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基調講演 -- 新興国・途上国における企業活動と人権リスクの課題 (国際シンポジウム報告 -- 責任あるビジネス・責任あるサプライチェーン「ビジネス人権に 関する国連指導原則」を日本はどのように活かせるか)

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Academic year: 2021

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基調講演 -- 新興国・途上国における企業活動と人

権リスクの課題 (国際シンポジウム報告 -- 責任あ

るビジネス・責任あるサプライチェーン「ビジネス

人権に 関する国連指導原則」を日本はどのように

活かせるか)

著者

ヴィッキー バウマン

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

254

ページ

33-35

発行年

2016-11

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00018775

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33

アジ研ワールド・トレンド No.254(2016. 12)   責任あるビジネス・ミャンマー センター(MCRB)は、イギリ スに本部を置く人権ビジネス研究 所(IHRB)とデンマーク人権 研究所(DIHR)との協力に基 づ い た、 イ ギ リ ス、 デ ン マ ー ク、 ノ ル ウ ェ ー、 ス イ ス、 オ ラ ン ダ、 そしてアイルランドから資金提供 を 受 け る 、 ヤ ン ゴ ン を 拠 点 と し た市民社会組織である。設立三年 の当センターは、地域のニーズと 国際基準である国連指導原則に基 づき、ミャンマー国内の責任ある ビジネスに関する知識やキャパシ ティー、そしてダイアログを生み 出す効果的なプラットフォームを 提供している。対話のためのプラ ットフォームでは、政府、企業お よび市民社会が共通の理解を構築 し、共に人権尊重の推進に取り組 んでいる。

 人

  ビジネスは、人権に正と負の両 方の影響を与える。負の影響を最 小限にするためには、現状を確認 し理解し、その改善方法を検討す ることが求められるが、これには 人権リスクおよび権利の保有者の 観点が重要となる。ビジネスによ って負の影響を与えないようにす るためには、投資の形に合わせた 人権尊重の取り組みが必要となる。

 ミ

  ミャンマーにおける日本企業の 投資は、採掘産業のようにハイリ ス ク な 業 界 に は 行 わ れ て お ら ず、 明らかにハイリスクな状態にさら されている企業は現在ない。日本 企業は、合弁事業型の投資スタイ ルを取っている。長期間に亘る企 業 活 動 を 望 ん で い る の で あ れ ば、 投資判断において、慎重な手順を 踏む日本企業こそ、事前の調査の 段階で、人権デュー・ディリジェ ンスのアプローチを盛り込むべき である。これは、投資開始後に問 題が露呈し、事業活動が滞るよう な事態を予め防ぐ効果がある。事 業開始後に、住民の移転問題や地 域の環境破壊などが明らかになり、 その対処のために、長期間におよ ぶ事業停止になれば、影響は多大 なものとなる。事業開始前に、企 業が検討すべき人権リスクの分野 は多岐に亘り、次に示すリスク項 目のとおり、日頃の事業運営とは 直接的な関係を持たないものも含 まれるため、注意が必要である。   土地――土地は多くの途上国に とって、非常に貴重な資産である。 政府は、優遇措置として企業に優 先的に事業用地を提供する代わり に、工場等を誘致することがある。 これに伴い、既にその土地に住ん でいるが、土地の所有権を証明で きない住民は、政府の指示により 土地から追い出される。結果、追 い出しに反発する住民と企業の間 で問題が発生する。この問題に事 前に対処するには、土地の利用状 況について、政府からの情報だけ に頼らず、自社で足を運び調査し、 土地の住民と直接に対話を持つこ とが必要である。土地の使用経歴、 現在の利用用途、住人の今後の居 住条件等について確認し、対策を 検討することが望ましい。   労働上の安全確保――労働法が 常に変化し、内容が十分であると はいえないミャンマーでは、同国 の法律を遵守するだけでは十分と はいえない。より広範囲をカバー した先進国の法律の視点から行動 することが求められる。ミャンマ ーは現在、安全、健康に関する法 律がなく策定中だが、こういった ことに気づき対処する必要がある。   児 童 労 働 ―― ミ ャ ン マ ー で は、 法律で定められている就労年齢よ りも下の子どもが、何らかの形で 就労している。実際働いている労 働者が何歳なのか、一四歳以下か、 一八歳以下なのか、もしそうであ るならば、その理由を調べ、対策 を講じなければならない。   先住民――先住民や土着の民族 は、言語もシステムも、国の共通 のものとは異なるなかで生活を行 っている。それゆえに、通常の国 家システムのなかで明らかになっ ているものを検討するだけでは不 十分である。彼らが保有する権利 を明らかにし、それに対する影響

人権

課題

ヴィッキー・バウマン

基調講演

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アジ研ワールド・トレンド No.254(2016. 12)

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を考慮しなければならない。   差 別 ―― 性 別、 民 族、 障 が い、 宗教等あらゆるものに対する差別 がないかを検討する。ユニリーバ がスープストックを、宗教上の問 題が多発しているミャンマーの西 部 で 販 売 し た 際 の 広 告 の 一 部 に、 宗教的な差別を意味する言葉が記 載されていたことがあった。その 地域固有の差別意識を考慮してい なかったために発生した問題であ っ た。 事 前 に 調 査 と 検 証 を 行 い、 どこに影響があるのかを予め特定 することが必要である。   軍――ミャンマーでは、軍の力 が非常に強く権力がある。また何 年もの間、民族間での紛争が続い た。問題を回避するためには、紛 争地域を避けて事業を行えばよい ということではない。直接的に事 業には関わりがないと考えていて も、事業を継続した結果、関係が 発生することもある。通信事業会 社の例を挙げると、事業開始時点 では紛争地域を対象としたビジネ スを行ってはいなかったが、事業 を拡大するにつれ、紛争地域にも 設備を設置する必要が生じた際に、 地域の住人との間で問題が浮上し、 事業が難航したことがあった。そ の 地 域 に 住 む 人 々 の 抱 え る 問 題、 歴史的な背景が、事業に与える影 響を考慮して事業を推進すること が必要である。   法規――事業を行う際には、そ の国の法律に従わなければならな いが、新興国ではこれを探すこと 自体が困難な場合がある。また翻 訳や弁護士の問題もある。どのよ うな義務が法律で課せられている かについて理解するために、様々 なデュー・ディリジェンスを行わ なければならない。   透 明 性 ―― 新 興 国 に お い て は、 政府のみならず、企業の透明性も 不十分なことが多く、これが大き なリスクとなる。新興国では、企 業が必要な情報のすべてを入手で きない、またコミュニティが企業 について情報を入手できていない。 結果、お互いの情報不足による問 題が起こる。企業から発信する情 報の透明性を上げることで、必要 な情報が必要な人に届き、問題を 先に防止することが可能になる。   言論と結社の自由――新興国で は、労働組織のデモが頻繁に発生 する。政府はデモを抑制する目的 で、警察隊を出動させ、デモの鎮 圧を行うことがあるが、この際に 抑制の一環で発砲し、労働者が犠 牲になることがある。こういった 政府警察による鎮圧も、政府がや っていることだから自社には関係 ないということはなく、自社の問 題として捉えなければならない。   救済策へのアクセス――企業に よって、何かの不正や消費者や労 働 者 の 権 利 侵 害 が 行 わ れ た 時 に、 被害を受けた人が、救済策へアク セスできる手段は用意されている かの確認が必要である。政府がど の よ う な 救 済 策 を 提 供 す る の か、 法的手段が提供されるのかという 点も重要である。   腐敗――腐敗も人権リスクのひ とつである。ビジネスが腐敗する と、結果として法律を破って違反 を起こし、人権を侵害することに つながる。たとえば租税であれば、 政府に必要なお金が行かなくなる ことによって、新興国政府が必要 としている初等教育支援に資金が 回らなくなり、本来なら税金で賄 われる資金で学校に行けるはずの 子どもたちがその機会を失うとい うことにつながる。   貧困――教育や保健分野に対す る支援をビジネスが行うか否かは、 慎重な判断が求められる。これら の分野のサービスは継続して提供 されるべきものであり、ビジネス が存続できなくなったからサービ スをやめるということは許されな い。支援を行う際にはこの点を考 慮し、ビジネスが責任を負う部分 と、政府がやるべきところの線引 きをしなければならない。   これらの人権リスクは、ミャン マーに限らず、すべての新興国に 共 通 し て み ら れ る。 よ り 多 く の、 各国における実例を、ビジネスと 人権資料センターのウェブサイト で参照することができる ⑴ 。

 権

  権利の保有者には、ビジネスで 影響を受ける被雇用者やコミュニ ティが含まれる。会社として、権 利の保有者たちが影響をいかに理 解 す る の か を、 「 彼 ら は こ う 思 っ ているだろう」という思い込みで はなく、彼らの権利を正しく理解 し、権利者が懸念する次の点を考 慮する必要がある。   まずは雇用だが、これはビジネ スが貢献し、プラスの影響を与え ることができる部分である。次に 電気、健康、教育のアクセス不足 だが、これらは政府が責任を持つ べき部分と、ビジネスが実施する 部分を正しく見極める必要がある。 また水不足も懸念される。さらに、 インフラ開発が求められる。イン 15_基調講演.indd 34 16/11/02 11:29

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アジ研ワールド・トレンド No.254(2016. 12) フラ開発では、ビジネスがプラス の 影 響 を 与 え る こ と が で き る が、 開発の際には、地元の権利の保有 者と積極的に話をする必要がある。 地元の住民は、事業用地の権利が どのように扱われるのか、自分た ちの権利が侵害されることはない かを恐れている。他にも政府に対 する不信感、情報不足、救済への アクセス不足、地域間の緊張も権 利の保有者が懸念するものとして 挙げられる。企業が事業を行う際 には、このような権利の保有者の 懸念を理解しなければならない。

 日

  まず留意すべき点は投資におけ る株主比率である。自社の投資が 事業にコントロールを持つ支配株 主なのか、少数株主なのかを考え なければならない。合弁事業では、 異なる文化を持つパートナー企業 の存在が、事業に大きな影響を与 える。どのようなビジネスを対象 としているのか、パートナー間の 関係は良好か、ガバナンスは適切 に統治されているかの確認が必要 である。自社が少数株主のパート ナーだとしても、他社の抱える問 題が自社に関係がないとはいい切 れない。指導原則によると、少数 株主企業もビジネスの一部として みなされる。NGO、株主、政府 等 の 様 々 な ス テ ー ク ホ ル ダ ー は、 少数株主のパートナーに対しても 指摘してくる。   合弁事業では様々な人権に関す る問題が起こる。ミャンマーにお いて日本のビール製造会社は、水 の利用や土地の使用に関する問題 に直面した。企業がコミュニティ から水を奪っていないかという点 が論点となった。また工場用地と して企業が所有する土地に、実際 は田舎から都会に集まってきたコ ミュニティが存在していたために、 問題が起こった。一時的とはいえ、 そこに住んでいる人たちを追い出 し、土地を使い事業を行うという のは人権の観点から好ましいとい えないため、様々な対処が必要と なる。さらに、ミニスカートを着 用し、夜の酒場でビールの販売促 進を行うビアガールは、少女たち が多く、彼女たちが危険な目に合 うことがないか、人権も配慮しな ければならない。その他、労働結 社の自由、租税といった問題も考 慮しなければならない。   こ れ ら の 問 題 へ 対 処 す る に は、 まずは指導原則を中心とした、自 社の人権に関する政策を持つこと が役に立つ。その方針を外部に示 すことで、企業は自分たちを防御 することもできる。   新興国で合弁事業を行う企業に 対するアドバイスを挙げる。第一 に、慎重にパートナー選びを行う こと。第二に、契約を締結する前 に、人権デュー・ディリジェンス を行い、問題を特定し、パートナ ーとその議論を行うこと。どのよ うな問題があるかを理解するため に、外部ステークホルダーと協議 することや、過去に何が起こった か を 確 認 す る こ と も 必 要 で あ る。 第三に、合弁事業を計画する際に、 人権について明示して考えること。 これには、具体的な問題の管理の 方法、たとえば土地の使用や雇用 の ル ー ル 等 が 含 ま れ る。 第 四 に、 事業を始める前に発生した既存の 問題を確認すること。もし既存の 問題の原因がパートナー側にある とすれば、そのことを合弁契約書 に書いておかなければならない。

 日

  発展途上国でビジネスを行う企 業にとって、人権尊重を考える機 会は、優位性を発揮できるチャン スである。もし問題が少なければ、 ビ ジ ネ ス が 成 功 す る 確 率 は 高 い。 指導原則をガイドとして使い、権 利の保有者すべてについて考える ことが成功へ導く。   日本の企業は人権というと、従 業 員 の 権 利 だ け を 考 え が ち だ が、 人 権 に 含 ま れ る 権 利 は よ り 広 い。 企業は包括的に人権の方針を策定 することが求められる。法律上の 書面を整えるだけでは不十分であ り、人権の問題を特定し、対処す ることが重要である。積極的に外 部とのコミュニケーションを行い、 苦情を受け付けそれに対応するこ とが必要である。   最後に、日本政府への提言とし ては、新興国の現地にある日本大 使館のなかに、投資を検討あるい は実施している企業との連絡窓口 を作り、進出企業への指導を行う ことを求める。そして政府は、行 動計画を国として策定し、国内外 へその枠組みを打ち出してほしい。 それが、日本から投資を行う企業 への支援に繋がる。 ( Vicky Bowman / 責 任 あ る ビ ジ ネス・ミャンマーセンター代表) 《注》 ⑴ B us in es s an d H um an R ig ht s Resource Centre ウェブサイト h tt p s: / / w w w .b u si n e ss -humanrights.org/ 基調講演:新興国・途上国における企業活動と人権リスクの課題 15_基調講演.indd 35 16/11/02 11:29

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