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聞こえない人のアイデンティティ

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(1)

聞 こ え な い 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ

要 旨  「聞 こ え ない 」 状 態 を医 学 的 障害 として み る場 合 は、 「聞 こ えな い 人 、 聞 こ え に くい 人 、 聾者 、 聴 覚 障 害 者 、 難 聴 者 、 補 聴 器 装 用 者 、 人 工 内 耳 装 用 者 」 な どの 言葉 で 表 され る 。 そ して、 「手 話 を使 う人 」 の み が 聞 こ え な い こ と を医 学 的 障 害 と して捉 え るの で は な く、 手 話 を使 う、 聞 こ え な い こ と を社 会 文 化 的 な違 い と して 捉 え る言 葉 で あ る。 次 に 口 話 法優 先 教 育 か 手 話 法優 先 教 育 か の どち らを 受 け た か に よ っ て、 「聞 こ え ない 人 」 は グ ルー プ分 け で きる。 そ して、 これ らの グ ル ー プ分 け は、 社 会 で の立 場 、 す な わ ち、 ア イ デ ンテ ィ テ ィ につ い て の グ ルー プ分 け に つ な が る。 「聞 こ え ない 人 」 は、 異 な る 「社 会 で の 立 場 」 に よっ て 分 か れ る。 障 害 者 と して 自助 努 力 を 強 い る 同化 主義 的社 会、 と公 的支 援 を得 られ る手 話 言 語 を もった 社 会 で は ア イデ ン テ ィ テ ィが 変 化 す る 。 人 工 内 耳 、 補 聴 器 、 口 話 法 訓 練 な ど 自助 努 力 を して 「聞 こえ る 人 」 の 社 会 で生 きる か、 手 話 通 訳 支 援 を提 供 さ れ、 手 話 通 訳 者 の 養 成 や 手 話 を公 用 語 に し よ う とす る法 律 な どの 公 助 努 力 が 進 め られ て い る社 会 に生 きる か に よ っ て ア イデ ンテ ィテ ィ は異 なる。 本 稿 で は異 な る 「聞 こ え ない 人 」 の ア イ デ ンテ ィテ ィが あ る こ とを検 証す る こ と にす る 。 キ ー ワ ー ド:聾 者  ろ う者  口話 法  手 話 法  ア イデ ンテ ィテ ィ は じ め に  「聞 こ え な い 人 」 と は 聞 こ え な い 人 、 聞 こ え に くい 人 、 聾 者 、 聴 覚 障 害 者 、 難 聴 者 、 補 聴 器 装 用 者 、 人 工 内 耳 装 用 者 、 手 話 を 使 う 人 、 な ど 、 「聞 こ え る 人 」 に 対 す る 「聞 こ え な い 人 」 を 表 す 言 葉 は い ろ い ろ あ る 。 こ れ ら は ど の よ う に使 い 分 け る か を 考 え て み る 。 一 つ 目 の 使 い 分 け は、 医 学 的 障 害 と社 会 文 化 的 違 い の ど ち ら で 「聞 こ え な い 」 状 態 を 分 け る か に よ る 使 い 分 け で あ る 。 聞 こ え な い こ と を 医 学 的 障 害 と し て み る 場 合 は 「聞 こ え な い 人 、 聞 こ え に く 帆 人 、 聾 者 、 聴 覚 障 害 者 、 難 聴 者 、 補 聴 器 装 用 者 、 人 工 内 耳 装 用 者 」 な ど の 言 葉 で 表 さ れ る 。 そ し て 、 「手 話 を使 う 人 」 の み が 聞 こ え な い こ と を 医 学 的 障 害 と し て 捉 え る の で は な く、 手 話 を 使 う と い う社 会 文 化 的 な 違 い が あ る と し て 捉 え る 言 葉 で あ る 。 ま た 、 聾 者 は 難 聴 者 よ り ほ と ん ど 聞 こ え な い 人 を 表 す。 聞 こ え の 程 度 に よ る 医 学 的 使 い 分 け が

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され る場 合 もあ り、 一 般 的 に は聾 者 と は100デ

シ ベ ル(dB)以

上 の 人 を表 し、 難 聴 者 は そ れ 以

下 の 人 を表 す 。 そ して 、 両 者 を ま とめ て 聴 覚 障 害 者 と呼 ぶ 。 さ らに、 聞 こえ を補 償 す る もの を身

に つ け て い る 人 が補 聴 器 装 用 者 で あ り、 人 工 内 耳 装 用 者 で あ る 。

英 語 で は 医学 的 障 害 と して捉 え る場 合 はdeafと 表 し、 手 話 を使 う人 を、 障 害 で は な く社 会 文

化 的 な違 い と して捉 え る場 合 はDeafと

表 して い る。Deafとdeafの

定 義 はJamesWoodwardに

よっ て1972年

に な され 、 ア メリカ ・カ ナ ダ に広 ま っ た(Padden,1988,2)。

日本 で は 、deafを

聾 者 」 と表 し、Deafを

「ろ う者 」 とろ う者 団体 は 表 して い る。

二 つ 目に 、 受 け る教 育 に よっ て も分 け られ る 。 口 話 法優 先教 育 を受 け た 人 と手 話 法優 先教 育 を

受 け た 人 で分 か れ る 。 言 い換 え る と、

一 般 ク ラ ス で の教 育 と聾 学 校 な どで の教 育 に も分 け られ る。

そ して 、 これ らの グ ル ー プ 分 け は 、社 会 で の 立場 、 す な わ ち 、 ア イ デ ンテ ィテ ィに つ い て の グ

ル ー プ 分 け につ なが る 。 「聞 こえ な い 人 」 は、 異 な る 「

社 会 で の 立 場 」 に よっ て 分 か れ る。 障 害

者 と して 自助 努 力 を 強 い る 同化 主 義 的社 会 、 と公 的 支援二

を得 られ る社 会 で は ア イ デ ンテ ィテ ィが

変 化 す る。 人工 内耳 、補 聴 器 、口話 法 訓 練 な ど自助 努 力 を して 「聞 こ え る人 」 の社 会 で 生 き るか 、

手 話 通 訳 支 援 を提 供 さ れ 、 手話 通 訳 者 の養 成 や 手話 を公 用 語 に し よ う とす る法 律 な どの公 助 努 力

が進 め られ て い る社 会 に生 きる か に よっ て ア イ デ ンテ ィテ ィは異 な る。 本 稿 で は異 な る 「聞 こえ

な い人 」 の ア イ デ ンテ ィ テ ィが あ る こ とを検 証 す る こ とにす る。

1.1医

学 的 障 害者

ア メ リカ の ギ ャ ロ デ ツ ト大 学GallaudetUniversityと

は 手 話 で授 業 を受 け る こ とが で き る大

学 で あ る。1864年

に トー マ ス の 息 子 エ ドワ ー ド(Gallaudet,EdwardMiner)がWashington

D.C.に 開 校 した 。1988年 に は学 生 達 は学 長 に ろ う者 の ジ ョー ダ ン(Jordan,I.King)を

就 任 さ

せ た。 ろ う者 自身 が 声 を 上 げ 、 ろ う者 を 学 長 に し た(Carbin,1996)。

その ギ ャ ロ デ ッ ト大 学 研

究 所 の1999年

か ら2000年

に か け て の調 査(ギ

ャ ロ デ ッ ト,2001)に

よ る と、 ア メ リカ全 土 に は

4万4千

人(90%が17歳

以 下)の 聴 覚 障 害 を持 つ 子 供 や若 者 が い る。 白人 系 聴 覚 障 害 者 は、 全

土 平 均 は55%で

、 北 東 部 に57%中

西 部72%南

部49%西

部43%と

、 主 に北 東 部 や 中西 部 に多 い 。

ま た、 黒 人 系(African-American)は

南 部 に26%で

全 土 平 均 の16%よ

り多 く、 ヒ スパ ニ ッ ク系

は西 部 で37%と

平 均 の20%よ

り多 い 。 原 因 は遺 伝20%、

原 因不 明51%と

い う調 査 結 果 に な っ て

い る。 ま た、 聞 こ え の程 度 につ い て は90デ シ ベ ル 以 上 が33%と

一 番 多 く、 聴 覚 障 害 の 程 度 と し

て は重 い 人 が 多 い 。 そ して 、 彼 らの 両 親 は84%が

聞 こ え る親 た ち で あ る。

聞 こ え ない 障 害 に は、 先 天 的 に聴 覚 障 害 を持 って 生 まれ た 人 と、 中 途 失 聴者 が い る。 中 途 失 聴

は、 人生 の 途 中 で の 病 気 や 事 故 以 外 に、 最 近 で はヘ ッ ドホー ンで の 中 途 失 聴 が 若 い 人 に も増 えて

い る。 先 天性 と中 途 失 聴 で は、 同 じ聞 こ え ない こ と に対 処 す る考 え方 ・手段 ・生 き方 が 異 な って

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くる。 そ れが 補 聴 器 や 人 工 内耳 、 手 話 、 ア イ デ ンテ ィ テ ィ につ なが る。

生 ま れつ き聴 覚 障 害 を持 っ て生 ま れ た子 ど もや 、 幼 い 頃 に高 熱 な どで 聴 覚 障 害 を持 った 子 ど も

の親 は ほ とん どが(約90%)聞

こ え る人 で あ る。 そ の ため 、聞 こ え な い こ とは 医学 的 障害 と考 え、

障 害 を克 服 す る た め の手 段 と して補 聴 器 や 、最 近 で は 人工 内耳 を採 用 す る。 補 聴 器 の歴 史 は長 く、

最 近 で は デ ジ タル 補 聴 器 が さ ら に聴 力 回 復 に有 効 で あ る。 補 聴 器 装 用 者 数 は上 記 の ギ ャ ロ デ ッ

ト大 学 研 究 所 の 調 査 結 果 で は4万4千

人 の60%以

上 に な っ て い る。 ま た、 人 工 内 耳 装 用 者 数 は

90%に

な って い る。 なお 、 人 工 内 耳 装 用 者 は片 耳 に補 聴 器 を装 用 して い る 人 も多 い の で この よ う

な数 字 に な る と考 え られ る。

日本 で は、 厚 生 労 働 省 「

身 体 障 害 児 ・

者 実 態 調 査 」(平 成13年 度)に

よ る と、 「

聴 覚 ・

言 語 障 害 」

者 数 、 約35万

人 中 、 「

補 聴 器 や 人 工 内 耳 な どの補 聴 器 機 を コ ミュ ニ ケ ー シ ョン手 段 と して い る」

聴 覚 障 害 者 が79%に

な っ て い る。 な お、 「

手 話 ・手 話 通 訳 を コ ミ ュニ ケ ー シ ョン手段 と して い る」

聴 覚 障 害 者 は15%で

あ る。 日本 で も人 工 内 耳 装用 手術 に つ い て は、

低 年 齢化 が 急 激 に起 きて い る。

以 前 は300万

円 とか500万

円 とか 言 わ れ た手 術 が1994年

に保 険 適用 と な っ た こ と も影 響 して 障

害者 手 帳 を持 っ て い る聴 覚 障害 者 の場 合 は5∼6万

円 で済 む よ う に な っ た。 そ の た め、 多 くの幼

い子 ど も達 が装 用 す る よ うに な っ て きて い る。

最 近 で は生 ま れ てす ぐに脳 波 に よ る聴 力 検 査(新 生 児 ス ク リ ー ニ ン グ)で 聴 覚 障 害 が 判 明 す る

た め 、 日本 耳 鼻 咽 喉科 学 会 の小 児 人 工 内 耳 適 応 基 準(2006年)で

は、 両 耳 の 平 均 聴 力 レベ ル が

90dB以

上 で 、 手 術 適 応 年 齢 は1歳6ヶ

月 以 上 と な り、 ます ます 低 年 齢 化 が 進 ん で い る。 早 期 発

見 で早 期 手術 が 進 ん で い くこ とが 予 想 さ れ る。 「

人 工 内 耳 友 の 会 」HP.に

よれ ば、2006年 度 末 で

人 工 内耳 装 用 者 は4150人

を超 え た(人 工 内耳 友 の会,2006)。

しか し、 注 意 す べ き点 は補 聴 器 も人 工 内 耳 も、 眼 鏡 の よ う に装用 す れ ば健 聴 者 にな れ る とい う

もの で は ない 。 高 度 難 聴100dBが

中度 難 聴40dBほ

ど に な る とい う こ とで あ る。 問題 は 医学 的 障

害 者 、 聴 覚 障 害 者 が 現代 の 医 学 や科 学 で 健 聴 者 に なれ るわ け で は な い とい う知 識 を与 え られず に

補 聴 器 や 人 工 内 耳 で聴 覚 障 害 は病 気 同様 に治 る と考 え る こ とで あ る。 科 学 は万 能 で は な く、 人 間

の心 の 問題 も解 決 す る もの で は な い こ とに注 意 しな け れ ば な らな い。 冷 た い世 界 に思 え る 聞 こ え

る 人 の社 会 で、 ひ と り努 力 を し続 け な け れ ば な らな い とい う精 神 的苦 しみ を持 つ 人 も多 い。

この よ う に、 聞 こ え な い こ と を医 学 的 障 害 とほ とん どの 親 は考 え、 早 くか ら子 ど もに 「

聾 者 、

聴 覚 障害 者 、 難 聴 者 、 補 聴 器 装 用 者 、 人 工 内耳 装 用 者 」 な どの 呼 び名 が 与 え られ る。 日本 で は障

害 者 手 帳 は70dB以

上 の聴 覚 障 害者 に与 え られ 、 補 聴 器 購 入 や 人 工 内耳 装 用 手術 の補 助 金 が 出 る

が 、 そ れ 以 下 の 中 度 難 聴 者 、 軽 度 難 聴 者 は 手 帳 が な い の で 、 何 の補 助 もな く、 補 聴 器 やFAX、

テ レビの 字 幕 表 示 機 器 な どを購 入 しな けれ ば な らない 。 この よ うな 健 聴 者 の社 会 の 「

聴 覚 障 害 者 」

に も さ ま ざ ま な差 異 が 見 られ る。

経 済 的差 異 に よ っ て、補聴 器 装用 者 、

人 工 内 耳 装 用 者 も生 まれ る。

補 聴 器 も手 帳 を持 って い な い 人 に は 高 価 な も の で、 両 耳 装 用 で 私 の 娘(中 度 難 聴)で

も25万 円

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は す る 。 そ し て 耐 久 年 数 は5年 程 度 で あ る 。 、 ア メ リ 力 で は 人 工 内 耳 装 用 者 は ギ ャ ロ デ ツ ト大 学 研 究 所 調 査 結 果 で は 、 北 東 部94%、 中 西 部 90%、 西 部92%、 そ し て 南 部 が87%で 一 番 装 用 者 が 少 な い 。 南 部 で は 北 東 部 よ り貧 し い こ と が 影 響 し て い る と考 え ら れ る 。 マ イ ケ ル ・コ ロ ス ト氏 も 「人 工 内 耳 装 用 者 数 は 人 種 に 関 係 す る 」 と 書 い て い る 。 1999年 にギャロデ ッ ト大学が人工内耳 を装用 してい る子 どものいる家庭439世 帯 につい て調べ た ところ、アフ リカ 系 アメ リカ人の家庭 は全体 の4%に す ぎないこ とが分かった。アフ リカ系 はアメ リカの全 人口の12%を 占めているので、 明 らかにこの数値は低す ぎる。同 じ く全人 口の12%を 占める ヒスパニ ック系 の家庭 も、全体 のわずか、6%だ った。 こ の調 査結果 を見 て、 マイノ リテ ィの子 どもの方が聴覚 障害者の割合が低 いのではないか と考 える人がいるか もしれな いが、実態 は逆 である。む しろ彼 らの方が聴覚 障害の発生率 は高い。 ギ ャロデ ッ ト大学 が聴覚障害 をもつ学生42,361 人について行 った調査に よれ ば、全体 の16%が アフ リカ系、23%が ヒスパニ ック系 だった。そ の理 由ははっ きりして いる。栄養状態 が悪 く、ま ともな医療サー ビスを受ける ことがで きず、妊娠 中の母胎管理 も不 十分なせいだ。 この調 査結果か らは、 きちん とした医療 を受 け られない家庭 の方が手厚 い医療 サー ビス を必要 とす る子 どもをた くさん抱 え ている とい う厳 しい現実が垣間見える。 あ る調査で、人工内耳手術 を受 けた高度難聴児816人 と、手術 を受 けていない高度難聴 児816人 を比較 した ところ、 手術 を受けたグループでは、アフ リカ系 とヒスパ ニ ック系 の割合 は、それぞれ5%と8%に す ぎなか った。それ に対 して、 手術 を受 けていないグルー プで は、 アフリカ系 とヒスパニ ック系の割合が それぞれ16%と21%に 達 した。 白人 の子 ど もに比べ て、 人工内耳手術 を受 けるマイノ リテ ィの子 どもが これほ ど少 ないの はなぜ だろ うか。残念 なことにアメ リ カで は、 アフ リカ系や ヒスパ ニ ック系=貧 しい とい う等式 が しば しば成立す る。 そ して、経済的 に貧 しければ、 人工 内耳手術 に限 らず、 どの ような種類の医療サー ビスで も受けるのが難 しくな る。(コロス ト,2006:204-206) 聴 覚 障 害 者 が 経 済 的 理 由 で 、 聞 こ え る 人 の 社 会 で 成 功 し た 障 害 者 と成 功 で き な か っ た 落 ち こ ぼ れ の 障 害 者 に な る 可 能 性 が あ る 。 補 聴 器 や 人 工 内 耳 に よ っ て 、 聞 こ え る 人 に 一 歩 で も 近 づ く こ と で 成 功 者 に な り う る し 、ま た 、補 聴 器 や 人 工 内 耳 を 装 用 で き な い こ と で 落 ち こ ぼ れ に な っ て い く 。 聞 こ え る 人 の 社 会 で 自 立 し た 生 活 を す る 可 能 性 が 減 る 。

ア メ リ カ で は 「障 害 を も つ ア メ リカ 人 法 」(The  Americans  with Disabilities Act,1990年)は 、 障 害 者 が 障 害 を 理 由 と し た 雇 用 差 別 を 受 け る こ と を 禁 止 し て 、 障 害 者 が 働 い て 自 立 で き る こ と を 目 指 した 。 こ の 法 律 は 反 面 、 障 害 者 が 働 い て 収 入 を 得 る こ と に よ っ て 、 支 援 費 用 と な る 福 祉 予 算 を 減 らす た め の 政 策 と の 見 方 も あ る 。 「費 用 対 効 果 の 見 地 か ら、 障 害 者 に 支 払 う 社 会 福 祉 費 用 よ り も差 別 禁 止 政 策 に 要 す る 経 費 の ほ う が 国 家 の 長 期 的 利 益 に か な う 。 な ぜ な ら、 差 別 禁 止 に よ り 障 害 者 が 自 立 し、 社 会 参 加 して 労 働 市 場 に 登 場 す れ ば 、 税 金 を 支 払 う こ と に な る か ら で あ る 」 と リチ ャ ー ド ・K・ ス コ ッチ は 述 べ て い る(ス コ ッ チ,2000:222)。 日本 で も 「障 害 者 自立 支 援 法 」 (平 成18年)や 「改 正 障 害 者 雇 用 促 進 法 」(平 成18年)が 、 障 害 者 の 就 労 支 援 を 強 化 して 障 害 者 の 自立 を 促 進 し よ う と し て い る と考 え ら れ る 。 人 工 内 耳 装 用 に は 費 用 が か か る 。 マ イ ケ ル ・コ ロ ス ト氏 は 「2001年7月 に 完 全 失 聴 し て か ら の3年 間 で 自 己 負 担 し た 医 療 費 の 総 額 は 数 千 ドル に の ぼ る 」(コ ロ ス ト,2006:206)と 書 い て い る 。 手 術 後 も機 器 の 損 傷 に 備 え て の 保 険 や マ ッ ピ ン グ(音 入 れ 、 人 工 内 耳 の 電 極 に そ の 人 に 合 っ た 電 流 量 を調 べ て 決 定 し て い く作 業)の 費 用 な ど も か か る 。 そ し て 、 人 工 内 耳 を使 っ て い く た め に は

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本 人 の 努 力 が 必 要 と な る 。 「人 間 の 能 力 は 訓 練 し だ い で 伸 び る が 、 テ ク ノ ロ ジ ー だ け で 人 間 の 能 力 を 高 め る こ と は で き な い 」(コ ロ ス ト,2006:270)か ら で あ る 。 そ の 個 人 的 努 力 次 第 で 、 聞 こ え る 人 の 社 会 で 成 功 し た 障 害 者 に な る こ とが で き る 。 個 人 と し て は 大 変 過 酷 な 時 期 を 乗 り越 え な け れ ば な ら な い 。 つ ま り 「障 害 を 乗 り越 え る 」 こ と が 要 求 さ れ る 社 会 で 生 き な け れ ば な ら な い 。 さ ら に 、 マ イ ケ ル ・コ ロ ス ト氏 は 「聞 こ え 方 が 気 に 入 ら な い と言 っ て 不 満 を 持 つ の で は な く、 聞 こ え て く る 音 に 心 を 開 く必 要 が あ っ た 。 そ れ を し な い と 聴 力 の 面 で も感 情 面 で も 自 分 の 成 長 は あ り得 な い 。 ぼ く は 、 世 の 中 の 音 が 全 て 完 全 に 聞 こ え る よ う に な る こ と を 望 ん で い た が 、 そ れ は 無 理 だ と 気 づ き つ つ あ っ た 。 重 要 な の は 、 本 物 に 近 い 音 が 聞 こ え る よ う に して くれ る あ りが た い 道 具 と し て 、 人 工 内 耳 シ ス テ ム を 使 い こ な せ る よ う に な る こ と だ 」(コ ロ ス ト,2006:126-127)と 人 工 内 耳 に よ っ て 健 聴 者 に は な れ な い こ と を 理 解 し た 上 で 、 で き る だ け 聞 こ え る 人 に 近 づ く 努 力 を す る 意 欲 を 表 し て い る 。 1.2社 会 文 化 的 違 い を も つ 人 一 方 、 補 聴 器 や 人 工 内耳 を使 わず 、 手 話 を 自分 の言 語 と して、 人 間が 生 きて い く中 で言 語 につ い て 障 害 が な け れ ば 、 つ ま り、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン障 害 が な け れ ば 、 聞 こ え る 人 の 社 会 で も 、 日 本 語 を 話 す 人 と 同 様 に 、 手 話 言 語 を 話 す 人 と し て 生 き て い け る 。 そ の よ う な 手 話 を 言 語 と して 持 つ 少 数 派 と し て 、ろ う者Deafと し て 、「ろ う 文 化(Deaf  culture)」 を持 つ 聞 こ え な い 人 た ち が い る 。

実 際 、 ア メ リカ の マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 南 東 部 の マ ー サ ズ ・ヴ ィ ン ヤ ー ド(Martha'sVineyard) 島 に は 遺 伝 性 の 聴 覚 障 害 者 が 多 く暮 ら し 、 彼 ら は 手 話 で 生 活 し て い た 。 そ の 生 活 は1690年 か ら 250年 間 続 い た 。 マ ー サ ズ ・ヴ ィ ン ヤ ー ド島 で は 、 ク レ ー ル(LouisLaurentMarieClerc)が ア メ リ カ に 伝 え た フ ラ ン ス 式 の 手 話 と、 す で に ア メ リ カ に 存 在 し て い た い くつ か の 土 着 手 話 と が 混 合 し た 手 話 が 作 ら れ た 。 そ れ はASL(AmericanSignLanguage)と 呼 ば れ る 手 話 に な っ た(グ ロ ー ス,1991)。1692年 、 マ ー サ ズ ・ヴ ィ ン ヤ ー ド島 に は イ ギ リ ス か ら の 移 民 で あ る 、deafで あ るJonathanLambert(1657-1738)が 妻 と共 に 住 み 始 め 、7人 の 子 供 を も う け た 。 そ の う ち2人 がdeafで あ っ た 。 そ の 他 に もdeaffamilyが 住 み 始 め 、手 話 が コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 と な っ た 。 ま た 、 聞 こ え る 人 は 島 で は 手 話 と 英 語 を 使 う バ イ リ ン ガ ル と な っ た(Carbin,1996:320)。 手 話 は 地 域 に よ っ て 異 な る 。 世 界 共 通 の 手 話 が あ る わ け で は な い 。カ ナ ダ で は 主 に2つ の 手 話 が 使 わ れ て い る 。ASLと 主 に ケ ベ ッ ク で 使 わ れ て い るLSQ(LanguedesSignesQuebeque)が あ る 。 日 本 で も 日本 手 話 と 呼 ば れ る ろ う者 の 手 話 言 語 が あ る 。 し か し 、 注 意 し な け れ ば な ら な い の は 、 日本 で も他 の 国 で も、 そ の 国 の 言 語 に 対 応 す る 、 聴 者 が 作 っ た 手 話 が あ る 。 そ れ は 日本 語 対 応 手 話 、 英 語 対 応 手 話 と 呼 ば れ て い る 。 日 本 手 話 と 日 本 語 対 応 手 話 に は 違 い が あ る 。ASLは 英 語 に 対 応 し た 手 話 で は な い の で 、 ろ う 者 独 自 の 第 一 言 語 と さ れ る 。 そ の ろ う者 の 言 語 が ろ う 文

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化 を生 み 出 す 。

手 話 を 使 っ て ろ う 文 化 を 持 っ て 生 き よ う とす る 人 々 が い る 。 そ し て 、 支 援 団 体 が あ る 。 カ ナ ダ に は ろ う 者 の た め の 団 体 が25団 体 ほ ど あ る(表1)。 カ ナ ダ の ろ う 者 団 体 の 中 で 、 特 に カ ナ ダ ろ う 文 化 団 体(CanadianCulturalSocietyoftheDeaf)は ろ う フ ェ ス テ ィ バ ル(Canadian DeafFestival)を 催 し た り、 手 話 に よ る 演 劇 、 手 話 文 学 、 手 話 辞 典 を 紹 介 し て い る 。 ま た ろ う 者 の ミ ス 力 ナ ダ(MissDeafCanada)選 考 も1973年 か ら1994年 ま で 行 わ れ て い た 。 ろ う 学 校 も豊 か な ろ う文 化 を 紹 介 し よ う と、 ろ う児 フ ェ ス テ ィ バ ル(DeafChildrenlsFestival)を 催 して い る 。 ま た 、 ろ う の 若 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ キ ャ ン プ(CanadianDeafYouthLeadershipCamp) が 毎 年 行 わ れ 、 ろ う 文 化 やASLを 学 び 、 リ ー ダ ー シ ッ プ を 身 に つ け る た め の 活 動 を し て い る (Carbin,1996)。 1990年 、 手 話 で 選 挙 演 説 を し て オ ン タ リ オ 州 議 会 議 員 の 座 を 獲 得 し た 、 ろ う 者 マ ル カ ウ ィ ス キ ー,(GaryLouisMalkowski,1958∼)は 、 人 工 内 耳 手 術 に 政 府 が 補 助 金 を 出 す こ と に 抗 議 し た(Roots,1999:68)。 彼 も 、 ろ う 者 社 会 、 ろ う 文 化 を 守 る こ と が 、 ろ う 者 に と っ て 大 切 で あ る と考 え て い る 一 人 で あ る。 医 学 で 自 分 を 変 え る こ とで 、 聞 こ え る 人 の 社 会 に は い る の で は な く、 手 話 と い う言 語 を 使 っ て 、 聞 こ え る 人 の 社 会 で 生 き よ う とす る 考 え 方 だ っ た 。 1995年 世 界 ろ う者 会 議 は 「ろ う 児 に 人 工 内 耳 手 術 を 勧 め な い 。 な ぜ な ら 人 工 内 耳 は ろ う 児 の 言 語 獲 得 に 役 に 立 た ず 、 情 緒 的 、 心 理 的 人 格 形 成 と 身 体 的 発 達 を 阻 害 す る か ら で あ る 。 反 対 に 、 手 話 の 中 で 育 つ 環 境 が 言 語 的 並 び に 他 の 発 達 を 含 む 全 面 的 発 達 を 支 え る 」 と 決 議 し た(WFD News,1995,12)。 す な わ ち 、 世 界 ろ う 者 会 議 で も 、 人 工 内 耳 よ り手 話 の 重 要 性 を 主 張 し て い る 。 一 方、 聞 こ え る 人 の 社 会 で 、 手 話 が 一 つ の 言 語 で あ る と認 め ら れ る に は 時 間 が か か る 。 手 話 は 音 声 言 語 で は な く、 文 字 が な い こ とか ら、 言 語 と し て 認 め る こ と は 難 しか っ た 。 しか し、 最 近 の 脳 神 経 学 の 発 達 に よ り、 ろ う者 の 手 話 が 脳 の 中 で 、 音 声 言 語 を 処 理 す る 部 分 と ほ ぼ 同 じ部 分 で 処

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理 さ れ て い る こ と が は っ き り し た こ と か ら、ろ う 者 の 手 話 は 言 語 と 呼 ぶ に ふ さ わ し い 構 造 を 持 ち 、 言 語 と し て 必 要 な 機 能 を 備 え て い る こ とが 分 か っ て き た(斉 藤,2003:7)。 そ し て 、 カ ナ ダ で は 、 手 話 を ろ う 者 の 第 一 言 語 と し て 認 め 、 手 話 を 使 っ た 教 育 を提 供 す る よ う に な っ た 。1989年5月12日NationalDeafEducationDayに ろ う者 た ち は オ ン タ リ オ 州 でASL とLSQで 教 育 す る こ と を 求 め た デ モ を 行 っ た 。1993年 、ASLとLSQを 教 室 で の 教 育 に お け る 公 用 語 とす る こ と が 条 例 に な り、オ ン タ リ オ 州 教 育 法 の 一 部 に な っ た(オ ン タ リ オ 州 教 育 法Bill4, theOntarioEducationAct)。1993年 ま で に マ ニ トバ 、ア ル バ ー タ の2州 が 同 様 の 決 定 を 出 した 。 す な わ ち 、 ろ う 者 か ら 生 ま れ た 、 ろ う 者 の 手 話 で あ る 「独 立 手 話 」(ASLやLSQ)が ろ う 者 の 第 一 言 語 で あ る と 認 め ら れ た(Carbin,1996:462-463)。 ま た 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ドで は 「ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド手 話 法 」(NewZealandSignLanguageAct) が2006年 に 施 行 さ れ た 。 手 話 が 第3の 公 用 語 に な っ た 。 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド手 話 が ニ ュ ー ジ ー ラ ン ドの 社 会 で 、言 語 と して 認 め られ 、ろ う者 が 手 話 を 使 っ て 生 活 で き る こ と を 示 す 。 な お 、「ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド手 話 法 」 に つ い て は 伊 藤(2004a)を 参 考 に して い た だ き た い 。 現 在 の ア メ リ カ や カ ナ ダ や イ ギ リ ス な ど で は 、 手 話 通 訳 者 が 十 分 い れ ば 、 ま た は 、 手 話 通 訳 の 機 器 が あ れ ば(イ ギ リ ス で は 、 テ レ ビ の 字 幕 の 代 わ り に 、CGに よ る 手 話 通 訳 者 が 画 面 に 出 る) 手 話 で 生 活 し て い く こ と が 可 能 で あ る 。 カ ナ ダ で は 手 話 通 訳 者 養 成 プ ロ グ ラ ム が1980年 代 に 大 学 で も始 ま っ た 。 オ ン タ リ オ 州 で は1982年 に 、そ の ほ か 、ア ル バ ー タ 州 、マ ニ トバ 州 、ブ リ テ ィ ッ シ ュ ・コ ロ ン ビ ア 州 、 ケ ベ ッ ク 州 な ど 州 で 、 合 わ せ て8大 学 で 始 ま っ た(伊 藤2004b,61)。 日本 で も1995年 、 ろ う者 、 市 田 泰 弘 ・木 村 晴 美(1995)の 論 文 「ろ う文 化 宣 言 ∼ 言 語 的 少 数 者 と して の ろ う 者 」 で 、 日 本 手 話 が 言 語 で あ る こ と を 主 張 し 、 ろ う 文 化 の 理 解 を 求 め た 。 日本 で も手 話 言 語 ・ろ う文 化 を 広 げ よ う と そ の 後 も試 み は さ れ て い る が 、 現 実 は 平 成13年 度 調 査 で 「手 話 ・手 話 通 訳 を コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 と し て い る 」 聴 覚 障 害 者 は15%に す ぎ な い 。 手 話 を 使 う ろ う者 間 に は 経 済 的 格 差 は 生 ま れ な い 。 ま た 、 孤 独 な 個 人 的 努 力 を 必 要 と さ れ る こ と も あ ま り な い 。 手 話 コ ミ ュ ニ テ ィ ー は 冷 た い 世 界 で は な い 。 た だ し 、 公 的 補 助 が 必 要 と な る 。 社 会 が 手 話 通 訳 者 の 養 成 、 手 話 通 訳 者 の 派 遣 な ど を 十 分 で き る 社 会 で な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 幼 い 時 に 親 が 子 ど も の 人 生 を 決 め る こ と は 問 題 が あ る だ ろ う 。 人 工 内 耳 を 選 択 す る か 、 手 話 を 選 択 す る か 、 本 人 が 決 断 で き な い 年 齢 で 決 定 し て し ま う こ と に 問 題 が あ る の で は な い か と 考 え る 。 2000年 、 子 ど も に 人 工 内 耳 の 手 術 を す る か 、あ る い は あ る が ま ま の 姿 を 尊 重 す べ き か 、 と い う 選 択 を 迫 ら れ る 二 組 の 夫 婦 の ドキ ュ メ ン タ リ ー 番 組 、 「音 の な い 世 界 で 」("SoundandFury") がNHKで 放 送 さ れ た 。 一 組 は 人 工 内 耳 を 選 び 、 あ と 一 組 は ろ う 文 化 を 選 ん だ 。 そ の 他 に 手 話 使 用 者 が い る 。 ろ う 者 の 親 か ら 生 ま れ た 聞 こ え る 子 ど も、CODA(Childrenof DeafAdults)と 呼 ば れ る 人 た ち で あ る 。 親 た ち が 手 話 を 使 う ろ う者 で あ り、 子 ど も は 小 さ い 頃 や 家 庭 で は 手 話 で 生 活 し、 音 声 言 語 も覚 え る こ と で バ イ リ ン ガ ル と な り、 親 の た め に 聞 こ え る 人

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と の 間 の 通 訳 者 に も な る 。 2.口 話 法 優 先 教 育 と 手 話 法 優 先 教 育 次 に 、 教 育 方 法 に よ る グ ル ー プ 分 け が で き る 。 聞 こ え な い 人 に 対 し て 行 う 教 育 に は 、 口 話 法 と 手 話 法 の 二 種 類 が あ る 。 口 話 法 は 、 口 の 形 で 話 し手 の 言 葉 を 読 み 取 る 読 唇 術 を 学 び 、 発 声 練 習 や 発 音 練 習 を 行 っ て 、 聞 こ え る 人 が 日常 使 用 す る 言 語(日 本 語 や 英 語)を で き る 限 り、 聞 こ え る 人 と 同 じ方 法 で 駆 使 で き る よ う に す る 教 育 法 で あ る 。 一 方 、 手 話 法 は 、 手 話 と い う音 の な い 世 界 の 言 語 を 用 い る こ と に よ っ て 、 ろ う 者 同 士 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 円 滑 に す る 目 的 を 持 つ が 、 聞 こ え る 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に は 通 訳 が 必 要 に な る 。 別 の 観 点 か ら見 る と 、 口 話 法 は 、 聞 こ え な い 人 が 聞 こ え る 人 の 社 会 に 同 化 す る こ と を 促 進 す る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 で あ り、 手 話 法 は 、 社 会 の 中 に ろ う 者 と い う 言 語 集 団 を 形 成 す る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン手 段 で あ る 。 2.1口 話 法 優 先 教 育 口 話 法 優 先 の 理 論 的 根 拠 は 、17世 紀 の ヨ ー ロ ッ パ に さ か の ぼ る 。 『ヨ ハ ネ に よ る 福 音 書 』 が 「初 め に 言 葉 が あ っ た 。」 と い う 文 か ら 始 ま る よ う に 、 人 間 に と っ て 言 葉 は 不 可 欠 な も の で あ る と い う の が 当 時 の 一 般 的 な 考 え で あ っ た 。 ま た 、 新 約 聖 書 の 『ロ ー ラ の 信 徒 へ の 手 紙 』 第10章 17節 に は 「信 仰 は 聞 く こ と に よ り、 し か も 、 キ リ ス トの 言 葉 を 聞 く こ と に よ っ て 始 ま る 。」 と い う 文 か ら、 聾 者 は 言 葉 を 理 解 し 話 す こ と に よ っ て 、 信 仰 を 持 つ 人 間 に な る こ とが で き る と考 え ら れ た 。 オ ラ ン ダ の 口 話 法 の 父 と さ れ る ヨ ハ ン ・コ ン ラ ッ ド ・ア ン マ ン(Amman,Johann Konrad)は1692年 出 版 の ラ テ ン語 で 書 か れ た 『物 を 言 う 聾 者 』(SurdusLooquens1694年 英 訳TheSpeakingDeaf)の 中 で 、 「話 す 能 力 は 一 番 重 要 な 人 間 と し て の 特 徴 で あ り、 そ れ 故 に 、 聾 者 に 教 え ら れ る べ き 第 一 の も の で あ る 」 と述 べ て い る 。1700年 出 版 の 『言 語 論 』(Dissertatio deLoquela)で は 第3 章 に 話 し 言 葉 を 教 え た 実 践 の 記 録 が あ る 。 彼 の 本 は ドイ ツ の ハ イ ニ ッ ケ (Heinicke,Samuel)の よ う な 口 話 法 主 義 者 に か な り影 響 を 与 え た 。 こ の ハ イ ニ ッ ケ が1778年 に 最 初 の 口 話 法 の 学 校 を ドイ ツ に 設 立 し た 。 彼 の 目 的 は ろ う者 が 聴 者 の 社 会 に 適 合 で き る よ う に 話 し 言 葉 を 与 え る こ と だ っ た 。 そ の 後 、 ドイ ツ の ろ う 学 校 の ほ と ん ど が 口 話 法 を 支 持 し た 。 口 話 法 は19世 紀 の 中 頃 ま で に か な り多 くの ヨ ー ロ ッパ の ろ う 学 校 で 支 持 さ れ た 。 ア メ リ カ で も 口 話 法 は 始 ま っ た 。1867年 に レ キ シ ン ト ン ろ う 学 校(theLexsingtonSchoolfortheDeaf)が ニ ユ ー ヨ ー ク に 、 ク ラ ー ク ろ う 学 校(ClarkeSchoolfortheDeaf)が マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 の ノ ー ザ ン プ ト ン(Northanmpton)に 設 立 さ れ た 。 さ ら に は1880年 、 世 界 ろ う 者 会 議 ミ ラ ノ 会 議 で 口 話

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法 が支 持 され、 手 話 法 は 口話 法 指 導 を 阻害 す る もの と して禁 じ られ た(Carbin、1996)。

1860年 代 末 、 ア メ リ カ に は伝 統 的 な寄 宿 制 の ろ う学 校 を補 完 す る教 育 施 設 と し て通 学 制 聾 学

校 が 登 場 した。 この 背 景 に は 口話 法 と の 関係 が あ る。 通 学 制 学 校 は 口話 法 に 最 適 で あ り、 聾 者

の 成 長 と福 祉 に と っ て最 も適 して い る。 なぜ な ら ば、 聴 者 と の 自由 な交 流 を 保 障 す る か ら、 と

考 え られ た。19世 紀 末 か ら20世 紀 初 頭 にか け て 口話 法 導 入 運 動 の 中心 とな っ てい たベ ル(Bell,

AlexanderGraham)は

聾 児 を通 学 制 公 立 ろ う学 校 で 教 育 す る方 が 、 手 話 よ り口 話 を優 先 させ る

こ とが で きるか ら良 い 、 と考 えて い た 。 通 学 制 の 利 点 と して 次 の 四 点 が 考 え られ た 。 第 一 に、 寄

宿 制 聾 学 校 へ の就 学 は 母 親 が 子 供 を手 放 さ な い た め入 学 年 齢 が 遅 く、10歳 も し くは12歳 以 降 で

あ る こ と に比 べ 、

通 学 制 学 校 は地 元 の地 域 に あ る の で教 育 の 開始 を早 め る こ とが で きる。 第二 に 、

聾 児 と聴 児 との 共 学 を行 う こ と に よ りろ う児 の コ ミ ュニ ケ ー シ ョン能 力 の 向 上 とい う教 育 効 果 を

上 げ る こ とが で き る。 第 三 に 、 通 学 制 学 校 は 、 聴 者 との 交 流 が で き、 口 話 法 の 指 導 に よる ス ピー

チ の 習 得 を させ る こ とが で きる 。 第 四 に 、 遠 い 寄 宿 制 聾 学 校 に 比 べ る と、 通 学 制 学校 の 方 が 経 済

的 で あ る(安 藤2001)。

公 立 通 学 制 聾 学 校 は この よ う に、 寄 宿 制 ろ う学 校 批 判 と口 話 法 導 入 運 動 を背 景 に して19世 紀

後 半 か ら急 増 した 。 更 に ベ ル は1890年

に著 名 な 口話 法 の先 生 た ち と共 に 口話 法 指 導 の施 設(the

AmericanAssociationforPromotingtheTeachingofSpeechtotheDeaf)を

設 立 して 口話 法 を

促 進 す る努 力 を した(Carbin、1996)。

そ の 後 、 聾 教 育 は補 聴 器 の 進 歩 と共 に口 話 法 が20世 紀 半

ば ま で主 流 に な り続 け た。 口話 法 は聾 児 に話 し言 葉 を習 得 させ 聴 者 の社 会 に 同化 させ る と い う理

念 の下 で、 普 及 した。

口話 法 に よ って 、 聞 こ え ない 子 ど も は地 域 め学 校 の通 常 ク ラス に入 る こ とが で きた 。 聞 こ え な

い 子 ど も達 が 集 う こ と も な く、,聞こ え ない こ と は弱 点 で あ り、 弱 点 を補 う努 力 を し続 け 、 聞 こ え

る人 の 競 争 社 会 で 生 き る。 親 は 、 我 が 子 が 聞 こ え る子 ど も と一 緒 に一 つ の 教 室 で教 育 を受 け る こ

とが 「

平 等 な教 育 」 と勘 違 い して い るの で は ない か と考 え る。

補聴 器 や人 工 内 耳 を してい る子 ど もが 、通 常 ク ラス で今 後 、多 く学 ぶ こ と にな る と、不 十 分 な聞

こ えの 子 ど もの 場 合 、十 分 な母 語(第1言

語)が 身 につ くだ ろ うか 、 さ らに は十 分 な 学力 が つ くか

と心 配 にな る。 日本 に住 むニ ュ ー カマ ー の子 ども達 に類 似 した 問題 が あ る と考 え る(伊 藤 ,2005)。

2.2手

話 法優 先教 育

手 話 法 優 先 で教 育 さ れ た子 ど もは、 手 話 を 第1言 語 と して習 得 して、 そ の上 に第2言 語 と な る

文 字 言 語 を習 得 す れ ば、 聞 こ え る子 ど も と状 況 は等 しい。 基 礎 に な る第1言 語 が あれ ば、 聞 こ え

る子 ど も 同様 に学 力 をつ け る こ とが で き る。 そ の上 、 バ イ リ ン ガ ル ・バ イ カ ルチ ュ ラ ル ろ う教 育

を受 け る こ とで 、 聞 こ え る人 と聞 こ え ない 人 の 両 社 会 で 生 き る こ とが で き る。 「

多 文 化 共 生 社 会 」

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の 実 現 に つ な が る 教 育 だ と考 え る(伊 藤,2005:74-75)。 最 近 、 福 祉 や 防 災 の 場 で 「自 助 ・共 助 ・公 助 」 と い う 言 葉 を 聞 く。 こ の 用 語 か ら聞 こ え な い 子 ど も へ の 教 育 を 考 え て み る 。 手 話 法 優 先 教 育 は 、 手 話 を 習 得 し て 手 話 を 使 っ た 教 育 を 受 け 、 学 力 を 身 に つ け る 「自 助 」 努 力 を 必 要 と す る 。 手 話 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン は 手 話 仲 間 を 生 み 、 仲 間 の 「共 助 」 が 生 ま れ る 。 さ ら に 、 聞 こ え る 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン で は 、 手 話 通 訳 者 の 派 遣 を 受 け る と い う 「公 助 」 が 必 要 と な る 。 手 話 を 使 う 人 は3つ の 「自 助 ・共 助 ・公 助 」 を 受 け る が 、 口 話 法 優 先 教 育 で は 、「自 助 」が 主 で 、聞 こ え る 人 と 仲 間 に な る の は 難 し く、仲 間 と共 に 助 け 合 う 「共 助 」 の 関 係 は で き に く い 。 さ ら に は 、 「公 助 」 と し て は 、 日本 で は 障 害 者 手 帳 が ひ とつ の 公 的 支 援 に な る か も し れ な い が 、 そ れ 以 外 の 「公 助 」 に あ た る こ と は 、 ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン と な る 文 字 や 絵 文 字 で の 情 報 の 表 示 で あ ろ う が 、 ま だ 多 く は 実 現 して い な い 。 つ ま り、 手 話 法 優 先 教 育 の 一 つ の 良 さ が わ か る 手 話 法 の 創 始 者 とい わ れ る 、 フ ラ ン ス の ア ベ ・ド・レ ペ(TheAbeeCharlesMichelderEpee) は パ リ の ろ う 唖 者 が 使 っ て い る 手 話 に 注 目 し 、ろ う の 子 供 た ち の 教 育 に 初 め て 手 話 を 主 に 使 っ た 。 1760年 に 、後 に 国 立 聾 唖 学 校(theNationalInstitutionforDeafMutes)に な っ た 「ろ う 児 学 級 」 を 開 き 、 貧 し い 生 徒 に 無 料 の 教 育 を与 え 、 ク ラ ス の 人 数 も 少 数 に 限 る こ と も し な か っ た 。 一 方 、 当 時 の 口 話 法 指 導 は 教 え る 人 数 が 限 ら れ る こ と と 、 す べ て の 人 が 習 得 で き る も の で は な か っ た た め に 、 賢 く、 最 高 な 生 徒 の み を 選 び 出 し て 行 わ れ た 指 導 だ っ た 。 そ の 後 、1790年 に ア ベ ・シ カ ー ル(AbbeRochAmbroiseSicard)が 引 継 い だ 。 そ の こ ろ 、 ア メ リ カ か ら トー マ ス ・ギ ャ ロ デ ッ ト(Gallaudet,ThomasHopkins)が 視 察 訪 問 し 、手 話 指 導 を ア メ リ カ に 伝 え て ほ し い と ロ ー ラ ン ・ ク レ ー ル(Clerc,LouisLaurentMarie)に 頼 み 、 ク レ ー ル を 連 れ て1816年 、 ア メ リ カ へ 帰 国 し た 。1817年 、コ ネ チ カ ッ ト州 、ハ ー トフ ォ ー ドの ろ う唖 施 設 を ギ ャ ロ デ ッ ト と ク レ ー ル が 設 立 し、 手 話 を 使 っ て ろ う者 を 、 あ る い は 、 ろ う 者 や 聴 者 の 教 師 を 指 導 し た 。 そ の 後 、1900年 代 ま で に 57の 寄 宿 制 の ろ う 唖 施 設 が ア メ リ カ に で き た 。 し か し 、 こ の 手 話 法 教 育 は ろ う 者 を 社 会 か ら 隔 離 し 、 聴 者 社 会 に 参 加 で き な い よ う に す る と い う 理 由 で 口 話 法 教 育 に 移 っ て い っ た 。 口 話 法 主 義 は 優 勢 に な り、 学 校 で の 手 話 の 使 用 が 公 式 に 禁 止 さ れ る こ と に な っ た(Carbin,1996;8-11)。 日 本 で は 、2002年 に 全 国 ろ う 児 を 持 つ 親 の 会 は 「ろ う児 の 人 権 宣 言 」(伊 藤,2005:67)を 発 表 し て 、 日 本 手 話 で ろ う 児 が 教 育 さ れ る こ と を 要 求 し た 。 さ ら に 、 親 の 会 はNPO法 人 バ イ リ ン ガ ル ・バ イ カ ル チ ュ ラ ル ろ う教 育 セ ン タ ー 教 育 部 フ リ ー ス ク ー ル 「龍 の 子 学 園 」 で 手 話 で の 教 育 を 実 現 し た 。 な お 、 バ イ リ ン ガ ル 教 育 と は 手 話 と音 声 言 語 の 文 字 で 教 育 す る こ と で あ り、 バ イ カ ル チ ュ ラ ル 教 育 と は ろ う 文 化 と 聞 こ え る 人 の 社 会 の 文 化 を 教 え る こ と で あ る 。 ま た 、2008年4 月 に は 学 校 法 人 明 晴 学 園 を 開 校 し た 。 明 晴 学 園 は ホ ー ム ペ ー ジ に よ れ ば 、2008年7月 に カ ナ ダ ろ う 文 化 協 会(CanadianCulturalSocietyoftheDeaf)か ら、 バ イ リ ン ガ ル ・バ イ カ ル チ ュ ラ ル ろ う教 育 を 高 く評 価 さ れ 、 国 際 部 門 賞 を 受 賞 し た 。

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人 工 内耳 装 用 者 は、 人 工 内 耳 の お か げ で よ り広 い 世 界 に 参 加 す る こ とが で き、 高学 歴 と高収 入

を得 られ るか も しれ ない が 、 孤 立 した 冷 た い 世 界 で 過 ごす こ と にな り、 手 話 を使 う人 た ち の よ う

に は友 達 に恵 まれ る こ と は ない だ ろ う と、 マ イ ケ ル ・コ ロス ト氏 は 手 話 を使 うろ う者 を う らや ま

し く思 って い る(コ ロス ト,2006:196)。

手話 法優 先 教 育 が 、 理想 の 「自助 ・共 助 ・公 助 」 の社

会 を生 み 出 す の か も しれ な い 。

3.ア

イ デ ンテ ィテ ィの グ ル ー プ分 け

小 野 原(2004:4)に

よれ ば、 「

言 語 の使 用 に は2つ の機 能 が あ る。 一 つ は情 報 を伝 え る コ ミ ュ

ニ ケ ー シ ョ ン機 能 で あ り、 も う一 つ は言 語 を使 用 す る こ とで、 自分 の存 在 を主 張 し た り、 確 認 し

た り、 自分 の 価 値 を証 明 した りす る ア イ デ ンテ ィ テ ィ機 能 で あ る。」 聞 こ え な い人 が 手話 を使 う

場 合 と、 音 声 言 語 を使 う場 合 で は異 な る ア イデ ン テ ィ テ ィ を示 す こ と に な る。

ま た、 言 語 的 マ イ ノ リ テ ィ が 自分 の 母 語 の 使 用 を禁 じ られ る時 、 「自分 が 何 者 で あ る の か」 を

意 識 せ ざ る を得 な くな る。 しか し、 言 語 的 マ ジ ョリテ ィ に身 を置 く者 が 言 語 的 アイ デ ンテ ィテ ィ

を意 識 す る こ と は ほ とん ど ない(小 野 原,2004:5)。

ス テ ィ ー ブ ン ・ス ピル バ ー グ監 督 の 映 画 『ター ミナ ル』(2004)で

は言 語 の ア イ デ ンテ ィ テ ィ

機 能 が 表 れ て い る 。 ア メ リ カの 空 港 に到 着 して 、多 数 派 の 言 語 で あ る英 語 が 話 せ な い主 人 公 が 、

初 め て少 数 派 言語 の母 語 が通 じな く、自分 の存 在 を主 張 す る こ とが で き ない 状 況 に な る 。 そ して 、

そ ん な状 況 で 自分 が何 者 で あ る か を徐 々 に意 識 し、 多 数 派 言 語 社 会 に 同化 す る こ とな く、 少 数 派

言 語 社 会 で 自分 の ア イ デ ンテ ィ テ ィ を確 認 す る。 言 語 が ア イ デ ンテ ィ テ ィ を確 立 す る。

聞 こえ な い人 に 当 て は め る と、 手 話 を使 う ろ う者 が 手 話 を使 え ない 状 態 に な った 時 、 自分 は だ

れ な のか 、 自分 の社 会 で の立 場 はあ るの か とい う よ う な 自分 の ア イデ ンテ ィテ ィ を意 識 し、 自分

の 手 話 言 語 を基 にす る ア イデ ンテ ィテ ィ を確 立 した い と望 む 。 しか し、 手 話 を使 わ な い 聞 こえ な

い 人 は、 あ い まい な音 声 言 語 を基 に す る ア イ デ ンテ ィテ ィ を確 立 す る こ とが む ず か しい 人 が多 く

存 在 す る こ と に な る。

図1は 社 会 学 の 石 川 准氏(石

川,1999)の

、少 数 民 族 と多 数 派 の 関 係 を表 す 「

エ ス ニ ッ ク地 図」

に 「

聞 こ え な い人 」 を当 て はめ て 、 「

聾 者(ろ

う者)社 会 と聴 者 社 会 の 関係 」 を ま とめ て み た も

の で あ る。 図1の

聾 者 」 は 医学 的 障 害 者 、 口話 法 優 先 教 育 を受 け た 人 を表 し、 「ろ う者 」 は社

会 文化 的違 い を持 つ 人 、 つ ま り、 言 語 的 少 数 派 で あ る手 話 を使 う人 を表 す こ と にす る。4つ の 部

分 は異 な る 聞 こ え な い人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を表 して い る。 ま た、 図1は 社 会 の 中 で の 聾 者(ろ

う者)と 聴 者 の共 生 の あ り方 を示 す 。1と2は

聴 者社 会 に聾 者 が 同 化 し よ う と努 力 す る 同化 主 義

社 会 を表 し、3と4は

同 化 し よ う とす る考 え は な い 、 い わ ば多 文化 主 義社 会 の ろ う者 と聴 者 の共

生 を表 す と も考 え られ る。

(12)

図1の4つ

の各 部 分 につ い て次 に説 明す る。

部 分1.人

工 内耳 や 補 聴 器 な どテ ク ノ ロ ジ ー を使 っ て少 しで も聞 こ え る よ う に し、 そ して 口話 法

を 習得 して 、 聞 こ え る 人 の社 会 に 同化 し、 成功 した 聞 こ え な い 人 を表 す 。

(例)ヘ ザ ー は 口 話 法 を十 分 習 得 して ミス ア メ リ カ に な り、 賞 賛 され、 現 在 、 人 工 内 耳 の手

術 を受 け 、 聴 者社 会 で ます ます 、 成 功 した 人 と され る 。 ヘ ザ ー の 母 、 ダ フ ネ ・グ レイ が聴 覚 障

害 児 を口 話 法 で 育 て た 母 親 の 記 録 と して 『ミス ・アメ リ カは 聞 こ えな い』を 出版 し てい る。 ま た、

自分 をサ イボ ー グ と称 して い るマ イケ ル ・コ ロス ト氏 の よ う な人 工 内 耳 装 用 者 は(日 本 で は松

山智 氏 は ろ う者 で も聴 者 で もな い 『

僕 はサ イ ボ ー グ』 とい う タ イ トル で 自伝 を書 い た 。)成 功

者 とい う誇 りは持 つ こ とはで きて も、自分 の ア イ デ ンテ ィテ ィに は不 安 が あ る と も考 え られ る。

部 分2.聞

こ え る人 の社 会 に 同化 し よ う と、手 話 を使 わ ず 、口話 法 のみ で 、ろ う文 化 に も触 れ ず 、

努 力 して い るが 、 十 分 な 同化 が で きず 、 聞 こえ る 人 の社 会 で は排 除 さ れ、 越 え られ ない 壁 が で き

て し まい、 落 ち こ ぼ れ に な り、 自分 の殻 に 閉 じ こめ られ、 自分 に対 す る 自信 も持 て ない 聞 こ え な

い 人 を表 す。

(例)第1言

語 も十 分 に 習得 で きず 、 そ の た め学 力 も十 分 身 につ け る こ と もで き ない 。 聞 こ

え る人 の社 会 で 成功 者 にな れ ない 。 自立 した 人 生 を過 ごす こ とは 難 しい。

部 分3、 手 話 を母 語 と し、 口 話 法 を習 得 せ ず 、 補 聴 器 ・人 工 内 耳 な ど を拒 否 し、 ろ う社 会 の 中 で

孤 立 して 生 き る ろ う者 。

(例)① 以 前 の聾 学 校 の 中 だ け で生 活 した ろ う者

② 手 話 で話 す 島(マ サ チ ュ ー セ ッ ツ州 南

東 部 の マ ー サ ズ ・ヴ イ ンヤ ー ド島(MarthalsVineyard)の

住 民 。 ③ 以 前 の ア メ リカ南 部 の 黒

人 ろ う者 。 黒 人 の ろ う者MaryHerringWright(1999)の

自伝 に描 か れ て い る。

(13)

部 分4.手

話 を 自分 た ち の母 語 と し、 ろ う文 化 を持 ちDeafと

して の プ ラ イ ドが あ る。 聞 こ え る

人 に手 話 や ろ う文 化 を教 え た り、 手 話 通 訳 ま た は 、 パ ソ コ ンで 提 供 され る文 字 情 報(た

とえ ば 、

テ レビ の字 幕)を 聴者 との コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン手段 とす る 。ろ う者 で あ る とい う ア イデ ン テ ィ テ ィ

を も って 、 ろ う者 社 会 と聴 者 社 会 の両 方 を行 き来 す る。

(例)① 多 文 化 主 義 社 会 の カ ナ ダ に存 在 す る ろ う者 社 会 で は、 聴 者 社 会 と ろ う者 社 会 が 同 化

して 統 一 す るの で は な く、 そ れ ぞ れ の社 会 が あ って も重 な り合 う と こ ろ もあ って ひ とつ に な ろ

う とす る。相 互 の 文 化 を尊 重 し、相 互 理解 に 努 め 、 共 生 す る努力 を して い る。

具 体 例 と して 、 聾 学 校 と普 通 学 校 を一 つ に した公 立 学 校 がBritishColumbia州

にあ る。 州 立

のBurnabySecondaryProgram,JerichoelementaryProgramと

呼 ば れ る 、小 学校 か ら高校

まで の 教 育 施 設 で あ る。 こ こ は1993年

に オ ー プ ン した 。 ろ うの 生 徒 に 配慮 し た学 校 で、 目で

わ か る非 常 装 置 が あ り、 テ レ ビの モ ニ ター に文 字 表 示 をす る ア ナ ウ ンス や 、字 幕 付 きテ レ ビな

どの設 備 が あ る。 ろ うの生 徒 は聾 学 校 の カ リキ ュ ラ ム の授 業 を受 け た り、 手 話 通 訳 士 な どの サ

ポ ー トを受 け て、 聴 者 の ク ラ ス の授 業 を受 け た り、 と選 択 で きる。 ま た、 聾 学 校 の ス タ ッフが

聴 者 の 生 徒 に 手 話 や 、 ろ う文 化 に つ い て教 え る授 業 もあ る(Carbin,1996:159)。

②CODA

も家 庭 で は手 話 を使 い、 学 校 な ど聴 者 社 会 で は音 声 言 語 を使 うバ イ リ ンガ ル ・バ イ カ ルチ ュ ラ

ル な聴 者 で あ る。

ま とめ

子 ど もが 聞 こえ ない と診 断 さ れ る と、親 た ち は 「聞 こ え る 人 」 の 多 数 派 社 会 で 「聞 こ え る人 」

とで きる だ け 同 等 に 生 活 して い け る こ と を願 っ て 、補 聴 器 、 人 工 内 耳 、 口 話 法 教 育 を子 ど もに 与

え る 。 親 も子 も聞 こ え な いdeaffamily(ろ

う者 家 族)は

少 な い の で 、 ま た、 聾 学 校 な ど で も教

育 言 語 と して手 話 を多 くは使 わ ず 、使 う場 所 も少 な くな っ て い くの で 手話 は ます ま す使 わ れ な く

な っ て い く。

しか し、 科 学 に よ っ て人 間 は完 全 に救 わ れ る わ け で は な い。 十 分 に は 聞 こ え な い 人 が、 十 分 に

自分 の第 一 言 語 を習 得 で きず に不 安 に思 い なが ら生 き な け れ ば な らな い。 一 方 、 手 話 を 第一 言 語

と して コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン して い る 聞 こ え ない 人 は、ろ う者 仲 間 もい る の で 精神 的 不 安 は 少 な い 。

しか し、聞 こ え る人 と の コ ミュ ニ ケ ー シ ョン に は手 話 通 訳 を必 要 とす る の で、直 接 、コ ミュ ニ ケ ー

シ ョン を取 ろ う と思 え ば、文 字 言語 を 習得 して い れ ば 聞 こ え る 人 と も コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンで きる 。

この よ う な こ とか ら、 考 え られ る こ と は、 手 話 を第1言 語 と して 習 得 し、 文 字 で 音 声 言 語 を習

得 した バ イ リ ン ガル ・バ イ カル チ ュ ラル ろ う教 育 を受 け た 子 ど もが 成 長 して 暮 らす 社 会 が 理 想 の

多 文 化 共 生社 会 にな る と考 え られ る。 手 話 を基 に す る ア イ デ ンテ ィテ ィ を確 立 で き る。 自分 に 自

信 が持 て る よ うに な り、 聞 こえ る 人 との コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン手段 と して は 音声 言 語 の 文 字 を使 う

(14)

こ とが で きる6人 は だ れ で も 自分 に 自信 が 持 て る こ とが 生 きてい くため に は必 要 だ 。

聞 こえ な い 人 に とっ て の 理 想 の 社 会 は現 在 の カ ナ ダの ろ う社 会 で あ る か も し れ な い。 しか し、

現 実 は、 ア メ リカや 日本 で は ます ます 人 工 内耳 が 進 み 、 科 学 が 人 間 を改 善 す る と信 じる科 学 万 能

主 義 的考 え や 、優 生 学 的考 え が 広 が って 、 個 人 の心 の 問 題 は解 決 さ れ ず に 皆 、 心 を病 んで い く。

カナ ダの ろ う者 社 会 で も人 工 内 耳 装 用 者 は増 加 して状 況 が 変 わ って い く。 一 方 、 反 対 方 向 の 変 化

と して 、 ニ ュー ジー ラ ン ドの よ うに、 手 話 言 語 の パ ワー が 強 くな り、 そ して 、 人 の 心 の 問 題 は科

学 で は解 決 で き ない と気 づ い た人 た ち に よ って 、 少 数 派 が 多 数 派 を変 化 させ る時 期 が 来 る こ と も

あ るか も しれ ない 。

また 、 そ れ ぞ れ の 聞 こ え ない 人 の 社 会 で の 立 場(ア イ デ ンティ) も変 わっ て い く。 生 まれ て す

ぐに人 工 内 耳 手 術 を受 け、 口話 法 教 育 を受 けた 子 ど もが 、 あ る時 か ら手 話 を使 う よ う にな り、 ア

イ デ ンテ ィテ ィ は図1の2や3か

ら1や4に

移 って い くか も しれ な い 。

聞 こえ ない 人 の ア イデ ン テ ィ テ ィ は、聞 こ え る人 の社 会 と関係 が 深 い。 障害 者 問題 と考 え るか 、

ろ う者 と して の 人 権 問 題 と して 考 え るか に よ って 、教 育 も異 な り、 ア イ デ ンテ ィテ ィ も異 な る よ

うに な る 。

最 後 に 、 本稿 で 論 じた 異 な る アイ デ ンテ ィテ ィに属 す る 聞 こえ な い 人 に つ い て 、 文 学作 品 の 中

で どの よ う に表 され て い るか を見 て い くこ と を、 今 後 の 筆者 の研 究 課 題 と した い と考 え て い る 。

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(研 究 紀 要 編 集 部 は 、 編 集 発 行 規 程 第5条 に 基 づ き 、 本 原 稿 の 査 読 を 論 文 審 査 委 員 会 に 依 頼 し 、 本 原 稿 を

参照

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