1) 刈谷市役所 〒448-8501 愛知県刈谷市東陽町1丁目1番地 2) 鹿屋体育大学体育学部 〒891-2393 鹿児島県鹿屋市白水町1丁目 3) 鹿屋体育大学大学院博士後期課程 〒891-2393 鹿児島県鹿屋市白水町1丁目 連絡先:中本浩揮 E-mail: [email protected]
1 Kariya city office
1-1 Touyou, Kariya, Aichi 448-8501
2 Faculty of Physical Education, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya
1 Shiromizu, Kanoya, Kagoshima 891-2393
3 Graduate School of Physical Education, Doctor’s Course, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya
1 Shiromizu, Kanoya, Kagoshima 891-2393 Corresponding author: Hiroki Nakamoto
サッカー選手のサーヴェイ的視点と
心的回転能力との関係
藤井紀之
1),中本浩揮
2),幾留沙智
2),畝中智志
3),森 司朗
2)The Relationship between Survey View and
Mental Rotation in Football Players
Noriyuki Fujii
1, Hiroki Nakamoto
2, Sachi Ikudome
2,
Satoshi Unenaka
3and Shiro Mori
2Abstract
This study aimed to investigate whether individual differences in viewpoint (route or survey [bird’s eye] view) while playing football are associated with mental rotation ability and domain-specificity. Seventeen varsity football players were assigned to Experienced and Non-Experienced survey view groups according to a questionnaire about their experiences with survey view while playing football. Three tasks were used to compare mental rotation and viewpoint switching ability between groups: a mental rotation task to assess the ability to operate upon visuospatial mental representations; a viewpoint switching task to assess the ability to switch viewpoint internally from route to survey view in response to non-domain-specific information (e.g., toys configuration); and the complex task to assess the ability to switch viewpoint from route to survey view in response to domain-specific information (e.g., players configuration) and to operate upon visuospatial mental representations. There were significant between-group differences in response time for the mental rotation and complex tasks, but not in response accuracy for any tasks. This indicates that the experienced survey view group could quickly operate upon mental representations and switch viewpoints from route to survey view, but only in a domain-specific environment. Therefore, individual differences in viewpoint when playing football are associated with mental rotation ability and viewpoint switching ability in response to domain-specific information. More specifically, mental rotation ability and viewpoint switching is contingent upon domain-specific information for the attainment of survey view during football gameplay.
Ⅰ.はじめに 日本や世界で活躍する状況判断に優れたス ポーツ選手の中に,「まるでピッチの上から ゲームを見ているようだ」と表現される選手が いる.このようなピッチ空間を上空から見下ろ すような仮想上の視点のことをスポーツ現場で は俯瞰的視点と呼ぶことがある.木島・吉田 (1998)は,アメリカンフットボールの試合後 のゲーム状況に関する言語報告を分析した結 果,報告時のジェスチャーに関して,熟練度の 低い者はあたかも自分がそこでプレイをしてい るかのような視点に基づいて説明するのに対し て,熟練度の高い者は空中に作戦図を書いて説 明するようなジェスチャーを見せること,また 熟練度が高くなるにつれて,自分自身の動作に 関する報告から周囲の状況に関する報告へと変 化すると述べている.さらに,1993年のワール ドカップアジア予選で日本サッカー代表を指揮 していたハンス・オフトは,コーチはヘリコプ ターに乗り,上空から見下ろしたり,スタンド から観戦しているかのような視点でピッチを見 ることができれば,チームレベルでの状況判断 が的確に行われているかが分かると述べている (オフト,1994).これらは,状況判断が必要な スポーツの熟練者は,俯瞰的視点を用いること で局所だけではなく,大局の情報からゲーム状 況を適切に把握することで,優れた状況判断を 行っていることを示唆している.すなわち,俯 瞰的視点は状況判断を要する競技の熟練者に特 有の視点であると推測されるが,俯瞰的視点が 可能な選手が,どのような能力を発達させてい るのかについてはほとんど検討がなされていな い. スポーツ現場における俯瞰的視点は,空間認 知研究においてサーヴェイ的視点として研究が なされている.これらの研究では,空間の心的 表象に2 つの基準としての視点が採られると定
義されている(Perrig and Kintsch, 1985; Taylor and Tversky, 1992). 1 つは,対象空間内に自 己を置き,自己中心的に空間関係を捉えるルー ト的視点である.もう1 つは,対象空間外に自 己を置き,対象空間全体を俯瞰するように空間 関係を捉えるサーヴェイ的視点である.木島・ 吉田(1998)の研究では,初級者は自己を中心 とした表現を用いていることから,自己中心的 に空間関係を捉えるルート的視点を用いてお り,熟練者は空中に作戦図を書くように表現す ることから,対象空間外から俯瞰するように空 間関係を捉えるサーヴェイ的視点を用いている と考えられる.地図などの空間認知研究では, サーヴェイ的視点のメリットとして,地図に表 された現実空間を移動する際,自己の現在位置 と周囲の全体的配置との対応関係を把握しやす いため移動時の心的処理が効率的になると考え られている(浅村,1998,2002).スポーツ場 面においても,自己の現在位置と周囲の選手, スペース,ボール,ゴールなどの全体的空間配 置や距離の情報は,状況判断過程のゲーム状況 の認知において極めて重要であると考えられる (深倉,1995;中川,1984;夏原ら,2012;田 中,2004).よって,これらの情報を把握しや すくなるサーヴェイ的視点は,プレイ中の状況 判断能力に関する心的処理を効率的にするので はないかと考えられる. サーヴェイ的視点は現実の視点ではなく,仮 想上の視点であることから,この視点を可能に するためには,対象空間を表象するための空間 知 識 が 必 要 と な る.Siegel and White(1975) は,空間知識には,個々の物体や場所に関する ランドマーク知識,ランドマークの繋がりやそ の間の移動に関するルート知識,これらのラン ドマークやルートを統合し環境全体のレイアウ ト及び距離や方向に関する測量情報が鳥瞰的に 表現されたサーヴェイ知識の3 つの知識がある としている.これらの知識のうち,サーヴェイ 的視点には特にサーヴェイ知識が必要である と考えられているが(McDonald and Pellegrino, 1993),サーヴェイ知識の学習能力には個人差 があることが報告されている(Blajenkova et al., 2005).これに関して,Ishikawa and Montello (2006)は,空間知識の獲得の個人差は方向感 覚に依存しており,サーヴェイ知識を獲得する ためには方向感覚に優れなければならないとし
ている(同様に,温文ら,2010).また,Bryant (1982)は,方向感覚と空間能力の一つである 心的回転課題の成績との間に有意な相関関係が あることを示しており,空間認知の研究におい ては,心的回転能力の高い者は,サーヴェイ的 視点を用いた方略を利用しやすいとされている (Pazzaglia and De Beni, 2006).よって,状況判 断を必要とする競技においても同様に,サー ヴェイ的視点が可能な選手は,サーヴェイ知識 の獲得に優れ,その知識を獲得するために重要 な心的回転能力に優れていると考えられる. 実際,Ozel et al.(2002)は,空間認知の処 理を頻繁に経験するスポーツ競技者(体操選 手,ラグビー選手,サッカー選手など)は,非 競技者に比べて心的回転課題の成績が高いこと を示している(同様に,Naito, 1994; Ozel et al., 2004).また,Kasahara et al.(2008)は,俯瞰 的視点が可能であると考えられるラグビーの トップ選手は,課題の遂行に空間能力を必要と する成人知能検査WAIS-Rの積み木模様の課題 において高いスコアを示すことから,空間能力 と俯瞰的視点に関係があると推察している(同 様に,Sekiguchi et al., 2011).しかし,これら の研究は説明変数として競技経験の有無を扱っ たものであり,実際にサーヴェイ的視点を利用 できる選手とできない選手の違いを明確に理解 するためには,プレイ中の視点の個人差に基づ いた比較検証が必要である. さらに,空間認知研究で扱われてきたランド マークやルートが固定された空間とは異なり, サッカーなどのスポーツにおける空間は,空間 を構成するランドマーク(人やボールなど)や ルート(パスコースなど)がプレイパタンによっ て多様に変動する.そのため,これまでの空間 認知研究で見られる空間知識の活用に加え,ス ポーツではプレイパタンに関する多様な知識も サーヴェイ的視点の獲得に不可欠であると考え られる.これに関して,状況判断を要する競技 の熟練者は,プレイパタンに関する構造化され た領域固有の知識を有しており(McPherson, 1993),それによって瞬時に正確にゲーム状況 を認知することができるとされている(Allard
et al., 1980; Garland and Barry, 1990).また,領 域固有の知識に基づく優れた状況認知は領域固 有のプレイパタンが含まれない環境では発揮さ れないとされている(Allard et al., 1980; Garland and Barry, 1990).これらを鑑みた場合,サッ カーにおいては,サーヴェイ的視点を可能にす る空間知識として,プレイパタンに関する領域 固有の知識を利用する必要があると考えられ, 仮にそうであるならば,サーヴェイ的視点は領 域固有の情報が環境に含まれる場合においてし か生じないと考えられる. 以上から,本研究では,サッカー選手におけ るプレイ中の視点(ルート的視点およびサー ヴェイ的視点)の個人差は,心的回転能力の個 人差と関係しているのか,また視点変換の個人 差はサッカー領域に固有の情報が含まれる状況 でのみ生じるのかについて明らかにすることを 目的とした.この目的を達成するために,本研 究では実際のサッカーの状況判断場面において サーヴェイ的視点を経験したことがある者とな い者に対して,心的回転や視点変換が要求され る3 つの課題を行わせた.具体的には,心的回 転能力を測定する心的回転課題,サッカーとは 無関係な物体の配置について,ルート的視点 (水平)からサーヴェイ的視点(真上)への視 点変換が要求される視点変換課題,実際のサッ カー場面の静止画像を用いて,ルート的視点か ら見た選手の複数の配置情報を,サーヴェイ的 視点から見た1 つの配置情報へ複合して視点変 換することが要求される複合課題の3 つの課題 を行い,両群の間の課題パフォーマンスを比較 した.仮に,プレイ中の視点の個人差が,心的 回転能力と関連があるならば,心的回転課題に おいてサーヴェイ的視点の経験がある者の方が ない者よりも優れた成績を示すと考えられる. また,ルート的視点からサーヴェイ的視点の変 換に領域固有性があるならば,サッカー固有の 情報を含まない視点変換課題よりも,サッカー 固有の情報を含む複合課題においてサーヴェイ 的視点の経験がある者の方がない者よりも優れ た成績を示すと考えられる.
Ⅱ.研究方法 1.実験参加者 実験参加者として,サーヴェイ的視点の理 解,および,過去のサーヴェイ的視点の利用の 有無に関して明確な認識が可能であると思われ る大学サッカー部に所属している男子大学生を 対象とした.また,サーヴェイ的視点の経験を 持つ者は高い競技レベルの選手であると考えら れることから,高校時代にレギュラーとして全 国優勝・準優勝を経験した者,あるいは,大学 でレギュラーとして全国ベスト4 を経験した者 などを含む17名を選定した.そして,質問紙 (詳細は後述)によりサーヴェイ的視点を活用 しながらプレイした経験がある群8 名(年齢: 21.5±0.76歳,競技歴:13.1±2.03年)と,経験 がない群9 名(年齢:19.8±0.93歳,競技歴: 12.2±2.64年)に分けた(以下 2 つの群を経験 群,未経験群と略す).その結果,経験群の参 加者の8 名中 6 名,未経験群の参加者の 9 名中 1 名が大学サッカー部のトップチームでのプレ イ経験を有しているものとなった.また,経験 群の参加者の8 名中 6 名,未経験群の参加者の 9 名中 8 名が,高校時に県や市の選抜メンバー に選ばれた経験のある者となった.参加者に は,実験の実施前に,実験手順及び個人情報の 保護について説明し,十分な理解を得た上で参 加の同意を得た. 2.実験課題 (1)心的回転課題 空間能力である心的回転能力を測定するため に,Cooper and Shepard(1973)の課題を参考
に心的回転課題を行った(図1 ).この課題で は,第1 刺激として文字刺激が呈示された後, 第2 刺激として,第 1 刺激で呈示された文字の 正立像か鏡像が呈示される.第1 刺激として呈 示される文字は,アルファベットのF,L,P, R ( R は練習のみ)のいずれかの文字の正立像 とし,呈示時間は1 秒間とした.第 1 刺激が消 失した1 秒後には第 2 刺激を呈示し,第 1 刺激 の文字の正立像が回転したものか,鏡像が回転 したものかのいずれかを呈示した.実験参加者 は,第2 刺激が正立像か鏡像かについて,正立 像の場合は「○」ボタンを,鏡像の場合は「×」 ボタンをできるだけ早く正確に押すことが求め られた.なお,実験参加者に対して刺激を呈示 するために,15.6インチのモニターを有する ノートパソコン(HP社製,Probook 4510s)を 使用した.また,刺激映像呈示用のノートパソ コンにおけるキーボードの「J 」ボタンおよび 「F 」ボタンをそれぞれ,「○」ボタンおよび 「×」ボタンとして使用した. (2)視点変換課題 領域固有の情報を含まない状況におけるルー ト的視点からサーヴェイ的視点への単純な視点 変換能力を測定するために,Shelton and Gabrieli (2002)の刺激呈示方法とCooper and Shepard (1973)の回答方法を参考に,視点変換課題を 作成した(図2 ).この課題では,第 1 刺激と してルート的視点から見たときのおもちゃなど の物の画像が呈示された後,第2 刺激として, 第1 刺激で呈示された物の配置をサーヴェイ的 視点から撮影した画像か,配置を変えてサー ヴェイ的視点から撮影した画像かが呈示され た.第1 刺激として呈示される画像は, 4 個, 5 個, 6 個( 4 個は練習試行のみ)の物がラン ダムに配置されているところをルート的視点か ら撮影した画像とし,呈示時間は1 秒間とし た.第1 刺激が消失した 1 秒後には第 2 刺激を 呈示した.実験参加者は,第2 刺激が第 1 刺激 と同じ配置か異なる配置かについて,同じ配置 の場合は「○」ボタンを,異なる配置の場合は 「×」ボタンをできるだけ早く正確に押すこと が求められた. (3)複合課題 サッカー固有の情報を含む状況での視点変換 を行わせるために,サッカーのピッチ上の中央 から複数の方向をルート的視点で見た場合の情 報を,サーヴェイ的視点から見た場合の情報に 変換する能力があるかを測定する複合課題を作 成した(図3 ).刺激は,サッカーの 6 (赤) 対6 (白)+ 1 (フリーマン)の場面のフリー マンの視点とし,ピッチ(横30m×縦40m)の
中央の位置から見える3 方向を撮影したサッ カープレイの映像から,10場面を静止画として 抽出した.図3 に示したように,この課題では 第1 刺激として,ルート的視点から見た前方と 左・右方向の3 方向の画像を1.75秒間ずつラン ダムに呈示した後,第2 刺激として,第 1 刺激 と同様の選手配置をサーヴェイ的視点から見た 配置図か,異なる配置図のいずれかを呈示し た.また,第2 刺激で呈示したサーヴェイ的視 点からみたピッチの画像は,前と後の文字が付 されており,この文字を基準に0°,90°,180°, 270°の 4 つの角度に回転したものをランダムに 呈示した.実験参加者は,回転している第2 刺 激が第1 刺激と同じ選手の配置か,異なる選手 図1 心的回転課題の刺激系列 図2 視点変換課題の刺激系列 図3 複合課題の刺激系列
の配置かについて,同じ配置の場合は「○」ボ タンを,異なる配置の場合は「×」ボタンをで きるだけ早く正確に押すことが求められた. よって,この課題では,上述したように先行研 究に基づき作成した心的回転課題と視点変換課 題に含まれる心的回転と視点変換に加え,現実 のサッカー場面のように複数の方向の情報を統 合して処理することが要求される. 3.実験手続き 実験開始に先立って,プレイ中のサーヴェイ 的視点の経験の有無を調べる質問紙を実施し, サーヴェイ的視点を活用してプレイした経験が ある群を経験群,経験がない群を未経験群とし て分類した.質問紙は,「サッカー場面におい て, ピ ッ チ を 上 空 か ら 見 下 ろ す よ う な 視 点 (サーヴェイ的視点)でプレイを行った経験は ありますか?」というプレイ中のサーヴェイ的 視点の経験の有無についてのみ尋ねるもので あった.この質問紙には,サーヴェイ的視点の 具体的な例示として,「サーヴェイ的視点と は,選手,ボール,スペース等の位置関係が ピッチを上から見たときにどうなっているかを イメージする視点である.」と記載し,実験者 と参加者の理解が一致するまで説明を行い,そ の上で回答してもらった.なお,経験があると 回答した参加者に具体的にどのような経験かに ついて回答を求めたところ,「あくまでも全体 が鮮明に見えているのではなく,自分の周りの 選手数名とスペースとボールの位置を大体把握 できている程度」や「プレイ中に自分が周りを 確認しながら常に情報が更新されてくイメー ジ」などの回答が得られた.参加者の中にサー ヴェイ的視点を1 回だけ経験したことがあると 報告した者がいたが,経験群の他の参加者は頻 繁にサーヴェイ的視点によってプレイしている という報告であったため,この参加者は未経験 群に分類した. 全実験参加者は,刺激が呈示されるモニター の正面に50cm 離れて椅子座位姿勢をとり,椅 子の背当てに頭部を固定した.その後実験参加 者に対して,3 つの課題を通して,正確に素早 く回答をすることを教示し,心的回転課題,視 点変換課題,複合課題の3 つの課題を行った. なお,以上の教示は各課題を開始する前に再度 与えてから課題を実施した. 心的回転課題は,「回転後の図形が,回転前 と同じ図形なら「○」を,違ったならば「×」 を押してください」という教示を行った.そし て,練習として5 試行行ってもらい,課題に関 して質問がなければ本番として30試行を連続で 行った.視点変換課題は,「1 枚目のおもちゃ などの物の配置を正面から見たスライドと2 枚 目のそれらを上から見たスライドで,配置が同 じだったら「○」を,違ったならば「×」を押 してください」という教示を行った.そして, 練習として5 試行行ってもらい,課題に関して 質問がなければ本番として30試行を連続で行っ た.複合課題は,「サッカーのピッチ中央で 左,右,前を向いた時の選手の配置画像がラン ダムに表示され,その後,その状況をピッチ上 空から見たときの選手の配置画像が表示されま す.同じだったら「○」を,違ったならば「×」 を押してください.回答の際,第2 刺激はピッ チが回転していることもあるので,それに注意 して正確に素早く答えてください」という教示 を行った.そして,練習として5 試行行っても らい,課題に関して質問がなければ本番として 40試行( 4 角度×10場面)を 2 セット,計80試 行行った.複合課題のみ20試行毎に 1 回,約 5 分間の休憩をとった. 以上の3 つの課題に関して,実施順序による 影響を相殺するために,順序は実験参加者間で カウンターバランスを行った. 4.測定項目 心的回転課題,視点変換課題,複合課題のそ れぞれの課題における回答の正確性と速さを評 価するために,測定項目として,正確性は課題 の正答率,速さは第2 刺激が呈示されてからボ タンが押されるまでの回答時間を測定した.な お,視点変換課題においては刺激に含まれる物 の数に関わらず正答率と回答時間を求めた.
(3)の 2 要因分散分析を行った結果,群( F [1, 15]=6.69, p<.05, ηp2=.31)および課題( F [2, 30]=133.01, p<.01, ηp2=.90)に有意な主効果が 示された.また交互作用に関しても有意であっ た(F [2, 30]=4.38, p<.05, ηp2=.23).課題の主 効果に関して多重比較を行った結果,複合課題 の回答時間が他の2 つの課題における回答時間 よりも有意に長かった(p<.01).また,交互 作用に関して単純主効果検定を行った結果,心 的回転課題と複合課題において,経験群の回答 時間が未経験群よりも有意に短くなっていた (p<.05). 以上の結果から,すべての課題において,正 確性に関しては群間の差はないが,回答時間に 関しては,心的回転課題と複合課題で経験群が 未経験群よりも短いことが明らかになった. 2.複合課題における回答の角度ごとの正答 率・回答時間の比較 図5 左は,各群の複合課題における回答時の ピッチの角度ごとの正答率を示している.これ らに関して,群(2)×角度(4)の 2 要因分散分 析を行った.その結果,角度における有意な主 効果が示され(F [3, 45]=4.76, p<.01, ηp2=.24), 多重比較を行った結果,0°の正答率は,90°と 180°の正答率に対して有意に高くなっていた (90°は p<.05,180°は p<.01).また,交互作用 についても有意であり(F [3, 45]=3.01, p<.05, 5.統計処理 経験群と未経験群で課題パフォーマンスを比 較するために,各課題の正答率と回答時間に対 して,群(2)×課題(3)の 2 要因分散分析を 行った.またそれに加えて,複合課題において は,4 つの角度ごとの正答率と回答時間に対し て,群(2)×角度(4)の 2 要因分散分析を行っ た.主効果の検定にはBonferroni法を用い,交 互作用が有意であった場合には単純主効果検定 を行った.全ての統計解析には統計解析ソフト SPSS(IBM社,SPSS for windows 12.0) を 用
い,有意水準を5 %未満とした. Ⅲ.結 果 1.すべての課題における各群の正答率・回 答時間の比較 各課題における群別の正答率を図4 左,回答 時間を図4 右に示した.まず正答率に関して群 (2)×課題(3)の 2 要因分散分析を行った結 果,課題の有意な主効果が示されたが(F [2, 30]=134.30, p<.01, ηp2=.90),群の主効果およ び交互作用に関しては有意ではなかった.課題 の主効果に関して多重比較を行った結果,複合 課題は他の2 つの課題に比べて有意に正答率が 低くなっていた(p<.01).これにより,複合 課題は他の課題よりも難易度が高かったといえ る. 次に,回答時間に関して同様に群(2)×課題 図4 群間の課題ごとの正答率(左)および回答時間(右)の比較(*p<.05)
的回転課題,視点変換課題,複合課題の3 つの 課題を行った.その結果,経験群と未経験群で は,いずれの課題においても回答の正確性の差 は認められなかったが,回答時間では経験群の 方が未経験群よりも短いことが示された.特 に,この傾向は心的回転課題と複合課題で顕著 であった.これらの結果は,スポーツ競技者は 非競技者よりも心的回転能力に優れているとい う先行研究に加え(Ozel et al., 2002, 2004),プ レイ中の視点の個人差は,心的回転能力と関連 があり,また視点変換には領域固有性があるこ とを示唆する. 心的回転課題は視空間イメージの操作能力を 測定するためにしばしば利用される.Cooper and Shepard(1973)は,心的回転には,1 )ワー キングメモリ内に対象物の心的表象を形成する ために情報を符号化し,2 )標準刺激との比較 が可能な軸方向まで物体を心的に回転させ, 3 )両方の対象物を比較し反応する,というプ ロセスが含まれるとしている.よって,経験群 の参加者は,これらのプロセスのいずれかの処 理速度が未経験群に比べて速かったと推測され る.競技者(オープンスキルとクローズドスキ ル)と非競技者の心的回転能力を比較したOzel et al.(2004)の研究では,個々のプロセスを 比較するため,図形を0°から180°まで等間隔 で5 段階の角度で呈示し,それぞれの角度に対 する回答時間をもとに,符号化と比較の処理時 ηp2=.17),単純主効果検定の結果,未経験群の 0°の正答率は,90°と180°の正答率に対して有 意に高くなっていた(p<.01).この結果は, 回答時のピッチを回転させると正答率が下がる ことを示し,特に未経験者で顕著であることを 示している. 図5 右は,複合課題における角度ごとの回答 時間を群間で比較している.これらに関して, 正答率と同様に群(2)×角度(4)の 2 要因分散 分析を行った.その結果,群(F [1, 15]=6.56, p<.05, ηp2=.30)および,角度( F [3, 45]=10.63, p<.01, ηp2=.42)における有意な主効果が示さ れたが,交互作用に関しては有意でなかった. 主効果に関して多重比較を行った結果,0°の回 答時間は,他の3 つの角度の回答時間に対して 有意に短くなっていた(p<.01).また,経験 群の回答時間は未経験群よりも有意に短かった (p<.05). Ⅳ.考 察 本研究の目的は,サッカー選手におけるプレ イ中の視点(ルート的視点およびサーヴェイ的 視点)の個人差は,心的回転能力の個人差と関 係しているのか,また視点変換の個人差はサッ カー領域に固有の情報が含まれる状況でのみ生 じるのかについて明らかにすることであった. そのため,サッカーにおいてサーヴェイ的視点 を経験したことがある者とない者を対象に,心 図5 群間の複合課題における角度別の正答率(左) および回答時間(右)の比較(*p<.05)
報が存在する状況でのみ発揮されることが示さ れている(Allard et al., 1980; Chase and Simon, 1973; Garland and Barry, 1990).このことから, 本研究の結果は,サッカーのサーヴェイ的視点 においても領域固有性が存在することを示唆し ていると考えられる.領域固有の状況でのみ優 れた知覚・認知技能が発揮される背景には,領 域固有の知識の発達が関与していると考えられ ているが(Allard et al., 1980; Chase and Simon, 1973; Garland and Barry, 1990),一方で本研究 の参加者は,両群ともにサッカーの経験年数が 長く競技レベルも高かったことから,プレイ中 の視点の個人差がサッカー固有のプレイパタン に関する知識の差によって生じているとは考え にくい.実際に複合課題において,回答の正確 性には差が見られないことは,両群とも領域固 有知識を用いてサーヴェイ的視点を形成できた ことを示唆する.よって,複合課題において回 答時間だけに群間の差が示されたことは,視点 変換過程の処理速度に差があることを示してい ると考えられる.しかし,領域固有の情報を含 まない視点変換課題において群間の差が認めら れなかったことから,サーヴェイ的視点が可能 な者は単に視点変換を行う速度が速いというよ りは,視点変換過程で行われる領域固有情報の 処理速度が速いと推測される. また,図形を用いた心的操作において回転 させる角度が大きくなるほど回答時間が増加 することが明らかにされているが(Shepard and Metzler, 1971),本研究で用いた複合課題にお いて,90°,180°,270°の間には回転角度の増 大に伴う回答時間の有意な増加は両群共に認め られなかった(図5 右).空間認知の研究で は,学習時に基準としていた方向と同じ方向で 空間の位置関係を認知する方が,異なる方向で 認知するよりも,空間に関する判断が容易であ るという整列効果が生じる(Levine et a1., 1982). この効果は,地図を現在の環境と同じ方向に向 けた方が,空間認知しやすいという日常の問題 としてしばしば経験する.また,Presson and Hazelrigg(1984)は,整列効果に関して,空 間内を移動することで空間を学習した場合は整 間を示す弁別時間と心的回転のみの時間を示す 心的回転時間に分類して群間の比較を行ってい る.これによれば,いずれの指標においても オープンスキルおよびクローズドスキルの競技 者が非競技者よりも優れた成績を示すが,回帰 式によって求めた心的回転速度に関しては, オープンスキルの競技者のみが非競技者よりも 優れていたことを報告している.よって,本研 究においても経験群は,視空間イメージの心的 回転速度が速かったため未経験群よりも回答時 間が短かったと考えられる.しかし,本研究で は,弁別時間の指標となる0°条件を用いてい なかったため,各プロセスの処理潜時を直接検 討できなかった.そのため,競技者と非競技者 の間に見られた処理速度の差異を(i.e., Ozel et al., 2004),サッカー選手の視点の違いにも適 用できるかについては更なる検証が必要となる が,いずれにしてもサッカーにおける視点の個 人差には心的回転過程の情報処理速度が関与し ている可能性があるといえる.以上から,心的 回転課題において,正確性に差がなく,回答時 間においてのみ差が見られたという本研究の結 果は,サッカーにおけるプレイ中の視点の個人 差は,環境から得た情報の視空間イメージを正 しく操作できるか否かではなく,素早く操作で きるか否かに関わっていることを示唆する.実 際のサッカーのプレイ場面では,瞬時に状況判 断し行動を選択することが求められるため,心 的操作の速度がプレイ中の視点の個人差に影響 する可能性は十分にあると推測される. 次に,本研究では,サッカー固有の情報を含 まない視点変換課題においては,経験群と未経 験群の間に課題パフォーマンスの差異が認めら れなかったが,サッカー固有の情報を含む複合 課題では,経験群と未経験群の間に回答時間の 有意な差異が認められた.また,複合課題の角 度ごとの比較では,経験群は未経験群よりも回 答時間が短いという主効果が認められ,視点変 換課題と同様に心的回転を必要としない0°条 件においても経験群は未経験群よりも明確に短 い回答時間を示した.熟達化研究において,熟 練者の優れた知覚・認知技能は,領域固有の情
列効果が生じにくいのに対し,マップ観察に よって空間を学習した場合には整列効果が生じ やすいことを示し,形成される空間の心的表象 は学習方法によって性質が異なってくるとして いる(Hegarty et al., 2006).この観点から,回 転角度の増大に伴う回答時間の増加が認められ ないという本研究の結果は,対象としたサッ カー選手は,整列効果が最小になるような方法 で課題遂行していたことを示唆し,さらに,彼 らが形成している空間の心的表象は,サッカー の作戦図などからの学習によって形成されたも のではなく,空間内で実際にプレイする経験を 通じて形成されたものであると考えられる.本 研究の参加者は高度な経験を持った選手であっ たことから,いずれの群においても整列効果が 小さかったと考えられる.Ozel et al. (2002, 2004)は,競技者が非競技者に比べて心的回転 課題の成績が高い理由としてスポーツ選手は競 技において空間的なイメージを多用するためで あると経験の重要性を指摘しているが,サッ カーにおける空間認知には学習方法についても 考慮する必要があることが示唆される.ただ し,プレイ中の視点の個人差が学習方法に依存 しているか否かについては,実験参加者のこれ までのサッカー経験(例えば,試合形式でのプ レイ時間)を詳細に検討する必要がある. 以上のように,本研究では,サッカー選手に おけるプレイ中の視点の個人差は,心的回転能 力の個人差と関係しているのか,また視点変換 の個人差はサッカー領域に固有の情報が含まれ る状況でのみ生じるのかについて検討した.そ の結果,サーヴェイ的視点を活用している経験 群は空間能力の中の心的回転能力,特にその処 理速度に優れていることが明らかになった.ま た,サーヴェイ的視点が可能な者は,領域固有 の情報が含まれる状況でのみ,ルート的視点で 見た情報を,サーヴェイ的視点へと素早くイ メージする能力が高いことが示唆された.この ことから,サッカー場面では,自分の体の向き で周りの選手の配置や見ている方向が変わって くるが,空間能力に優れた選手は素早い心的回 転と領域固有情報の効率的な処理により周囲の 情報を素早く統合することでサーヴェイ的視点 を可能にしていると考えられる.すなわち,本 研究から,サッカーのプレイ中における視点の 個人差は,心的回転や領域固有情報の処理の速 さに依存していることが示唆された.ただし一 方で,Hegarty et al.(2006)は,現実空間のよ うな大規模空間と実験課題として行われる心的 回転のような小規模空間に関与する空間能力 は,一部機能を共有しているが,完全に同一で はないことを明らかにしている(同様に,Previc, 1998).このことから,本研究で得られた結果 は,サッカーの競技場面のサーヴェイ的視点に 関与する空間能力を完全に反映しているとはい えず,大規模空間を扱った課題によっても検証 する必要がある.また,本研究よりサッカーの サーヴェイ的視点と心的回転能力には関連があ ると考えられるが,心的回転能力のみによって 現実場面のサーヴェイ的視点を説明することは 困難である.そのため,より広い視点からサー ヴェイ的視点の可能な選手の知覚・認知特性を 調査する必要があるといえる. 引用文献
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