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バイオコーポレーションのイメージ--生体企業の実現へ向けた戦略的展望---香川大学学術情報リポジトリ

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−Jユノー

バイオコーポレーションのイメージ*)

一生体企業の実現へ向けた戦略的展望一

原 田

松 岡 輝 美**)

Ⅰ はじめに ⅠⅠバイオコーポレーションの基本認識 ⅠⅠⅠバイオコーポレ1−ションへのアナロジ・− ⅠⅤ パラダイムスイッチャーとしてのサイバネティクス Ⅴ ラーニングカンパニーとトレランスカンパニー ⅤⅠ企業の免疫システムと権力分散 ⅤⅠⅠバイオコ、−ボレーションにおける遺伝子の役割 ⅤⅠⅠⅠバイオコーポレーションへのメタモルフォーズ ⅠⅩ おわりに Ⅰ アリー・デ・グースの『リビングカンパニー』によれば,資本主義社会にお ける企業は物質的な富の生産者として今まですばらしい成功を収めてきてい る。また,企業は,歴史的に見ても実際に文明的な生活を支える商品やサービ スを提供することで,爆発する人口を維持するための有力な役割の担い手でも あった。しかし,企業はその進化過程からみると未だ初期の域を脱しておらず, そのことは多くの企業における高い死亡率を見てもー・日瞭然である。例えば, *)本論説は原田保,松岡輝美が主催するパワーストラテジ、一研究会における最初の研 究報告であり,今後発表予定の連続報告における序章的な役割を担っている。 **)岡山商科大学専任講師

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香川大学経済学部 研究年報 38 エ99β ーJJ2− フォーチュン500クラスの多国籍企業の平均生存率は概ね40年から50年の間 であり,1970年にフォーチュン500にリストアップされた企業でさえも,その 3分の1は10年をすぎる頃には買収されるか,または合併されるか,あるいは 倒産の憂き目をみることによって,そのリストからは完全に消滅している。 また,アムステルダムのストラティツタスグループであるエレン・デ・ジー ルの調査によるならば,規模と無関係に日本ならびに欧州の企業の寿命はわず か12..5年であるという結果が提出されている。実際,我々が生活する社会の屋 台骨となる大きくてしっかりした企業さえ,その平均的な生存期間は40年から 50年という短さである。多くの企業は設立からわずか1年ほどで消え,もしも 10年以上も企業が存続していればそれはまだよし)ほうなのであり,実際には永 く生き残って繁栄している企業はごく僅かである。 もちろん,日本においても三井や三菱のような財閥や大丸など300年以上の 歴史を持つ企業は少なからず存在している。しかし,このように,・−・方におい て多くはないが100年以上もしくはさらに長く生き続ける企業が存在していな がら,他方ではあまりにも多くの短命な企業が存在するのは−・体なぜなのだろ うか。また,日本経済新聞の『会社の年齢』は企業の興亡の歴史を表わしてい るのであるが,ここにおいても,企業が年齢を重ねるにしたがって,老化して 滅びの道に向かっていることは明白なものに思われる(図表1)。 そこで,本稿においては,一体なぜ企業の寿命とはこんなにも短いものなの か,また,もしも企業がそのマネジメント次第で長生きできると考えるならば, いかにそのポテンシャリティーを引き出せば永続できる長寿企業になれるのか について考察を行ってみる。言い換えれば,本稿は生体企業であるバイオコー ポレーションとは叫体いかなる企業組織であるかについての論述なのである。 ここで著者らが提言するバイオコーポレーションとは,企業を生体としてア ナロジカルに捉えた概念である,したがって,このバイオコーポレーションの いわば文化モデルは,アリー・デ・グースがいうところのリビングカンパニー に依拠している。しかし,ここでは単体としての生命の長期化だけではなく, 種としての生命体の継続が実現している遺伝的な観点から,特に企業遺伝子の 継続的な進化という概念を導入している。

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バイオコ・−ボレーションのイメージ −Jヱふ− 〔皐露罵巌率〕 〔従軍焉妥齢〕 〔設備年齢〕 日本経済新聞編「会社の年齢」日本経済新聞社より原田が修正 図表1 会社の年齢を年代別に捉えた横顔 また,このバイオコーポレーションを支えるシステムについては,サイバー コーポレーション1)に散見されるデジタルエコノミーにおける人間とエレクト ロニクスから構成される有機体として企業を捉えることでもある。すなわち, 企業を有機的な組織体として捉えながら,サイバーコーポレーション的側面を バイオコーポレーションのシステム面のモデルとしてイメージした論考を行っ ている(図表2)。 また,このバイオコーポレーションにおけるリビングカンパニーの側面を象 1)サイバーコーポレーション:サイバネティクスの原理を使用したサイバ・−スペ・−スに 最適な企業である。また周囲の変化や競合状況や顧客のニ・−ズの変化にリアルタイムで 対応できる感覚を備えており,必要に応じて他の組織の有する能力とバーチャルな事業 活動を展開したり,俊敏にリンケ1−ジできるサイバネティック・コーポレーションのこと である。一腰的には,急速な変化に対応できるようにつくられ,自己学習し進化し迅速に 変身できる企業をいう。企業の新たな形態をあらわす言葉としてバーチャルコーポレー ションやアダプティブコーポレーションやラ・−ニングコ・−ボレーションなどがあるが, これらはサイバネティックコーポレーションの一面を表している。

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香川大学経済学部 研究年報 38 J湖 −ヱJ各− 徴するのが有機体であって,サイバーコーポレ・−ション的な側面を象徴するの が機能体という仮説のもとに考察を行っていく。そして,この双方の遺伝子に よって特徴づけられたバイオコーポレーションは,進化し続ける経営が可儲な 連続した有機的機能体組織として,未来に向けて永続するミレニアム企業を指 向すべく,その発展が期待されている。ゆえに,ミレニアム企業における戦略 対応として,今後このようなバイオコーポレ・−ションの実現へ向けた具体的な 方策が必要となる。 このような観点に立脚し,生体的な企業の実現へ向けた戦略展望として,本 稿においては,特にリビングカンパニーをベースにした『バイオコーポレーシ ョンのイメージ』についてのエスキース的な考察を行っている。第1は「バイ オコーポレーションの基本認識」,第2は「バイオコーポレーションのアナロジ ー」,第3は「パラダイムスイッチャーとしてのサイバネティクス」,第4は「ラ ーニングカンパニーとトレランスカンパニー」,第5は「企業の免疫システムと 権力分散」,第6は「バイオコーポレーションにおける遺伝子の役割」,第7は 図表2 バイオコーポレーションの基本概念

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バイオコーポレ、・・・・・ションのイメージ ーJJ5− 「バイオコーポレーションヘのメタモルフオ・−ズ」,というような7点にわたる 考察である。 ⅠⅠ ここで提言するバイオコ・−ボレーションの究極の狙いはミレニアム企業とし て生き続けることであり,そのための戦略として,リビングカンパニーの持つ 有機性とサイバーコーポレ・−ションの持つ機能性の獲得が不可欠である。そこ で,ここでは未来の企業像としておおいに期待できるバイオコーポレーション におけるリビングカンパニ・一的側面とサイバーコ1−ボレーション的側面につい ての基本的な認識についての考察を行ってみる。 1.リビングカンパニーについての基本認識 アーリ・デ・グ・−スの唱えている長寿企業であるリビングカンパニーについ て,現時点において共通特性を抽出するならば概ね以下の4点に要約すること が可能である。 第1に,リビングカンパニーは環境に対してきわめて敏感である。すなわち, このことは企業が長く存続していくためには環境が変化した時にそれに速やか に対応していくことが必要であることを意味している。それは,たとえ知識や 自然資源の活用によって企業の財産形成が行われていたとしても,それらは基 本的にはいずれも経営環境との調和に依存するものだからである。それゆえに, 戦争や不景気や技術的な進歩や政治動向などの外部要因を多角的に捉えること によって,それらを総合的に分析し行動を起こすことなどが企業の存続のため には不可欠な課題なのである。 第2に,リビングカンパニーは,その組織的な特徴として,他社に対する強 力な独自性ときわめて強力な結束力を有している。例えば,従業員と企業との −・体感や組織に対する帰属性や,さらには企業の成果と自己の成果を一体化し て捉えるような性向などは,それら自体がすでに集団の結束力を強固なものに しており,また,実際には従業員の間の団結力となって現出してもいる。そし て,こうした集団の持っている結束力こそが,いわばバイオコーポレーション

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香川大学経済学部 研究年報 38 エ99∂ −Jヱ6一 の生体的な特徴であるリビングカンパニーに散見される基本的な特徴なのでも ある。 第3に,このことは実はもっとも重要な点なのであるが,このリビングカン パニーではトレランスの高さ,つまり許容度や自由度の高さを容易に上昇させ るうることに特徴を見いだすことができる。実際に,−L般的には永続する企業 すなわちリビングカンパニーは,従業員の活動面においても団結を乱さない限 りにおいてはまったく自由な活動が許容されており,また,そ・れによって従業 員の多様な可能性を引き出すことをも可能にしている。 第4に,リビングカンパニーは,−・般的には資金調達面においてはきわめて 保守的な戦略を採用している。このようなことは,ある意味においては逆説的 なのだが,過去に革新的な資金調達を行った企業は,短期的には撃々しい成果 を上げているが,長期的に見ると必ずしも成功はしていない。すなわち,株主 酉己当を維持する能力と長寿企業になることの間には特別な相関関係などはまっ たく存在しておらず,そして,企業収益力はその時点における企業の健康度に かかわる1つのバロメーターではあるが,将来の健康度を保証するような指標 にはなり得ていないのことの証明なのでもある。 それでは,永い年月の間ずっと活き活きと環境に適応しながら存続していけ る企業とは一体どんなものなのだろうか。この永続してきたリビングカンパニ −とは,前述したように主に4つの共通した特徴を備えている。そこで,この ことに立脚しながら,以下において,この永続する長寿企業たるリビングカン パニーの必要条件についての考察を行ってみる。 第1は環境に敏感であるということで,これは学習能力と環境に対する適応 能力の高さや企業の持つ感度が優れていることを意味している。第2は結束力 と主体性もしくは独自性をもっていることで,これはその企業のコミュニティ 形成能力が高いということ,もしくは企業のペルソナ2)の形成能力を保持して 2)ペルソナ:ギリシャにおいては,顔つきやみぶりなど外に現れた身体の形姿をさし,通 常では俳優の表情や一仮面のことを意味している。中世では神の3位格をペルソナといい, 初代教父は聖番における神の顕現様式を示すのにこの語を用いたが,アウグステイヌス 以降神学用語として定着した。

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バイオコーポレ・−ションのイメージ ー」リ7− いることを意味している。第3はトレランス3)の高さで,これは企業のエコロジ ーヘの関心度の高さや意識の高さを示しており,企業が内外との建設的な関係 を維持する能力を有していることを意味してし)る。第4は資金調達の保守性で, これは企業進化への対応が的確であるということを意味しており,言い換えれ ば,これこそが企業の成長を支える能力であることを意味するのである。 企業の寿命については,概ね40年から50年というのが実際には欧米や日本 における共通の現象であり,例え.ば製造業,小売業,金融業,農業などと産業 別に捉えても,企業の寿命についてそれほどの差異は生じてはいない。また, この企業の寿命については,特にその企業の株主資産や利益極大化に対する優 先度の高さに依存しているという特徴を見いだすことも不可能である。すなわ ち,企業の永続性とは,企業の保有する有形資産,特定事業部門,商品ライン あるいは国籍などとはほとんど関係がないことも明白になっている。 こうして考えていくと,本論説において提言する永続するパワーの保持を指 向するリビングカンパこ、一になるためには,実は以下の2点が不可欠な要素で あることをよく理解することが大切である。第1に,リビングカンパニーは, まず以て経営環境に対する感度の高さや変化と適応に対する意欲を自社の方針 に取り込んでいる。第2に,リビングカンパニーは,もしも新たな戦略方針が 自社の伝統的なそれに逆らうものであっても自らの意思の完全な貫徹を行って いる。 企業には,どんな企業でも創業以来の社歴とは異なった実体的な年齢が存在 している。このことは社歴が短ければ年齢が低いということではなく,また逆 に長ければ老いていることではないことを意味している。この企業の年齢とは, 例えばその企業の成長力を示す5年間の平均増収率,生産の能力を示す設備年 齢,人間の面からの活力を示す従業員の平均年齢,という3つの指標から算出 することができる。 3)トレランス:許容度のことである。したがって,この許容度の高い企業がトレランスカ ンパニーなのである。このトレランスは企業のエコロジーの観点において根本的な課題 なのである。したがって,自社内の生きた組織にも,幅の広いトレランスを示すことに よって,企業にストレスや災害を跳ね返す力を与えることになる。

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香川大学経済学部 研究年報 38 −Jヱ&−− J9玖9 そこで,再び図表1を見ると,まさに−・国の産業の盛衰は関連する企業の興 亡を伴うものであり,またこれらの会社の年齢は,日本の産業構造とその歴史 的な変遷をそのまま表している。すなわち,サービス化やソフト化の流れの中 で,新しい企業が次々生まれ重厚長大産業に取って代わりつつあることが理解 できる。このように,時の流れによってその時代にふさわしい業態や業種とい うものがあって,企業はそのつど環境への敏感な対応を行って事業を変化させ なければ生き残っていけない。 企業は次第に成長してそして巨大化していき,結果的には,外部環境の変化 についていけずにやがては滅んでいくが,実は,会社の年齢とはそのような変 化を表しているのである。それはまた,企業における経営の結果でもあってか, その企業あるいは業界の置かれている状況をも明示している。言い換えれば, それははいわば経営の巧拙を映し出す鏡であって,また,同時に今後の企業戦 略を指し示すような座棟軸となることをも意味している。 そこで,いかにすればこの会社の年齢の若返りを図ることができるのか,あ るいはいかにすればその働き盛りの年齢を維持できるのかについて,以下のよ うな4点の具体的な方法の提示を行っている。 第1の方法とは従業員の新陳代謝を促すことである。例えば,収益に大きく 左右されない安定的な社員の採用や人事の活性化は新陳代謝を活発にして,企 業の老害を取り除き,風通しのいい社風を作るにはきわめて効果的である。 第2の方法とは収益源の強い事業を徹底的に強化することである。すなわち, 社内活力を高め働き盛りの年齢を維持していくためには,中核的な事業を明確 にすることによって自らの比較優位を維持しつつ,同時に他社との差別化を行 うという戦略によって高収益を保持していく本業重視の経営が重要なのであ る。 第3の方法とは次々と成長分野を取り込んでいくことである。すなわち,企 業の若さを維持し続けるためには企業そのものが新たな変身を遂げることが不 可欠なのである。つまり,積極的に成長分野へ進出する多角化戦略の展開こそ が産業の衰退に伴う老齢化の防止を可能にする。 第4の方法とは長期ビジョンを策定することで常に企業革新をし続けること

(9)

バイオコーポレーションのイメージ −ヱエ9一

である。すなわち,戦略事業の育成,中核事業の強化,安定的な人の採用,設

備投資などを基盤にしながら経営努力を続けることによって,産業の盛衰に押

し流されることなく企業が不老長寿を実現することを意味している。

それでは,企業の継続的な発展のために−・体何を行えばよいのだろうか。そ

れは,取りも直さず企業において働く人々が強い関心や深い信頼をもって仕事

に精を出す状況をつくりだすことである。これは企業の利益に■直接影響を及ぼ

すばかりでなく,同時に,企業の存続について多大な影響を与えている。

実際,企業が一体何なのであるのか,また,企業は−・体何のために存在する

のかという問いに関しては多くの見解があるのだが,ここでは,新しV)捉え方,

すなわち企業は生体や生き物であるという仮説に基づいた考察を行ってみる。

このように企業をいわば生き物とみなす考え方を導入することは,企業の生存

率を高めるべきいわば第一歩なのでもある。

このような捉え方による企業のイメージとして近年注目されているものに,

前述したアリ・デ・グースの提唱するリビングカンパニーという生体企業の概

念があるのだが,これこそが著者らの唱えるバイオコーポレーションのいわば

文化的な側面を捉えた期待されるべき概念なのである。このリビングカンパニ

ーの意味するものは,企業をまさに生体として捉えるという意味であって,だ

からこそ生体企業としてのバイオコーポレ・−ションの動態的な特徴を端的に表

している。またその際には,このリビングカンパニーが単なるメタファ、一に過

ぎないものであるかどうかは,実際の企業戦略の展開においてはそれほど重要

な問題でもないと思われる。

そこで,このバイオコーポレーションの文化的な概念であるリビングカンパ

ニーにおける企業経営とは一体いかなるものかを理解するために,企業の存在

目的が一体何なのであるかについて,以下において,主にアリー・デ・グ・−ス

の言説にしたがって言及を行ってみる。

・一・般にファイナンスの専門家や株主,あるいは多くの経営者達においては,

企業の存続理由を主に金融面でのリターンであると考えている。また,エコノ

ミスト達はさらに広義に捉えているようで,企業は商品とサービスを提供する

ことによって人間生活を快適かつ魅力的なものにすることが使命であるとの考

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−J却−− 香川大学経済学部 研究年報 38 エ99β えを持っている。最近では,顧客指向及びそれに類するマネジメントの考え方 に影響されてか,企業の存在目的を顧客への奉仕にあるという考え方も有力に なってきた。同時に,政治家の考え方についても,次第に企業は国民全体の利 益のために存在するものであり,社会を構成するすべての人々に雇用を保証し て,安定的な経済基盤の確保に努力することこそが使命であるという考えかた に変化しつつある。 しかし,ビジネスに関する多くの学問分野において現在指摘されている前述 のような価値観は,企業の存在目的としては本質的なものとはいえない。それ は,−・般的に企業の死やマネジメントに関する有力な考え方,もしくはその方 法の基礎が余りに狭く捉えられているからである。 すなわち,企業における真の目的とは,株主への投資のリタ・−ンでもなく, 顧客へのサービスでもなく,また,単に人間に職場を提供することなのでもな い。それは,それらが単に企業の生き残りのための手段にすぎないからである。 もしも,企業を生体であるリビングカンパニーとして捉えるのならば,これは, すべての有機体と同様に,その生存と繁栄こそが著者らの主張するバイオコ・− ボレーションの存在意義になってくる。 2.サイバーコーポレーションについての基本認識 もしも,企業の存在目的が生存と繁栄にあると考えるならば,企業はそのた めに潜在能力をフルに引き出して可能な限りパワフルになることが要請されて くる。現代においては,企業経営を行うには,特にサイバ、−スペ、−スとソフト ウェアがビジネスの世界を−・変させるという様相についてのいち早い認識を持 つことが大切である。このような観点に立脚して,以下においてはジェームス・ マーチンが提唱するいわゆるデジタルエコノミーにおけるサイバーコーポレー ションについて言及を行うことにする。 デジタルエコノミーにおいては,情報ハイウェイやマイクロエレクトロニク スを活用する企業は従来の企業とは明らかに性格を異にしている。過去の事例 からも理解できるように,成功する企業とは常にその時代のテクノロジ・−を利 用している企業なのである。すなわち,技術革新によってある企業は栄えて,

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バイオコーポレーションのイメ、−ジ −J2J− また−・方ではある企業はそれらの犠牲にもなっている。ゆえに変革のスピード が加速度的になるにつれて,効率よく学ぶ企業とそうでない企業の格差はます ます拡大の−・途をたどるのである。 ノ・−バ・−ト・ウイナーは,その著書である『■サイバネティクス1』の中におい て,生物と機械の行動を比較することで,電子機器や機械が生物と同様な制御 メカニズムを持つことが可能であることを明確にした。すなわち,それは疑似 生命体の自己制御は電子回路によって達成可能であるという原理なのであっ た。また,ウイナ・−は,サイバネティクスを動物ならびに機械のコントロール とコミュニケーションに関する科学であると定義を行っている。そこで,彼の 定義を企業にまで拡大して応用して考察するならば,企業は実は複雑な生命体 に類似しており,またそのコントロールとコミュニケーションのメカニズムに ついては,情報ハイウェイやソフトウェアの時代に突入するにつれ,次第に進 化しつつある。 すなわち,コンピューター画面の背後にはサイバースペ、−スが広がっており, 今や新興の企業も他社と膨大なエレクトロニクスのリンクで繋がり,まさに世 界的な規模におVゝてバーチャルな事業活動の展開が可能となってきている。そ して,これらの企業においては,刻々と変わる周囲の環境に迅速に適応しなが ら,そしてまた学習意欲についてもきわめて旺盛で継続的な進化を遂げている。 この人間とエレクトロニクスからなる組織的な有機体は,実は現在ではサイ バネティック・コ、−ボレーションもしくはサイバ1−コ、−ボレーション,サイバ ーコープとも呼ばれている企業形態なのである。これこそは,また著者らの唱 えるデジタルエコノミーにおけるバイオコーポレーションのシステム面の概念 であると考えることが可能である。それでは,一体いかにして企業は機能体と してのサイバーコーポレーションとして生き残っていけるのか,もしくは,い かなる経営を行えばバイオコーポレーションを指向すべくサイバーコーポレー ションになれるのだろうか。 そこで,ここにおいては,特にきたるべきサイバーコーポレーション時代に おける経常の未来の行方は一体いかなるものかについて,ジェームス・マ・−テ ンの言説にしたがってさらに具体的に考察を行ってみる。なお,ここでマーチ

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香川大学経済学部 研究年報 38 エ99β −ヱ22− ンのいうサイバ・−コーポレーションとは,部分的に著者らの提言するバイオコ ーポレーションを構成するリビングカンパニーの要点をも含んだ概念である。 第1に,我々は未来の組織体を有機的な機能体と捉えることが必要である。 そして,とりわけデジタルエコノミーにおいては,企業がデジタルな有機的組 織体として機能しはじめると認識することが必要である。 第2に,企業が作り上むヂる富の生成プロセスをリアルタイムでマネジメント することに注意を払うことが大切なのである。つまり,これからのトップマネ ジメントには,自社がサイバ・−コ、−ポレ・−ションとして設計可能であるかどう か,また戦略的ビジョンは考え抜かれたものであるかどうか,そして自社は競 争に勝つように常に訓練されているかということに注意を払う必要も生じてく る。 第3に,コンセプトからキャッシュ化までの時間を極力短縮化することであ る。それは,ネットワ・−クによってビジネスの加速度が増し,厳しい寮争のゆ えに迅速な戦略対応が必要になるからである。つまり,今後においては新製品 を見極めて,製品の市場への投入,新規サービスの実行,製品の改善,流行の 変化への対応,顧客の新たな欲求の満足,在庫と物流のコントロールなどとい った競争上の問題に迅速に対応することが不可欠である。特に,新製品や新規 サービスのコンセプト設計から製品販売によるキャッシュの受け取りまでの時 間の短縮はきわめて重要である。 第4に,変革を促進するためのインフラストラクチャーの構築と,変革を課 題としてではなく,むしろ不断のプロセスとみなす企業文化が必要である。企 業の世界においては,より効率的な企業が生き残り,そうでないものは滅んで いく。そこで,変化と不確実性を程にしながら,それらを反映し,そして活用 することで,いわば変化を嫌う企業に対する競争優位を確保できるよう設計さ れる必要性が生じるのである。 第5に,企業間の戦いはコンビュ、一夕、一化されたシステム上の戦いになる点 である。今後も,コンピューターの機能はますます強力になり,ネットワーク を通じてシステムは常に周囲をモニターし,また同時に必要とあればただちに 行動をおこせる知覚を備えるようにもなってくる。このようなコンピュータ・−

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バイオコーポレ、−ションのイメージ −ヱ23」− 化された競争の行き着く果てには,企業間の戦いは迅速にして自動的かつ俊敏 に展開されるようになり,同時にこのような状況がまさに全世界的な規模に及 ぶことにもなってくる。そこにおいては,無数のパートナーをコンピュータ・− で接続する電子データ交換システムがビジネスのスタイルを根本的に転換させ てしまう。 第6に,企業間でコンピューターが接続されるとモニタリングと継続的な調 整が企業間の主要なプロセスになってくる。この段階になると情報の共有が可 能となって,デジタルなネットワークの中でお互いが仕事を行えるようになる。 ここにおいては,企業経営におけるマネジメントの対象についても,単に自分 の会社の内部だけではなく,まさに自社と他社の関係において自社をより開か れた外部へと変化させることが強く要請されてくる。 第7に,このようにモニタリングによってリアルタイムでの管理が可能にな り,結果として,時間が極小化されると組織は次第にバーチャル化を指向しは じめる。そして,このようなバ・−チャル化した企業組織やバーチャル化した企 業活動こそが,これからのデジタルエコノミーにおいては重要な戦略ファクタ ーになってくる。 第8に,企業はいわばクラブのようなパートナーのネットワークをつくりつ つあり,それを通じて新規の契約を獲得しようとして急速なアライアンスが進 展するわけである。このダイナミックなアライアンスがアジル4)な事業活動で ある。ここでの俊敏さとは,卓越性と非常に柔軟な能力が必要とされている変 貌の激しいマ・−ケットに対応するため,それぞれの企業の中で核となる能力を ダイナミックに糾合するパワーのことである。そして,企業が他の企業とコン ビタンスを共有する時,−・社ではとても不可能な仕事に取り組めるようにもな る。また,同時に多くの企業においては国際化の視点からの再組織化を行いつ つある。このような状況下で,大企業においては世界各国に分散したシステム 4)アジル:迅速であること。昨今のデジタル化の進展によって現出した迅速な生産や流 通が可能になり,効率的なマニュファクチャリングやマ・−ケティングの展開が可能に なっている。また,アジルを追求した経営がアジル経営であって,経営の基軸がいわば速 度の生産性へ転換して行くための契携になっている。

(14)

エ9紺 香川大学経済学部 研究年報 38 −Jユ」L−−

を単・一・のグローバルな事業体に統合して,次第に従来の個別の地域をねらった

多様な製品指向から,製品の個別化をねらう多様な地域指向へと移行しつつあ

る。

すなわち,例えばトレーディングプロセスがコンピューターによって自動化

されたり,また,取引もサイバ、−スペース上において世界的な規模で行われる

ようにもなってくる。商取引のやり方は−・変して,それはある種残忍なほど職

烈な競争を生み出すことにもなってくる。そして,伝統的な経済の下では,各

企業は,一体全体誰が競争相手かわかっていたのだが,サイバーコープの経済

においては,競争はどこへでも移転可能な知識と情報をベースに繰り広げられ,

したがって,従来ではまったく予想できないような競争相手が世界中のいたる

場所から出現してくるのである。

第9に,知識や情報こそがカネなりという考え方の台頭である。今後におい

ては,知識や情報が最大の企業資産になってくる。したがって,企業がデジタ

ルエコノミーにおけるサイバーコ・−ボレーションを指向するには,この知識や

情報を獲得し創造してまたそれを保存して,そして加工することで明確化を行

って,すべての従業員に広めてそして活用するためのインフラが必要になって

くる。そして,ここにおいてはシステムは常に競争相手よりも迅速かつ深く学

習できるよう設計される必要も生じてくる。

ピーター・ドラッカーは,このような新しいタイプの資本主義のことをポス

ト資本主義と呼んでいた。すなわち,ドラッカーが言わんとしたことは,今日

における最も必要な生産要素とは実は知識と情報であって,まさに価値とはそ

れらをビジネスに適用することから創造されるのである。

ⅠⅠⅠ

ひき続いて,本節においては,バイオコ、−ボレーションにおけるメカニズム

について考察を行うことにする。しかし未だに,このバイオコーポレーション

の具体的な経営モデルは定まっておらず,そこで企業のあるべき方向性を探る

には何らかのアナロジーが必要となる。もしも,企業を1つの生体すなわち有

機的な組織体として捉えるならば,そのコロニーはまさに遺伝子ということに

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バイオコーポレーションのイメージ ーヱお−・−− なる。すなわち,生体である人間の体は遺伝子で連続することによって種の保 存がなされている。 ここで仮に企業を擬似生体として捉えるならば,企業においても人間の遺伝 子と同様なものが存在していると考えることが可能である。そこで,ここにお いてはリチャ・−ド・ドーキンスの提唱する利己的な遺伝子,昨今話題のアポト ーシスの科学,多田富雄の免疫の意味論などをベースにしながら,いわばバイ オコーポレーションのメカニズムについてアナロジカルな言及を行ってみる。 1.生体の生存機械への挑戦 リチャード・ド、−キンスによれば,生体とは実は遺伝子の受動的な避難所と して生まれたもので,最初はライバルとの化学的な戦いや偶然の分子衝撃の被 害から身を守る壁を遺伝子に提供していたにすぎなかった。例えば,動植物は 太古の苦からその長い年月のうちに多細胞体に進化して,あらゆる細胞に全遺 伝子の完全なコピーが配分されてきた。 また,体は遺伝子のコロこ、−であって,細胞は遺伝子の化学的な工場として 都合のよい作用単位として捉えることが可能である。しかし,体は遺伝子のコ ロニーであるとしても,行動上はそれ自体の個体性を獲得しているということ にこそ,その特徴が見いだせるのである。つまり,−・頭の動物はまさに統制の 取れた全体として1つの単位としての行動を行っている。 また,淘汰は他の遺伝子と協調する遺伝子の方に有利に働いている。すなわ ち,少ない資源をめぐる職烈な争いや他の生存機械を食うためや食われること を避けるために行われる容赦のない戦いにおいては,共同体的な体の内部が無 統制であるよりは,むしろ中枢によって統合されている方が有利だったに違い ないと想定できる。今日においては,遺伝子間の複雑かつ相互的な共進化が進 んでおり,個々の生存機械が実はそういった共同性の産物であることはほとん ど識別できはしない。 現在においては,この生存機械は実は機械に固有のカム5)とパンチカードな

5)カム:偏心輪あるいは特殊な形の車輪によって,単純な回転運動を複雑でリズミカル

なパターンの操作に変えるもの。

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香川大学経済学部 研究年報 38 J99g −J26− どをまったく無視しているように見えている。また,彼らの行動の時間的な調 節に使っている装置には,コンビニ.一夕ーとの共通点が多いとはいえ,基本的 な操作はそれとはまったく異なっている。生体コンピューターの基本的な神経 細胞すなわちニューロンとは,実はその内部作用についてはトランジスターと は少しも似てはいない。確かに,ニューロンからニューロンヘ伝えられる信号 はデジタル型コンピューターのパルス信号といくぶん似ているように思われる のだが,個々のニューロンはトランジスターに比べてはるかに手の込んだデー タ処理機械である。 すなわち,1偶のニュ・一口ンには,他のコンポーネントとの連絡機能が数万 もついている。このニューロンはトランジスターよりも情報処理のスピードは 遅いのだが,過去30年間にわたってエレクトロニクス業界が追求してきた小型 化という点でははるかに進化している。このことは,例えば人間の脳の中,す なわち1偶の頭骨の中にはわずか数百個のトランジスターしか詰め込めないこ とを考えれば,よく理解することができるはずである。 生体におけるいわば生存磯城としての最も顕著な特性の1つは,実はそのま ぎれもない合目的性である。そして,この合目的性こそがまさに意識と呼ばれ る生体の特性を発達させているのである。したがって,コンピューターはまさ に電子的な機械であるのだが,デジタルマネジメントについては遺伝子が現出 する生体によってアナロジカルに説明することが可能であると思われる。 また,もう1つの生体の捉え方としてはいわば目的機械という概念をあげる ことが可能である。これは,生体は意識的にあたかも目的をもっているかのよ うに振舞う機械,もしくは物事の現在の状況と望みの状況との差異を測るため の固定装置を備えている機械,とし)う捉え方なのである。このように,いわば 遺伝子の特徴を企業の経営の中にも捉えていくことによって,企業の生体モデ ルを構築していくことが可能であると考えられる。 遺伝子は,自らの利益のためにコンピュータ、−を組み立て,そして,予測で きる限りの出来事に対処するための規則と忠告を前もってプログラムすること であらかじめ最善の策を講じている。そういう意味では,この道伝子は予言に も似た作業を行うことが期待される。そして,またこの複雑な世界を予言する

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バイオコーポレーションのイメージ 一J2仁一 ことは実に多大なリスクを伴う仕事であるとも思われる。 また,この生存機械がくだす決定についてはすべて賭けであるといっても差 し支えないものである。だからこそ,平均化してうまくいく決定をくだすよう に脳をあらかじめプログラムしておくことこそが,遺伝子に対して期待される 仕事なのである。まさに進化のカジノにおいては,使用される通貨とは生存す ることそのものなのである。したがって,遺伝子がなるべく負けない賭けので きるような脳を作った個体が,その直接の結果としてよりよく残っていき,し たがって,その同じ遺伝子を増やしていくと考えられる。 このように,コンピューターのアナロジーは大変に結構な話ではあるが,し かし,−・方におV)ては,進化とは実際には遺伝子プール内の遺伝子の生存に善 があることを通じてまさに・一歩・一歩生じてくることを思いだすことが大切であ る。したがって,利他的なものにせよまた利己的なものにせよ,仮に行動パタ −ンを進化させるには,その行動のためにも,遺伝子が別途の行動のためのラ イバル遺伝子すなわち対立遺伝子よりも,遺伝子プール内において巧みに生き 延びることが不可欠となる。なお,ここでいう利他的な行動のための遺伝子と は,いわば神経系の発達に影響を与えて神経系を利他的に振る舞いやすくする 遺伝子と捉えるべきものである。 ある生存機械が別の生存機械に特徴的な行動ないし神経系の状態に対して影 響を及ぼすような際には,その生存機械はその相手とコミュニケーションを行 ったということができる。なお,ここにおける影響とはいわば直接の因果的な 影響を指し示すような概念を意味している。このコミュニケーションの信号と は,次第に送信者と受信者の両方がお互いに利益を享受できるような形態に進 化すると考えられている。 実際に,コミュニケーションのシステムが進化する時代には,例えばあるも のがそのシステムを自分だけの目的に利用しようとする危険がいつも存在して いる。すなわち,このようなことは,もしも単なる個体の遺伝子の利害が多様 化していけば,常にコミュニケーションに対する利己的な利用が生じてくると 思われる。

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香川大学経済学部 研究年報 38 −ヱ2&− ヱ99β 2.制御された死へのプログラム 近年港目を浴びているアポトーシスとはいわば制御されて起こる細胞死のこ となのであるが,これは経営戦略に対するアナロジ・−としても比較的有効であ る。そこで,アポトーシスに着目し,ここではまず生体におけるその意義につ

V)て,山田武,大山ハルミなどの言説にしたがって考察を行ってみる。

ヒトとはるかに離れた系統の生物種である線虫の細胞死抑制の遺伝子とヒト のガン遺伝子とは実は相同性を持っている。そこで,例えばヒトのガン遺伝子 を線虫に組み込むことで,線虫の細胞死については抑えることが可能なのであ る。このことは,まさにプログラムの細胞死あるいはアポトーシスが多様な生 物種に共通して系統発生的に古くから存在していたことの証明である。 このアポトーシスとは,実は,進化の過程で生物が獲得した重要な機構であ って,まさに細胞分裂や分化と同様に生命現象の根幹となる機能である。また, このような細胞死については,いわば生物固体の生命を維持していく上では不 可欠な必須条件でもある。生物が生存していくためには,内部環境の恒常性す なわちホメオスタシス6)の維持が重要であって,そのためこそ生体は複雑な機 構の装備を行っている。現在においては,このような細胞分裂とアポトーシス による細胞死7)とは,まさに分子機構の面でも表裏−・体となった制御を受をナて いることは明白である。 この細胞死をつかさどる遺伝子に関してとりわけ重要なものが制御遺伝子な のである。実は細胞の生死とは,絶対条件で決められるのではなく細胞の周期, 増殖因子,カルシウム,栄養条件他のバランスによって左右されている。細胞 6)ホメオスタシス:クロード・ベルナールの考え方を発展させて,キヤノンが用いた言葉 である。変化する外部環境の影響から生体の組織や細胞を保護するためには,体内に安定 した内部環境を作りあげる自律的な保護機構のことである。この機構が高度に発達した 恒温動物では,外傷や外気温の変化に対しても,血液などの体液成分や体温の変化は一・定 限度内に留められる。 7)アポトーシスによる細胞死:分化誘導剤の酪酸やジメチルスルホキシドなどによって 胸腺細胞アポトーシスが誘発されることが明らかになってきている。また白血病でも同 様に多様な薬剤による分化誘導後アポトーシスかどうかは不明だが最終的には細胞死が 起こるという。

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バイオコ・−ボレーションのイメージ −J29−− /・細胞が傷つくと、積極的にアポトーシスで除去する ロシク!! サヨウナラ 障害細胞を除去した後は、残っ た健常な細胞を増殖させ、代替 させる 傷ついたDNAをもつ細胞の増殖 を回避、ガンや突然変異の危機 を避ける 山田武,大山ハルミ「アポトーシスの科学」講談社より 図表3 アポトーシスの意義 内外からのシグナルは,アポトーシスの場合においても,また細胞増殖の場合 においても,同様にプロテインキナーゼCなどが通る伝達路を介して伝達され ている。 また,このアポトーシスは,DNAに傷を持って生存すると将来的に禍根を残 しかねない細胞や突然変異を起こした細胞,またウイルスに感染した細胞など が,いわば残りの生物個体における生存のために自ら死ぬのみならず,それに よって後の細胞の生存や増殖を刺激するような機構としても有効に機能するの である。 このことについては,近藤宗平によって以下のように考察が行われてし)る。 すなわち,アポトーシスによる死とは,細胞の積極的な除去に留まることでは なく,むしろ積極的な細胞の死によって後続細胞の生存や増殖を助けるという 利他的な死を意味している。もしも,次世代への好ましくない遺伝的な影響を 残す可能性があるならば,実はアポトーシスによって排除されることは望まし

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−∫30一− 香川大学経済学部 研究年報 38 J99β いことであるが,このような考え方は,ある意味では非情な多細胞社会におけ る論理ともいえる(図表3)。 生体において,不要になった細胞は周辺の細胞に悪影響を及ぼさず,まさに 奇麗にスマートに清掃されやすいように準備を整えてから死を迎えるわけであ る。また,このような不要な細胞の死については成人だけに限られた現象では ない。実は,発生初期の胚の段階ですでにアポトーシスは生じており,また発 生過程における幼生器官についても撤去が行われている。そこにおいては,免 疫細胞の分化段階で未知の多くの抗原に対応する方法として多様な細胞を作り だし,まさに残してもよい細胞だけを選択していく機構が働いている。したが って,この段階ですでに不適格になった細胞はアポトーシスによって撤去され ている。このように,アポトーシスとは多くの局面で不要となった細胞のいわ ば清掃員なのである。 さて,多くの細胞においては成長因子の供給があってはじめて生存でき,あ るいは増殖が可儲なのである。しかし,成長因子や増殖因子であるサイトカイ ン8)においては,これらの因子なしにアポトーシスを現出させる細胞を生かし て成長させ,そして増殖を行わせている。また,体内の細胞の多くにおいても, 単独では生きられずに互いに助け合いながら増殖を行っていたり腫瘍壊死因子 の生産を行っている。このように,アポトーシスは,生命活動の維持に必須の 役割を多角的に果たしていることが理解できる。 3.自己の成立機構としての免疫 我々が遺伝子というものの存在を知ってから概ね50年が経ったが,しかしそ の遺伝子を操作するといういわば神の領域の技術を人類が手にしたのは,今か らおよそ30年ほど前なのである。20世紀で最も大きな変化をしたのは生物学 といえるが,実は,遺伝子の発見がこの生物学を根底から変化させたのである。 そこで,以下において多田富雄の言説にしたがって,遺伝子の進化に対する影 8)サイトカイン:植物ホルモンの1つである。細胞分裂を促進するほか,芽の分化促進, 老化抑制作用などを示す。

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バイオコーポレーションのイメ、−ジ −J3ユー 響と免疫の持っている意味に ついて考察を行うことにす る。 イギリスのジェームズ・ワ トソンとフランシス・クリッ クの二人は,すでに1950年代 にDNAは二重の螺旋構造を した高分子であることを明ら リン酸 塩基(T) 塩基(A) 塩基(A) 塩基(T)リン酸 かにしている。そして,この 糖 塩基(C) 塩基(G)

DNAは挨じれた縄ばしごの

様相をしている(図表4)。こ の2本の縦の長い縄はリン酸 と糖の分子が交互に連結した もので,横に結んだ踏み段は 2本の縦縄の両方から伸びて

結合しあったA・T・C・Gの

塩基なのである。 この塩基とは実はリン酸と 糖の−・組に1つの割合で長い 縄から出てV)る。ここで注意 塩基(G) 塩基(C) 軽部征夫「ヒトーゲノムの暗号を読む」河出書房新社より 図表4 DNAの二重らせん構造 したいことは,この塩基の結 合する相手が決まっているという点なのである。すなわち,DNAの塩基はどち らがどちらにあろうとアデニンにはチミン,シトシンにはグアニンという具合 いに結びつくべき相手が定められている。そのためには,それぞれが同じ数だ け存在しなければならないのである。 このように,ワトソンとクリックがDNAを模型にして示した功績はきわめ て大きかった。特に,DNAの純ばしごを分断すると「ト」ができるが,これこ そがDNAが遺伝子として機能するための重大な仕組みなのである。遺伝子の 集まりであるゲノムが細胞分裂するときには,2つに分裂してそれぞれ違う細

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ーJヱ2」− 香川大学経済学部 研究年報 38 ヱ9ガ 胞に別れていき,そこで分裂する前の形に戻るということはすでにわかってい たことである。そこで,その遺伝子分割のメカニズムをこの対になった二重螺 旋構造のモデルにおいて見事に実際の形にして見せたわけである。 その仕組みは,まず,DNAの縄ばしごを縦に割っている。それは染色体が分 裂した状態であり,要するに塩基がたがいに手を放して.ニ重構造がほぐれた形 なのである。図表においてもわかるように,この2本に別れた縄をそれぞれ(∋ (診と設定する。また,(∋には「CTAAGT…」という順に塩基の手が並んでいる とする。ところで,塩基はペアになる相手が決まっているので,合方の(診の方 はおのずと「GATTCA…」という順に並ぶことになる。分断されて相手のあい た塩基についてはモノマーの分子ヌクレオチドとそれぞれ結合していく。

その結果,①の方には「GATTCA・Ul・」という順序で,また②の方には

「CTAAGT…」という順序で集まってきたメタt/オチドが並ぶのである。つま り,①には②と同じ配列のものが,また②の方には①と同じ配列のものが新た にできるのである。そして,すべての塩基の手が相手の手と握り合い集まった モノマーのヌクレオチドが重合して1本の縄になれば,分裂前とまったく同じ 内容の二重螺旋構造が2セットできあがる。 実は,こういう形態をとりながらゲノム9〉は自己増殖をしているわけである。 このように,いわば結合しあう同士がペアとして決められていることが相補関 係なのである。これは,いわばDNAの持つ最も重要な特徴なのである。そして, この塩基の並んでいる順序こそが,まさに遺伝情報に他ならないからである。 そして,このDNAの螺旋構造とは,まさに分裂しやすいためというだけでな く,同時に自分自身の塩基の配列を守り通すという目的に対■してもきわめて適 合的なのである。 進化とは,一・般的には遺伝子の突然変異によって生じると考えられている。 また,突然変異とは,実はDNAの塩基配列に変化が生じることなのである。例 9)ゲノム:体を作るのに必要な1セットの遺伝子のことでDNAと呼ばれる化合物から 構成されている。現在,世界的にヒト・ゲノム解析計画が推進されていて,ヒトがヒトに なる仕組みの解明が行われつつある。これが可能になったのは遺伝子工学の発展による ものである。

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バイオコ・−ボレーションのイメージ −ヱ且ト

えば,塩基を1つ写し間違えれば作られるアミノ酸が変わってしまう。そして,

アミノ酸が変わればそれが繋がってできる蛋白質に変化が生じることになる。

また,蛋白質が変われば固体の形質にも変化が生じるわけである。すなわち,

このようなことこそがまさに突然変異ということなのである。そして,この体

細胞だけの変化なら固体だけの変化で終わるのだが,それが生殖細胞で生じる

ならば子孫にも伝わっていく。この1つひとつの変化は目立たないかもしれな

いが,これが代々遺伝されて積み重なっていけば,これによって,それぞれの

姿や型や環境に対する適応能力の異なった子孫が生まれてくる。

このようにして,実際に進化が生じていると考えることができる。原始の生

命体におけるDNAは環境の変化などの影響によって続々と変異を起こしてい

た。それは,DNAの複写も,突き詰めれば−L種の化学反応だからである。した

がって,気温や紫外線畳の変化,環境の変化によって反応の仕方に狂いが生じ

ることも容易に理解できる。こうした何らかの理由によって,進化しては変化

が生じることを繰り返すことで,最初の生物におけるDNAが次々と変化して

いった。このように,進化とは遺伝子情報のわずかの書き換えで生じている。

そして,このDNAの暗号を読み取るならば,進化の歴史がわかって,また進化

の究明に大きな可能性が見える。

このような遺伝子が,まさに巧妙に構築したシステムが非自己を自己から厳

密に識別して非自己の進入から自己を守る免疫なのである。この免疫とは,実

は固体の生存のために進化が作り出した巧妙な戦略と体制であり,まさにオー

ケストラと呼ばれるほどの優れた内部調節システムなのである。そして,そこ

に発動される自己を守るための免疫の戦いなどと美化されている免疫とは,実

は曖昧さと冗長さによって特徴づけられる分子群に運営されるいわば混沌の最

たるものである。との免疫系とは,まさに非自己を識別する抗体や抗原レセプ

ターなどの認識の特異性を持った分子から想像された世界とは異なって,まさ

に多義性と不確実性によって特徴づけられる。

この事実は,実に伝染病の治療や予防という目的に適った免疫反応から想像

されていたような免疫系とはきわめてかけ離れたものであった。すなわち,実

際は本当には自己と非自己を識別して自己を非自己から守るという原則などは

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香川大学経済学部 研究年報 38 Jさ)肘 ーヱ34−− まったく存在してはいない。しかし,そうであるにもかかわらず,なぜ免疫系 はシステムとしで一応は機能するのであろうか,そして,また度重なる危機に あっても崩壊することなく生態防御に成功しているのであろうか。そこには, 実は生命に内在する未知の原則が含まれると考えられる。 免疫系とは,このようにして単一・の細胞が分化する際に個々の場に応じて変 化して,まず1つの流動的なシステムを構成することからはじまる。そこから, さらに起こる多様化と機能獲得の際の決定因子とは,実はまさしく自己という 場への適応なのである。自己に適応し自己にリファーしながら新たな自己とい うシステムを構築する。そして,この自己は成立の過程で次々に変容していく。 また,T細胞レセプターもランダムな遺伝子の組み替えの再構成によって作り 出されている。外部から抗原という異物が進入するたびに特定のクローンが増 殖し,さらにインタ、一口イキンなどによって内部世界の騒乱が生じている。ま た,抗体の遺伝子には高い頻度で突然変異が生じている。このように,そのシ ステムは自己の変容にリファーしながら修正し自己組織化を続けている。 この変容する自己にリファーしながら自己組織化をしていくような動的シス テムはス・−パーシステムと呼ばれている。これは,この動的システムをマスタ ープランによって決定された固定したシステムとは区別するためである。また, このスーパーシステムの事例としては,例えば受精卵からの固体の発生をあげ ることができる。そのいくつかの段階については,明らかに確立論的に決定さ れ,さらに作り出された場に適応してそして変容しつつある自己にリファーす ることで先に進むという,いわば自己組織化の過程をあげることが可儲である。 ところで,このスーパ・−システムの免疫系こそが固体の生物学的な個性を決 定しているわけである。例えば,同一・環境下で同じ空気を呼吸しているにもか かわらず,一部の人間だけが花粉の季節にアレルギー性の反応をひき起こす。

また,自己の内部環境にある主要組織適合抗原(MHC)のうちHLA−B27とい

う形質を持っている人は持っていない人の100倍以上も強直性脊髄炎にかかり やすい。それらは,実は免疫系が肝細胞の文化を通して免疫学的自己を確立す る際に,自己内部に存在するHLA抗原にリファーしたためと考えられるから である。

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バイオコーポレーションのイメージ −J35−−− また,このスーパーシステムの概念については,言語の生成過程,資本主義 下での大都市の成立と発展,会社の多角経営組織あるいは多民族国家の成立, などにも適用できると考えられている。そこで,このスーパーシステムが機能 するためには一体どのような条件が必要なのかを考察してみると,それは,第 1にシステムの構成メンバ・−が多様であること,第2にその多様なエレメント が自己言及的なやり方によって補充が可能なことである。 単一・の造血幹細胞10〉からの多様な細胞群への文化へ移行した免疫系の持っ ている特徴は,まず以てこの2つの要件を完全に満足させていることである。 そして,第3にそれぞれのメンバーが単一・あるいは複数の役割分担を持ち,そ れによって相互調節関係を持っていることである。この際の調節作用について

はAからBへ,BからCへ,CからAへというような−L方向性や選択性や回帰

性を持っていることが望ましいわけである。 もしも,細胞間の相互調節をインタ・一口イキンのみに依存するならば,スー パーシステムはきわめて成立しにくいと言わざるをえない。また,単純な自己 言及式のコンピュータ・−が途方もない間違いを犯して株価を暴落させたりする ように,実はこのスーパ・−システムもまた恐るべき危うさを持っている。それ はもしも,システム内の1つの構成メンバーに一足以上の障害あるいは欠落を 生じた場合には,このス・−パーシステムは不連続的にカタストロフィーに陥っ てしまうからである。 そのような典型的な事例はエイズと老化に見いだすことが可能である。エイ ズも老化も,単にシステム内のメンバーの障害にとどまらず,スーパーシステ ムの成立の条件に関わることによって自己のアイデンティティを危うくしてい る。以上のことから,このスーパ・−システムという概念は実は自己の崩壊を内 包している概念であると結論づけることが可能である。 10)造血幹細胞:すべての血液細胞免疫細胞はもともと造血幹細胞という単一・の原始的な 細胞から分化してできてくる。幹細胞は胎児期には肝臓,成熟期には骨髄にいて必要に応 じて赤血球,血小板,多型核白血球,T細胞B細胞マクロファ1−ジなどを作り出すが同時 に未分化のまま自己複製して種を残す。幹細胞から造血系免疫系細胞が生み出される過 程は複数のインタ・一口イキンやコロニー刺激因子などが働く多段階の過程でスーパ・−シ ステムを作り出すモデルとしても興味深いものである。

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エ99β 香川大学経済学部 研究年報 38 一J36− ⅠⅤ ここでは分散されたものをどう全体として意味のあるものにしていくかと言 う観点から,サイバネティクスについての言及を行ってみる。このサイバネテ ィクスについては,元来情報の制御にかかわるテーマとして注目されるべきで あるが,昨今では人間社会のガバナンスにかかわるテーマとしても注目される ことが多くなっている。すなわち,サイバネティクスの概念は,企業経営にお ける戦略展開や組織戦略のパラダイム転換のためにはきわめて有効な機能を果 たすと考えられる。そこで,このような問題意識に立脚して,以下においてサ イバネティクスによる生命の獲得とサイバネティクスの組織有効性の2点につ いての考察を行ってみる。 1.サイバネティクスによる生命の獲得 現代科学とV)う学問は,どちらかとV)うと全体を扱う学問ではなく,あくま で極言された部分をのみ対象とする学問であるという印象を人々に与えてい る。そして,このような分離した科学研究の多くの要素を共通の場において再 び結集しようとする科学こそが,以下で言及するサイバネティクスなのである。 このウイナーの唱えたサイバネティクスとは,こうした歴史的な意味をも含め て3つの総合的な組み合わせの上に成り立っている。 それらは,第1には管理する機構としての調整機械,第2には機械を操縦す る人間としての操縦者,第3には人間を指導する集団としての統治体,という ものなのである。これらの中において,特に第3の統治体を意味するところこ そが,このサイバネティクスが現代科学を体系的に統合化しうる科学となりう る所以である。 そこで,このサイバネティクスがよって立つところの条件反射と無条件反射 の2つのシステムという基礎的なシステムについて考察を行うことにする。す なわち,これこそが,いわば統治の仕組みとしてのシステムなのである。前者 の条件反射については社会的な環境なども含めた内外の多種多様な刺激のうち で,特定の刺激,すなわち条件刺激が無条件反射と結合して形成される反射の

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バイオコ・−ボレーションのイメージ −ヱ37− ことを意味している。したがって,他の新しい刺激による生理作用においても, 結合する無条件反射を変えるならば,その生理作用を変化させることができる。 これが,いわばパブロフの犬における食餌の条件反応の喪失に見いだされる。 このパブロフの犬における条件反射の過程においては,視覚受容器に対する電 灯光線の作用が大脳皮質のその中枢を刺激して,またそれが大脳皮質および皮 質下核の食餌中枢に伝わっていく。そして,結果的に次第に無条件反射と同じよ うな作用が起こり,ついには直接に唾液腺である効果器に命令が伝わっていく。 パブロフは,こうした無条件反射と条件反射との違いは実はその形式にある ことを説いている。例えば,それぞれ電話を持っている隣家がインターフォン をひいたとする。かつては,通常の電話で通話するためにいちいちダイヤルし て,例えば中央電話局にある複雑なリレー回路網を経由することで接続されて いた。つまり,使用するためには現在ある装置を完全な準備体制にするための 仕上げの作業が必要なのであった。ところが,インターフォンの場合は,すで に通話の装置は隣家と通話するという目的のために完全に準備された状態にな っている。こうした差異こそが,まさに条件反射と無条件反射の間に考えられ る形式である。 サイバネティクスを理解するためには情報についての理解が大切である。ま た,この情報の意義は人間や企業が特定の目的のために意味のある事実や知識 を作り出すことであり,例えば自動制御装置や細胞に代表される自己機能を自 動的に調節する働きを持ったシステムに見いだせるものである。このように, 制御こそが望みどおりのシステム運営においては不可欠な行為でありシステム なのである。言い換えれば,この制御とは希望どおりにならない現象をいわば 希望どおりにするための努力,つまり行為や技術を指し示していると言えるわ けである。したがって制御については,例えば電気こたつのサーモスタットに 見られるささやかなエ学装置から人工衛星のドッキングという複雑な諸問題を はじめ,さらには国の行政レベルにいたるまで多様な分野に広く存在している 概念なのである。つまり,制御とは人間の目的とする意志を機械なり社会シス テムなどに正確に伝達することを意味している。 この制御の代表的な機能に以下のようなフィードバックを考えることが可能

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ヱ9ガ 香川大学経済学部 研究年報 38 一J3&− である。ウイナーによるならば,このフィ1−ドバックの原理については,自分 の行動結果を調べて,その結果の善悪で未来の行動を修正することを意味して いる。−−・般的には,我々のまわりに存在する現象にしろ動作などについては, それを囲む環境と切り離して考えることができはしない。そのために,環境に よって現象や動作が乱れるばかりか環境の影響を受けて働くことすらありう る。 一・方,環境そのものにおいても動作や現象によって変化することになり,当 然ながら動作現象の相互作用によってお互いに喧嘩を行うことになる。このよ うな環境からの動作現象に対する作用のことを反射とか反作用と呼んでいる が,動作現象が−・定の構造結合目的によって決められているときは特に反作用 を取り込む過程をフィードバックというわけである。 そこで,ここにおいてシステムの概念を規定しておくならば,このシステム とはサイバネティクスによる通信と制御つまり情報処理とV)う共通の現象を備 えているところに,まさに多種多様な形態をまとめてシステムとして科学する 意義と特徴が見いだせる。KいE。.ボウルデイングにおいては,以下のようなシス テムをその構造と機能の面から捉えた分類を試みている。 第1は静的構造レベルのシステムである。これはシステムの最も初歩的なも ので,むしろシステムとはいえないようなもっとも単純な構造を持っている。 第2は単一・な機械運動システムである。このシステムは単純な法則に従って 運動するもので,あらかじめその動作が決められている決定論的な力学構造を 持っている。 第3は制御またはサイバネティクスのシステムである。このレベルのシステ ムはフィードバックの作用をもって自分の行動を制御することが可能である。 このようなレベルは生体の機能に多く見出されるものでホメオスタシスなども その一例である。 第4は自己保存と増殖のシステムである。これは生体の細胞に代表されるも ので,多数の制御機構と複雑な内部構造を備えている。このシステムは恒常性 を維持するための制御システムであるばかりでなく,また生体特有の新陳代謝 すなわち物質の交代と昇華を行って自己を保存しかつ増殖機能を持っている。

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