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地域経済学方法論再考: 地域の概念と地域経済の定義を中心に、私の研究史を振り返りつつ

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(1)研究ノート. . 地域経済学方法論再考 ──地域の概念と地域経済の定義を中心に,私の研究史を振り返りつつ──. 中  村  剛 治 郎 目 次 はじめに. 3.筆者の地域概念と地域経済の定義. 1.地域の概念をめぐる方法論的問題. 4.日本における地域経済学研究の動向をめ. 2.学界主流の伝統的な地域経済分析. はじめに. ぐって―結びに代えて―. 阪府の地域開発政策,金沢をモデルとする地方 都市の内発的発展,東京一極集中問題とポスト.  筆者は,2012 年 1 月 25 日, 「地域経済学の. 工業化段階の日本経済の低迷,米国ポートラン. 課題と展望―私の研究史を振り返って」と題し. ド大都市圏における外発的成長から内発的知識. て,横浜国立大学経済学部地域経済政策最終講. 経済への転化,フィンランド・オウル地域にお. 義を行った.上川経済学部長,大門教授,氏川. ける辺境の分工場経済から内発的知識経済への. 教授,木崎教授をはじめ同僚の教職員諸氏,履. 発展,である.残念ながら,時間的制約のもと. 修学生や既履修なのに出席してくれた学生諸. で,後半事例は端折る形となり,動態的比較地. 君,当日は平日にもかかわらず遠方から駆けつ. 域制度アプローチの議論を詳述することもでき. けてくれたゼミ卒業生,一般市民の方等々,思. なかった.. い出深い最終講義をもたせていただいた皆様.  その後,経済地理学会第 59 回大会(2012 年. に,この場をお借りして改めて感謝申し上げた. 5 月 19 日北海学園大学 )共通論題シンポジウム. い.. 「地域問題と地域振興の課題と方法」において.  最終講義の内容は,筆者が取り組んできた事. 総論的報告を依頼された.「地域問題と地域振. 例分析のいくつかを,筆者の地域経済学のいま. 興をめぐる研究課題―地域政治経済学の歩みを. の到達点,つまり,主体重視の発展論的で動態. 通して―」と題する筆者の共通論題報告は,経. 的な比較地域制度アプローチへと展開しつつあ. 済地理あるいは地域経済・地域経済政策の研. る地域政治経済学の視点から整理し直し紹介. 究課題を明らかにすることに焦点を合わせつつ. することを通して,「地域経済学の課題と展望」. も,内容的には最終講義と重なり,より詳細に. を明らかにしたいというものであった.とりわ. 展開するものとなった.共通論題報告は, 『経. け,これまでの主な事例分析の中に,動態的比. 済地理学年報』の大会特集号(今回は第 58 巻第. 較地域制度アプローチがどのように含まれ,育. 4 号)に掲載するのが恒例として原稿提出の依. まれてきたかを示そうとするものであった.. 頼を受けた.このため,重複を回避すべく,最.  当日,取り上げようとした事例分析は,新潟. 終講義で予定した内容を論文にまとめて原稿に. 水俣病問題に焦点を合わせた中山間地域の企業. し, 『エコノミア』本号に掲載するという当初. 城下町問題,堺泉北臨海工業地帯の建設を大阪. の予定を変更せざるをえなくなった.. 経済の地盤沈下対策と位置づけた高度成長期大.  それゆえ,小論は最終講義とは別の内容にな. 『エコノミア』第 63 巻第 1 号(2012 年 5 月),1-26 頁[Economia Vol. 63 No.1(May 2012),pp.1-26].

(2) . る.ただ,筆者には,この機会を,日本の地域. 済学のテーマにしたいと考えたことであった.. 経済学を拓いてきたものの一人として,今後の. 総じて言えば,近代化・市場経済化・工業化・. 学界の発展を担う若い人々の参考になればと. 経済成長・福祉国家は,社会に物質的な豊かさ. 願って,経済地理学年報論文と合わせて,筆者. を広げるのに成功したが,同時に犠牲にした面. の地域経済研究の歩みを振り返る一つの場にし. をもち,その光と陰の両面で,ミクロな企業や. たいという想いがある.結果として,小論は,. 家計のレベル,あるいは,それらを集計したマ. 筆者の論考の展開プロセスを紹介しながら,地. クロ的な国民経済のレベルでは解けない,その. 域の概念や地域経済の定義,地域経済学の方法. 中間に位置するメゾ経済としての地域経済,い. 論をめぐるいくつかの基本的な論点について再. いかえれば,地域社会・地域文化・地域政治・. 考することを課題とするものとなった.そこか. 地域環境と結びつく地域経済の問題が横たわっ. ら,日本における地域経済学研究の動向をめ. ているのではないか,経済社会の再生にはメゾ. ぐって,とりわけ,近年における道州制導入の. 領域たる地域経済の問題が重要な鍵を握ってい. 議論と地域経済の定義の関係,地域内再投資力. るのではないか,それが筆者の研究生活スター. 論を打ち出した岡田知弘『地域づくりの経済学. ト時点における問題意識であり,いまに至るま. 入門』について言及して,結びに代えている.. での原点である.. 1.地域の概念をめぐる方法論的問題.  筆者は,1970 年 4 月に大学院に入学,研究.  いうまでもなく,地域経済学の研究は,地域 とは何か,その認識から始まる.1970 年当時, 地理学研究の立場から参照されていたのは,木. 生活を開始した.院生時代を過ごした 1970 年. 内信蔵『地域慨論』東京大学出版会,1968 年. 代は,先進工業国における重化学工業化による. における地域の概念であった.地域は,地表上. 経済成長と福祉国家の時代が終わり,世界的に. の一部であり,固有な場所的関係をもち,空間. 資本主義は転換期を迎えたという問題意識が高. 的な拡がりをもち,隣接の空間から区別され,. まった時代であった.時代の変化が筆者の地域. より大なる地域の部分である,という5つの属. 経済学研究に影響を与えることになるのは,あ. 性から定義されていた.価値自由 = 中立の立場. る意味,当然のことであろう.. による地域概念の理解であり,研究目的に応じ.  筆者が地域経済学を専攻するようになった契. て地域を設定する地域便宜説の立場をとること. 機は,一つは,宮本憲一『社会資本論』有斐閣. が地域研究には重要とされた.この立場から行. 1967 年を読んで,民間企業の設備投資と公共. われる地域の設定で,古典的なものは次の通り. 部門の社会資本整備を地域で一体的に行う地域. である.地理学では行政地域は形式地域として. 開発が戦後日本の成長戦略になっていること,. 扱われ,実質地域として重視されるのは,同. 同時に,経済成長が社会問題を解決してくれる. 質地域(観光業が盛んとか,人口減少率とか,あ. はずのところ,逆に,都市問題や環境問題など. る指標の共通性を基準に設定するもので,観光地. 現代的な地域問題を生み出していることを知っ. 域,農業地域,過疎地域など ) ,結節地域( 機能. たことである.もう一つは,学部時代に新潟水. 地域ともいう.ある結節機能で結合されている範. 俣病事件に触れる機会があり,なぜ,あのよう. 囲を基準に設定するもので,商店街の営業範囲た. な自然景観のすてきな山間の町で,自然環境汚. る商圏とか,通勤圏,コア地域とその影響圏たる. 染経由の第 2 の水俣病事件が起きたのか,その. 郊外地域とで編成される都市圏あるいは大都市圏. 背後に,公害を出す企業は儲け主義の企業だと. ,計画地域(ある開発計画の対象範囲など) など). いう単純な批判に終わらない,大きな工場に町. である.. の運命を依存する企業城下町という地域経済の.  木内氏の地域概念を受けて,実質地域の3類. あり方があったのではないかと想像し,地域経. 型について検討した井原健雄「地域分析におけ.

(3) . る地域概念の検討」 (『香川大学経済論叢』56 巻 1.  人々の生活の場としての地域には,内部での. 号,1983 年 6 月,pp.245-257)は,次のように論. 秩序や統一性を維持しようとする諸活動の働き. 文を結んでいる.「一定の拡がりと境界をもち,. や仕組み,内部における部分の活動が全体とし. しかし何らかの内容をもつ『地域』の概念は,. ての地域の新たな発展や衰退を生み出す可能. 必ずしもわれわれの研究目的から独立した客観. 性,外部とのやり取りによる地域の存続や盛衰,. 的な存在としてあるのではなく,むしろわれわ. 外部からの刺激に対する主体的な反応のあり. れの研究目的に適合させるものとして顕在化さ. 方,内部と外部の関係性のあり方の変化が地域. せる必要があるものと思う.その意味で,われ. の変化をもたらす可能性,地域の歴史と現在の. われの立場は,地域を研究の究極目標とする「地. 動向は地域の未来につながっているという歴史. 域個体説」に訣別し, 地域を研究目的の手段(な. 的事実,等々,あたかも個体であるかのように. いし方法)とする『地域便宜説』の立場をとる. 扱った方が現実的な実体的特徴が認められる.. ものである.」 (p.256).  そして,人々の生活の場としての地域が,近.  研究目的に応じて,研究対象としての地域を. 代化・工業化・資本主義の発展のなかで物質的. 多様に設定することができるというのは当然の. 豊かさを広げつつも,同時に,解体され犠牲に. ことであろう.しかし,そのことが,ある種の. されているとすれば,地域の再生を展望する立. 地域の存在意義や役割の発揮に価値を認め,地. 場から地域の概念を捉える方法として,生活の. 域の価値の実現を目指して研究する立場を,訣. 場としての地域のあり方を多元的な価値あるい. 別し排除すべき誤った研究方法とみなすことに. は潜在的可能性として捉える価値明示的な研究. 直結するかどうかには疑問が残る.地域を研究. の視点から地域の概念を定義し,これを基礎と. の手段としてのみ位置づける研究の方法が科学. して地域経済の定義や地域経済の研究を行うこ. 的であるとするのは,一つには,価値判断から. とはありうるであろう.. の自由,つまり,価値中立の研究だけが科学的.  むしろ,資本主義の構造転換という現代社会. で,価値判断が入った研究は非科学的とする研. の課題は,人々の生活の場としての地域の意. 究方法論に立っているためであろう.あるいは,. 義,地域の潜在的可能性に改めて注目し,地域. 地域という多様な意味を含む言葉から,地域は. の再生を基礎に経済社会の新たな質的な発展を. 研究目的に応じて自由に設定できるという方法. 実現することを求めている.地域の価値あるい. だけに目が向かって,地域には,人間が社会的. は地域の潜在的可能性を,諸地域の現実の中か. に形成する生活のテリトリー,自然と人間,人. ら実証的に明らかにし,この立場から地域の概. 間と人間の関係性の蓄積として社会的実体を有. 念を定義し,これを基礎に,地域経済学固有の. する現実の地域が存在し,その発展,動態,盛. 論理を構築するという,新しい地域経済学の方. 衰に研究の焦点を合わせることに特別の意義が. 法の確立こそが求められているというべきであ. あるという点に目が向かないからであろう.. ろう..  個体とは,生命をもつ個々の生物体を意味す.  この立場からの地域経済学は,人々の共同的. るが,人間と自然,人間と人間の関係を日々繰. な生活基盤としての地域の意義,地域に生きる. り広げ,関係性を制度として蓄積していく,人々. 人々の意思と行動まで視野に入れる,つまり,. の生活の場(消費の場ではない)としての地域は,. 地域の経済現象だけでなく非経済領域まで研究. 生物体でないにもかかわらず,あたかも歴史的. 対象に入れるので,経済学を超える性格をもつ. 存在としての個体とみなした方が,その把握に. ものにならざるをえない.それを方法論にまで. おいて方法論的に実際的であるように見える.. 高めるとすれば,非経済領域と経済領域の関係. その方が地域の発展をめざす運動論や政策論を. 性,あるいは,地域内部の自律性と外部からの. 理論的に展望しやすいという面がある.. 他律性の関係性から現実の地域経済を分析する.

(4) . ような新しい地域経済学を構築する方向を選択. 村の空間形態の相違となったあらわれることに. することになる.筆者は,後に,このような新. 言及し,資本主義における都市の発展は,人間. しい地域経済学を地域政治経済学と呼ぶように. 社会を停滞から解放した歴史的進歩性を意味す. なる.. ると同時に,都市と農村の対立の激化が,人間.  筆者は,新潟水俣病事件の地域経済学的研究. と自然の関係の一面化,物質代謝の攪乱をうみ. という地域の現場からの実証的研究を通じて,. だす基底要因になることを述べている.. 地域の意義あるいは価値を明らかにして,その.  続いて, 「分業の進展に伴う都市間分業が特. 実現をめざす立場から地域経済学の理論を構築. 定の都市の性格(工業都市か,消費都市か,どん. するという方法を指向するようになった.修士. な工業が中心となっている産業構造を有している. 論文上巻理論編をまとめた筆者の最初の理論的. かなど)をうみだすことによって個々の指標の. 論文である 1975 年 3 月刊の論文「地域経済の. 発展度や具体的な物的形態の相違が存在し,そ. 不均等発展と地域問題・地域開発(1) 」(『経. れに応じて人間と自然との物質代謝の攪乱形態. 営研究』第 136 号 )は,この立場を次のように. は異なる. 」等々を指摘している. (中村[1975]. 打ち出している.. p.79).  「本来,地域は,地域の生産と生活の共同基.  上記の注*)は,次の記述である. 「このよ. 盤である自然を総合的に利用することによっ. うな地域の総合性,自立性は,地域発展の究極. て,総体的な生産と生活(生産と生活の総体). 方向( 普遍的資源を原材料,エネルギーとし,生. を共同して営む場であり,人間と自然の物質代. 産設備の巨大化ではなくコンパクト化を可能とす. 謝が行われる場である.大工業の本性は,人間. るなどの生産力の発展や人間そのものの発展など. が本来志向する人間の全面的発達,すなわち. を前提するから )として,しかもその基本的性. 精神的にも肉体的にも発達して,あらゆる活動. 格として有すべきものであって,地域間の社会. をかわるがわる行いうる労働者の全面的可動性. 的分業を否定するものではない. (後略) 」. を,従ってそれを実現する新しい分業を必然化.  自然環境の景観に恵まれた新潟県の阿賀野川. する.地域とはこの全面的可動性の実現を保障. 地域の住民が,なぜ地域の宝としての自然環境. する場である.地域は基本性格として,都市と. から,人類へのしっぺ返しとしての公害を受け. 農村の対立を廃棄し,地域内分業の総合的な発. るに至るのかに焦点を合わせる事例分析を通し. 展へと向かっていくべきものである.これを実. て研究者への道を歩み始めた,その出発点にお. 現する方向に前進していく基礎を与えたものが. ける想いが,地域の潜在的可能性の視点から地. 大工業である .. 域の素材的規定を行い,地域の意義あるは価値.  ところが,大工業の資本主義的形態は,各人. を明示した上で,あらためて資本主義経済や資. が『脱け出ることができない』 『特定の活動範. 本主義の発展段階,あるいは,産業構造や国土. 囲をもつ』という形をとる『古い分業』を再生. 構造のあり方という媒介項を基礎にあらわれる. 産する.分業は空間形態をとって初めて実現す. 資本主義の空間的発展の論理が,地域の価値の. るのだから,古い分業の展開は地域分化の進展. 実現に影響を与えることをつかむ体制的規定を. という形で地域空間の一面化を必然化する.大. 行う,という地域の重層的定義の研究方法ある. 工業という巨大な生産力の発展を基礎とする商. いは地域研究への疎外論的アプローチの採用へ. 品生産の全面的展開は,以前の地域が有してい. と筆者を駆り立てたのであった.. *). た未展開の総体性を一掃して,都市と農村の分.  筆者の地域や地域経済の定義に係る研究は,. 離を完成する.」. 公害研究や大阪開発論,金沢における地方都市.  論文は,こう指摘した上で,都市と農村の諸. の内発的発展の研究などを通じて事例分析を. 指標に基づく相違が物的形態をとって都市と農. 重ねる実証研究を基礎に発展した.地域経済学.

(5) . に係る筆者の理論論文は,先の地域的不均等論. の魅力の源泉がある.近代化工業化のもとで,. の再検討から地域経済学を展望する論文に続い. 個人や企業,国民経済の発展がめざされても,. て,地域を超え,国家をも超えていく経済の論. 人間としての再生をはかる共同的な生活の場と. 理が実は一定の地域の範囲で経済を考え管理す. しての地域を基礎にしてのことであるというこ. る必要がある理由を明らかにすることから地域. とが示されている,といってよいでしょう.. 経済学の成立根拠を示そうとした地域性の理論.  共同体意識の強い日本といわれますが,それ. に係る 1978 ∼ 79 年の論文を経て, 「地域経済. は,戦前は天皇制国家,戦後は会社についてで. 論覚書」(『エコノミア』第 95 号)や,宮本憲一・. あって,戦後の日本の都市や地域については,. 横田茂・中村剛治郎編『地域経済学』序章・第. 共同体的な意識は希薄化し, 『個人主義』 (自分. 3 章,中村剛治郎『地域政治経済学』有斐閣,. 勝手主義)的に,あるいは,企業の自由に委ね. 2004 年,中村剛治郎編『地域の力を日本の活. られて,自由に破壊と建築が行われています.. 力に』2005 年,第 4 部第 1 章, 中村剛治郎編『基. むしろ,この状態を都市の活力として経済主義. 本ケースで学ぶ地域経済学』有斐閣,2007 年,. 的に歓迎しさえしてきたのです.戦後日本の国. 序章の理論研究へと結実していった.その原点. 土計画は,地域の発展ではなく,企業の発展を. は,上記に見たとおり,1970 年代前半,修士. 経済の発展と混同し企業システムを国家によっ. 論文から博士課程進学間もない初期段階に形成. て支え,企業システムが国土全体に展開し,国. されたのである.. 土を効率的に利用していくことを近代化や発展.  現状分析から地域の概念を考えるだけでな. と考えてきたのではないでしょうか.その結果. く,近代化,資本主義の発展の中で,地域ある. が地域や環境の破壊です.. いは地域共同体の意義を見直すという視点で地.  共同体的な関係を切り捨てる近代化ではな. 域を位置づける筆者の考え方については,1992. く,近代化の中に地域という共同体的な関係が. 年に四日市市で開催された第 12 回日本環境会. 生きているという時に,いい結果がうまれてい. 議パネルディスカッション「改めて“環境と開. るようです.そして,普通の教科書では,資本. 発”の諸原則を問う」における報告の中で,次. 主義は,ミクロな経済主体としての自由な個人. のように述べている. ( )内は加筆. 「戦後の日本では,地域というと共同体と結び. と企業,マクロな経済主体としての国民国家を 基本単位とすると書かれているのですが,実は,. つく古い要素をかかえる克服すべきものといっ. その中間に,地域あるいは都市や農村を独自の. た近代化論に立つ考え方が主流でした.資本主. 単位としてどう位置づけるか,共同体的な中間. 義の発展とは,地域のもつ共同体的な制約から. 組織としてどう組織するかが,経済社会のあり. の個人と企業の解放であると考えられてきまし. 方や環境の質に決定的な影響を与えるのです.. た.(中略).  戦後日本の国土計画が環境と開発をどう考え.  西欧社会は個人主義(自主自責の原則)的な. どう処理してきたか,その検討を通じて環境と. 資本主義社会といわれますが,企業内や企業間. 開発の原則をあらためて考えるというとき,環. の関係ではそうでも,マイスター制度という形. 境と開発を直接無媒介的にとりあげるだけでな. で都市のギルド制を残したり,教会組織を大事. く,国土計画は経済発展の単位をどのレベルで. にし,都市のどこからでも教会の尖塔が見える. 考えてきたか,地域を独自の単位として育てよ. という都市景観を近代以降も侵さず,建築の自. うとしてきたのか,それゆえ,多様な地域の集. 由を制限したり,都市の宗教性を維持している. 合体として国土の発展を構想してきたのか,そ. というのは,逆に,西欧社会は,共同体的な中. れとも,国土を単位として国民経済の成長をめ. 間組織を重視し,都市を共同体として組織して. ざし,地域はさまざまな機能の展開する現場と. いることを示しています.そこに,西欧の都市. して効率的に利用する対象としてしか位置づけ.

(6) . てこなかったのか,という問題を媒介して考え. 衡かもしれないが,成長地域は過密地域に,衰. ることが重要だと思うのです. 」 (中村剛治郎「環. 退地域は過疎地域になるという累積的地域不均. 境と開発―戦後日本の国土計画 30 年の総括から」. 衡が生まれ,過密問題や過疎問題という,市場. 『環境と公害』22 巻 2 号,1992 年,37 ページ). に反映されない社会的費用が発生する結果とな.  近代化の中で犠牲にされた地域の再生や地域. る.また,資本の移動に追随して労働力の移動. 経済の内発的発展に積極的な価値を見出し,価. を促進することが空間均衡の鍵を握るので,慣. 値明示的な地域や地域経済の研究を行うこと. れ親しんだ地域から移動を繰り返すことを余儀. は,価値判断を入れない価値中立こそが科学的. なくされる労働者の市場に反映されない負担を. な研究方法という学界主流からすれば異端的な. やむを得ないものとみなす考え方が前提されて. アプローチであるが,決して例外ではない.日. いる.つまり,価値判断を入れない価値中立の. 本における内発的発展論の最初の提唱者である. 理論と言いながら, 資本の自由な立地を優先し,. 鶴見和子氏は,1994 年の編著の中で,価値中. 労働者の移動負担はやむを得ないとする価値判. 立性を標榜する近代化論と違って,内発的発展. 断が暗黙のうちに前提されている地域経済分析. 論は価値明示的である,と明言している. (宇. といえよう.. 野重昭・鶴見和子編著『内発的発展と外向型発展.  上記のような,移動コストを考えない真空の.  現代中国における交錯』東京大学出版会,1994. 経済学というべき新古典派経済学に空間概念. 年,1 ページ )主体を入れた発展論や政策論を. を導入して生まれたのが新古典派地域経済学. 指向すれば,価値明示的なアプローチをとるこ. (Regional Economics)である.この場合の空間. とは,研究方法として大いにあり得ることなの. は,筆者が取り上げる自然・歴史・社会・文化・. である.. 政治といった地域ごとに多様な背景をもつ具体. 2.学界主流の伝統的な地域経済分析. 的な社会的実体を有する地域と違って,価値中 立の抽象的な均質空間であり,空間における差.  価値判断を排除し価値中立を強調する学界主. 異は距離のみで捉えられ,空間概念の導入とは. 流の立場からの地域経済研究においては,市場. 距離(輸送費をともなう)の導入を意味していた.. 経済における経済活動の空間的展開を演繹的に. つまり,地域経済学というものの,その内実は. 解明する研究が一般的である.. 空間経済学と呼ぶべきものであった. それゆえ,.  伝統的な新古典派経済学は,完全競争・完全. この立場の地域経済学の教科書は,一般に,地. 情報・移動コストゼロを前提として極大効用を. 域経済の定義を詳しく行ったり,索引に地域経. 追求する合理的経済人の行動を基礎に,自由な. 済の項目を設けたりすることをしない.. 市場の均衡作用を明らかにするものである.成.  製造業は,原料地から工場までの距離に伴う. 長地域と衰退地域がある時, 衰退地域の資本は,. 原料輸送費と工場から市場への製品輸送費の合. 高い利益率を見込める成長地域に移動する.こ. 計から成る輸送費の最小費用立地を求めるの. のため,成長地域では労働需要が高まり,賃金. で,重量減損生産工程を特徴とする鉄鋼業のよ. 上昇が生じるので,資本収益率が低下する.衰. うな製造業は原料立地,どこでも入手できる水. 退地域では,資本が流出するために,労働過剰. のような普遍原料を使用する製造業は消費地. に陥り,成長地域への労働力の移動が加速する.. (市場)立地の傾向をもつ.安価な労働力が入. 結果として,衰退地域でも成長地域でも資本と. 手できる地域への立地移動は,輸送費最小立地. 労働のバランスが回復し,空間的均衡が生まれ. から外れることになるが,労働コスト節約分が. る,とされる.. 輸送費増加分を上回るなら正当化される.輸送.  しかし,資本と労働,それぞれのミクロ経済. 費最小立地から外れて,複数の企業が,ある場. 主体における極大効用の実現という意味では均. 所に距離がないほどに密集して立地(集積)し.

(7) . ようとする時,関連支援産業の発達や社会イン.  ケインズ経済学の立場から,輸出基盤説とい. フラの共同利用など集積利益が生まれるが,そ. う需要サイドからの地域経済分析が行われた.. れが単独立地の場合の輸送費最小立地からの費. 地域の産業には,輸出向け産業と地元市場向け. 用増加分を超えるなら正当化される.. 産業があって,他の地域からの需要に依存する.  大企業による大規模工場の立地は,単独立地. 前者の産業の成長が,地域経済効果(波及効果). でも,規模経済という内部経済(企業内部での. を生んで,地元市場向け産業の成長をもたらす. 費用節約であり内部集積利益ともいう)の享受. というものである.ここから,輸出産業の振興. を可能にする.. あるいは誘致が優先され,成長産業(戦後の経.  同業種の産業が集積する特定産業地域では,. 済成長期には重化学工業であった)の民間投資と,. 集積による輸送費の節約だけでなく,距離がな. 関連する社会資本(物的インフラ)を整備する. いほどに密集することによって,知識や技能の. 公共投資を一体的に展開する地域開発政策が盛. 地域(他の企業)への伝播(知識のスピルオーバー). んになった.. が生まれやすい,関連支援産業の発達は専門化.  リージョン単位で,失業率や所得水準を比較. サービスの利用を容易にする,関連する特定熟. することにより地域格差を検証する研究も盛ん. 練労働力のプールである地域労働市場が生まれ. である.地域格差の是正に地域政策の中心的課. て便利である,といった地域特化経済という外. 題があるという考え方が有力であり,実際,戦. 部経済が生まれる.. 後の先進工業国における地域政策の根幹をなし.  多様な業種が集積する大都市では,社会的イ. てきた.地域格差の是正のために,成長地域か. ンフラが集積して企業活動を活発にしたり,専. ら問題地域に企業を誘致したり,問題地域に中. 門サービス業を成立させる市場規模を生み出し. 央政府の公共事業を誘致して需要誘発の乗数効. たり,多様な産業の集積は地元で輸入品の生産. 果で地域経済の浮揚をめざしたり,企業誘致の. 代替をする際に必要な部品やサービスを供給す. ための基盤整備とする地域政策が実施された.. る産業を見つけやすい,多様な人材の集積が相.  実際の効果はいかなるものであったか.産業. 互交流を呼んでイノベーションや創造活動を刺. 立地や資本蓄積を優先する地域政策を採用して. 激する,といった外部経済たる都市化経済が生. も,多数の企業が立地することがなかった場合. まれる.. も多いし,企業が立地した場合でも,地域経済.  もっとも,こういった収穫逓増効果を特徴と. の隅々にまで波及効果が広がり,地域社会に多. する集積利益は,完全競争・完全情報を前提す. 様な就業機会を生みだし,地域経済の運命に住. る伝統的な新古典派経済学では,数理的モデル. 民の意思が反映される地域民主主義が前進し,. による解明は十分でなかった.近年になって,. 地域社会の絆や連帯が強まり,環境が保全さ. 収穫逓増と不完全競争モデルを組み込んで,伝. れ,地域の文化が発展したかといえば,逆の結. 統的な新古典派経済学を批判する,クルーグマ. 果に終わっている場合が多い.企業が進出して. ンらによる新経済地理学(空間経済学)の登場. も競争激化で撤退したケースもある.企業誘致. が,この限界を打破することになった.そうで. のための基盤整備と称して公共事業を拡大した. あっても,数理モデルで解明された収穫逓増効. 結果,地域経済効果による税収増加効果が乏し. 果の内容は,規模経済や輸送費節約効果に限定. く,財政危機に苦しむ結果になった事例も多い.. されがちで,イノベーションの創出など知識創.  発展とは,自らが創り出す内発的で創造的な. 造促進効果をはじめ,先端的な問題の数理モデ. プロセスであり,自らの力( 内発的発展力)を. ルによる解明がそれほど進んでいるわけではな. 高めることを必須とするプロセスであり,外部. い.また,内容的にも静態的な分析の域を超え. から企業を誘致する外部依存では発展は生まれ. ているとは言い難い.. ないことが明らかになった.地域格差の是正と.

(8) . いうが,周辺地域に中枢地域(大都市)の企業. 程が重要になる.こうした問題は,近年流行の. の分工場が進出するにつれて,大都市の本社機. M.E. ポータの産業クラスター論にもあてはま. 能・関連支援機能が強化され,分工場が生み. る.. 出した経済余剰が本社あるいは大都市に吸収さ.  伝統的な新古典派経済学のように, 完全競争・. れ(流出し)て,中枢地域・大都市地域はいよ. 完全情報を前提する自由な市場あるいは合理的. いよ発展した.大都市の本社機能(意思決定機. 経済人の論理に基づく資本の行動を想定してい. 能)が分工場の経営を通して周辺地域の経済と. ては,シュンペーターが『経済発展の理論』で. 社会,政治の運命を規定するという外部コント. 指摘したように,ある軌道における経済循環の. ロールが強まった.周辺地域は,企業誘致や公. 均衡を解明できても,歴史的社会的な制度的諸. 共事業誘致,財政移転に期待し,中枢地域への. 条件を伴う,経済循環の新たな軌道を創出する. 外部依存を強める結果となり,自律的で内発的. 経済発展は,論理的に,生まれようがないので. な地域の発展力(内発的発展力)を弱めること. ある.. になった.地域経済の質という点では,中枢地.  通説的な地域経済分析は,地域分析の単位と. 域と周辺地域の地域格差はかえって強まった.. しての地域は,研究目的に従って,広狭さまざ. 中枢地域の停滞が起これば,外部依存の周辺地. まのレベルで任意に設定されるとして価値中立. 域はいっそう停滞色を強めることになる.それ. 的な立場を強調するが,その内実は,自由な市. は,実際,戦後の高度成長の時代が終わるとと. 場が産業の発展あるいは資本の成長(蓄積)を. もにやってきた.内発的発展力を弱めた周辺地. 生み出し,それが,自ずと,人々に雇用と所得. 域経済を支えようと財政支出を拡大すれば,ポ. の増大をもたらし,地域の発展を生むはずだと. スト工業化段階の成熟経済のもとでは,国家の. 考えて,市場の空間的作用あるいは空間におけ. 財政危機を生むことになった.. る資本の論理を解明することが重要とする価値.  集積利益が費用節約をもたらし経済発展の原. 判断を暗黙のうちに前提するものであった.価. 動力になると言っても,たとえば,特定産業と. 値明示的な地域概念の設定を恣意的で非科学的. いう同業種の産業が特定地域に集積していて. と非難する価値中立論者が,実は,暗黙に価値. も,地域特化経済という集積の外部経済が,常. 前提の立場をとっていたことになる.しかも,. に生まれ,地域の産業の競争力強化に寄与する. 自由な市場の空間作用や空間における資本の論. ように機能するとは限らない.あくまでも静態. 理の受容を前提とし,それを補完することに役. 的分析による抽象的可能性の指摘にすぎない.. 割を求める地域政策は,あちこちで,地域経済. 異業種の多様な産業が集積しても,同様に,都. の成長を生み出しつつも,過密と過疎など地域. 市化経済が常に機能するわけではない.競争激. 経済のアンバランスな発展や,地域経済の不安. 化や産業構造の変化にともなって,特定産業都. 定化・外部依存・質的地域格差を強めることが. 市が衰退する事例は多いし,グローバル競争の. 明らかになった.. 下では多様な産業を集積する大都市経済でさえ 衰退するという事態も生じている.. 3.筆者の地域概念,地域経済の定義.  発展のダイナミズムを地域に生みだすために.  筆者は,1980 年代半ばの金沢論を経て地域. は,地域の諸アクターの関係性を発展に向けて. 経済学の専門書を単著で出版すべき時期を迎え. 組織化する動態的な制度的アプローチが必要で. たが,専門書の出版事情が厳しい折,ひとま. ある.さらには,地域諸アクターが協働してめ. ず,地域経済学の教科書を共編著で出版した後. ざすべき,地域の発展のあり方,方向を指し示. にという条件で有斐閣に引き受けてもらうこと. す地域ビジョンが必須であり,現状の制度的構. になった.. 造をどのように再編していくかという政治的過.  宮本憲一・横田茂・中村剛治郎編著『地域経.

(9) . 済学』有斐閣,1990 年の執筆予定者に向けて,. 時間軸で,同時に,段階ごとの空間軸(地域間. 理論編担当の編者として,地域経済の理論のア. 構造の変遷)で捉える.. ウトラインを示すために試論的に書いた論文.  第 9 に,各国の地域経済と地域間構造は,各. が,1987 年の「地域経済論覚書」 (『エコノミア』. 国資本主義の歴史的発展の特質(資本形成,土. 第 95 号,1987 年)である.. 地所有,階級構成,基本的人権と民主主義とくに.  最初に,政治経済学の立場に立つ地域経済学. 地方自治など)を媒介項に入れて理解する.媒. の視点を挙げている.要約して紹介する.. 介項的制度により,資本主義の空間的発展には,.  第 1 に,地域経済は経済発展のダイナミック. 水平的地域間構造と垂直的地域間構造といった. スの固有の単位である.社会の全経済史は地域. 類型的多様性がある.. 経済の歴史といえるが,資本主義経済は国民経.  第 10 に,地域経済学の体系は,地域経済・. 済として構成されている.しかし,資本主義の. 地域問題・地域政策の 3 層構成とする.. 下でも,イノベーションや改良あるいは移入代.  続く 3 つの節で,資本主義の 3 つの発展段階. 替といった経済発展のダイナミックスという点. に沿って,上記第 8 の視点に基づく体制的規定. に注目すれば,地域経済こそが固有の単位であ. の分析を示しているが,その冒頭で,小論第 1. るとしている.. 節で検討した地域の概念について記しているの.  第 2 に,地域経済は,財貨・サービス,所得,. で,ここで引用しておこう.. 資本,労働力の循環する相対的にまとまった経.   「地域は,これを取り上げる視角によって,. 済圏として理解するのが常識であるが,経済循. その領域と規模を異にするさまざまな地域を設. 環の完結性よりも開放性を前提に捉える.. 定することができる.小論では,国民経済の一.  第 3 に,地域経済学は,技術革新を含む生産. 部としての地域経済の内的論理を明らかにする. 力の展開する空間として地域を捉える.. にあたって,さしあたり,人々の生活圏として.  第 4 に,生産力の発展が地域的制約条件を. の地域をとらえることから出発する.. 次々に突破し,地域経済が国民経済や世界経済.  地域とは,人々が住み,働き,育ち,楽しむ. に組み込まれ,その開放性が強まるにもかかわ. 生活圏であり,人間発達の場である.人間の生. らず,地域経済学の成立をいうとすれば,依然. 活,人間の発達に関わる多面的な機能をもつこ. として存在する地域的制約条件として人間の生. とが要請されるという意味で,地域は総合的な. 活様式,その空間形態としての生活圏をその根. 性格を求められる.地域はそれぞれの地域の自. 拠として注目する必要がある.. 然条件,歴史,文化を基礎にして形成されると.  第 5 に,都市と農村の両方を視野に入れ,都. いう点では,地域は,独自性,個性を特徴とす. 市と農村の対立から調和への展開が地域経済学. る.また,地域は,住民の自立と連帯によって. の課題になる.. 形成される共同社会,自治体である. 」.  第 6 に,資本主義の下で,地域経済は画一化.  ここで,自治体は,地方公共団体のことでは. の傾向と同時に多様化を強めるので,都市と農. なく,住民の自治共同体,自由な諸個人の地域. 村の 2 区分では不十分であり,多様な地域経済. 的連帯組織を展望する視点に立つものである.. の発展を捉え,地域経済間の相互関係を地域間.  その上で,地域の範囲は,交通手段の発達そ. 構造(国土構造)の形成・発展・再編として分. の他,生産力の発展とともに拡大するが,人間. 析する必要がある.. の生活が,地域の自然,歴史,文化と離れては.  第 7 に,資本主義の下にある地域経済と地域. ありえず,定住的共同生活を基本とする以上,. 間構造を資本制蓄積の諸法則によって規定され. 生活の基本圏域が無限に拡大することはありえ. るものとして捉える.. ないので,地域あるいは地域生活を支える経済.  第 8 に,地域経済を資本主義の発展諸段階の. の発展を基礎に地域経済を形成するという課題.

(10) . が成立するとしている.. 約条件として機能していないことを意味する. 」.  方法論的いえば,上記の地域概念は,ひとま. 他方で, (旧 )西ドイツのように多極分散型国. ずは,素材的に,つまり,資本主義の体制的規. 土 = 水平的地域間構造の形成は, 生活の場から,. 定を受ける前のレベルで定義されているので,. 生活の場と結びつき生活の場を支える経済とし. 続いて,体制的な規定を行うことによって,現. て,地域経済を発展させるという経済と地域の. 実の地域概念となることを予定するものであ. 関係性が重視されていることを意味する.資本. る.1987 年の論文では,資本主義の発展に伴. 主義の多様性が資本主義の下での地域経済と地. う経済圏と生活圏の乖離とそれへの対応から,. 域間構造の発展の多様性を生み出す基盤になっ. 地域の現実が規定されるというアプローチを. ているという視点を認めることができよう.他. とっている.. 方で,生活の場から地域経済の発展を拓いてい.  「現代資本主義の経済圏と人間の生活圏との. くことが,地域間構造のあり方を変え,国民経. 乖離は,現代の地域問題を発生させる基礎であ. 済の構造を変えていくことが想定されている.. る.住民の生活圏としての地域が,現代資本主.  ここでの体制的規定は,現代資本主義におい. 義の経済圏に組み込まれることによって,地域. て地域の有する素材的潜在的な可能性はどのよ. は空間的分業システム(地域間構造)の下で機. うな影響を受けるかという視点から行っている. 能特化をすすめ,他方で,画一的大量生産 = 販. が,その内容は,必ずしも,資本の論理とはこ. 売システムの下で消費・文化の画一化をすすめ,. ういうものだ,資本主義とは資本の論理の支配. また,地域経済の自律的発展と住民の経済への. が一元的に貫徹する社会だという,資本主義を. 参加が阻まれる.生活圏としての地域が有する. 一括りにするような伝統的な体制的規定を行っ. はずの地域の総合性,個性,共同,自主性が失. てはいない.資本主義社会は,経済の論理とし. われていく.ここに現代の地域経済問題をめぐ. ては資本の論理が優位に立つが,社会の論理が. る基本問題がある.」. いかに働くかによって,多様な資本主義が生ま.  現代資本主義の下での現実の地域経済と地域. れ得るものとして理解されている.地域あるい. 間構造,そこから生まれる地域問題や地域政策. は地域経済という,人々の生活の場の論理,生. のあり方を,経済圏と生活圏の対立・関係,資. きている人々の意志と行動が大きく影響を与え. 本の論理と地域の論理の対立・関係を通して捉. る領域では,ますますもって,一元的な資本の. える立場を打ち出しているのである.言い換え. 論理なるもので地域や地域経済のあり方を斬っ. れば,「現実の資本主義は,必ずしも,資本の. てしまうわけにはいかないという,地域経済学. 論理が一元的に貫徹するものではない.地域経. の方法論を意識してのことである2).. 済や地域構造のような分野ではますますそうで.  では,現代資本主義の下で,地域経済の発展. ある.各国資本主義ごとにさまざまのバリエー. を導く地域経済政策は,この論文では,どのよ. ションがありうるし,また,住民の意識や運動. うに展望されていたであろうか.地域経済の発. によって改革が可能な分野であるといえよう. 」. 展をめざす時, 何が重要としていたであろうか..  続く叙述を要約的に紹介すれば,日本経済の. 少し長いが引用しよう.. ように,大企業段階以降の資本の論理をスト.  「特定の移出産業が発展しても,より強い競. レートに反映するかのような,諸地域を中枢=. 争力をもつ地域があらわれたり,商品のライフ. 頭脳地域と周辺 = 現場地域に分けて統合する東 京を頂点とする求心的垂直的国土構造を形成し ているところでは, 「本来,経済の空間的展開 の制約条件として作用し,地域経済の成立と発 展の根拠となるはずの生活圏が,軽視され,制. 2)資本の論理と地域の論理の影響力によって地 域や地域経済のあり方が違うという国際比較分析 については,中村[1989]参照(中村[2004]第 3 章に再録).

(11) . サイクルや産業の成熟化にともなって,やがて. の質の充実という非経済的要素の重視,すなわ. 衰退していく.地域経済が持続的に成長してい. ち経済と非経済の政策統合,地域経済の職種構. くには,たえず新しい産業あるいは商品を創造. 成の多様化,多様な人材に自己実現の機会の提. するイノベーションや改良を試み,あるいは,. 供,人材の集積,市民の参加と経済民主主義の. 移入代替と地元産業の移出産業化を試みる必要. 前進,地方自治体への分権化と財源保障を前進. がある.これを可能にする地域経済の内部構造. させることが重要である.(4)これらの推進が. をどう形成するかが,地域経済振興政策のカギ. 内発的発展力の強化につながるであろう.内発. である.このためには,意思決定機能や研究開. 的発展力が高まれば,内発的発展の動態的プロ. 発機能,マーケティング機能を地域にもち,地. セスで危機が生まれても,再生へ向けた取り組. 域に再投資していく企業を育て,地域内産業連. みが生まれる可能性が高くなる.逆からいえば,. 関を重視し,活用していくこと,開発的な仕事. 内発的発展は,単に一時的に経済効果があるプ. を生み出す基盤として都市文化を育て,地域生. ロジェクトかどうかで判断せず,主体的な内発. 活の充実を図ることが重要である.. 的発展力の強化につながるかどうかを指針とし.  結果として,地域経済の職種構成が多様化さ. て推進することが重要ということになる.. れ,さまざまな人材に自己実現の機会を提供し.  上記に列挙している内発的発展力を構成する. て,人材の集積にともなう内発的発展力が高ま. 諸要素の多くは,金沢の内発的発展を事例とす. るだけでなく,経済の地域内循環が拡大されて. る筆者の実証研究から導いたものである(中村. 所得水準や雇用水準が上昇する.また,地域経. [1986B]) .もっとも,金沢市の場合,近年の. 済の振興方向について,住民合意を形成し,そ. 山出市長の時代(1990 年∼ 2010 年 )になって,. の方向に公共・民間投資の統合や,各経済主体. 市長選立候補の準備過程で筆者の著書(『新し. の行動の調整,研究開発機能の動員などを行っ. い金沢像を求めて』中村[1986A])を読んで. て,地域経済の確立のために中心的役割を発揮. いただいたりしながら,市政の方針としても,. できるだけの権限と財源を与えられた自治体の. 自覚的に内発的発展をめざすことになったが,. 確立が求められる.」. 以前には,そうではなかった.また,政治民主.  この内容を改めて整理すると次のようにな. 主義にとどまらず経済民主主義(働く人々や市. る.(1)内発的発展が起こっても,内外諸要因. 民が経済に関わる決定過程に参加できること )に. から,持続するとは限らない.内発的発展論は. まで視野を広げて民主主義の前進を図るという. 内発的発展の発展をめざす動態的な発展論の視. 点では,金沢は,日本の他の都市と同様に,歴. 点をもつ必要がある. (2)地域経済の振興策の. 史的に弱いというのも確かな事実である.. 方向は,絶えざる生産性上昇,新産業・新商品.  ところで,先の引用には「地域に再投資して. の開発などイノベーション・改良,移入代替戦. いく企業を育て地域内産業連関を重視し,活用」. 略,地元市場産業の移出産業化などが考えられ. という文言があった.内発的発展都市・金沢と. るが,そのための内部構造の形成が鍵を握る.. 外来企業の工場現場都市・大分の経済構造を定. (3)内発的発展のための内部構造の形成には,. 量的に比較分析した拙著『地域政治経済学』79. 意思決定機能,研究開発機能,マーケティング. ページで「金沢市は,地域内産業連関的発展と. 機能など経済上部機能の強化・集積を重視する. 経済余剰の地域内再投資,地域内経済循環を梃. 本社型経済,経済余剰の流出に無関心にならず,. 子とする,中小企業群を主体とする工業都市,. 地域に再投資するように企業を誘導,地域内産. 広く第 3 次産業まで含めた内発型産業都市とし. 業連関的発展の戦略的展開,経済の地域内循環. て発展し,それを基礎に独自の文化都市であり. の発展の重視,開発的な仕事が重要になる時代. 続けてきたのに対し,大分市は,工業都市とい. の産業政策には都市の文化,地域における生活. うより工場都市であり,外来企業の生産現場的.

(12) . 性格が強く,結果として,知識職種や第 3 次産. 日本リフトサービスと交渉し,住民が長きにわ. 業の集積が弱く,所得水準も低位にとどまって. たって地域の自然を守り,石打スキー場の発展. いる,といえよう. 」と論じているように,内. に貢献してきて,いまの日本リフトの発展があ. 発的発展都市と外発的開発都市との違いの一つ. る.スキー場間競争が激化している下で,石打. は,地域で生産された経済余剰が域外に流出す. 地域で得た利益を外に持ち出し,他の地域のス. るか,地域内再投資つまり地域経済の更なる発. キー場開発投資に回せば,石打の発展が削がれ. 展を導くための地域での再投資の源泉となるか. る,とりわけスキー産業では地域内再投資がス. という問題であり,地域への再投資をめぐる問. キー場と地域の発展の鍵を握る,別のスキー場. 題は筆者が修士論文以来一貫して重視してきた. 開発は経営資源の分散となり,競争激化の下で. 論点の一つである.. は成功の見込みは立ちにくいはず,無駄な投資.  筆者は,新潟水俣病問題の地域経済学的分析. に終われば日本リフトや石打の将来を危うくす. において,新潟県鹿瀬町という昭和電工の企業. る,日本のメガスキー場の一角にまで成長した. 城下町において,熊本でチッソによる水俣病事. 石打丸山スキー場に再投資をして,いっそうの. 件が発生し,鹿瀬工場と同工程の工場廃水が問. 発展を図ることこそ日本リフトサービスの発展. われていることを安西正夫社長が日本化学工業. の道だ,と粘り強く説得していた.地域で生み. 協会の担当委員長として知りながら,鹿瀬では. 出した経済余剰の流出を批判し,継続的な地域. 安全対策ほかの追加投資をすることなく,減価. での再投資が重要という論点は,ずっと筆者の. 償却の終わった鹿瀬工場の設備を,化学反応を. テーマの一つであったが,地域づくりの実践的. 変えるだけの方式で,フル活用して稼ぐだけ稼. リーダーから, 「地域内再投資が地域の発展の. ぐという方針をとり,一方で,鹿瀬工場が生み. 鍵を握る」という言葉を聞いて感激し,改めて. 出した経済余剰を瀬戸内の新工場の建設投資な. 学んだのであった.その結果,1990 年の『地. ど地域外投資に回し,その裏面として,新潟水. 域経済学』第 1 章(『地域政治経済学』第 2 章 ). 俣病事件を引き起こすに至ったことを実証的に. では,地域経済の定義の項で「一度中枢拠点と. 明らかにしている.. なっても,その成果(経済余剰)を他の地域で.  また,大阪の堺泉北臨海工場地帯を取り上げ. の投資に回し続けるなら, やがて衰退する. 「経 」. た地域開発研究では,関西系企業よりも東京系. 済余剰(利潤)の域外流出を防ぎ,経済の地域. 企業の工場誘致が中心であり,堺泉北工場で創. 内循環を拡大する」と書いた.実は,経済の地. り出された経済余剰が東京本社へと流出し,大. 域内循環には,財・サービスや労働力とともに. 阪が経済余剰を広く集める大都市経済から,経. 資金の循環が含まれるので,地域内再投資は経. 済余剰を東京に差し出す現場型地方経済に変容. 済の地域内循環に含まれる概念である. 『地域. したという問題を取り上げている.. 経済学』第 1 章を再録した 2004 年の『地域政.  それだけでなく.1987 年の論文執筆当時,. 治経済学』第 2 章では, この点を「経済循環(再. 筆者は,その数年前から新潟県石打スキー場地. (71 ページ) 投資を含む)が,地域内に生まれ」. 域の内発的発展について調査に入り,当時の石. という表現で示している.あえて地域内再投資. 打観光協会会長小野塚昭治氏(現在は南魚沼市. という言葉を使わない場合でも,経済の地域内. 観光協会会長 )と議論を重ねていた.当時,石. 循環が重要といえば,地域内再投資が含まれて. 打丸山スキー場の中心的リフト事業者は,東京. いると理解するのは学界の常識であろう.. に本社を置く日本リフトサービス(株)であっ.  もちろん,筆者が早くから議論してきたよう. た( ずっと後に,本社を石打に移転 ) .同社は,. に,地域経済の発展には,経済余剰の地域内再. 石打で成功して,その経済余剰を別のスキー場. 投資の視点が重要と,取り出して議論すること. 開発のために投入しつつあった.小野塚氏は,. にも独自の意味がある.しかし,グローバル競.

(13) . 争が激化する下で,地域に本拠をもつ企業は地. 的な存在としての地域と経済の関係として地域. 域内再投資だけに努め,他の地域における経済. 経済を捉える筆者の地域経済学の方法論が裏付. 活動に投資をしてはならない,それは地域経済. けられることになるからである.. にマイナスだ,というようにリジッドに考える.  この点について, 『地域経済学』第 1 章(58. とすれば,それは違うというべきであろう.そ. ページ, 『地域政治経済学』第 2 章 58 ページに再録). れでは,企業の発展は持続可能にならず,結果. は次のように述べている.. として地域経済の発展に負の影響を与える場合.   「地域は,全国や世界の全体システムの中に. がある.地域内再投資を基本とすることの重要. 占める位置によって規定されているとしても,. 性を指摘することはいまも変わらないが,アプ. 一方的にその運命を決定づけられる受動的な存. リオリに地域外投資を排除するわけには行かな. 在ではない.地域に生きる人々が自らの人生を. い,柔軟に複合的に発展戦略を考えるべき余地. 考え,人間らしく生きる場,自らの生き方の空. がある,というのが,いまの筆者の実際的な考. 間的な証として地域をどう創って行こうとする. え方である.この点は,後節で再論することに. か,既存の国土構造における地域経済の位置を. なろう.. 含む過去からの条件をふまえた上で,地域の新.  さて,1987 年論文を基礎に,筆者の地域経. たな歴史を切り拓こうとする人間の意欲と行動. 済学の基礎理論は,共編著『地域経済学』第 1. が,地域経済の新たな発展を生み,国土構造に. 章地域経済( 後に,拙著『地域政治経済学』第 2. おける地域の位置を変え,ついには,国土構造. 章第 1 節として再録,引用は後者より)へと結実. という全体の改革を実現していくための推進力. していった.地域と地域経済の定義に関わる部. となるという意味で,地域は自律的で主体的な. 分の紹介に移ろう.. 存在である.この面を無視しては地域分析たり.  その前に,地域経済学研究にとって,地域と. えない.それゆえ,地域経済学は,国土構造だ. 全国・世界,つまり,部分と全体の関係,ある. けでなく,個々の地域に注目しなければならな. いは,過去と現在,未来の関係を,どのように. いし,基本単位たる個々の地域から出発する. 」. 理解するかは,地域と地域経済の定義,いいか.  後段の叙述は,当時の日本の経済地理学会を. えれば,地域経済学の成立根拠に関わる重要な. リードしていた経済地理学の問題意識と筆者の. 方法論的問題であるので,少しく触れておく.. 地域経済学の問題意識の違いを意識するもので.  社会科学の常識は,一つには,全体から部分. あった.奇しくも,我々の共編著の数ヵ月後に. を位置づける構造的視点の重要性である.部分. 出版された矢田俊文編著『地域構造の理論』ミ. を理解するには部分だけを見ていてもだめで,. ネルヴァ書房,1990 年は,「国民経済を一つの. 全体を見ること,全体の構造を理解すれば,自. 空間システム=地域構造としてとらえ,その一. ずと全体に占める部分の位置が明らかになり,. 切片として地域経済を位置づける立場に立って. 全体から規定される部分の意義が理解できる.. いる. 」と述べて,国民経済が「基礎的・自立. もう一つは,現在や未来は,歴史を遡ることに. 的な社会単位」であり,その一部である地域経. よって見えてくるという歴史的視点の重要性で. 済は「一切片」にすぎないと断じた.それは,. ある.いま風に言えば,歴史的経路依存性とい. 地域経済に,他律性だけでなく,発展の単位と. う捉え方である.しかし,筆者は,伝統的な社. しての自律性を見出そうとする地域経済学の立. 会科学の 2 つの眼を受け入れた上で,加えて,. 場を頭から否定することを意味した.. 逆説的に,部分が全体を規定し変えていく可能.  筆者は,最終講義や経済地理学会 2012 年大. 性や,現在を生きる人々の意思と行動が過去と. 会共通論題報告(中村[2013])で述べたように,. 違う未来を拓く可能性を現実の中から実証的に. 高度成長期に,大阪経済が,何故に堺泉北臨海. 見出そうとしてきた.そこから,自律的で主体. 工業地帯の開発を進め,大阪経済の独自の論理.

(14) . を捨て,地方化・生産現場化を進めるに至った. 潜在的可能性を見出し,その可能性が資本主義. かを解明するには,資本の論理あるいは資本の. の発展のもとで,あるいは,制度的構造にもと. 立地に基づく産業配置の結果と分析するだけで. づく多様な資本主義の発展のもとで,どのよう. は不十分で,大阪における経済界,企業グルー. に制約を受けるのか,制約を突破して可能性を. プや経済団体,中小企業経営者たち,政治・行. 現実のものにするには何が必要か,そのための. 政など地域の諸アクターの意思と行動の変容過. 地域における主体的な協働と地域的な制度的仕. 程をふまえて実証的に分析する必要があった.. 掛けを考える政策論的指向をもつことを重視す. 地域における諸アクターの意思と行動を抜きに. る学問として構築する必要があるのである.. 地域経済や地域政策の動向,その結果としての.  筆者の地域経済学, 地域や地域経済の定義は,. 産業配置の分析はできないことを実証的に明ら. こうした問題意識を基礎にしている.筆者の地. かにしたのである.. 域経済学つまり地域政治経済学は,研究対象た.  あるいはまた,日本経済という国民経済の空. る地域経済を,地域と経済の結びつき,あるい. 間システムが東京を頂点とする垂直的国土構造. は,関係如何,自律性と他律性のせめぎ合い,. として編成され,その部分を成す多くの地方工. という視点から分析する.. 業都市が,国民経済の空間の論理に沿って,大.  この分析視角は,資本主義経済における経済. 都市に本拠を置く大企業の分工場の立地によっ. 発展の単位という視点から考えても,有効であ. て形成され,外発的成長の道を歩んだにもかか. る. 『地域経済学』第 1 章,『地域政治経済学』. わらず,金沢では(浜松その他を加えてもよい) ,. 第 2 章, 『地域の力を日本の活力に―新時代の. 何故に独自の内発的発展の道を拓いていったか. 地域経済学』第 4 部第 1 章, 『基本ケースで学. を考える時,地域経済は,国民経済の空間の論. ぶ地域経済学』 序章で明らかにしているように,. 理から他律的に規定される面だけでなく,地域. 資本主義の発展と経済発展の単位の関係に焦点. の諸アクターの意思と行動による自律的な面を. を合わせて,これまでの歴史を振り返ると,小. もっているものと理解するほかない.その後の. さな企業が地域に集積して形成する協力関係が. 筆者の事例分析を加えれば,米国のポートラン. 経済発展の単位となっていた,経済が地域に根. ド経済や,フィンランドのオウル経済の独自の. ざしていた時代から,20 世紀になって地域を. 発展もまた,地域経済を国民経済の空間的論理. 超える大企業と「大きな政府」が登場して経済. という全体の論理から一方的に規定される「一. 発展の単位となり,地域と経済の関係が希薄化. 切片」と見ていては説明できず, 地域諸アクター. するとともに地域や地域経済への関心が後退し. の主体性,関係性,地域の自律性を入れて地域. た時代,ポスト工業化段階に至って,富を生み. 経済を捉える方法論が不可欠であることは明ら. 出す最大の源泉が人間の知識労働となって,人. かである.. 間の創造性と協働,人間の教育と訓練が重要に.  そもそも,主体的な存在である人間の意思と. なり,企業よりも企業間ネットワーク,さらに. 行動,その協働を基礎に形成される地域や地域. は, 人的ネットワークが知識経済の基盤となり,. 経済には,他律性だけでなく,自律性があり,. 他方で,成熟社会化や高齢社会化も進み,製造. 独自の発展をめざすさまざまの工夫や制度設計. 業のサービス化も含め産業構造のサービス経済. を行う潜在的可能性があり,自律性と他律性の. 化が進み,エコロジーや生活の質,地域社会の. せめぎ合いに地域経済の本質的特徴があると考. 連帯,教育訓練・医療・福祉・文化・農業,自. えるべきであろう.つまり,社会的実体を有す. 然エネルギーが重視されるようになって, 再び,. る人々の生活の場たる地域から出発する政治経. 地域と経済の関係が経済発展の単位として注目. 済学的な地域経済学は,実証研究を基礎とする. される時代へと変化してきた.この意味で,現. 洞察力によって,地域と地域経済の独自の意義,. 代は地域経済のルネッサンスの時代といってよ.

(15) . い.. の動きが反映されており,同時に,地域からの.  地域と経済の関係として地域経済を捉えると. 動きが,直接,国家や世界に影響を与え,国家. すれば,地域とは何か,その定義が前提になる.. や世界を変えていくための原動力になることも. 筆者は『地域経済学』第 1 章で改めて地域の概. ある.地域は小さくても大きな可能性を秘める. 念を整理した.. 大きな存在である..  地域とは,研究作業の必要から手段として設.  森裕之「政策研究としての地域共創アプロー. 定する地域ではなく,社会的実体を有する地域. チ」 (森[2009])は, 「地域」を社会科学の対. であり,地域に生きる人々が人間としての発達. 象として最も包括的に扱っている研究として,. を実現していく場であり,人間と人間の関係,. 地域政治経済学からの筆者の 7 つの地域概念を. 自然と人間の物質代謝を日々繰り広げる場,人. 詳しく紹介し,次のように評価している. 「こ. 間の生活の場,人間の暮らしの共同的空間拠点. の中村の『地域』の捉え方は,政策研究の対象. を意味する.. として地域を基軸に据えることの意義を明確に.  地域の概念は,この一般的定義から,7 つの. 示している.地域を自然環境, 経済, 文化(社会・. 地域視点という現代的定義によって豊富化され. 政治)の複合体として把握する視点は,経済学,. る.地域は,第 1 に,基本規定として,地域は. 政治学,法学といった既存の学問を動員する中. 自然環境・文化( 社会・政治を含む ) ・経済,3. で社会科学的なアプローチを行うことが地域分. つ( 分けると 5 つ )の要素の複合体であり,人. 析には不可欠であることを物語っている.そし. 間の共同的生活圏,人間発達の場である.第 2. て,地域における政策設計を行ううえでも,こ. に,複合体であることは,経済的利害だけで地. れらの諸分野の英知を集約しなければならない. 域を見るわけにはいかず,地域は 5 つの要素. ことも論理的に必然である.さらに地域がオン. のバランス,総合性が重要な存在である.第 3. リー・ワンの存在であることは,地域内在型の. に,5 つの要素は地域ごとに多様であり,地域. 研究が必要であることを示唆している.多様な. の人々が何を大事にして生きて行くか,その生. アクターを捉えながら,中央―地方関係さらに. き方,生活の仕方を通じて,複合の仕方も地域. グローバル化をも視野に入れた分析が求められ. ごとに独自であるので,地域は個性を育み,地. ているという点に関しても,研究者間でのコン. 域独自の魅力を形成する存在である.第 4 に,. センサスになっているといってよい. 」 (10 ペー. 地域は住民の意思と行動によって運営される住. ジ). 民の自治共同体である.地域の規模は住民の共.  次に,地域の視点を基礎に地域経済の定義を. 同利害と帰属意識,参加,自発的エネルギーの. 行うことになるが,その前に,後者の説得力を. 発揮を基礎に住民自治の尊重から決めることが. 高めるために,両者の定義を媒介する準備的検. 重要である.第 5 に,地域は限られた空間であ. 討を行っている.紙数の制約から項目だけを挙. るので,他の地域との交流と連帯を必至とする. げると,学界における通説的な地域経済の定義. 開かれた存在である.多様な地域間の交流と連. ( 自給性を基準とする自立的な経済圏 )に対する. 帯は,経済社会の発展の基礎であるが,同時に,. 筆者の批判(地域経済は,自給性を失っても,特. 支配従属の関係をつくるので,その前提として,. 定産業部門の中心地域同士の相互依存関係の中に. 地域の自立が重要になる.第 6 に,地域は,広. 自立の条件を獲得する.半専門化・半自給化の産. 域地域の一部であり,広域は国土,国土は国際. 業構造と動態的な発展の構造形成が,市場経済の. 的地域,国際的地域は世界の構成部分であり,. ,地域経 もとでの地域経済の自立の条件である ). 重層的空間システムを通じて,地域は全国や世. 済の振興方策をめぐる問題( 通説における静態. 界とつながっている.第 7 に,地域は直接世界. 的な地域経済の多角化論に対し,専門化から多角. とつながる世界的存在である.地域の中に世界. 化への動態的発展戦略論の提示,移出型産業と地.

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