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生物物理 45(5), (2005) TRPV4 チャネルと機械刺激受容 自治医科大学薬理学講座分子薬理学部門鈴木誠 1. はじめに 我々は, 地球の重力の影響を常に受け, またさまざまな温度環境の中に暮らしている. このような物理的な環境の変化に, 生体はどのように対応しているかという

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TRPV4チャネルと機械刺激受容

自治医科大学薬理学講座分子薬理学部門 鈴木 誠

1.はじめに

我々は,地球の重力の影響を常に受け,またさまざ まな温度環境の中に暮らしている.このような物理的 な環境の変化に,生体はどのように対応しているかと いう疑問に対する分子生物学的な解答が求められてい る.現在までの生理学的検討から,細胞内 Ca2+の上昇 がその対応のシグナルになっていることは確実である が,そのバイオセンサーというべき分子の実体は不明 であった. 1997年に M. Caterina らは1),唐辛子の主成分である capsaicinの受容体(VR1)をクローニングした.これが, 熱によって活性化するCa2+チャネルのはじめての報告 と考えられる.VR1 受容体は,受容体というよりも,カ プサイシンという脂溶性物質に反応するCa2+を通す非 選択性カチオンチャネルであることから,センサーと イオンチャネルをあわせもつバイオセンサー,Caterina 自身の言葉を借りれば “micro-machine” ともいえる. VR1は,N 末端にアンキリン類似ドメインをもち,C 末端は6回膜貫通型のイオンチャネルの構造をもつ.VR とは vanilloid(capsaicin の総称)受容体の意味で,現在 は TRPV1 という正式名称が与えられている.チャネル 部の TRP(transient receptor potential)はショウジョウ バエの眼の光感受シグナル異常から見つかった.TRPは Ca2+を通す非選択的カチオンチャネルで,さまざまな 種類が知られている.TRP ファミリーは現在では 30 を 超える種類の存在が知られており,多くのシグナル伝 達や,Ca,Mg 代謝にかかわる分子として研究が進んで いる. 我々は 1997 年に VR1 の論文を読み,この遺伝子の ファミリーに必ず圧力に反応するものが存在するであ ろうと確信してバイオセンサーの研究を開始した.現 在 TRPV のファミリーは Fig. 1 に示すこの 6 つである. 遺伝子の機能発現は電気生理学的手法で直接解明 するか,ノックアウトマウスを作製し,表現型を解析 するのが確実な方法である.TRPV4 は swell-activated channelとして,2000 年に発表された2), 3).細胞が低浸 透圧で膨れる(swell)と,TRPV4 が活性化する.本稿 では,swell によって TRPV4 が活性化する機序と,残 る疑問について概説する.

2.TRPV4の電気生理学的性質

TRPV4を Chinese hamster ovary(CHO)細胞に発現 させ,whole cell patch を行うと,室温ではほとんど電 流は観察されない.温度を 30°C 以上にして,低浸透圧 (250 mOsm 以下)にすると,外向きの電流が観察され TRPV4 as a Mechano-Sensing Channel

Makoto SUZUKI

Department of Pharmacology Division of Molecular Pharmacology, Jichi Medical School

Fig. 1 TRP family. TRP is a Ca2+ permeable nonselective

cation channel composed of 7 sub-families. TRPV is one of subgroups containing 6 members. TRPV has 3-4 ankyrin repeats in N-terminal and 6 trans-membrane domain. Table shows agonist and stimuli to each member. 4αPDD; 4α-phorbol-12,13-dideca-noate, DRG; dorsal root ganglion.(カラー図は電子 ジャーナル参照)

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TRPV4チャネルと機械刺激受容 269 る.あるいは,ピペットに陽圧をかけて細胞を人工的 に膨らませるか(inflation),pH を 6.0 以下にすると活 性化が見られる(Fig. 2,この電流は塩化ガドリニウム GaCl3にて阻害される).この状態で,細胞外液を置換 してNaイオンに対する陽イオンの透過性を調べると, Na:K:TEA:Ca = 1:0.9:0.01:9が得られる*.Ca の透過性 は TRPV1-4 で 10 以下であるのに TRPV5,6 では 100 を 超える(L 型 Ca チャネルでは 1000).10 程度という値 は,他のTRPのファミリーともおおよそ一致している. single channel conductanceは内向きが 60 pS,外向きが 120 pS程度である2)-4). TRPV4の活性は cell-attach でピペットに陰圧をかけ ても出ないと報告されている2)が,実際には 40 回ほど 挑戦すれば観察できる.このときの圧は −30 mmHg 以 上必要であるが,この値はすべて膜にかかっているわ けではないことが知られている.しかし,inside-out patch として細胞膜から離してしまうと,まず出ないといっ てよい.また,繰り返し陰圧をかけても再現よく同じ 反応が得られるとは限らない.この点は大事な点で,細 菌から単離された 2 回膜貫通型の Na チャネルは,細胞 膜の厚さに応じて活性化するために,繰り返し何度で も活性は再現されている.TRPV4 の場合,細胞膜の厚 さというよりは swelling によって起こる細胞膜の裏打 ち構造の変化か,シグナル伝達によって活性化される と考えられる.

3.swellのシグナル伝達

swellにより Ca の細胞外からの流入が見られる細胞 は非常に多く存在する(浸透圧を高くすることで反応 する場合も希にある).1980-1990 年代,この理由とし て,膜に直接かかる張力に反応したと主張する場合と, 浸透圧変化で何らかのシグナルが伝わったという結果 を主張する場合があった.現在では,どちらもありえ たということが明らかになりつつある.後者のシグナ ルとしては G タンパク質,低分子量 G タンパク質,ア ラキドン酸カスケード,チロシンキナーゼがおもなも ので,TRPV4 の場合,アラキドン酸カスケード5)とチ ロシンキナーゼ6)が有力である. Caの透過性の計算は式がいくつかあるので単純では ない.

Fig. 2 Current of TRPV4. The whole cellular current was recorded in Chinese hamster ovary (CHO) cell, exo-genously transfected by TRPV4. Rectangular pulse was applied from −100 to +90 mV by 10 mV step. Inflation was performed by positive pressure through pipette. Inflation or acidic bath solution evoked out-ward-rectified current. Mean amplitude of current was plotted against voltage. The traces of currents are shown below.

Fig. 3 Biochemical cascade activates TRPV4 trigger by swelling. Hypotonic swell of the cell activates phos-pholipase (PL) A2 or D and arachidonic acid (AA) is released. Cannabinoid receptor (CB1) is also a recep-tor releasing AA through anandamide. AA is con-verted to prostaglandin (PG) by cycloxygenase (COX), to leukotriene (LT) by lipoxygenase (LOX) or to epoxyeicosatrienoic acid (EET) by cytochrome P450 (CYP) dependent epoxygenase. The endprod-ucts, EETs, directly activate TRPV4.(カラー図は電子 ジャーナル参照)

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TRPV4の swell による活性化は,当初,チロシンキ ナーゼの阻害薬であるゲニスチンによって阻害され,そ のリン酸化部位はY253であるという報告がなされた6) その後,Nilius らの精力的な研究で,この結果は否定さ れた.Nilius らはアラキドン酸代謝産物が swell による TRPV4のシグナル伝達物質であるとしている5), 7) アラキドン酸(AA)はホスホリパーゼ(PL)A2 や エンドカンナビノイド(アナンダミド)の刺激により 生成される.アナンダミドはマリファナの受容体 (CB1)の内因性刺激物質である.その後シクロオキシ ゲナーゼ(COX)やリポキシゲナーゼ(LOX)により, AAからプロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT) が生成され,それぞれの受容体に作用するのはよく 知られている.AA はもう 1 つの代謝経路で cyto-chromeP450(CYP)による酸化も受け,さらに epoxy-genase(EPG)により epoxyeicosatrienoic acid(EET)に なる(Fig. 3).Nilius らはこの EPG 代謝産物が TRPV4 の活性化を起すことを示した5).したがって,PLA2 の 阻害薬や cytochromeP450 の阻害薬で,内因性の TRPV4 活性は阻害される.swell による活性化も同じ阻害薬で 阻害されるので,swellはAAカスケードを介してTRPV4 を活性化していることがわかった.実際ピペットに PLA2の阻害薬を入れて,whole cell patchをすると,swell に対する反応はなくなるので,swellという機械刺激は, AAからEETを活性化することでTRPV4を活性化して いることは間違いないであろう.TRPVのグループはも ともとカプサイシンという脂質に反応するグループで あり,人工的脂質である 4αPDD も TRPV4 を直接活性 化する8).これらの脂肪酸を介したシグナル伝達系が TRPVでは明らかになりつつある.

4.TRPV4欠損マウスにおける機械受容

TRPV4は低浸透圧以外にも,圧力や流れによるshear stressに反応する.我々は,TRPV4 欠損マウスでは皮膚 の圧力の感覚が低下していることを報告した4).ではど の程度の圧力か? 著者の感覚では“中等度”である. Naチャネルである BNC1 が faint,gentle touch という軽 い程度の機械刺激に応答する9)のに対し,明らかに大 きい.Fig. 4 にあるように,von Fray hair(一定の径の 毛を足底につけることにより接触の判定を行う)で刺 激する touch に対する反応は TRPV4 欠損マウスでは損 なわれていない.損なわれるのは血圧計でかける圧力 の範囲への応答である.しかし,TRPV4 欠損マウスは

Fig. 4 Impaired mechanosensitivity of mouse lacking TRPV4. The upper left shows our equipment pressing tail of mouse. The pressure is connected through manometer and the noxious pressure (the mouse is escaping the piston) was recorded. Upper right: von Fray hair was touched to the hindpaw. When the mouse annoyed the picking, the hair (g) was recorded sensible. Middle two: The pressure was applied as the equipment on the left upper. Lower left: Acetic acid was injected into peritoneum and the number of writh-ing per 10 min was counted. Lower right: Conven-tional hot-plate test was performed. The time interval to escape from the hot (50°C) plate by jumping out was recorded. (**p < 0.01; N. S., not significant)(カ ラー図は電子ジャーナル参照)

Table 1 Supposed roles of mechanosensitive TRPV4

Expression Pressure (kPa) Proposed role Skin 10-20 Direct mechanosensation Bone ? Osteoporosis in microgravity? Aorta 0.04 Varoreflex?

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TRPV4チャネルと機械刺激受容 271 圧力による痛み反応がないわけではなく,加圧を大き くすれば痛みを感じて逃げるし,また神経活動も観察 できる.では“中等度”というのはどれくらいなの か? 我々はさまざまな発現部位でさまざまな反応を測 定し,Table 1 にその結果を大まかにまとめた. TRPV4は皮膚のケラチノサイト,化学受容器,神経 末端,脊髄後根神経節(dorsal root ganglion, DRG)にも 存在する.Fig. 4の実験のときに皮膚に加えた圧力は80-300 mmHg(11-42 kPa)の範囲であり,非常に大きい圧 力といえる.TRPV4 は腎臓の遠位尿細管(renal distal tubule)に発現している.単離尿細管還流の結果,管腔 内の還流の流速にも反応して,K 分泌が起こる機序に かかわることがわかってきた(2004アメリカ腎臓学会). これは小さな圧力といえる.また大動脈(aorta)など容 量血管の血管内皮細胞にも存在し,血圧との関連も示 唆されている.骨の細胞にも発現しており,TRPV4 欠 損マウスでは骨の形態に違いがある(2004骨代謝学会). (shear stress はポイスルの式によって計算した.) 我々はごく最近,細胞に発現させた場合の圧力と活 性の同時測定に成功し,活性化の閾値は1 kPaと考えて いる.この反応が PLA2 阻害薬で阻害できるか,また 表のような圧反応の異常がすべて AA 代謝で説明でき るか否かは今後検討していく.

5.まとめ

TRPV4は細胞の swell によって,AA カスケードで活 性化される.ノックアウトマウスを用いて検討すると, さまざまな機械受容にも異常が認められつつある.こ のような異常がすべて,AA代謝で説明できるか否かが 今後の課題と考えている.

文 献

1) Caterina, M. J., Schumacher, M. A., Tominaga, M., Rosen, T. A., Levine, J. D. and Julius, D. (1997) Nature 389, 816-824.

2) Strotmann, R., Harteneck, C., Nunnenmacher, K., Schultz, G. and Plant, T. D. (2000) Nature Cell Biol. 2, 695-702. 3) Liedtke, W. et al. (2000) Cell 27, 103, 525-535. 4) Suzuki, M., Mizuno, A., Kodaira, K. and Imai, M. (2003)

J. Biol. Chem. 278, 22664-22668.

5) Watanabe, H., Vriens, J., Prenen, J., Droogmans, G., Voets, T. and Nilius, B. (2003) Nature 424, 434-438.

6) Xu, H., Zhao, H., Tian, W., Yoshida, K., Roullet, J. B. and Cohen, D. M. (2003) J. Biol. Chem. 278, 11520-11527. 7) Vriens, J., Watanabe, H., Janssens, A., Droogmans, G.,

Voets, T. and Nilius, B. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 396-401.

8) Watanabe, H. et al. (2002) J. Biol. Chem. 277, 13569-13577.

(5)

1981 年北海道大学医学部卒業,81-95 年東京慈恵会医科大学第 2 内科で内科学,腎臓病学,95 年より現職. 研究内容:イオンチャネル特に機械受容のチャネルについて分子生物学,遺伝子工学を用い検討している. 詳しくは http://www.jichi.ac.jp/usr/phar/index.html

連絡先:〒 329-0498 栃木県河内郡南河内町薬師寺 3311-1 E-mail: macsuz@jichi.ac.jp

Fig. 1 TRP family. TRP is a Ca 2+  permeable nonselective cation channel composed of 7 sub-families
Fig. 3 Biochemical cascade activates TRPV4 trigger by swelling. Hypotonic swell of the cell activates  phos-pholipase (PL) A2 or D and arachidonic acid (AA) is released
Table 1 Supposed roles of mechanosensitive TRPV4

参照

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