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共同相続人による取得時効の援用について

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Academic year: 2021

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(1)研究ノート. 共同相続人による取得時効の援用について. 本山. 敦. 目次 はじめに. 1近時の判例 2. 学説の状況. 3. 考察. むすびにかえて. はじめに. S名義の甲不動産を所有の意思をもって20年以上にわたり占有してき. 、pは,. たが,取得時効の援用をしないうちに死亡した。. る【設例】。このような場合,大まかに言うとQ. Pの相続人は2子Q. ・. Rであ. ・.Rには三つの選択肢がある。. すなわち, ①Q ②Q (丑Q. ・. ・. ・. Rがそろって取得時効を援用する Rとも取得時効を援用しない Rのいずれか一方のみが取得時効を援用し,他方は援用しない 229.

(2) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 判例・通説は,上述のような選択肢を承認してきた。しかし,これら共同相 続.人による取得時効の援用の問題を,時効法ではなく相続法の視座から眺める ならば,従来の定見に対して疑義を挟む余地があると思われる。特に,近時の 最高裁判決および下級審判決が,従前の判例・学説を無批判に受容したことで, 相続法の基本的理解と敵騎が生じていると考える。以下,本稿は,共同相続人 による取得時効の援用に関する近時の判例を簡単に紹介し[1],学説の状況を 一瞥した後に[2],考察として問題点を指摘し,若干の私見を開陳する[3]。. 1近時の判例 (1)最三判平成13年7月10日1) 【事案】 Aは,弟Y. (被告・控訴人・上告人)所有名義の土地建物(本件不動産). に居住し,約27年間占有していた。 妻B,長男C,長女D ある。 Ⅹは,. (平成13年判決). Aが死亡し相続が開始した。. (以上,訴外人),二男Ⅹ. Aの相続人は,. (原告・被控訴∧・被上告人)で. Aの占有を相続により承継したとしてYに対して取得時効を援用. し,本件不動産について所有権移転登記を求めた。第1審・原審ともⅩの請求 を認容した。′Yが上告受理を申し立てた。. 【判旨】_最高裁は, 「時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべ き利益の存する限度で時効を援用することができるものと解すべきであって, 被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の一 人は,自己の相続分の限度においてのみこ取得時効を援用することができるにす ぎないと解するのが相当である。. 〔原文改行〕これを本件についてみると,. A. の法定相続人〔BCDX〕の間で本件不動産の全部をⅩが取得する旨の遺産分割 協議が成立したなどの事情があれば格別,そのような事情がない限り, Aの占有によって完成した取得時効の援用によって,本件不動産の全部の所有 権を取得することはできないものというべきである」と判示して原判決を破棄 し,原審に差し戻した。 230. Ⅹは,.

(3) 共同相続人による取得時効の援用について. (平成16年判決). (2)高松高判平成16年12月17日2). 20年. 【事案】 Aは,兄B名義の土地(本件土地)上にA名義の建物を所有し, 以上居住してきた。まず,. Bが死亡した。. Bの相続人は2子Yl・Y2. (被告・控訴 Aが死. 人)である。本件土地は相続を原因としてYl名義となった。つぎに, 亡した。. Aの相続人はYl.Y2およびAの姉Cの2子Ⅹ1・Ⅹ2. (原告・被控訴人)で. ある。 Ⅹらは,取得時効により本件土地がAの所有に帰したとして,本件土地. がAの遺産であることの確認を求めた。原審・徳島地判平成16年5月18日3)は, 「Ⅹらは, A自身の時効援用権を相続人としての立場で行使するものと解するこ とができ,また,. Aの遺産確認ないしAへの所有権移転登記手続を求める限度. における時効援用権の行使は,保存行為(民法252条ただし書)として各共同 相続人が単独で行うことができるものと解される」と判示してⅩらの請求を認 容し,本件土地がAの遺産であることを確認した。. Yらが控訴した。. 【判旨】高裁は, 「本件は, Aの占有により取得時効が完成しており, Aの共同相続人(法定相続分各4分の1). Ⅹらは,. 4名の内2名で,時効の完成により利. 益を受ける者であるところ,その者は自己が直接に受けるべき利益の存する限 度で時効を援用することができるものと解すべきである。したがって,. Ⅹらは,. 自己の相続分の限度である各4分の1の限度においてのみ取得時効を援用する ことができるにすぎないと解するのが相当である(最高裁判所第3/ト法廷平成 13年7月10日判決・裁集民202号645頁参照)」と判示して,本件土地の持分2 分の1についてAの遺産であることを確認した。. (3)補足 「Ⅹ. 平成13年判決は,差し戻し後,次のような経過をたどった。差戻審は, が本件訴訟を提起する直前である平成9年4月7日に, 件不動産について時効の援用権者となって,. Aの相続人らは,. Ⅹが本. Yに対してⅩ単独名義への所有権. 移転登記請求訴訟を提起することを容認するとともに, Ⅹが本件不動産を取得 するものとする旨の遺産分割協議を成立させていることが認められる。. 〔原文 231.

(4) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 改行〕 Yは,従前Ⅹからこの主張がされていないことなどを挙げて,、上記遺産 分割協議の成立を否認するが,これを覆すに足りる証拠はない。 前記遺産分割協議の成立により本件不動産について,. 〔中略〕Ⅹは,. Aの本件不動産に対する. 20年間の自主占有により完成した取得日寺効の援用権を全部承継したものと認 められる」と判示し,. 2. Ⅹの勝訴が確定した4ト5)。. 学説の状況. (1)概観・ 時効制度全般を通じて,援用(民法145条)の問題は,援用権者の範囲の問 題として専ら論じられてきた。援用権の性質自体については,一援用が何ゆえに 認められるのか,すなわち時効制度の存在理由という抽象的な議論に終始し,. 援用権の具体的な法的性質についてはほとんど論じられてこをかった。 では,具体的な法的性質論の問題とはどのようなものだろうか。筆者は,そ の一つが,. 「援用権の可分性」の有無ないし是非であると考えている。前述.[1]. の2判決は,援用権(の行使)が可分であるという理解を前提にしていると評 価せざるを得ない。しかしながら,このような解釈・適用が果たして正しいの だろうか。. (2)最近の展開 平成13年判決の公表を受けて,学説は,. 「援用権の可分性」の問題に気付い. たといえる。では,平成13年判決の解釈に好意的な評釈から縦覧しよう。 まず, ①松久教授6)は,. 「共同相続人の時効援用を不可分として,時効取得. するときは当該占有物を共同相続人のみの共有としなければならない理由は.見 出せない〔中略〕共同相続人中の誰かが相続を放棄して相続人ではなくなった. 場合は,残った共同相続人が時効取得しうる持分は増大する。これに村し,相 続した上で援用権を放棄した場合は,その者が時効取得しえた持分は従来の所 232.

(5) 共同相続人による取得時効の援用について. 有者のもとにとどまり,他の共同相続人が時効取得しうる持分に変化はないと いうことになる」と述べて,平成13年判決の論理構成・結論を支持する。援用 権の可分性を直裁に肯定している。 つぎに,. (丑平城判事補7)は, 「時効援用の効果が相対的であることについて. 学説上異論をみないことからしても,本判決の結論自体に何ら異論はないもの と思われる」と述べ,同判決の結論は支持しながらも,. 「時効援用権の法的性. 質との関係や共同相続人の時効援用権の理論的根拠等が必ずしも明らかでな い」として,理論の明確化・精微化の必要を指摘する。 「Ⅹ. さらに, ③赤松教授8)は,平成13年判決の不明瞭な理論構成に村して,. が援用することにより相続分についてⅩが直ちに権利を取得するのではなく, Ⅹの相続分に対応する持分が相続財産に帰属し,これが次に遺産分割の対象と なる,と構成すべき」と提言し,援用権の可分性を正面から論じないが,共同 相続人による個別の援用権の行使を容認しているのだから,結局のところ,揺 「本判決が『Aの. 用権の可分性を承認するものと解される。同教授は続けて,. 法定相続人の間で本件不動産の全部をⅩが取得する旨の遺産分割協議が成立し たなどの事情があれば格別,そのような事情がない限り,. Ⅹは,. Aの占有によ. って完成した取得時効の援用によって,本件不動産の全部の所有権を取得する ことはできないものというべきである。』と述べているのは,以上のようにⅩ. の援用の結果本件不動産は相続財産に帰属するに至るという構成と親近性をも つ」と述べ,平成13年判決の時論に何ら異を唱えない。 なお, ④松本教授9)は,平成こ13年判決が「実際上の問題点を惹起するといえ. ようと」と指摘し,様々な問題点を列挙しながらも,同「判決の結論に賛成す る」■としている。 続いて,平成13年判決を疑問と解する説を見ることにしよう。 まず, ○門広助教授10)は,. 「共同相続人の一人が被相続人の下で完成した取. 得時効を援用する場合の法律関係につき,これまで,学説・判例は・,援用権者 が複数いる場合の援用の相対効の理論が適用される一場面と理解し,それにし 233.

(6) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). たがって一律に処理をしてきた。その解決はわかりやすいが,しかし,その論 拠およびその具体的妥当性については,決して議論が尽くされているわけでは ない」と指摘する。そして,具体的に妥当性を欠く場面として;. 「相対効の理. 論によれば,援用権の行使が異時に順次なされることにより生じる不利益」を 挙げる。 つぎに,. ○右近教授11)は, 「共同相続人の一人Ⅹだけが自己の占有といわば. 無関係に土地の一部を時効取得すること自体奇異な結果であるだけでなく,法 律関係も複雑となりかねない」と指摘する。 偶然にすぎないのかもしれないが,平成13年判決に対する評価については, 時効法の研究者が好意的,相続法の研究者が否定的な態度を表明しているので ある。. (3)小指 筆者は,従来から門広説・右近説と問題意識を共通にしているので,それを 明らかにしておこう12)。 第1に,門広説が指摘するように「援用権の行使が異時に順次なされる」と いう問題である。冒頭の【設例】に即して説明すると,次のような事態が考え 得る。被相続人Pの占有によって取得時効は完成している。遺産分割は未了で ある。まず,. Pの相続人の1人Qが登記名義人Sに対して取得時効を援用する。. 裁判所はQの相続分(2分の1)で時効取得を認めることになるだろう。その 級,しばらくしてからPのもう1人の相続人RがSに村して相続分の取得時効 を援用する。時効はPの占有によって既に完成しているから,. Sには時効の完. 成を中断する術がない。相対効は,時効の利益を享受する者による個別の権利. 行使の承認に他ならないから,各共同相続人による上記のような異時・順次の 援用権の行使は認めざるを得ないであろう。ちなみに,筆者は,このような事 態を援用権の「五月雨的行使」と呼んでいる。そして,. Sは卜もはや時効を中. 断する術もないの■に,異時・順次の援用権の行使に晒され・なければならない。 234.

(7) 共同相続人による取得時効の援用について. これは,. Sにとって苛酷な状況ではないだろうか。援用は「良心規定」と言わ. れもするが,相対効を承認した結果,共同相続人たちは極めて非良心的な援用 が行えることになるのである。 第2に,右近説が指摘するように,占有していない相続人に観念的な占有の 承継もしくは援用権の相続を認める必要があるのかという点である。これも, 冒頭の.【設例】を使って考えてみる。例えば, Q. Pが死亡するまで,共同相続人. ・RはS名義の不動産に一度も居住したことがなかったとしよう。このよう. な場合,いくら占有が観念化しているからといって,一瞬たりとも現実に占有 したことのない者に取得時効を認めるのであれば,接々論じられてきた「時効 のもつ不道徳性の観点13)」とは何だったのか。 また, 「観念的な占有の承継」構成ではなく,. 「援用権の相続」構成をとって. みても,訴訟において援用権の行使をして,初めて所有権の帰属が決まるはず である。そのように不確定の権利がどうして遺産分割の対象になりうるのだろ うか。 筆者は,先にこれらのような疑問を公にしたが,今回,平成16年判決に接 して,さらに,判例理論に対して疑問を深めることになったのである。. 3. 考察. (1)肯定説①③説に対して ①説は,. 「相続した上で援用権を放棄した場合」とするが,これはどういう. ことだろうか。相続した,とあるので相続は承認したということであろう。相 続を承認したことで,援用権も相続したのであれば,どうして援用権だけを放 棄できるのだろうか。相続を承認した場合には,例えば相続財産に甲・乙二つ の財産が存するときに,甲財産は相続するが,乙財産については相続しない (放棄する)という選択はありえない。それが包括承継というものである。も ちろん,. 「援用してもしなくてもいい地位」.を承継したのだ,と説明されるの 235.

(8) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). であろうが,そうすると共同相続人の援用の有無によって相続財産の範囲が変 動することになる。被相続人の権利義務を承継するはずなのに,なぜ,相続人の 援用権の行使の有無によって相続財産の範囲が変動することになるのだろうか。 ③説についても同様の指摘が可能である。すなわち,. 「Ⅹの援用の結果本件. 不動産は相続財産に帰属するに至るという構成」が望ましいとするが,相続財 産の範囲は,被相続人の死亡時-相続開始時に,観念的にであれ,確定してい るはずである。範囲の決まっていない相続財産を相続人が承継できるはずがな いのである。. (2)援用の可分性について 判例理論は,占有者の共同相続人に援用権が法定相続分に応じて,いわば可 分に帰属するという「援用権の可分性」を承認している。それでは,翻って, 占有者が占有継続中に援用権を行使する場合にも,いうなれば「一部援用」は 可能なのだろうか。例えば, ころ,. 【設例】のPがS名義の不動産を占有してきたと. Pは取得時効を援用したいと思うのだが,占有している不動産全体を取. 得したいと.は考えていない。例えば,居住に必要な部分だけ取得できればいい とか,全部について取得時効を行使するのは名義人Sに申し訳ないと思ってい るとする。. 援用権が, Pの死後には可分なのであれば,生前に可分であってもおかしく ないだろう。可分な権利は,生前も死後も,通じて可分なはずである。そうす ると,. Pは現在占有している不動産全体の一部分について取得時効を援用でき. ると解することになるが,このような解釈は成立するのだちうか。. (3)援用権の永久性について/ 遺産分割には期限がか、から,被相続人Pの共同相続人Q. ・. Rは,. 5年でも. 10年でも遺産分割をしないでいることができる。ひとたびPの占有の下で取得 時効が完成していれば, 236. Pが死亡して長期間が経過したとしても,. Q. ・. Rはい.

(9) 共同相続人による取得時効の援用について. つでも取得時効を援用して,法定相続分に応じた持分を取得できることになる。 Pの死後,登記名義人Sが占有を回復して自分名義の不動産について自分の取 得時効を完成させるなどしない限り,. Q. されることになるだろう。そして,もし,. ・. Rの援用権の行使はいつまでも認容. Q・Rが遺産分割しないで取得時効. の援用もしないまま死亡したような場合には,援用権はQ. ・. Rの相続人にさら. に承継されることになるだろう。そうすると,援用権者が徐々に多数になるこ とが予想される。■こうなると,援用権とは,. 「行使してもしなくてもいい相続. 財産」とでも許するほかない権利ということになる。これは奇妙なのではない だろう.か。現実の占有者の保護を離れて,ここまで援用権を抽象的かつ不確定 な財産権にする必要性の根拠は何処に求められるのだろうか。. むすびにかえて 以上,雑駁ではあるが,. 2判決を契機に思い至った問題である。筆者は,こ. れらを時効法および相続法の根本に連なる問題だと考えている14)。そ・して現時 点で,筆者は共同相続人による取得時効の援用は不可分的に構成するのが正し いのではないかと考えている。つまり,共同相続の場面では援用権の相対的行 使を認めない方向である。その場合に,一部の相続人が援用した場合に,目的 物全体について援用の効果が生じるとするのか,相続人全員一一致でないとそも そも援用できないとするのかについては,後者が妥当だという印象を持ってい る。なぜなら,時効が「良心規定」だというのであれば,一部の相続人が取得 時効の援用をよしとしない場合にまで,他の相続人に援用を認める必要はない と思われるからである。そもそも,. 「良心」の分割帰属など有り得ないはずだ. からである。. 237.

(10) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月) 1)家月54巻2号134頁。 2)判夕1191号319頁。 3)判夕1191号322頁。 4)東京高判平成13年12月13日末公刊o. Xの代理人である田中絃三・田中みどり・田中みちよ弁. 護士から判決文等のご提供をv-ただいたo記して感謝申し上げる。 5)潮見佳男『相続法[第2版]』. 80頁(弘文堂,. 2005年)が旧版79頁(2003年)で差戻審の結. 論を暗示していた。 6)松久三四彦「取得時効完成後の共同相続における時効の援用」判例セレクト'01・16頁。 7)平城恭子「被相続人の占有により取得時効が完成した場合において共同相続人の一人が取得 時効を援用することのできる限度」判夕1125号24頁。 8)赤松秀岳「被相続人の占有により完成した取得時効を共同相続人が援用できる範囲」岡山法 学54巻4号850頁。 9)松本克美「被相続人の占有による取得時効が完成した場合において共同相続人の・・-⊥人が取得 時効を援用することができる限度」判評522号12頁(判時1785号182頁)。 10)門広乃里子「共同相続人の時効援用と援用の相対効について」実践女子大学生活科学部紀要 41号17頁,同「被相続人の自主占有により取得時効が完成した場合において共同相続人の1 人が取得時効を援用する土とのできる限度」法教259号122頁。 ll)右近優男「被相続人の占有による時効取得と共同相続人の一人が援用できる限度」リマーク ス26号10頁。 12)拙稿「取得時効の援用と共同相続」司法書士387号47頁。 13)川井健『民法概論1. [第3版]』 319頁(有斐閣,. 2005年)。. 14) 2006年4月頃に平成16年判決の評釈を上梓するつもりである。それまでに思索を一層深めたい。. 238.

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