<論文>深い学習を促す討論に関する検討
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(2) 深い学習を実現する討論に関する検討. ついては議論の余地がある.討論という外化の活動を通. ことが指摘されている.特に言語能力の育成のための言. じて討論の参加者の理解が深まるのか,或は理解を深め. 語活動のなかに, 「立場や根拠を明確にして議論すること」. るためにどのように改善すればよいのか,先行研究を整. が書かれており,討論は「創造的思考(とそれを支える. 理する必要がある.従って,本研究の目的は討論に関す. 論理的思考)」を含む言語能力(文部科学省 2017)の. る文献から討論と深い学習の関係を明らかにし,深い学. 育成に大きく寄与すると考えられる.. 習を促す討論の実現方法について検討することである.. 北川(2018)は,討論は互いの立場や考えの差異を明 確にして議論する言語活動であり, 「自分とは異なる立場. 3.討論と深い学習の関係の検討. や考え方からの主張や批判が認知的葛藤を引き起こし,. 深い学習の定義,或いは説明において,多くの側面,. 調整過程の中で「思考の構造化」や「視座転換」がなさ. 視点が提出されている.ここでは「論理的・批判的・創. れることが,思考力・判断力の向上につながるとしてい. 造的思考」 , 「批判的・全体論的な理解」と「高次的認知. る. 」と指摘している.. 能力」の3つの視点で,討論との関係を検討し,深い学. 高等教育における対話教育について,大塚ら(2009). 習を促す討論のあり方を明らかにする.. は,対話は学習や教育の手段であり,対話を通して授業. 3.1.討論と「論理的・批判的・創造的思考」. やグループの活動を円滑に進め,協調的学習の喚起や批. 深い学習は学習の内的活動(認知面)の能動性を強調. 判的思考の育成のためのものと位置づけている.. し,思考力等の働きが重要であると考えられる.溝上. 小学校から大学まで,討論は様々な場面で,論理的・. (2014)は,学習内容の理解の質にこだわる学習は,作. 批判的・創造的思考を育成するための教育活動として行. 業を通して個人の世界の構築・再構築のプロセスが介在. われている.論理的・批判的・創造的思考を働かせる討. しており,そして背後には認知プロセスも介在している. 論は深い学習を促すことができると考えられる.. と指摘している.その認知プロセスとして,論理的・批. 3.2.討論と「批判的・全体論的な理解」. 判的・創造的思考等を挙げている.. 松下・田口(2012)は「深い学習をする場合,学生は. 国立教育政策研究所(2016)は, 「論理的思考」は「何. 自分の既有知識や経験に関連づけ,学習対象の論理や議. らかの根拠を基に主張や結論を引き出すこと」 , 「批判的. 論を批判的に吟味しながら,概念や原理を全体論的に理. 思考」は「どのような情報を信じ,どのような行為を取. 解しようとする」と指摘し,胡・野中(2016)も「深い. るかを決めるために, 合理的に反省的に考えること」 「創 ,. 学習の実践とは,知識が断片的な浅い学習から,内化し. 造的思考」は「これまでとは違った新しい解決案を提案. た知識を外化の活動で既有知識や経験に関連づけさせ,. できる考え方のこと」 であり, それらの関係については,. 全体論的及び批判的に知識を理解することを通して,知. 「論理的思考」は思考の基本形であり, 「批判的思考」は. 識を再構築する深い学習への転換である」と述べ,深い. 「論理的思考」を生かして,世界・他者・自己との関わ. 学習において知識を批判的及び全体論的に理解すること. りを再考し,より質の高い問題解決や発見を求めていく. が重要である.. こと, 「創造的思考」は「論理的思考」の制約が解き放た. 大塚ら(2009)の討論を中心とする「自律型対話プロ. れることで創造することとなり, 「批判的思考」は異なる. グラム」において, 「議論の場づくり」 , 「議論内容の充実. 考え方を探すという点で「創造的思考」の一要素と位置. 化」 , 「議論全体の取りまとめ」の3つの段階があり, 「議. 付けられる場合もあると指摘している.3つの思考力の. 論の場づくり」は下層, 「議論内容の充実化」は中層, 「議. 働きによって,世界・他者・自己との関わりを再考し,. 論全体の取りまとめ」 は上層に配置されている. そして,. 深い学習を促すことができると考えられる.. 参加者は討論のなかで,下位の段階から段階を追って自. 討論は論理的・批判的・創造的思考の育成に活用され. 分の問題点に気付き,改善していくことで,グループの. ている.文部科学省(2017)の新学習指導要領において,. 一員として主体的に,他の参加者と協働して質の高い討. 「子供同士の協働,教師や地域の人との対話,先哲の考. 論プログラムを構築していく.. え方を手掛かりに考えること等を通じ,自らの考えを広. この質の高い討論において, 「議論内容の充実化」 は 「意. げ深める」という対話的な学びによって,言語能力,情. 見の多様さ」及び「議論の深まり(意見の比較検討) 」が. 報活用能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成する. 含まれ, 「議論全体の取りまとめ」は「議論の管理」及び 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 152.
(3) 深い学習を実現する討論に関する検討. 「意見の積上げ」が含まれている. 「議論内容の充実化」. 主張を述べ,他人の意見や考えを聞き,批判的思考によ. によって,多様な意見が比較検討され, 「議論全体の取り. り各意見を比較・検討し,各意見をふまえて練り上げ,. まとめ」によって,各意見を整理して練り上げることが. 創造的思考によって新しい考えや意見を生み出し,批判. できる.. 的・全体論的に内容を理解することが可能であると考え. このように質の高い討論において, 「議論内容の充実化」. られる.. 及び「議論全体の取りまとめ」によって,内容を批判的. 4.深い学習を促す討論の実現方法の検討. 及び全体論的に理解することを図ることができると考え られる. 3.3.討論と「高次的認知能力」. 深い学習を促す討論において, 「論理的・批判的・創造 的思考」 , 「批判的・全体論的な理解」 , 「高次的認知機能」. Biggs & Tang(2011)は深い学習アプローチ及び浅. を働かせたり,促すことが必要であるが,そのためには. い学習アプローチの特徴を活動の動詞としてまとめ, 「関. 前提となる条件,或いは環境づくりが必要である.この. 連づける」 , 「説明する」等の深い学習アプローチの特徴. 節ではその前提条件及び前提条件を満たす方法を検討す. を高次の認知機能と位置づけている.. る.. 討論で活用されている読解方略は深い学習アプローチ. 4.1.深い学習を促す討論の前提条件. の特徴に当てはまると考えられる.読む学習と討論を組. 「論理的・批判的・創造的思考」が働く討論について,. み合わせることは多く,例えば LTD 話し合い学習法,. 様々な形態があるが,北川(2018)が指摘しているよう. 輪読式学習,リテラチャー・サークル(Literature Circles). に,互いの立場や考えの差異を明確にして議論すること. 等は学習資料等を読んでそれについて話しあうものであ. が重要である.. る.. 「批判的・全体論的な理解」については,討論のプロ. 山本(1994)は,読む学習において学習者が読解方略. セスにおいて,多様な考えや意見の「比較検討」及び「取. を働かせるような活動を行うことで,方略を身に付けさ. りまとめ」によって促すことができる.そのプロセスで. せ,方略の活用を意識させることが必要であるとし,学. , 「議論内容の は,大塚ら(2009)は「議論の場づくり」. 習者同士で各自の読みと交流させ,他人の読みを知るこ. 充実化」 , 「議論全体の取りまとめ」を踏んでいく必要が. とといった学習同士の交流が読解方略の伸張に有効であ. あると指摘している.その中では「議論の場づくり」が. ると指摘している.読解方略には, 「関連づける」 , 「記述. ベースとなり, 「誠実な参加態度」 「対等な関係性」 , 「議. する」 , 「解釈する」 , 「判断する」 等がある. Daniels(2002). 論の活発さ」から構成されている.. 及び足立(2002)も,リテラチャー・サークルが討論に. 「高次的認知機能」について,峰本(2013)は学習者. おける読解方略を強調し,「質問する」「可視化する」. の読解方略を伸長させるには, 「自己の読みを他者の目に. 「推論する」等の読書の方略を身につけさせると指摘し. さらすことで自らの読みを再確認させることのできる小. ている.. 集団討議が効果的である」と述べ,その小集団討議を実. 読解方略において, 「関連づける」 , 「解釈する」 , 「推論. 現するため, 「学習者が個々の反応に沿った多様なアイデ. する」等は深い学習アプローチの特徴である「関連づけ. アが提出され,それを巡って意見が飛び交う,活性化し. る」 , 「説明する」 , 「論じる」等の高次の認知機能に当て. た場であることが大切である. 」と指摘している.. はまると考えられる.読解方略を働かせるような討論は. 大塚ら(2009)は対等な関係性づくりをベースに,討. 深い学習を促すことができると考えられる.. 論を活発にすることを強調し,峰本(2013)も同じく,. 3.4.まとめと考察. 討論の場を多様な意見が飛び交う活性化したものにする. 深い学習を, 「論理的・批判的・創造的思考」 , 「批判. ことを指摘している.多様な意見を引き出し,討論の場. 的・全体論的な理解」 , 「高次的認知機能」の3つ視点で. を活性化することは深い学習を実現するための前提条件. 捉えると,討論の活動はこの3つの視点に対応している. だと考えられる.. ことがわかる.. その一方,多様な意見だけではなく, 「互いの立場や考. 深い学習を促す討論において, 学生は解釈, 関連づけ,. えの差異を明確にして議論する」ことも重要である.国. 推論等の方略を活用し,論理的思考力を発揮して自分の. 立教育政策研究所(2016)は,人が一般的に深い理解に 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 153.
(4) 深い学習を実現する討論に関する検討. 至るような対話の場に共通する条件を示している. a 参加者の間で答えを出したい問いや対話のゴールが 共有されている. b 互いの考えや,考えの間の違いが見えやすい.. 使って分かりやすく表現」することであり, 「話し合いプ ロセスの共有」及び「参加の促進を促すこと」ができる (堀・加藤 2006) . 峰本(2013)は GF を活用して小集団での討議を活性. c 考え方の違いが尊重され,各自が違う考えを何度で. 化する授業を行い,それによって学習者の読解方略の伸. も見比べ,自分なりにまとめ,納得できる考えを見つけ. 張にどのような効果があるかについて調査した.その結. る機会が保障されている.. 果,GF は「関連づける」 , 「解釈する」という読解方略が. 以上の3つの条件のうち,b 及び c については, 「互い. 伸張したことが明らかになり,そして, 「授業実践が「解. の立場や考えの差異を明確にして議論する」と関連して. 釈する」方略の伸長を意図して設計されていたにも関わ. いる.しかし,他者の意見を聞きながら,それに対して. らず, 「関連づける」方略の伸長が認められたことから,. 質問や応答を考え,適切な方法で提示することは認知的. 小集団討議を活性化することによって,より多くの方略. 負荷が高い活動となる(NUSSBAUM and EDWARDS. を伸長させる可能性が示された. 」と指摘している.. 2011) .深い学習の実現のためには,b 及び c が達成され るような工夫が非常に重要であると考えられる. 「互いの立場や考えの差異を明確にして議論する」こ. 議論前に意見を可視化し,その内容をホワイトボード や模造紙などに文字や図形を使って分かりやすく表現す ることは,GF のように,討論の参加を促進し,読解方. とを達成するために,討論の場の活性化だけでなく,考. 略を伸張させ,深い学習に寄与できると考えられる.. えの比較整理ができるような討論のための環境を整える. 4.2.2.可視化支援の方法の具体例. 必要がある. 従って,深い学習ための討論において,多様な意見が. 可視化支援の方法によって前提条件である「活性化」 と「深化」を達成できるかどうか,以下の2つの具体例. 出しやすくなり,活性化できる,考えの比較整理がしや. を比較して検討する.. すくなり,深化できるような環境が前提条件であると考. (1)個人特性に対応する可視化支援. えられる. 4.2.可視化支援とその方法 深い学習を実現する討論の前提条件を達成するには,. 前提条件の達成に影響する要素として,個人特性につ いても考慮する必要がある.小野ら(2018)はシャイネ ス(日常語として「恥ずかしがりや」 )の影響に着目し,. 討論を支援や改善する方法を考える必要がある.その代. シャイネスは議論における意見提示を抑制する可能性が. 表的な支援方法の一つに,議論前に自分の意見を書き出. あると指摘した.. す「可視化支援」(小野ら 2018)が考えられる.彼ら. 彼らはシャイネスが高い参加者の意見交換を支援する. は「議論前に意見を可視化する時間を設け,あらかじめ. 議論方法を検討し,シャイネスに対する支援として,意. 論題について考える時間を保証することは,議論の質を. 見を付箋に書き出して可視化し,分類しながら共有する. 高める効果を有しているのだ」と指摘している.. 介入(付箋分類介入)を行った.その結果,付箋による. 可視化支援に関しても,多くの実践が行われており,. 意見の可視化は,シャイネスの高低に関わらず実行可能. 多様な方法が存在し,その効果も異なっている.可視化. である.発話数について,付箋分類介入は「主張」 「方針」. 支援による改善で深い学習を促すことができるかどうか,. の生起数は増加し, 「つぶやき」が減少する傾向が認めら. 可視化支援の方法によって前提条件である「活性化」と. れた.付箋分類介入により,とりあえず意見を出すとい. 「深化」を達成できるかどうか,以下の実践から検討す. う方針の下で,重複を許容する文脈が形成され,主張の. る.. 提示が促されていた.そして,付箋分類介入によって,. 4.2.1.可視化支援の方法であるファシリテーション・グ. シャイネスの高い参加者の意見提示を促し,議論の質を. ラフィック 可視化支援の方法について,ファシリテーション・グ. 高める上で有意味であることを明らかにした. (2)参加人数に対応する可視化支援. ラフィック(或いはグラフィックファシリテーション. 討論の参加人数は前提条件の成立に影響すると考えら. graphic facilitation 以下 GF)が考えられる.GF は「議. れる.三田地(2013)は,グループサイズ(参加人数). 論の内容をホワイトボードや模造紙などに文字や図形を. による特徴を示し,2人の場合は強制コミュニケーショ 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 154.
(5) 深い学習を実現する討論に関する検討. ン状況であり,3人或いは4人になると発言しないと目. 書き出す「可視化支援」の方法を取り入れることが考え. 立つものになり,5~6人になると発言しなくても目立. られる.. たなくなり,7~8人は発言しないままでも目立たなく. 図1で示されたように,深い学習を実現する討論の二. なり, サボる人が出てくる可能性があると指摘している.. つの前提条件は「①討論の活性化」から「②討論の深化」. 参加人数によって得られる学習状況が異なる原因とし. へいく2段階があり,それに対応する可視化支援の方法. て,傍観者効果が考えられる.星田(2015)は傍観者効. も異なる.「①討論の活性化」は付箋に考えや意見を書. 果「ある事象への参加者が増加するほど,人は傍観的に. くことで実現できるが, 「②討論の深化」はその上の段階. なる」に着眼し,ビジネス読書会のような集団で行う活. で, 付箋の移動, ホワイトボードによる内容の関連づけ,. 動において,傍観者効果抑止のために協調読書用付箋紙. 考えの構造化を表現することが必要となる.. を用いた. 具体的には, グループ読書の際, 1章を各自で黙読し, 付箋紙への意見等の書き出しを行った.その付箋紙を大 型模造紙に添付し,類似している内容を近傍に配置し, 付箋の内容はそれぞれ1分で解説した.そして,解説を 聞く時,別の解釈を得た場合,他の付箋の内容を共感し た場合,その内容を付箋紙に書き,模造紙に添付するよ うに促した. 協調読書用付箋紙によって,傍観者効果の抑止効果が 確認できた.特に他者の考えを付箋紙で明瞭化すること. 図1 深い学習を実現する討論の前提条件. により, 「思考の相互確認」 (自分以外の他者が,何をど. と可視化支援の関係. う考えているかを正確に知るためのコミュニケーション 過程)が促進され,思考の相互確認によって,読書にお. 5.討論が組み込まれたアクティブラーニングにお ける可視化支援と深い学習の関係. ける被験者の気づきを促進することが観察された. (3)具体例の比較検討. 図1で示された学習を実現する討論の前提条件と可視. 以上の2つの具体例では可視化支援が個人特性や参加. 化支援の関係を討論が組み込まれたアクティブラーニン. 人数に対応でき,できるだけ多くの人が公平に参加でき. グである輪読式学習とLTD話し合い学習法で分析し,. る討論環境を整え, 討論の活性化ができると考えられる.. 「①討論の活性化」及び「②討論の深化」の2つの条件. 例えば,小野ら(2018)の付箋の活用によって,とりあ. を達成するかどうかを判断し,深い学習との関係を検証. えず意見を出すという方針の下で, 主張の提示が促され,. する.. 特にシャイネスの高い参加者の意見提示を促すことがで. 5.1.輪読式学習. きるので,討論の活性化に寄与すると考えられる. しかし,討論の活性化だけではなく,星田(2015)では. 輪読はよく大学のゼミやアクティブラーニンの技法と して高等教育で活用されており(例えば,崎原 2008,. 模造紙にお互いの意見を構造的に表現することは,傍観者. 嘉田 2008,鈴木ら 2011,一ノ宮 2016,胡・野中. 効果の抑止効果が確認でき,思考の相互確認が促進された. 2017) ,理解を深め,学習意欲や批判的思考の向上など. ことから,討論の深化に寄与することもできると考えられ. の成果を見いだしている.. る.. 4.3.まとめと考察. 胡・野中(2017)は,これまでの輪読に関する記述を 整理し, 「輪読式学習」として輪読を「事前の文献講読や. 深い学習を実現する討論の二つの前提条件は,①多様. レジュメの作成などの授業外学習を前提とし,グループ. な意見が出しやすくなり,討論が活性化できる(以下討論. で文献や書籍を分担して読む学習であり,発表や討論な. の活性化)②考えの比較整理がしやすく,討論が深化でき. どによって,専門的な学問分野の理解を深める学習」と. る(以下討論の深化)環境を整えることである.その二. 定義した.. つの前提条件を達成するために,討論前に自分の意見を. 胡・野中(2017)により,輪読式学習は「事前学習+ 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 155.
(6) 深い学習を実現する討論に関する検討. 発表聴講+討論」によって構成され, 「事前学習」と「発. なっている(例えば,安田 2008,須藤・安永 2011,. 表聴講」によって知識を習得し, 「討論」で知識の再構築. 清水 2013) .. を図っていると指摘している.深い学習を促すため,授. 5.3.討論の分析. 業外学習(主に事前予習)及び対面討論を充実し, 「事前. 対面討論の分析において, 「①討論の活性化」及び「②. 学習」の自読の他に, 「発表聴講」も授業前で行われるよ. 討論の深化」の2つの条件を達成するかどうかを判断す. うに改善し, 「発表聴講」と「討論」をオンラインで行う. る.そして,輪読式学習及びLTDは事前予習があり,. オンライン学習と, 「発表聴講」はオンラインで事前に行. 事前学習は対面討論に影響すると考え,事前学習に関す. い, 「討論」は対面で行う反転学習(以下反転輪読)の二. る工夫も考慮した.学習活動の工夫によって事前予習及. つの学習形態を実践した.. び対面討論に直接或は間接的に影響が与えられたかどう. 学習アプローチ尺度,学習活動に関する記述等の自己. か,その結果を表1にまとめた.. 評価の分析によって,一般的な対面で「発表聴講」と「討. 対面輪読の事前学習が主にテキストの自読であり,学. 論」を行う輪読式学習(以下対面輪読)の効果を比較分. 生の主体性によって行われているが,胡・野中(2017). 析した.その結果,輪読式学習をオンライン学習及び反. の反転輪読では事前学習に発表視聴が強制的に課されて. 転学習で行うことで深い学習を促す可能性があることを. いるので,直接的に関与している.反転輪読の対面討論. 明らかにした.. において時間が長くなり,発言の機会が増え,間接的に. 5.2.LTD話し合い学習法. 「①討論の活性化」に寄与し,深い学習に寄与したと考. 安永・須藤(2014)により,LTD 話し合い学習法(以 下 LTD)は Learning Through Discussion,「討論で学. えられるが,認知負荷が問う「②討論の深化」に至るの は難しいと考えられる.. ぶ」という意味の略語で,米国の社会心理学習者 W.F.ヒ. LTD話し合い学習法は予習とミーティングで構成さ. ル博士(William F. Hill)が考案し,大学生を対象に設計. れている.予習は予習ノートを作り,ミーティングは予. したものである.その目的は学習教材である課題文を深. 習ノートを手掛かりに仲間と一緒に課題文を読み進める.. く読み解くことであり,基本的な学習スキル,批判的思. 予習ノートは可視化支援であり,さらに,知識との関連. 考力,自己学習能力の育成も目指している.. づけ,自己との関連づけ,課題文の評価,振り返りとい. 大きな特徴は予習とミーティングで構成されている. ったステップによって「①討論の活性化」及び「②討論. LTD 過程プランである.予習は一人で課題文を読み,予. の深化」の環境が整えられ,深い学習を促すことができ. 習ノートを作る.ミーティングは予習ノートを手掛かり. ると考えられる.. に仲間と一緒に課題文を読み進める.その際,予習でも. 表1 輪読式学習及び LTD の事前予習及び. ミーティングでも, 8ステップによって構成されている.. 対面討論に関する分析. ミーティングにおいて,8 つのステップの活動及び時間. 対面討論. 学習技法. 事前予習. 「③主張の理解(6分) 」 , 「④話題の理解(12 分) 」 , 「⑤. 対面輪読. △. 知識との関連づけ(15 分) 」 , 「⑥自己との関連づけ(12. 反転輪読. ○. △. 分) 」 , 「⑦課題文の評価(3分) 」 , 「⑧振り返り(6分) 」. LTD. ○. ○. は「①雰囲気づくり(3分) 」 , 「②言葉の理解(3分) 」 ,. である.予習において,ステップ②~⑦は同じ,ステッ. ①活性化. ②深化. ○. △間接的 ○直接的. プ①と⑧は異なり,①は全体像の把握,⑧はリハーサル である.. 6.まとめと課題. LTD は課題文の内容を読み取る前半4ステップと,読. 本研究は討論を含んだ学習方法に関する研究を深い学. み取った課題内容の理解をさらに深める後半4ステップ. 習の視点から整理分析し,討論と深い学習の関係を明ら. の2段階に分けられる.そして, 「課題提示→個人思考→. かにし,深い学習を促す討論の実現方法について検討し. 集団思考」という協同学習の基本構造を有し,ブルーム. た.. の教育理論,認知心理学の知見に裏打ちされた効果的か. 深い学習における「論理的・批判的・創造的思考」 , 「批. つ効率的なものであり,その効果も実践研究で明らかに 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 156.
(7) 深い学習を実現する討論に関する検討. 判的・全体論的な理解」 , 「高次的認知機能」の3つ視点. 中央教育審議会(2012)新たな未来を築くための大学教. に基づいた深い学習を促す討論では,学生は推論,関連. 育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考え. づけ,質問等の方略を活用し,論理的思考力を発揮して. る力を育成する大学へ~(答申). 自分の主張を述べ,他人の意見や考えを聞き,批判的思. http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/to. 考により各意見を比較・検討し,各意見をふまえて練り. ushin/__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_1.pdf. 上げ, 創造的思考によって新しい考えや意見を生み出し,. (accessed 2018.6.10). 批判的・全体論的に内容を理解することが期待できると. Biggs, J. and Tang, C. (2011) Teaching for quality. learning at university. 4th ed. Berkshire: The Society. 考えられる. 深い学習を促す討論において,「①討論の活性化(多 様な意見が出しやすくなり,活性化できる)」と「②討 論の深化 (考えの比較整理がしやすくなり, 深化できる) 」. for Research into Higher Education & Open University Press, UK Daniels, H. (2002) Literature circles: Voice and choice. という前提条件を達成することが必要である.それを達. in book clubs and reading groups. Stenhouse. 成するには,討論の前に自分の意見を書き出すという可. Publishers, Portland. 視化支援が考えられる.可視化支援の方法について,図. Engeström,Y.(1994). Training for change: New. 1で示されたように, 「①討論の活性化」は付箋に考えや. approach to instruction and learning in working life.. 意見を書くことで実現できるが, 「②討論の深化」はその. Interational Labour Office. Paris(エンゲストローム,. 上の段階で,付箋の移動,ホワイトボードによる内容の. Y.(2010)変革を生む研修のデザイン―仕事を教え. 関係づけ,考えの構造化を表現することが必要である.. る人への活動理論―(松下佳代・三輪建二監訳).鳳. 討論が組み込まれたアクティブラーニングである輪読. 書房,東京). 式学習と LTD を用い,図1で示された「①討論の活性. Entwistle, N., McCune, V., & Walker, P. (2001).. 化」及び「②討論の深化」の視点から学習活動を分析し. Conceptions, styles, and approaches within higher. た.表1で示されたように,対面輪読において,事前予. education : Analytic abstractions and everyday. 習は一定程度あるが,対面討論に関する可視化支援はな. experience.Perspectives on thinking, learning, and. い.反転輪読の取り組みは,事前予習を強化し,「①討. cognitive styles:103-136.. 論の活性化」を一定程度促すことができる.LTD は予習. 堀公俊・加藤彰(2006) ファシリテーション・グラフ. ノート等によって可視化支援を導入し,事前予習と対面. ィック:議論を「見える化」する技法.日本経済新聞. 討論の質を保障している.「①討論の活性化」及び「②. 社,東京,pp.18-22. 討論の深化」とそれに対応する可視化支援の方法は深い 学習に寄与することができると考えられる. 本研究は理論的に深い学習と討論の関係,深い学習を. 星田昌紀(2015)ビジネス読書会における傍観者効果に ついての研究. 経営情報学会全国研究発表大会要旨集 2015f(0):359-362. 促す討論の実現方法を検討した.深い学習は思考力,批. 胡啓慧,野中陽一(2017)オンライン学習と反転学習を. 判的・全体論的な理解及び高次的認知機能の3つの視点. 組み込むことによる輪読式学習の改善の試みー深い. だけではなく,他の視点からも討論との関係を検討する. 学習を促す視点からー.日本教育工学論文誌,41(2) :. ことができる.そして,可視化支援による討論の改善を. 137-147. 実践し,その効果を検証する必要がある.. 一ノ宮士郎(2016)アクティブラーニングに関する一考 察:一ノ宮ゼミナールにおける実践.専修経営学論集, 101:1-23. 参 考 文 献. 蒋妍,溝上慎一(2014)学生の学習アプローチに影響を. 足立幸子(2002)読書指導方法論の探究:Literature. 及ぼすピア・インストラクションー学生の授業外学. Circles の試み(21 世紀にいきる国語教育実践学の構. 習時間に着目してー.日本教育工学論文誌,37(1):. 築に向けて).全国大学国語教育学会発表要旨集,103:. 91-100. 102-105. 嘉田勝(2008)大学生もアンプラグドー洋書講読と模擬 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 157.
(8) 深い学習を実現する討論に関する検討. 授業による授業実践.情報教育シンポジウム 2008 論. 意見の可視化と分類が議論プロセスに与える影響. 日. 文集,6:269-270. 本教育工学会論文誌,41(4): 403-413. 北川雅浩(2018)小学校段階における討論学習の必要性. 大塚裕子,森本郁代,水上悦雄,富田英司,山内保典,. の再検討ー認知面と心理面への影響の分析を通して. 柏岡秀紀(2009)科学技術コミュニケーションにおけ. ー.国語科教育,83:15-23. る対話のデザイン:自律型対話の実践に向けて(<特. 国立教育政策研究所(2016)「資質・能力」理論編.東 洋館出版社,東京,pp.171-202. 集>実践的多人数インタラクションの動向と展望). 人工知能学会誌,24(1):78-87. Marton, F. and Säljö, R. (1976) On qualitative. 崎原秀樹(2008)PD2-37 教職科目「総合演習」の方法. differences in learning - 1: outcome and process.. 論的検討(1):小グループによる輪読・討論の模索. British Journal of Educational Psychology, 46:4-. を中心に(教授・学習,ポスター発表 D).日本教育. 11. 心理学会総会発表論文集,50(0):385. 松下佳代(2015)京都大学高等教育研究開発推進センタ ー(編)ディープ・アクティブラーニング.勁草書房, 東京,pp.1-27 松下佳代,田口真奈(2012)「大学授業」京都大学高等教 育研究開発推進センター(編) 生成する大学教育学. ナカニシヤ出版,京都,pp.77-118. 清水強志(2013)LTD(話し合い学習法)の実践.学士 課程教育機構研究誌,2:123-134 須藤文,安永悟(2011)読解リテラシーを育成する LTD 話し合い学習法の実践.教育心理学研究,59(4): 474-487 鈴木啓子,伊礼優,平上久美子(2011)文献抄読を用い. 峰本義明(2013)小集団討議の活性化が読解方略の伸長. た教養演習授業における看護学生の学びの分析:批判. に及ぼす効果―ファシリテーション・グラフィックを. 的思考態度育成への学習効果に焦点を当てて. 名桜大. 活用した『こころ』の授業実践を基に.国語科教育,. 学総合研究,20:77-83. 73:55-62 三田地真実(2013)ファシリテーター行動指南書:意味 ある場づくりのために.ナカニシヤ出版,京都,pp. 57-57 溝上慎一(2014)アクティブラーニングと教授パラダイ ムの転換.東信堂,東京,pp.67-120 文部科学省(2017)資料 5 言語能力について(整理メ. 山元隆春(1994)読みの「方略」に関する基礎論の検討. 広島大学学校教育学部紀要第一部,16:29-40 安田利枝(2008)LTD 話し合い学習法の実践報告と考 察:学ぶ楽しさへの導入という利点.嘉悦大学研究論 集,51(1):117-143 安永悟,須藤文(2014)「LTD 話し合い学習法」.ナカ ニシヤ出版,京都,pp.3-16. モ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chu kyo3/056/siryo/attach/1366049.htm ( accessed 2018.6.10) 文部科学省(2017)幼稚園教育要領,小・中学校学習指 導要領等の改訂のポイント http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/newcs/__icsFiles/afieldfile/2017/06/16/1384662_2.pdf (accessed 2018.6.10) NUSSBAUM, E. M. and EDWARDS, O. V. (2011). Critical questions and argument stratagems: A framework for enhancing and analyzing students’ reasoning practices. Journal of the Learning. Sciences, 20:443-488 小野田亮介,河北拓也,秋田喜代美(2018)付箋による 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 158.
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