著者名(日)
内田 雄造
雑誌名
福祉社会開発研究
号
1
ページ
93-98
発行年
2008-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00004876/
はじめに
筆者は山古志の復旧・復興については、この間、長 岡市中山間地型復興モデル住宅検討委員会の会長とし て、また山古志の集落再生検討委員会のアドバイザー として密接に関わってきた。その際、東洋大学の「山 古志の復興をモデルとする中山間地域振興に関する研 究」の責任者として、山古志の様々な復旧・復興計画 や事業と関わることも少なくなかった。また何がしか の情報を見聞きする機会もあった。 道路、河川、砂防といったインフラ整備や住宅の新 築・改修が一段落した被災後3年4ヶ月となる2008年2月 の時点での被害の実態、復旧・復興の課題を筆者の体 験に即して書きとめておきたい。1.道路、河川、上水道
地震により多くの道路は寸断され、大規模な崖崩れ によって路線がつけ替えられた道路も少なくない。し かし道路の被害状況をみるといくつかの特色が指摘さ れる。①昔から開発されていた村道は幅員も狭く、地 形に沿った線型であるが、殆ど被害を受けなかった。 ②地域の重要幹線となる道路番号2桁の国道は、造成も きちんとなされており、比較的被害が少なかった。③ 道路番号3桁の国道と県道は被害が大きかった。 河川は山からの大規模な崖崩れにより、河道閉塞が 発生し、芋川にはダム状の堪水が生じ、まだ土砂によ って河床は上昇した。水没した住宅は勿論、水位の上 昇により浸水の危機に直面した住民は移住を余儀なく された。 上水道はかつては集落単位の簡易上水道が敷設され ていたが、夏期の水量の不足や、地盤がもろく、村内 にダムを築くことが不可能であること等の事由により、 震災直前に長岡市からの本管の敷設が完了した。しか し、本管が敷設された道路が被災したことにより、本 管も寸断された地域は、被災後1年間は古い簡易水道や 湧き水を利用することを余儀なくされた。 今日では道路は復旧し、新しいトンネルも掘られ、震災被害の実態と復旧・復興の課題
福祉社会開発研究センタープロジェクト2リーダー
東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科
教 授
内田 雄造
写真1 大規模な崖崩れ跡 写真2 芋川の河川閉塞により水没した住宅PR
O
JE
C
T
2
集落は住宅被害も大きかった上に崖崩れによる流失及 び崖崩れの危険、河道閉塞による水没、水位の上昇に よる浸水の危険などの理由により壊滅的な被害を受け、 避難指示も2007年3月まで継続された。 旧山古志村は震災直後から「山古志に帰ろう」をス ローガンとし、「小規模住宅地区改良事業」を適用した 集落整備をめざした。これに対し、山古志と山一つを 隔てた小千谷市東山地区の場合、小千谷市は住民に対 して平地への移住を推奨した。また他市町の被災集落 では「防災集団移転事業」を適用し、集団移転を図っ たケースも報告されている。 旧山古志村の場合、集落の再建地の選定が困難を極 めた。一般に住宅地を造形する際は、地形(方位と傾 斜度)、地盤、インフラとの関係、工費などの要素が重 視されるが、旧山古志村の場合、地盤は泥岩や砂岩か らなり脆弱でありかつ地形も急峻で、適地が極めて少 なかった。プランナーと行政当局は選定にあたり、村 で伝承される安全な土地を尊重し、その上で当該地に ボーリング調査を行って地盤の状態を確認するという 方針を採用したが、筆者もこの方法に肯定的である。 今日集落の再整備が完了しているが、村外への移住 者多かった地区もあり、今後の小規模集落(既に限界 河川も改修された。地域には様々な新しい工法を活用 した砂防工事が施工され、地域は新しい工法の砂防工 事の展示場のような状況である。しかし、筆者が地域 の住民に対してヒアリングを行った結果からは、いさ さか別の対処もありえたのではないかとの感をぬぐい 切れない。確かに今次の崖崩れは規模が格段に大きく、 被害も甚大であった。しかし、従来からも山古志では 崖崩れは少なくなく、住民は「ホイ崖崩れが起きたか、 一つ棚田をつくってくるか」という対応も少なくなか ったという。また、今回の崖崩れ跡地も震災から3年経 過した現在ではかなり安定したと考えられる。被災直 後に大規模な砂防工事によって、二度と崖崩れを起こ させないようにするといった対応が適当だったかどう かは異論も存在しえよう。 河川改修、道路改修、砂防工事などによって地域の インフラの復旧・復興に投ぜられた資金は2,000億円を 超えるとうわさされている(積極的な情報公開はなさ れていない)。「山古志に帰ろう」という旧村民の願い は尊重される必要があるが、インフラ復旧のあり方は 検討の余地があろう。2.集落の再生
旧山古志村には14集落が存在するが、うち小規模な6 集落名 種芋原 虫 亀 竹 沢 間内平 菖 蒲 山 中 油 夫 桂 谷 梶 金 木 篭 小松倉 大久保 池 谷 楢 木 合 計 表1 山古志地域集落別家屋被害状況(住家のみ) 図1「長岡中山間地型復興住宅」による再建住宅マップ(2007年10月現在) 全 壊 24 39 35 12 5 10 16 20 32 30 23 22 39 32 339 大規模 半 壊 15 32 8 4 0 1 4 6 0 0 4 0 0 0 74 半 壊 102 66 23 5 4 1 2 17 0 0 3 0 0 0 223 一 部 損 壊 62 23 12 6 0 1 1 6 0 0 0 0 0 0 111 無被害 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 合 計 203 160 78 27 9 13 23 49 32 30 30 22 39 32 747 注:平成18年6月7日 家屋調査(再調査)まで反映。壊滅的な 被害を受けた油夫、梶金、木篭、大久保、池谷、楢木、各集落 に対しては、長期にわたり避難指示がなされていたが、平成19 年4月1日付で避難指示は解除された。現在は集落の整備が完了 し(集落を再整備したケースと集落を移転したケースが存在す る)、新しい集落内に戸建住宅や公営住宅が建設された。集落のケースや限界集落化が予想されるケースも多い) が、コミュニティとして存在しうるかが問題であろう。 集落の再統合も不可避と言えよう。
3.住宅の改修・再建
村当局から伝えられた情報では、震災により全壊、 大規模半壊が住宅数の過半を占めており、筆者を含め 「長岡市中山間地型復興モデル住宅検討委員会」のメン バーは、かなりの数の住宅が新築されると予想してい た。しかしこの予想は当たらなかった。旧山古志村で は住民が農協の「建物更生共済」という損害補償に幅 広く加入していた。この保険は「建更」と通称され、 積立て式の損害補償保険であり、火災は勿論、地震 (保険額の1/2)や雪害を含め自然災害による被害でも補 償の対象となるという特色を有している。しかも補償 後、住民が被災建物をどう活用しようと自由である。 一般の損保では地震特約をつけない限り、地震による 被害は補償の対象とならず、国による被災者支援は、 被災した建物の解体・除却の費用が支援される建前で あり、被災建造物を再利用することなどは許されてい ない。そのため、建て起こせる建物が解体除去された り、素晴らしい建材が廃棄されることが多いが、「建更」 によって補償を得た住民は、被災建物を建て起こした りジャッキアップしたりして再活用するケースが多か った。この結果、まだ使える建物が解体され、廃棄さ れることはずっと減少したと言える。国による被災者 生活再建支援法もこの度改正され、全壊の場合上限300 万円が支給され、使途は自由とされたが、「建更」の場 合はこの先行事例と言える。 改修に当たっては耐震改修と断熱改修が考えられる。 震災の影響もあり、耐震改修はよく実施されたが、断 熱改修はほとんど実施されていない。筆者はこれだけ 大規模な改修を行うのだから壁面や屋根裏や床下の断 熱改修を実施することも技術的には可能であると考え ていたが、高齢者の多い住民はお金をなるだけ使わな いで、とにかく住めれば良いとの想いが強かったこと を強調しておきたい。 また、筆者たち長岡市中山間地型復興モデル住宅検 討委員会は中山間地型復興住宅として、自然落雪方式 の比較的小規模な復興モデル住宅を提案した。この提 案は株式会社アルセッド建築研究所により、いくつか のタイプの住宅案として結実し、公営住宅にも採用さ 図2 復興モデル住宅のコンセプト志の大工さんと長岡の工務店がチームを組み、建設を 担当する、②木材はプレカット方式とし、設備機器は 現物を安く供給する、③趣旨に協賛する地元の建築家 (結果として4人)に一部設計を含む監理を依頼する、 ④㈱アルセッド建築研究所がコンストラクションマネ ージャーとしてシステム監理にあたる、こととした。 しかし、結果的には前述の「建更」の影響があり、① モデル住宅の新築は当初の予定より大幅に少なかった、 ②補償金を使いもっと大きな住宅を新築したケースも 少なくなかった、ことが特筆される。 地域では従来、3.40坪以上の比較的大規模な住宅が一 般的であり、お正月やお盆に息子や娘が各々の家族を つれて帰郷する際、ゆっくりできる住宅が良いとされ てきた。高齢の老夫婦の場合、通常は台所と居間を中 心とする狭い空間で生活しており、特にその傾向は冬 期に著しいが、それでもこの住宅観は根強いものがあ る。しかし2年間∼3年間、2DKないし3DKの狭小では あるが近代的な仮設住宅での生活の良さを認識した点 れた。 筆者たちは、この住宅のコスト削減につとめ、4間× 4間の2階建住宅(8坪分吹き抜け、2階粗仕上げ)県産 材の利用、メーカー協力による設備機器の値引き、復 興基金による助成などにより、高床タイプ:約1,300万 円(税込み)、低床タイプ:約1,200万円(税込み)で提 供することとなった。筆者たちは実際の値段より500万 円くらい安価に提供したと考えたが、この価格は現地 では特段に安いとは受け止められなかった。同じプラ ンの住宅をより良い材木を使って建設するといった長 岡の住宅建設業者も出現した。 筆者たちは㈱アルセッド建築研究所の住宅モデルを 公開し、住民が自由に利用することを歓迎した。 旧山古志村の建設業者は3∼4軒、大工さんなどの職 人は10人程で、震災以前の旧山古志村では、年3∼5棟 の住宅新築が一般的であった(これとは別に鯉の越冬 施設の建設は存在した)。旧山古志村の大工さんは、従 来のお得意先の被災住宅の改修で手一杯であり、復興 モデル住宅の新築には手が回りかねる状況であった。 また新築を請負うならば安価なモデル住宅より鯉御殿 などのコストの高い住宅を優先する傾向も見られた。 しかしながら将来の住宅のメンテナンスや豪雪地帯の 工夫を考えると山古志の大工さんを抜きにしてモデル 住宅建設を考える訳にはいかず、筆者たちは、①山古
PR
O
JE
C
T
2
写真4 東竹沢公営住宅の自然落雪の様子 写真3 東竹沢公営住宅(奥が高床型、手前が低床型) 図3 住宅再建のための組織図も多かったと言えよう。別稿で論ずるつもりであるが、 筆者は地区ごとにグルーピングされて居住し、不十分 ながら、集会施設、若干の店舗(理髪店を含む)、共同 利用と個人利用の農地が整備されていた仮設住宅団地 での2年間∼3年間の生活は、山古志住民の生活に大き な影響を与えたと考えている。その主たる点は、①隣 人どうしが相互に扶助しあう共同生活の良さの確認、 ②2DKないし3DKといった狭小ではあるが、近代的な 住宅の住まいかっての良さの確認、③上記②と重複す るが、比較的断熱性能の高い住宅での生活、特に冬期 の結露への対応と夏期の冷房の活用、④山古志住民に とって農のある生活の必要性などである。 筆者たちの提案した復興モデル住宅は、バリエーシ ョンも含め一般民家で十数軒、公営住宅で36軒建設さ れた。当初は、①狭い、②FF方式の暖房機一機では暖 房の能力不足ではないか、③特に吹き抜けが暖房効率 を落とすのではないかといった不安や疑問が存在した が、一冬を過ごす中で、暖房の不安は大分解消されて 写真5 ユニバーサルデザインを採用した公営住宅設備 写真6 採光を考えたモデル住宅の吹き抜け いる。また狭いが近代的な住居の住まいかっての良さ も、高齢の夫婦や単身者に受け入れられたと筆者たち は考えている。しかし、山古志での生活には、居間だ けでも床暖房が好ましいとの思いが強まっている。ま た自然落雪方式は屋根の雪下ろしが困難な家族にとっ て大いに効果を発揮しているが、落雪した雪の処理は コミュニティで対応する必要があり、各々の住宅での 融雪処理も将来的には課題になると筆者は考えている。 また、都市部に住む息子や娘の家族が気楽に宿泊でき る地域としてのゲストハウスや宿泊施設の整備も必要 であろう。 新しく建設される公営住宅は当初は50戸を超えた数 が必要となるのではないかと筆者たちは考えていた。 しかし結果的には36戸の建設に止まった。これには中 山間地域に住む山古志の住民にとって公共賃貸住宅と いう住宅形式への違和感が存在したことも確かである が、都会や他所に住む息子や娘が、親が持家を建設す るのを扶助したケースも多かったと思われる。高齢者 の場合、「建更」へ加入する割合も低く、年金も少なく (目下調査中であるが、家族総計でも200万円未満が多 いと思われる)、米や野菜は自給するとしても現金収入 が少ないケースも多い。貯蓄も多くないと思われるが、 高齢者にとってみれば、将来、医療施設や介護施設へ 入所する場合の費用として、また息子や娘の家へ身を 寄せる場合の持参金として何がしかの現金を用意して おきたいと考えることも十分理解しえよう。このよう な高齢者にとって1,000万円を超える住宅の取得は難し い。しかし、都会や他所に住む息子や娘からみれば、 老いた親を公営住宅に居住させることは、次の代は山 古志と縁を切らざるを得ない、もしくは一定距離を置 かざるを得ないという意向を地域で公表することを意 味しており、持家の新築・改修は息子や娘としても山 古志との関係を重視していることを示しているとも言 えよう。 目下の公営住宅入居者の世帯主の平均年齢は75歳を 超えており、年金以外の所得を持たない家族が多い、 一方、公営住宅の家賃は、本来の応能応益家賃方式な
らば最低でも月3万円近いと思われるが、県下全般で実 施されている一般減免制度の適用、さらに傾斜家賃と いう過渡的措置も相まって、現時点では月額5,000円以 下である。 将来的には、空家となった公営住宅をどう活用する のか、あるいは公営住宅の払い下げ制度を考えるのか が課題となろう。