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はじめに

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼

牛海綿状脳症(

BSE)とその対策

BSE 清浄化を目指して∼

坂下真由子

<目次>

はじめに

第1章

BSE とは?

第1節 BSE の病原体とその症状 第2節 肉骨粉 第3節 BSE の起源 第4節 BSE の拡大 第5節 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連

2 章 BSE 対策

第1節 イギリスの対策 第2節 EU での対策 第3節 国際的な取り組み

第3章日本の対策

第1節 過去における日本のBSE 対策とその甘さ 第2節 BSE 発生後の日本の対応

4 章 残された課題

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼

はじめに

現在、牛海綿状脳症(BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy)は世界的な広がりを見 せている。イギリスから始まったBSE はヨーロッパのほとんどの国に拡大している。そし て、最近でもフィンランド、オーストリアで初のBSE 感染牛が見つかったため、ヨーロッ パで BSE がまだ発生していない国はスウェーデンだけとなった1。そして日本でも、今年 2001 年 9 月 10 日に一頭目の感染牛が報告されてから現在までに相次いで3頭見つかって いる。このBSE が一体どこまで拡大していくのか不安である。 日本で初のBSE 感染牛が見つかってから、日本での牛肉の消費量が急激に減った。特に、 国産の牛肉に関しては最悪というほどに落ち込み、牛肉を扱う店、業者、畜産農家に大き な打撃を与えている。このような状況は他のBSE 発生国でもみられる。最初に BSE が発 生し、その数も他の国よりはるかに多いイギリスでは、国内でも、そして国外でもイギリ ス産の牛肉は拒否された。ここまでBSE により牛肉の消費が落ち込んだ理由は、BSE がヒ トに感染する可能性があるとされることにある。当初、BSE はヒトへの感染が疑われては いたものの、種の壁があることからも牛だけの病気として扱われていた。しかし、1996 年、 イギリス政府が公式にBSE のヒトへの感染の可能性を発表したことで、世界はパニックに なった。それまで、BSE への対策はとられてはいたが、ここからさらに各国の対策が強化 されていくことになった。日本もその一つであった。また、世界的な規模でBSE が拡大し ていく可能性もあったため、国際的な取り組みも徐々にとられるようになっていった。こ のBSE の拡大を防ぐためには、各国の適切な対策と世界的な対策が重要なのである。 そこで本稿ではBSE 対策を中心に取り上げようと思う。まず、BSE そのものについて述 べた上で、BSE に対するイギリスと日本の対策、国際的な取り組みについて防疫対策中心 に紹介する。日本の対策については、今回の日本でのBSE 騒動の根源と見られる日本政府 の対応の甘さについても触れる。そして、最後に、BSE 対策の課題について述べる。

第1章

BSE とは?

第1節 BSE の病原体とその症状

BSE は伝達性海綿状脳症(TSE;Transmissible Spongiform Ecnephalopathies)と呼ば れる疾病の一つであり、他のTSE には、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病、パプアニュ ーギニアのある部族内で発生する「クールー」、羊のスクレイピーなどある。TSE はプリオ ンという蛋白が変異したことが原因で起きるとされているため、「プリオン病」とも呼ばれ ていれている。プリオン蛋白は脳などの神経細胞の膜などに多く含まれている。しかし、 このプリオン蛋白は通常どの動物にも見られるもので、TSE の直接の原因とはならない。 この正常なプリオン蛋白の立体構造が変化した異常プリオン蛋白がTSE を引き起こす。プ リオンはウイルス粒子よりはるかに小さく伝染性を有する非定型のウイルスとも呼ばれて いる。実は、このプリオン蛋白は糖蛋白より成るため、感染性のある核酸を有していない

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ と考えられており、通常のウイルスの定義には当てはまらない。その正体はまだ謎の多い 不思議な病原体なのである。TSE になった動物の脳には空砲が見られる。これは異常プリ オン蛋白が神経細胞の細胞質に蓄積し、空砲を形成するためである。異常プリオン蛋白は 神経細胞の正常なプリオンに接触し、次々にその正常なプリオン蛋白を変性させていくの だ。 異常プリオン蛋白、特にBSE の異常プリオン蛋白は物理化学的処理に対して極めて強い 耐性を持っており、最近や一般のウイルスが不活化する温度や煮沸ではほとんど不活化され ない。特に乾熱に対しては強く130℃で 30 分間加熱しても不活化されることはない。国際 獣疫事務局(OIE)2の基準では、組織の大きさ 5cm 以下に細分したものを 133℃以上、3 気圧で20 分以上の高圧滅菌が必要であるとされている。そのため、解剖や手術に使った器 具も煮沸さるだけでは危険で、十分に時間をかけて高圧滅菌する必要がある。 TSE は進行性、致死性の神経疾患である。そのため、BSE も 2∼8 年(平均 5 年と考え られている)の潜伏期間を経て徐々に症状が現れていき、必ず死に至る。多くのBSE 感染 牛は4∼5 歳齢の成牛で、30 ヶ月齢以下での発症は少ない。BSE の共通した一般的な臨床 症状は体力の減退、体重の減少、搾乳量の減少、症状の進行に伴う神経的な諸症状などで ある。神経症状には差があるが一般に感覚の過敏症がよく見られる。また、乳牛では後肢 の不均衡や弱体化が最初の臨床症状として見られることが多い。神経的症状は臨床経過を 通じて終始観察されるが、精神状態や行動の変化、姿勢や運動の異常、感覚の異常なども 見られることがある。しかし、最もよく見られる神経症状は恐怖症、後肢歩行失調症、接 触や音に対する過敏症、震えなどである。これらの症状はここ10 年間変化がなく、イギリ ス以外の国で発生したBSE も基本的に同じ症状を示している3 また、感染経路としては経口感染であることがほぼ明らかとなっており、空気感染、接 触感染はないとされている4。母子感染についても可能性は低いとされている5。そのため、 BSE 感染牛は BSE 病原体を口から摂取したということになるが、これに肉骨粉が関わって いると見られている。肉骨粉は飼料に混ぜることが多く、BSE 感染牛から作られた肉骨粉 を飼料として他の牛が摂取することで感染するとされている6 第2節 肉骨粉 BSE はイギリス本土で 1985 年からその散発的発生がみられるようになり、1986 年にイ ギリス政府により新しい病気として正式に認められた。イギリスにおけるBSE 感染牛の数 は年々急増していき、1992 年のピークからは減少してきてはいるものの、その数は 2000 年12 月末までで総数 18 万頭余り達している7。そして、その広がりはイギリス国外にも波

及していっている。BSE の拡大の背景には、BSE 感染牛から作られたために BSE 病原体 に汚染された肉骨粉の流通がある。まずは、この肉骨粉について説明しよう。

肉骨粉は、家畜をと畜場で処理し食肉に加工する際に発生する残さ等(くず肉、骨、獣 脂かす、不可食部位)や死亡獣畜を加熱・蒸煮をした後、油脂を分離して乾燥させ、粉末

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 状にするレンダリングという化製処理によって作られる。肉骨粉は蛋白質を多く含んでい ることから畜産で飼料として利用されてきた。肉骨粉を利用することで乳牛の乳量を可能 な限り多くし、家禽や豚の成長を促進するのだ。このように、肉骨粉はと畜の残さや死亡 獣畜の廃棄物を減らすと共に、それをまた家畜の蛋白源として提供するというリサイクル に一役かっている。そのため、肉骨粉の利用はどんどん普及していった8。だが、この一見 うまく機能しているように見えたリサイクルがBSE の拡大にも一役買ってしまった。BSE 感染牛から作られた肉骨粉はBSE 病原体に汚染されており、それを食べた牛が感染してい ったのである。BSE の発症率は低いとされているが、汚染された肉骨粉のわずかな量でも BSE に感染しうることがわかっている9 第3節 BSE の起源 1985 年に BSE がイギリスで突然発生したわけだが、この突然の発生はどうして起こっ たのだろうか。これを説明する説として、スクレイピー起源説というものがある。スクレ イピーは羊のプリオン病として1700 年代から知られていた病気で、その発生はイギリス に多かった。レンダリングは1920 年代から始まっており、羊からも肉骨粉が作られてい た。そのため、羊のスクレイピーが肉骨粉に混入し BSE 病原体になったと考えられた。 昔からあるスクレイピーが1980 年代に突然 BSE を発生させたと考えられる理由にレン ダリング方法の変化が原因ではないかとみられた。1970 年代のオイルショックでレンダ リングもオイルの使用を節約したものに変更されたため、過熱される時間が短縮され、ス クレイピーの不活化が十分に行われなくなったからだと推測したのである。 この説は広く受け入れられてきた。しかし、2000 年秋にイギリス政府の BSE 調査委員 会は、このスクレイピー起源説を否定した。その理由は、英国家畜衛生研究所の実験によ って、レンダリング方式の変更には影響がないことが証明されたからである。実は、変更 前のレンダリング方法でもスクレイピーは十分に不活化されていなかったのである。そこ で、スクレイピー起源説否定側が考えたのが、牛の自然発生説である。しかし、これには 科学的根拠はなく、その起源はまだ謎に包まれている10 いずれにせよ、その当時のレンダリングで十分に不活化されず肉骨粉に残ったBSE の プリオンにより BSE は拡大していくことになった。また、当時は BSE の診断法がなか ったため数年の潜伏期間中にイギリス本土だけでなく、その他の国々にも広がってしまっ たと考えられる11 第4節 BSE の拡大 イギリスで最初にBSE の症状を示した牛が認められたのは 1985 年で、その当時は BSE に感染した牛の死体が肉骨粉の製造過程に加えられていた。そのため、BSE 感染と肉骨 粉の関連が疑われ 1988 年に反芻動物への反芻動物由来の肉骨粉投与禁止令がでるまで、 BSE プリオンを含むかなり大量の蛋白飼料がイギリス本土だけでなく他の欧州諸国でも

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 使用されていたと思われる。また、1988 年の禁止令以降も同じ肉骨粉が反芻動物以外の 豚や鶏などの飼料として市場に出回っていたため、それを誤って牛に与えていた農家が多 数あったと考えられている。そのため、BSE の発生ピークは疫学的予想より約二年送れ た12。(図1参照)

イギリスにおけるBSE発生状況(図1)

0

10000

20000

30000

40000

1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

頭数

*国際獣疫事務局(OIE)2001 年 10 月 24 日現在 より筆者作成 そして、1996 年に BSE と変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連が発表され、そ の年にすべての家畜に対して肉骨粉を餌として与えることが禁止された。ここで初めて餌 の安全性が確保されたといえる。つまり、1980 年代から 1996 年までにイギリスで製造 された肉骨粉にはBSE 汚染があったものとみられる。1988 年の禁止令以降イギリス国内 で大量に余った肉骨粉は、1996 年に EU によりイギリスが EU 加盟国と第三国へ肉骨粉 などを輸出することが禁止されるまで、特に欧州諸国に大量に輸出されていた13。これが、 現在、ヨーロッパ諸国で相次ぐ初のBSE 感染牛の発見やフランスなどでの急激な増加が 起きている原因だと思われる。また、1996 年の EU の禁止令以降は、ドイツやフランス を経由して、汚染された大量の肉骨粉がEU に加盟していないスイスなどに輸出されたと みられている14 また、最近、欧州諸国でのBSE 感染牛の報告例が多いのには、イライザ法やウェスタ ンブロット法などのさらに精度のよくなったBSE 検出方法が開発され、監視体制が強化 されたということにもある15。(図2 参照)

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼

各国の

BSE 発生状況(図 2)

国\年 1987 年 以前 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 イギリス 446 2514 7228 14407 25359 37280 35090 24436 14562 8149 4393 3235 2300 1443 318 アイルランド 0 0 15 14 17 18 16 19 16 73 80 83 91 149 165 スイス 0 0 0 2 8 15 29 64 68 45 38 14 50 33 25 フランス 0 0 0 0 5 0 1 4 3 12 6 18 31 161 202 ポルトガル 0 0 0 1 1 1 3 12 14 29 30 106 170 163 75 ベルギー 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 6 3 9 34 ルクセンブルク 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 オランダ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2 2 2 13 リヒテン シュタイン 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 デンマーク 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 4 ドイツ 0 0 0 0 0 1 0 3 0 0 2 0 0 7 114 スペイン 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 68 ギリシャ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 イタリア 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 32 チェコ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 スロヴァキア 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 日本 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 *国際獣疫事務局(OIE) 2001 年 10 月 24 日現在 から出典 第5節 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連 1996 年イギリス政府は、従来のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)とは違った特徴を見 せる変異型CJD(v-CJD)が BSE 感染による可能性は否定できないと発表した。このことが、 世界をパニックに落とし入れた。それまでは、ヒトの CJD が菜食主義者にも発生すること、 英国でのCJD 発生率が他の欧州諸国の CJD 発生率と変わらないこと、「種に壁」の存在から BSE はヒトには感染しないとされてきたのだ。 1996 年に v-CJD が BSE のプリオンによって起こされたのではないかとされた理由として は次の5 点があげられる。 1) 1994∼1996 年頃の人での CJD の発症はイギリスのみで、その中の 8 人はすでに死亡 している。 2) 通常の CJD では平均年齢 65 歳で発症するが、これらの患者の年齢は 16 歳、39 歳と通

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 常のCJD 患者の年齢と比較して非常に若い。10 人中 3 人は 10 代後半、5 人が 20 代、 2 人が 30 代であった。 3) ヒトの症状は行動や性格の異常、運動障害、知覚異常、記憶喪失、異常な機能低下、脚 痛などの症状を示したが、経過は従来のCJD とは異なっていた。 4) CJD に特異的に見られる脳波の型が見られなかった。また、通常の CJD 発症後の生存 期間は平均6 ヶ月なのに対し、これら 10 人の生存期間は平均 13 ヶ月であった。 5) 患者はいずれも脳に海綿状の症変が見られた。また死亡した人の解剖ではプリオン蛋白 の大きなプラックの形成が見られた。これも通常のCJD 患者とは異なる病変である。 世界保健機構(WHO)によると、1996 年 10 月∼2001 年 6 月初めまでに世界で見つか ったv-CJD 患者は、イギリスで 101 例、フランスで 3 例、アイルランドで 1 例の合計 105 例が報告されている。しかし、イギリスのと畜場関係者にv-CJD になった人がいないこと や、1980 年代中ごろまでに牛の脳組織の入ったハンバーガーを食べた人の数を考えると、 BSE が人に感染する可能性は極めて低いと考えられている16

第2章

BSE 対策

第1節 イギリスの対策 イギリスはBSE 最初の発生国である。そのため、他の国よりも長い間 BSE に携わり、 様々な問題に直面しながらもBSE の拡大を防ぐための対策がとられていった。その対策の 流れを見ていく。 1988 年イギリス政府は反芻動物由来の肉骨粉を反芻動物の飼料としての販売・供給・使 用を禁止した。しかし、この禁止令は反芻動物だけに限られていたため、イギリスの肉骨 粉は豚や鶏用の飼料として市場に出回っていた。そのため、牛にこの肉骨粉を飼料として 使われていた農家もあったようである。このことから、1990 年 9 月、全ての動物の飼料と しての肉骨粉の販売・供給・使用が禁止された。しかし、この肉骨粉については特定臓器 (SBO17)に由来するものに限られた。そのため、肉骨粉そのものは出回っており、それに まぎれて使用も続いていたようである。そして、1996 年 3 月には哺乳動物由来の肉骨粉に ついて、その販売・供給・使用が全面禁止された。それに伴い、EU の取り決めに従って、 イギリス国内のすべての肉骨粉を摘発、配合飼料用の機械や肉骨粉が置かれていた倉庫の 洗浄がその年の8 月 1 日までに行われた。その後は、配合飼料のサンプル中に含まれる動 物蛋白の有無を検査することとなり、2000 年 6 月までに約 6 万件の飼料が検査された。こ の調査により初めてイギリスにおける肉骨粉が完全に農家から消えることになったと考え られ、1989 年と 1990 年に執行された特定危険材料(SRM;Specified risk material)の 食糧としての使用禁止を含め、危険な飼料や食糧の流れを99%以上止めることができたと 思われる。

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 摘発で、イギリスは1996 年 4 月から 30 ヶ月齢以上の牛を殺処分することに決めた。通常 の年間淘汰数に加え、この取り決めによる殺処分で大量の牛が淘汰された。この例外的な 殺処分は高価につき持続することができなかった。その後の1999 年 11 月に EU は 30 ヶ月 法を定め、イギリスの牛のうち30 ヶ月齢以上の牛を全頭殺処分することに決めた。この大 量処分は2000 年 1 月から始まり、6 月までに 425 万頭の牛が殺処分された。この殺処分と 焼却には膨大な補助金と施設が必要で深刻な問題となってきている18 しかし、イギリスでの発生頭数は徐々にその数を減らしており、イギリスの対策は成功 してきているといえるのではないだろうか。 第2節 EU での対策 イギリスを起点として広がっていったBSE は、いまや EU 諸国のほとんどを巻き込んで しまっている。そのため、EU としても BSE に対する対策をとってきた。今度は、EU の 対策の流れについて、(1)肉骨粉飼料の使用禁止 (2)食肉からのSRM の除去 (3) BSE 検査 (4)BSE 高率発生国での措置 (5)域外国からの牛肉などの輸入規制 の 5 つの点からみていく。 (1)肉骨粉飼料の使用禁止 1994 年 7 月に EU は、哺乳動物由来の蛋白質(肉骨粉)を反芻動物の飼料としての使用 を禁止した。しかし、その後に生まれた牛にもBSE 感染が確認され、豚や鶏用の飼料とし ての肉骨粉が牛に使用されていることが原因であると考えられた。そのため、2001 年 1 月 からすべての家畜に対する肉骨粉の使用を禁止した。そして、その他の肉骨粉への対策と して、異常プリオンを不活化するための肉骨粉飼料の処理基準を定めている。97 年 4 月に 粒子の大きさを50mm 以下とし、133℃、20 分、3 気圧以上で処理することとした。2001 年には、反芻動物由来の精製脂肪について、不溶解不純物が重量比で0.15%以下となるよ うに純化処理することが義務付けられた。そして、2000 年 10 月には食用・資料用の牛肉 などからSRM の除去が義務付けられ、さらに、2001 年 3 月には食用にできない農場で死 亡した家畜などを、家畜用飼料の生産に用いることが禁止されている。 (2)食肉からのSRM の除去 2000 年 10 月から全加盟国で食肉(飼料用・肥料用を含む)から SRM の除去が義務付け られた。それまでは、BSE 発生国でのみ自主的に SRM 除去が義務付けられていた。SRM については、EU 科学委員会の見解に基づき、徐々にその対象部位が拡大されている。イギ リスやポルトガルでは特にBSE の高率発生国のため、除去が義務付けられている SRM が 他の国より多い。また、BSE 発生リスクが低いと考えられている国(オーストリア、フィ ンランド、スウェーデン)と牛肉生産管理が厳格に実施されている国(イギリス、ポルト ガル)では、一定の条件のもとで牛の脊柱除去が免除される。 また、2000 年 10 月から、牛・羊・ヤギの頭蓋と脊柱から機械的に食肉を分離すること が禁止され、2001 年 3 月末からは、全ての骨からの分離についても禁止された。さらに、

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 2001 年 1 月からは、牛・羊・ヤギについて、SRM が食肉を汚染する可能性のあると畜法(気 絶後に頭蓋内の中枢神経を棒で傷つける方法)が禁止されている。 (3)BSE 検査 1998 年から臨床的に BSE の疑いのある牛を検査する受動的検査が導入され、2001 年の 1∼6 月には健康な牛も BSE 検査の対象とする能動的検査が義務付けられた。2001 年 7 月からは検査対象範囲が拡大され、と畜場で食用に不適と判断された牛、または農場で死 亡した24ヶ月齢超える牛全頭と 30 ヶ月を超える健康な牛全頭の検査が義務付けられた。 もし、感染している場合にはその牛は廃棄される。さらに、BSE 感染牛の子牛、感染牛と 同じ環境で育った牛、同じ飼料を与えられていた牛についても感染の可能性があるので、 と畜・廃棄すると共に検査される。 (4)BSE 高率発生国での措置 BSE 高率発生国であるイギリスとポルトガルでは、1996 年 3 月にイギリス産の牛・牛肉 などの輸出禁止、1998 年 11 月にはポルトガル産の牛・牛肉などの輸出禁止措置がとられ た。その後、肉骨粉飼料のすべての家畜に対する使用禁止とともに、「生年月日に基づく輸 出措置」によって、BSE 撲滅が図られている。この制度の実施状況については、EU 食品獣 医局で定期的に調査がされ、両国とも現在の制度運用状況は良好と評価されている。 (5)域外国からの牛肉などの輸入規制 2001 年 4 月から BSE 清浄国とみなされない限り、域外国から輸入される牛肉などにも SRM の除去が義務付けられている。2001 年 7 月現在で、EU により BSE 清浄国とみなさ れている国は、オーストラリア、ニュージーランドなどの15 カ国で、これらの国からの輸 入については規制の適用はない。

EU では、今後、域外国を BSE 危険度に応じ、「BSE 清浄国」「発生例のない BSE 暫定清 浄国」「発生例のあるBSE 暫定清浄国」「BSE 低発生国」「BSE 高発国」の 5 分類するとしてい る。この分類に従ってその国からの輸入条件が決まり、「BSE 高発国」になると、その条件 は最も厳しい19 第3節 国際的な取り組み イギリスを起点として始まった BSE の拡大は、今や世界に拡大しようとしている。EU のほとんどの国にBSE が発生しており、今年日本でも BSE 感染が初めて確認された。イ ギリスの貿易統計によると、1988 年から 1996 年の間にイギリスから肉骨粉が大量に正式 ルートで他国に輸出されている。また、輸入国から第三国、特に EU 諸国からそれ以外の スイス、東欧諸国、中近東諸国、アジア諸国などの国々にもその肉骨粉が流れたとみられ ている。このことから、これからまだ BSE の発生が世界各地で発生することが予想され、 国際的な取り組みが必要とみなされるようになってきている20。その取り組みの一つとして、 国際機関からの BSE に関する勧告がある。ここでは、その勧告について、1996 年に開か れたWHO 専門家会議からの勧告と 2001 年に開催された OIE/FAO/WHO 専門家会議から

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ の勧告について紹介する。 (1)WHO 専門家会議による勧告 1996 年 4 月2∼3 日、WHO が開催した専門家会議で、BSE に関連した公衆衛生問題と CJD の出現について検討された。そして、この会議で動物間での BSE の伝播を最小限に抑 え、BSE 病原体に人が暴露されるのをできるだけ抑えるために、次のような勧告を出した。 1.TSE の症状を示すいかなる動物の部分も、人、動物のいずれの食物連鎖にいれてはい けない。すべての国は、TSE 汚染動物の屠殺と安全な廃棄を確実に行い、TSE 感染性 がいかなる食物連鎖にも入ることができないようにするべきである。すべての国は、 レンダリング方式を点検して、TSE 病原体が効果的に不活化されることを保証すべき である。 2.すべての国は、パリの国際獣疫事務局(OIE)の勧告に従って、BSE の継続的監視体 制と強制的報告体制を確立すべきである。監視データがない場合には,その国の BSE の状況は不明とみなす。 3.国内産の牛にBSE が存在する国は、BSE 病原体を含む可能性のある組織が、人又は動 物のいかなる食物連鎖にも入ることを許してはいけない。 4.すべての国は、反芻動物の組織を反芻動物の餌に用いることを禁止すべきである。 5.特定の製品については: ・BSE 感染動物のミルクについての試験では、いかなる BSE 感染性もみいだされてい ない。他の動物や人の海綿状脳症での知見でもミルクは本病を伝達しないことが示唆 されている。従って、ミルク及びミルク製品は、BSE の高い発生のある国でも安全と みなせる。 ・ゼラチンは、その調製過程でBSE 感染性を破壊する科学的抽出操作があるため、人 が消費しても安全とみなせる。 ・ろうそく用の獣脂も、適当なレンダリング方式がとられていれば安全とみなせる。 6.医療材料は経口及び注射に用いられるために食物とは異なる。医療材料に関しては、 BSE 病原体の伝達の危険性を最小限にするための対策が 1991 年の WHO 専門家会議 で決められており、現在もそれは有効である。 ・さらに新しい情報が入れば、これらの対策は点検され、必要に応じて強化される。 ・医薬品工業用の材料は、監視体制が存在し BSE が存在しないことを、または散発例 を報告している国から入手することが重要である。この点は特に繰り返し強調されて いる。 ・精製や不活化操作は感染の危険性を減少させるのに役立つ。しかし、BSE 病原体は、 普通の微生物を破壊する物理化学的操作に非常に抵抗性であることを認識しなけれ ばならない。 7.TSE についての研究、特に急速診断、病原体の性状解析、人と動物における TSE の疫 学についての研究を推進しなければならない21

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ この勧告に基づき、イギリスなどのヨーロッパの国々、そして日本でもBSE の対策が 強化されていくようになる。 (2)OIE/FAO/WHO 専門家会議 2001 年 1 月、国際食糧農業機構(FAO)は BSE の発生が世界に広がる可能性があると 警告し、それを受けてOIE と WHO を交えた3つの国際機関による専門家会議がその年の 6 月に開かれた。会議では、BSE の人及び動物の健康と貿易上の問題点が整理され、今後 の対策について協議された。そして、数多くの勧告が採択された。その主なものについて 紹介する。 1.家畜や畜産物(肉骨粉等)の原産地名や移動経路は、その製造過程及び貿易過程にお いて、しばしば偽造もしくは改ざんが行われることがあるので注意する必要がある。 2.BSE の発生初期には、発症例数は極めて少なく散発的で長期にわたる非特異的な症状 等により、BSE の存在やその重要性が見逃されがちであるので、各国は BSE の危険性 に対して決して楽観してはならない。 3.各国は貿易のデータや可能性のある危険因子の系統的な評価(リスク分析)を通じて BSE の侵入の防止をはかるよう勧告する。また各国の貿易国としての位置付けは、そ の国のBSE のリスク評価によって決まることを心得ねばならない。 4.目下、OIE は各国及び各地域の BSE のリスク状況の評価に関するガイドラインを作成 しているが、各国や国際機関の経験を活用して更に具体的で詳しいリスク評価方法の ガイドラインを作る必要がある。 5.リスク管理の方法は、その最終目標が一般市民の健康を守ることにあるので、科学的 根拠に基づいて行われ、明白でしかも必要以上に貿易の制限とならない方法で行われ、 厳格に実行されなければならない。また、政府当局の努力は全面的支持を得られるよ う指導しなければならない。 6.各国はリスク評価の結果に基づき目的とする動物群に対して適当なテスト方法を用い ることを考えるべきである。 7.反芻動物の肉骨粉及び獣脂は、いかなる場合にも反芻動物に与えてはならない。飼料 給与の禁止の実情の調査にあたっては信頼のおける証明書の発行や国際的に輸入した 動物用飼料にBSE の混入がないことを保証するテストの開発が必要となる。反芻獣蛋 白の検出のために迅速で信頼性の高いテスト方法の開発が重要である。 8.羊、ヤギはBSE に汚染された肉骨粉を与えると BSE に感染することが証明された。 従って汚染肉骨粉を羊やヤギに与えた国では、これらの動物が感染している可能性が あるので、人への感染の可能性を防止する対策が必要である。また各国はBSE が自国 の羊やヤギに侵入しているリスクを評価すると共に、BSE がこれらの動物群に侵入す るあらゆる可能性を排除すべきである。 9.豚や鶏は傾向的にBSE には感染しないことは、実験的に証明されている。しかも、汚

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 染した飼料を与えられた後にこれらの動物の体内組織にはBSE のプリオンが動物の組 織に残留するという証拠は認められていない。 10.科学者は BSE とその危険性についての新しい情報を、例えそれが一般市民を動揺させ るようなことでも、積極的に提供していくよう努めるべきである。同時に科学者はこ れらの新しいリスクに対して、どのように対処すべきであるかも明白にすべきである。 以上の10 項目の勧告が出されたが、この会議のメッセージとして次の 5 点が強調されて いる。 ① BSE 及び v-CJD は HIV と同様、免疫抗体や有効なワクチンはなく、潜伏期間が異常 に長いので発見が遅れ、輸血によって広がる可能性があるためBSE は世界中に広がる 可能性がある。 ② BSE は、発症するまで待っていたのでは、発見した時には BSE はすでに国中に広がっ てしまっている可能性があるので発生報告の出る前から対策の準備をし、監視を強化 しておく必要がある。 ③ 関係業者だけに対策を任せておくと、予期しなかったことが起きる可能性がある。専門 家による現場(農場、と畜場、食肉加工場、化成工場、飼料倉庫、配合飼料工場、診断 センター、貿易・流通業者等)の実情調査と監視を定期的に行う必要が大切である。 ④ 受動的調査だけでは不充分で、必要に応じて新しい診断法を使った能動的検査を実施す ることが大切である。 ⑤ BSE や v-CJD に関する情報は、できるだけ多くの人に提供し透明性を保つことが必要 である22 これらの勧告を実施していけば、おそらくBSE の撲滅は達成できるにちがいない。あと は、これらの勧告を実施していく生産者や関係業者、それぞれの政府にかかっているとい える。

第3章 日本の対策

第1節 過去における日本のBSE 対策とその甘さ 今年9月10 日に日本国内での初めての BSE 感染牛が報告され、その後も相次いで 2 頭 のBSE 感染牛が見つかった。ここで問題になるのが、この BSE 感染牛 3 頭とも 1996 年以 降に生まれている点にある23。1996 年から日本は、WHO の勧告に基づいて農家に反芻動 物由来の肉骨粉を反芻動物に飼料として与えないようにとの指導をし、肉骨粉の輸入に関 してもイギリスからのものはその年の3月から自粛するよう指導していた。そして、その 後は対象の国も広がり、輸入条件も強化されてきている24。しかし、この措置はあくまでも 「指導」であって、法的規制でもなく、その指導がどこまで行き届いていたのかが疑問で ある。日本の感染牛3頭とも飼料には肉骨粉を使っていないとされているが、飼料の製造 過程、倉庫内での保管、運搬で肉骨粉が混入する可能性がありうる。また、他の国でも起

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ こっていることだが、肉骨粉自体を禁止しなければ、不正に使用されることもあるのだ25 現在、1 頭目の感染牛が見つかってから、農林水産省はその感染経路の調査を行っている。 調査は、発生農家を起点として、感染牛が摂取した可能性のある全ての飼料について追跡 していく川下からの調査と、輸入肉骨粉を起点として、BSE 発生国からの輸入肉骨粉につ いて追跡していく川上からの調査が同時に行われている26。その調査で、日本向けの肉骨粉 を作っていたイタリアの工場が国際基準を満たさない疑いが浮上してきている。しかし、 まだそのはっきりしたことは分かっておらず、その調査は現在も続いている27 過去における日本の対策には甘さが見られるが、それは政府の考えが甘かったためであ ろう。12 月 16 日付けの朝日新聞によれば、EU が過去 3 回にわたって日本に BSE 発生の 危険性を指摘したが、農林水産省がそれに対し、あまりにも自信過剰のような対応してい たようである。EU は 1998 年 1 月から各国の BSE に関する危険度を調査し、評価するス テータス評価を開始した。農林水産省も日本の調査を依頼し、昨年2000 年 11 月、今年 2001 年1 月、4 月にその報告書の草案が日本側に示された。しかし、その草案に対する農林水産 省の対応は次のようなものであった。 EU 草案 農水省の主張(対応) 感染の危険性 88 年に英国から生きた牛を輸入。肉骨粉に処理さ れ、低位の危険にさらされた 日本は未発生国。安全性は高い 輸入肉骨粉の量 輸出側と輸入側の数量が違う場合、反証がなけれ ば悪い方を取る 英国から肉骨粉の輸入はない。データの 誤認が多い 輸入肉骨粉の安全性 86 年∼90 年に加熱処理の証明書がないのをイタ リアから400 ㌧、デンマークから 43 ㌧輸入 (感染確認後各国に職員を派遣。イタリ ア製に加熱処理が不充分な恐れがあると 報告) 肉骨粉自粛の行政指導 肉骨粉使用自粛の行政指導は98 年まで飼料会社 や工場に行き渡らず、効果は不明 行政指導は業界団体を通じて通達の翌日 には行き渡った 牛に与えられた肉骨粉 95 年までは輸入製品と国内産をあわせた総量の 2 ∼6%が牛に与えられていた 与えられていたのは0.02∼0.06% 飼料工場での混入 飼料工場の製造ラインなどで豚などに使う肉骨粉 が牛のえさに混入する危険性がある (今年6 月に混入防止のガイドライン) 食肉処理段階の検査 症状の出ていない牛の検査体制が不備。すでに発 生を見逃した可能性がある (感染確認後の10 月 18 日から厚生労働 省が全頭検査開始) 第1 事案での EU からの評価は悪いほうから 2 番目の「レベル 3」で、この評価は農林水産 省の予想以上に悪かったようだ。農林水産省は、EU からの報告書の草案が来る度に追加資 料を提出するなどして主張、抗議をした。そして、ついに6 月 EU の評価そのものを断っ

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ た。しかし、現在起こっている状況を考えると、農林水産省の対応はあまりにも粗末であ るように思われる28 第2節 BSE 発生後の日本の対応 今年2001 年 9 月 10 日に日本国内で第1頭目の BSE 感染牛が見つかってから、日本の BSE 監視体制、そして、BSE に汚染された肉骨粉、牛肉が出回らないように対策が強化さ れている。今度は、BSE 発生後強化された主な対策をみていく。 (1)肉骨粉について 肉骨粉についての対策は次のような経緯でとられている。 9 月 18 日 反芻動物等由来蛋白質(肉骨粉等)を含む牛用飼料の製造・販売・牛への給 与を禁止 10 月 1 日 肉骨粉(鶏・豚等を含む)の飼料・肥料としての輸入、製造及び販売の一時 全面停止を関係団体及び都道府県知事等を通じて飼料の製造業者に要請【10 月4 日からの実施】 15 日 家畜用飼料のうち肉骨粉等を含むものについてはすべて製造・販売・家畜へ の給与を禁止 11 月 1 日 牛用飼料への混入・誤用・流用を防止する万全の措置を講じることを条件と して、鶏・豚由来の血粉、血しょう蛋白、フェザーミール等の豚・鶏用飼料、 ペットフード及び肥料としての利用及び既存の蒸製粉類の複合肥料として の利用ができるよう、一時停止措置を解除29 以上が一連の対策の主な流れである。この中で、10 月 15 日に全面禁止されていた肉骨粉 が11 月 1 日に牛を除いてすべて解禁されている。そのため、畜産物のリサイクルは牛を除 いて、ほぼBSE 騒動前の状態に戻ることになった。この背景には、肉骨粉を焼却する施設 の不足が各地で問題となったことがある。そのため、原料の 8 割を占める鶏・豚について は解禁することになった。また、鶏や豚がBSE に感染することはないとされるのにも関わ らず、肉骨粉全面禁止にしたことに養豚、養鶏業界が強く反発したことも解禁の理由であ る30。しかし、ここで気をつけなければいけないことは、解禁の条件にもあるように、牛飼 料への混入・誤用・流用を防止することである。これを徹底しない限り、BSE 病原体がま たどこからか入り込んでしまう可能性がある。 (2)と畜から消費までにおける対策の強化 次に、牛がと畜され消費者の下に食肉として届くまでの過程において強化された対策に ついて見てみよう。現在のと畜から消費までは下の図のように各過程で対策がとられてい る。

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ の 全ての牛の特定危険部位 BSE 検査陽性の牛 BSE 検査陰性の牛、通常検査不合格の牛 動物油脂 肉骨粉(副産物) *特定危険部位:BSE プリオン蛋白に汚染されているとされる脳、脊髄、眼、回腸遠位部 と殺・解体→と畜検査 ・通常検査(生体、解体前後) ・BSE 検査(’01.10.18 から) エライザ法でスクリーニング検査。 陽性の牛はウェスタンブロット法及 び免疫組織化学的検査を実施し、判 定。 卸売市場、食肉卸、製造加 工メーカー、小売店・スー パー、外食店へ 検査に合格した牛の骨、くず肉、皮等 (特定危険部位は焼却。[10.18 から]) 焼 却 (10.18 から) 化製場 加工メーカー 飼料等製造メーカー 10.4 から肉骨粉等の飼料・肥料として の輸入・製造・出荷を前面停止。 11.1 から豚・鶏由来の一部肉骨粉の豚 ・鶏への利用については解禁。 原皮卸 加工メーカー 検査に合格した牛の枝肉等 消費者 *第1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会の『参考資料ー資料3−』p.15 から出典 以前と変わったのは、うえの図で波線で示している点である。肉骨粉については先に述 べたが、10 月 18 日から実施された「解体された牛の全頭検査」と「すべての特定危険部位 の焼却」ということについてここで少し詳しく述べようと思う。 解体された牛の全頭検査 10月18 日から解体された牛全てを対象に全頭検査が開始された。この対策の主な目的 は「食の安全を守る」ということであり、これによって狂牛病の疑いのある牛の肉は一頭 も市場に出回らないしくみが整った31 解体される牛は最初、子牛登記証明書、血統登録証明書などの書面を確認した後、牛が 生きている状態で異常がないかどうかを眼で確認する。奇声やふらつきなどの行動異常が 合った場合は解体が禁止される。この検査に合格した牛は解体されることになるが、健康 そうに見えても発症前の牛がいる可能性があるため、全ての解体された牛が一次検査にか けられることになる。一次検査は「エライザ法」で実施される。狂牛病の病原体である異常 プリオンの有無を発色で判断するスクリーニング(ふるいわけ)検査である。エライザ法 は感度が高いため、この検査で正常であっても陽性となってしまうことがある。ただし、

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 本当に陽性のものも絶対に見逃さない。そのため、エライザ法による検査は2回行われ、 これによって陽性と判断された牛は次に二次検査にかけられることになる。二次検査は「ウ エスタンブロット法」という検査のほか、顕微鏡を使う病理組織検査などで総合判断する。 帯広大学中心に限られた機関で実施する。この検査は丸一日ほどかかるが、一次検査で陽 性と判断された牛が本当にそうなのかがこれで確定される32 全ての牛の特定危険部位焼却 牛の全頭検査と並行して10月 18 日から開始されたのが、「全ての牛の特定危険部位を焼 却する」ということである。特定危険部位とは脳、眼球、脊髄、回腸遠位部位のことであ り、BSE に感染している場合に病原体がいるとされる部分である33。これにより、もっと も危険な部位が流通しなくなった。

第4章 残された課題

BSE が世界的な広がりを見せる中、それに対する対策も各国、そして世界でも徐々にと られてきた。しかし、今後BSE の発生が心配されている発展途上国ではその対策はまだま だである。発展途上国では、BSE や v-CJD の発生数が少ないうちは見逃される可能性が高 く、BSE が発見された時にはすでに国中に広がってしまっている可能性がある。BSE の拡 大を完全に防ぐには、疫学的にBSE のすべての感染経路を断ち切ることが欠かせない。国 によってその対策が遅れると、他の国々に間接的ながらも影響を与えることになる。その ため、やはり世界的規模での対策がこれからも重要となるであろう。 また、対策について、細かい点での課題も多い。まず、BSE そのものの研究である。BSE についてはまだその正体は謎の多い病気であり、今後さらにその研究が急がれる。研究は BSE 対策をさらに強固なものとするために役立ち、大変重要なのだ34 食の安全性についての課題では、牛の解体法が一つの大きな課題となっている。牛を解体 する際行われる「背割り」という作業で、異常プリオンが集まる部位である脊髄が傷つき、 食肉に付着する恐れあるのだ。BSE に感染した牛を食用として回さないという対策がとら れていれば問題が無いように思われるが、確実に食の安全性を守っていくためにはこの問 題も解決必要がある。そのため現在、牛を安全に解体するために様々な方法が模索されて いる35 BSE に対する課題はまだ数多いが、大切なことは今できることを確実にやっていくこと ではないだろうか。例えば、できるだけの対策をしたうえで、それを確実に遂行していく ことだ。一回の失敗ならまだしも、その失敗を生かそうとせず同じ過ちを繰り返すことは 利口ではない。イギリスの教訓を生かさず、他からの忠告も聞かず、とうとうBSE 発生国 となってしまった日本がその例である。よく、「ヒトが動物に共食いさせたから BSE が起 きた」と言う人がいる。確かにそれは正しいと思う。しかし、一体誰がこんなことになる と予想しただろうか。最初、畜産物を家畜の飼料として再利用する方法は、畜産物の廃棄

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ を減らせるとともに家畜の蛋白源にもなっていたのだからすばらしリサイクルだったこと には違いないのだ。BSE が発見されてから、この方法は危険のものとなってしまったわけ だが。どの問題にもいえることだが、重要なのは、その問題がわかった時点でその問題を いち早く解決しようとする姿勢なのだ。そうしなければ、問題は瞬く間に広がってしまう。 今回の日本でのBSE 騒動がそれを物語っている。今できることを確実にやっていく。これ が一番大きな課題ではないだろうか。 <注> 1 『朝日新聞』12 月 15 日付 を参考 2 家畜伝染病の国際的監視機関で、157 カ国が加盟しており、世界貿易機関の家畜伝染病についての諮問機関の役割も 持つ 3 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点』http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/bse/bse.html中の「2.症状」を参考 4 1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会 『参考資料−資料3−』 http://www.maff.go.jp/work/011122kanbou/011122-3.pdf p.1 農林水産省ホームページより を参考 5 1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会 「第 1 回 BSE 問題に関する調査委員会議事録」 http://www.maff.go.jp/work/press011205-01.pdf を参考 6 前掲、小澤、「2.症状」を参考 7 前掲、小澤、「1.牛海綿状脳症の歴史的背景」 を参考 8 1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会『参考配布』http://www.maff.go.jp/work/011122kanbou/011122-ref.pdf p.3 を要約 9 前掲、小澤、「8.感染経路と疫学」 を参考 10 山内一也『連続講義:人獣共通感染症 第 122 回 プリオン病とはどんな病気か?』中の「BSE はどうして起きたか」 http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/topics/zoonoses/zoonoses01-122.htmlを参考 11 前掲、小澤、「1.牛海綿状脳症の歴史的背景」 を参考 12 前掲、小澤、「8.感染経路と疫学」 を参考 13 前掲、山内、「ウシの間でのBSE の広がりの阻止」 を参考 14 前掲、小澤、「6.牛における BSE の発生状況と対策」 を参考 15 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点(その2)』中の「1.牛海綿状脳症の近況」 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/bse/bse2.html を参考 16 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点』中の「5.人に対する感染性」 17 SBO とは、BSE に感染した牛の組織の中で、異常プリオンによる感染の可能性がある臓器のことである。 18 前掲、小澤、「6.牛における BSE の発生状況と対策」 を参考 19 島森宏夫、山田理「海外駐在員レポート EU における牛海綿状脳症(BSE)対策の強化」 http://www.lin.go.jp/alic/month/fore/2001/sep/rep-eu.htm を要約 20 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点(その2)』中の「3.英国で生産された肉骨粉の流出」 を参考 21 山内一也「連続講義:人獣共通感染症 第35 回 牛海綿状脳症(BSE)に関する WHO 専門家会議の勧告」 http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/topics/zoonoses/zoonoses96-35.html を参考 22 前掲、小澤、「4.OIE/FAO/WHO 専門家会議」 を要約 23 『朝日新聞』12 月 13 日付 参考 24 1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会『参考資料−資料 3−』p.2、p.6 を参考 25 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点』中の「6.牛における BSE の発生状況と対策」 を参考 26 農林水産省生産局「牛海綿状脳症(BSE)の感染源及び感染経路の調査概要」 http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/chuukan/chousa.pdf p.1 を参考 27 『朝日新聞』12 月 13 日付 を参考 28 『朝日新聞』12 月 16 日付 を参考 29 1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会『参考資料ー資料3−』pp.10−14 30 『朝日新聞』12 月 24 日付 を参考 31 『朝日新聞』10 月 18 日付 を参考 32 同上

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牛海綿状脳症(BSE)とその対策∼BSE 清浄化を目指して∼ 『朝日新聞』10 月 17 日付 を参考 33 『朝日新聞』10 月 16 日付け を参考 34 小澤義博『牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点(その2)』中の「5.今後の問題点」 を参考 35 『朝日新聞』11 月 4 日付 同上、11 月 19 日付 参考 <参考URL> ・小澤義博「牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点」 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/bse/bse.html ・小澤義博「牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点(その2)」 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/bse/bse2.html ・山内一也「連続講義:人獣共通感染症 第35 回 牛海綿状脳症(BSE)に関する WHO 専門家会議の勧告」 http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/topics/zoonoses/zoonoses96-35.html ・山内一也「連続講義:人獣共通感染症 第122 回 プリオン病とはどんな病気か?」 http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/topics/zoonoses/zoonoses01-122.html ・島森宏夫、山田理「海外駐在員レポート EU における牛海綿状脳症(BSE)対策の強化」『月報「畜産の情報」海外編 2001 年 9 月号』 http://www.lin.go.jp/alic/month/fore/2001/sep/rep-eu.htm ・第1 回 BSE 問題に関する調査検討委員会 「議事録」 http://www.maff.go.jp/work/press011205-01.pdf 「参考資料ー資料3−」 http://www.maff.go.jp/work/011122kanbou/011122-3.pdf 「参考配布」 http://www.maff.go.jp/work/011122kanbou/011122-ref.pdf ・農林水産省生産局「牛海綿状脳症(BSE)の感染源及び感染経路の調査が異様」 http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/chuukan/chousa.pdf

参照

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