フランスの抵当権付終身貸付(le pret viager
hypothecaire)・ビアジェ(le viage immobilier
)に関するヒアリング調査
著者名(日)
太矢 一彦
雑誌名
東洋法学
巻
56
号
1
ページ
171-201
発行年
2012-07
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000148/
目次 1 ヒアリングの目的 2 抵当権付終身貸付に関するヒアリング調査 ( 1)抵当権付終身貸付の運用状況 ①高齢者の状況 ②抵当権付終身貸付成立の経緯 ③実際の運用 ④抵当権付終身貸付の具体的なプロセス ( 2)抵当権付終身貸付の今後 3 ビアジェに関するヒアリング調査 ( 1)抵当権付終身貸付の導入によるビアジェへの影響 ( 2)ビアジェの運用状況 ( 3)ビアジェの市場 ( 4)ビアジェの今後 4 まとめに代えて 1 ヒアリングの目的 今回のヒアリングの目的は、二〇〇六年のフランス担保法改正 ( Ordonnance n ° 2006-346 du 23 mars 2006 relative aux sûretés ) において新たに導入された抵当権付終身貸付 ( le prêt viager hypothécaire ) の現状を知ることにあ ( 1) る 。 《 研究ノート 》
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また抵当権 付終身貸付は、フ ランスで古くか ら存続する「ビアジェ ( viager ) 」という、高 齢者が持ち家の 所有権を 売却すると同時に、生涯住み続ける権利を有しながら売却代金を終身延べ払いで受け取る不動産売買契約と密接な 関連性をもつものであることから、抵当権付終身貸付が導入されたことによるビアジェへの影響についてもヒアリ ング調査の対象とした。 現 在 フ ラ ン ス で 抵 当 権 付 終 身 貸 付 を 実 際 に 行 っ て い る 会 社 は フ ラ ン ス 不 動 産 銀 行 ( Crédit foncier de France ) の みであることから、抵当権付終身貸付に関しては、フランス不動産銀行に、ビアジェに関しては、パリでもっとも 古くからビアジェを専門に扱う不動産仲介会社 ( Legasse Viager ) にヒアリング調査を実施した。 ヒアリングの主な内容は、フランス不動産銀行では、二〇〇六年に導入された抵当権付終身貸付の取扱い状況と そこでの問題点について、また不動産仲介会社では、抵当権付終身貸付の導入によるビアジェへの影響とビアジェ の今後についてである。 ま た ル ガ ス・ ビ ア ジ ェ 不 動 産 ( Legasse Viager ) 、 フ ラ ン ス 不 動 産 銀 行 ( Crédit foncier de France ) と も に、 二〇〇八年にフランス経済社会評議会から発表された、不動産ビアジェと抵当権付終身貸付がフランス社会におい て 果 た す 役 割 と 意 義 に 関 す る 報 告 部 会 ( Les viagers immobiliers en France. Étude du Conseil économique et social présentée par Mme Corinne Griffond 2008 ( 2) ) に そ れ ぞ れ の 会 社 の 代 表 者 が 参 加 し て お り、 そ れ に 関 す る 内 容 に も 触 れ ながらヒアリングを行なった。 以 下、 本 稿 に お け る「 2 抵 当 権 付 終 身 貸 付 に 関 す る ヒ ア リ ン グ 調 査」 、「 3 ビ ア ジ ェ に 関 す る ヒ ア リ ン グ 調 査」の記述は、ヒアリング協力者から聴き取った内容を筆者が要約したものである。
2 抵当権付終身貸付に関するヒアリング調査 実施日―二〇一二年一月一二日 実施場所―パリ二区フランス不動産銀行 Foncier Home ビル内 協力者―フランス不動産銀行 (
Crédit foncier de France
) パトリス・オーボワ氏 ( M. Patrice HAUBOIS ) カロリーヌ・ユルー女史 (
Mme Caroline HULEUX-KANDELAFT
) ( 1)抵当権付終身貸付の運用状況 フ ラ ン ス 不 動 産 銀 行 ― 抵 当 権 付 終 身 貸 付 に 関 す る プ ロ ジ ェ ク ト は 二〇〇四年頃に始まり、われわれの銀行は二〇〇六年の法令の作成段階から このプロジェクトに関わっている。このプロジェクトでまず目的とされたの は、抵当権付終身貸付を銀行が行うことが可能かどうか見極めることであっ た。もともとビアジェには保険的リスクと銀行的リスクとがあり、保険的リ スクを銀行が取り扱うことは禁止されていた。今回、その両方を銀行の商品 に織り込もうとしたのが抵当権付終身貸付であ ( 3) る 。その後、抵当権付終身貸 付は、二〇〇七年に商品化され、すでに数年経ったことから客観視できる状 態にあり、そのなかで不動産・銀行危機も経験し、出るべき問題は一通り出
たはずであると思ってい ( 4) る 。 抵当権付終身貸付について確かなことは、高齢者が自宅に住み続けたいという希望をもっているということと、 人口は高齢化の傾向にあり、何らかの解決策の模索が不可避だということである。 ①高齢者の状況 実際の運用状況について説明する前に、フランスでのシニ ( 5) ア 向け市場の概略を整理しておく。 不動産所有に関するマーケットについては、フランス全体で五七%が何らかの不動産を所有してい ( 6) る 。シニアの 不動産資産の所有率は七五%で、これはある意味当然の数字と言える。 現在のフランスでのシニア層の人口については、六〇歳以上の人口が一二〇〇万人、二〇五〇年には二一〇〇万 人になると見込まれている。 フランスの年金捻出方法は、賦課方式であり、アングロサクソン諸国に多くみられる資金を投資し、後に利益を 還元する展望でのぞむ積立方式とは異なる。したがって、若者よりも高齢者の人口が増えるとバランスが崩れるこ とになる。現在は、年金を負担する側と、年金を受ける側との均衡がどうにか保たれた状態にあるが、今後はその 不均衡が顕著になってくると思われる。 われわれが抵当権付終身貸付についてターゲットにしたのは七〇歳から八〇歳の層であり、実際の顧客も結果と して平均年齢は七五歳である。 顧客の資金のニーズとしては、四つの大きなものがあることが判明した。まず「必要最低限の生活費」を捻出す るためのニーズ。英語のことわざに《 House rich, cash poor. 》というのがあるが、つまり「不動産はあるが生活資
金がない」高齢者のニーズである。 次に「娯楽資金」としてのニーズと「生活に余裕をもたせ ( 7) る 」ためのニーズである。この二つのうちどちらかと 言えば「生活に余裕をもたせる」ためのニーズの方が多く、日常生活をレベルアップすることを目的とする顧客が 多い。 そして「世代間の援助」のためのニーズである。これは祖父母世代が孫世代を援助するという形式である。フラ ンスではしばしば二世代先への援助が行われる。多いのは祖父母が持家にて引退生活を送っているが、手元に金融 資産は十分に有していない場合において、父母世代が日々の生活に追われるなかで十分にはなしえない子供への援 助を、抵当権付終身貸付を利用して、祖父母世代が受け持つというケースである。特に不動産の価値が急騰してい る昨今の状況がこれに拍車をかけている。 さらに考慮すべき重要事項として、人口の高齢化がある。一九九四年、二〇〇〇年、二〇〇九年のそれぞれに生 まれた男女別平均余命の動向を較べると、寿命がのびているのは明白であり、二〇〇九年の調査における六〇歳の 女性の平均余命は二七年となってい ( 8) る 。 ②抵当権付終身貸付成立の経緯 抵 当 権 付 終 身 貸 付 は、 ア ン グ ロ サ ク ソ ン に 起 源 が あ る コ ン セ プ ト で あ り、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 ( Prêt viager hy -pothécaire ) 、 略 し て P V H と 記 さ れ る。 わ れ わ れ の 会 社 で の 商 品 名 は “Foncier Réversimmo ” (フ ォ ン シ エ・ レ ヴ ェ ル シ ッ モ) と し て お り、“ Foncier ”は「不 動 産」 の 意 味 で、“ Révers ”は「リ バ ー ス・ モ ー ゲ ー ジ」 の こ と を 指 し、 “Immo ”は “immobilier ”の 略 で、 こ れ も「不 動 産」 の 意 味 で あ る。 「 Foncier Réversimmo (フ ォ ン シ エ・ レ ヴ ェ ル
シ ッ モ) 」 と い う 文 字 が あ れ ば、 自 社 の 抵 当 権 付 終 身 貸 付 の こ と を 指 す が、 た だ 現 在 の と こ ろ、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 を扱っているのは自社だけである。 他の会社においても、これまでいくつかの計画はあったが、最終的にどれも実現しなかった。フランスには共済 組 合 ( mutuelle ) の ネ ッ ト ワ ー ク が あ り、 例 え ば ク レ デ ィ・ ア グ リ コ ー ル 農 業 銀 行 ( Crédit Agricole ) や ク レ デ ィ・ ミ ュ チ ュ エ ル 共 済 銀 行 ( Crédit Mutuel ) が そ れ で あ る。 そ れ ぞ れ 中 央 組 織 と 地 方 ご と の 窓 口 を も っ て い る が、 ど ち らの共済組合も抵当権付終身貸付を導入することができなかった。仕組みとして、中央組織に、抵当権付終身貸付 の受け入れ口を設置しようとしたのであるが、地方の一つ一つの組織が独立して独自に商品を供給する形になって いたため、実際的に抵当権付終身貸付を取り扱うのは不可能と判断した。しかし共済銀行もわれわれが受けた経済 社会評議会のヒアリングに参加するべきだったと思っている。 われわれの他には通常のタイプの銀行、ソシエテ・ジェネラル ( Société Générale ) とBNP ( BNP Paribas ) が、 経済社会評議会のヒアリングに参加した。クレディ・リヨネ ( Le Crédit Lyonnais ) は参加しなかった。クレディ・ リヨネは、現在LCLという名前で、クレディ・アグリコール農業銀行と合併しており、農業銀行がクレディ・リ ヨネを買い取った形となっている。したがって抵当権付終身貸付に関しても農業銀行と同様参加しなかったという ことである。 ソシエテ・ジェネラルは、当初より、抵当権付終身貸付を扱うと明言していたが、結局、保険についての見通し が立たず、独力では不可能と判断し、抵当権付終身貸付の導入を見送った。 BNPの場合、抵当権付終身貸付には保険の性質があることから、生命保険を生業とするBNPの系列会社と協 力して導入しようとした。しかし商品化しようとした丁度その時、二〇〇八年末から二〇〇九年にかけて金融危機
が 発 生 し た。 B N P は 不 動 産 価 格 を 指 標 と し た 終 身 年 金 ( rente viagère ) を 商 品 化 し よ う と し て い た が、 金 融 危 機 に よ る 不 動 産 価 格 の 下 落 が 激 し く、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 に は 純 資 産 ( fonds propres = capitaux propres ) を 多 く 費 や す性格があることから、 《
Ration Tier One
( 9) 》 との関連もあり、最終的に導入することはできなかった。 結 局、 他 の 会 社 が 全 て 断 念 し て し ま っ た こ と か ら、 最 終 的 に 残 っ た の は、 わ れ わ れ の 銀 行 だ け と な っ た の で あ る。最初はわれわれだけで有利かと思ったが、現在ではそうともいえない状況にある。 抵当権付終身貸付は、概要的には米英のリバースモーゲージをモデルとしているが、フランス的な特徴もある。 米 国 で は 公 共 機 関 が 保 証 す る シ ス テ ム と し て、 連 邦 住 宅 抵 当 公 庫 ( Fannie Mae ) が あ り、 ま た 民 間 の 保 証 機 構 も あ る。われわれはアメリカや英国の状況を調査した。イタリア、カナダ、スペインも同様の調査を現在行なっている ようである。抵当権付終身貸付は国により保険の性質が強かったり貸付の性質が強かったりするもので、商品につ いてのオプションも多様である。 貸付けといっても借主自身に返済の義務はなく、借り手の年齢と借入時の物件の価値により貸付額が決まる。借 主の唯一の義務は物件の維持管理を怠らず資産価値を保持するこ ( 10) と 、すなわち善良な家父長の注意をもって物件を 維持しなければならない (
entretien en bon père de famille
) ことであ ( 11) る 。 ③実際の運用 抵当権付終身貸付は、先にも述べたように、借主自身が返済する形式の貸付けではない。貸付金は借主の死亡時 に返済され、抵当権によって担保される。 そして、リスクは、銀行と借主とで対照的ではない。貸付総額が対象不動産の資産価値より少ない場合、相続人
に は 二 つ の 選 択 肢 が あ る。 貸 付 総 額 を 返 済 す る か、 あ る い は 不 動 産 資 産 (対 象 物 件) を 銀 行 に 引 き 渡 す か で あ る。 後者の場合、銀行は資産価値と貸付総額の差額を小切手で相続時に支払う。これは相続手続きの一つとなる。貸付 総額が物件の価値を超える場合には、その損失は銀行が負わなければならない。要するに銀行側にとっては利益が 大きくなる可能性は全くないにもかかわらず、損失はいくらまで増幅するかわからないのである。銀行の儲けは、 貸付金利から算出できるが、 損失に関してはノンリコース ( sans recours ) であり、 鏨 (たがね) のない状態となる。 結果として銀行側は三つのリスクに対応する必要が生じる。まず、余命がどれほどになるか予想がつかないこと である。第二に、不動産価格の暴落、フランスの不動産価格が四〇%も下がった時期もあった。最後に不動産価格 の地域格差である。つまり、例えばここの向かいのアパルトマンなら管理が良くても悪くてもマドレーヌ広場のす ぐそばということで価値にほとんど影響はない。しかしそれが郊外や地方都市の住宅となれば、管理修繕が行き届 いていなければ価値は半減する。あるいは町に巨大産業があり、そこで人口の四割も雇用されている場合、その企 業がそこから撤退すれば不動産価格も大きく下落することになる。 不動産の暴落については、これまでの傾向を追うことである程度の予測は可能であるし、余命も、保険会社の統 計表を参考とすることができる。しかし、不動産価格の地域格差については特別な分析・査定が必要となる。われ われの銀行には、“ Foncier expertise ”というフランスで第一の査定部門があり、そこでの資料からフランス全土で 様々な特色をもつ四〇〇〇件ほどの物件を選出し、二五~三〇年に渡る価格変動の追跡調査を行っている。このこ とにより、経験的な資料があり、リスクをある程度予想することができる。これはわれわれ独自の部門で他行には ないことから、その意味で他行がわれわれと同様の商品を作るのは困難であろう。 またこれと関連して、会計監査についての了承を得て、保険的なリスクを銀行業績に組み込んだ収支計画を練り
直 し た 経 緯 が あ る。 以 前 は 銀 行 業 績 に 保 険 的 な リ ス ク を 含 め る こ と は、 銀 行 の 通 常 の 会 計 概 念 と し て は 存 在 し な かった。現在では、このことはフランスの財務省にも認められている。国が抵当権付終身貸付の案を出した時は、 このような問題に関する特記は何もなくわれわれ自身で整備していくしかなかった。他にも追加したことは沢山あ る。 二 〇 〇 六 年 の 立 法 は、 消 費 者 法 ( Code de la consommation ) に 関 連 す る 規 定 が 一 〇 項 目 ほ ど し か な く、 し か も そ の 内 容 は 民 法 に 関 す る も の ば か り で、 実 際 の 金 銭 運 営 に 関 す る 規 定、 リ ス ク の 話 な ど に は 全 く 触 れ ら れ て い な かっ ( 12) た 。このような事情から、抵当権付終身貸付の商品化が二〇〇七年六月にまでのびたというわけである。 抵当権付終身貸付の借主の属性については、婚姻関係にある夫婦が利用するケースが大半である。不動産は夫婦 連名で買っている場合が多く、この場合の手続きは比較的簡単である。これは借主全体の約四〇%くらいである。 再婚カップルの場合には、不動産の所有権は二人うちのどちらかが有している。したがって、この場合にはどち らか一人が先に亡くなり相続になった場合、残された配偶者の保護をどうするかという問題が生じることとなる。 フ ラ ン ス で は 二 〇 〇 一 年 に、 資 産 の 所 有 者 で な い 寡 婦 (あ る い は 寡 夫) を 保 護 す る 目 的 で、 終 身 居 住 権 ( droit viag -er au logement ) が 規 定 さ れ た。 終 身 居 住 権 と は、 寡 婦 (あ る い は 寡 夫) が、 先 に 亡 く な っ た 配 偶 者 が 死 亡 時 に 住 ん で い た 物 件 に 終 身 住 み 続 け ら れ る と い う 権 利 で あ る。 死 亡 し た 者 の 子 ど も (相 続 人) に 関 係 な く 住 み 続 け ら れ る の である。このことはわれわれにとっては重大な問題であり、対象物件について誰が優先するのかがわかりにくくな るのである。銀行は物件に抵当権を設定し、契約者が死亡した時点で貸付金の返済を求めるのであるが、物件を所 有していない配偶者が残っている場合、彼あるいは彼女から「私には終身居住権がある」と主張される可能性があ る。この問題について、公証人高等諮問委員会では、われわれの抵当権付終身貸付が終身居住権より優先するとの 結論が出されている。しかし、ここでさらに二つ問題が生じる。一つは、もし訴訟になった場合、裁判所がこの結
論を肯定するかどうか。もうひとつは、残された人が所有者でないからと言って、その人を追い出したならば、銀 行のイメージが損なわれないかである。居住者が高齢になればなるほど銀行のイメージが悪化するおそれがある。 フランスでは、ナポレオン以来の伝統で、居住権が大変厚く保護されており、また家族の権利も強力である。この 問題については最終的に、銀行側も借主も満足できるために、カップルの場合、双方の連名で抵当権付終身貸付契 約をしてもらうことにして、さらに契約時に両人ともが六五歳以上であることを要件とした。カップルでその一方 が所有者でない場合には、所有者から資産の一部、例えば五%程度を貰い受けるようにすすめている。譲渡の手続 きに多少の手数料はかかるが、このようにしておけば少なくともどちらが先に亡くなっても貸付金の返済は二人目 の死亡時にのみ行われることとな ( 13) る 。 抵当権付終身貸付の貸付割合および利率に関しては、英国、スペイ ( 14) ン 、米国における同様の制度と比較して決め て い る。 貸 付 割 合 は、 年 齢 ご と に 区 分 し て お り、 わ れ わ れ の タ ー ゲ ッ ト で あ る 七 五 歳 を 例 に と る と、 資 産 価 値 の 三四%まで貸付けることができる。対象物件の価値が一〇万ユーロならば、その三四%で、三万四千ユーロまで貸 すことができる。金利は、現在七・九五%に下げている。この利率は固定金利で、貸付け期間中は同率である。ス ペ イ ン で は 八・ 五 〇 %、 英 国 の Norwich Union が 七 %、 米 国 で は 八・ 五 % で あ る。 ま た 米 国 に は 七 % の も の も 存 在 す る が、 こ れ は 連 邦 住 宅 抵 当 公 庫 ( Fannie Mae ) の 保 証 を 国 が 逆 保 証 し て い る も の で あ る。 ま た 貸 付 割 合 に つ い ては、スペイン三三%、英国三〇%、米国三二%で、われわれは三四%であり、われわれの率は大体妥当であると 思ってい ( 15) る 。 さ ら に、 わ れ わ れ は、 査 定 料 (手 数 料) と し て 四 % を 徴 収 し て い る。 こ れ は、 当 初、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 契 約 の た めと言いつつ、実は資産の価格を特定したいだけという顧客が多かったことから、本気で抵当権付終身貸付を考え
ている人のみに来てもらえるように、いわばフィルターとしての料金である。 ④抵当権付終身貸付の具体的なプロセス まず第一回目に顧客に会った時にシミュレーションを行い、その人がいくらまで借りられるかを判断す ( 16) る 。そし て次に公証人のところに行ってもらい、実際に抵当権付終身貸付によって借りようとする人が、真に物件の所有者 で あ る か を 確 認 し て も ら う。 寡 婦 や、 妻 を 亡 く し た 男 性 (寡 夫) は、 亡 く な っ た 配 偶 者 の 財 産 を 相 続 す る 過 程 で、 資産が子供達と分割されている場合があるからである。 例えば、一軒の家を持っていた夫婦がいたとして、夫婦それぞれの権利が半々であったとする。どちらかが死亡 す れ ば、 死 亡 し た 者 の 財 産 は、 残 っ た 配 偶 者 と 子 供 で 分 割 さ れ る こ と と な る。 大 抵 の 場 合、 配 偶 者 が 居 住 権 ( usu -fruit ) を と り、 子 供 は 虚 有 権 ( nupropriété ) を と る。 居 住 権 は、 居 住 し 続 け る 権 利 で あ る が、 貸 す こ と も で き、 そ の場合には賃料をとることができる。この第一の相続の際には計算表にもよるが、多くの場合、税金がかかる。こ れ が 第 二 の 相 続 の 際 (夫 婦 二 人 目 の 死 亡 時) に は 居 住 権 は 消 滅 し、 虚 有 権 に 取 り 込 ま れ る こ と か ら、 子 供 は 財 産 に つ い て 完 全 な 所 有 権 ( pleine propriété ) を 取 得 す る こ と に な る。 こ の 時 に 税 金 は か か ら な い。 も し そ れ を 第 一 の 相 続の時に完全な所有権を五〇%ずつ親と子供で分ける形で相続すると第一の相続時の課税は同様であるが、第二の 相続の際にも残った五〇%分の所有権に相続税がかかることになる。 居 住 権 ( Usufruit ) と 虚 有 権 ( nupropriété ) に つ い て は、 資 産 自 体 を 二 つ に 分 け る よ う な も の で あ る。 居 住 権 に は 価 値 が あ る が、 人 に 依 拠 す る も の な の で そ の 人 が 亡 く な れ ば 価 値 は ゼ ロ に な る。 し た が っ て 我 々 と し て は 居 住 権 しかもたない人にお金を貸すことはできない。亡くなれば価値が何もなくなるからであり、物件の引渡しを求めて
も不可能となる。したがって、抵当権付終身貸付の借主は完全なる所有権者か、少なくとも虚有権のある人でなけ ればならない。その所有の割合によって貸付金額が変わってくることから、それを公証人の所で確認してもらう必 要があるのである。 このようなことから公証人は権利関係の証明書を作成する為に借主に会うことになる。その時に、本気で契約を する意思が顧客にあるかなどについても公証人が見極める。 その後、借り手は再度銀行へ来ることになる。銀行は公証人の書類を受け取り、権利関係が明確になったことを 確 認 し た 上 で、 抵 当 権 を 設 定 す る 物 件 に つ い て、 査 定 部 門 ( Foncier Expertise ) が 査 定 の 手 続 に 入 る。 そ の 場 合、 契約ごとに特殊な調査事項を定めている。特に担保とする物件の価値が今後上昇する可能性があるかどうかは重要 である。実際の物件価値の見積りに加えて不動産のチェックのポイントをいくつか設けており、それを数字にして デ ー タ 化 し て い る。 そ し て、 最 終 的 に「A」 「B」 「C」 の 三 つ の 格 付 け に 集 約 す る。 「A」 は 通 常 の 不 動 産 市 場 で もトップクラス、最高ランクの価値をもつ物件である。パリやコートダジュールなど、フランスでもごく一部のも の に 限 ら れ る。 「A」 の 分 類 に 入 る の は 全 体 の 一 〇 % ほ ど で あ る。 そ し て 八 〇 % が「B」 で あ り、 残 り 一 〇 % が 「C」となる。 「C」は今後の資産価値の確実性が危ぶまれる物件であ ( 17) る 。 そ の 時、 査 定 の 調 査 員 は、 資 産 の 現 状 把 握 ( état des lieux ) を 行 う。 現 状 把 握 を 行 う 理 由 は、 抵 当 権 設 定 時 に お ける物件の状態が、その後も良好に保たれているかを確認するための比較要素とするためである。契約後、借主は われわれに物件を見せるのを拒否することはできない (フランス消費者法三一四―八条) 。 調 査 員 の 査 定 後、 格 付 け を 得 て、 物 件 価 値 を 算 定 し、 最 終 的 に 借 主 に 対 し て 貸 付 金 額 の 提 案 を す る。 「最 高 で い くらまで貸付ができます」という形で提案をなすことになる。借り手はそれより少ない額を借りることもできるか
らである。 現時点では、この貸付金は一括で、小切手をもって公証人経由で支払われている。現在は、まだ分割支払の方法 はとっていない。二〇一二年の四~五月ぐらいには、分割で支払えるようにしたいと思っている。つまり半年毎に 一回支払うという、ビアジェの定期支払金のような形態をとりたいと考えている。 例えば現在、借主が七五歳の女性の場合、平均余命は一八年であり、その場合、彼女の資産価値の二九%を貸付 け る こ と が 可 能 で あ り、 利 率 を 七 ・ 九 五 % と す れ ば、 彼 女 に 三 四 万 四 千 ユ ー ロ の 資 産 が あ る と す れ ば 一 〇 万 ユ ー ロ ほどが貸付け可能となる。今は一括で貸付金を支払っているが、今後は、たとえば彼女の方から当面一万ユーロの 支払いの請求があれば、最初に一万ユーロを支払い、その後九五七〇ユーロを毎年一回一八年間支払えるようにし たいと考えており、最終的には半年に一回支払えるような形態にできればと思ってい ( 18) る 。 相続人にとっても受け入れやすいのは、やはり毎年か半年毎に一回貸付けが行われる方法だと思われる。その方 が借主が一度に大きな買い物をしたりしないだろうし、金利負担もゆるやかだからである。したがって、借主の側 からすれば、このような分割方式の支払に、魅力を感じるのではないかと思われる。 選択肢として、最高で一〇万ユーロを一回のみにするか、ゼロから一〇万ユーロで好きな額を選んで当面の支給 を受け、残りは銀行が計算し分割払いにするか、契約時に選択してもらうことを考えている。ただし、途中で貸付 方法を変えるのは計算が大変であることから、一度選択したものの変更は認められないことにする予定である。 貸付の終了については、普通に終了するのは借主の死亡時である。夫婦二人のうち二人目の死亡時である。この 事項は、貸付の提案時点で特記しておく。法規では、夫婦の場合における貸付の終了時は曖昧であるが、銀行側は これが妥当であると解釈した。法律では所有権の分割時、つまり夫婦のうち一人が死亡した時が返済時期に当たる
と規定しているが、われわれは二人目が死亡するまで貸付を続けることにしてい ( 19) る 。 二人共が死亡した時点で、公証人は、物件に抵当権が設定されていることから、われわれにその旨を通知しなけ ればならない。公証人は相続財産目録を作製する時に、抵当権付終身貸付に関わる抵当物件があることを確認し、 死亡から六ヵ月以内にプラス・マイナス双方の相続財産のリストアップをする。銀行側は貸付金の詳細を記したも のを公証人に送り、相続人はいくつかの選択肢の中から希望する返済方法を選ぶことになる。しばしばそれは貸付 総額に対する現在の物件価額との比較で決められる。借金額が二〇〇なのに物件価値が一〇〇しかないときは、よ ほど持ち続けたい物件だとしても価値の二倍も支払うことは考えられず、当然物件を銀行に明け渡すことになるで あろう。そして借金は清算されることになる。 抵 当 権 付 貸 付 で は、 法 律 に よ っ て、 流 担 保 条 項 ( pacte commissoire ) が 有 効 と な っ て い る。 こ の 規 定 は、 か な り 特殊なもので、裁判所の裁判決定を経ることなく物件の所有権が銀行に移転する権利である。所有者が死亡するこ とで、主たる住居ではなくなることから、このような権利が認められたのだと思われる。通常なら物件の所有者に なるには裁判所の判断が必要で、物件を競売にかける必要があるが、この流担保条項により裁判所を避けることが できる。 貸付総額の提示時に、相続人に物件を買い取ったり、借入金を返済する意思がなければ、流担保条項により、物 件が銀行のものとなることを認める。その際には公証人の所に戻り、不動産売買の時と同様に、物件の分析を再度 やり直して、価格を確定し、差額があればその分を清算金として相続人に支払うこととな ( 20) る 。 流担保条項の目的は物件の競売を避けることにあるが、銀行側にとっては最良の選択でないことも多い。物件を 多数抱え込むリスクがあることから物件の所有者とはなりたくないことが多いのである。われわれの銀行の系列会
社を使うのはそのためで、それは不動産売買を専門とする会社である。その会社なら物件を持ち合せ、売れるまで ストックすることができる。われわれの本業は不動産業でなく、あくまで銀行なのだから。 流 担 保 条 項 が 適 用 さ れ な い 場 合、 差 額 の 確 定 に つ い て は、 ま ず 対 象 物 件 の 価 値 を、 先 程 の “Foncier Expertise ” ではなく独立した機関が査定する。見積もりに関しては、裁判所でなくても、民間企業でもかまわないとされてお り、地方などでは公証人自ら査定を行う場合もある。物件の見積額について相続人とわれわれとの間で同意が得ら れない場合には、裁判所に判定を委ねることもあるが、それは最後の手段である。物件の見積額と貸付総額を比較 し貸付総額が上回る場合は銀行の損となり、その逆の場合は差額を小切手にして、相続財産に組み込む。相続人に 直接渡すのではなく、あくまで相続手続きの一部となるのである。 ( 2)抵当権付終身貸付の今後 二〇一〇年の年金改革もあり、年金の支給が先延ばしになってくると、年金をもらえない間の高齢者の生活を支 える必要がある。要するに問題となるのは、寿命が延びている分の生活をどうするか、年金にあたる金銭を、どう 捻出するかである。加えて介護が必要な高齢者の数が増加しており、高齢者は医療、介護のための費用も出費しな ければならない。まず一番費用がかからないのは高齢者を現在住んでいる住居に住ませておくことである。転居に は 費 用 が 掛 か る。 高 齢 者 施 設 に つ い て い え ば、 パ リ 市 内 だ と、 不 動 産 が 高 騰 し て お り、 老 人 ホ ー ム を 建 設 す る の に、一平方につき一万ユーロという費用がかかる状況からすれば、高齢者を施設等で受け入れるのは困難である。 現 在 こ れ と 言 え る よ う な 解 決 方 法 は な く、 ま た 高 齢 者 の 生 活 し て い る 場 所 や 地 方 に よ っ て も 状 況 は 大 き く 異 な る。このようななかで、高齢者を金銭的にサポートしていくためには、高齢者の不動産資産の「流動化」がその資
金調達のための一つの道だと言えるであろう。そこで登場したのが抵当権付 終身貸付である。 一般的に高齢者は抵当権付終身貸付に興味は持っていると思われるが、抵 当権付終身貸付の利率が通常の不動産貸付より高くなってしまったことで、 実 際 に は そ の 普 及 に 歯 止 め が か か っ て し ま っ た。 ま た も う 一 つ の 歯 止 め と なったのは、貸付を分割で行なえなかったことである。したがって、これら の点を改善できれば、抵当権付終身貸付は、今後発展していくと思われる。 現在は、われわれの銀行が唯一この貸付をやっていることから、広告や情 報提供を全て単体で行わなければならず、そのための費用が重荷になってい る。 せ め て 他 行 に 抵 当 権 付 終 身 貸 付 を 取 り 扱 う と こ ろ が 二、 三 行 あ れ ば こ れ らの負担は軽減されていたと思うが、今年はネットのサイトを作り直し高齢 者向けにする予定である。新聞広告も特に高齢者にターゲットを搾って打っていく計画である。 3 ビアジェに関するヒアリング調査 実施日―二〇一二年一月一二日 実施場所―パリ七区ルガス・ビアジェ不動産内 協力者―ルガス・ビアジェ不動産 ( LEGASSE VIAGER ) ニコラ・ルガス氏 ( M. Nicolas LEGASSE )
( 1)抵当権付終身貸付の導入によるビアジェへの影響 ルガス・ビアジェ不動産 ― ルガス・ビアジェ不動産は、パリで初めて高齢者を対象にしたビアジェ物件を専 門に取り扱う会社として、わたしの父親によって一九六三年に設立された会社である。わたしは二三年にわたり、 この会社でビアジェを中心とした業務を行っている。抵当権付終身貸付が導入されたことによる、ビアジェへの影 響は全く見られない。その理由として、次の三点を指摘することができる。第一に抵当権付終身貸付のアイディア はサルコジ大統領が米国から持ち込んだもので米国のリバースモーゲージをモデルとしたものである。しかし、こ のアイディアがフランスに持ち込まれたちょうどその時に、このリバースモーゲージが原因となりサブプライム危 機が起きた。これによって、フランスの各銀行は抵当権付終身貸付の導入をためらうこととなり、唯一フランス不 動 産 銀 行 ( Crédit foncier de France ) が 引 き 受 け た と い う 経 緯 が あ る。 す な わ ち 導 入 時 期 の タ イ ミ ン グ が 悪 か っ た のである。 さ ら に 第 二 の 理 由 と し て、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 は 貸 付 け 商 品 で あ り、 ビ ア ジ ェ は 不 動 産 売 買 で あ る 点 が 重 要 で あ る。すなわち、その性質の違いから、当事者の手元に入る金額を比較した場合、抵当権付終身貸付よりビアジェの 方が同価値の物件についておよそ二倍の金額を受け取ることができる。ビアジェは売却であるという性質から、支 払われる金額も抵当権付終身貸付と比較して大きくなるのである。さらに、ビアジェは不動産物件の売却であるこ とから、売ってしまえば物件にかかる税がなくなり、物件の維持管理の必要もなくなることからも、抵当権付終身 貸付と比べるとビアジェの方が条件が良いと考えられる。 もし抵当権付終身貸付に何らかのメリットがあるとすれば、次のような場合であろう。フランスでは、ヴァカン ス用に家族で別荘などを保有していることが珍しくないが、その別荘の所有者である親たちが金銭的なトラブルに
陥った場合に、一時的に金銭の貸付けを銀行に頼む場合である。その金銭を借りた親が亡くなれば、子供は銀行に 借りた金額を返済し、家を持ち続けるか、返済を諦め、家を銀行のものとするかという選択をすることとなる。し たがって抵当権付終身貸付は、このような一部のケースにおいては有効な場合もありうるが、それは限られた場合 についてのみである。 第 三 の 理 由 と し て、 抵 当 権 付 終 身 貸 付 が フ ラ ン ス に 浸 透 し な い の は、 銀 行 が 貸 付 に か な り の 高 い 利 率 (約 八 %) をかけているからであ ( 21) る 。このことからすれば、銀行には、真に抵当権付終身貸付を普及させようとする意思がな いのではないかと思われる。銀行が積極的でない理由としては、抵当権付終身貸付は、地方の小村や僻地において も設定されることがあるが、それらの物件は将来的に売り切れないリスクを負っている可能性が高く、そのことを 銀行が警戒していることが原因の一つと考えられ ( 22) る 。以上のような具体的な情報は、抵当権付終身貸付との比較の ためクライアントから多数の問合せがあり、その経験から、ビアジェの方が当事者の手元に入る金額が大きく、年 金の補助としては良質であるという見解に至っている。 ( 2)ビアジェの運用状況 ビアジェ契約において、その取引全体のおよそ八〇%は、通常のタイプ、すなわち高齢者が住み続けながら月々 定期支払金を受け取るタイプのものである。その通常タイプの仕組み (計算方法) は、次のようなものである。 第一段階として、対象となる不動産物件の資産価値の見積りを行う。普通に市場に売った場合、いくらになるか を見積もる。ここでは例として不動産物件の資産価値を一〇万ユーロとする。 次に第二段階として居住する高齢者の占有による減価を計算する。不動産物件を買った側はそこに住むことも、
賃貸することもできないことから、資産価格から占有者の寿命分の家賃が差し引かれるることとなる。 例えば八〇歳の女性の場合、フランスでの平均余命は一〇年であり、家賃を年四%とすると、彼女のアパルトマ ン の 価 格 か ら 四 〇 % を 控 除 し 六 〇 % が 残 る。 こ の 四 〇 % 分 を 占 有 の 価 値 ( valeur occupée ) と 呼 び 公 証 人 に こ の 金 額を知らせる。 残りの金額がそのままビアジェの価格になる場合もあり、その場合には一〇万ユーロの資産に八〇歳の女性が亡 く な る ま で 住 み 続 け る こ と を 前 提 に、 投 資 者 (買 主) は 前 払 金 ( capital ) と し て 六 万 ユ ー ロ を 全 額 彼 女 に 支 払 う。 こ の よ う な ケ ー ス は 全 体 の 約 一 〇 % に あ た る。 特 に 子 ど も が い る 場 合 に 多 く、 子 ど も は 親 (売 主) に も し 何 か あ っ た場合、前払金分が家族に残ると考えるからであ ( 23) る 。 ただし多くの場合はその前払金は二つに分けられる。先程の全額前払いのケースを全体の一〇%とすれば、これ は取引全体の八〇%を占めるケースである。先ほどの六万ユーロを分ける時の割合は、大体三分の一と三分の二く ら い に す る こ と が 多 い。 最 初 の 三 分 の 一 の 二 万 ユ ー ロ は 最 初 の 支 払 金 ( bouquet ) と し て 売 買 の 日 に 支 払 わ れ、 残 り の 四 万 ユ ー ロ は 占 有 者 の 寿 命 に 応 じ て 計 算 さ れ、 生 き て い る 間 ず っ と 払 わ れ る 支 給 金、 す な わ ち 定 期 支 払 金 ( rente ) に な る。 子 供 が い な い 高 齢 者 に こ の ケ ー ス が 多 く、 定 期 支 払 金 は 銀 行 口 座 に 直 接 振 り 込 ま れ る。 定 期 支 払 金の金額は、毎年の消費者指標に応じて、年にもよるが近時はおよそ二~三%ずつ上昇している。インフレになっ て も 同 じ 物 を 買 い 続 け る こ と が で き る と い う こ と で あ る。 そ し て フ ラ ン ス で は こ の 受 け 取 る 金 額 (定 期 支 払 金) に ついては七〇%の税控除が受けられる。すなわち、支給金額の七〇%にあたる額には税金がかからないのである。 定期支払金が必ず支払われるための保証として売却されたアパルトマンには抵当権が設定される。この手続きは 公証人によって行われる。アパルトマンや家を買った者が定期支払金を支払わない場合、家を売った高齢者は家を
取り戻すことができ、さらに既に支払われた定期支払金については返還する必要はない。 このように、ビアジェはフランスでは射倖性のある契約と理解されている。要するに予想不能な要素が入ってい るということであり、その要素は、まず住む人がいつまで生きるかわからないこと、そして定期支払金がある場合 はその総額がいくらになるかわからないこと、この二つである。 そ し て、 先 に 述 べ た よ う に、 取 引 全 体 の 一 〇 % が 前 払 金 ( capital ) の み、 八 〇 % は 最 初 の 支 払 金 ( bouquet ) と 定 期 支 払 金 ( rente ) に 分 け る ケ ー ス で あ る。 そ れ 以 外 の も の の な か で 五 % は 明 渡 し 型 の ビ ア ジ ェ ( viager libre ) と 呼 ばれるもので、高齢者が老人ホーム等へ移住してしまう場合などである。このケースでは占有を理由とする割引は 不要なので、一〇万ユーロのうち四万ユーロほどが最初の支払金となり、その場合定期支払金は月々五〇〇ユーロ ほどになる。これが明渡し型のビアジェで、占有分の割引はないが、買主は物件に住んだり貸したりできる形態で ある。 そして残りの五%は期間限定で定期支払金が支払われるビアジェ ( la vente à terme ) である。この場合、先のよ うに占有減価を差引き、残りの価値について最初に支払う二万ユーロを同様とすれば、定期支払金は三〇〇ユーロ のかわりに三五〇ユーロほどになる。ただし一〇年間に限って支払うという条件である。この期間限定のビアジェ は非常に少ない。なぜなら高齢者は年をとったからといって支出が減るわけではなく、お金の使い方が変わるだけ だからである。例えば、八五~八八歳頃までは旅行をしたり外食したりすることにお金をかけ、それ以上の年齢に なると家に来てくれる介護スタッフや買い物をしてくれる人への支出が増えていくことになる。したがって、何年 生きるかわからない状態で一〇年たてば定期支払金が止まると困るのである。 専門家のわたしの考える最良のパターンは、たしかに特別な例はあるものの、やはり占有型で最初の支払金と定
期支払金とを分けるという普通タイプのビアジェであり、高齢者にとって最良なのがこのクラッシックなタイプの ビアジェである。 ( 3)ビアジェの市場 ビアジェを成立させるには次の二つの要素が重要となる。 まず最初に年齢である。わたしが二三年前に取引を手掛けた頃は売主が六〇~六五歳で契約は成立したが、現在 は七〇歳以上にならないと買い手がつかない状況にある。七〇歳でも難しいくらいである。電話での問い合わせで 五 五 歳 か ら 六 五 歳 の 場 合 は 取 り 扱 え な い と 伝 え て お り、 あ る い は で き な い こ と は な い か も し れ な い が、 五、 六 年 経ってからまた連絡を下さいと言っている。 二つ目はこれも重要で、売りたい物件がどこにあるかである。小規模都市や村の場合は、ビアジェで売却するの はほとんど不可能である。農業をしている人がたまたま隣の人の農耕地を買う場合などもあるかもしれないが、そ れは非常に稀なケースである。投資する側にとっては、常に決まって同じ場所、つまりパリやコートダジュール、 ウィンタースポーツに人気の山に近い都市などに限られている。フランス人は不動産などの有形資産を好む傾向に あ り、 買 主 は「一 〇 年 か ら 一 五 年 待 つ の は か ま わ な い が、 そ の 間 に 価 値 が 上 が る 所 が い い。 」 と 考 え て い る。 フ ラ ンスの主要都市のビジネスマンは、ボルドーやリヨンの人でも皆パリの物件を買いに来る。たとえそのような大都 市に住んでいてもである。これは大きな問題であり、皆の要求に応えることは不可能である。以前、投資会社がフ ランスの多くの小規模都市でビアジェで物件を買ったことがあったがうまくいかなかった。そのなかでも、ある程 度、的を搾って買収した会社はまだいい結果が出せたようであるが、結局デベロッパーでも皆、同じ場所を買いた
がるのである。 一九四五年以降のパリの不動産価格の動向をみると、価格が下がったのは七一~七四年の石油ショックの時と小 規模で短期ながらフランスに左派政権が誕生した際、そして今までに一番大きな下降が九〇~九五年の五〇%、そ の後そこからまた上昇し始め、二〇〇八年に半年間だけ若干下降したが、去年は二〇%上昇している。 ビ ア ジ ェ で の 購 入 者 は、 価 額 が 上 昇 す る 可 能 性 の あ る 場 所 を 安 く 買 い た い と 思 っ て い る こ と か ら、 ビ ア ジ ェ の マーケットは大きくない。年間五千件から六千件の契約数があるにすぎず、それは、フランスの不動産売買全体の 約一%程度である。ビアジェはほんの小さな市場にすぎないのである。 またビアジェの買主の二五%ほどの顧客が、ニューヨークやロンドン、東京など海外で生活するフランス人であ る。非常にラテン的な考え方で、イタリアやスペイン、フランス、ベルギーでよくあてはまるのであるが、海外で 生活するフランス人は引退したら自国に戻って生活しようと思っている。海外勤務では高給を受け取っていること が多いことから、働いている間に定期支払金を支払い、二〇年後フランスに帰国する時にはアパルトマンが手に入 ると見込むのである。 もう一つの二五%は、わたしもそれに入るのであるが、わたしには八歳の息子と四歳の娘がいる。彼らが生まれ た時それぞれにパリに物件を買った。二〇歳になった時にアパルトマンが子どものものになるようにである。パリ の不動産は非常に高いが、ビアジェだと支払いやすいからである。 残 り 五 〇 % は 純 粋 な 投 資 目 的 の 場 合 で あ る。 こ の 場 合 に は、 売 主 で あ る 高 齢 者 が 死 亡 す れ ば、 物 件 を 転 売 す る か、賃貸することを目論んでおり、実際に住むことは考えていない。 まとめると二五%が海外勤務、二五%が家族のため、五〇%が純粋な投資目的という分類になる。そして買主は
どの場合でもやはり全て同じ場所を求めており、結局ビアジェでの売却を希望する物件のおよそ三分の二は、買い 手がつかないという理由で断るしかない状況である。 ( 4)ビアジェの今後 ビ ア ジ ェ の 供 給 は 今 後 さ ら に 増 え る と 予 想 さ れ る。 フ ラ ン ス の 年 金 制 度 の か か え る 問 題 が 顕 著 に な っ て き て お り、 高 齢 者 の 生 活 は よ り 一 層 と 厳 し く な る で あ ろ う。 し た が っ て、 ビ ア ジ ェ で の 売 主 は 大 幅 に 増 加 す る は ず で あ る。ただその一方で、フランス人の寿命は伸びており、フランスでは一年に四半期ずつ国民の寿命が伸びていると 言われ、四年たっても三年分しか年をとらない勘定である。売主は増えるが、寿命が伸びているので五年後にはも う七〇歳では売れなくなるかもしれず、七五歳まで待つ必要が出てくるであろう。 わたしの方針としては物件を低めに見積もって割引幅を大きくするということを考えている。八〇歳の人であれ ば占有減価を四〇%ではなくたとえば四五%割り引くというようにする。しかし、そうすると売却額がこれまでよ りも低くないと売れないこととなり、実際にはこのことを高齢者に理解してもらうのは困難であろう。すでに八〇 歳にもなって大変な高齢だと思っている人に、このことはなかなか理解してもらえない。 また、これらの高齢者を助ける方策としては、買主に税金の優遇措置を与えることが考えられる。定期支払金の 一部に税控除が受けられるなどの方策が必要となる。ビアジェは世代と世代、若い世代と高齢者の橋渡しだと思っ ている。わたしは最初のビアジェを二〇歳の時に購入したが、株を買うより誰かの助け、より良い引退生活の助け になるビアジェを選びたかったからである。社会全体を視野に入れた場合、ビアジェは高齢者のより良い年金生活 の助けとなることから、慈善行為にもなりうる。問題は不動産価格が上がっているものの、寿命ものびていること
から、投資する側は、かなり難しい判断をしなければならないということである。日本など別の国でビアジェを導 入するとしたら、公共でも民間でも投資する側が定期支払金の一部に税控除が受けられるのであれば、やってみよ うと思う人が増加し、投資が増えるのではないかと思われる。ベルギーでは多少この税控除を実施しているようで あるが、フランスでは、政府の負債の問題が深刻化しており、国庫が危機に陥っていることから、今後もこのよう な税控除措置は望めないと思われる。 今後のビアジェに関しては、さらなる市場の拡大を望みたいと思っている。そこでの問題点としては、定期支払 金をどれだけの期間支払い続けるのかが予想できないことにある。そのことから、一年後か三年後かに失業する可 能性のある人には売れないということである。ビアジェで物件を購入する人は非常に裕福な人であるか、雇用が保 証されていて仕事を続けられる人、すなわち、毎月必ず支払いができる人でないとならない。 し か し、 そ の 一 方 で、 留 意 す べ き は、 高 齢 者 の 死 亡 を 待 つ こ と な し に ビ ア ジ ェ が 転 売 さ れ る ケ ー ス が 全 体 の 二〇%ほどあるということである。毎年何件か出てくるケースであるが、買主が売主より先に死亡してしまう場合 がある。あるいはカップルであった買い手が離婚してしまうケースもある。裕福だったのに何年か後に一文無しに なってしまう場合なども考えられる。しかし、それらの場合には、ビアジェは契約書の内容を変更することなしに また別の人に売りに出すことができるのであ ( 24) る 。ビアジェを購入したらそれで終りというものではないと知ってお く必要があると思われ、問題が生じた場合には、他の人に売却することができるのである。 最後に、ビアジェは優れたシステムであると思う。不動産資産を有しており子供をもたない場合には特に最適で ある。自分自身の居住環境を維持しながらよりよい年金生活が送れるのである。むずかしいのは、定期支払金を支 払う期間が不確定ななかで、経済的なバランスをとることであり、売主と買主双方が満足のできる均衡を見い出す
ことであろう。 4 まとめに代えて 近時、日本でも人口の高齢化が深刻な社会問題となってお ( 25) り 、公的年金制度もフランスと同様の賦課方式を採る ことから、そこで目指される世代間扶養のバランスが崩れてくることは明白であろう。 そのような状況において、高齢者がその有する住宅資産を有効に活用する手段が普及すれ ( 26) ば 、住み慣れた居住環 境のもと、老後の生活資金としてまた他にも住宅の改修費用、バリアフリーや在宅介護費用等の資金を調達するこ とができると考えられ、抵当権付終身貸付は、そのための有効な仕組みの一つになり得るものと期待され ( 27) る 。 しかし、フランスでの抵当権付終身貸付の運用を見てもわかるように、抵当権的終身貸付は保険的な要素も多く 含むことから仕組みが複雑となり、また取り扱う金融機関にとってはメリットが少なく、その一方で不動産を抱え 込むなどのリスクが大き ( 28) い 。そして、特に地方の物件を取り扱うには相当なリスクを伴うのは、わが国においても 同様であ ( 29) る 。そのことから、資産価値に対する貸付割合が低かったり、高い金利が設定されることとなり、結果と して、そのことが抵当権付終身貸付の普及の妨げとなってい ( 30) る 。 また不動産ビアジェに関しては、今回のヒアリングからも明らかなように、不動産価格が上昇基調にあるものに ついてのみ成立する投資を目的とした取引である性質が強いといえよう。今後さらなる少子高齢化社会を迎えるわ が国において、不動産価格が上昇する可能性は低いと言え、そのことからしても、わが国では、ビアジェのような 契約形態が利用される可能性はフランスと比べても極めて低いといえる。しかしその一方で、近時は子供のいない 世帯も増えており、また子供には財産を残さず、自分たちで使い切ってしまおうとの意識も強くなってい ( 31) る 。さら
にヒアリングのなかで指摘されているように、担保付貸付である抵当権付終身貸付よりも、売却である不動産ビア ジェの方が、高齢者自身が受け取る金額が大きくなること等を考えれば、場合によってはビアジェが活用される場 面もあり得ると思われ ( 32) る 。このように、様々な条件、要素が考えられることから、高齢者の老後資金を捻出するた めの選択肢を増やしておくことは望ましいといえ、今後は抵当権付終身貸付とともにビアジェについても検討して いく必要があるといえよう。 また抵当権付終身貸付、ビアジェに共通して言えることとして、高齢者の契約であるという観点から、契約当事 者の他に第三者が契約締結時に介在し、高齢者が適切な契約を締結することができるようなチェックをすることは 重 要 で あ ろ う。 米 国 で は、 リ バ ー ス モ ー ゲ ー ジ 契 約 を 行 う 場 合 に は、 高 齢 者 は 契 約 前 に 住 宅 都 市 開 発 省 (H U D) 公認のカウンセリング機関に出向き、ローンを提供する金融機関から独立したカウンセリングを受けることが義務 付 け ら れ て お ( 33) り 、 そ こ で、 高 齢 者 に 対 し て リ バ ー ス モ ー ゲ ー ジ の 仕 組 み や 契 約 内 容 (利 益、 損 失、 リ ス ク 等) に つ いての説明が行われ、さらには、他の代替案の利用についてのカウンセリングもなされてい ( 34) る 。わが国においても 高齢者が不利な契約を締結させられないために、相手方の説明義務だけでは不十分な場合も考えられ、契約締結に つ い て フ ラ ン ス の 公 証 人 の よ う な 第 三 者 の 介 在 (ヒ ア リ ン グ で は 公 証 人 を「セ キ ュ リ テ ィ」 と さ れ て い た) を も 考 慮 す る必要があると思われる。 以上のように、抵当権付終身貸付とビアジェのどちらも、わが国においても普及させるのには大変な困難が予想 される。しかし、フランスと同様、わが国も、高齢化社会に対し、これという切り札をもたない状況であり、様々 な国の運用事例等も参考としながら、少しでも有効な方策を見出していくしかないであろう。
注 ( 1) こ の 点 に つ い て は、 グ ル マ ル デ ィ 教 授 を 中 心 と す る 担 保 法 改 正 作 業 グ ル ー プ の 報 告 書( Rapport par Groupe de travail rela -tive à la réforme du droit des sûretés, 2005 )、 お よ び グ ル マ デ ィ 教 授 に よ る 解 説( Michel Grimaldi;Lʼhypothèque rechargeable et prêt viager hypothécaire, Dalloz 2006. )が公表されている。また日本語での参考文献としては、平野裕之=片山直也「翻訳 フラン ス担保法改正オルドナンス(担保に関する二〇〇六年三月二三日のオルドナンス二〇〇六―三四六号)による民法典等の改正及び そ の 報 告 書」 慶 應 法 学 八 号(二 〇 〇 七 年) 一 六 三 頁 以 下、 平 野 裕 之 = 片 山 直 也「翻 訳 フ ラ ン ス 担 保 法 改 正 予 備 草 案 ― フ ラ ン ス 司 法省担保法改正作業グループ報告書及び条文訳」慶應法学九巻(二〇〇八年)二〇三頁以下、拙稿「フランスにおける充填式抵当 権( l'hypotheque rechargeable )と抵当権付終身貸付( le pret viager hypothecaire )について―グリマルディ教授の解説を中心と して」東洋法学五二巻二号(二〇〇九年)一八五頁以下がある。 ( 2) この報告書については、 「[翻訳]フランスにおける不動産ビアジェ(一) (二) (三・完)―フランス経済社会評議会意見書か つ報告書―」 、東洋法学五三巻一号、二号、三号(二〇〇九~二〇一〇年)において翻訳を試みた。 ( 3) 抵当権付終身貸付とビアジェは、双方が補い合う類いの商品であるとされ、今回のヒアリングでもビアジェと対比させながら 抵当権付終身についての説明がなされたが、本稿ではビアジェに関する説明部分は割愛した。 ( 4) フ ラ ン ス 不 動 産 銀 行 に よ れ ば、 二 〇 〇 七 年 六 月 か ら 始 め た 抵 当 権 付 終 身 貸 付( Foncier Réversimmo ) は、 二 〇 〇 九 年 四 月 時 点で四〇〇〇件を超える取り扱いがあり、総額も三億四〇〇〇万ユーロほどになっているとされる。 ( 5) ここでの「シニア」とは六〇歳以上を指すとされる。 ( 6) この数値には、賃貸に出されている物件も含まれるとされる。 ( 7) 例えば改装工事費や管理修繕費も「生活に余裕をもたせる」ためのニーズに含まれとされる。 ( 8) 現在は、男女を分けた数字が出されているが、新しくだされるフランス人口調査の修正版では、男女に分けた数字は出なくな るとされる。抵当権付終身貸付は保険に近い性質をもつと考えられており、保険に関する法規が適用されるようであるが、保険に
関する新しい法規で男女の区別が禁止されることから、抵当権付終身貸付においても男女の区別がなくなることになるとされる。 ( 9) 二〇一〇年一二月にバーゼル銀行監督委員会が発表したバーゼルⅢにおいて、金融危機に対応するため、自己資本比率に関し て、
Ration Tier One
を七%にするべきことが示されている。 ( 10) 借主が、老人ホームに転居することを決め、対象物件を賃貸に出したいという場合には、物件の価値が変化することから銀行 の許可が必要であるとされる。 ( 11) フ ラ ン ス 消 費 者 法 三 一 四 ― 八 条 に よ れ ば、 「期 間 が 満 了 し な い 限 り、 す な わ ち 原 則 と し て 借 主 が 存 命 の 間 は、 借 主 は 善 良 な 家 父長の注意をもって不動産を維持しなければならず、使用目的を変えることはできず、貸主がその状態を確かめるため、不動産を 検査したり物件に立ち入ることを認めなければならない」とされており、また、その全ての不履行につき期限の利益喪失の罰が生 じる(同条)と規定されている。 ( 12) 通常何か法令が出る時はこのように非常に軽い内容で、具体的な金銭的運営に関しては一切ないことが多いとされ、フランス 不動産銀行がとった決定もそれが正しいかどうかはその後、裁判になって初めてわかるとされる。また公証人側とは意見の食い違 いが多く、法の解釈自体が異なっていたりしたが、今はだいぶクリアーになっているとされる。 ( 13) ただし、このような方法をとる場合には、二人にかかる長生きリスクを保険的に処理するのは大変困難であるとされる。 ( 14) スペインでは、不動産・銀行危機以来、商品はもう出していないはずであるとされる。 ( 15) 平均寿命からすればスペインがフランスに一番近いとされる。 ( 16) 高 齢 者 の 契 約 と い う 観 点 か ら 留 意 し て い る こ と が あ る か に つ い て た ず ね た と こ ろ、 次 の よ う な コ メ ン ト が 印 象 的 で あ っ た。 「高 齢 者 は 守 り が ゆ る い と 言 え、 借 主 は、 守 っ て あ げ な け れ ば な ら な い 年 代 だ と 認 識 し て い る。 そ の よ う な こ と か ら も、 高 齢 者 の 自宅で交渉する事は禁じられており、借り手の方から銀行に足を運んでもらう必要がある。ただ、出向いてもらうのが原則ではあ るが、なかには歩けない人もいる。高齢すぎて移動が無理な場合である。その場合は資料を郵便で送るが、本人が理解したことを 確認するのは公証人の仕事である。公証人の手続きを経る段階が必須となっている。公証人は契約書署名時一行一行読み上げ、そ して全て理解されていると確認する義務があるなど、フランス社会では、公証人はセキュリティーとして機能している。 」
( 17) 抵当権付終身貸付が可能な不動産の最低価格は、二万ユーロとしており、それ以下のものは、ここでの格付でいえば、確実に 「B」以下になるとされる。 ( 18) この場合、最初に一万ユーロを渡し、その後九七五〇ユーロを一八年間支払うと一七万二千ユーロとなり、最初の一万ユーロ と あ わ せ る と 合 計 で 一 八 万 二 千 ユ ー ロ と な る と さ れ る。 そ う な る と 一 括 で 一 〇 万 ユ ー ロ を 支 払 う よ り も ず っ と 金 額 は 大 き く な る が、これは、銀行側が利益分をゆっくりと純資産化するからであるとされる。 ( 19) フ ラ ン ス 消 費 者 法 三 一 四 ― 一 三 条 一 項 で は、 「借 主 又 は 共 同 借 主 の 残 り の 生 存 者 が 死 亡 し た 時 に、 相 続 人 は、 相 続 開 始 日 に 評 価された不動産の価値の限度で債務を返済することができ、この評価は、必要な場合には、債権者と借主の共通の同意によって選 任された又はその請求によって任命された鑑定人に行われる」と規定されている。 ( 20) フランス消費者法では、抵当債権者が弁済期に担保を実行した場合に、被担保債権が不動産の売却価格よりも低いときには、 その売却価額と被担保債権額との差額を、場合に応じて借主またはその相続人に償還しなければならない旨の規定がおかれている (三一四―九条二項) 。 ( 21) インタビュー時における、フランスにおける通常の不動産貸付の銀行金利は三・七から三・八%ほどである。 ( 22) これに対して、ビアジェは個人の顧客で市場が形式されるため、傾向として買いたい物件が同じ場所に集中してくる。要する に価値が上がる可能性のある場所に限定されることからリスクは比較的に低いとされる。 ( 23) ビアジェで売る人のおおよそ八〇%は子供がいない人たちであるとされる。 ( 24) ルガス氏の説明では、ビアジェの転売によって、もとの買主は支払った金銭を回収できるし、次にそのビアジェを購入する人 は、不動産の売主の年齢が進んでおり、物件の価値も上がっていることから有利であるとされる。ただし、このルガス氏の見解が 当てはまるのは、あくまで不動産の価値が上昇している場合であり、不動産価値が下落傾向にあればビアジェの転売は困難である と思われる。 ( 25) 高 齢 社 会 白 書(平 成 二 三 年 版、 内 閣 府) に よ れ ば、 二 〇 一 〇 年 一 〇 月 一 日 現 在 の 日 本 の 総 人 口 は、 一 億 二、 七 五 一 万 人 で、 そ のうち六五歳以上の高齢者人口は、二、 九五八万人となっている(総人口に占める割合は二三・一%) 。今後、高齢者人口は、いわ
ゆ る「団 塊 の 世 代」 (一 九 四 七 ~ 一 九 四 九 年 に 生 ま れ た 者) が 六 五 歳 以 上 と な る 二 〇 一 五 年 に は 三、 〇 〇 〇 万 人 を 超 え、 「団 塊 の 世 代」 が 七 五 歳 以 上 と な る 二 〇 二 五 年 に は 三、 五 〇 〇 万 人 に 達 す る と 見 込 ま れ て い る。 ま た 公 的 年 金 の 受 給 額 や 勤 労 収 入 は 伸 び 悩 ん でおり、医療費や介護サービスの費用負担も増加している。さらに高齢者のみで家計を営む世帯が増加していることから、高齢者 世帯の日常生活における支出は増大しており、多くの高齢者が老後資金に不安を抱える状況となっている。 ( 26) 日本の高齢者世帯(六〇歳以上)の約八割は住宅資産を所有している。 ( 27) 内 閣 府『高 齢 社 会 白 書』 (平 成 二 〇 年 版) に よ る と、 六 〇 歳 以 上 の 高 齢 者 が、 身 体 が 虚 弱 化 し た と き に 望 む 居 住 形 態 と し て、 現在の住宅に住むことを希望する者の割合は、六二・八%であるとされている。 ( 28) 典型的な担保付貸付では、最初に借主の返済能力の審査を経て、一定額のまとまった金銭の貸付が行われる。すなわち、そこ で は ま ず 借 入 金 に 対 す る 借 主 の 返 済 能 力 が 重 視 さ れ、 不 動 産 は あ く ま で 物 的 担 保 と し て、 そ れ を 保 証 す る 役 割 を 果 た す こ と に な る。それに対して、抵当権付終身貸付では、原則として、契約当初より借主による被担保債権の弁済は予定されておらず、担保と した不動産のみを返済の裏付けとする貸付となる。すなわち、典型的な担保付貸付では、まず債務者への信頼があり、それを保証 するための物的担保があるという、いわば二段構造になっているといえるが、抵当権付終身貸付の場合には、原則として担保不動 産のみが貸付の保証となり、被担保債権の回収は担保不動産の競売等によることが予定されるのみである。 ( 29) そのことからすれば、抵当権付終身貸付は都市部を中心に運用し、地方では、高齢者向け住宅などの促進を促すなど、地域を 切り分けた方策が有効と思われる。 ( 30) ヒアリングのなかにもあったように、抵当権付終身貸付は、通常の貸付以上に保険的リスクが生じるものであり、そのような ことからも、今後はさらに保険と金融との一体化を意識した商品を生み出していく必要もあると思われる。そのことに関して、金 融 と 保 険 の 枠 を 超 え た 新 た な 方 向 性 を 模 索 す る 研 究 と し て 次 の も の が 興 味 深 い。 「金 融 と 保 険 の 融 合 の 進 展 ― 金 融 コ ン グ ロ マ リ ッ ト と A R T(代 替 的 リ ス ク 移 転) に 関 す る 調 査 報 告 書 ―」 損 保 ジ ャ パ ン 総 合 研 究 所(二 〇 〇 八 年 一 二 月) ( http://www.sj-ri.co.jp/ research/insurance_finance/pdf/insurance_finance.pdf ) ( 31) 拙稿「 Les contrats de prêt hypothécaire inverse ( reverse mortgage ) et de viager immobilier au Japon- Situation actuelle et en