第2章 デジタル放送の仕組み 1. 地上デジタル放送の仕組み 地上デジタル放送では、アナログ放送と違いインターネットなどの通信で用いら れているパケットと呼ばれる形式によって情報が送られます。 図10 アナログ放送とデジタル放送の違い (出典:メーカー説明資料) こうした伝送方式の基本構成を信号処理の流れに沿って詳しくみていきましょう。 まず、デジタル化された映像、音声、データが多重化部に送られます。多重化部で は、これらの信号をトランスポートストリーム(TS※1)と呼ばれる伝送に適した信 号形式に多重します。 次にTSの各パケット(TSパケット:188 バイト)に対しリードソロモン符号※ 2のチェックビット(16 バイト)が付加されます。 ※1 TS:ティーエスTransport Streamの略 複数番組における映像、音声、データのそれぞれを分割し、必要な情報を付加 したスロットを順次並べた1本のデータ列である。委託放送事業者は、1つのTSを、他のTSとは無関係に、あたかも1つ の中継器のように使用することができる。BSデジタル放送の伝送方式に採用されているところ。 ※2 リードソロモン符号:Reed-Solomon符号 無線通信、DSLモデム、デジタルTVなどに用いられる誤り訂正符号の一つで、 元のデータに複数のチェックビットを付加したデータブロックを訂正単位としたブロック符号。バースト誤り(ビット誤りが集 中的に発生すること)の検出と訂正を行うことができる。短くて高頻度に発生するようなエラー(ランダムエラー)に対して強 力な訂正能力を持つ。
その後、固定受信向けサービスと携帯・移動受信向けサービスと組み合わせた階層 伝送を行う場合には、TSがそれぞれの階層に分割され、最大3系統の並列処理が行 われます。 階層分割後に、畳み込み符号化が行われ、キャリアの変調方式が指定されます。例 えば、64QAM※1を使用する場合、各キャリアに割り付ける 6 ビットのデータをここ で指定します。 図11 放送局における信号処理の流れ 映像 音声 データ 内符号 畳み込み符号 階層 分割 外符号 リードソロモン符号 TS 多重化部 キャリア 変調 内符号 畳み込み符号 キャリア 変調 階層合 成 キャリア 変調 内符号 畳み込み符号 時間 イン ターリ ー ブ 周波数インタ ーリーブ OFDM フレー ム IFFT ガードインタ ー バ ル付加 OFDM 信号︵ 送 信機︶ へ パイロット信号 制御信号 (TMCC) 階層合成後に、耐マルチパス性能や移動受信性能を強化するために、時間インタ ーリーブ※2と周波数インターリーブがかけられます。
※1 64QAM:sixty four-Quadrature Amplitude Modulationの略 デジタル変調方式の 1 つ。多値直交振幅変調方式である
16QAMからさらに伝送効率を高め、1 シンボルで 6bitの情報を伝送可能にした変調方式。ケーブルモデムのダウンストリ ーム用の変調方式として採用されている。
※2 インターリーブ:「織り込む」という意味で、データをばらばらにしエラーが分散するように配置するため、ディスクメディア
以上の信号処理の後、受信機のための同期再生用パイロット信号や制御信号が付加 され、各搬送波にデータを割り付けるために、OFDM※1フレームが構成されます。 その後、逆フーリエ変換(IFFT)演算により OFDM 信号が生成され、ガードインタ ーバルが付加されて、送信機に送られます。 このようにして放送局の送信機から出された信号は、デジタル放送タワーや中継局 を経由して家庭の固定受信機や移動体受信機、携帯電話などで受信されます。 図12 地上デジタル放送全体イメージ (出典:メーカー説明資料) デジタル受信機は、アナログ受信機とは異なり、受信した電波を復調していただけ では映像信号や音声信号を得ることはできません。 受信した電波を復調しデジタル信号が得られると、まず誤り訂正を行います。誤り 訂正後のデジタル信号は、トランスポートストリーム(TS)と呼ばれるパケット単 位の信号になっています。TSには映像信号や音声信号のパケット以外にさまざまな 制御信号のパケットも含まれていますが、その中から映像信号と音声信号のパケット を選択し、デコード※2することで初めて映像信号や音声信号を得ることができます。
※1 OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexingの略 FDMAやTDMA,CDMAなどの無線アクセス方式のひとつ。諸
外国でのラジオ放送やADSL、ディジタル地上波テレビ放送、一部のPLCモデムなどにも盛り込まれており、移動体通信分 野における第四世代(4G)にも用いることが検討されている。一般的に「直交周波数分割多重」と訳されている。
このような信号処理の流れはBSデジタル受信機と地上デジタル受信機とで大き な違いは無く、選局部や復調部がメディアに応じて異なっています。 地上デジタル受信機の基本的な構成例を図に示します。受信機は次の①∼④の流れ で動作します。 ①選局部で希望の伝送チャンネルが選局され、OFDM 復調部において 0 、 1 のデジタル信号が取り出されます。 ②その後、誤り訂正が行われ、放送局から送り出したTSパケットに戻されます。 ③TSパケットには、映像・音声のパケット以外にデータ放送やEPG※1、選局に必 要な情報などが含まれています。また、地上デジタル放送では1 つの伝送チャン ネルで複数の番組を同時に放送することが可能なので、複数の番組が同じTSと して送られて来ることがあります。多重分離部では、TSパケットを目的別に分 離し、映像・音声のパケットであればMPEG※2デコード部へ送り、データ放送の パケットであればCPU※3へ送ります。 ④MPEGデコード部では、多重分離されたTSから映像信号と音声信号を複号しま す。画像重畳部では、MPEGデコードされた映像信号と、CPUで処理された字 幕やデータ放送の画像などを重ね合わせ、PDP※4やCRT※5の表示部に送ります。 CPU では、データ放送の処理のほかに、リモコンからの信号を処理し、上記 に示した動作を受信機内の各部へ指示したり、双方向サービスにおける通信の処 理なども行います。
※1EPG:イー・ピー・ジー Electric Program Guideの略 新聞や雑誌などに掲載されているテレビ番組表をデジタルデータ
として提供し、画面に表示したり、録画予約を簡単に行なったりするためのシステム。データの提供方法には、地上波や BS/CS放送などの電波に乗せて送るタイプと、インターネット経由で提供するタイプがあり、それぞれにいろいろな規格の ものが使われている。PC用のテレビチューナーでは、地上波に乗せる「ADAMS-EPG」やBSデジタルに乗せるARIB規格 の「EPG」、インターネットを通じて提供する「ADAMS-EPG+」や「iEPG」に対応した製品が発売されている。 ※2 MPEG:エムペグ ITU-TS(国際電気通信連合:旧CCITT)とISO(国際標準化機構)で制定されたデジタル動画と音声の 圧縮・伸長に関する規格。基本的には、動画の 1 コマ目のデータをもとに、2 コマ目はそれと違う部分だけ、3 コマ目は 2 コ マ目と違う部分だけと、差分を記録することで圧縮を実現する。このため動きの大きな動画の場合は、圧縮率が落ちる。 実際に規格の作成にあたったISOの下部組織であるMotion Picture Experts Groupの略称がそのまま規格の名前になっ ている。MPEG-1 は、データ転送レート 1.5MbpsまでのCD、DAT、ハードディスク等のデジタルメディアの動画と関連する音 響を対象とした規格で、Video CDに採用されている。MPEG-2 はデータ転送レート数M∼数十Mで、放送メディアが対象、 DVD-Videoでも採用されている。MPEG-4 は、符号化の向上に加え、画像を物体毎に符号化できるオブジェクトベース符 号化や誤り耐性符号化などを大きな特徴としていて、携帯電話システムに採用されている。
※3CPU:シー・ピー・ユー Central Processing Unitの略。中央演算装置。コンピュータの中心部分で、人間の脳にあたり、
マイクロプロセッサという電子部品が演算や制御を行なう。どの種類のマイクロプロセッサを使うかで、コンピュータ全体の 処理能力が決まるため、コンピュータのスペック表には必ず載っている。種類が同じなら、一般にクロック周波数の高い方 が処理能力が高い。
※4PDP:ピー・ディー・ピー Plasma Display Panelの略 微細な蛍光体をプラズマ放電で発光させ、作像する表示装置。
薄型・軽量・大画面化ならびに高精細化が可能なことから、将来の壁掛けテレビなど次世代テレビとして大きな 注目を集めている。
※5CRT:シー・アール・ティー Cathode Ray Tubeの略。ブラウン管を使用したコンピュータ用の画面表示装置のひとつ。
図13 受信機の基本的な構成 受信ア ン テ ナ 表示部︵CRT / PDP ︺ 選局部 多重分離部 通信部 OFDN 復調部 MPEG デコード部 誤り訂正 画像重畳部 CPU スピー カ ー リモコン 受光部 電話 回 線 / イ ン サ ー ネ ッ ト 等 地上デジタル受信機には、このほかに、双方向サービスで使用するモデムなどの通 信機能や、機種によってはデジタル録画するためのiLINK(IEEE1394※1)端子も装備 されます。 * MPEG-2 Systems の概要
デジタル放送では、MPEG-2 Video や AAA で符号化した映像信号や音声信号などを、 それぞれパケットと呼ばれる一定の構造の信号に収め、これらのパケットを 1 列に並 べて順次伝送します。これを多重化と呼び、MPEG の多重化方式も国際規格(ISO/IEC 13818-1)として規格化されています。この企画を MPEG-2 Systems と呼びます。 MPEG-2 Systemsでは、放送や通信など誤りの発生する伝送路で使われることを想定 した、トランスポートストリーム(TS)と呼ばれるパケット方式や、TSやPS※ 2に変換可能なPES※3パケット方式も規定しています。図にMPEG-2 Systemsの規格の範
囲を示します。なお、誤り訂正符号、変調方式など伝送に関する規定は、この規格の 対象外です。
※1IEEE1394:アイ・トリプルイー Apple社がFireWireの名前で開発した次世代シリアルバスの規格。500Mbpsという高速な
データ転送速度をもつ。1995 年に米国電気電子学会(IEEE:Institute of Electrical and Electronic Engineers)がIEEE1394 として標準化した。メーカーによってi-LINK端子(ソニーVaio)、Lynxなどさまざまな名前で呼ばれている。
※2PS:ピー・エス post scriptの略 Adobe Systems社が開発したページ記述言語(Page Description Language)。DTP
で広まったPDLの事実上の標準である。出力機の解像度に依存せず(device independent)、プリントアウトの結果が美し いのが最大の利点。アウトライン方式の文字をもち、網点で写真などの中間調を表現する。ベジェ曲線と呼ばれる方式で 曲線を表現している。
※3PES:ピー・イー・エス Packetized Elementary Streamの略 連続したデータの伝送形式。受信機(TV)は受け取った
データを再生した後に破棄する。 PES方式で伝送できるデータ形式は、動画(MPEG(Moving Picture Experts Group) 1/2)、Intraフレーム(MPEG2)、音声(AAC)、字幕放送、文字スーパーが含まれる。
図14 MPEG-2 Systems パケット化 MPEG-2 TS 多重化 MPEG-2 トランスポート ストリーム(TS) パケット化 映像PES MPEG-2 PS 多重化 MPEG-2 プログラム ストリーム(PS) MPEG-2 Systems の対象範囲 PES:Packetized Elementary Stream
映像PES 映像データ 映像符号化 音声データ 音声符号化 * TSパケット TSパケットは、188 バイトの固定長のパケットです。この長さは、通信で使われ るATM(Asynchronus Transfer Mode)のパケット長(セル長)との整合性や、誤り訂 正符号を施すことを考慮して決められました。 TSパケットは、パケットヘッダー、アダプテーションフィールド、ペイロード(デ ータ部)からなります。パケットヘッダー長は4 バイト固定です。パケットヘッダー の中のアダプテーションフィールド制御プラグ(2 ビット)によって、パケットヘッ ダーに続くデータ部の構造は3 通りに変わります。映像信号や音声信号などはペイロ ードに収められて伝送されます。アダプテーションフィールドには、PCR(Program Clock Reference)と呼ばれる、1 つの番組の基準となる時刻情報や、TSパケットを 固定長とするためのダミーデータ(スタッフィングバイト)も収められます。 以上のような技術で送受信される地上デジタル放送は、その圧縮技術により6MH z の帯域幅の中で、①高品質な映像・音声を楽しめるハイビジョン放送(HDTV)1 チャンネルまたは②多チャンネル放送(標準テレビ放送(SDTV)3チャンネル程度) が可能となります。
図15 地上デジタルテレビジョン放送の番組構成例 さらに、固定受信向け多チャンネル放送だけでなく、同じ6MHz の帯域幅の中 で携帯・移動受信向けの放送と固定受信向け放送を同時に流すなど、伝送特性(変 調方式、符号化率)の異なる複数の種類の放送を同時に伝送することができるよう になります。 このように、地上デジタル放送では、様々な運用形態の放送を随時に組み合わせ た放送が可能となり、周波数帯域を柔軟に活用することができます。 また、6MHz の帯域の中を13のセグメントに分けて伝送されるため、以下の ようなサービス形態も例示されています 6MHz 6MHz 固定受信向け SDTV番組 携帯・移動受信向け SDTV番組 SDTV3番組程度 又は HDTV1番組程度 (出典:東海総合通信局資料) 番組3 番組1 番組2 番組1 高精細度テレビジョン放送 6MHz アナログ放送 デジタル放送 (SDTV) デジタル放送 (HDTV) (出典:東海総合通信局資料) 図16 地上デジタルテレビジョン放送の運用例
図17 地上デジタル放送のサービス形態例 運 用 形 態 サ ー ビ ス形 態 例 伝 送容 量 の 一 例 (Mbps) 固 定向け:13セグメント H DT V1 CH +デ ータ 固定向け(64QAM) HDTV(1080i)1CH (17.0)+データ( 2.2) 固 定向け:12セグメント S DT V3 CH 移 動向け:1セグメント デ ータ 固定向け(64QAM) SDTV(480i)3CH (16.5)+データ ( 1.2) 移動向け データ:0.56(16QAM)又 は 0.28(DQPSK) 固 定向け:8セグメント S DT V2 CH 移 動向け:5セグメント デ ータ 固定向け(64QAM) SDTV(480i)2CH (11.0)+データ ( 0.8) 移動向け データ:2.81(16QAM)又 は 1.40(DQPSK) 固 定向け:4セグメント S DT V1 CH +デ ータ 移 動向け:9セグメント S DT V1 CH 固定向け(64QAM) SDTV(480i)1CH (5.5)+データ (0.39) 移動向け(16QAM) SDTV(480i)1CH:5.06 注 )伝 送容 量は 、一 例と して 1080i は 17Mbps、 480i は 5.5Mbps を 想定 。 (出典:東海総合通信局資料)
2 世界各国とのデジタル化方式の違い
世界各国では、第1章で見たように既に放送のデジタル化が進んでいますが、地 上デジタル放送の方式は、各国で異なった方式を採用しています。大別すると、欧 州と日本はOFDM方式、米国と韓国はVSB(Vestigial Side Band)方式となってい ます。
表5 地上波デジタルテレビ方式の国別比較
日本(ISDB-T) 欧州(DVB-T) 米国(ATSC) 映像符号化方式 MPEG-2 Video MPEG-2 Video MPEG-2 Video 音声符号化方式 MPEG-2 Audio(AAC) MPEG-2 Audio(BC) MPEG-2 Audio(Dolby AC3)
多重化方式 MPEG-2 Systems MPEG-2 Systems MPEG-2 Systems 変調方式 BST-OFDM QPSK,16QAM,64QAM OFDM QPSK,16QAM,64QAM 8VSB キャリア マルチキャリア マルチキャリア シングルキャリア インターリーブ 周波数・時間インターリーブ 周波数インターリーブ 設定できない セグメント毎の変調 13 セグメントを階層(最大 3 階 層)毎に変調方式を設定可能 設定できない 設定できない 帯域幅 ∼6MHz ∼6MHz ∼8MHz 情報レート ∼23Mbps ∼31Mbps ∼19Mbps 部分受信 ○ ○ ○ マルチパス ○ ○ × 移動受信 ○ △ ×
同じOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing 直交周波数分割多重) 方式でも、日本と欧州では違いがあります。
OFDM方式は、1987年に欧州でデジタル音声方式に採用されて以降、地上 デジタル放送にも採用されてきましたが、日本の方式はこの欧州方式の拡張方式と呼 べるもので、BST(Band Segmented Transmission)という仕組みが付加されています。
この方式の採用により、日本の地上デジタル放送では6MHzの帯域を13のセグ メントに分割して、階層ごとに変調をかけることができるようになるため、先に見た ように、固定向けハイビジョンテレビとデータ放送とか、固定向け標準テレビ+デー タ放送と移動体向け放送とか、様々なサービス形態の組み合わせを安定して受信でき ることができ、米国、欧州と比較して、特に移動体受信の面で優れていると言われて います。
3 ケーブルテレビで地上デジタル放送を伝送する仕組み ケーブルテレビで地上デジタルテレビ放送を伝送する方法としては、以下の3つの 方法が検討されています。これらの方法で伝送されれば、ケーブルテレビにすでに加 入している世帯は、アンテナなしで地上デジタル放送の受信が可能となります。 (1)UHF帯パススルー伝送 地上デジタルテレビ放送は、UHF帯と言われる470∼770MHz の周波数帯域 で放送されます。この周波数帯域まで広帯域化されているケーブルテレビ局において は、周波数や変調方式を変更する必要なく放送信号を伝送することができ、ケーブル テレビ局に接続された加入者は、直接アンテナで受信する方法と変わりなく地上デジ タルテレビ放送の受信機で視聴することができるようになります。 図16 UHF帯パススルー伝送 (出典:「デジタル時代のケーブルテレビ」 NHK受信技術センター編 日本放送出版協会) (2)周波数変換パススルー伝送 UHF帯と言われる、470∼770MHz の周波数帯域で放送される地上デジタル テレビ放送信号を、ケーブルテレビ局で伝送可能な周波数帯域に変換し伝送する方法。 周波数変換する方法は、次の方法が考えられます。 ・すべてのチャンネルを一括で周波数変換する ・複数のチャンネルを一括で周波数変換する ・ チャンネル単位で周波数変換する ・ 周波数変換パススルーは、現状受信機の規格がUHF帯域による受信が基本のため、 受信機の前段で元の周波数に戻すための周波数変換器、または受信機側をUHF帯域 以外の帯域も受信可能にする必要があります。
図17 周波数変換パススルー伝送 (出典:「デジタル時代のケーブルテレビ」 NHK受信技術センター編 日本放送出版協会) (3)トランスモジュレーション方式 受信した地上デジタルテレビ放送の変調方式を、64QAMに変更し伝送する方式。 放送信号のネットワークインフォメーションの部分をCATV事業者のネットワークイ ンフォメーションに書き換え、番組編成は変えずに伝送するため、ケーブルテレビ局 に接続された加入者は、BSデジタル放送、CSデジタル放送を含め様々なサービス をSTB※11台で受信できるメリットがあります。 図18 64QAMトランスモジュレーション伝送 (出典:「デジタル時代のケーブルテレビ」 NHK受信技術センター編 日本放送出版協会) こうしたケーブルテレビで伝送するデジタル放送システムの統一、高機能化に向け て、統一仕様の策定が日本ケーブルラボを中心に進められています。 各種デジタル放送をケーブルテレビで放送する場合、個々の再送信波の伝送方式を
※1 STB:エス・ティー・ビー Set Top Box の略 "TVの上に置く箱"を意味するが、そこから転じて映像/インターネットな
どのサービスを包括管理する家庭用通信端末を指す。テレビに接続して操作するケーブルテレビの受信装置。次世代 STBは、テレビ信号の受信のほかに、デジタル放送やインターネットなどに対応した家庭向けプラットフォームとして期待さ れている。
統一したシステムにすることにより、1つのSTBで全てのサービスの受信を可能に しようとするもので、統合デジタルCATVシステムと呼ばれています。
表6 CATVの地上デジタル放送技術的対応の整理
(出典:i-HITS Contents Delivery Center 資料)
日本ケーブルラボが構想する統合デジタルCATVシステムは、すべてのデジタル 放送の運用仕様を定めるものです。 既に始まっているBSデジタルでは、ダウンロード機能及び、視聴制御機能などを 含めたBSトランスモジュレーション方式で運用されています。また、CS110 度デ ジタル放送にはトランスモジュレーション方式が、CSデジタル放送(SKY Perfec TV) にはリマックス方式が決まっているほか、ケーブルテレビ局が行なう自主放送番組に も同様のリマックス方式の採用が既に決まっています。 本年12月から始まる地上デジタル放送には、CS110 度デジタル放送と同様のト ランスモジュレーション方式で運用することが決まっています。 一方、限定受信機能(CAS)については、BSデジタル放送・CS110 度デジタ ル放送がB-CASを使用しており、CSデジタル放送・自主放送がケーブルテレビ 用CAS(C-CAS)を使用することになっていますが、C-CASカードIDにつ いては、ケーブルCAS協議会で管理を検討している段階です。 このシステムの受信機は、BSトランスモジュレーションSTBの機能を拡張した 標準STBを使用し、B-CASとC-CASに対応できるようカードスロットを2つ 有する仕様で、また、双方向を行なうための上り回線に電話回線が必要ですが、ケー ブルモデムの併用も検討されています。
このように統合デジタルCATVシステムは、ヘッドエンド機器やSTBの相互接 続が可能であり、事業者のデジタル導入時において選択の幅が広がるとともに、加入 者は、1 台のSTBで全てのデジタル放送サービスを受けることができるようになり ます。
図19 統合デジタルCATVシステム