『F. Schubert の歌曲にみる音型に関する一考察』 : 歌曲集《Winterreise・冬の旅》の音型分析を通して (II)
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(2) 156. この曲の場合、まず前奏部によって聴く人に「はためき」. いものに変えてくる。 ⑤と⑦は⑥の部分の工夫で変化を. の描写認識を形成させる。旗の布地は定まらぬ風に吹か. 加えているのが分かる。直可第4節で原調に戻るが、. れ予期せぬ上F運動を見せる。風の強弱によってひらひ らと細かく、又は旨を立ててちぎれんばかりにはためく。. 音型はまたもや新しい⑧に変わる。直可ここで③、 ④ の飾りが再度付けられている。第5節に見る嵐の表現は、. 直] 4小節目の6連の8分音符が歌唱旋律の基本型を 予告しているように思えるが、歌唱旋律を支える伴奏型. 前奏のモティーフが上下に波状で休むことなく続き、激 しく、いっまで続くとも知れぬ大風の描写を左手低音部. は、はためきの音型とは異った吹きつける風の動きを思. の叩くような雷鳴のような8分音譜連打⑨と超低音口音. わせるものにな-ている。直i](①、 ②、 ③、 ④、 ⑤) しかしながら、シューベルトの工夫は間奏に心ず「はた. の執掬な連打とで大自然の荒れ狂う情景を画きとってい. めき」の上下動を配して、全体の形を整えているため、. 持ち込む型をとるが、直可⑪に於て前出の第3節の伴 奏になかった一寸した工夫も入れてマンネリ化を防いで. 風の動きと旗の動きは互に同化したように思える。特に. る。匝頭⑲第6節は歌詩の重複を行い情緒を終息に. 最終部直可において、そのことが明らかに了解でき る。第3詩節Der Wind spielt drinnen mit den Herzen (風は家の中では人の心にたわむれている)では、伴奏. いる。直頭⑫に於けるオククーヴの右手の動きもこれ 迄になかった工夫である。非常に平安な感じがする効果. 部が第1詩節のときと異なりオクターヴ低くされ、はた. 後の静かな枝のそよぎが消えてゆく美しいエンディング. めきの音はうめき声の如くになって内行する。第3節の. である。描写音型と歌唱旋律から得た支えの伴奏型の工. 詩句は反復されるが、旋律はとっつきからさし迫った鋭. 夫、或は描写型に語りが乗るような型のところ、基本的. い感じの変化を加えている。 eine reiche Braut (金持の. には「揺れ」の運動の音型化を見ることが出来る。. 花嫁の語句も回のように2回目の方が慨嘆の度が 強い表現になっている。風景の中にある風見の旗の動き. 〈Letzte Hoffnung》 (第16曲、最後の希望)枯葉 の落下する様子の描写音型は前奏部から歌唱旋律に入っ. は、主人公の憤怒の心情と合致したとき、考えられる限. ても①、 ②、 ③、 ④と4回繰り返されるが、画曲の 半ばで出る⑤が示すような2音ずつ3組の音型が基本に. りの激情の動きのパターンを生んでいる。胸中に音たて るように繰り返し突き上げる感情は、もはや風景の描写 の域には留っていない。揺れ動く心のあり様が風とはた めきによって駆動されて憤怒の心象風景を創造するとこ. を出している、後奏は嵐が去り、平安の唄を歌い終った. なっているとも考えられる。従って音型①はAの基本の 前後に付加された型で展開された拡大音型とみるか、或 は前奏(彰こそが基本であって(参はその一要素を利用した. ろまで発展してしまう。最終部Was fragen sie nach meinen Schmerzen? (あの人たちが私の苦しみについて. とも見ることができよう。いずれにしても下行音型はは. 何を訊ねるというのか?)の2度の異なる音型は喰い込. は風も無く総てが止まったような空間をイメージするこ. むように詰問する主人公の心情が全曲を通して描写が如. とができる。動くのは落下する枯葉だけ、現代音楽の乾. 実に表われている部分と、それがきっかけになって抽象 ている。風景像と心象像の交錯はシュ-ベルトの新しい. いた苗空間を感じる斬新な感覚であろう。画のレガー ト部から枯葉の震える2小節の対照的な音型は、 3部分 の夫々の要素を並べて、まさに千切れて落ちようとする. 形式の提示である。. 枯葉の動きを凝視する緊張感がある。枯葉の落下は自分. 音型が展開し、描写との相関によって大きい効果を上げ. 《Der Lindenbaum》 (第5曲、菩提樹)前奏冒頭低 音部に細やかな6連の3達符とそれに続く第2小節は風. らはらと音もなく落下する枯葉の動きを捉えている情景. の運命であり崩れる望みを見る視線と心を、直司の左 手オククーヴと右手のちぐはぐなかけ合いのディクレッ. にそよぐ葉の揺れの動きを明らかに描写した音型が出る。 ①第3小節では右手をオククーヴ上げ長い下行線を画く. シェンドを交えた下行音型で描写し、譜16の歌唱旋律①. 3小節半に及ぶ3連符が、やや不気味な感じを秘めなが. ich selbermit zu Boden (それと一緒に希望も絶える). ら息の長いそよぎの運動で、こんもりと茂る大木の枝の. でもう一度慨嘆して、大きく音型を変えたwein, wein auf. 様子を坊沸させることに成功している。希代の名曲たる. meiner Hoffnung Grab (僕の希望の墓に泣き伏す)を、. 所以は、この前奏部の描写音型の魅力に負うところが大. 2回朗涌風に繰り返し、後奏は短い基本型を再現させる。. きいと考えている。匝司②の4連の8分音符は次の安 定、平静はモティーフを通って歌唱の導入へと効果的に. 直司この曲のユニークさは蕗柔描写のモティーフと共 に歌唱旋律と、伴奏の組合せの面白さであり、寸劇のシー. 続いている。歌唱旋律冒頭は歌詩の抑揚から自然に生ま. ンを見るようなドラマテイクな空間がイメージ出来ると. れたかの様な印象を覚えるが、伴奏部は常に豊かに揺れ. ころにある。第3節・終末のWein,Wein.は慨嘆する主. る枝や葉の動きを音型化してこれを支えている。 ③、 ④. 人公の劇中の姿を見せられているような拡がりをもって. はフレーズを飾る細やかなI二夫である。麺司第3節で 調子をホ短調に変え、歌唱部への伴奏も音型を今迄にな. い-^1°.. と伴奏右手②は失意、落胆の余韻を表現し、更にfall. 《Der stiirmische Morgen 港 (第18曲、嵐の朝).
(3) F.Schubertの歌曲にみる音型に関する一考察. 主人公が迎えた朝は平穏とは真反対の荒れ狂う嵐の朝で. 157. あった。前奏ではシューベルトの良く使う音型の3連結、. マに対応する伴奏は、純粋な単色の絵のように配置され ている。 ②Schnellに入り「目覚め」では、伴奏に′. ①の最後の16分音符からfzの4分音符和音へ飛込む様. で16分音符がけたたましく3度鳴り響き、甘い夢想と. な突風の表現である。画手をひる返すように下行す る3連符②は、嵐の前で虚勢を張るかのように最後は上. は正反対の外界の嵐の情景をダイナミックに表現する。. 昇して結着をっけて歌唱に入る。雪が千切れ、雷鳴が轟 く狂乱の天候の描写は歌唱も伴奏も音を荒っぽく上下さ. 直画左手の低音オクターブの連続③と、上に右手の激 しいリズム和音が、窓を打っ突風の様に配される。 ④⑤ での乱暴な上行音型は次の!1の静寂への布石でもある. せるOヒュルルン、ヒュルルンと云う風の形容詞がぴっ. と考えられる。あまりにも激しい夢と現実の違いを調整. たりの直司。第2節Und rote Feuer Flammen (赤. するかのような第3節に与えられた封白子の音型は⑥. い光が-うからは、すさむ嵐こそ私の心境だと強い空元 気の様な気概を表現する。伴奏音型はやや風の特徴を弱. 直頭やがて出て来る後半のテーマによる間奏迄の間挿 入句の様に歌唱に寄り沿った完全な抽象音型である。 l. め歌唱に沿-て進行し、画に於てクライマックス#16 分音符連打を2度繰返す。 der Winter kalt und wild. から昔への転換によ-て鮮やかなイメージの移行が表 現され、再び夢と現実の対比に入る。歌唱旋律が美しい. (寒いきびしい冬そのものだ)では再び荒っぽい風の動. メロディーラインを措くときの伴奏と歌唱旋律が説明的. きに乗って歌い終わる。少しも衰えぬ狂乱の風の吹き荒 れる後奏に渡される終曲となる。圧倒的な迫力は曲が終っ. になった時の伴奏の音型とは和音の配慮などでニュアン. てもェネルギ-が治まらない程のすさまじさで、息もっ. 《Tauschung》 (第19曲、まぼろし)まぼろLをみ つめる狂気の視線の中で鬼火が踊りうつろう。右手の半. かせぬ緊張感がこの曲の魅力である。. スを変えて表わす。. 音上行進行は凝視と追従を思わせるが、 ①それは踊りの. 分析考察Ⅱ 《Irricht≫ (第9曲、鬼火)歌唱は第1節に対して第 2節がやや変形、第3節で大きく展開して変形する。前. ステップに同化させられてしまう。 ②奇妙な幻覚の世界 が音によ-て拡が-ている。画旋律と伴奏の呼び 合い、掛合いの面白さ、調子の良さを示す工夫がなにげ. 奏・冒頭は空虚な真理の闇を思わせる①の単純な苫配置. なく配されている。. から一転してチロチロと燃える鬼火の描写と思われる音. die hinter Eis und Nacht und Graus (その氷を夜と恐 怖のかなたに)で左手は音型を変え一時右手と同道する。. 型が現われる。匪]・②歌唱は冒頭前奏の①l)ズム を変えて歌い鬼火の描写に同化してゆく。 ③の伴奏型は 歌唱のリズムに食い込んで緊張感を作る。歌唱旋律に先 導された④の伴奏型は反復句であるIiegt nicht schwer mirindemSinn. (それは私にはどうでもいいこと)と. 厘司迷わされつつも先を見る心情の表現と云えよう か。軽妙で轟惑的な踊りのステップの音型に乗って幻の 世界を語るように歌って見せた曲といえる。 〈DieNebensonnen≫ (第23曲、幻の太陽)疲労と. 対で内在する自棄的な意志と不安を表わす。直司⑤第 3節は展開部として歌唱も伴奏も変形するか、後奏で再. 失望が、ぼんやりとした幻覚をそこに見せる。画面1. びテーマが伴奏に戻りしめくくられる。鬼火の描写性と. 動きの少い和音のリズム進行の中に盛り込んでいる。語. 歌詞内容との対比から独特のリズムが生まれ、うねって みたり飛んでみたり全体としては現実にはないような世. 幹からヒントを得た基本リズムと患われるが、じっくり. 界が、実しやかに描き出される。暗闇の空間をイメ-ジ. モティ-フ①は焦点の定まらない沈滞と物憂い気分を、. と何度も同じリズムで心情を表わしてゆく。詩行第5の. させることから始め、不気味な鬼火の動き、迷うことに. Ach, meine Sonnen seid ihr nicht ! (ああ、おまえ たちは私の太陽ではない!)を展開移行のステップとし. ついての諦観を示す和音とリズム、この3つの伴奏型に. て、 Ja neulich batt ich auch wohl drei ! (たしかに、. 乗って朗詞傾向の強い歌唱が胸中の恐れに楯突いて、あ る主張を表現せざるを得ない主人公の苦しい心情を伝え. この間まで私も太陽を3つ持っていた)で音程は上り. る。のっけから抽象化された世界の出来事として設定さ れたユニークな展開がこの歌にはあり、シューベルトが. 画、表現は高潮し叫びに似た苦しい心中の吐露を示 す。画]の②、 ③は歌唱と伴奏の変形エコーで効果的 である。心理的に緊張が深まるTjのリズムとおぼろに 3. 開いたリートの領域の面白さも示されている。. なるJ刀の対比の面白さを指摘したい。 ヽ-′. 《Friihlmgstraum》 (第11曲、春の夢)夢見る 表現としての直司①の音型は、 ich traumte von buntenBlumen (色とりどりの花を夢に見た)の歌詩か ら生まれたと見るが、あまりにも美しい前奏の旋律に接 すると、むしろピアノ曲のテ-マとしてイメージされて. 始'まったのかと一瞬感じてしまう。直司歌唱旋律のテー. 分析考察Ⅲ 《Die Post》 (第13曲、郵便馬車)遠くからやって くる郵便馬車に積まれている手紙への期待に胸がふくら むo親しみ易い好ましい音調の手拍子」山の音型となて常動的な勇む心情の表現となっている。前奏左手の馬.
(4) 158. 蹄音型と右手のポストホルンの高らかな音型は共に美事. 風景は言うまでもなく視覚のそれではなく内的な心象. な描写音型と云えるが、画①、 ②の部分でホルンの 音は馬蹄者と養進する車輪の音ともとれる前進的で快活. であるために、入口の部分に示された音型が象徴してい. なリズムパターンに同化されて基調となる。 ③歌唱の語. 工夫に関する思いっきは1曲に1つあればモティーフと. 韻処理もこの音型に合わせられており極めて躍動的に進. して内容に対応できる程の可能性をもっている。しかし、. 行する。シユーベルトは曲の中途で、画④の様な中 断状況を作ることがあるが、配合されている音が少くな. 音型は変幻自在で当初の明確なイメージを抱えたまま微. る詩と音楽の結合体は、すぐにも受容を始める。音型の. 妙な変奏の味を展開し、およそわれわれの経験する省察. りついには途絶してしまい1小節の静寂⑤をはさんで、. と感情の総てを主人公の心情を通して表現してしまう。. やや内面的になる短調の音型に変え主人公の心情表現を. シューベルトの歌曲作りにみる特性には、彼自信の美的. 始める. ⑥描写を前に置き、そのイメージで基本音型を. 要素を遊ぶ楽しさ、ここちよさがあり、彼はそこに限り. 了解させ歌唱が状況の説明をする型と云える。複雑な心. ないいっくしみの配慮を注ぎ嘉している。. 情はリズム型をそのままにして和音変化で対応させてい. まず、 「聯」の形式をとっている"冬の旅"と言う標. るのも一つの工夫である。 《Im Dorfe≫ (第17曲、村にて)人々が寝静まった. 題から受けるわれわれの予見について考えてみたい。器. 深夜の村落を遠望し仔んでいる主人公の聴覚が、犬の遠 吠えと夜の静寂の混合したような低いとぎれとぎれの音. 味作用の支配を受けるため、標題を聴いた瞬間"冬の旅". 響を促えて、歌舞伎の太鼓による夜の闇の表現に似たド. 激しい季節である冬の表情であり、雪、風、雲、道、歩. ロドロ、ドロドロと云う音型を思いっいている。 (彰、 ②. み、憩、希望、夢、迷い、淋しさ、失望、暗さ、悩み、. で伴奏の左右手の音配置が逆転するが、画かなり変 形の原詩画の第6行Jenun, (それもよかろう). 死等々想像力は一連のイメージを呼び寄せるのに難しさ. とund hoffen (それを望んでいる)、 Doch wieder zu. するのである。標題の意味するところは、具体のものと. finden (しかも、また見出そうと)の3ヶ所は詩語の重. なり、自らの胸中において主人公の身に成り代った追体. 複を行い強調的な変化をっけている。画③、 ④、 ⑤ 伴奏型もここでそれ迄と変え孤独な単音の右手と歌唱. 験をすることになる。. 旋律をなぞりそれに反応する型となる。画変形第 2詩節の4行では、最後の2行を重複させIchbinzu. ジを抱いた所へ前奏が音型をもって現われ、例えば、風 景像を異体のものとする。 2っの内的な作用は瞬時に連. EndemitalienTraumen (僕はもうどんな夢ともお別. 動して、楽曲の基調イメージの認識に至る。 24曲中約. れだ・・・)、 Was will ich unter den Schulafern saumen?. 半分の12曲は、そんな姿をしているのを認めることが. (なぜ眠る人々の中にとどまろうなどと恩うのか?)と. 楽曲の標題の場合とは違い、リートは早々に言語的な意 についての或る種の連想は生まれる。それらは、厳しく、. を感じない。そして、それらが忠実に24曲として展開. 《題名と前奏≫聴く者が題名を知り漠然としたイメー. i*る、、. 決意宣言のように強く云う。ここでの伴奏型はそれ迄に. 《歌詩から生まれる音型》言語が本来もっているアク. ない和音配合のみの型をとる。画同じ旋律系である のに伴奏系が異なる配置にしてある。画①、 ②全体. セントやリズムを、モティーフの中に自然に折り込み語 感を通して、一つの音型を生む方法は、われわれの「こ. としては3つの分類される音型をとっているこの曲は夜. とば」との関係に依存した巧妙なトリックとも考えられ. の静寂を音響的に表現するために工夫が施された象徴的. る。シューベルトのメロディーは、この視点において、. 描写音型とでも云うべき出来上がりになっている。. 彼独自の「ことば」を扱う天分を十分に示す。仮に風景 像が得にくい楽曲に遭遇すると、恐らく生みの苦しみと. ・ォ*v. ともに「ことば」そのものから音型をひねり出されたと. 今回は考察(Ⅱ)として、音型を通して"冬の旅"の. 考える。伴奏が表現する風景像に「ことば」の音型が寄. 24曲を分析的に見てきたが、とりわけ強く感じたことに、. り添う効果は絶大で、如何にもシューベルトのリートと. シュ-ベルトの多様な感性が形成し、呈示した心象像と. 言う仕立てになるO. 風景像がある。風景画の時代であった19世紀の時代精 神を象徴して、詩人の想像力を一つの手段として、シュー. 考察(1)の視点であった「歩調」とは別の視点も加. ベルトの限りなく自由な発想を思わせる心象風景が音に. えて分類的に全曲をみてゆくと、直]が出来た。直∃ 以下は、この表にみる特徴をもとにした音型特性につい. よって拡がる。風景を流れる音響が様々の音型によって. ての記述である。. 捉えられ、それらは聴く者に自分でもすぐに患いっくも. 比較的明らかな歩調を思わせる曲は、そのままの音型. のの様な錯覚を起させる程親近感があり、次々に楽曲の. をもとに激情や平穏を表現することはあっても、途中で. イメージを形成する要素として受容されてゆく。これが. 描写音型に変わってしまうと言うことは無い。前回(I). シューベルトの工夫の入口である。. のまとめでかいたように、歩調をとる曲は"冬の旅"の.
(5) F.Schubertの歌曲にみる音型に関する一考察. 159. 「聯」の中で、時間空間の推進役を果している。旅の時. な姿である。前半の迫力で思わず長い念の入った重複部. 間は終曲に向けて動いている必要があり、これはこの. となるが、その工夫は強調か変奏の意味合いしかない。. 「聯」の基調なのである。歩調を思わせる音型であって. 描写性の強い上の曲の様な場合、伴奏に徹底して描写音 型を配して、歌唱旋律は別の流れで終始する特性が示さ. も、比較的速いテンポのものは、状況が切迫して来て異 常を表現し出すと、それは歩調のイメージから風や嵐の 主人公をめぐる風景と不安定な心境を示すイメージに摩. れている。 《Erstarrung》右手と左手の役割の特徴が 出ている伴奏部をもっているが、上っては長い下行スラ. り替っている(Erstarrung, Riickblick). イドをくり返す分散和音を左手の力強い低音が旋律線を. それ以外の多くの曲で描写音型と抽象音型と言うべき 象徴性の強い音型が出てくる。極めて具象的な描写を思. クッキリと作ってリードして息の長い吹き荒れる強風の 特性を表現する。時々、低音の3連符が震えるように下. わせる曲をリスト・アップすると画が出来た。匡∃ 風、光、馬、鳥、車、落葉など「動態」に注目し、そ. 拍に入るのも音型としては考えられたものである。歌唱. の表現に工夫した音型が多いことがわかるOシューベル トの関心は、自ずと視覚空間を移動する動態を音楽的な. が加わり効果は大きくなっている。後半の歌唱旋律と伴 奏の右手の旋律が食い違い平走する風と歌の問に立体感. 時間空間の出来事に置き替えてみることに集中したと考. が構成される.これも音型の一つの工夫であるO 《Der. える。結果として、歌唱部の「ことば」は2つの空間を. Lindenbaum》伴奏が描写音型をとりながら途中で歌唱. 仲介し双方のイメージを一つのものに同化させる役割を. の音型(歌詞の音律をもとにした)に取り込まれてしま. 果す。また、聴える音そのものの音型化はIm Dorfe,. うこともある。この曲の歌唱旋律の入りは雰囲気の素晴 らしい語韻性の強いものだが、伴奏は親しさをもってこ. と一緒になって伴奏音がオクタ-ヴで動くことで運動感. Der Leiermannの犬の遠吠えであったり、ライア二の 音にみることが出来る。. れに同化している。間奏で再び描写音型に変わる第2.節. 直可は幻覚、夢想が扱われた曲であるが、 Irrlicht,. の伴奏は、新しい音型に変えられている。これは最初の. Tauschung, Die Nebensonnenは歌詞からみても、ま た、心象の設定からみてもシューベルトが独特の想像力. 音型で得たものに僅かの工夫を加えたもので、ここでは 語韻的と言うより、むしろ、 「枝の揺れ」を恩わせる抽. を働かせ、幻想的な音を吟味して音型を編み出しており、. 象的音型だと言える。嵐の場面の左手の低音8分音符ス. ユニークで、極めて感覚的な世界をわれわれに垣間見せ. タッカートは効果的で長い2分音符に導かれてから、そ. てくれる。 TauschungやIrrlichtの鬼火の飛期する空 間の描写は夫々に「趣」を異にしているが、その音型は. の効果は更に描写音型の凄味を表現している。 《Irrlicht≫この曲も第1詩節に配された音型が決定的. 共に実に轟惑的である。直司. な特徴を示しているo特に伴奏冒頭の2小節のオククー. 直司は抽象音型と言うべきものとして分類したが、 例えば、 Wasserflutは少くとも「あふれる涙」の視覚. ヴの空虚な響きと、次の3連音符の上行旋律が秀逸で、 題名の感じを音型に代えている。歌唱もこれに合わせら. 的イメージを表現したものの様には思えないし、 Mut. れ、ここで聴く者のイメージは異体のものとなってしま. は「勇気」と言う無形のものを、ある「勢い」の発散と して表現した様に見えて、 2曲とも心にある無形の心情. う。 WieicheinenAusgang findeの伴奏部に、第2曲 Wetterfahneに出る伴奏音型が一寸顔を出す。大変珍ら. を、主として言語上のエネルギーに依存して音型として. しいことだ。曲の後半は繰り返しと最終部の吟詠による. 仕立てて表現することを試みたとおもえる。 Der greise. 重複音型は短かく単的にその特性を発揮しなければ、印. Kopfの音型は描写でも歩調でもなく、一つの心境を語. 象が散漫になってしまう。一瞬に構成される音型の直裁. る「ことば」の語感に沿ってリズムが生まれ音型が形成 されているのが分かる。. な素晴しさを感ずる。 《Die Post》前奏の美事な描写 音型は、前述したので、ここでは疾走する馬車の動きの. DieNebensonnenは、自己の内面で起きているもうろう. リズム(ひずめの音)に合わせた歌唱部の音型の面白さ. とした意識を表現しようとしており、極めて象徴的な音. に注目したい。又、短調に変わる所で伴奏の音型が変わ. 型によりそれを語らせている。. り、はずむ様なリズミカルは音型が、ややセンチメンタ. く音型特性). ルな歌唱旋律と一緒になり角がとれた音型に変わる。こ. いくつかの曲の部分を取上げて、更に音型の特性を吟. の曲の描写音型の伴奏から歌唱音型が自然に生み出され. 味したい。 《Wetterfahne≫の歌唱旋律の要素は前奏の 一部に予め出現した様に見える。 (第4小節目)しかし、. た例と言えよう。 《Friilingstraum≫美しい前奏部で有 名なこの曲だが、描写音型が途中で突然出て来て面喰う。. この曲の工夫の注目すべき特徴は、引続き現われる次の. 夢見る気分の前奏は、まさに抽象音型であり、 Doch an. 3つの「はためき」の音型に集約されており、後半、語. den Fensterの第3詩節でも形を変えた感傷的吟詠部の. 句の重複が始まるところまでに、鮮やかに必要な音型を. 抽象音型が出現する。この曲はこの2つの動と静の性格. 配置してしまっている。しかも、それは極めて明瞭簡潔. の音型の対比が特徴と言えるDie Nebensonnen, Der.
(6) 160. greiseKopfなど幻覚・夢想の曲の音型は、当然ながら 抽象性が強く出る。それは語韻の要素で音型が構成され; 歌唱表記の味に依存した雰囲気のこの手の曲は一様に重 厚で内面的である。 《Letzte Hoffnung》心象風景の中 で非常に象徴性の強い枯れ葉の描写がなされるが、詩の. 即ち、抽象的なものから具体的なものへと向かう心理 傾向が根拠にある。即ち時間の空間化とは具体化である。 なぜなら空間は体験において、いっも時間より一層貝体 的だからである。 (注3) 音型が風景や心象風景を基としてイメージの空間を構. 意味するところからして、私には描写音型と言うより抽. 成し、底流にある時間の経過を興味深く処理することで. 象音型内至は象徴音型の様に思える。シューベルトの感. 二重の感興をわれわれに与えている、とすれば、シュー. 性も、その辺に集中していたからこそ、この曲が生まれ. ベルトのリート作りに注ぎ込んだ工夫も理に叶ったもの. たのだろう。風に揺れる枯葉の動きが神経質なほど細か. だと言える。当時、 「歌」の概念が狭い理解の中に封じ. く観察されている。後半は吟詠に付けた伴奏音型になる. られ、芸術的な沃野がリートと言う名で拡がっているな. ので、音型特性はむしろ前半にあると言える。 24曲にみ. ど思いもっかなかったことを考えると、一筋の道を拓い. る音型の工夫を匝]にしてみたo直司. たシューベルトの仕事の価値がわかるのである。. モリス・コーエンは「在る物が意味を獲得するのは、 それがそれ自身を越えた或る物と結合されたり、指示し たり、関係づけられたりする時である。それゆえにその. ffiS 1)野村良雄S.40 (第5刷)精神史としての音楽史 音楽之友社215 P.. 完全の性格がその関係を指示し、その関係においてあら わになる」と述べている。 象徴とは人間の作り出したしるし、即ち、人間がその 意図をもって意味作用を与えた感性的事物にほかならな い.(往2). 2)、 3)渡辺諌S.57 (第9刷)音楽美の構造 音楽之友社14P. , 40P. く引用) 「シューベルト歌曲集Vocal Miniture Scores 」. 最後に考察してきたシューベルトのリートの特性が、 音楽と言語(請)の組み合わせからくる様々の特性や効. 音楽之友社 (参考図書). 果について述べることにする。言語的象徴は元来われわ. オスカー・ピーS.55(第3刷)ドイツ・リート. れの音声を通じて実に容易に、しかも正確に表現され得 る特性を与えられている。歌唱の言語がいかに多様な象. 音楽之友社′ クロード・ロスタン'86 (第12刷)ドイツ音楽. 白水社. 徴を有するかは、考察の結果了解できたことである。し かも、われわれは夫々の音声の特性に依って与えられた 言語を魅力的に歌うことで言語の表現力を拡大している。 言語的象徴の非常に多く複雑に結合し得る特性は、歌唱 表現、更にはリートの伴奏者との関係においても驚異的 に多様化した結合の姿をみせる。音楽美の基礎構造は内 在的象徴にあると考えられるが、言語音が既にゲシュタ ルトを構成し、更に昔楽音によって充実し、対象は一種 の空間的形体性を持つに至る。われわれは音を通じて (声も含む)感受できるある種の空間的形体性と時間的 空間性の意味するものを聴取し吟味していることになっ ている。 音の感覚性と音楽の表現力とが、仮に別々のものと考 えれば、これを有機的に結合するために働く意味作用に 関係する音型に込められるものは極めて大きい、と言わ ねばならない。音型の構成者が有する感覚性の問題、音 型そのものに備わった表現力の問題これらは一つに成っ て、一方にある言語的な意味作用に合流して、音楽美と しての構造を充実させることになる。 時間は普通の人間によっては、意識的にしろ無意識的 にしろ、ほとんど常に空間的次元として把捉されている こと、そして時間が空間的体験に引き込まれ、これと一 体化していることは心理的事実である。. U.クルターマン'93 (第1刷)芸術論の7史 油単丹f>;.
(7) F,Schubertの歌曲にみる音型に関する一考察. 161. A Study on F. Schubert s Lieder Musical Figures of Natural Phenomenon on zyklus "Winterreise -. Hiromitsu HOSAKA. Schubert's lyric and harmonic vitality and his spontaneous reaction to the stimulus of the poet s emotional or visual sppeal give an almost abandoned quality to the music he poured out. Schubert's accompaniments are celebrated for their graphic reinforcement of the inner meaning of the poem or of the external details o白ノhe poet's scene. He seems inexhaustiable in contriving graceful pianistic figures to illustrate moving or glinting water or movement of leaves. Again and again he devised in his accompaniments a music which derives from both aspects of the poem and achieves thereby a powerful synthesis of which the poetry alone is incapable. And one stylistic source of the keyboad aceもmpaniment effects and motifs in Schubert's songs is the piano scores of opera and oratorio. The purpose of this study is to observe Schubert's musical Ideas on figures of Natural Phenomenon through zyklus "Winterreise"..
(8) 162. Die Wetterfahne譜1. 譜4 Pが蝣-サ蝣! ei - ae rci-.theBriui.. Wォ,. fr,-. genサiォ蝣>・'トl"7. -. frm-. !. -蝣ehmci-. Schro-en,.
(9) 163. F.Schubertの歌曲にみる音型に関する一考察. p- '.* *テ.
(10) 164. Letzte Ho汀nung. 潤. . 帆 "8. .■ ー V ** p " f。 `。rilard.. A. 鎧 臥. 蝣 *. H> ♭ *. . √ゼ. t. ' '♭ . 至.
(11) F.Schubertの歌曲にみるF]l型に関する蝣2;察. Friihlingstraum. Die Nebens。nnen譜30. Lu pi iii. 165.
(12) 16tミ. 17.ImD。rfe譜36 EsbellendieHunde,esrasselndieKetten; EsschlafendieMenscheninihrenBetten, Traumensichmanches,wassienichthaben, TunsichimGutenundArgenerlaben: UndmorgenfriihistaHeszerflossen.一 途鑑abenihrTeil wassien。ch吉enossen, DochwiederzufindenaufihrenKissen.ー__ brigliefienπ二 Belltmichnurfort,ihrwachenHunde, La&tmichnichtruhninderSchlummerstunde! Ichbin乙uEndemitalienTraumenWaswillichunterdenSchl五ferns五umen?. lr-lU I rllerl JICh TTIAE) ・ Chet..
(13) F.Schubertの歌曲にみる音型に関する・考察. 糎 抽 i7 娘 」 千 を fc f P+ 檎 t* % %.. 歩. m. 5- I. 首 具. 芭 0. 「 Cu te N ac ht 2 . D i e W e t t e r fa h n e. 0. 3 . Ce fro rne Tra nen. C〉. ○. ○ 0. 9 . I rr licht. 0 ○. 13 .. 0 ● ● 0. ○ 0. o 0. C〉. Pos t. 半音階の活用. 0. 0. 4. スタッカー トの付加 による表現上の工夫及び 刺激的な fZ の配置 多様な和音の上下行 (スライ ド) による表現. ● ●. 1 4 . D e r 官r e i s e K o p f. 0. 0. 1 5 . D i e K r 盲h e. ● ●. 16 . L etz te Hof fnun g. ● ●. 17 .. 3. ● ● ○. 0. , 「 F r u h I i n g s t r a ua ォk e i I. 2. 0. ○. 10 . Ras t. 0. 0 ○. ○ C). 8 ▼ Rue kb Iic k. 12 .. 0 ○. 7 . Au f d en FIus. (つまづき) 0. 0. Was se rf IuI. に色彩的な変化を追 う0 音量の増減による表現 上の配慮、歩調 の変化をつける リズムの工夫. 0. D . De r L inde nba u t). りして変化をつける○和音になれば、当然の様. 0. 0. 4 . Ers ta rru ng. 単音から始め、音の重ねを薄 くしたり厚 くした 1. C,. 167. ・ Do r i c. 0. 0. 5. 0 I. t S - D e r S t'u r a i s c h e H o r g e n. i. 2 「 D aS H irtha us. 0. と 17 l. の対置上の工夫 による. 6. ○ 0 ○. る工夫 fR. ● ●. 19 . T kusc hun g 2 0 . D e r ーe g v e i s e r. 左 . 右手 のオク夕ーヴの音型 とその移動 によ. 効果 く ). 0. 0. ZZI Hul. ○. 2 3 . D ie N e b e n s o n rte n. 0. 2 4 ーu e r L e i e r a a n rー. 0. 0. ○ 0 0. ロ. 0. 〕 と. )1. の組み合わせによる リ. 0 0 0. 0. 7. 3 ズムの食 い違いの面 白さと合一時 の安定感の 効果. 2. Wetterfahne. 15. Die Kr'ahe. 4. Erstarru叩. 16. Letzte Hoffnung. 5. Der LindenbauM. 17. I Dorfe. S. Rucicblick. 18. Der stiirraische Morgen. 9. Irrlicht. 19. Tauschung. 8. 単位音の分割による音型の変化. 9. 部分的な音価の対比 とその発展型の効果. 10. 前進感のあるリズム音型の工夫. 24. Der Leiernann. 13. DiePost. 庄. 〕 の柔か さと斤 目. の割 り切 った感. 9. Irrhcht ll. Friihlingstrauii. ll. 3 覚の対比. 12. レガI トとスタッカー トの組み合わせ. 14. Der greise Kopf !ト9. Tausでhung23. Die Nebensonnen. 13 6 . Ha sse「 t ut 14 . Der gre ise Ko pf 22 . H ut 23 ▼D ie. 右手オクターブ、左手スタッカI トのアクセ ン トの組合わせ JT 雪. と. J.. 14 Nebenson ne n. じる特殊な効果. ♪. の組み合わせか ら生.
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