• 検索結果がありません。

女子大学生の友人関係,キャリア意識および大学生活自己効力感が幸福感および人生満足感に与える影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "女子大学生の友人関係,キャリア意識および大学生活自己効力感が幸福感および人生満足感に与える影響"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

本研究の目的は,青年期の女子大学生を対象 として,友人関係,キャリア意識,大学生活自 己効力感などの要因が,幸福感や認知的な人生 の満足感にどのような影響を与えているかにつ いて実証的な検討を行うことである。 大学生の幸福感に影響を与える要因について は,これまでさまざまな研究が行われてきた。 社会的相互作用の質や量(牧野・田上,1998), ソーシャルスキルと対人交互作用の質(徳永・ 松下,2010),過剰適応(浅井,2014)など独 自の視点を持つ研究が行われてきたが,これら は対人関係が重要な要因であるという点で共通 している。ここに挙げた以外でも対人的な相互 作用が幸福感に影響を及ぼす重要な要因である ことを示す研究は多い。したがって女子大学生 の幸福感について考える上で,対人関係は極め て重要な要因であると考えられる。 大学生にとって対人関係に劣らず重要な要因 としてキャリア意識の形成が考えられる。 Havighurst(1953,荘司訳,1995)が述べた ように,「職業を選択し準備すること」は青年 期における重要な発達課題である。自分の資質 や能力に応じた職業を選択し準備することは, 充実した人生を送るための基盤であり,キャリ ア意識の成熟は幸福感へとつながる可能性があ る。吉村(2009)は日本の女子大学生を対象と した調査を行い,進路選択自己効力感や職業未 決定およびキャリア・アンカーなどのキャリア 意識と幸福感の関連について検討した。その結 果はキャリア意識が幸福感に大きな影響を与え ている可能性を示している。また日本だけでな く韓国において行った調査でも,キャリア意識 が幸福感に大きな影響を与えていることが明ら かにされている(吉村,2012)。進路選択の問 題は女子大学生にとって重大な関心事であるが ゆえに,不安を感じたり悩みを抱いたりするこ とも多く,結果として幸福感に大きな影響を与 えていると考えられる(吉村,2014,2015, 2017,2018)。 Bandura(1977)が提唱した自己効力感 (self-efficacy)という概念は,「行動の遂行可 能性の認知(社会心理学事典,2009,p.164)」 であり,ある行動をどの程度効果的に遂行でき るかという主観的認知である。Bandura(1977) は自己効力感が強くなることによって,課題状 況に対する取り組みが積極的になり,また困難 に直面することがあっても,より多くの努力を 長く継続することができるようになると述べて いる。このような積極性は幸福感と結びつく可 能性がある。曽我部・本村(2009)は青年期に おける社会心理的自己効力意識と主観的幸福感 の関連を検討した。社会心理的自己効力意識と は「個を中心に,自身を取り巻くさまざまな次 元の社会状況との関わりにおいて,自己効力を いかに発揮出来ているかという主観的認知(曽 我部・本村,2009,p.83)」であり,大学生の 主観的幸福感を有意に規定していることが示さ れた。また富安(1997)は Taylor & Betz(1983) の研究を参考にし,大学生用進路決定自己効力 尺度日本語版を作成した。吉村(2009)は富安 (1997)および安達(2001)の研究を参考にし て作成した進路選択自己効力感尺度を用いて幸 福感との関連を検討し,進路選択自己効力感が 幸福感に大きな影響を与えていることを示した。

吉 村   英

(本学教授)

女子大学生の友人関係,

キャリア意識および大学生活自己効力感が

幸福感および人生満足感に与える影響

(2)

さらに吉村(2018)は経済産業省(2006)が提 唱している社会人基礎力を参考にして,大学生 活自己効力感尺度を作成した。大学生活自己効 力感は大学生活を送る上で必要となる行動の遂 行可能感であり,幸福感との関連を分析した結 果,有意な関連性がみられた。これらの結果は, 自己効力感が幸福感に大きな影響を与えている ことを示唆している。 以上を踏まえ本研究では女子大学生の幸福感 に影響を与える要因として,友人関係,キャリ ア意識,大学生活自己効力感を取り上げて検討 を行いたい。さて幸福感についてはこれまで多 くの研究が蓄積されてきているが,幸福という 概念についての統一した見解はみられない。幸 福感を表すものとしては主観的幸福感,人生満 足感,心理的 well-being などさまざまな名称 が用いられている。現状では研究者によってさ まざまな定義が行われ,その定義に沿った測定 尺度の開発が行われている。これらの尺度を大 きく分けると,幸福感や人生満足度を単一の因 子として捉えようとするものと,幸福感や人生 満足度をさまざまな側面から捉えようとするも のに分けることができる。前者の代表的なもの には,Diener, Emmons, Larsen, & Griffin (1985)の人生満足尺度(Satisfaction with Life

Scale)がある。この尺度は 5 項目からなって おり単一の満足感得点を求めるものである。ま た Lyubomirsky & Lepper(1999)の主観的幸 福感尺度(Subjective Happiness Scale)も幸 福感を単一の因子として捉えようとするもので ある。この尺度は 4 項目からなっており, 4 項 目の平均値で単一の主観的幸福感を測定する。 後者に属するものとしては,吉森・植田・有倉 (1992)が作成したハッピネス尺度がある。こ の尺度は生活充実感,将来に対する積極的展望, ストレスバッファ(人間関係),自己肯定感の 4 つの側面から幸福感を捉えようとするもので ある。また Ryff(1989)の心理的 well-being 概念に基づいて作成された尺度(Ryff & Keys, 1995)や,その日本語版である西田(2000)の 日本版心理的 well-being 尺度も後者に属する といえよう。この尺度は人格的成長,人生にお ける目的,自立性,自己受容,環境制御力,積 極的な他者関係の 6 つの側面から幸福感を捉え ようとするものである。 このように幸福感を測定する尺度としては, 具体的な側面を示す多次元的な尺度によるもの と,全体を認知的に捉えようとする単一次元の 尺度によるものがあるが,この両者の関係につ いて検討を行った研究はあまり見られない。し かしながら具体的な側面の中で,特に何が全体 的な満足感に影響を与えているかを知ることは, 幸福感の研究に新たな知見をもたらすことにな ると思われる。 そこで本研究では,まず友人関係,キャリア 意識,大学生活自己効力感などの要因が,多元 的な幸福感の各要因(側面)にどのような影響 を与えているかについて検討を行う。つぎに幸 福感の具体的な要因と全体的な満足感との間に どのような関係がみられるかについて検討する。 最後に友人関係,キャリア意識,大学生活自己 効力感などの要因が,幸福感の諸要因を介して, 人生の満足感にどのような影響を与えるかにつ いて因果モデルを構築し検討を行いたい。 方  法 調査対象者 2017年 9 月に在籍していた,心 理学専攻の全学生253名( 1 回生65名, 2 回生 62名, 3 回生67名, 4 回生59名)。質問紙への 有効回答者総数は220名(回答率87%)。 調査時期 2017年 9 月18日~2017年10月14日 調査方法 集合調査法による質問紙調査。授 業時間を使用して質問紙を配布し,回答を依頼 した。研究倫理を配慮して,質問紙の冒頭で守 秘義務の順守について記載し,さらに口頭で調 査への参加は任意であること,および回答した くない項目は記入しなくてもよいことを伝えた。 調査項目の概要 本調査で用いた質問紙の内 容は,吉村(2018)で用いられた質問紙とほぼ 同様である。内容は大きく分けて,学籍番号, 大学の良いところ,満足できないところ,大学 へ望むこと,友人関係,学生生活への不安,大 学生活の満足度,就職未決定,大学生活自己効

(3)

力感,幸福感尺度,人生の満足度,大学入試, 進路目標,関心のある資格などの質問項目から 構成されている。 調査項目と使用尺度 本研究では以下の質問 項目と尺度を使用した。 ①友人関係 榎本(2003)が作成した友人と の「感情的側面」を測定する尺度を用いた。本 尺度は信頼・安定,不安・懸念,独立,ライバ ル意識,葛藤の 5 因子からなっている。ただし 項目数については,各因子の項目数を調整する ために各因子から 3 ~ 4 項目を選択し,計16項 目を採用した。この16項目について,“まった く思わない⑴”から“とてもよく思う⑹”まで の 6 点尺度で回答を求めた。 ②職業未決定 下山(1986)が作成した職業 未決定尺度を用いた。未熟,混乱,猶予,模索, 安直の 5 因子からなっている。ただし項目数に ついては因子負荷量の大きさを参考にし,各因 子から 3 項目を選択し,計15項目を採用した。 この15項目について,“まったくあてはまらな い⑴”から“よくあてはまる⑸”までの 5 点尺 度で回答を求めた。 ③大学生活自己効力感 経済産業省が定義す る「社会人基礎力」の12の能力要素を大学生活 に合わせて変更し,それぞれの能力が自分にど の程度身についているかを問う大学生活自己効 力感の尺度を作成した。全12項目について, “まったく自信がない⑴”から“とても自信が ある⑸”までの 5 点尺度で回答を求めた。 ④ハッピネス尺度 吉森他(1992)が作成し たハッピネス尺度を使用した。この尺度は生活 充実感,将来に対する積極的展望,ストレスバッ ファ(人間関係),自己肯定感の 4 つの下位尺 度からなっており,それぞれ 3 項目,計12項目 で構成されている。各項目について“そう思わ ない⑴”から“そう思う⑷”までの 4 点尺度で 回答を求めた。 ⑤人生の満足度 Diener et al.(1985)の人 生満足尺度を用いた。この尺度は 5 項目から なっている。この 5 項目について,“まったく あてはまらない⑴”から“非常によくあてはま る⑺”までの 7 点尺度で回答を求めた。 結果と考察 尺度の構成 本研究で用いた尺度は,回答者 の負担を考慮しオリジナルな尺度より項目数を 若干少なくしている。また大学生活自己効力感 尺度など新しく作成した尺度も含まれている。 そこで回答者の認知構造を確認し尺度を再構成 するために,各尺度の項目群に対して因子分析 (最尤法,プロマックス回転)を行った。なお 分析には IBM SPSS Statistics 24. 0を用いた。 友人関係項目群の因子分析 友人関係に関す る16項目について因子分析を行った。固有値の 推移と解釈可能性から因子数を 4 個(累積寄与 率62. 6%)に決定した(表 1 )。第 1 因子は固 有値4. 62,プロマックス回転後は「友達のやっ ていることに引きずり込まれて困る」「友達の 考えていることがわからなくなって不安にな る」「友達の誘いを断れず困る」「友達に「仲間 はずれにされた」と感じることがある」などの 項目に高い因子負荷量を得ている。これらの項 目は友人関係における不安や葛藤を示している と考えられる。したがってこの因子を「不安・ 葛藤」の因子と命名した。第 2 因子は固有値 2. 20,プロマックス回転後は「友達とは気持ち が通いあっている」「友達を信頼している」「自 分は友達に十分受け入れられていると思う」な どの項目に高い因子負荷量を得ている。これら の項目は友人を信頼し安定した関係が結ばれて いることを示している。したがって榎本(2003) と同様にこの因子を「信頼・安定」の因子と命 名した。第 3 因子は固有値1. 93,プロマックス 回転後は「友達と意見が対立しても自分をなく さないでいられる」「友達と違う意見でも自分 の意見はきちんと言う」「友達と一緒にいても 自分の意思で行動している」などの項目に高い 因子負荷量を得ている。これらの項目は自分の 考えをしっかりと持ち,安易に同調しない独立 した存在であることを示している。したがって 榎本(2003)と同様にこの因子を「独立」の因 子と命名した。第 4 因子は固有値1. 26,プロマッ

(4)

クス回転後は「友達には様々な点で負けたくな い」「友達よりいい仕事につきたい」「友達の方 がテストの点がいいと不安になる」などの項目 に高い因子負荷量を得ている。これらの項目は 友達にライバル意識を持ち負けたくないという 気持ちを示している。そこで榎本(2003)と同 様にこの因子を「ライバル意識」と命名した。 各因子について因子負荷量が.450より大きく, かつ他の因子の因子負荷量が.350以下である項 目をその因子に所属するものとし,因子内の項 目の平均点(下位尺度得点)を算出した。本研 究では吉村(2018)の研究とほぼ同様の結果が 得られた。また榎本(2003)の研究と比較する と「不安・懸念」因子と「葛藤」因子が,本研 究では「不安・葛藤」というネガティヴな側面 を示す 1 因子にまとまっている。したがって因 子数も 5 因子から 4 因子へとややシンプルに なっている。 職業未決定項目群の因子分析 職業未決定に 関する15項目について因子分析を行った。固有 値の推移と解釈可能性から因子数を 4 個(累積 寄与率60. 8%)に決定した(表 2 )。第 1 因子 は固有値4. 87,プロマックス回転後は「将来の 職業のことを考えると気が滅入ってくる」 「誤った職業決定をしてしまうのではないかと いう不安があり,決定できない」「これまで, 自分自身で決定するという経験が少なく,職業 決定のことを考えると不安になる」「自分一人 で職業を決める自信がない」などの項目に高い 因子負荷量を得ている。これらの項目は職業意 識が未熟で職業選択に自信が持てず,職業決定 に直面して情緒的に混乱している状態を示して いる。そこで下山(1986)の研究を参考にし, この因子を「未熟・混乱」の因子と命名した。 第 2 因子は固有値1. 82,プロマックス回転後は 「生活が安定するなら,職業の種類はどのよう なものでもよい」「自分を採用してくれる所な ら,どのような職業でもよいと思っている」な どの項目に高い因子負荷量を得ている。これら の項目は職業選択において自らの関心や興味を 深く考えようとしない安易な態度を示している。 そこで下山(1986)と同様にこの因子を「安直」 の因子と命名した。第 3 因子は固有値1. 25,プ ロマックス回転後は「せっかく大学に入ったの だから,今は職業のことは考えたくない」「自 分にとって職業につくことは,それほど重要な ことではない」などの項目に高い因子負荷量を 得ている。これらの項目は職業決定を猶予して 当面のところは職業について考えたくないとい う気持ちを表している。そこで下山(1986)と 同様にこの因子を「猶予」の因子と命名した。 第 4 因子は固有値1. 17,プロマックス回転後は 「職業に関する情報がまだ十分にないので,情 表 1  友人関係項目群の因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 友達のやっていることに引きずり込まれて困る 友達の考えていることがわからなくなって不安になる 友達の誘いを断れず困る 友達に「仲間はずれにされた」と感じることがある 友達といると自分のやりたいことができない 友達と意見が違うと不安になる 友達とは気持ちが通いあっている 友達を信頼している 自分は友達に十分受け入れられていると思う 友達と意見が対立しても自分をなくさないでいられる 友達と違う意見でも自分の意見はきちんと言う 友達と一緒にいても自分の意志で行動している 自分が友達にどう思われているか気になる 友達には様々な点で負けたくない 友達よりいい仕事につきたい 友達の方がテストの点がいいと不安になる  .833  .621  .564  .547  .482  .462  .028 -.041 -.004  .059  .115 -.081  .243 -.074 -.038  .238 -.012  .052 -.033 -.145 -.432  .080  .834  .830  .591 -.016  .168  .050  .198 -.022 -157  .127  .172 -.160 -.084  .074  .080 -.359  .061 -.095  .287  .805  .756  .655 -.298 -.060  .155 -.090  .016  .065 -.106 -.016  .002  .022 -.084  .000 -.003 -.152  .078  .195  .093  .924  .633  .455 因子相関行列   Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ ─ -.367 ─ -.449 .237 ─  .247  .055  .047 ─

(5)

報を集めてから決定したい」「職業は決まって いないが,今の関心を深めていけば職業につな がってくると思う」「これだと思う職業が見つ かるまでじっくり探していくつもりだ」などの 項目に高い因子負荷量を得ている。これらの項 目は職業選択において積極的に模索している状 態を示している。そこで下山(1986)と同様に この因子を「模索」因子と命名した。各因子に ついて因子負荷量が.400より大きく,かつ他の 因子の因子負荷量が.350以下である項目をその 因子に所属するものとし,因子内の項目の平均 点(下位尺度得点)を算出した。なお本研究で は「できることなら職業決定は,先に延ばし続 けておきたい」の項目は「未熟・混乱」因子に 所属しているが,吉村(2018)では「猶予」因 子に所属していた。これ以外については吉村 (2018)の研究とほぼ同様の結果が得られてい る。また下山(1986)の研究と比較すると「未 熟」因子と「混乱」因子が,本研究では「未熟・ 混乱」という職業意識の不安な側面を示す 1 因 子にまとまっている。したがって因子数も 5 因 子から 4 因子へとややシンプルになっている。 大学生活自己効力感項目群の因子分析 大学 生活自己効力感に関する12項目について因子分 析を行った。固有値の推移と解釈可能性から因 子数を 3 個(累積寄与率58. 9%)に決定した(表 3 )。第 1 因子は固有値4. 40,プロマックス回 転後は「何かをするときにはしっかりと目標を 設定し,行動することができる」「大学生活に おいて計画をしっかり立て,スケジュールを管 理することができる」「今の学生生活はこれで 表 2  職業未決定項目群の因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 将来の職業のことを考えると気が滅入ってくる 誤った職業決定をしてしまうのではないかという不安があり,決定できない これまで,自分自身で決定するという経験が少なく,職業決定のことを考えると不安になる 自分一人で職業を決める自信がない 職業決定のことを考えると,とてもあせりを感じる できることなら職業決定は,先に延ばし続けておきたい 自分が職業としてどのようなことをやりたいのかわからない 生活が安定するなら,職業の種類はどのようなものでもよい 自分を採用してくれる所なら,どのような職業でもよいと思っている せっかく大学に入ったのだから,今は職業のことは考えたくない 自分にとって職業につくことは,それほど重要なことではない 職業に関する情報がまだ十分にないので,情報を集めてから決定したい 職業は決まっていないが,今の関心を深めていけば職業につながってくると思う これだと思う職業が見つかるまでじっくり探していくつもりだ できるだけ有名なところに就職したいと思っている  .902  .727  .659  .641  .626  .619  .487 -.087  .290 -.040 -.045  .155 -.055  .024 -.052 -.023 -.018  .096  .034 -.025 -.114  .153  .984  .563  .008  .150 -.016  .017 -.341  .098 -.067 -.031 -.051  .005 -.057  .313 -.029  .068  .068  .993  .405 -.019 -.025  .064 -.019 -.166  .051 -.053  .143  .195 -.150  .214  .153 -.140  .068 -.115  .645  .464  .430  .339 因子相関行列   Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ ─  .347 ─  .323 .197 ─  .560  .150  .100 ─ 表 3  大学生活自己効力感項目群の因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 何かをするときにはしっかりと目標を設定し,行動することができる 大学生活において計画をしっかり立て,スケジュールを管理することができる 今の学生生活はこれでいいのかと常に再確認し,課題を見つけることができる 大学生活で自らやるべきことを見つけて積極的に取り組むことができる 課題に対していろいろなアイデアを考え,新しいものや方法を造り出すことができる グループで作業をするとき,メンバーと積極的に交流できる 意見の違いや立場の違いがあっても,相手を尊重し理解することができる 集団で作業をするとき,周りの状況を理解した上で自分の役割を果たすことができる 社会のルールや人との約束を守り,行動することができる 相手の話をていねいに聞き,相手の意見を引き出すことができる ストレスを感じることがあっても前向きにとらえ,柔軟に対応することができる 自分の意見をわかりやすく整理し,相手に理解してもらえるよう伝えることができる  .845  .763  .693  .644  .522  .451 -.167  .197 -.010  .008  .150 -.090 -.056 -.010 -.050  .066 -.120  .176  .799  .576  .547  .409  .257 -.069 -.042 -.221 -.022  .041  .261  .154 -.116  .116 -.080  .294  .078 1.075 因子相関行列   Ⅰ Ⅱ Ⅲ ─  .347 ─  .323 .197 ─

(6)

いいのかと常に再確認し,課題を見つけること ができる」「大学生活で自らやるべきことを見 つけて積極的に取り組むことができる」などの 項目に高い因子負荷量を得ている。これらの項 目は大学生活においてしっかりと目標や計画を 定め,主体的かつ積極的に取り組む姿勢を表し ている。したがって吉村(2018)と同様に,こ の因子を「計画性と主体的行動力」の因子と命 名した。第 2 因子は固有値1. 63,プロマックス 回転後は「意見の違いや立場の違いがあっても, 相手を尊重し理解することができる」「集団で 作業をするとき,周りの状況を理解したうえで 自分の役割を果たすことができる」「社会の ルールや人との約束を守り,行動することがで きる」「相手の話をていねいに聞き,相手の意 見を引き出すことができる」などの項目に高い 因子負荷量を得ている。これらの項目は相手を 尊重し相手の話をしっかり聞けることや,ルー ルや約束を守り協調的に行動できることなど, 集団やチームとして活動するうえで重要な能力 を表している。そこで吉村(2018)と同様に, この因子を「協調性とチームワーク」の因子と 命名した。第 3 因子は固有値1. 04,プロマック ス回転後は「自分の意見をわかりやすく整理し, 相手に理解してもらえるよう伝えることができ る」という項目に高い因子負荷量を得ている。 この項目はコミュニケーションの中でも特に発 信力,伝達力に関する項目であると考えられる。 そこで吉村(2018)と同様に,この因子を「分 かりやすく伝える力」の因子と命名した。各因 子について因子負荷量が.400より大きく,かつ 他の因子の因子負荷量が.350以下である項目を その因子に所属するものとし,因子内の項目の 平均点(下位尺度得点)を算出した。本研究に おいても吉村(2018)の研究とほぼ同様の結果 が得られた。 ハッピネス尺度項目群の因子分析 ハッピネ ス尺度に関する12項目について因子分析を行っ た。固有値の推移と解釈可能性から因子数を 4 個(累積寄与率73. 2%)に決定した(表 4 )。 第 1 因子は固有値5. 10,プロマックス回転後は 「将来に夢を持っている」「夢を実現しようと意 欲に燃えている」「生きていく上でめざす目標 がある」などの項目に高い因子負荷量を得てい る。これらの項目は将来に向けて積極的な展望 を持っていることを示している。そこで吉森他 (1992)の結果を参考にし,この因子を「将来 展望」の因子と命名した。第 2 因子は固有値 1. 49,プロマックス回転後は「毎日の生活がつ まらないと感じている(逆転項目)」「毎日の生 活にハリがない(逆転項目)」「生き方に自信が 持てない(逆転項目)」などの項目に高い因子 負荷量を得ている。これらの項目は毎日の生活 の充実感を示している。そこで吉森他(1992) の結果を参考にし,この因子を「生活充実感」 の因子と命名した。第 3 因子は固有値1. 26,プ ロマックス回転後は「私のことを頼りがいがあ 表 4  ハッピネス尺度の因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 将来に夢を持っている 夢を実現しようと意欲に燃えている 生きていく上でめざす目標がある 毎日の生活がつまらないと感じている(逆転) 毎日の生活にハリがない(逆転) 生き方に自信が持てない(逆転) 私のことを頼りがいがあると思う人がいる 人に誇れるものがある 周りの人々の中で,自分の個性が生かされている 少しずつ成長しているような気がしている 心の底から笑ったり,怒ったり,泣いたりすることがある 親しく打ち解けて話せる人がいる  .911  .810  .776  .065 -.062  .026 -.092  .036  .046  .100 -.025  .023  .102 -.066 -.047  .889  .866  .567  .089 -.029 -.070 -.058 -.029  .030 -.108  .067  .036  .022  .113 -.200  .799  .679  .657  .551 -.081  .057  .083 -.059 -.053 -.023  .003  .023 -.057  .143 -.109  .158  .872  .619 因子相関行列   Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ ─ -.478 ─  .618-.639 ─  .293 -.389  .559 ─

(7)

ると思う人がいる」「人に誇れるものがある」 「周りの人々の中で,自分の個性が生かされて いる」「少しずつ成長しているような気がして いる」などの項目に高い因子負荷量を得ている。 これらの項目は自分を評価し肯定的に捉えてい る状態を示している。そこで吉森他(1992)の 結果を参考にし,この因子を「自己肯定感」の 因子と命名した。第 4 因子は固有値0. 93,プロ マックス回転後は「心の底から笑ったり,怒っ たり,泣いたりすることがある」「親しく打ち 解けて話せる人がいる」などの項目に高い因子 負荷量を得ている。これらの項目は喜怒哀楽の 感情が豊かであり,また自分の話をしっかり聞 いてくれる人が存在することを示している。心 を許せる人がいて自分の感情を素直に表現する ことができるならば,たとえストレスがあって も緩和されるであろう。そこで吉森他(1992) と同様にこの因子を「ストレスバッファ」の因 子と命名した。各因子について因子負荷量 が.500より大きく,かつ他の因子の因子負荷量 が.350以下である項目をその因子に所属するも のとし,因子内の項目の平均点(下位尺度得点) を算出した。なお「生活充実感」の因子につい ては,得点が高くなるほど生活充実感が高くな るよう逆転させて平均点を求めた。本研究では 吉村(2018)の研究とほぼ同様の結果が得られ た。また吉森他(1992)の結果と比較すると因 子数は 4 個と同じであるが,各因子に含まれる 項目にわずかながら違いがみられる。解釈の際 にはこの点に留意することが重要であろう。 友人関係が幸福感の諸要因に与える影響 本 研究では吉森他(1992)が作成したハッピネス 尺度を用いて幸福感の諸要因を測定した。この 尺度は「将来展望」「生活充実感」「自己肯定感」 「ストレスバッファ」の 4 因子で構成されてい る。そこで友人関係と幸福感の関係をさらに詳 しく検討するために,友人関係の 4 因子を説明 変数とし,ハッピネス尺度の 4 因子をそれぞれ 目的変数とする一括投入方式の重回帰分析を 行った(表 5 )。 「将来展望」因子に対しては,友人関係の「不 安・葛藤」因子が有意な負の影響を与えていた。 したがって友人との関係に不安や悩みを抱えて いたり,友人との関係に葛藤を感じていたりす ると,将来に夢を持つことが難しくなり,夢を 実現しようという意欲も低下するようである。 「生活充実感」因子に対しては,友人関係の 「不安・葛藤」因子が有意な負の影響を与えて いた。したがって友人との関係に不安や悩みを 抱えていたり,友人との関係に葛藤を感じてい たりすると,毎日の生活をつまらないと感じ, 生き方にも自信が持てなくなるようである。 「自己肯定感」の因子には,友人関係の「信 頼・安定」因子と「独立」因子が有意な正の影 響を与えていた。それに対し「不安・葛藤」因 子は有意な負の影響を与えていた。したがって 友達を信頼し,気持ちが通いあっていると感じ ている学生は,周りからも信頼され,自分の個 性を肯定することができるようである。また友 達と意見が異なっても,傷つくことを恐れ安易 に同調するのではなく,自分の意見をしっかり 伝えることができれば,周りの人間から信頼さ れ,頼りにされるようになり,成長していると いう実感が得られるのであろう。しかしながら 友人との関係に不安や悩みを抱えていたり,友 人との関係に葛藤を感じていたりすると,自己 評価が下がり,周りからの信頼や自己の成長を 表 5  重回帰分析の結果(友人関係とハッピネス尺度) ハッピネス尺度 将来展望 生活充実感 自己肯定感 ストレスバッファ β ρ β ρ β ρ β ρ 不安・葛藤 信頼・安定 独立 ライバル意識 -.216 -.004  .069  .023  .005  .961  .345  .744 -.392  .101  .009  .025  .000  .143  .901  .703 -.154  .243  .241 -.031  .028  .000  .000  .620 -.035  .430  .029  .058  .624  .000  .662  .362 R2  .059  .011  .192  .000  .235  .000  .209  .000

(8)

感じることができなくなるようである。 「ストレスバッファ」因子に対しては,友人 関係の「信頼・安定」因子が有意な正の影響を 与えていた。友達を信頼し,気持ちが通いあっ ていると感じている学生は,友だちに対して自 分の喜怒哀楽を素直に表現することができ,本 音の話を聞いてもらうことにより,ストレスを 緩和することができるのではないだろうか。 本研究の結果は吉村(2018)の結果と類似し ているが,一部異なる結果も見られた。本研究 では「将来展望」および「自己肯定感」に対し て友人関係の「不安・葛藤」因子が有意な負の 影響を与えていたが,吉村(2018)の研究では このような効果は見られなかった。本研究の結 果は「不安・葛藤」因子の重要性を示唆するも のであると考えられる。ただ「将来展望」に関 しては R2の値がやや低いので解釈には注意が 必要であろう。 職業未決定が幸福感の諸要因に与える影響  「職業に就く準備をする」という課題はHavighurst (1972,児玉・飯塚訳,2004)が青年期の発達 課題として挙げた 8 つの課題の中のひとつであ る。将来の職業に対してどのように考え,どの ように準備を行うかというキャリア意識の形成 は,青年期の重要な発達課題であり,それをう まく達成することは幸福感と深く結び付く可能 性がある(吉村,2009,2012,2014,2015, 2016,2017,2018)。そこでキャリア意識と幸 福感の関係をさらに詳しく検討するために,職 業未決定の 4 因子を説明変数とし,ハッピネス 尺度の 4 因子をそれぞれ目的変数とする一括投 入方式の重回帰分析を行った(表 6 )。 「将来展望」因子に対しては,職業未決定の 「未熟・混乱」因子が有意な負の影響を,また 「模索」因子が有意な正の影響を与えていた。 キャリア意識が未成熟で,職業決定に不安や焦 りを感じ,気が滅入ってくると,将来に対する 夢や目標を持つことが難しく,夢を実現しよう という意欲も低下するようである。しかしなが ら今の時点で職業が決まっていなくても,いろ いろと情報を集めじっくりと考えていきたいと いう前向きな気持ちを持っている学生は,将来 に対して夢や目標を持ち,その夢を実現しよう という意欲も高いようである。 「生活充実感」因子には,職業未決定の「未 熟・混乱」因子が有意な負の影響を与えていた。 自分が職業としてどのようなことをやりたいの かわからず,一人で職業を選ぶ自信がない情緒 的に混乱した学生は,生き方にも自信が持てず, 毎日の生活がつまらないと感じているようであ る。 「自己肯定感」の因子に対しては,職業未決 定の「未熟・混乱」因子が有意な負の影響を与 えていた。職業決定を前にしてキャリア意識の 形成が不十分で,情緒的に混乱している学生は, 人に誇れるものがないと感じるなど,自己評価 が下がり,自分を肯定的に捉えることが難しく なるようである。 「ストレスバッファ」因子には,職業未決定 の「安直」因子が有意な負の影響を与えていた。 職業について深く考えようとせず,就職できる ならどのような職業でもよいという安易な考え を持っている学生は,親しく打ち解けて話せる 相手があまりおらず,素直に自分の喜怒哀楽を 表現することも少ないようである。 これらの結果は吉村(2018)の結果と類似し た部分が多い。しかしながら一部異なる部分も 表 6  重回帰分析の結果(職業未決定とハッピネス尺度) ハッピネス尺度 将来展望 生活充実感 自己肯定感 ストレスバッファ β ρ β ρ β ρ β ρ 未熟・混乱 安直 猶予 模索 -.521 -.128 -.047  .148  .000  .052  .444  .018 -.377 -.129 -.075  .029  .000  .070  .258  .670 -.374 -.101  .045  .127  .000  .169  .509  .070 -.005 -.173 -.070  .078  .953  .028  .337  .297 R2  .323  .000  .217  .000  .152  .000  .047  .039

(9)

みられた。吉村(2018)の研究では「生活充実 感」および「ストレスバッファ」に対して職業 未決定の「模索」因子が有意な正の影響を与え ていたが,本研究ではこのような効果は見られ なかった。この点について一義的な解釈は難し いが,「模索」因子の効果については引き続き 検討していく必要がある。また「ストレスバッ ファ」に関しては R2の値がやや低いので解釈 には十分な注意が必要であろうと思われる。 大学生活自己効力感が幸福感の諸要因に与え る影響 吉村(2018)は Bandura(1977)の 自己効力(self-efficacy)という概念を,大学 生活の領域に適応し,大学生活自己効力感とい う概念を提唱している。これは充実した大学生 活を送るために必要とされる行動を,どの程度 効果的に遂行できるかという主観的認知である。 この大学生活自己効力感と幸福感の関係をさら に詳しく検討するために,大学生活自己効力感 の 3 因子を説明変数とし,ハッピネス尺度の 4 因子をそれぞれ目的変数とする一括投入方式の 重回帰分析を行った(表 7 )。 「将来展望」因子に対しては,大学生活自己 効力感の「計画性と主体的行動力」因子が有意 な正の影響を与えていた。大学生活において しっかりと目標や計画を定め,主体的かつ積極 的に取り組む姿勢を持っている学生は,現在の 学生生活だけでなく卒業後の将来についても しっかりとした展望を持ち,夢を実現しようと 意欲に燃えているようである。 「生活充実感」の因子には,大学生活自己効 力感の「計画性と主体的行動力」因子が有意な 正の影響を与えていた。学生生活を常に振り返 り,さまざまな課題に対してしっかりと目標や 計画を定め,積極的に取り組んでいる学生は, 毎日の生活が充実し,生き方にも自信が持てて いるようである。 「自己肯定感」の因子に対しても,大学生活 自己効力感の「計画性と主体的行動力」因子が 有意な正の影響を与えていた。大学生活におい てしっかりと目標や計画を定め,スケジュール を管理しながら自らの課題に積極的に取り組む ことができる学生は,自分に誇りを感じ,成長 しているという実感を持つことができるようで ある。 「ストレスバッファ」因子についても,大学 生活自己効力感の「計画性と主体的行動力」因 子が有意な正の影響を与えていた。大学生活に おいてしっかりと目標や計画を定め主体的に行 動し,周りのメンバーとも積極的に交流できる 学生は,素直に自分の感情を表現し,本音の話 をすることができるようである。したがってス トレスに対する耐性も高いのではないだろうか。 ただこれについては R2の値がかなり低いので 解釈の際には十分な注意が必要であろうと思わ れる。 本研究の結果を吉村(2018)の結果と比較す ると,「計画性と主体的行動力」因子の効果に ついてはほぼ同様の結果が得られている。しか しながら吉村(2018)の研究で見られた「協調 性とチームワーク」因子や「分かりやすく伝え る力」因子の効果は,本研究ではまったくみら れなかった。この点については項目内容や項目 数の変更も含めて,慎重に再検討を行う必要が あると思われる。 幸福感の諸要因が人生満足感に与える影響  Diener et al.(1985)の人生満足尺度は,主観 的幸福感を認知的な単一の要因として捉えるも のであり, 5 項目から単一の満足感得点を求め 表 7  重回帰分析の結果(大学生活自己効力感とハッピネス尺度) ハッピネス尺度 将来展望 生活充実感 自己肯定感 ストレスバッファ β ρ β ρ β ρ β ρ 計画性と主体的行動力 協調性とチームワーク 分かりやすく伝える力  .545 -.126  .001  .000  .077  .985  .362  .021  .023  .000  .787  .762  .485  .100  .025  .000  .148  .711  .173  .010  .001  .026  .900  .992 R2  .255  .000  .145  .000  .299  .000  .032  .078

(10)

ている。吉森他(1992)のハッピネス尺度は, 主観的幸福感をさまざまな側面から捉えようと する多面的な尺度であり, 4 因子の下位尺度か ら構成されている。そこで幸福感の諸要因と人 生満足感との関係をさらに詳しく検討するため に,ハッピネス尺度の 4 因子を説明変数とし, 人生満足感を目的変数とする一括投入方式の重 回帰分析を行った(表 8 )。 人生満足感に対して,ハッピネス尺度の「生 活充実感」因子と「自己肯定感」因子が有意な 正の影響を与えていた。自分の生き方に自信を 持ち,充実した毎日を送っている学生は,自分 の人生に満足し,人生を素晴らしいと感じてい るようである。また周りから信頼され,誇りを 持ちながら,日々成長を感じている学生は,人 生で大切なものを得てきたと実感し,自分の人 生に満足しているようである。 友人関係,キャリア意識および大学生活自己 効力感が幸福感および人生満足感に与える影響  本研究の目的は,女子大学生の友人関係,キャ リア意識および大学生活自己効力感が,幸福感 を構成する諸要因を介して,人生満足感にどの ような影響を与えるかを検討することであった。 重回帰分析の結果は,友人関係やキャリア意識 および自己効力感などの要因が,幸福感と密接 な関係を持っていることを示唆している。さら に幸福感の諸要因も人生満足感に大きな影響を 与えていた。そこで本研究では友人関係,キャ リア意識,自己効力感などの要因が幸福感の諸 要因に影響を及ぼし,さらに幸福感の諸要因が 人生満足度に影響を及ぼすという因果プロセス を構成し,最尤法による共分散構造分析を用い て検討を行った。なお分析には IBM SPSS AMOS 24. 0を使用した。 まず外生変数としては友人関係から「不安・ 葛藤」と「信頼・安定」を,職業未決定からは 「未熟・混乱」を,そして大学生活自己効力感 からは「計画性と主体的行動力」(図 1 では「計 画性と主体性」と表記)をモデルに含めた。ま た幸福感の「生活充実感」と「自己肯定感」を 媒介変数としてモデルに含めた。さらに内生変 数として「人生満足感」をモデルに含めた。潜 在変数については,因子分析の結果から最も因 子負荷量の高い 2 項目をそれぞれ選出して観測 変数として使用した。なお修正指数を参考にし て,有意味な解釈が可能である「不安・葛藤」 と「未熟・混乱」の間に共分散を仮定した。両 概念には情緒的な混乱という共通性が考えられ る。パス係数の絶対値が小さくかつ実質的な意 味もないと考えられるパスを 1 つ削除し再分析 を行うというプロセスを順次繰り返し,最終的 に図 1 のモデルが得られた。モデルの当てはま りを示す適合度指標は,GFI=.914,AGFI=.863, RMSEA=.081であった。RMSEA の値がわずか に.08を超えているが,GFI や AGFI の値も参 考にして最終モデルとした。 友人関係における「不安・葛藤」は「生活充 実感」に負の影響を与えていた。したがって友 人との関係に悩み,不安や葛藤を感じている学 生は,毎日の生活がつまらなく生き方にも自信 が持てなくなるようである。また「不安・葛藤」 は「生活充実感」を介して「人生満足感」にも 負の影響を与えていた。したがって友人関係の 悩みは,人生の満足感を低下させる原因とも なっている。これに対し友人関係の「信頼・安 定」は「生活充実感」と「自己肯定感」に正の 影響を与えていた。したがって信頼しあえる友 人がいて気持ちが通いあっていれば,毎日の生 活が楽しく充実し,自分の成長を感じながら自 信をもって生きていけるようである。また「信 頼・安定」は「生活充実感」や「自己肯定感」 を介して「人生満足感」にも正の影響を与えて いた。気持ちが通いあい信頼できる友人を得る ことは,人生の満足感を大きく高めることにも つながるようである。職業未決定における「未 熟・混乱」は「生活充実感」と「自己肯定感」 表 8  重回帰分析の結果(ハッピネス尺度と人生満足感) 人生満足感 β ρ 将来展望 生活充実感 自己肯定感 ストレスバッファ .065 .492 .202 .082 .276 .000 .004 .143 R2 .485 .000

(11)

に負の影響を与えていた。したがってキャリア 意識が未成熟で情緒的に混乱した状態にあると, 毎日の生活がつまらなく感じられ,自信が持て なくなり自己評価も下がるようである。また 「未熟・混乱」は「生活充実感」や「自己肯定感」 を介して「人生満足感」にも大きな負の影響を 与えていた。したがってキャリア意識が十分に 形成されず情緒的に混乱した状態であると,人 生の満足感は大きく低下するようである。大学 生活自己効力感の「計画性と主体性」は「自己 肯定感」に正の影響を与えていた。したがって 大学生活においてしっかりと目標や計画を定め, 主体的に行動することができる学生は,自分に 誇りを持ち自分を肯定的に捉えることができる ようである。また「計画性と主体性」は「自己 効力感」を介して「人生満足感」にも正の影響 を与えていた。目標を持ちスケジュールを管理 しながら主体的に大学生活を送ることは,人生 の満足感を高めることにもつながるようである。 以上の結果は大学生活における友人関係や キャリア意識,自己効力感などが,幸福感の諸 要因を介して人生の満足感にさまざまな影響を 与えていることを示している。「人生満足感」 に対する標準化総合効果の値は,「不安・葛藤」 が-.087,「信頼・安定」が.293,「未熟・混乱」 が-.421,「計画性と主体性」が.092であった。 キャリア意識が未成熟であったり,友人関係に 悩んだりしていると人生の満足度は大きく低下 することになる。反対に友人関係に恵まれ,大 学生活を目標をもって主体的に送ることができ るならば,人生の満足度を高めることができる。 したがって大学生活においては,豊かな友人関 係を築き,将来に向けたキャリア意識を成熟さ せながら,毎日の生活を計画的にかつ主体的に 送ることが重要となってくる。そのような毎日 が人生そのものへの満足へとつながっていくの であろう。 まとめと今後の課題 本研究では青年期の女子大学生を対象として, 友人関係,キャリア意識,大学生活自己効力感 などの要因が,幸福感の諸要因にどのような影 響を与えているかについて検討を行った。また 幸福感の具体的な諸要因が,認知的な人生の満 足感にどのような影響を与えているかについて も検討を行った。さらにこれらの知見に基づき, 友人関係,キャリア意識および自己効力感など の要因が,幸福感の諸要因を介して,人生の満 足感に影響を与えるという因果プロセスについ 不安・葛藤 信頼・安定 未熟・混乱 計画性と主体性 生活充実感 自己肯定感 人生満足感 -.19 -.50 -.51 .25 .25 .44 .42 .46 .38 .49 .32 .49 図 1  友人関係,キャリア意識,大学生活自己効力感が幸福感および人生満足感に与える影響 注)誤差および潜在変数に関する観測変数は省略した。

(12)

ても検討を行った。 幸福感については「将来展望」「生活充実感」 「自己肯定感」「ストレスバッファ」の 4 因子が 抽出された。そこでこれらの因子に対して友人 関係,キャリア意識,大学生活自己効力感など の要因が与える影響について検討を行った。 友人関係については,「不安・葛藤」「信頼・ 安定」「独立」「ライバル意識」の 4 因子が抽出 された。「不安・葛藤」は幸福感の「将来展望」 「生活充実感」「自己肯定感」に有意な負の影響 を与えていた。したがって友人関係に不安や葛 藤を抱いていると,将来に夢を持ちにくく,毎 日の生活もつまらなく感じ,自信も持てなくな るようである。これに対し「信頼・安定」は幸 福感の「自己肯定感」と「ストレスバッファ」 に有意な正の影響を与えていた。信頼でき気持 ちが通い合う友人がいると,自分に誇りが持て, 素直に喜怒哀楽を表現することができるのでス トレスが緩和されるのであろう。「独立」は幸 福感の「自己肯定感」に有意な正の影響を与え ていた。友達と意見が異なる場合でも,自分を 見失わず,自分の考えをはっきりと伝えること ができるのであれば,自分に誇りを持ち,自分 の個性を肯定的に捉えることができるようであ る。「ライバル意識」は幸福感に有意な影響を 与えていなかった。友達に負けたくないという 気持ちは,幸福感に直接つながらないようであ る。 職業未決定については,「未熟・混乱」「安直」 「猶予」「模索」の 4 因子が抽出された。「未熟・ 混乱」は幸福感の「将来展望」「生活充実感」「自 己肯定感」に有意な負の影響を与えていた。し たがってキャリア意識が未成熟で,職業選択に 不安や焦りを感じ情緒的に混乱していると,将 来の夢を描くことが難しく,毎日の生活もつま らないものとなり,自分に誇りを持つことが難 しくなるようである。「安直」は幸福感の「ス トレスバッファ」に有意な負の影響を与えてい た。職業について深く考えようとせず,就職で きればどこでもよいという安直な考えを持って いる学生は,親しく本音で話し合える相手がお らず,素直に喜怒哀楽を表すこともできないよ うである。「猶予」は幸福感に有意な影響を与 えていなかった。まだしばらく職業のことは考 えたくないという気持ちは,幸福感に直接つな がらないようである。「模索」は幸福感の「将 来展望」に有意な正の影響を与えていた。職業 決定に向けて情報をしっかりと収集し,じっく りと考えていきたいという前向きな気持ちを 持っている学生は,将来に夢を持ち,目標を定 め,意欲的な毎日を送っているようである。 大学生活自己効力感については,「計画性と 主体的行動力」「協調性とチームワーク」「分か りやすく伝える力」の 3 因子が抽出された。「計 画性と主体的行動力」は幸福感の 4 因子全てに 有意な正の影響を与えていた。大学生活におい てしっかりと目標や計画を定め,スケジュール を管理しながらさまざまな課題に主体的に取り 組むことができる学生は,将来に対する展望を しっかりと持ち,充実した毎日を送っているよ うである。またそのような学生は自分の感情を 素直に表現することで周りのメンバーとも本音 の話ができ,自分に誇りを感じ,日々成長して いるという実感を持つことができるようである。 「協調性とチームワーク」と「分かりやすく伝 える力」については幸福感に有意な影響を与え ていなかった。周りの人々と協調しながら相手 の話を丁寧に聞いたり,自分の意見を相手にわ かりやすく伝えたりする力は,幸福感と直接結 びつくものではないようである。 友人関係,キャリア意識および自己効力感な どの要因が,幸福感の諸要因を介して,人生の 満足感に影響を与えるという因果プロセスにつ いては,共分散構造分析を用いて検討を行った。 幸福感の「生活充実感」や「自己肯定感」を介 して「人生の満足感」に最も大きな影響を与え ているのはキャリア意識の「未熟・混乱」で あった。キャリア意識が未成熟で情緒的に混乱 した状態であると,毎日の生活がつまらないも のとなり,自分を肯定的に捉えることもできな くなる。その結果として自分の人生に対する満 足感も大きく低下してしまうことになる。この 結果は,大学生活においてキャリア意識を十分 に形成することが,人生の満足感を左右する非

(13)

常に大きな要素であることを示している。職業 選択に対して逃げることなく正面から向き合い, 社会や自分自身について深く考え,将来に向け て準備を積み重ねることが重要となってくる。 そのためには学生自身が主体的に行動すること が何より重要であるが,大学としてもさまざま な形でキャリアサポートを行うことが必要であ ると考えられる。友人関係については「信頼・ 安定」と「不安・葛藤」が,幸福感の「生活充 実感」や「自己肯定感」を介して「人生の満足 感」に大きな影響を与えていた。信頼できる友 人がいて気持ちが通い合っていれば人生の満足 度は高まるが,友人関係に悩み不安や葛藤を抱 えていると人生の満足度は下がってしまう。 Havighurst(1972,児玉・飯塚訳,2004)は 青年期の発達課題として,同世代の男女と新し い成熟した関係を結ぶことを挙げているが,こ の課題が達成できるかどうかは人生に対する満 足感に大きな影響を与えているようである。大 学生活自己効力感の「計画性と主体性」も「自 己効力感」を介して人生の満足度に影響を与え ていた。さまざまな課題に対して目標と計画を しっかりと立て,積極的に取り組むことによっ て,自分に対する誇りが生まれ,人生の満足感 も高まっていく。計画性と主体性は大学時代だ けでなく,社会に出てからも必要とされる力で ある。経済産業省が提唱している社会人基礎力 の中にも「主体性」と「計画力」が含まれてい る(経済産業省,2006)。したがって学生時代 から,日々の課題の中で計画性や主体性を身に 着けておくことは,人生の満足感を高めること になり,また社会に出て活躍するための準備に もなるといえよう。 最後に今後の課題についていくつか述べたい。 本研究では幸福感の諸要因に影響を与える要因 として,友人関係,キャリア意識および自己効 力感を取り上げて検討を行った。しかしながら 幸福感に影響を与える要因はこれ以外にも考え られる。たとえば Havighurst(1972,児玉・ 飯塚訳,2004)は青年期の発達課題として成熟 した友人関係だけでなく,異性との豊かな愛情 関係を挙げている。恋愛や結婚に関する意識が 幸福感に影響を与える可能性は十分に考えられ る。この点についてもさらに詳しく検討する必 要があると思われる。 また本研究では幸福感の諸要因を測定するた めに,吉森他(1992)のハッピネス尺度を使用 した。しかしながら幸福感の諸要因を策定する 尺度としては Ryff(1989)の心理的 well-being 概念に基づいて作成された尺度(Ryff & Keys, 1995),およびその日本版心理的 well-being 尺 度(西田,2000)などもある。また主観的幸福 感を単一の要因としてとらえようとするものに は本研究で用いた Diener et al.(1985)の人生 満足尺度の他にも,Lyubomirsky & Lepper (1999)の Subjective Happiness Scale および その日本版主観的幸福感尺度(島井・大竹・宇 津木・池見・Lyubomirsky,2004)などもある。 これらの尺度も参考にしながら,新たに因果プ ロセスを構築し実証的に検討することも重要で あると思われる。 さらに調査対象者についても課題が残ってい る。本研究の調査対象者は女子大学生であった。 友人関係に関する意識やキャリア意識,また大 学生活自己効力感などに対する認知構造は,男 性と女性で異なる可能性がある。したがって今 後は男子大学生も含めた大学生全体を対象とす る調査を行い,因果プロセスの比較検討を行う ことが必要であると思われる。 引用文献 安達智子(2001).大学生の進路発達過程─社 会・認知的理論からの検討─ 教育心理学 研究,49,326-336. 浅井継悟(2014).青年期の過剰適応が主観的幸福 感に及ぼす影響 心理学研究,85,196-202. Bandura, A. (1977). Self-efficacy : Toward a

Unifying Theory of Behavioral Change. Psychological Review, 84, 191-215.

Diener, E., Emmons, R. A., Larsen, R. J., & Griffin, S. (1985). The satisfaction with life scale. Journal of Personality Assessment, 49, 71-75. 榎本淳子(2003).青年期の友人関係の発達的変化

─友人関係における活動・感情・欲求と適 応─ 風間書房.

Havighurst, R. J. (1953). Human development and education. New York : Longmans, Green.

(14)

(ハヴィガースト, R. J. 荘司雅子(監訳)(1995). 人間の発達課題と教育 玉川大学出版部) Havighurst, R. J. (1972). Developmental tasks and

education. New York : Longmans.

(ハヴィガースト, R. J. 児玉憲典・飯塚裕子 (訳)(2004).ハヴィガーストの発達課題と教 育 新装版 川島書店) 経済産業省(2006).社会人基礎力.   〈http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/〉 (2019年11月 9 日)

Lyubomirsky, S., & Lepper, H. S. (1999). A measure of subjective happiness : Preliminary reliability and construct validation. Social Indicators Research, 46,137-155. 牧野由美子・田上不二夫(1998).主観的幸福感と 社会的相互作用の関係 教育心理学研究,40, 52-57. 日本社会心理学会(編)(2009).社会心理学事典  丸善株式会社. 西田裕紀子(2000).成人女性の多様なライフスタ イルと心理的 well-being に関する研究 教育 心理学研究,48,433-443.

Ryff, C. D. (1989). Happiness is everything, or is i t ? E x p l o r a t i o n s o n t h e m e a n i n g o f psychological well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 57, 1069- 1081.

Ryff, C. D., & Keys, C.L. (1995). The structure of psychological well-being revisited. Journal of Personality and Social Psychology, 69, 719- 727.

島 井 哲 志 ・ 大 竹 恵 子 ・ 宇 津 木 成 介 ・ 池 見 陽 ・ Lyubomirsky, S. (2004).日本版主観的幸福感 尺度(Subjective Happiness Scale: SHS)の信 頼性と妥当性の検討 日本公衛誌,10,845- 853. 下山晴彦(1986).大学生の職業未決定の研究 教 育心理学研究,34,20-30. 曽我部佳奈・本村めぐみ(2009).青年期における 大学生の主観的幸福感─その影響要因の探 索に向けて─ 和歌山大学教育学部紀要教 育科学,60,81-87. 徳永美紗子・松下姫歌(2010).青年期の友人関係 における主観的幸福感,ソーシャル・スキル および対人交互作用の質との関連 広島大学 大学院心理臨床教育研究センター紀要,9,80 -90. 冨安浩樹(1997).大学生における進路決定自己効 力と進路決定行動との関連 発達心理学研究, 8,15-25. 吉森譲・植田智・有倉巳幸(1992).ハッピネスに 関する社会心理学的研究(1)─ハッピネス尺 度の開発─ 日本心理学会第56回大会発表 論文集,189. 吉村英(2009).キャリア意識の形成が大学生活の 満足感に及ぼす影響 京都女子大学発達教育 学研究,3,23-33. 吉村英(2012).韓国女子大学生のキャリア意識と 大学生活の満足感および幸福感 京都女子大 学発達教育学研究,6,41-60. 吉村英(2014).女子大学生のキャリア意識と幸福 感─学部間の比較─ 京都女子大学発達 教育学研究,8,31-53. 吉村英(2015).女子大学生における幸福の概念と 幸福感の規定因 京都女子大学発達教育学研 究,9,13-29. 吉村英(2016).大学生における幸福の概念─男 子学生と女子学生の比較─ 京都女子大学 発達教育学研究,10,13-30. 吉村英(2017).青年期の発達課題が幸福感に与え る影響 京都女子大学発達教育学研究,11,1 -13. 吉村英(2018).女子大学生の友人関係,キャリア 意識および大学生活自己効力感が学業成績, 大学生活満足度および幸福感に与える影響  京都女子大学発達教育学研究,12,1-14.

参照

関連したドキュメント

関ルイ子 (金沢大学医学部 6 年生) この皮疹 と持続する発熱ということから,私の頭には感

ロボットは「心」を持つことができるのか 、 という問いに対する柴 しば 田 た 先生の考え方を

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

 彼の語る所によると,この商会に入社する時,経歴

   がんを体験した人が、京都で共に息し、意 気を持ち、粋(庶民の生活から生まれた美

■はじめに

○菊地会長 ありがとうござ います。. 私も見ましたけれども、 黒沼先生の感想ど おり、授業科目と してはより分かり

・私は小さい頃は人見知りの激しい子どもでした。しかし、当時の担任の先生が遊びを