捉えるよりも)効果的に明らか にし,心理モデルの制約・発展に貢献することを示し, より多くの研究者が,それぞれの多様な研究対象につい て個人差を排除せず,変数として積極的に利用し始める 契機となれば幸いである。 2. 質的要因の操作による個人差研究 本稿では,課題レベルの質的要因と,群レベルの質的 要因に分けて話を進める。課題レベルは言わばモノ側の 問題であり,群レベルはヒト側の問題であると言い換え ることもできるだろう。課題レベルも群レベルも,それ ぞれ課題内・課題間,群内・群間という2水準に整理す ると,個人差研究の基本的ストラテジーを把握しやすく なる。 課題内の質的要因は実験条件や刺激条件として定義で きる。具体的には,課題として行うべきことは同一であ るが,見る刺激が顔や物,色や形などといったように質 的に異なる場合であり,これらの間の関係性を探るもの である。一方,課題間における質的要因の操作では,文 字通り異なる課題間(例えば,低次な検出課題と高次な 感情認識課題,質問紙とスピード反応課題など)におけ る相関・相互作用関係の検討などが考えられる。 また,群レベルの質的要因としては,群内(比較的均 質と考えられる集団内)では課題成績や性格特性質問紙 における得点の高低,群間では男女や年齢層,文化差, 疾患の有無などが挙げられるだろう。群レベルと課題レ ベルの要因で最も異なる点は,群レベルの質的要因は多 くの場合,量的にも捉えられるということにある。群レ ベルの要因は多くの場合数字で表現されるものである し,特に年齢は数字そのものである。性別は遺伝子レベ ルで質的に異なると言えるのではないかと思われるかも しれないが,必ずしも性染色体のみで男女は決定しない ことをはじめとする多くの生物学的証拠から,近年は男 女という2区分は単純過ぎ,連続体あるいはスペクトラ ムとして捉えられつつあり,必ずしも質的差異があると は言えない (Arboleda, Sandberg, & Vilain, 2014)。同様に, 疾患の有無も,必ずしも明瞭に判別できるものではない (美馬,2007)。したがって,ここで質的要因と言ってい るものはほぼ全て量にも置換可能なものであり,質的に (あるいはカテゴリカルに別々の名前で)表現されるも のは,あくまで連続量を離散的に近似表現したものでし かない。また,群レベルのみならず課題レベルにおいて もこの議論は当てはまり,質か量かは必ずしも厳然と区 別できるものではない。 しかしながら,質的要因という見地から個人差研究を 整理することは,2つの点で有用であると筆者は考えて いる。1つは,ヒトの知覚・認知は基本的にカテゴリカ ルであるため (Olsson & Poom, 2005; Winawer et al., 2007), 数量化できるものであっても,あえて質的に評価するこ とで,我々の日常的な認識と合致した,近似的な説明が 提供可能になる点である。本当のメカニズムではないも のの,効果的・効率的におおよその説明ができるという 点で,本稿で言う質と量の関係は,ニュートン力学と量 子力学の関係に近い。もう1つは,質的要因を意識する ことで,一見複雑な個人差アプローチの研究計画を立て やすくなるという研究者側の実際的メリットにある。先 に述べたように個人差研究が徐々に増加しているとはい え,それが占める割合は2%に届くか否かといった段階 にしかなく,平均値に基づくアプローチが支配的である 状況には変わりはない。しかし,質的要因を操作すると いう視点を持てば,個人差アプローチを採用したことが なくとも,今後個人差研究を行う際の計画策定や,既存 データを個人差の観点から再解析する際の指針になりう るのではないか。以下ではより具体的に,課題内要因の 操作,群レベル要因の検討,課題間要因の検討を行った 3事例について,質的要因という観点から整理・紹介す る。 3. 均質な群内における課題内要因 課題内における質的要因に基づく個人差アプローチ は,本質的には 2条件間の相関関係を調べることにあ り,最も基礎的なものとして位置づけられるだろう。具 体的には,別個の処理メカニズム間の関連性・連合のみ ならず,従来は類似していると思われてきた処理メカニ ズム間の乖離や差異を見つけ出すのにも有用であると考 えられる。

Awh, Barton, & Vogel (2007) では,視覚的ワーキング メモリ容量を測定する同一の変化検出課題において, 3つの実験条件間の相関関係を分析した。それらは,記 憶画面とテスト画面との間で刺激の色が変化する場合, 刺激カテゴリ内の属性が変化する(例,ある文字が別の 文字に変わる)場合,刺激のカテゴリが変化する(例,

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ある文字が別の文字に変わる)場合,刺激のカテゴリが 変化する(例,文字が図形に変わる)場合の3つである。 従来のワーキングメモリ容量測定では,主として色が変 化する場合の課題成績が用いられてきたが,実験の結 果,色変化検出の成績は刺激カテゴリ内変化の成績との 間には強い相関があったものの,刺激カテゴリ間変化の 成績との間には相関が観察されなかった。刺激カテゴリ 内の変化で,刺激が文字の場合の成績と,刺激が図形の 場合の成績との間には強い相関があった一方,刺激カテ ゴリ内変化と刺激カテゴリ間変化との間には相関がな かったことは,刺激カテゴリ間の変化を検出する認知能 力と,刺激カテゴリ内の細かな属性変化を検出する認知 能力は別個であることを示しており,視覚的ワーキング メモリには下位要素が存在することを示唆している。 ま た,測度は行動ではなく脳活動であるものの, Gauthier, Curby, Skudlarski, & Epstein (2005) のアプローチ も魅力的である。彼女らは,顔に特異的な反応を示す紡 錘状回顔領域 (fusiform face area) の活動を指標として, 刺激の空間周波数の高低,刺激への注意(位置か同一性 か),刺激の方位(正立か倒立か)といった異なる実験 条件間の相関を分析した。その結果,空間周波数が異な る刺激条件間では脳活動の相関が低い一方,他の刺激条 件間では脳活動の相関が高いことが明らかとなり,刺激 の低空間周波数と高空間周波数とが独立に処理されてい る可能性を示した。 このように,同一の課題内で刺激条件を操作し,それ らの相関関係を分析すれば,何と何が同一の認知処理・ 能力が基盤によって担われているか(あるいは担われて いないか)を理解し,その背後にある複数の認知メカニ ズムを知る手助けとすることができる。 4. 群レベル要因(群間要因と群内要因)の検討 群レベルの質的要因の操作,特に群間のそれは直観的 に最も理解しやすいものだろう。乳幼児と成人,成人と 高齢者,男性と女性,異文化など,別個の層に属すると 考えられる群間での成績を比較することで,広くヒトと いう種内の変動を知ることができる。このようなアプ ローチは一見すると,個人差研究と言うよりも生涯発達 や男女差,文化差などのアプローチとして分類すべきで はないかと考えられがちであるが,各群内の質的要因の 操作(比較的均質と思われる集団内での課題成績や性格 特性による区分など)を併せて行うことで,一般的な被 験者間デザインの枠に留まらない,個人差研究を行うこ とが可能となる。 筆者らの研究では,視覚的ワーキングメモリを測定す る変化検出課題において,若年者か高齢者かという群間 要因のみならず,群内における記憶容量の高低という区 分も加えた検討を行った(Matsuyoshi, Osaka, & Osaka, 2014)。これまでの研究では,視覚的ワーキングメモリ に保持できる物体個数は3個(高齢者では2個)程度で あるとされてきたが (Cowan, 2001; Luck & Vogel, 1997), 筆者らの研究では記銘すべき物体個数を大量にし,ワー キングメモリに高い負荷を与える状況を作り出した。横 軸を刺激呈示個数,縦軸を記憶容量とする関数曲線は 3個(高齢者では2個)以上で飽和すると考えられてき たが,筆者らの実験では,記憶容量がその個数に留まっ ているように見えたのは,全体が平均された結果でしか なく,記憶容量の高低によって行動特性が大きく異なる ことを明らかにした(Figure 2aを参照)。具体的には, 記憶容量の低い個人は記銘すべき個数が増えると,覚え られる個数が低下するのに対し(曲線が右肩下がりにな る),逆に記憶容量の低い個人は覚えられる個数が増加 する(曲線が右肩上がりになる)ことがわかった。特に この低下は高齢者の低記憶容量群で顕著であり,若年者 では刺激呈示時間の増加によって低下が消失したもの の,高齢者では依然として高記憶負荷時における覚えら れる個数の低下が生じていた。加齢による記憶容量の全 体的な低下はこれまで知られていたところであるが,本 研究では群内要因にも着目することで,平均化によって 隠されていた相互作用的な現象の存在を確認することが できた。 5. 課題間の要因による検討 性格特性と行動課題との関連など,全く種類の異なる 課題間においても個人差アプローチは可能である。ワー キングメモリ容量が高い個人は読解力も高い(Daneman & Carpenter, 1980),不安傾向の高いものは注意機能が低 い (Bishop, 2009) など,異なる課題成績間の関係性を探 るアプローチによって認知機能の変動の原因や相関関係 を検討することができる。このアプローチの利点は,思 いがけない変数間の関係性が明らかになる可能性にある が,課題の増加はすなわち実験時間等のコストの増加で もあるので,効率的な研究実施のためには,事前の理論 的検討による課題の絞り込みや調整が必要不可欠であ る。 異なる課題間に有意な相関が見つかった場合にはその 相関のみに拘泥しがちであるが,Figure 2bで示したよう に,全体として有意な関係があったとしても,その集団 内すべてでその関係が存在することは保証されない。 Matsuyoshi et al. (2014) では,全体での有意な相関が,

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実は男性における強い相関に引っ張られていた現象であ り,女性では相関が有意ではなかったことを示し,男女 の混成によって隠されていた自閉傾向と関連する視線知 覚の性差を明らかにした。

自閉症を持つ個人は,視線処理に非典型性を抱えるこ とで知られている (Emery, 2000; Senju & Johnson, 2009)。 このような非典型的行動には,自閉症者間で必ずしも均 一でないことなどから,自閉的な非典型的行動の表現型 は健常から障害に至るまでの連続体上に位置づけられる と考 え ら れ て き た (Constantino & Todd, 2003; Spiker, Lotspeich, Dimiceli, Myers, & Risch, 2002)。このような個 人間の異質性に加え,自閉症者の行動上の性差も示唆さ れてきている (Werling & Geschwind, 2013a, 2013b)。それ にもかかわらず,視線処理が両性で同様の,連続的な自 閉症表現型を構成しているかどうかは不明のままであっ た。

そこでこの研究では,自閉症スペクトラム係数 (Au-tism-spectrum Quotient: AQ) (Baron-Cohen, Wheelwright, Skinner, Martin, & Clubley, 2001) と心理物理学的アプロー チを用いて,健常成人 (N=128) の自閉傾向と視線処理 の関係が,男女で同様に観察できるかどうかを検討し た。実験の結果,視線知覚の行動成績は,男性のみで自 閉傾向と有意な相関を示し,女性では有意な相関は観察 されなかった。この知見は,視線知覚は連続的自閉症表 現型を両性では構成していないことを示しており,自閉 傾向と行動との関連を考えるうえで,参加者の性を考慮 することの重要性を示している。このように,多用され るアプローチである課題間相関の研究も,質的要因を考 慮することで,従来は検出できなかった関係性をあぶり 出すことができると考えられる。 6. 結   論 本稿では,質的要因をキーワードとして個人差研究の 方法論そのものを簡潔に整理した。個人差研究は,それ を考慮しない研究と比較すると,一般により多くの被験 者を必要とするが (e.g., Schönbrodt & Perugini, 2013),認 知理論を制約・発展させるための有用な補足的ツールと なりえる。「質」はあくまで「量」に対する近似ではあ るが,ヒトの自然なカテゴリカルな認知に合わせる形 で,質的要因を意図的に操作・検討するアプローチの採 用は,平均化によって隠されていた行動特性を効果的に 明らかにすることに役立つと考えられる。 引 用 文 献

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Figure 1. Estimated share of individual differences liter- liter-ature since 1970. Share=the number of PubMed  cita-tions identified by searching for ( individual  differenc-es  AND (cognition OR perception))/the number of  PubMed citations identified by s

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