国立国会図書館における東日本大震災アーカイブの
取組み (特集 災害と図書館)
著者
河合 美穂
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
210
ページ
9-11
発行年
2013-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003744
一.東日本大震災アーカイブ
という仕組み
東日本大震災は、二〇一一年三 月一一日に発生した東北地方太平 洋 沖 地 震 と そ れ に と も な う 大 津 波、そして、東京電力福島第一原 子力発電所の事故が重なって、未 曾有の複合的な災害となった。国 内で広域かつ長期にわたる災害と なり、電力、交通、通信等のイン フラに打撃を与え、世界のエネル ギー政策等にも波及した。 東 日 本 大 震 災 復 興 対 策 本 部 が、 二 〇 一 一 年 七 月 二 九 日 に 決 定 し、 八月一一日に改定した「東日本大 震災からの復興の基本方針」にお いて、東日本大震災の地震・津波 災 害、 原 子 力 災 害 の 記 録・ 教 訓、 国内外で過去に発生した地震・津 波 の 教 訓( 以 下「 震 災 の 記 録 等 」 と い う。 ) の 収 集・ 保 存・ 公 開 体 制の整備を図り、 国内外を問わず、 誰もがアクセス可能な一元的に活 用できる仕組みを構築することが 掲げられた。 当館は、この仕組みを「東日本 大震災アーカイブ」と呼び、その 構築のためのプロジェクトを立ち 上げた。 当館のプロジェクトの基本理念 は次のとおりである。 ◦ 東日本大震災の記録等の国全体 としての収集・保存・提供に取 り組む。 ◦ 関 係 す る 官 民 の 機 関 に よ る 分 担、連携、協力を目指す(分散 収集・分散保存) 。 ◦ 東日本大震災の記録等を国内外 へ発信するとともに、後世へ永 続的に伝えていく。 こうして国全体として蓄積した 記 録 等 が、 被 災 地 の 復 興 事 業 や、 今後の防災、減災対策等へ活用さ れることを想定している。二.震災の記録等の収集
東日本大震災アーカイブを実現 するためには、震災の記録等の収 集および活用における役割分担が 重要である。 当館の取組みとしては、当館に よる記録等の収集、他機関による 記録等の保存の推進・支援、他機 関が保存する記録等についてのメ タ デ ー タ 収 集 ま た は 機 械 的 連 携、 これらを実現するための関連機関 への働き掛けを行う。 収集に当たり、震災の記録等は 形式も主題も多岐にわたる。 形式的には、紙媒体を含め、特 に、画像、動画、音声等の多様な デジタルコンテンツを収集対象と する。特に、安価になったデジタ ル カ メ ラ 等 に よ り 撮 影 さ れ た 写 真、映像など、単体の素材的なも のも対象と考えている。 次に、主題の観点から、収集対 象と考えるコンテンツは、大きく 分類すると次のとおりである。ま ず、 東日本大震災 に関して、 その 事 象 及 び 被 害 の 実 態 に 関 す る 記 録、 被災以前の地域 の記録並びに 被災後の復旧及び復興 に関する記 録に加え、 原子力災害 の記録も含 む。それから、 過去に発生した 地 震・津波・原発災害等の記録も対 象としている。また、東日本大震 災 以降の国内外の政治、経済、社 会等の動向 に関する記録も重要で ある。三.制度的収集による
コンテンツの例
(一)インターネット資料 当館が、制度的に収集している 東日本大震災アーカイブのホームページ(http://kn.ndl.go.jp)特 集
災 害 と 図 書 館
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アジ研ワールド・トレンド No.210 (2013. 3)資料・情報に、例えば公的機関の ウ ェ ブ サ イ ト や 報 告 書 等 の イ ン ターネット資料があり、そのなか に東日本大震災に関連するものが 含まれる。 当館では、インターネット上の 情報を保存し、後世へ伝えるため に、二〇〇二年度から日本国内の 公的機関のウェブサイトを収集し ている。ウェブサイトは著作権法 で保護される著作物であるが、国 立国会図書館法に基づく収集の場 合は、著作権者の許諾を得ること なく収集することができる。ウェ ブサイトは日々更新されていくた め、国の機関は月に一回、その他 の公的機関は三カ月に一回、収集 を行っている。 東日本大震災発生後は、被災地 自治体や国の関係機関等のウェブ サイトについて、収集頻度を増や して収集を行った。二〇一一年三 月一四日から三一日にかけて、被 災地自治体のウェブサイトを可能 な限り毎日収集し、国の関係機関 のウェブサイトを週に一回収集し た。二〇一一年四月以降は、それ ら以外にも範囲を拡大し、週に一 回の収集を行った。時間の経過と ともに震災に関する情報の更新が 減ってきたため、その後は、二週 間 に 一 回 程 度 の 収 集 を 行 っ て い る。 公的機関以外の東日本大震災に 関 係 す る ウ ェ ブ サ イ ト に つ い て は、発信者から許諾を得て選択的 な収集を行っている。例えば、東 京電力のサイト等を収集した。 収 集 し た ウ ェ ブ サ イ ト の う ち、 さらに公衆送信に関する発信者の 許諾が得られたものは、当館ウェ ブサイト上で閲覧できる。 例えば、宮城県石巻市の二〇一 一年三月二四日当時のホームペー ジでは、津波が橋を飲みこんで押 し 寄 せ る 画 像 が 掲 載 さ れ て お り、 その破壊力を痛感する。 (二) 国立国会図書館 デジタル化資料 当館の所蔵資料の多くは、納本 制度によって収集されている。納 本制度は、図書や雑誌といった出 版物をその国の責任ある公的機関 に納入することを発行者等に義務 づける制度である。納本された資 料のなかには、東日本大震災の地 震・津波災害、原子力災害につい ての資料のみならず、国内外で過 去に発生した災害についての資料 が含まれる。 当館は、二〇〇〇年度以来、資 料 の デ ジ タ ル 化 に 取 り 組 ん で お り、特に、二〇〇九年度から二〇 一 一 年 度 に か け て 大 規 模 に 行 っ た。例えば、図書については、当 館設立から一九六八年までに受け 入れた明治以降刊行の和図書がデ ジタル化されている。さらに、戦 前期刊行図書を中心に、著作権保 護期間が満了したものや著作権許 諾 処 理 が 完 了 し た も の は、 イ ン ターネット上で閲覧でき、著作権 許 諾 処 理 が 完 了 し て い な い も の は、従来の紙の本を図書館に来館 して閲覧するのと同じように、当 館の施設内で利用者用に設置され た 端 末 か ら 閲 覧 す る こ と が で き る。 例えば、震災直後の避難所で貼 り出された石巻日日新聞の号外の 六枚の壁新聞は、本体はアメリカ の博物館に収蔵されたが、新聞社 のご厚意で、デジタル化画像を当 館で収集し、インターネット公開 している。
四.連携協力
東日本大震災アーカイブの取組 みは、図書館以外の幅広いカウン ターパートとの双方向的なつなが りを志向している。特に、デジタ ル情報資源を取り扱うアーカイブ の取組みでは、館種や業界の垣根 を越えて、美術館・博物館、文書 館、大学、企業等とデータの相互 運用の必要性が高まった。ここで は、二〇一二年一二月時点でのコ ンテンツ収集や統合検索のための メタデータ連携、アーカイブシス テム構築等での協力状況について 紹介する。 国会東京電力福島原子力発電所 事故調査委員会の調査資料につい て は、 当 館 が 引 き 継 ぎ 保 管 す る。 ホームページは、一〇月末で閉鎖 されたが、当館のウェブアーカイ ブでインターネット公開されると ともに、動画は東日本大震災アー カイブで収集した。 東日本大震災アーカイブシステ ムは、総務省情報流通行政局情報 流通振興課と分担してアプリケー ションを開発している。総務省で は、情報流通振興の観点から、よ り利便性の高い検索・閲覧機能の 開発を行っている。 これに対して、 当 館 側 で は、 コ ン テ ン ツ や メ タ データを登録し、電子書庫におい て長く保存する機能を開発してい る。サーバ等のインフラについて は、当館で全部運用していく。ま た、来年度以降は、総務省開発分 も含めて、当館でアプリケーショ10
アジ研ワールド・トレンド No.210 (2013. 3)ンの保守運用を行っていく。 また、総務省の事業である「東 日本大震災アーカイブ基盤構築事 業デジタルアーカイブ構築・運用 に関する実証調査」では、被災地 に お い て 震 災 に 関 す る デ ジ タ ル アーカイブを構築し、それらを東 日本大震災アーカイブにおいて統 合検索を行うため、メタデータ連 携を予定する。 そのひとつである東北大学災害 科学国際研究所 (みちのく震録伝) のほか、ハーバード大学ライシャ ワー日本研究所デジタルアーカイ ブ、神戸大学附属図書館震災文庫 と連携することで合意した。 さらに、ヤフー株式会社「東日 本 大 震 災 写 真 保 存 プ ロ ジ ェ ク ト 」 とのAPIによる検索等について も許諾を得た。 日本放送協会の 「N H K 東 日 本 大 震 災 ア ー カ イ ブ ス 証言webドキュメント」との連 携も準備している。 ボランティア団体に対する働き 掛けの例では、東日本大震災支援 全国ネットワークや国際協力NG Oセンター等と協議し、参加団体 に対して記録保存および東日本大 震災アーカイブへの協力を呼び掛 けた。