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ヨーロッパの説明社会学,分析社会学の最近の研究動向(承前)

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【研究ノート】

ヨーロッパの説明社会学,分析社会学の

最近の研究動向(承前)

久  慈  利  武

前号に「ヨーロッパの説明社会学, 分析社会学の最近の研究動向(以下前稿)」を掲載し 読み返してみて,触れられなかったトピックがまだ大分残っていることに気づき,前稿のス タイルを踏襲して続けていきたい。 1. 前稿の校正進行中に,ディークマン/フォス共同執筆「ドイツ語圏における合理的選択 理論の受容(2018)」が目にとまった。ドイツ語圏(ドイツ,オランダ,スイス)社会学に 合理的選択理論を定着させるのに寄与した人たちとして,わたしが前稿で挙げた,オランダ 説明社会学研究集団,カール・ディーター・オップの他,ハンス・ヨハヒム・フンメルとロ ルフ・ジーグラーに触れている。ふたりはケルン大学の同窓で,ドイツにおけるフォーマル なモデル構築の定着に献身した先駆者である。フンメルは前稿で触れた,オップと共著で『社 会学の心理学還元可能性(1971)』を著したその人である。フンメルは,前記の共著の他にも, ふたりの各自の論文ならびに共著論文を合本した著書『社会過程の説明の諸問題 I, II (1973)』,単著『多水準分析の問題(1972)』がある。ながらくデュイスブルク-エッセン大 学に勤務して,そこに定年まで勤務した。 ロルフ・ジーグラーはミュンヘン大学の教授を長く勤め,ベネチア夏期セミナーを長期に 亘って主催し,フォーマルなモデル構築研究者を多数養成した。どんな人物がいるかは, 前 稿で触れたアンドレアス・ディークマン,トマス・フォスが共同編集したジーグラー祝賀論 文集を参照されたい。フンメルとジーグラーは,ウェルナー・ライマース基金の後援を受け て,1974 年から 1982 年まで MASO(社会科学における数理モデルためのワーキング・グルー プ)を主催した。その報告書を下に掲げる。第 7 回からはソデュールが新たに加わっている。 Mathematical Model in den Sozialwissenschaft MASO

 第 1 回 1974 ロルフ・ジーグラー編「社会的不平等と社会移動」  第 2 回 1975 ロルフ・ジーグラー編 「地位配分過程の分析」

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 第 3 回  1976 ロルフ・ジーグラー編 「社会科学と経済科学におけるシミュレーション手 続きの使用」  第 4 回  1977 ジーグラー,ハンス・ヨハヒム・フンメル編「社会的ネットワーク分析へ の数理の応用」  第 5 回 1978 ハンス・ヨハヒム・フンメル編「社会権力分析への数学的アプローチ」  第 6 回 1979 ハンス・ヨハヒム・フンメル編「社会変動分析への数理手続きの適用」  第 7 回 1980 フンメル,ウォルフガング・ソデュール編「社会構造の普及過程モデル」  第 8 回 1981 ウォルフガング・ソデュール編「組織構造と組織過程の数理分析」  第 9 回 1982 ウォルフガング・ソデュール編「社会行動の経済学的説明」

ゲスト Peter M. Blau, Raymond Boudon, James Coleman, Mark Granovetter, Gudmund Hernes, Edward O. Laumann, Siegwart Lindenberg, Peter Marsden, Anatol Rapoport, Aage Sorensen, Gordon Tullock, Harrison White

最終回の報告書に記載のバックナンバーをもとに記述。ゲストは特集に関係のあるテーマ にのみ呼ばれている。ゲストの発表原稿は他の雑誌に発表されたものがほとんどで,このワー クショップのために独自に発表されたものは見あたらない。

MASOを主催した 3 人は,1982 年の終了の後,1984 年から,社会的ネットワーク研究集 団を立ち上げる。メンバーに Franz Urban Pappi,Peter Kappelhof,Norman Braun が加わる。 この活動については,ジーグラー(2011)が参考になる。 2. ディークマン/ フォスの前記論文(2018)において,ドイツ社会学に合理的選択理論を 定着させるのに寄与した人物としてほかに,ビクター・ファンベルクが挙げられている。彼 はジョージ・カスパー・ホーマンズの社会学の心理学還元可能性を論じた諸論文 5 編を独訳 編集した『社会学理論の基本問題(1972)』, ジェームズ・コールマンの『権力と社会の構造』 の独訳(1979), ガリー・ベッカーの『人間の経済行動』の独訳(1982),自身の博士論文『二 つの社会学 : 社会理論における個人主義と集合主義(1975)』,教授資格請求論文『市場と 組織 : 個人主義社会理論と団体行為の問題(1982)』で寄与している。 ファンベルクは 1943 年生まれで,ミュンスター大学でデュプロマを修了した後,1975 年 の著書で,ベルリン工科大学から博士号,1982 年の著書でマンハイム大学から教授資格認 定を得ている。ジェームズ・ブキャナンの招きで,1983 年から 1994 年までアメリカのジョー ジ・メーソン大学の公共的選択センターに在籍,准教授,教授を歴任,1995 年にドイツ・ フライベルク大学のハイエクから自らの後任として政治経済学講座に招聘される。公共選択

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センター滞在中英文で執筆した論文は『経済学におけるルールと選択(1994)』にまとめら れている。 ジョージ・カスパー・ホーマンズを高く買っている点,ポパー,アルバートの系譜を継ぐ 科学哲学,科学方法論に精通している点,ハンス・アルバートの監修する社会科学の統一シ リーズ(チュービンゲン : モールジーベック社)から著書を出版している点,筆者はオップ とファンベルクに目に見えないつながりを感じてきた。ファンベルクの教授資格請求論文の プロモーターが,マンハイム大学のハンス・アルバートであった。ファンベルクはホーマン ズ『社会学理論の基本問題(1972)』の訳者あとがき論文「社会学における行動論的アプロー チ」, 博士論文『二つの社会学(1975)』でフンメル/オプの『社会学の心理学還元可能性(1971)』 を高く評価している。 またファンベルクがドイツに留まることができない事情ができた際に,ジョージ・メーソ ンの公共的選択センターにジェームズ・ブキャナンがどうしてファンベルクを誘ったのか, ずっと疑問であった。その疑問は氷解した。チロル地方アルプバック・ヨーロッパ大学週間 に,何年間に亘って哲学者カール・ポパー,ハンス・アルバート,フェイヤー・アーベント, ラドニツキー,経済学者ジェームズ・ブキャナン,ブルーノ・フライ,社会学者オップ,ファ ンベルク,心理学者ボルフガング・ストレーベが集って経済学と社会学のモデル,人間像を めぐって議論を積み重ねてきたということである。(この情報もとは Diekmann/Voss 2018)。 時期が述べられていないが,ネオ・ポリティカル・エコノミー年誌にオップ,ファンベルク が掲載したり,フライ,ストレーベとオップが,ブキャナンとファンベルクが共同執筆して いる時期から推察すると,1978 年から 1982 年と推察される。社会学者で参加したのはオッ プとファンベルクのみであった。ジェームズ・ブキャナンに招聘されてファンベルクが 1983年から 1995 年までドイツを離れ,ジョージ・メーソン大学公共選択センターで研究生 活を送った事情もこの人脈が関係していたのである*。 *ファンベルクの博士論文と教授資格請求論文の内容は,拙著『現代の交換理論(1988)』(新泉社) 第 5 章「個人主義的交換理論の拡張 集合行為者モデル」に詳しい。

 また Rules and Choice in Economics の拙書評は,『理論と方法』1996 年 11(2): 78-80に載っている。

3. 1984 年にドイツ社会学者とアメリカ社会学者がドイツのシュロス・ラウィッシュホル ツハウゼン Schloss Rauischholtzhausen で, ミクロ-マクロ・リンク会議を開催した。それは

1987年に著書として出版された(J.C. Alexander et al. (eds.) Micro-Macro Link)。それに参加 したドイツ研究者がミクロ-マクロ・リンク研究サークルを結成し,1987∼1990 年の毎年研

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(1988), Zürich (第 24 回ドイツ社会学会 1988), Köln (第 25 回ドイツ社会学会 1989), Koblentz (1989), Frankfurt (第 26 回ドイツ社会学会 1990))。ミクロ-マクロ・リンク研究サークルの

参加者は Andreas Diekmann,Georg Erdmann,Hartmut Esser,Ulrich Mueller,Werner Raub, Peter Schmidt,Klaus G. Troitzsch の 7 人である。討議されたテーマは,理論構築,モデル 構築,人間像,行為理論,協力ないし社会秩序形成問題であった(この情報もと Maurer 2017)。またドイツ社会学会に 1992 年に「モデル構築とシミュレーション」部会が設置され るが,部会設立を呼びかけた学会同人はこの研究サークル・メンバーが中心であった。彼ら は,その前年にハルトムート・エサー & クラウス・トロイツシュ編『社会過程のモデル構築 : 社会学理論構築のための新しいアプローチと移植』を刊行するが,これが部会設置に大いに 力を貸したのであった。 4. 前稿で,リンデンベルクがコールマンに,マクレランドの逆台形図形を教えたことをラ オプ/フォスが語ったことに触れたが,リンデンベルクがコールマンに教えたのはいつであっ たかに触れなかった。ラオプ/フォスは,コールマンが逆台形図形を最初に発表した論文は, 1984年ヘンリック・クロイツが創設した応用社会研究所機関誌『応用社会研究』12 卷 1/2 合併号「ミクロな基礎とマクロな社会行動」であることに触れている。次いで 1986 年に出 版されたコールマン, リンデンベルク,ノバク共編『社会理論における諸アプローチ』掲載「ミ クロな基礎とマクロな社会理論」,アレグザンダー他編で 1987 年に出版「ミクロ・マクロ・ リンク」掲載「ミクロな基礎とマクロな社会行動」,活字としての掲載は『応用社会研究』 12卷 1/2 合併号「ミクロな基礎とマクロな社会行動」に後れを取るが,『社会理論における 諸アプローチ』のワークショップ開催はシカゴで 1983 年 11 月 9-12日である。ドイツ社会 学者・アメリカ社会学者合同会議「ミクロ・マクロ・リンク」のワークショップ開催はドイ ツ・シュロス・ウィッシュハウゼン 1984 年 6 月 21-26日である。逆台形・ダイヤグラムの 公表は『応用社会研究』掲載より先である。 もうひとつ,疑問がある。コールマンにマクレランドの逆台形図形を教えたリンデンベル クがなぜ自分でそれを使わないのか。リンデンベルクが架橋問題,集計問題を最初に語った 論文は 1976 年の「集合現象の理論構造(オランダ語)」(その趣旨をドイツ語で書いたのが 1977年の「個人的事実と集合現象と変換の問題」)である。リンデンベルクはマクレランド の逆台形図形をコールマンに伝えながら,自身は逆台形図形を採用しなかった。リンデンベ ルクのミクロ・マクロリンク図形はより複雑である(図 3)。ヘンペル・オッペンハイムの カバーリング法則の演繹形式を採用しているためである。その図式を簡略にしてコールマン・ ダイヤグラムと同型であることを証明したのがラオプ他(2011)である(図 1, 2)。

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ラオプ/フォスがリンデンベルクに,コールマンにマクレランドの逆台形図形を教えたと 確認を取ったことをはっきり語っているのは,2016 年の論文であるが,マクレランドの逆 台形図形をコールマンのそれと酷似していることを最初に指摘したのは,ブリューデル (Brüdel 2004 : 175) である。その論文が収録されているロルフ・ジーグラーの退職記念論集 を編集したのが,ディークマン/フォスである。編著の序論で,彼らはマクレランドの逆台 形図形とコールマンのそれの酷似を指摘している。彼らがそれをブリューデル論文から教 わったのかは不明である。ただフォスは 1980 年前後から,後述のラオプと親しく, 多数の A マクロな条件 4 D マクロな帰結 ● ● 3 1 ● ● B ミクロな条件 2 C ミクロな帰結 図 1 コールマン図形 諸個人に関する命題 (ミクロ仮定;矢印2) 架橋仮定(矢印1) 変換規則(矢印3) 件 条 界 境 る な ら さ 件 条 期 初 ○マクロな条件(結び目A) ○ミクロな条件(結び目B) 実 事 人 個 実 事 人 個 (ミクロな帰結:結び目C) (ミクロな帰結:結び目C) 集合事実 (マクロな帰結:結び目D) 図 2  コールマン図形の結び目と矢印への言及を含めた Lindenberg のスキーム(Raub et al. 2011 : 10,

2017 : 23)

図 3 変換規則と対応規則(Lindenberg 1976 : 3, 1978 : 222) 対応規則

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共著論文を発表していることから,フォスがラオプから教えてもらった可能性は高い。 彼らと別に,オプもマクレランドの逆台形に気づいている(Opp 2009, 2011) 。オプがそ れを知ったのは,スペイン社会学雑誌 2006 年掲載の,フィリポ・バーベラが,リンデンベ ルクとの個人通信で「コールマンにマクレランドの逆台形図形を教えたのがリンデンベルク である」と確認を採った記述を目にしたためである。バーベラはどういうきっかけでマクレ ランドとコールマンの図形の類似を知って,リンデンベルクに確かめようとしたのであろう か。それはそのような噂がすでに蔓延していたからであろう。イタリアの分析社会学者のバー ベラはリンデンベルクと接点はない。噂の発生元として考えられるのは,分析社会学ヨーロッ パネットワークに加入し,大学で当番校を引き受けているユトレヒト大学のラオプである。 ラオプの所属するユトレヒト大学とリンデンベルクの所属していたフローニンゲン大学は 1986年以来連合大学院を構成していて,両者はインフォーマルにもコミュニケーションを 取り合っていたのである。リンデンベルクに確認を取ったのがラオプで,そのラオプにリン デンベルクに確かめるように依頼したのがリューデマンの寄稿を見たフォスであろうと推察 される。

5. 前稿でラオプ等が 2011 (Raub et al.),2016 (Diekmann/Voss),2018 (Raub/Voss) 論文を 執筆したのは,オプ(2009)を意識したからだと述べた。オップはこの論文をフンメルの名 誉教授授与式での自分のスピーチを再録したものだと断っているが,それは論文全体でなく 「ドイツ連邦共和国における個人主義プログラムの開始とその後の展開」の箇所を指してい るものとおもわれる。ケルン大学の助手時代,フンメルと共著した草稿をめぐって教授のル ネ・ケーニッヒと確執があったことおよび西ドイツにおける個人主義プログラムの展開とそ の中心に自分がいることの自負がその節の主内容である。あくまでも主人公はオプである。 しかし,フンメルの祝いの席ということを考えると実際のスピーチ内容は,主賓のフンメル を称える内容であったものと想像される。自分はケーニッヒとそりが合わなくてケルン大学 を去ってエアランゲン・ニュルンベルク大学に移ったのにフンメルは留まったことや,ケニッ ヒの編纂した全 2000 頁二巻の『経験的社会調査ハンドブック(1969)』の裏方の手伝いを自 分は敬遠したのに,フンメルは 120 頁の長論文「社会行動論への心理学的アプローチ」を寄 稿していること,ケーニッヒ著作集(全 13 巻)のなかの一巻を編集していることなどだっ たことが想像される。 オプが自己の立場を一方的に正当化し,オランダ・ドイツの説明社会学グループの個人主 義プログラムを一方的に批判していることに直面して,オプに一方的に勝手なことを言わせ ておけない,もっと均整のとれた「ドイツ連邦共和国における個人主義プログラムの開始と

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その後の展開」史を書くことを思い立たせたものと想像される。 オップが 2009 年の論文で,自分の 1979 年の著作に対するラオプ & フォス(1981)の批 判を 30 年も経って蒸し返しているのを目にしたからである。オップのそれは実は反論になっ ていない。リンデンベルクと自分のは同じでないかという強がりで,ラオプ & フォスの批 判の論点をまったく理解していないのである。オプがケルン大学で助手時代の個人主義説明 プログラムとその支持者(ハンス・アルベルトのアプローチへの共鳴者)の回顧録を持ち出 したのが,ラオプ/フォス(2018),ディークマン/フォス(2016)に回顧録を提出させる呼 び水となったのである。 6. 前稿で,マリオ・ブンゲがいわゆるコールマン・ダイヤグラムをブードン-コールマン 図形と呼称していることに触れた。前掲のラオプ/フォスがコールマン・ダイヤグラムの前 身としてあげているブードンの図形は Boudon [1979] 1981 である。次の関数式は Boudon 1986 [1984], 1987 である。前者はコールマン・ダイヤグラムと共通な部分は,結び目 A,D, 矢印 1,3 であるのに対して,後者は矢印 4 を欠くだけで,結び目のすべてと矢印の 3 つを 備えている。  ブードン M=M(m) 被説明項は行為の関数である コールマンの(矢印 3)       m=m(S)  行為は状況の関数である コールマンの(矢印 2)       S=S(P)  状況は何らかのマクロ変数の関数 コールマンの(矢印 1) 7. 5 年前の退職記念論文で,筆者はオップ,リンデンベルク,エサーの間の批判の相互応 酬を取りあげた。それでは,ブードンと上記三者の間では,批判の相互応酬は存在しなかっ たのか。三者からのブードンに対する批判は存在するが,ブードンから三者に対する批判, 三者からの批判に対する自己の立場の擁護は存在しない*。 *そもそもブードンはウェーバーの合理性類型に依拠しており,合理性を経済学,功利主義の用具 的合理性に限定することに反対の姿勢を取っている。その点で仮にブードンが彼らを批判するとし たら,用具的合理性に限定することに厳しい態度を取ったであろうと想像される。 ブードンの認知的合理性(用具的合理性に限定せず価値合理性,認知的合理性にまで一般 化する)姿勢に,後者たちによる用具的合理性を擁護する反論が存在する。 リンデンベルクは前記 2000 年のブードン祝賀論文集の寄稿,「合理性の拡張 : フレーミ ング対認知的合理性」で,エサーはオップ祝賀論文集およびシュルフター祝賀論文集寄稿「価

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値合理性」で展開している。エサーのブードン批判の論旨は,リンデンベルクの主張への共 感であり,リンデンベルクとエサーに違いは見られない。 ウェーバーの合理性論を取りあげているブードンの論文を収録しているのがブードン『価 値の起源(2001)』であるが,イエンス・グレベがケルナー誌に掲載した「価値合理性と目 的合理性のひとつの行為モデルへ統合するための新たなアプローチ(2003)」で,ブードン のウェーバー論,リンデンベルク,エサーのブードンの認知的合理性批判を整理している。 ただしリンデンベルクのは「目標フレーム論」でなく,その前身プロスペクト-弁別モデル である。グレベは,ブードンの合理性の一般化より,リンデンベルク,エサーの用具的合理 性擁護を支持する。そしてリンデンベルクの弁別モデルよりも,エサーのフレーム選択モデ ルの方が価値合理性をうまく整理できると評価するが,新たな課題を抱えていると語ってい る*。 *グレベの論文の翻訳を人間情報学研究第 14 巻(2009)に掲載した。 オップのブードン認知合理性批判は,スペイン社会学雑誌「ブードン追悼特集号」に寄稿 した「何でも説明する : レイモン・ブードンの社会理論の批判的分析」である。ブードンの 認知的合理性論はあらゆる行動,態度を説明すると主張しているものと受け取り,ブードン の認知的合理性でアプローチできないものを引き合いに出し,バランス理論と価値期待理論 (経済学の主観的期待効用理論のドイツ心理学版)で説明できると主張し,実際に試論を提 示する。またブードンの合理性論は効用最大化を拒否すると宣言していながら,密かにそれ を用いていると批判する。自分の利益にならないのになぜ一般人は不正に憤るのか, 一般人 は良識(bon sense)を持ち合わせているのか,ひいては健全な共通感覚(common sense) を持ち合わせているのか,感情的にならずに理性的に行動できるのか,を追求するブードン の問題意識とずれを感じる。 ブードンの合理性概念の拡大に対して,彼の最終的橋頭堡である,行為者がそうしたのは 十分な理由 good reasons があったからだ,その理由は通個人的に理解,了解できるものだ, という理解の方法に行き着く。十分な理由 good reasons を見つける科学的手続きが提示され ないことで,多くの賛同者を集めるに至っていない。 8. 全 6 部,37 章,1000 頁の社会科学のモデル構築とシミュレーションのハンドブックが 2014年に登場した。各部は全体の序章を除くと,「モデル構築とシミュレーションのメタ理 論,方法論をめぐる議論」「様々のモデル構築」「種々のシミュレーション・アプローチ」「社 会秩序と社会構造の領域」「社会変動の領域」の各部からなる。「社会変動の領域」は「イナ

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ベーション」「社会普及モデル」「模倣と同調」「集合行動」「社会的影響力モデル」「移住」「交 渉」「武力と戦争」。「社会秩序と社会構造の領域」は「社会的ジレンマと協力」「社会規範」「社 会的ネットワーク」「情報とシグナル」「互酬と評判」「公正」「コミュニケーション」「支配 と組織」からなる。 前稿で,オランダ説明社会学グループの『合理的選択社会調査ハンドブック』を書評した ライプチヒ大学のバーガー & チュテクを見当違いのコメントをしていると揶揄したが,彼 らはその書評でオランダ・グループのハンドブックよりもこちらのハンドブックの方が優れ たものとして推奨している。カバーする範囲の網羅性とオランダ,ドイツ,スイスの社会学 者の総力を挙げて執筆していること,オランダのハンドブック執筆陣もこの執筆に参加して いる。両者を比較すると, アプローチも対象領域も前者の局所的な面がどうしても目に付い てしまう。精鋭,脂ののった全盛期の研究者に実質的な部分を任せ,オップ,シュミットの 大家はメタ理論,方法論議論に押し込めている。編者はエアランゲン・ニュルンベルク大学 ニコル・サームとミュンヘン大学ノーマン・ブラウンであるが,2013 年に死去しているブ ラウンの名は執筆者としてはどこにも見あたらない。一方の編者サームは,編集段階に参画 したブラウンを編集者の筆頭に挙げて,ブラウンの尽力を称えている。 実は前記の書評者バーガー & チュテクは,その書評末尾で優れた合理的選択理論の教科 書としてノーマン・ブラウン & トマス・ガウシ(マンハイム大学)共著『合理的選択理論 (2011)』を挙げている。パラメトリックな合理的選択理論(確実性下のそれと不確実性下の それ)だけでなく,ストラテジックな合理的選択理論(協力的ゲーム理論,非協力ゲーム理 論)ナッシュ均衡のゲーム理論における鍵役割を解説している。ただ生憎なことに『社会科 学におけるモデル構築とシミュレーション・ハンドブック』『合理的選択理論』とも,全文 がドイツ語で執筆されており,ドイツ語を読めない読者には接近がかなわないのである。 9. 最後に,前稿でオランダ,ドイツの合理的選択社会学者の存在を知るのに格好の祝賀論 文集を薦めたが,最近スイスの合理的選択社会学者の存在を知るのに格好の祝賀論文集が出 た。アンドレアス・ディークマンを祝賀する論文集である。前稿で紹介したラオプ & フォ ス共著「社会学のミクロ-マクロ・モデル : コールマンダイアグラムの前身たち」もこの論 文集に収録されたものである。前稿の祝賀論文集の祝賀された大物たちも寄稿している。こ の論文集はディークマンの弟子,ベン・ヤンとヴォイテク・プルツェピオルカの共編著『社 会的ジレンマと制度と協力の進化』で,「基礎」「制度」「社会規範」「仲間の裁可」「信頼感 と信頼性」「ゲーム理論」「実験法」の各部に 25 編が寄せられている。祝賀論文集の固定観 念を脱するべく,副題から祝賀論文集の題を取り去り,専門書の体裁を取り,収録論文は覆

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面の 2 名の執筆者の査読を受けて書き直しさせられている。編者の一人がスイス・チューリッ ヒの学窓出身ながら,オランダのユトレヒト大学のスタッフである関係で,オランダの若手 研究者の寄稿論文も多い。この論文集はすべて英文で統一されている。 8. で触れたハンド ブックとこの論文集の執筆陣を見ると,ジーグラー,オップ,エサーの祝賀論文集の執筆陣 との世代交代の感を強くする。 文献一覧

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Greve, J. 2003 “Handlungserklärung und Die Zwei Rationalitaten? Neuere Ansatze zur Integration von Wert- und Zweckrationalitat in ein Handlungsmodell.” Kölner Zeitschrift. 55(4): 621

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Braun, N./T. Gautschi 2011 Rational Choice Theorie. Weiheim und München : Juventa Verlag.

Braun, N./N. Saam (Hrsg.) 2014 Handbuch Modelbildung und Simulation in den Sozial -wissenschaft. Wiesbaden : Springer VS.

Jann, B/W. Przepiorka (eds.) 2017 Social Dilemma, Institutions and the Evolution of Cooperation.  Berlin : De Gruyter.

図 3 変換規則と対応規則(Lindenberg 1976 : 3, 1978 : 222)

参照

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