XMLベースの多言語ドキュメント制作の実例紹介
Example of XML-based Multilingual Document Creation株式会社テックコミュニケーションズ 取締役
森本 裕
Yutaka Morimoto 近年、産業機器の分野における事業展開のグローバル化が、事業規模の大小にかかわ らず急速に拡大しており、販売する製品の種類や出荷地域が多様化している。また、製 品の販売にあたっては、仕向け地の言語のマニュアルが提供されることが条件となる ケースが増加している。そのため、マニュアルなどのドキュメントも多言語展開への対 応が不可欠となり、ローカライズに必要な翻訳やDTPの業務も増加している。 同時に、ドキュメントの制作会社には品質確保と効率化が求められ、テックコミュニ ケーションズもその例外ではなく、多言語ドキュメントの制作上の課題である低コス ト・高品質・短納期への対応が急務となっていた。 ここでは、Adobe InDesign(以降、InDesign)にXMLを組み合わせることにより、ベー ス言語となる英文ドキュメントから、極めて効率良く、信頼性の高い多言語ドキュメン トをアウトプットする取り組みについて、その実績とともに紹介する。1. はじめに
英文版ドキュメントの完成後に、指示原稿を作 成するライター、各言語の翻訳手配を行うコー ディネーターと翻訳者、DTPを担当するDTPオペ レーターをそろえ、ほかの案件を抱えながらも、 ミスなくドキュメントを完成させる ― 多言語ド キュメントの制作に携わったことのあるディレク ターであれば誰しも、このような至難の取り組み を経験されているであろう。 そこでテックコミュニケーションズでは、多言 語展開における作業効率を大幅に改善するため、 指示原稿や翻訳用の資料を、XML化した構造化文 章から取り出すことに着目し、ワークフローを一 新 す る 独 自 の 「 多 言 語 ド キ ュ メ ン ト 合 理 化 ソ リューション(以降、本ソリューション)」を開 発するに至った。 本ソリューションの実用化によって、多言語ド キュメントのワークフローがどのように改善され たのかを、実際の作業の流れに沿って紹介する。 なお、本ソリューションの検証結果は、印刷機 器のユーザーズマニュアル(約100ページ)におい て、英、独、中、韓、伊、仏の6言語分の作成によっ て得られたデータに基づいている。(機器の操作 画面がローカライズされているため、画面キャプ チャー作業が必要である)2. ベースとなるドキュメントの作成におけ
る改善
まず、ベース言語の基となる和文ドキュメント を作成するが、この場合、構造化したレイアウト 作業をInDesignで行う。「構造化」※というと難し く聞こえるが、実際はスタイル(書式)を設定す るだけの、実に簡単な操作である。 なお、この実例では、英語をベース言語として いることをお断りしておく。 多言語展開のベース言語となる英文ドキュメン トを、和文ドキュメントを基に作成するときは、 操作画面の画面キャプチャーの差し替え指示だけ で済み、翻訳に関連する資料の準備は必要ない。 さらに、画面キャプチャーの画像ファイル名に規 則性を持たせることにより、キャプションの翻訳 が必要となる一連の画面キャプチャーの自動選択 とキャプションテキストの抽出も可能になった。 ライターは、本ソリューションでマニュアルを作 成するための簡単な手法の習得が必須となるが、 複数のライターが指示原稿を作成することにより ※ この実例の作業進行時には構造化のための「XML タグ付け」 が必要であったが、現在は通常のDTP 作業に必要な「スタイル 設定」を行うだけでよい。「XML タグ付け」が不要なフローに 改善されている。生じる表記や指示のバラツキも解消されるなどの メリットは大きい。これらは、XMLを利用した翻 訳資料が実現されたことによる効果といえる。
3. 翻訳作業の改善
本ソリューションは、翻訳作業、およびその校 正作業の負担の軽減も実現した。その具体例と今 後の課題について説明する。 1)翻訳用Wordファイルの運用による効率の向上 従来のワークフローでは、DTPアプリケーション から生成した中間ファイルを「Trados TagEditor」 などのタグエディターを使って翻訳していた。 しかし、Trados TagEditorを使用して作業を行う 場合、表示を簡素化しても、タグを完全に非表示 にすることはできない。このため、本来の翻訳部 分以外にタグが表示されたまま翻訳することにな り、翻訳効率を低下させる原因の一つとなること があった(図A)。図A Trados TagEditorでの使用例
また、Tradosを所有していない翻訳業者は、業務 発注の選定対象から外れることになり、ビジネス チャンスが失われるだけでなく、当社としても最 適発注の機会を逃すことになる。
その解決策として、できるだけタグを排除する ことを目的に、シンプルなMicrosoft Office Word(以 降、Word)のファイルに変換する仕組みを開発し た(図B)。これによって、翻訳者は本来の業務に 集中できるようになった。 図B 翻訳用Wordファイル 2)翻訳支援機能の強化(重複文節の自動検出) 翻訳用Wordファイルには、もう1つ重要な機能が ある。文書内に同じ文節(重複箇所)があった場 合、本ソリューションではシステムで自動的に検 出できる機能を搭載している(図C)。これによっ て、重複箇所を探す工程を省けるようになった。 重複箇所を含めたレビューは必要だが、「翻訳」 という作業そのものを省くことができた。 1 調整対象ユニットを選択して[確定]を押します。 2 [Cover Limit]を押して、カバーインターロックを無効 3 ユニット前面カバーを開けます。 4 [MAINTENANCE]-[吐出量確認]を順に押します。 5 調整対象ノズルを使用するライブラリを選択し、[確定]を押します。 6 = 1 調整対象ユニットを選択して[確定]を押します。 7 = 2 [Cover Limit]を押して、カバーインターロックを無効にします。 8 = 3 ユニット前面カバーを開けます。 図C 重複箇所の自動検出結果(6、7、8が重複箇所) 3)校正支援機能の開発(チェック用HTMLファイル) 本ソリューションでは、次のとおり翻訳後の校 正作業を支援する機能の開発を行い、次の3点の効 果が得られるようになった。 ・校正用対訳表 原文と翻訳文を上下に並べて表示することで、 校正の労力を大幅に削減した。これによって、校 正の精度を向上させることに成功した(図D)。(統 計的な分析を今後実施する予定) 図D 対訳表 タグを完全に非表示にすることはできない タグの表示量を極力抑えることに成功
・ダブルバイトエラーチェック 翻訳文にダブルバイト文字が含まれていた場 合、自動で検出できる。ただし、中、韓などダブ ルバイトの言語については、チェックの対象外と なる(図E)。 図E ダブルバイト文字の検出結果 ・文字数のカウント機能 翻訳後の文字数を集計できるため、精算業務の 負荷を軽減できた(図F)。 図F 文字数のカウント結果 4)残された課題 本ソリューションでは、差分の抽出をTradosで 行っているが、現状では次の2つの課題がある。 ドキュメントの改訂版を翻訳する場合、改訂箇 所を含めたTradosのメモリーが必要になる。メモ リーが存在しない場合、事前準備としてドキュメ ントの全ページのメモリーを作成する必要があ る。また、Tradosの差分抽出は完全ではないため、 手作業による仕上げ処理が発生する。 今後、本ソリューションの完成度を高め、発展 させるためには、より強力な差分処理機能が求め られるため、引き続き開発を進めている。
4. DTP作業の改善
次に、多言語ドキュメントのDTP作業を行うに あたり、従来のワークフローから本ソリューショ ンに変えることによって効率化できたことと、発 生した課題について説明する。 1)DTPにおける本ソリューションの有効性 従来のワークフローでの多言語化には、主に次 の2つの方法がある。 A: すでに組まれた英語のベース言語上に、翻 訳テキストを上書きする B: 言語ごとに組み直す Aの場合、1段落ずつコピー&ペーストしなけれ ばならないため、テキストの置き違えや漏れなど の人的ミスが発生しやすく、時間がかかる。 Bの場合、翻訳テキストを流し込んだ後にスタイ ルを割り当てるため、テキストの置き違えや漏れ などの人的ミスは発生しにくいが、同様に時間が かかり、整合性にも懸念が残る。 また、従来のワークフローによる手作業のDTP では、レイアウト作業だけでなく、校正にも多く の時間が必要だった。このような手作業にかかる 時間と人的ミスを削減するためには、本ソリュー ションがたいへん有効となった。 本ソリューションによる自動組版は、英文版 データから書き出した翻訳用Wordファイルを多言 語翻訳することによって、英文版のレイアウト状 態を維持しながら、テキストだけが多言語(独、 中、韓、伊、仏)に置き換わるというイメージの ものである(図G)。 図G 本ソリューションによる自動組版 本ソリューションにより、DTPオペレーターは 言語に合わせた段落スタイルの設定変更とレイア ウトの微調整、そして、レイアウトに関する校正 を行うだけで、多言語組版が可能になった。 これによって、従来のワークフローにおける問 題点を次のように解決した。 ・テキストのコピー&ペーストによる人的ミスの 撲滅 ・指示原稿の理解にかかる時間や意図の読み違い によるミスの撲滅 ・言語ごとに発生するDTP作業の削減 ・言語間におけるレイアウトの整合性(均一化) の向上 ・翻訳テキストの置き違えや漏れがないかなどの、 テキスト内容に関する校正作業の省略 このような問題の解決によって、納期の短縮と ともに品質の向上を実現できた。さらに、従来のワークフローと比較して、1言語 あたりの作業時間を大幅に削減できるため、言語 の種類が増えれば増えるほどトータル工数の差が 大きくなり、コストメリットが増大するという結 果にもつながった(図H)。 図H 従来法と本ソリューションにおける作業工数の比較 2)従来のワークフローとの使い分け このように、多言語ドキュメントの制作におい て本ソリューションを活用することで、さまざま なメリットが得られることがわかったが、すべて のドキュメントに適しているわけではない。 前述のとおり、ベース言語のレイアウトを維持 したまま多言語テキストに置き換えるソリューショ ンであるため、次のような調整は手作業になる。 ・言語によって表記内容が異なる箇所の処理 ・全言語同一のページ繰りでなければならない場 合の処理 本ソリューションでは、多言語展開後のデータ も通常のInDesignのデータとして扱えるため、 InDesign上で可能な範囲で微調整できる。そのた め、お客さまによっては自動組版として割り切れ ず、従来のDTPと同等に見栄えを整えてほしいと いう要望が生じることがある。本ソリューション に限らず自動組版では、微調整の量が多くなれば なるほど、自動組版データとしての再利用性が低 くなってしまう。 現時点では、従来のワークフローと本ソリュー ションでは、どちらに優劣があるともいえないた め、優先されるニーズに合わせて臨機応変に使い 分けている。新規作成や大幅な改訂の場合に本ソ リューションを利用すれば、納期の短縮やコスト の削減といったメリットを生かすことができ、小 規模改訂の場合には通常のInDesignデータとして 作業を行えば、両方の特長をうまく取り入れた ワークフローを構築できる。 今後は、多言語ドキュメントの制作後に微調整 を行った場合でも、自動組版データとしての再利 用性を高めることが課題である。