第10回群馬 Clinical Oncology Research 勉強会
日 時:2004年 5月 14日 (金) 場 所:群馬大学刀城会館 当番世話人:峯岸 敬(群馬大院・医・生殖再生 化学)一般講演>
1.Differential Display法を用いた卵巣漿液性腺癌と卵 巣明細胞癌における遺伝子発現の差異についての検討 斎藤 智子,鹿沼 達哉,田村 友宏 峯岸 敬 (群馬大院・医・生殖再生 化学) 【目 的】 卵巣癌においてその組織型は多彩であり, 各 組織型により薬剤感受性・リンパ節転移傾向・播種様式 など, その臨床的悪性度は異なる. 中でも臨床的に頻度 の高い漿液性腺癌と明細胞癌においては, 化学療法抵抗 性, リンパ節転移率においてその性格を異にしている. こうした臨床的特徴の差異を遺伝子発現の観点から検討 する目的で differential display法を用い解析を行った. 【方 法】 患者の同意のもとに漿液性腺癌, 明細胞癌 各々3例の凍結検体より mRNA を抽出し, differential display法により, 発現に差を認めた. fragmentをサブク ローニングし, さらに両組織型 4例ずつの凍結検体にお いて real-time PCR 法,northern blot法を施行,その差異 を 検 討 し た. 【成 績】 differential display法 に よ り, 差異を認めた遺伝子 20個 (既知遺伝子 5個, 未知遺伝子 15個)の中で,real-time PCR 法においても遺伝子発現に 差を認めた遺伝子は 3個 (既知遺伝子 2個 (Sperm Pro-tein 17 (SP17), Neuron Specific Enolase (NSE)), 未知遺 伝子 1個) であった. 【結 論】 細胞の接着, 移動に関 与するとの報告のある SP17が明細胞癌優位に認められ たことは, 明細胞癌の臨床的特徴と何らかの関係を示唆 すると えられ, 特に早期からのリンパ節転移との関わ りについて なる研究を要すと思われた. また NSE と 上皮性悪性卵巣腫瘍との関連性の検討や未知遺伝子の同 定についても今後の課題としたい. 2.重粒子線治療の臨床的有用性に関する放射線生物学 的検討 長谷川正俊,遊佐 顕,鈴木 義行 加藤 弘之,桜井 英幸,秋元 哲夫 中山 優子,中野 隆 (群馬大院・医・腫瘍放射線学) 野島久美恵,大野 達也 (放射線医学 合研究所) 【目 的】 重粒子線の特長は, X 線に比して空間的線量 布が良好なだけでなく生物効果比 (Relative Biological Effectiveness; RBE) が高いことである. 物理学的に同じ 線量でも重粒子線の生物効果は X 線の 2∼ 3倍とされ ているが, 組織型や評価法によって異なるので, 腫瘍と 正常組織を比較してその臨床的有用性を検討した. 【方 法】 ヌードマウスに移植した p53野生型の放射線感受 性 腫 瘍, p53変 異 型 の 放 射 線 抵 抗 性 腫 瘍, マ ウ ス (C57BL/6) 全身臓器に, X 線, 炭素線 (290 MeV/u, 50 -100 keV) の照射を行い, 経時的に摘出して, TUNEL, H.E. 染色でアポトーシスを検索した. 【結 果】 アポ トーシスの頻度は X 線に比して重粒子線の方が高く, 特 に p53変異型腫瘍では p53非依存性アポトーシスの増 加で RBE が大きくなる傾向を認めたが, p53野生型の腫 瘍や正常組織では, X 線同様重粒子線でも p53依存性ア ポトーシスが主体で, 特に高感受性正常組織の RBE は 相対的に低かった. 【結 語】 RBE の比較から, 放射 線抵抗性腫瘍, 特に p53変異型腫瘍における臨床的有用 性が示唆された. 3.ヒト膵臓癌細胞の腹膜転移と相関した生物学的性質 と遺伝子発現の変化 中野 哲宏,大和田 進,山田 敬之 山田 達也,竹吉 泉,川手 進 岩波弘太郎,浜田 邦弘,吉成 大介 森下 靖雄 (群馬大院・医・臓器病態外科学) 【研究の背景と目的】 膵臓癌の治療成績は不良であり, その原因は, 局所浸潤, 肝転移及び腹膜播種の制御が困 77 Kitakanto Med J 2007;57:77∼78難なためである. 近年, 子生物学の発展により各種腫 瘍の転移のメカニズム及び転移に関与する 子が同定さ れつつあるが, 膵臓癌では, これらの 子の解明は十 ではなく, 確実な治療法は確立していない. そこで, 膵臓 癌の転移, 浸潤に関与する 子を同定し, 新たな治療戦 略を確立することを目的とした. 【方法と結果】 教室 で樹立したヒト膵臓癌細胞株 YAPC と, YAPC から単 離した高腹膜転移株 YAPC-PD を用いた.ヌードマウス の腹腔内に注入すると, YAPC-PD は, YAPC に比して, 早期に腹水が貯留し始め, 平 35日で死亡し, 生存期間 に有意な差を認めた. YAPC-PD と YAPC の間に, in vitro の増殖速度, 接着能, 運動能及び浸潤能の差がな かったのに対して, ヌードマウス皮下腫瘍での腫瘍増殖 速度は, YAPC-PD が YAPC に比して有意に速かった. cDNA マイクロアレイ法で YAPC-PD と YAPC におけ る 14,000遺伝子の発現を解析した. その結果, 33種類の 遺伝子が,2.5倍以上の発現変動を示した.YAPC-PD で, CD44,S100 protein familyの 子などの発現が増加して いた. 一方, NK4, CD74などの免疫系に関与する 子の 発現が低下していた. 【 察と今後の展開】 以上の結 果から, YAPC-PD と YAPC と間では, 増殖能, 免疫原 性, 癌細胞と周囲の環境との関係を制御する 子などの 発現に変化があり, 腹膜転移能が変化していることが予 想される. cDNA マイクロアレイ法で発現に差がある遺 伝子について, real-time RT-PCR 法, 免疫組織化学染色 法を用いて, ヒト膵臓癌細胞株および臨床検体での発現 を解析している. さらに機能解析を加え, 新たな標的 子を用いた治療法の開発を目指す. 4.大腸癌における14-3-3sigmaの発現について 井出 宗則,坪井香保里,山口 悟 堤 荘一,浅尾 高行,桑野 博行 (群馬大院・医・病態 合外科学) 中島 孝 (群馬大院・医・応用腫瘍病理学) 【目 的】 我々は癌抑制遺伝子のひとつで, 乳癌, 胃癌, 肝癌などでメチル化により発現が抑制されている 14-3 -3sigma遺 伝 子 に 注 目 し た. 今 回, 大 腸 癌 で の 14-3 -3sigma遺伝子のメチル化の状態と免疫染色による発現 を検討した. 【方 法】 大腸癌症例の凍結切片とパラ フィン包埋切片と大腸癌細胞株を用いた. メチル化の解 析には主に Bisulfite genomic sequencing 法を用いた. 免 疫染色では 14-3-3sigma以外に細胞周期関連蛋白として p53, cyclin B1, Ki-67の発現を検討した. 【結 果】 大 腸癌細胞株, 症例ともメチル化の程度は低かった. 免疫 染色では 40%程度の症例が陽性所見を示し, 主に腫瘍浸 潤部に発現していた. 14-3-3sigma蛋白の発現と遺伝子 のメチル化の程度には関連が見られなかった. Ki-67, cyclin B1の labeling indexからみた腫瘍表層と浸潤部の 増殖活性の変化と 14-3-3sigma蛋白の発現には相関が見 られたが, p53の発現は関連を認めなかった. 【結 論】 大腸癌において 14-3-3sigmaは腫瘍浸潤部に発現し, 遺 伝子の methylationによる発現抑制はされていない.
特別講演>
司会:高岸 憲二(群馬大院・医・機能運動外科学) 発癌機構における Ras 蛋白の役割の解明と治療法の開 発 加藤 聖子(九州大生体防御医学研究所 ゲノム 薬・治療学 野講師) Ras蛋白は 子量 21kD の GTP結合蛋白で, 細胞外シ グナルを細胞内に伝えるシグナルスイッチの役割を果た している.Rasを介するシグナル伝達系は細胞の増殖・ 化・アポトーシス・細胞老化などに作用している.多くの ヒト癌においても ras遺伝子の点突然変異が報告されて おり, 癌化においても重要な役割を果たしていると え られている. 我々は NIH3T3細胞を用いて, 活性化型 K-Rasによる造腫瘍能獲得機構に ER の機能亢進が重要 であること, この ER 機能を dominant negative ER を用 いて抑制すると, MDM2の発現抑制, p53の機能亢進を 介した p21蛋白レベル増加がみられ細胞老化が誘導さ れることを報告した. 以上より Rasによる癌化には Ras/ER/MDM2/p53の経路が作用することが示された. 現在この経路を阻害することによる 子標的治療の開発 を行っている. また, ラットの子宮内膜細胞株を用いて, K-Rasはアポトーシスを誘導し, H-Rasは抑制するこ と, K-Rasの下流の Raf/MEK/MAPK の経路が K-Ras によるアポトーシス誘導に重要であることを報告し, ア ポトーシス誘導における Ras isoformの機能の違いを明 らかにした. 最近, 多くの組織で組織幹細胞の存在が報 告されている. 我々は正常ヒト子宮内膜を採取し, Hoe-chst33342の取り込みの少ない 画 (SP細胞) を FACS で 取する方法を用いて子宮内膜幹細胞の 離を試み, 子宮内膜の SP細胞から子宮内膜様組織を in vitroで再 生した.同様の方法を癌細胞にも試み cancer stem cellの 存在を検討中である.第10回群馬 Clinical Oncology Research 勉強会 78