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特集「自然界に見いだす数物構造を利用した知的情報処理」にあたって

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Academic year: 2021

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544 人 工 知 能  33 巻 5 号(2018 年 9 月) 20世紀初頭にアインシュタインの相対性理論とボー アに代表される量子力学を手に入れた私達は,その理論 の形式が,宇宙の本質は非自明であり,私達が知り得な い領域を包含することを明示しているにもかかわらず, ニュートン以来の「物事を精密に把握し制御しようとす る願望」に基づいて高度に科学・技術を発展させてきた. 人工知能の基盤となる LSI も,半導体中の相対的で不確 定な「揺らぎ」をもつ運動をふるいにかけ,1 か 0 かの世 界に限定した正確な情報処理を極限まで追求してきた. そうした 100 年の展開を経て,人工的に知能や身体活動 をも再現しようという段階にまで至った今,自然界の本質 をディジタル化のおりに幽閉することで,失われるもの が数多くあるのではないかと気が付くようになってきた. 私達のもつ知能は,曖昧な問題や不明確な問題に適当な 答えを見つける能力がある.チューリングマシンを提唱 したアラン・チューリングも,難解な暗号を解くために チューリングボンベと呼ばれる自然の数物構造を直接利 用した装置を開発している.これらのことから見て,我々, 工学者が人工知能をつくるにあたって,すでに自然界に存 在する自然知能を再考することは欠かせないであろう. 自然界の極めて複雑・多様な現象を活用する鍵は,現 象全体を精密に取り扱うことではなく,合成された複雑 な物事の全体性を考察し,課題を解決する決め手となる インタフェースにおいて,現象の構造や性質,そしてそ の特異性を精緻に捉えることである.そのために,数物 理論で記述された自然ではなく,本来の自然を数物構造 でどう表現し理解するかに取り組む態度が必要になる. 本特集では自然知能に存在する数物的構造に焦点を当 て,生物を含め,数物的構造の抽出,そしてその実装ま でを概観し,読者に自然界に存在する知的構造を理解す る手掛かりを提供することを目的とした. 本特集は,8 本の解説記事で構成されている.1 本目の, 堀 裕和による「自然知能:基本概念と実現手法」は,本 特集の導入的な解説である.本稿では,総論的に自然知 能の考え方を紹介し,圏論を含む数学的取扱いの有用性 ならびに物理機構を用いた自然知能の基本構成を議論し ている.2 本目の,西郷甲矢人氏による「自然知能と圏 論」は,自然知能の特長と構造を捉えるための数学的か つ概念的基礎を解説している.3 ∼ 8 本目の解説記事は, 自然知能の物理機構を用いた先端的な実証研究について 述べている.3 本目の,青野真士氏らによる「サイバー 空間とフィジカル空間を癒合するアメーバ計算パラダイ ム」では,粘菌という生き物の自然知能と,充足可能性 問題(SAT)の解決をはじめとした多様な応用展開につ いて解説している.4 本目の,中嶋浩平氏による「やわ らかい身体のダイナミクスに計算をアウトソースする」 では,タコ足などの柔軟媒体の複雑な運動を用いたコン ピューティングに関する基礎概念と実証研究について解 説している.5本目の,菅野円隆氏と内田淳史氏による「光 リザーバコンピューティングの展開」では,半導体レー ザの複雑かつ高速なダイナミクスを応用したリザーバ計 算について基礎概念や実装および応用展開について解説 している.6 本目の,稲垣卓弘氏による「光発振器のネッ トワークを利用した組合せ最適化」では,レーザ発振の 自己収束動作を利用した解探索についての原理と鍵とな る技術を解説している.7 本目の,成瀬 誠らによる「光 を用いた意思決定─バンディット問題を光で解く─」で は,単一光子,光カオス,もつれ光子などの光を用いた 意思決定のコンセプトと実装および理論的取扱いについ て解説している.8 本目の,斎木敏治氏による「コロイ ド粒子系への自然知能の物理的実装」では,コロイド粒 子や光相転移材料を用いたアリコロニー最適化などの自 然知能実装の先端研究について解説している. 物理系を活用した自然知能の実現に興味のある読者 は,先に多様な実装例を俯瞰したのち,自然知能の意味 や圏論による記述に取り組んでいただくのも良い方法で あろう.自然知能の本質を捉えようとする読者は,多様 な応用展開の素晴らしさに目を奪われる前に,そもそも 何が問題なのか,どのような視点が肝となるかを把握い ただくのがよいだろう.これらの一連の研究は,ポスト ムーア時代に向けた革新的コンピューティングを模索す る世界的な研究潮流のなかに位置付けられるものであ る.自然知能は,基盤となる数学,材料・デバイス,回路・ アーキテクチャ,さらにはアルゴリズムや人工知能を含 めた応用に至るまで,幅広いレイヤの学際融合の威力が 遺憾なく発揮される領域である.本誌の読者諸氏におか れて,こうした研究の知見を共有いただき,新たな価値 創造の一助としていただければ幸いである.

特集「自然界に見いだす数物構造を

利用した知的情報処理」にあたって

市瀬 龍太郎

(国立情報学研究所)

堀  裕和

(山梨大学)

成瀬  誠

(情報通信研究機構)

参照

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