一般化した戦略形ゲームの利得関数によるプレイヤーの分類
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(2) Business Management Studies 17. 1. 緒言 従来のゲーム理論における戦略形ゲームの定義で扱われている利得(岡田,2011)は実数 値でなければ扱えないため、実数値ではない利得を数学的に厳密に扱うことができない。そ こで、従来、戦略形ゲームで扱ってきた利得を狭義の利得とし、この狭義の利得に定量的に 扱うことのできない利得を加えた利得を広義の利得と定義している(吉岡,2019)。また、こ の広義の利得を厳密に数学的に扱えるように戦略形ゲームの定義を一般化し、一般化した 戦略形ゲームを定義している(吉岡,2019)。さらに、この定義の数学的な意義、そしてビジ ネスの現場における実学的な意義についても論じられている(吉岡,2019;吉岡,2020)。と ころで、定義の数学的な意義については、一般化した戦略形ゲームの定義におけるプレイヤ ーの集合から広義の利得の集合への非自明な写像である連続全射が存在することを論証す ることにより、述べられている(吉岡,2019) 。しかし、一般化した戦略形ゲームの数学的な 意義について述べられているものの、この連続全射による実学的な意義については述べら れていない。そこで本論文では、一般化した戦略形ゲームの定義におけるプレイヤーの集合 から広義の利得の集合への非自明な写像である連続全射が持つ意義について掘り下げ、ビ ジネスの現場においてどのような関連性があるのかについて論考する。 2. 先行研究 本節では一般化した戦略形ゲームの定義を述べ、本論文で明らかにしようとしているこ とをまとめる。まず、一般化した戦略形ゲームの定義は以下の通りである(吉岡,2019)。 定義. 一般化した戦略形ゲーム. 以下の通り、𝑃 ,𝑀 ,𝑔を定める。但し、𝑖 ∈ 𝑛𝑎 , 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 1とする。 (1) 各プレイヤー𝑝𝑖 の集合を𝑃 = {𝑝𝑖 ; 𝑖 ∈ 𝑛𝑎 }とする。 (2) 広義の利得2𝑚𝑘 の集合を𝑀 = {𝑚𝑘 ; 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 }とする。 (3) 利得関数𝑔を、プレイヤーの集合𝑃 から、広義の利得の集合𝑀 への写像𝑔 ∶ 𝑃 → 𝑀 , 𝑝𝑖 ↦ 𝑚𝑘 として定義する。 このとき、プレイヤーが𝑛人の一般化した戦略形ゲームを次の要素の組によって定義す る。 𝐺′ = (𝑃 , 𝑀 , 𝑔) この一般化した戦略形ゲームにおいて、「プレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 に対 して、どのような利得関数である写像𝑔が存在するのか」という問題に対し、非自明な写像. 1. 2. 𝑛𝑎 , 𝑛𝑏 は、𝑛𝑎 , 𝑛𝑏 を 1 つの自然数として、𝑛𝑎 = {1, ⋯ , 𝑛𝑎 }, 𝑛𝑏 = {1, ⋯ , 𝑛𝑏 }であることを表すことにする。 なお吉岡(2019)は𝑖, 𝑘 ∈ 𝑁 と表記しているが、𝑃 と𝑀 の要素数は異なってももちろん良いので、明示的に それを示すため、ここでは𝑛𝑎 , 𝑛𝑏 に分けて表記する。 狭義の利得(従来扱ってきた定量値の利得)に定量化できない利得を加えた利得を「広義の利得」と定義 している(吉岡,2019)。. 58.
(3) Business Management Studies 17. (論考するに値する写像)である連続全射𝑔が存在する(図 1)ことを論証している(吉 岡,2019) 。つまり、プレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 への連続全射𝑔の存在の論 証により、数学的な意義は示されていると言える。しかし、この連続全射による数学的な意 義について言及されたものの、ビジネスの現場における意義については言及されていない。 そこで次節において、このプレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 への連続全射𝑔につ いてさらに論考し、利得関数である連続全射𝑔とビジネスの現場の関連性について検討する。 𝑃 = {𝑝𝑖 ; 𝑖 ∈ 𝑛𝑎 };各プレイヤー𝑝𝑖 の集合 𝑀 = {𝑚𝑘 ; 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 };広義の利得𝑚𝑘 の集合 ⟹ 利得関数 ∃𝑔 ∶ 𝑃 → 𝑀 ,continuous, onto mapping 図 1. 各プレイヤー𝑝𝑖 の集合𝑃 から広義の利得𝑚𝑘 の集合𝑀 への連続全射𝑔の存在 3. 一般化された戦略形ゲームの利得関数が持つ性質とビジネスの現場の関連性 本節ではプレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 への利得関数である連続全射𝑔が持 つ性質について論考し、この連続全射𝑔とビジネスの現場の関連性について言及する。 3.1 利得関数によるプレイヤーの類別 プレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 への利得関数である連続全射𝑔が持つ性質に ついて論考する。 利得関数であるプレイヤーの集合𝑃 から広義の利得の集合𝑀 への写像𝑔は全射であるので、 プレイヤーの集合𝑃 は逆像𝑔−1 (𝑚𝑘 )によって分割 3 される。即ち、𝑔−1 (𝑚𝑘 ) ⋂ 𝑔−1 (𝑚𝑘′ ) = 𝜙, 𝑘 ≠ 𝑘′ であり、かつ𝑃 = ⋃𝑘∈𝑛 {𝑔−1 (𝑚𝑘 )}となっている(図 2) 。ここで、プレイヤーの集合𝑃 𝑏. が逆像𝑔−1 (𝑚𝑘 )によって𝑃 = ⋃𝑘∈𝑛 {𝑔−1 (𝑚𝑘 )}と分割されたので、{𝑔−1 (𝑚𝑘 ); 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 }は集合𝑃 𝑏. の商集合4である。即ち、同じ広義の利得𝑚𝑘 を得るような各プレイヤー𝑝𝑖 が逆写像𝑔−1 によっ て類別され、結果的に𝑔−1 (𝑚𝑘 )がプレイヤーとして機能することになる。逆写像𝑔−1 によって 各プレイヤーが類別されたということは、各プレイヤー𝑝𝑖 が同じ広義の利得𝑚𝑘 を得るため に、1 つの意思決定を行う主体であるプレイヤー𝑔−1 (𝑚𝑘 )にグルーピングされたということ を意味することになる。もちろん、𝑔−1 (𝑚𝑘 )は要素数が 1 の集合である場合もあり得ること には注意したい。 以下、図 2 の例で具体的に確認してみる。なお、広義の利得の集合𝑀 は、𝑀 = {𝑚1 , ⋯ , 𝑚𝑛𝑏 } なのであって、図 2 では広義の利得𝑚1 と𝑚2 のみを図示し、利得𝑚3 , ⋯ , 𝑚𝑛𝑏 は省略して図示 していることを注意したい。またそれに伴い、逆像𝑔−1 (𝑚1 )と𝑔−1 (𝑚2 )のみを図示しており、 3. 4. 集合𝑋の部分集合族{𝑋λ ≠ 𝜙; λ ∈ 𝛬}が集合𝑋の分割であるとは、𝑋λ ⋂ 𝑋𝜆′ = 𝜙, λ ≠ 𝜆′ かつ⋃λ ∈𝛬 𝑋λ = 𝑋 となること。(北田,2007) 同値関係~によって集合𝑋を同値類に分割することを、𝑋を~によって類別するという。異なる同値類全 体の作る集合を~による𝑋の商集合といって、𝑋/~ などと書く。(北田,2007). 59.
(4) Business Management Studies 17. 逆像𝑔−1 (𝑚3 ), ⋯ , 𝑔−1 (𝑚𝑛𝑏 )を省略して表記している。さらに、ここでは例として、𝑔−1 (𝑚1 )は 要素数 3、𝑔−1 (𝑚2 )は要素数 2 として図示している。この図 2 の例の場合、得られる広義の 利得が𝑚1 となるプレイヤーが逆写像𝑔−1 によって𝑚11 , 𝑚12 , 𝑚13 の 3 つ存在することが分か り 、 𝑔−1 (𝑚1 ) と い う グ ル ー プ に グ ル ー ピ ン グ さ れ て い る こ と が 分 か る 。 即 ち 、 {𝑚11 , 𝑚12 , 𝑚13 } = 𝑔−1 (𝑚1 )であり、3 つのプレイヤー𝑚11 , 𝑚12 , 𝑚13 がまとまり、1 つの意思 決定を行う主体を形成し、結果的に 1 つのプレイヤー𝑔−1 (𝑚1 )として広義の利得𝑚1 を得てい ると理解できる。また、得られる広義の利得が𝑚2 となるプレイヤーが逆写像𝑔−1 によって 𝑚21 , 𝑚22 の 2 つ存在することが分かり、𝑔−1 (𝑚2 )というグループにグルーピングされている ことが分かる。即ち、{𝑚21 , 𝑚22 } = 𝑔−1 (𝑚2 )であり、2 つのプレイヤー𝑚21 , 𝑚22 がまとまり、 1 つの意思決定を行う主体を形成し、結果的に 1 つのプレイヤー𝑔−1 (𝑚2 )として広義の利得 𝑚2 を得ていると理解できる。. 𝑃 = ⋃ {𝑔−1 (𝑚𝑘 )}. 𝑔, onto mapping. 𝑘∈𝑛𝑏. 𝑚1. 𝑚1 1. 𝑀. 𝑔−1 (𝑚1 ) 𝑚1 2 𝑚1 3. 𝑚 𝑚2 1. 𝑔−1 (𝑚2 ). 𝑔, onto mapping. 𝑚2 2. 図 2. 逆像𝑔−1 (𝑚𝑘 )によるプレイヤーの集合𝑃 の分割 一般化した戦略形ゲームの定義において、写像𝑔(各プレイヤー𝑝𝑖 の集合𝑃 から広義の利得 𝑚𝑘 の集合𝑀 への写像)を利得関数として定義している。ここで本節の議論により、逆写像 𝑔−1 によって各プレイヤー𝑝𝑖 の集合𝑃 が類別された商集合𝑃 ′ = {𝑔−1 (𝑚𝑘 ); 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 }から、広義 の利得𝑚𝑘 の集合𝑀 = {𝑚𝑘 ; 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 }への全単射 ∃𝑔′ ∶ 𝑃 ′ → 𝑀 として利得関数を理解できる ことになる(図 3)。即ち、一般化された戦略形ゲームで定義した利得関数𝑔は、意思決定を 行う主体であるプレイヤーを類別し、真に意思決定を行う主体にグルーピングする関数で あることを意味し、そこから実際に利得関数として作用する𝑔′ が派生されると解釈できる。. 60.
(5) Business Management Studies 17. 𝑃 = {𝑝𝑖 ; 𝑖 ∈ 𝑛𝑎 };各プレイヤー𝑝𝑖 の集合 𝑀 = {𝑚𝑘 ; 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 };広義の利得𝑚𝑘 の集合 ⟹ 利得関数 ∃𝑔 ∶ 𝑃 → 𝑀 ,continuous, onto mapping 𝑃 ′ = {𝑔−1 (𝑚𝑘 ); 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 };利得関数𝑔による集合𝑃 の商集合 実際の利得関数 ∃𝑔′ ∶ 𝑃 ′ → 𝑀 ,𝑔−1 (𝑚𝑘 ) ⟼ 𝑚𝑘 , one-to-one onto mapping 図 3. 利得関数𝑔による集合𝑃 の商集合𝑃 ′ から広義の利得𝑚𝑘 の集合𝑀 への実際の利得関数𝑔′ 3.2 利得関数によるプレイヤーの類別とビジネスの現場の関連性 これまでの議論とビジネスの現場との関連性について検討する。一般化された戦略形ゲ ームで定義された利得関数𝑔は、プレイヤーを類別するための関数であった。プレイヤーの 分類は、ビジネスの現場では例えばステークホルダー分析(Smith,2000;田中,2013)が挙 げられる。ステークホルダー分析は、Project Management Body of Knowledge(PMBOK)の 第 6 版における 10 の知識エリアの 1 つとして構成されているステークホルダー・マネジメ ント(PMI,2017)の 1 分野である。このステークホルダー分析において、ステークホルダー を例えば権力と関心度のグリッド(A. L. Mendelow,1981;林,2010)にマッピング(Ruth,2006; Grant,1991)することが、逆写像𝑔−1 によって分類することに該当し、マッピングされた権力. と関心度のグリッドが、プレイヤー𝑝𝑖 の集合𝑃 が類別された商集合𝑃 ′ = {𝑔−1 (𝑚𝑘 ); 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 } に該当するのである。 4. 結言 一般化した戦略形ゲームの定義における利得関数(各プレイヤーの集合𝑃 = {𝑝𝑖 ; 𝑖 ∈ 𝑛𝑎 } から広義の利得の集合𝑀 = {𝑚𝑘 ; 𝑘 ∈ 𝑛𝑏 }への連続全射𝑔)が持つ意義について掘り下げ、ビ ジネスの現場においてどのような関連性があるのかについて論考した。その結果、利得関数 である連続全射𝑔により、各プレイヤーの集合は𝑃 = ⋃𝑘∈𝑛 {𝑔−1 (𝑚𝑘 )}として、逆像𝑔−1 (𝑚𝑘 ) 𝑏. によって分割されることが明らかとなった。即ち、各プレイヤー𝑝𝑖 が逆像𝑔−1 (𝑚𝑘 )によって グルーピングされ、新たなプレイヤーとして 1 つの意思決定を行う主体を形成して、広義の 利得𝑚𝑘 を得ていると解釈できることが明らかとなった。 本論考は具体的な利得関数𝑔が定まっておらず、抽象度が高い議論となっているため、こ の議論だけではビジネスの改善等に直接的には寄与するものではないであろう。しかし言 及したように、例えばステークホルダー分析との関連性もあり、数学的に厳密に議論ができ ていることに全く意味が無いわけではない。ビジネスの改善に寄与するための具体的な利 得関数を明らかにすることが次なる課題となる。. 61.
(6) Business Management Studies 17. <引用・参考文献> 1.. A.Kitada,Y.Ogasawara(2005): 「On a decomposition space of a weak self-similar set」 『Chaos, Solitons & Fractals』Elsevier,24,pp.785-787,A.Kitada,Y.Ogasawara (2005) : 「Erratum to “On a decomposition space of a weak self-similar set” 」 『Chaos, Solitons & Fractals』Elsevier,25,p.1273.. 2.. A.Kitada,Y. Ogasawara,T.Yamamoto(2007) :「On a dendrite generated by a zerodimensional weak self-similar set」『Chaos, Solitons & Fractals』Elsevier,34, pp.1273-1735.. 3.. A. L. Mendelow(1981) :「Environmental Scanning--The Impact of the Stakeholder Concept」 『ICIS 1981 PROCEEDINGS』INTERNATIONAL CONFERENCE ON INFORMATION SYSTEMS, pp.407-418.. 4.. Grant T Savage,Timothy W. Nix,Carlton J, Whitehead,John D. Blair(1991) : 「Strategies for Assessing and Managing Organizational Stakeholders」『The Executive』Academy of Management,5 (2),pp.61–75.. 5.. 林克郎(2010) : 「権力と関心度のグリッドを利用したステークホルダー・マネジメント」 『プ ロジェクトマネジメント学会 2010 年度春季研究発表大会予稿集』プロジェクトマネジメン ト学会,pp.215-218.. 6.. 北田韶彦(2007): 『位相空間とその応用』朝倉書店.. 7.. 松坂和夫(1968): 『集合・位相入門』岩波書店.. 8.. 森田紀一(1981): 『位相空間論』岩波全書.. 9.. 岡田章(2011): 『ゲーム理論[新版]』有斐閣.. 10. Project Management Institute(PMI)(2017) :『A Guide to the Project Management Body of Knowledge (Pmbok Guide) –Sixth Edition』Project Management Institute. 11. Ruth Murray-Webster,Peter Simon(2006): 「Making Sense of Stakeholder Mapping」『PM World Today』8 (11),pp.1-4. 12. Smith, L. W.(2000) : 「Stakeholder analysis: a pivotal practice of successful projects」 『Proceedings of the Project Management Institute Annual Seminars & Symposium 2000』 Project Management Institute. 13. 田中史朗(2013) : 「個人 PM におけるステークホルダー分析」 『プロジェクトマネジメント学 会 2013 年度春季研究発表大会予稿集』 ,プロジェクトマネジメント学会,pp.168-171. 14. 吉岡剛志(2019):「定量化できない利得を数学的に取り扱う一手法. - 位相空間論を用い. たゲーム理論における戦略形ゲームの考察 -」 『ビジネス・マネジメント研究』日本ビジネ ス・マネジメント学会,15,pp.1-9. 15. 吉岡剛志(2020):「定量化できない利得を数学的に取り扱う一手法Ⅱ. - 一般化した戦略. 形ゲームの意義と有益性について -」 『ビジネス・マネジメント研究』日本ビジネス・マネ ジメント学会,16,pp.45-50.. 62.
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