• 検索結果がありません。

はしがき・目次・事例目次・凡例.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "はしがき・目次・事例目次・凡例.indd"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

iii

はしがき

 本書の目的は、遺産の中に不動産があり、それとの関連で紛争がある場合 に、弁護士としてどのように紛争を解決したら良いのかという点について、理 論と実務の両面から解説を試みるものである。  勿論、紛争の予防に資することも視野に入れており、さらに、法律論に留ま らず、紛争解決・予防のために必要となる、登記、税務、または不動産の評価 などについても、弁護士として知っておくべき範囲について解説を試みてい る。  また、本書は、弁護士に留まらず、広く不動産の紛争解決に関わる専門家で ある、司法書士、税理士、宅建業者、コンサルタント等々の方々にもお読み頂 ければと考えている。  次に、本書の構成であるが、以上の目的の下に、各項目ごとに総論としての 法律的な知識の整理を行っており、相続の問題と不動産の問題とに分けて解説 している。  そのうえで、各論として一般的な不動産の相続についての問題点の解説を行 い、さらに、収益性ある不動産や山林、農地等々、特徴のある不動産について の相続問題について解説をしている。  そして、本書の特徴であるが、吉田法律事務所が不動産の分野を最も得意と する法律事務所であること、並びに、代表である吉田が平成6年から現在に至 るまで東京家庭裁判所の調停委員を行っているなど、相続についても得意分野 として取り扱っていることから、不動産と相続の交差する領域について豊富な 知識と経験を有していると自負しており、その知識・経験を生かすものとして 本書を執筆しているが、その狙いが成功していれば幸いである。  そして、各項目の記述内容も、基礎的な法律知識から始め、各論として重要 論点に関する最新の判例及び法律知識に言及し、さらに、実務的なノウハウの 分野にまで至るという三段階にわたる解説をしている。  特に、実務的なノウハウの部分についてはケーススタディにより説明し、ま た、図による解説を多用することにより、レベルの高い問題をわかりやすく解

(2)

iv 説することに努めている。  続いて、本書の利用方法であるが、まず、目次が大変重要である。何を知り たいのか、そのためには本書のどこを見れば良いのかは、目次を見ることで理 解されよう。さらに、索引もチェックして頂くことが必要になると思う。その うえで、知りたい項目が見つけられた場合には、その項目ごとに、まず基礎的 な法律的知識等を把握し、次いで、各論としての法的な論点や判例についての 解説を読み、最後に、ケーススタディを含め、実務的なノウハウまで発展して 学び、かつ、調べて頂ければ本書の利用の仕方としては万全であると思われ る。  本書によって遺産相続と不動産にまつわる紛争が円満に解決でき、または予 防することができれば、それ自体、大変喜ばしいことであるが、さらに、相続 という特殊な分野のことを考えれば、次のようなことがいえると思う。  即ち、相続というのは、それにより被相続人の生活は終了してしまうのであ るが、残された遺族(相続人)の生活はその後も継続していくのである。最近 よく耳にする言葉として、「争族」という言葉があるが、遺産相続をすること により相続人同士が深刻な紛争に直面し、家族としての絆等が失われることを 嘆く言葉であると思われる。  しかし、そもそも、家族とは、お互いに信頼し愛し合う、見返りを期待しな い最小単位の団体であるところ、その愛情に基づく信頼関係(絆)が「争族」 により破壊されてしまうことを防止することも、本書においては大きな目標と しているものである。もし、「争族」の防止に本書が一助となれば、それは著 者にとっては望外の喜びである。  最後に、本書の企画をし編集等して頂いた学陽書房の編集部の皆様に、心か ら御礼を申し上げる。 平成25年1月 弁護士 吉田 修平

(3)

v 序章 

相続と不動産 不動産を相続する場合の問題点

……1  1 相続とは……1  2 不動産を相続する際に生ずる問題について……2    (1) 不動産に居住する場合……2    (2) 不動産で生計を立てている場合……2    (3) 不動産を賃貸している場合……2    (4) 担保不動産の相続……2    (5) 特殊な不動産の相続について……3  3 相続人が不在の場合……3 第

章 

不動産相続・総論 相続の基本原理

……5  1 遺産の評価……5    (1) 一般論……5    (2) 不動産の評価……6  2 特別受益……8    (1) 特別受益……8    (2) 不動産をめぐる実務上の問題点……9  3 寄与分……12    (1) 寄与分とは……12    (2) 不動産をめぐって寄与分が問題となるケース……12  4 遺産分割……14    (1) 遺産分割……14    (2) 遺産分割における不動産登記……14  5 遺言……18    (1) 不動産の特定……18    (2) 遺言の解釈……19    (3) 「相続させる」旨の遺言……25    (4) 遺言執行者……44  6 遺留分……53    (1) 遺留分とは……53    (2) 遺留分減殺請求の基本的な知識……54    (3) 不動産の贈与における「相続開始前の1年間」の判断……55    (4) 基礎財産となる不動産の評価……56    (5) 共同相続人への贈与(特別受益)……57    (6) 価額弁償……59 ●目 次

(4)

vi 第

章 

一般的な不動産(土地・住宅)の相続

……71  1 一般的な流れ……71    (1) 遺産分割手続について……71    (2) 遺産の中に不動産がある場合の注意点……77  2 共同相続の場合の不動産管理……83    (1) 相続が発生したときの法律関係……83    (2) 不動産の管理をどうするのか……84    (3) 共有者の1人が共有物である不動産の全部を使用しているとき……87    (4) 第三者が相続財産の不動産を占有しているとき……98    (5) 共有持分権に基づく登記抹消登記手続について……104    (6) その他の場合……107  3 遺産分割と不動産の分割……112    (1) 遺産分割と共有物分割……112    (2) 遺産分割の方法……123  4 遺産の評価……129    (1) 遺産の評価の基準時……129    (2) 遺産に含まれる不動産の評価の方法について……133  5 遺産分割と不動産の処分(いわゆる共同相続と登記の問題)……138    (1) 遺産分割前に不動産が処分された場合……138    (2) 相続放棄後に不動産が処分された場合と遺産分割後に不動産が処分された場合……144  6 遺産分割協議の効力を否定することができるか……149    (1) リーディングケース……149    (2) 遺産分割協議の合意解除の可否について……152    (3) 詐害行為取消しの対象となるか……154 第

章 

収益性のある不動産の相続

……159  1 賃貸目的物を譲渡した場合の賃料収取権の移動について……159    (1) 収益物件が譲渡された場合の賃料収取権……159    (2) 賃貸人たる地位の移転と通知の要否……160    (3) 賃料収取権の行使の要件……160  2 共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権の帰属……161    (1) 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属……161    (2) 遺産分割後に帰属が確定した不動産から生じる賃料債権の帰属……166  3 関連問題……167    (1) 問題点……168    (2) 検討……168

(5)

vii

章 

賃借権の相続

……171  1 賃借権を相続するということについて……171    (1) 相続の対象となること……171    (2) 賃借権の「譲渡」の場合との違いについて……172    (3) 不動産の賃借権の場合に特有の問題点について……173  2 借地権の相続……175    (1) 相続の対象となる借地権……175    (2) 借地権の類型……175    (3) 借地権を相続する場合の問題点……179  3 借家権の相続……184    (1) 相続の対象となる借家権……184    (2) 借家権の類型……184  4 実務上の問題点……199    (1) 内縁の配偶者の保護……199    (2) 賃借権の価値の評価……206  5 使用借権の相続……207    (1) 使用借主の地位の承継……207    (2) 使用借権の価値の評価……209 第

章 

担保権付き不動産の相続

……211  1 登記手続……211    (1) 本件負債の債務者……212    (2) WABCDがとるべき登記手続……212    (3) 更正登記の限界事例……212  2 相続財産法人との抵当権設定登記との関係……215 第

章 

事業承継と不動産

……219  1 事業承継とは……219    (1) 事業承継の意義,目的および手法……219    (2) 同族会社等における適切な事業承継を行わないことによるデメリット……220    (3) ケースでみる、うまく事業承継をさせるための方法と問題点……221  2 中小企業経営承継円滑法における民法特例制度    (遺留分減殺請求権の問題)……222    (1) 生前贈与財産の取扱い……222    (2) 制度の問題点……223    (3) 新法における民法特例制度について……223    (4) 民法特例の要件……224    (5) 民法特例の手続……226

(6)

viii  3 事業承継の際に、不動産につき、特に考慮すること……227 第

章 

相続人不存在の場合の不動産

……229  1 相続財産管理人選任の申立てから管理終了に至るまで……231    (1) 相続財産管理人の選任……231    (2) 相続財産管理人が選任された後の手続について……232  2 事例65の検討……236    (1) α地について……236    (2) β地について……238    (3) γ地について……239    (4) δ地について……239    (5) 戊の一般債権の回収について……240 第

章 

その他の不動産の相続

……241  1 農地・山林の相続……241    (1) 農地の相続について……241    (2) 山林の相続について……243  2 渉外不動産の相続……244    (1) 海外不動産相続の日本での遺産分割の実施……245    (2) 日本と海外の不動産名義変更……247    (3) 日本の遺産分割審判を海外で執行できるのか……248    (4) 相続税……249  3 私道・墓地の相続……250    (1) 私道の相続……250    (2) 墓地の相続……253 ●事項索引……258 ●判例索引……262

(7)

ix 事例もくじ  事例1  事例2  事例3  事例4  事例5  事例6  事例7  事例8  事例9  事例10  事例11  事例12  事例13  事例14  事例15  事例16 遺産である土地に相続人の1人が建物を所有し土地を無償で使 用している場合、使用借権価格が特別受益となるか 遺産として借地権がある場合に、当該借地権にかかる底地が被 相続人の生前に賃貸人から相続人の1人に譲渡されている場 合、借地権価格が特別受益となるか 相続人の1人が、被相続人の生前、遺産である土地について、 土地上の建物賃借人の明渡交渉及び売買契約の締結交渉等を 行った場合、特別受益として評価されるか 被相続人死亡後、とりあえず法定相続分による相続登記がなさ れている場合、調停条項にいかなる記載をすべきか 被相続人死亡後、不動産の登記名義が被相続人のままとなって いる場合、調停条項にいかなる記載をすべきか 遺産である不動産について、相続人の1人が勝手に自己名義の 登記を具備している場合、調停条項にいかなる記載をすべきか 第1次受遺者の遺贈利益が、第2次受遺者の生存中に第1次受 遺者が死亡することを停止条件として第2次受遺者に移転する という特殊な遺贈が遺言で定められている場合(後継ぎ遺言) 遺言で「相続させる」とされた建物が取り壊され、再築されて いる場合 遺贈の目的として単に「不動産」とされ、所在場所の記載が住 居表示である場合 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言 「相続させる」と指定された相続人が財産取得を望まない場合 「相続させる」と指定された相続人が被相続人死亡時に既に死 亡していた場合の代襲相続の肯否 「相続させる」旨の遺言と第三者(無権利の法理) 相続人の一部を指定したうえで「平等に相続させる」「2分の 1ずつ相続させる」等、割合的な「相続させる」旨の遺言があ る場合 相続人全員に一定割合で「相続させる」旨の遺言がある場合 特定の財産について「相続させる」旨の遺言がある場合、当該 遺言は他の遺産に関する遺産分割においていかに考慮されるべ

第1章 不動産相続・総論

………9 ………10 ………12 ………16 ………17 ……17 ……20 ………22 ………24 ………25 ……32 ………34 ………38 ………40 ………41

(8)

x  事例17  事例18  事例19  事例20  事例21  事例22  事例23  事例24  事例25  事例26  事例27  事例28  事例29  事例30  事例31  事例32  事例33  事例34  事例35  事例36 きか 相続財産が賃貸物件であるが、指定された包括受遺者が登記を 具備していない場合、遺言執行者は賃借人に対して賃料を請求 できるか 遺言執行者の就職と第三者との関係 遺言執行者による妨害排除請求権行使の肯否 遺言執行者となるべき者が遺言を作成する際の注意(「相続さ せる」か「遺贈する」か) 贈与の対象が不動産の場合、権利移転行為と対抗要件(登記) の具備が時間的にずれる場合があるが、民法1030条にいう「相 続開始前の1年間」の判断はいかにすべきか 遺留分減殺請求権を行使する場合において、基礎財産となる不 動産に抵当権が付着している際、取引価格はいかに算定すべき か 共同相続人に対する贈与(特別受益)が遺留分減殺請求の対象 とならないケース 遺留分権利者からの価額弁償請求の可否 遺留分義務者が価額弁償し得る時期的限界 遺留分減殺請求の対象となる不動産に抵当権が設定された場合 遺留分が侵害されている場合、受遺者はいかに登記申請するか 受遺者に対して遺留分減殺請求をした場合の登記手続 不動産を法定相続分によって相続したときの共同相続人間の法 律関係 共有者の1人が、共有物である不動産の全部を使用していると き 相続開始によって不動産が共有になったときの共同相続人間の 不当利得返還請求の可否 「遺産分割の終了」とは具体的に何を指すのか 相続開始前から共有であった場合の「遺産分割の終了」とは 第三者が相続財産の不動産を占有している場合(無効な持分移 転登記を抹消するためには誰が請求するべきか) 共同相続人間の法律関係と使用貸借 共有持分権に基づく登記抹消登記手続請求の可否とその範囲 ………43 ………45 ………46 ………49 ………51 ………55 ………56 ………57 ………59 ………64 ……65 ……67 ………68 ………84 ………87 ………90 ………93 ………94 ………98 ………101 ……104

第2章 一般的な不動産(土地・住宅)の相続

(9)

xi  事例37  事例38  事例39  事例40  事例41  事例42  事例43  事例44  事例45  事例46  事例47  事例48  事例49  事例50  事例51  事例52  事例53  事例54  事例55  事例56 相続開始後で遺産分割終了前に、共同相続人の1人が遺産に含 まれていた不動産の形状を変更してしまった場合 使用貸借契約終了に基づく相続不動産の明渡請求の可否 相続不動産に係る賃借権の確認・請求の適法性 遺産分割のための共有物分割手続の利用の可否 共同相続人と第三者との共有状態の解消の手段について 共同相続人間で相続不動産につき共有物分割手続を利用する場 合とは 遺産分割未了の状態で、共同相続人全員の同意に基づき、遺産 に含まれる不動産を第三者に売却した場合、その売却代金は、 誰に、どのように帰属するか 代償分割における代償金額の決定にあたり負債を考慮すること の可否 不動産評価の立証が許される時的限界 参与員の意見のみに基づいて、不動産評価を決定することはで きるか 代償分割の代償金額の決定にあたり当該相続不動産に抵当権が 設定されていることは考慮されるか 遺産分割と不動産の処分を検討する際の、民法909条ただし書 の「第三者」の範囲 遺産分割前の「法定相続分」に従った相続登記に係る「無権利 の登記」の問題 遺産分割前の「相続分の指定」に従った相続登記に係る「無権 利の登記」の問題 相続放棄後に不動産が処分された場合における相続不動産に対 する差押債権者と、相続放棄をした相続人以外の相続人の優劣 遺産分割後に不動産が処分された場合における当該相続不動産 の取得者と処分をした相続人以外の相続人との優劣 遺産分割協議を債務不履行解除することの可否 遺産分割協議を合意解除することの可否 遺産分割協議を詐害行為取消権により取り消すことは可能か 賃貸目的物が相続による承継ではなく、売買等によって所有権 が移転した場合に賃料収取権はどうなるか ………107 …………109 ………110 ………114 …………117 ………120 ………121 ………125 ………131 ………133 ………137 ………138 ………141 ………142 …144 ………146 ………149 ………152 ……154 ………159

第3章 収益性のある不動産の相続

(10)

xii  事例57  事例58  事例59  事例60  事例61  事例62  事例63  事例64  事例65  事例66  事例67 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生 ずる賃料債権の帰属(遺言がない場合) 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生 ずる賃料債権の帰属(遺言がある場合) 賃貸人による内縁の配偶者に対する明渡請求(借家権援用論) 相続人による内縁の配偶者に対する明渡請求(権利濫用論) 相続人が賃借権を放棄した場合の内縁の配偶者保護 担保権付き不動産を相続した場合に行うべき登記手続 抵当権が設定された土地の相続に係る登記手続(変更登記手続 と更正登記手続) 相続財産法人と抵当権設定登記の先後関係 相続人が不存在である場合の不動産の帰趨と実務上の問題点 海外に不動産を所有していた人の相続が開始された場合の、法 律や手続 所有権取得に係る対抗要件具備の安否

第4章 賃借権の相続

第5章 担保権付き不動産の相続

第7章 相続人不存在の場合の不動産

第8章 その他の不動産の相続

………161 ………167 ……200 ………201 ………204 ………211 ………213 ………215 ……229 ………244 ………253

(11)

第3章 収益性のある不動産の相続 159  まず、相続によって賃貸目的物の所有権が承継された場合についてではな く、売買等によって譲渡された場合に賃料収取権がどのようになるかについ て、簡単におさらいしておきたいと思います。

⑴ 収益物件が譲渡された場合の賃料収取権

 自己の土地建物をBに賃貸しているAが、当該土地建物を、Bとの賃貸借契 約継続中に第三者Cに譲渡してその所有権を移転した場合、Bの賃借権が対抗 ………

3

収益性のある

不動産の相続

賃貸目的物を譲渡した場合の賃料収取権の移動について

1

 土地や建物を所有しているオーナーは、自分の資産運用や相続対策として、 不動産業者等に賃貸し(マスターリース)、その不動産業者が入居者(エンドユ ーザー)にサブリースして、賃料収益を上げるというスキームを多くみること ができます。本章は、そのような収益性ある不動産について相続が発生した場 合において、法律上、特に問題となる点を説明します。 事例56  Aは、自分の土地及び建物(以下、「本件不動産」といいます)を Bに対して賃貸しました(以下、「本件賃貸借契約」といいます)。  Aは、本件賃貸借契約中に、Cに対して、本件不動産を売却しまし た。

(12)

第4章 賃借権の相続 171

⑴ 相続の対象となること

 ① 所有権を相続する場合との違い  不動産の賃借権も財産権として相続されます(民法896条)。しかし、不動産 の所有権を相続する場合とは異なり、賃借権は債権ですので、賃貸人という債 権者がいる点が異なってきます。  例えば、建物の賃貸人を甲、賃借人をX、賃借人の相続人をAとした場合、 相続人であるAは、相続後も甲との関係で賃料(家賃)等の条件について交渉 していくことになります。この点が、XからAが建物所有権を相続した場合と 異なることになります。 ………

4

賃借権の相続

賃借権を相続するということについて

1

(賃貸人) (賃借人) 相続 (相続人) X A 甲 【図1】

(13)

172  ② 賃借権の物権化  次に、特に建物や土地(建物を所有する目的の場合に限ります)を対象とする 賃借権については、借地借家法により、賃借人が強く保護されています(これを 「賃借権の物権化」といい、存続の保障や対抗力の強化がなされています)。  その結果、建物や土地の賃借権の場合には、財産権としての価値もより大きく なるわけです。建物の所有を目的とする土地の賃借権を「借地権」といいますが (借地借家法2条1号)、このような借地権の場合には、相続税を課される場合の 基準となる路線価評価額についても、都心などの場合には割合がC地区とされる ことが多く、更地価格の 70%の価値が借地人に帰属するとされることを考えて も、その価値の大きさが理解されることと思われます。

⑵ 賃借権の「譲渡」の場合との違いについて

 ① 賃借権の譲渡の場合  賃借権の譲渡の場合には、賃貸人を甲、賃借人をX、譲受人を乙とした場 合、Xから乙への賃借権の譲渡を適法に行うには、その譲渡について、賃貸人 である甲の承諾が必要です(民法612条1項)。 (賃貸人) (賃借人) 賃借権の 譲渡 (譲受人) X 乙 甲 承諾 【図2】  甲の承諾なく賃借権を譲渡した場合には、甲により、甲・X間の賃貸借契約 を解除されるおそれが生じます(同条2項)。その場合には、Xも乙も、その 不動産(土地または建物)の占有を続けることができなくなります。  ② 賃借権の相続の場合  これに対し、賃借権の相続の場合には、賃貸人甲の承諾は不要です(【図1】 参照)。それは、相続は包括承継であるため、賃借人のXと相続人のAは、いわ

(14)

第4章 賃借権の相続 173 ば同一人と認められるため、民法612条は適用されないことになるからです(民 法896条)。  ただ、相続人が複数の場合には、複数の相続人が賃借権を準共有することにな ります(民法264条)。そして、遺産分割により相続人のうち1人が賃借権を単独 で相続することになった場合には、その旨を賃貸人の甲に連絡することになりま す。この点、必ず連絡をしなければならないということではなく、その後も相続 人Aと賃貸人甲との間では賃貸借契約が継続していくわけですから、賃料の交渉 その他の問題も発生する以上、誰が新たな賃借人になったのかを連絡しておくこ とにより、その後の賃貸人との関係もスムーズにいくように配慮した方が、より ベターであるという意味です。

⑶ 不動産の賃借権の場合に特有の問題点について

 ① 賃借権の対象物による違い  まず、賃借権の対象物が、土地と建物とで違いが出てきます。  前述のとおり、土地の賃借権のうち特に建物を所有する目的での賃借権を 「借地権」と呼びますが、借地権の場合には、借地人のXは建物を所有してい ますので、Xは建物の登記を持っています。そこで、Xが死亡し、Aに相続さ れた場合には、建物の所有権登記も相続を原因としてAに移転することになり ます。  この点、建物の賃貸借契約の場合(これを「借家」といいます)においては 建物の所有権登記が移転するということはありません(ただし、稀に、建物に 「賃借権の登記」がなされることがあり、その場合には、賃借権の登記の欄の 賃借人の記載がXからAに変更されることになります)。 土地所有 建物所有 (地主) (借地人) 相続 移転 登記 X A 甲 【図3】

(15)

204  このような事例において、裁判例【大阪地判昭38・3・30判タ144号95頁】 は、以下のように判示し、相続人による賃借権放棄を無効と判断しました。  賃借人が死亡しその賃借権を他に居住している相続人が相続してしまう と、賃借人と共同生活を営んでいた者(本件では内縁の妻)が忽ち無権利者 となつてその生活の基盤を失うとするのは不合理であり妥当を欠くとしなけ ればならない。むしろ共同生活を営んでいた者の居住は保護されるべきであ つてこれらの者は、相続人が相続した賃借権を援用して引続きその居住を続 けることができると解するのが相当である。  このように解すると、相続人が賃借権を放棄したときは援用できないでは ないかとの反論があるが、そのような放棄は、共同生活を営んでいた者との 関係でその生活をくつがえすもので無効と考える。それは恰度適法な転借人 があるのに賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約を合意解除しても、転借権を くつがえすことができないと同断である。  又相続人が共同生活を営んでいた者の居住を拒否した場合不都合が生ずる A H 乙 W 居住 平成25年死亡     平成5年死亡 賃貸人甲 ②明渡請求 ①賃借権の放棄 甲所有 建物 事例61  Hは、甲から建物を賃借し、乙と一緒に二人暮らしをしていました が、平成25年1月1日に死亡しました。Hには、配偶者Wとの間に子 Aがいましたが、Wが平成5年に死亡した後、Hは乙と交際を始め、 乙はHと共に甲所有建物に居住するなど、婚姻しているのと同様の生 活をしていました。この事案において、Hの死後、Aが、甲に対し、 「賃借権を放棄します。建物は甲にお返しします。」と主張し出した場 合、乙の地位はどのようになるのでしょうか。

(16)

212

⑴ 本件負債の債務者

 負債については、相続分に応じて、相続人が分割承継するということになり ます。それゆえ、本件負債の債務者は、WABCDということになります。  なお、仮に、Hの相続財産が本件建物のみであるとしても、甲との関係で は、WABCDが本件負債の債務者ということになります【最判平21・3・24 民集63巻3号427頁】。  相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分 の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務について は当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特 段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が 表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該 相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると 解するのが相当である。  もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務 の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、 相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各 相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められた ときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継 したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務につい ての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相 続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

⑵ WABCDがとるべき登記手続

 まず、本件建物は、Hの遺言によってWの単独所有となりましたから、遺言 により相続を原因とする所有権移転登記申請を行います。そして、この登記 は、相続人は単独で、被相続人名義から直接自己名義にすることができます。  次に、本件抵当権の債務者をWABCDに変更する必要があります。

⑶ 更正登記の限界事例

 抵当権が設定された土地の相続に係る登記手続が問題となった判例を検討し

参照