• 検索結果がありません。

意思決定研究と実験法

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "意思決定研究と実験法"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.36.37

意思決定研究と実験法

1

竹 村 和 久

早稲田大学

Decision research and experimental method

Kazuhisa Takemura

Waseda University

This paper provides an overview of the idea of decision research and related experimental methods. Decision research in social psychology is described briefly as the general term for descriptive theories to explain the psycho-logical knowledge related to people’s decision-making behavior. As the studies of S. Asch, S. Milgram, H. A. Simon, and D. Kahneman suggest, the experimental methodology and knowledge of decision research have been applied widely in such fields as economics, business administration, and engineering, and are expected to become useful in the future. This paper explains various experimental methods and data analysis methods related to research in deci-sion-making processes, and introduces utility measurement, estimation of probability weighting functions, conjoint measurements, process tracing techniques, and preference measurements using incentive compatibility techniques. It ends with discussion section of the experimental methods in decision research.

Keywords: decision research, utility measurement, probability weighting function, process tracing technique,

incentive compatibility technique

はじめに: 社会心理学や意思決定研究の 古典的研究の実験パラダイム 社会心理学は,社会的状況での判断,意思決定,行動 を扱っているが,基礎心理学の領域の典型的研究とはそ の問題意識の重点の置き方が若干異なっていることがあ る。例えば,ミルグラム(Milgram, S.)の服従の研究, アッシュ(Asch, S.)の同調行動の研究などにも代表さ れるように,まずは社会的常識から考えて意外な現象を 実験状況で再現してそのことを同定するということが最 初に行われる。これは,錯視に関する知覚研究が常識的 には想定されない錯視現象を発見することから始まるの と類似している。アッシュの同調行動の研究では,線分 の判断において,視覚刺激より他者の反応を優先してし まい,ミルグラムの服従の実験では,他者の人命や健康 の確保よりも権威への服従が優先されてしまうという本 末転倒した意思決定の現象が扱われている。また,意思 決定研究においても,決定フレーミングの研究や選好逆 転の研究においても,本来意思決定理論から本質的でな い言語表現や選好手続きによって,決定結果が逆転して しまう現象を記述している。 社会心理学や意思決定研究のこのような発見的研究を 抽象的に記述すると,下記のように表現できる。ある対 象A, Bがあるとする(簡単のために2つの対象にする)。 これらの対象を,属性x1, …, xnで対象を記述できるとし て,対象Aの属性xa1, …, xan, 対象Bの属性xb1, …, xbnがあ るとする。ここで,X1, …, Xlの属性についてAがBより 明らかに優越しており,Xm, …, Xnの属性については, 逆に BがAより優越していると仮定する。簡単のため に,重要である属性群(x1, …, xl)をXI,重要でない属性 群(xm, …, xn)をXIIと記す。常識的観点からすると,こ のとき対象AがBよりより選好されると考えるのが合理 的と考えられるが,それにもかかわらずBがAより実際 には選好されてしまうというような現象をさす。例え ば,アッシュの同調行動の研究で言うならば,線分の長 Copyright 2018. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Correspondence address: Department of Psychology,

Wase-da University, 1–24–1 Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162– 8644, Japan. E-mail: kazupsy@waseda.jp

1 本稿の図表作成についてご協力いただいた早稲田大

学大学院村上始氏,また,本研究で紹介させていた だいた研究の共同研究者の皆様に謝意を表します.

(2)

さの判断で明らかに Aの物理的長さ(XaI)が Bの物理 的長さ(XbI)より大きいのに,他の人の行動などの線 分 判 断 で は 副 次 的 な属 性(XII) の B の優越性(XbII≻ XaII)によって,Aの長さよりもBの長さが大きい(B≻ A)と答えてしまうような現象である。線分の長さの判 断においては,他の人の判断も考慮に入れる必要もある かもしれないが自分の視覚判断での物理的長さが優先さ れることが課題にとって合目的である。ミルグラムの権 威の実験であれば,実験者に服従すること(XII)こと よりも実験参加者の健康や人命(XI)を考えることが重 要であるにもかかわらず,逆の判断をしてしまうことが 実験的に明らかにされる。このことは,(Xa1, …, Xal)≻ (Xb1, …, Xbl),すなわち XaI≻XbIであるならばA ≻ B とな ること(すなわち辞書的順序)が社会的に合意されてい るにもかかわらず,上記の関係が明白に成立しないこと (B≻A)が示されることになる。意思決定研究のフレーミ ングの研究やその他のアノマリー研究も同様なパラダイム になっている。例えば,フレーミング効果の研究では,あ る結果と確率の組であるプロスペクトAよりプロスペクト Bをある言語表現I (例えばポジティブ・フレーミング条 件)のもとでは選好するにもかかわらず,別の言語表現II (例えばネガティブ・フレーミング条件)のもとでは,プ ロスペクトBをプロスペクトAより選好するということを 示すことによって,意思決定の非合理性を示そうとしてい る。アレ(Allais, M.)のパラドックスやエルスバーグ (Ellsberg, D.)のパラドックスも同様な構造になっている。 意思決定の研究にしても一般の社会心理学の研究で も,それほど重要でない属性あるいは意思決定や行動に あたって取るに足りない変数が操作されるにもかかわら ず意思決定や行動が変化することを記述することが問題 発見初期の研究では非常に重要になっている。このよう な形の古典的研究が一通り終わった段階で,これらの現 象に及ぼす諸変数の同定や各種の計量モデルのパラメー タ推定研究などが始まってくる。現状の意思決定研究は このような段階にあるといえる。 社会心理学研究の中での意思決定の研究は,特に集団 意思決定研究が伝統的ではあるが,社会心理学と認知心 理学や行動経済学の複合領域に意思決定研究(行動意思 決定研究とも呼ばれる)がある。意思決定研究では,観 察,面接,調査,実験などが用いられるが,ここでは実 験法に焦点を当てて,どのような基本的な考えで実験が なされており,どのようなタイプのものがあるかを,古 典的研究や我々の研究などのこれまでの個人的意思決定 の研究例を中心に解説し,意思決定の実験法についての 考察を行う。 意思決定の選好結果からの効用関数と 確率加重関数の推定

効 用 推 定 の 古 典 的 研 究 Davidson, Suppes, & Siegel (1957)は,主観的期待効用理論を仮定し,主観的確率

が1/2になるような実験を考えて,効用と主観確率の両 方を測定しようとした。事象Eの主観的確率が1/2であ

ると,その余事象 Ecの主観的確率も,確率の公理によ

り,1/2となる。主観的期待効用理論のもとでは,Eが

生起すると xを得てEcだとyという けと,Eが生起す

ると逆にyを得てEcだとxという賭けが無差別だとする と,Eの主観的確率とEcの主観的確率は等しいことにな り,ともに1/2である。 彼らは,コイン投げなどでは表や裏を被験者が系統的 に好む傾向が出るので,6 面のサイコロで,3 面には ZEJ,他の3面にはZOJという無意味綴りを書いて面へ の系統的好みをなくし,主観的な等確率をつくりだす事 象Eをつくりだしたのである。その後,彼らは,Table 1 のような利得行列の利得を変えることによって,ギャン ブルの選択実験を行った(Takemura, 2014)。 主観的期待効用の理論によると,下記の関係を満たす ような効用関数uと主観的確率sが存在することになる。

G1≿G2 ⇔ s(E)u(x)+s(Ec)u(y)≧s(E)u(z)+s(Ec)u(w)

彼らの実験では,s(E)=s(Ec)となるように Eを定め ているので,主観的確率は消去されて, G1≿G2 ⇔ u(x)+u(y)≧u(z)+u(w) となる。利得を適当に選ぶことによって,彼らは,選択 から導かれた不等式から効用関数の上限と下限を推定し て,効用関数の形状を推論したのである。この実験で は,スタンフォード大学の 19名の実験参加者のうち, 理論と矛盾した決定をした4名を除いて,15名の被験者 のG1≿G2効用が推定された。 また,彼らは,利得を適当に選んで,G1とG2とが無 差別になるようにして,主観的期待効用理論により,

G1∼G2 ⇔ s(F)u(x)+s(Fc)u(y)=s(F)u(z)+S(Fc)u(w)

を仮定した。これにより,s(F)+s(Fc)=1なので,

Table 1.

Payoff matrix for utility measurement (Davidson et al., 1957).

E Ec

ギャンブルG1 x y

(3)

( ) ( ) ( ) ( ) u w( ) u y( ) ( ) u x u z s Fu w u y - + - = となり,主観的確率s(F)を求めることができるとした のである。 彼らは,この手続きを用いて客観的確率が1/4である 事象の主観的確率を測定したところ,実験参加者の多数 が客観的確率を過小評価する傾向を見出したのである。 これらの研究は,確率は主観的確率を仮定している が,加法性を仮定しており,近年の非線形効用理論やプ ロスペクト理論のように非加法性を仮定していない。 非線形効用理論からの確率加重関数との推定実験 確 率加重関数は,代替案の結果が生じる確率に対して,人 が主観的に感じるインパクトを表す関数である。確率加 重関数の特徴として,低い確率では実際の確率より高い インパクトを示し,高い確率に対しては実際の確率より 低いインパクトを示すため,加法性の公理を満たさず, 関数は逆S字の形状となる。また,価値関数とは,代替 案を選択したことで得られる結果の価値を表現する関数 である。

Kahneman & Tversky (1979)とTversky & Kahneman (1992) は,理論の提案とともに,実験データをもとに確率加重 関数の推定を行っている。彼らの行った実験は,提示さ れたギャンブルと確実同値額を実験参加者に決定させる といった実験手続きを用いていた。また,遅延時間割引 関数から確率加重関数を導出するモデルを検討する研究 もある(Takemura & Murakami, 2016)。

Takemura & Murakami (2016)は,行動分析学や動物 心理学で用いられることの多い双曲線型の遅延時間割引 モデルから,以下の確率に対する人の感受性のモデルを 導出して実験を行った。 A V1kD ただし,Vは強化の価値,Aは強化量,Dは強化遅延 を表す。kは割引率を表すパラメータであり,この値が 大きくなるほど価値が大きく割り引かれる。この式は, 強化の価値が遅延の逆数に比例するという考え方に基づ いている。割引の部分だけを考えて,その率を W(D) とすると,w(D)=1/1+kDとなる。また,上式の強化遅 延を表すDを,ベルヌイ試行で初めて当たるまでの平均 試行回数の期待値のフェフィナー型の対数型心理物理関 数と比例していると考える。すなわち,幾何分布下での 平均試行回数の期待値は確率pの逆数である1/Pであり, その対数は−log pとなる。遅延回数についてフェヒナー の対数関数の心理物理関数が働くと仮定し,双曲線型の 時間割引モデルに組み入れると,以下の式を導く。 ( ) ( ) W p1klog 1/1 p さらに,この式は,以下の式に変換される。 ( ) ( ) W p k1 p 1 log = - この遅延価値割引から導出した確率加重関数のモデル は,パラメータkの値は0以上をとる。また,パラメーkの値が1より小さいと凹関数となり,1より大きい

と凸関数となる。また,Tversky & Kahneman (1992)の モデルとの特徴的な違いは,客観的な確率に対して主観 的な確率をより大きく判断するような態度への対応が可 能である点である。このモデルのパラメータごとの形状 の推移をFigure 1に示す。 伝統的経済学においては,双曲線型の遅延時間割引モ デルとは異なり,指数関数型の時間割引モデルがよく用 いられている。すなわち, ( ) A kD V=exp ただし,Vは強化の価値,Aは強化量,Dは強化遅延 を表す。kは割引率を表すパラメータであり,この値が 大きくなるほど価値が大きく割り引かれる。 割引の部分だけを考えて,その率をW(D)とすると, w(D)=exp{−kD} このモデルに,フェフィナー型の心理物理関数を適用 すると

W(p)=exp{−{−k log (p)}}=exp{k log p}

Figure 1. Probability weighting function derived from time discounting model (Takemura & Murakami, 2016).

(4)

となる。興味深いことに,心理物理関数が遅延試行回数 の平均値の対数のべき乗であると仮定すると,W(p)= exp{−{−log p}α}となり,Prelec (1998)の確率加重関数 と一致する(竹村・村上,2016). このような観点から,さまざまな確率加重関数のモデ ルが導出される(竹村・村上,2016; Table 2参照)。 このような確率加重関数を以下の実験で推定した。な お,推定の方法は,Takemura & Murakami (2016)によっ ている。 実験参加者 実験参加者は大学生50名であった。信 頼性を測定するために,繰り返し提示した9つのクジを 用いて,級内相関係数を算出した。級内相関係数の中央 値は0.98であった(最小値0.36,最大値は1.00)。級内相 関係数の値が0.70以下であった4名を除き,46名のデー タを解析対象とした。

手続き 課題は,Tversky & Kahneman (1992) とGon-zalez & Wu (1999)の課題を簡易にした形式で行った。 PCの画面左側には,クジ(たとえば,75%で40,000円, 25%で0円をもらえる)を,右側には確実にもらえる金 額の一覧を提示した。実験画面をFigure 2に示した。確 実にもらえる金額の一覧は,クジの最高賞金額(たとえ ば40,000 円)から最低賞金額(たとえば 0 円)までを, 40,000, 38,400, 36,800 … 4,800, 3,200, 1,600, 0と4%間隔で 25 個 と し た。 実 験 参 加 者 は, 一 覧 の 最 も 高 い 金 額 (40,000円)から順に,クジを引くことよりも好ましい かを一つずつ判断し,確実にお金をもらうことよりもク ジを引くほうが好ましいと判断した時の金額(19,200円) を回答した(Figure 2参照)。実験参加者が回答すると, Table 2.

Probability weighting functions derived from various time discounting model (Takemura & Murakami, 2016).

モデル 心理物理関数 遅延割引関数の型 確率加重関数 Hyperbolic mean フェヒナー型 F(D)=ln(D) 双曲線型 f(D)=[1+k D]−1 W(p)=[1−k ln(p)]−1

Hyperbolic median W(p)=[1−k(1/(log(1−p)))]2 −1

Generalized hyperbolic mean W(p)=[1−k ln(p)]−β

変形指数型 指数型 f(D)=exp (−k D) W(p)=exp[k ln(p)] Prelec type1 F(D)=[ln(D)]a W(p)=exp[−(−ln(p)) a

Prelec type2 W(p)=exp[−k(−ln(p))a

Tversky & Kahneman ̶ ̶ W(p)=pγ/[pγ+(1−p)γ1/γ

(5)

次の新しいクジと確実にもらえる金額の一覧を提示し た。クジの提示順序は実験参加者間でランダムとした。 クジの確実同値額の推定値は,実験参加者がクジを引 く方が好ましいと判断した金額の最高額(19,200円)と, 確実にもらう方が好ましいと判断した金額の最低額 (20,800円)との中点(20,000円)とした。また,確実に もらえる金額とクジを比較する際に,一覧の最も高い金 額から順に判断を行っていく群と,最も低い金額から順 に判断を行っていく群を設け,被験者間でカウンターバ ランスをとった。 刺激 実験では174個のクジに対して確実同値額(cer-tainty equivalent; CE)を求めた。また174個中,165個(結 果 15水準×確率11水準=165種類)は推定用のデータ に用 い た。 結 果 は,2,500–0, 5,000–0, 7,500–0, 10,000–0, 15,000–0, 20,000–0, 40,000–0, 80,000–0, 5,000–2,500, 7,500– 5,000, 10,000–5,000, 15,000–5,000, 15,000–10,000, 20,000– 10,000, 20,000–15,000 の 15 水準,確率は,0.01, 0.05, 0.10, 0.25, 0.40, 0.50, 0.60, 0.75, 0.90, 0.95, 0.99 の 11 水準を用い た。信頼性を測定するために,165種類のクジのうちラ ンダムに9種類を選び,繰り返し提示した。 推定方法 Gonzalez & Wu (1999)の推定アルゴリズム を参考に165個の確実同値額を用いて,価値関数と確率 加重関数を推定した。Gonzalez & Wu (1999)の推定アル ゴ リ ズ ム で は,プロスペクト理論の理論式 v(CE)= w(p) v(X)+[1−w(p)]v(Y)を仮定し,価値関数の 8 水 準(v(2,500), v(10,000)など)と確率加重関数の11水準 (w(0.01), w(0.50)など)を目的関数として推定する。推 定した確率加重関数の11水準の値を用いて,非線形最 小二乗法により,確率加重関数のモデルのフリーパラ メータの推定を行った。 Gonzalez & Wu (1999)の推定アルゴリズムを以下に示 した。ただし,iは繰り返し数を表す。 1. クジの結果8水準(2,500, 5,000, 7,500, 10,000, 15,000, 20,000, 40,000, 80,000)を用いて,価値関数 v( )を 推定し,v( )の推定値からv(CE)を算出する。こi こで算出した165個のv(CE)はステップ2, 3の推定i でデータとして用いられる。 2. 価値関数 v( )の値を固定し,確率加重関数 w( )i の11水準の値を推定する。 3. 確率加重関数 w( )の値を固定し,価値関数 v( )i の8水準の値を推定する。 4. もし最適解が見つかれば停止する。そうでない場合 は,繰り返し数を更新し,ステップ1から繰り返す。 確率加重関数 w( )の11水準,価値関数v ( )の8水 準の初期値には,Tversky & Kahneman (1992)の推定を

もとにし,価値観数にはべき関数を用いた(価値関数 v(x)=x0.88,確率加重関数w(p)=pβ/(pβ+(1−p)β1/βただβ=0.61)。 また,Gonzalez & Wu (1999)の推定アルゴリズムでは 導入されていない制約であるが,ステップ 2, 3におい て,それぞれ p<p′ → w(p)<w(p′),x<x′ → v(x)<v(x′) という制約を設けた。分析対象とした実験参加者の確実 同値額の中央値から推定した。 実験の結果 実験の結果を下記に示す。まず,実験参 加者46名の確実同値額の中央値を用いた価値関数のプ ロットをFigure 3に示した。また,実験参加者46名の確 実同値額の中央値を用いた確率加重関数のプロットを Figure 3. Value function derived from 46 participant’s

cer-tainty equivalent values (Takemura & Murakami, 2016).

Figure 4. Probability weighting function derived from 46 participant’s certainty equivalent values (Takemura & Murakami, 2016).

(6)

Figure 4に示した。Figure 5には,変形指数関数モデルの 形状を,Table 3には,AICで比較した7つのモデルの当 てはまりの結果を示した。これによると,一般化双曲線 関数とPrelec型のモデルが最も当てはまりが良いことが わかる。このような形で実験を行い,また,同様な分析 方法を用いて遅延価値割引実験のパラメータ推定も行っ ている(竹村・村上,2016). 多属性意思決定過程の分析 多属性意思決定のコンジョイント分析 意思決定論で は選択肢の選好関係に関して,下記のような連結性と推 移性の条件を考えることが多い(竹村・藤井,2015; Takemura, 2014)。これらの性質を満たす選好関係は弱順 序と呼ばれることもある。まず,選択択肢の集合Aが有 限であることを仮定する。 (1) 連結性 ∀x, y∈A, x≿yまたはy≿x。 すなわち,選択肢集合 Aの任意の要素x, yに対して (∀x, y∈A), x≿yまたはy≿xとなる関係である。 (2) 推移性 ∀x, y, z∈A, x≿yかつy≿z⇒x≿z。すなわち, Aの任意の要素x, y, z (∀x, y, z∈A)に対して,x≿y, y ≿ z ならば,x ≿ z が成立する関係である。例えば, Aを上と同様に商品銘柄の選択肢集合として,x≿y を解釈すると,銘柄 xは銘柄yより好きか無差別, 銘柄 yは銘柄zより好きか無差別ならば,銘柄xは 銘柄 zより好きか無差別という関係がある場合に は,推移性を満たしている。 選好の弱順序性を仮定する分析の中で,各属性に対す る効用値を総計する演算の加法性を仮定する分析にコン ジョイント分析(conjoint measurement)がある(Krantz, Luce, Suppes, & Tversky, 1971)。コンジョイント分析は, 特に,マーケティングにおける消費者の選好を把握する ための目的で用いられることが多い(Takemura, 2014)。 例えば,新製品開発において,既製の製品のどのような 属性の値を変えると消費者に最も好まれる新製品ができ あがるかを知ることや,その新製品の市場占有率をシ ミュレーションによって算出する目的でなされることも ある。コンジョイント分析は,現在ではマーケティング への適用が非常に多いが,大学進学の際の選好調査など の選好判断の研究にも適用可能であるし,選好だけでな く,土木工学エキスパートのリスク評価の研究などにも 使われており,潜在的適用可能性は非常に高い。Luce & Tukey (1964)の先駆的研究に認められるように,コン ジョイント分析は,元来,数理心理学の分野で開発され た分析技法であり,順序尺度(正確には弱順序性を満た す尺度)レベルの選好データから,間隔尺度と等価な加 法的実数値関数(加法的効用関数)を構成する目的で考 案された。このような加法的実数値関数を構成するため には,選好関係が一群の公理を満たす必要があることが わかっている(竹村・藤井,2015参照)。 当初のコンジョイント分析における効用推定において は,このような公理的観点からの研究の影響を受けて, 被験者の選好判断に順序尺度を仮定し,MONANOVA (Monotone analysis of variance)のような単調変換法を用

いた推定法の適用が主流であった。しかし,近年では, ダミー変数による通常の最小自乗法を用いたコンジョイ ント分析がより頻繁に用いられるようになっている (Louviere, 1988; Cattin & Wittink, 1989)。通常の最小自乗 法を用いたコンジョイント分析は,厳密には選好判断が 間隔尺度レベル以上であることを要求するが,シミュ レーション研究の結果,順序尺度を仮定して単調変換を 行なうMONANOVAと非常に類似した結果が出ることが Figure 5. Probability weighting function derived from

modified exponential time discounting model (Take-mura & Murakami, 2016).

Table 3.

AIC ranking for seven models (Takemura & Murakami, 2016).

モデル名 AICランキング

1 2 3 4 5 6 7

Tversky & Kahneman 4 3 6 12 8 3 9

Prelec type 1 4 4 9 7 4 11 6 Prelec type 2 15 17 13 0 0 0 0 Hyperbolic 7 2 10 7 10 9 0 Generalized Hyperbolic 13 18 5 5 3 1 0 Median Hyperbolic 1 0 2 4 19 14 5 変形指数型 1 1 0 10 1 7 25

(7)

わかっている(Carmone, Green, & Jain, 1978)。我々は, 効用に曖昧な境界を持つようなファジィ集合によるコン

ジョイント

分析法を提案して,検討を行っている(Take-mura, Ochiai, Takakai, & Ono, 2007)。また,このような ファジィ集合での効用概念を用いた多段階意思決定のモ デルなども検討されている(Hori, Takemura, & Matsumo-to, 2017a, 2017b). 情報モニタリング法による過程追跡法 情報モニタリ ング法は,被験者が情報探索を行うにあたって,眼球運 動の測定を用いる他に,選択肢×属性の表状に並べられ た封筒から,属性値が書かれたカードを取り出して情報 を取得する情報提示ボード(information board)を用い た方法や,GUI上で動作するプログラム(e.g., Willemsen & Johnson, 2010, 2011)を用いた方法,あるいは眼球運動 測定装置を用いた方法(Figure 6参照)などがあるが, これらの方法によって,得られる知見に差があるかも検 討の対象となってきた。こうした検討においては,ある 情報に対する視線の停留を,1回の情報取得とみなして 分析が行われている(竹村・大久保・諸上,2007; 大 久保・竹村,2011)。 Van Raaij (1977)は,情報提示ボードによる方法と眼 球運動の測定を用いた場合との比較を,コーヒーを題材 とした商品選択を用いて試みている。選択肢は,13の コーヒーブランドについて,それぞれ4つの属性によっ て特徴付けられていた。比較の結果,利用可能な情報 (4属性×13ブランド=52)のうち利用された情報の数, 情報取得の対象となった選択肢の数,2回以上取得され た情報の数といった各種指標について,眼球運動測定を 用いた場合のほうが,情報提示ボードを用いた場合より も多いことが示された。特に,情報提示ボードを用いた 場合,2回以上取得された情報が見られなかったことは 特徴的である。また,各属性に対して回答を求めた重要 度の評定と,それぞれの属性に向けられた情報の割合と の相関を比較したところ,眼球運動測定を用いた場合の 方が高い相関が見られている。 ただし,こうした知見について,情報提示ボードでは 選択肢×属性の表形式で提示が行われているのに対し, 眼球運動測定を用いた場合では選択肢ごとの提示が行わ れている点は留意すべきと考えられる。

Reisen, Hoffrage, & Mast (2008)は選択肢×属性の表形 式による携帯電話の選択を題材に,プログラムを用いた 方法と,眼球運動の測定を用いた場合との比較を行って いる。

近年では,神経科学的なモデルを,商品選択に適用し た研究が表れている。Krajbich, Armel, & Rangel (2009) とKrajbich & Rangel (2011)は,前者では2選択肢,後者

では3選択肢の商品選択を題材に,知覚的意思決定の計 算論的モデルとして広く用いられている,Drift Diffusion Modelを適用した研究を行っている。彼らが使用したモ デルは,ある選択肢を注視することで,当該の選択肢の 相対的な決定上の価値が増加していき,一定の閾値に達 したところで商品選択が行われる。そして,決定上の価 値の増加は,選択肢間の好ましさの差によって,傾きが 変化するというものであり,注視データと商品選択を十 分に説明するものであった(大久保・竹村,2011)。 竹村・原口・玉利(2015)は,途中で決定方略が変更 されることを考慮に入れて,意思決定過程に二段階を設 定し,その意思決定過程で決定方略が変化することを仮 定した計算機シミュレーションを行った。取り上げた決 定方略のすべてについて二段階の組み合わせを考え,こ の計算機シミュレーションでは,どのような決定方略 が,また,どのような決定方略の組み合わせが,認知的 努力が少なくて,比較的正確か,ということを検討し, どのような二段階意思決定方略による意思決定の仕方が 現実的な意思決定おいて,比較的認知的努力が少なくて 正確なのかという観点からの考察を行い,その心理的な 機能についての考察を行った(Table 4参照)。 この研究では,二段階の決定方略について検討した結 果,辞書編纂型(LEX)を用いて二つに選択肢を絞って, それから加算型(WAD)や加算差型(DIF)のような補 償型の方略で比較検討することが比較的認知的負荷が低 く正確であることがわかった(Figure 7参照)。このこと を現実的な状況で考えると,意思決定者は自分にとって 一番重視する属性で選択肢を絞り込んで,決められない ときは次で絞り込み,最終候補を二つに絞って加算的な Figure 6. Information monitoring experiment using

eye-gaze equipment (Takemura, 2014). (SR Research社製Eyelink1000 Remote)

(8)

決め方で意思決定をすると,比較的認知的努力が少なく て,最初から加算型で行う結果に近い意思決定ができる ということである。これまでの多属性の意思決定の研究 ではそのような意思決定過程を示す者が多いことを示し ている(Bettman, 1979; Takemura, 2014)。このようなこ とから,多段階意思決定方略を示す多くの消費者が比較 的合理的な意思決定をしていることが示唆される。 また,原口・竹村(2017)は,計算機シミュレーショ ンの結果と実験の結果をともに用いて,得られた実行回 数のデータの平均と方略ごとの実際の平均所要時間の データを用いて重回帰分析を行い,それぞれの心的処理 の重みを推定した。従属変数となる平均所要時間は,情 報モニタリング法を用いて決定方略を教示した実験の データを使用した。この研究は,実験参加者に6種類の ノートパソコンを想定した多属性意思決定課題から,指 定された決定方略を用いて選択肢を1つ採択させるとい う課題であった。この意思決定課題では,各選択肢には 「価格」「重さ」「バッテリー駆動時間」「保証期間」「CPU」 「メモリ容量」の6つの属性が設定されており,それぞ れの属性には3水準の属性値が当てられた。 この実験参加者は,36の決定方略から一つをランダ ムに提示され,その方略の下でどのような順番で選択肢 や属性を精査すればよいか教示され,練習試行を交えて 決定方略の内容を理解できているか確認を行った。教示 の後に,実験参加者はモニターに表示された六つの選択 肢の中から指定された方略を用いて選択肢の採択を行 う。採択終了後に直前に使用した方略はどのように選択 肢を精査するものであったかのペーパーテストと,使用 した方略に対する満足感や複雑さに関する質問紙に回答 させた。以上の「決定方略の教示→指定された方略によ Table 4.

The first stage decision strategies using computer simulation (Takemura et al., 2015). 第一段階に 使用した方略 方略の内容 CON すべての属性値が閾値を上回っている 選択肢を第二段階に進める。その際 残った選択肢が 4 つ以上あった場合 残った選択肢の中からランダムに3つ を選んで第二段階に進める。 DIS 属性値が一つでも閾値を上回っている 選択肢を第二段階へ進める。その際 残った選択肢が 4 つ以上あった場合 残った選択肢の中からランダムに3つ を選んで第二段階に進める。 EBA 最も重要な属性に関して属性値が閾値 を上回った選択肢を第二段階に進め る。その際,残った選択肢が4つ以上 あった場合2番目に重要な属性に関し ても属性値が閾値を上回っているか考 慮する。 LEX 最も重要な属性に関して上位3つの選 択肢を第二段階へ進める。

Figure 7. Accuracies of the second strategies among various alternatives when the first strategy is LEX (Takemura et al., 2015).

Note. LEX: lexicographic, CON: Conjunctive, DIS: Disjunctive, DIF: Additive difference, EBA: Elimination by aspects, EQW: Equal additive, LEX-S: Lexicographic semiorder, MCD: Majority of confirming dimensions, WAD: Weighted additive strategies.

(9)

る意思決定→使用した方略についての質問紙」の流れを すべての決定方略が実行されるまで36回繰り返すこと になる。一段階意思決定は 6つの選択肢から1つの選択 肢を直接採択する決定方略である。今回一段階意思決定 方略には,連結型(CON)・分離型(DIS)・加算差型 (DIF)・EBA型(EBA)・等加重型(EQW)・辞書編纂型 (LEX)・MCD型(MCD)・加重加算型(WAD)の8種類 を採用した。一方で,二段階意思決定方略は6つの選択 肢からCON・DIS・EBA・LEXのいずれかを用いて選択 肢を二つに絞り込んだのちに,一段階意思決定でも用い た8種類の決定方略で二つの選択肢の中から一つの選択 肢を採択する,組み合わせの決定方略になっている。方 略の組み合わせは4×8の32通りから同じ方略同士の組 み合わせである4種類を除いた28通りを採用した。各決 定方略で使用される心的処理をTable 5に記した。 統計解析の結果,計算機シミュレーションの処理の単 位に当たるRead・Compare・Eliminateの3つの間に非常 に高い正の相関が見られた。また,Add・Productと平 均所要時間との間に強い正の相関が見られた。次に,シ ミュレーションで得られた心的処理の平均回数を独立変 数,実験参加者 30人の各決定方略の平均所要時間(単 位ミリ秒)を従属変数とする重回帰分析を行った。その 際,多重共線性を避けるために,変数間で0.9以上の相 関があった読込(Read),比較(Compare),除去(Elimi-nate)の中から Read と Eliminate を取り除き,Compare, Add, Difference, Productの4変数を重回帰のモデル式に使 用した。重回帰分析のモデル式は以下のようになる。 Table 5.

Information processing units of decision strategies using computer simulation (Haraguchi et al., 2017).

方略 使用する処理 処理の内容 CON 読み込み 比較 除去 選択肢毎の属性値の読み取り,必要条件の読み取り 必要条件と各属性値との比較 必要条件に満たない属性値の除外 DIF 読み込み 比較 加算 乗算 除去 属性の重要度の読み取り,選択肢毎の属性値の読み取り 選択肢毎に属性優位数を比較 選択肢毎の属性優位数を合計 重要度と属性値を乗算 属性優位数が少ない方を除外 DIS 読み込み 比較 除去 選択肢毎の属性値の読み取り,必要条件の読み取り 必要条件と各属性値との比較 必要条件に満たない属性値の除外 EBA 読み込み 比較 除去 属性の重要度の読み取り,選択肢毎の属性値の読み取り,必要条件の読み取り 属性の重要度の比較,必要条件と各属性値の比較 必要条件に満たない選択肢の除外 EQW 読み込み 加算 比較 除去 各選択肢の属性値の読み取り 属性値の合算 合算した属性値の比較 比較で風致の低かった選択肢を除外 LEX 読み込み 比較 除去 属性の重要度の読み取り,選択肢毎の属性値の読み取り 重要度の比較,属性値の比較 比較で数値の低かった選択肢の除外 MCD 読み込み 加算 比較 除去 選択肢毎の属性値の読み取り 選択肢毎の属性値の優位数を加算 選択肢毎の属性値の比較,加算の数値を比較 比較で数値が低かった選択肢の除外 WAD 読み込み 乗算 加算 比較 属性の重要度の読み取り,各選択肢の属性値の読み取り 重要度と属性値の乗算 選択肢毎の乗算を合算 加算の数値を比較

(10)

所要時間(ミリ秒)= 切片+a1×Compareの回数 +a2×Addの回数 +a3×Differenceの回数 +a4×Productの回数 重回帰分析の結果,各心的処理の偏回帰係数はTable 6 のようになった。なお,変数は強制投入とした。全体と して係数はいずれも有意な結果となった。補償型の方略 に多く用いられる処理である加算(Add)や積(Product) の係数が他の係数よりも高くなっており,補償型の方略 は意思決定に多くの時間を要するという結果を補助する ものであった。また,差分(Difference)の係数は負と なった。この結果は,選択肢の除去を行うことで心的な 負荷が減少し,意思決定をよりスムーズに行えるように なったために得られたものと考えられる。単純加算EIP による平均所要時間の回帰モデルでは調整済み決定係数 が0.18だったのに対し,加重加算EIPでは調整済み決定 係数は 0.89となった。このように,計算機シミュレー ションと実験を併用して,心的処理のあり方に重みの違 いを認めることにより意思決定過程の時間に関する予測 の精度は向上したと言える。 誘因両立的な選好の測定実験 社会心理学の実験では,言語的教示によって実験操作 をすることが多くて,誘因(インセンティブ,incentive) をコントロールした研究はそれほど多くはなかった。し かし,近年は経済学や行動分析学の影響のもとに,実際 にインセンティブをコントロールした実験が増えてきて いる。インセンティブのコントロールについては,経済 学などでよく用いられる誘因両立性(incentive compati-bility)の概念がよく用いられる。これは, 個人や集団の 選好を把握するために,虚偽の選好の表明をして自己有 利に導く戦略的な操作の誘因の可能性を排除し,各人に 正直な選好の表明をさせるためのメカニズムである。誘 因両立性を満たした意思決定の実験としては,BDMメ カニズムと第二位価格オークションなどの方法がある (川越,2009)。 ここでは,第二位価格オーディションを利用した社会 心理学会の実験を紹介する。第二位価格オークションと は,オークションにおける支払価格決定方法のひとつ で,最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売され るが,支払額は2番目に最も高い価格に設定されるとい うものである。逆に,買い手がひとりで,売り手が複数 いる場合は,最も安い価格を入札した売り手に,支払額 は2番目に最も低い価格を設定する方法である。 この方法は,オークションに応じる買い手,あるいは 売り手が,偽の入札価格を伝える誘因が存在せず誘因両 立性があるとされている。これは,自分の評価額より高 くてオークションに勝っても,第二位の額が自分の評価 額より上なら買い手は損する可能性があり(第二位の額 が自分の評価額より下なら売り手は損する可能性があ り),自分の評価額より買い手が低くしたときその額と 自分の評価額の間に他者が入札すると評価額以下で手に 入れる可能性を失ってしまう(売り手の場合は,自分の 評価額より高かく評価した場合,同様に評価額以上で売 れる可能性を失ってしまう)。このようなことから,評 価額以上でも以下でも評価額そのものを入札した場合よ りも収入が上になることがないことがわかる。 竹村他(2017)は,杉浦淳吉を代表とする厚労省科研 のリスクコミュニケーション研究プロジェクトにおい て,食品添加物の機能やリスクについての理解を促進す るためのリスクコミュにケーションの効果を第二位価格 オークションで検討することを目的とした。具体的に は,効果的なリスクコミュニケーションの方法として, ①「主体的に考えること」(思考リスト法)と②「集団で 意見をまとめること」(集団決定法)を提案した(杉浦 他,2017)。そして,①と②によるリスクコミュニケー ション後の行動変容(本の値付け行動)から,提案する リスクコミュニケーション方法の効果を検討した。 実験デザインには,リスクコミュニケーション実施の 有無と本の種類: 食品・SNSの2要因を用いた。実験参 加者には,まず食品添加物についてネガティブな記事を 読むことを求め,次に食品添加物についての知識や,科 学技術の利用と環境や健康へのリスクの対処に関するア ンケートを行った(以後,事前アンケート)。そして, 実験群(リスコミ実施群)では,提案するリスクコミュ ニケーションを行い,続いて,リスクコミュニケーショ ンを踏まえて食品添加物についての理解を問うアンケー トを再度,実施した。一方で,統制群に対しては,実験 とは関係のない講義を行った。最後に,実験群と統制群 Table 6.

Partial regression coefficients of information processing units on decision time (Haraguchi et al., 2017).

偏回帰係数 (切片) 19488.56*** Compare 196.53*** Add 2093.53*** Difference −670.65* Product 986.67*** * p<.05 ***p<.001

(11)

の両方に,第二位価格オークション(本の値付け行動) 課題を行わせた。 課題と手続 実験参加者は154名であった(このうち 148名が大学生)。実験参加者には,食品リスクに関す る本と,SNSについての本に対して,値付け課題を行わ せた。本の値付け課題には,セカンドプライスオーク ションを用いた。具体的には,まず実験参加者に2冊の 本を渡した。そして,実験者は,本の値付け方法に関す る教示(「これから,皆さんに2冊の本を差し上げます。 1冊目の本は,食品の安全性についてのリスクコミュニ ケーションに関する本で,次の本はSNSについての本で す。これらの本をみていただき,もし本を手放すとした ら最低いくらであれば売ってもいいかを答えてくださ い。1円から定価の○○円までの間でそれぞれお答えく ださい。値付けは,オークション式で行い,一番安い値 段を付けた方に2番目の安い値段の現金と実際に交換さ せていただきます。このように,現金を用意しています のでオークションの勝者には実際のお金と交換させてい ただきます。」)を行った。値付け方法を理解できたかを 確認した後に,実験参加者には用紙に2種類の本の値段 を記入し,提出することを求めた。最後に,第二位価格 オークションの結果,一番安い入札価格を付けた実験参 加者から,入札された中で2番目に低かった値段で,実 際に本を買い取った。 実験の知見 提案するリスクコミュニケーション方法 の効果を検討するために,リスクコミュニケーションの 有無と本の種類の比較を行った(Figure 8参照)。分散分 析の結果,リスクコミュニケーション実施の有無の主効 果はなく,また本の種類の主効果も有意ではなかった。 リスクコミュニケーション実施の有無×本の種類の交互 作用は有意であった。リスクコミュニケーション実施の 有無と本の種類の交互作用が有意であったことから,下 位検定を行ったところ,リスクコミュニケーション実施 群において食品リスクの本の方がSNSの本よりも高く値 付けされていることが示された。このように,この研究 では,提案方法を実施した群と実施していない群に対 し,食品リスクに関する本と食品リスクとは無関係な本 の値付けを行わせ,第二位価格オークションを用いて提 案方法を実施した群の方が,食品リスクに関する本を無 関係な本よりも高く値付けするかを検討した。本研究の 結果は,今回実施したリスクコミュニケーションの手法 (杉浦他,2017)が,第二位価格オークションの方法に よって,食品リスク情報の選好への変容効果を持つこと がわかった。 まとめと今後の展望 本稿では,意思決定研究の実験法に焦点を当てて,意 思決定の過程を知るためにどのような基本的概念で実験 がなされており,どのような実験法があるかを,古典的 研究や我々の研究事例を中心にしたこれまでの個人的意 思決定の研究例を中心にいくつか解説した。意思決定の 実験は,ここで示したもののほかにも多数あり,近年で は神経科学的手法を用いたものも多く用いられている (Takemura, 2014; 竹村,2015参照)。 意思決定研究においては,本稿で示したように,意思 決定の結果から効用関数,価値関数,確率加重関数の推 定を行うことができるが,これはいくつかの計量心理学 的仮定を満たすと想定されているからである。また,本 稿で示したように,情報モニタリング法などの過程追跡 技法による実験結果と認知過程の計算機シミュレーショ ンの各認知的処理の推定値を組み合わせることによっ て,意思決定過程を推測することもできる。ただし,こ れらの検討も,意思決定過程へのいくつからの理論的仮 定が満たされている場合にのみ可能になる。このような ことを考えると,意思決定の心理過程の推測において は,なんらかの理論的仮定が入っていることになり,測 定が理論を前提としており,ひとつの方法の推定だけで は十分な説明可能性があるのか疑問の余地もある。ま た,本稿では,誘因を制御して実験参加者が嘘をつく誘 因をなくして正確な選好の測定を図る第二位価格法を用 いた選好推定方法実験を紹介した。このような誘因両立 性の仮定も,意思決定者が合理的であるということが成 り立っているときにのみ成り立つ。したがって,あまり 合理性のない人々の意思決定過程の理論からいろいろな 内的過程のパラメータの推測をすることは極めて困難で Figure 8. Pricing values for books in risk

(12)

あることが示唆される。 今後は,このような方法論上の問題点を克服しなが ら,いろいろな方法論を併用して意思決定の過程を明ら かにすることが望まれる。また,古典的研究のように, これまでの常識からは考えられない想定外の意思決定現 象を新たに同定することも,今後も必要である。 引用文献

Bettman, J. (1979). An information processing theory of

con-sumer choice. Reading, MA: Addison-Wesley.

Carmone, F. J., Green, P. E., & Jain, A. K. (1978). Robustness of conjoint analysis: Some Monte Carlo results. Journal of

Marketing Research, 15, 300–303.

Cattin, P., & Wittink, D. R. (1989). Commercial use of conjoint analysis: An update. Journal of Marketing, 53, 91–96. Davidson, D., Suppes, P., & Siegel, S. (1957). Decision making:

An experimental approach. Stanford, CA: Stanford

Universi-ty Press.

Gonzalez R., & Wu G. (1999). On the shape of the probability weighting function. Cognitive Psychology, 38, 129–166. 原口僚平・竹村和久(2017).意思決定研究における情

報モニタリング法と計算機シミュレーション 日本行 動計量学会第45回大会ラウンドテーブル発表 Hori, H., Takemura, K., & Matsumoto, Y. (2017a). Decision

method in type-2 fuzzy events under fuzzy observed infor-mation. International Journal of Business and Marketing

Management, 5, 1–4.

Hori, H., Takemura, K., & Matsumoto, Y. (2017b). Markov de-cision process in fuzzy events based on the mapping exten-sion principle. International Journal of Business and

Market-ing Management, 5, 5–8.

Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47, 263–291. 川越敏司(2009).インセンティブ両立的な手段で測る 

坂 上 貴 之(編 著)  意 思 決 定 と 経 済 の 心 理 学(pp. 140–155)朝倉書店

Krajbich, I., Armel, C., & Rangel, A. (2010). Visual fixations and the computation and comparison of value in simple choice. Nature Neuroscience, 13, 1292–1298.

Krajbich, I., & Rangel, A. (2011). Multialternative drift-diffu-sion model predicts the relationship between visual fixa-tions and choice in value-based decisions. Proceedings of the

National Academy of Sciences of the United States of Ameri-ca, 108, 13852–13857.

Krantz, H., Luce, R. D., Suppes, P., & Tversky, A. (1971).

Foun-dations of measurement, Vol. 1, Mineola, New York:

Aca-demic Press.

Louviere, J. J. (1988). Analyzing decision making: Metric

con-joint analysis. Newbury Park, CA: Sage.

Luce, R. D., & Tukey, J. W. (1964). Simultaneous conjoint mea-surement: A new type of fundamental measurement.

Jour-nal of Mathematical Psychology, 1, 1–27.

大久保重孝・竹村和久 (2011).シリーズ「消費者行動

とマーケティング」2.眼球運動測定と消費者行動 

繊維製品消費科学,52, 744–750.

Prelec D. (1998). The probability weighting function.

Econo-metrica, 60, 497–528.

Reisen, N., Hoffrage, U., & Mast, F. W. (2008). Identifying de-cision strategies in a consumer choice situation. Judgment

and Decision Making, 3, 641–658.

杉浦淳吉・竹村和久・高木 彩・織 朱實・穐山 浩・ 吉川肇子 (2017).リスクコミュニケーションのアク

ティブ手法の開発と効果・普及 第 58回日本社会心

理学会大会発表論文集,37.

Takemura, K. (2014). Behavioral decision theory: Psychological

and mathematical representations of human choice behavior.

New York, NY: Springer.

竹村和久(2015).経済心理学――行動経済学の心理的 基礎―― 培風館 竹村和久・藤井 聡 (2015).意思決定の処方――状況 依存的焦点モデルとその展開―― 朝倉書店 竹村和久・原口僚平・玉利祐樹 (2015).多属性意思決 定における決定方略の認知的努力と正確さ――計算機 シミュレーションによる行動意思決定論的検討――  認知科学,22, 368–388.

Takemura, K., & Murakami, H. (2016). Probability weighting functions derived from hyperbolic time discounting: Psy-chophysical models and their individual level testing.

Fron-tiers in Psychology, 7, 778. doi: 10.3389/fpsyg.2016.00778.

竹村和久・村上 始 (2016).意思決定における確率荷 重関数と時間割引の関係について 第21回曖昧な気 持ちに挑むワークショップ講演論文集(CDロム). Takemura, K., Ochiai, A., Takakai, Y., & Ono, K. (2007). Fuzzy

least squares conjoint analysis and its application to Consum-er decision research. PapConsum-er Presented at the IntConsum-ernational

Meeting of the Psychometric Society (IMPS-2007), Tokyo,

Japan. 竹村和久・大久保重孝・諸上詩帆 (2007).消費者心理 学の最前線(第 1回)――過程追跡技法による消費者 の意志決定過程の分析―― 繊維製品消費科学,48, 506–513 竹村和久・杉浦淳吉・高木 彩・織 朱實・穐山 浩・ 吉川肇子(2017).セカンドプライスオークション法 を用いたリスクコミュニケーションの効果測定 第 58回日本社会心理学会大会発表論文集,38.

Tversky, A., & Kahneman, D. (1992). Advances in prospect theory: Cunmulative representation of uncertainty. Jouranal

of Risk and Uncertainty, 5, 297–323.

Van Raaij, W. (1977). Consumer information processing for different information structures and formats. Advances in

Consumer Research, 4, 176–184.

Willemsen, M. C., & Johnson, E. J. (2010). MouslabWEB: Moni-toring information acquisition processes on the web. Retrived from http://www.mouselabweb.org/ (November 1, 2011) Willemsen, M. C., & Johnson, E. J. (2011). Visiting the

Deci-sion Factory: Observing cognition with MouslabWEB and other information acquisition methods. In M., Shulte-Meck-lenbeck, A., Küberger & R. Ranyard (Eds.), A handbook of

process tracing methods for decision research: A critical review and user s guide (pp. 21–42). New York: Psychology Press.

Figure 1. Probability weighting function derived from  time discounting model  (Takemura & Murakami,  2016) .
Figure 2. An example of gamble task  (Takemura & Murakami, 2016) .
Figure 4. Probability weighting function derived from  46 participant s certainty equivalent values  (Takemura
Figure 4に示した。Figure 5 には,変形指数関数モデルの 形状を,Table 3 には,AIC で比較した 7つのモデルの当 てはまりの結果を示した。これによると,一般化双曲線 関数と Prelec 型のモデルが最も当てはまりが良いことが わかる。このような形で実験を行い,また,同様な分析 方法を用いて遅延価値割引実験のパラメータ推定も行っ ている(竹村・村上,2016). 多属性意思決定過程の分析 多属性意思決定のコンジョイント分析  意思決定論で は選択肢の選好関係に関して,下記のような連
+2

参照

関連したドキュメント

40 , Distaso 41 , and Harvill and Ray 42 used various estimation methods the least squares method, the Yule-Walker method, the method of stochastic approximation, and robust

This review is devoted to the optimal with respect to accuracy algorithms of the calculation of singular integrals with fixed singu- larity, Cauchy and Hilbert kernels, polysingular

This review is devoted to the optimal with respect to accuracy algorithms of the calculation of singular integrals with fixed singu- larity, Cauchy and Hilbert kernels, polysingular

This review is devoted to the optimal with respect to accuracy algorithms of the calculation of singular integrals with fixed singu- larity, Cauchy and Hilbert kernels, polysingular

The newly developed phase-fitted and amplification-fitted Runge-Kutta methods FRK adopt functions of the product ν ωh of the fitting frequency ω and the step size h as

III.2 Polynomial majorants and minorants for the Heaviside indicator function 78 III.3 Polynomial majorants and minorants for the stop-loss function 79 III.4 The

The reported areas include: top-efficiency multigrid methods in fluid dynamics; atmospheric data assimilation; PDE solvers on unbounded domains; wave/ray methods for highly

In addition, the purpose of this paper is to demonstrate the proposed models and methods with various scenarios for real data analysis for comparing asymmetric distributions for