「労働市場基底説」に関する考察 ─山崎亮一氏の著作に学んで─
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(2) 「労働市場基底説」に関する考察. 49. 思える.これについては,違和感がある.後述の通り,. いう問題である.これは後述する.もう1つは,山崎. 後発資本制国でも,①と③と④は同時に起こる事象と. 氏のように本源的蓄積の完了=「農家人口の枯渇」を. して理解すべきというのが筆者の「資本論」体系理解. 前提にすれば,少なくとも後発資本制国では,「資本. である.焦点は②「農家人口の枯渇」であろう.資本 主義確立」後長期にわたる資本の有機的構成高度化と 主義形成の一連の展開の中で,これを設定したことに 相対的過剰人口法則が「抑制される」期間を設定す 山崎氏の議論の独創性が際立つわけだが,「資本論」 ることになる.なぜならば,この時代の後発資本制 体系の中に正当に位置づけ得るのであろうか.この点 国では家族農民経営が広範に存在し,「農家人口の枯 の検討は,山崎氏にあっては,『国富論』と『資本論』 渇」にまで達するのは相当長期の時間が必要となるか を比較検討することを通して,山崎(2014)の第1章 らである.実際,山崎氏によれば,日本の「農家人口 で行われている.結論として山崎氏は次のように述べ の枯渇」の時期は 1980 年代である.ただ,疑問なの ている.「こうして,『国富論』が有機的構成不変の蓄 は,相対的過剰人口法則の作動が抑制された社会体制 積を想定し,相対的過剰人口論を展開しえなかったの を「資本論」体系の中でどう把握すればいいのだろう は,そこで想定されている労働者像がフォーゲルフラ かという点である.このような前提では,産業革命= イ性を持たなかったからである.他方で, 『資本論』 機械制大工業の形成は進まず,資本主義はスタートで は労働者のフォーゲルフライ性を前提していたので相 きないということにならないのであろうか. 対的過剰人口論を展開しえた」(山崎 2014:26). 2)19 世紀イギリスにおける「農家人口の枯渇」 ここでの「フォーゲルフライ」は「自由」を意味す 把握 る言葉であるが, 「労働者のフォーゲルフライ性」と 第1の論点としての「農家人口の枯渇」についての は,労働者の人格的自由および生産手段からの自由 把握であるが,これについて山崎氏は山崎(2014)全 の二重の意味での自由を指すばかりではない.山崎 体では,戦後日本と 19 世紀イギリスの2カ所で具体 氏は, 「労働力の調達が資本の有機的構成高度化を通 的に論じている.ここでは,後者の「農家人口の枯 じて行われるようになるためには,2重の意味で自 渇」について検討する.山崎氏は,この点で主として 由(フォーゲルフライ性)な労働者の存在が前提であ 『資本論』第3篇絶対的剰余価値の生産の第8章「労 る」(山崎 2014:26)と述べたあと,この「2つの自 働日」における記述に依拠している.山崎氏は述べて 由」に加えて,「もう1つ,封建的束縛から解放され いる.「農村から都市へのこの労働力移動の終了の時 た農民(非資本制部門)が労働力給源になっているう 期については,『資本論』第1巻の労働日に関する第 ちは,労働力は資本制人口法則が機能するまでもなく, 8章が,イギリス下院におけるフェランドの 1863 年 そういった給源から容易に調達されるので,資本の有 の演説を引用しながら,次のように述べている.す 機的構成高度化による相対的過剰人口の創出を通じた なわち,1834 年の工業における労働力不足の折には, 資本制労働力調達機構は機能する必要はない」(山崎 農村から都市への労働力供給が見られた.だが,1860 2014:26)という理由で,「農家人口の枯渇」を労働 年にはそれはもはや困難であった.そして,こうした 者の二重の意味での自由に結合させ,事実上3つの事 農村における労働力の汲み尽くしとともに,工場主は 象を前提条件に資本の有機的構成高度化は行われると 救貧院役場に貧児と孤児の代替的な労働力供給を請 指摘している.そして,山崎氏は次のように指摘する. 願した,と」 (山崎 2014:27-28) .そして,山崎氏は 「資本制部門が非資本制部門から供給される潤沢な 「イギリスでは 1830 年頃に,農村を給源とする労働力 労働力を低賃金で雇用しうるうちは,労働節約的技術 の汲みつくしと土地との結びつきを持たない近代的な を導入してそれを使用することに対する資本制的な制 労働者階級の形成,さらには有機的構成高度化を通 限の論理がはたらき,その結果として,相対的過剰人 じた資本制人口法則の確立が見られた」(山崎 2014: 口の創出による資本制的な労働力調達メカニズムは, 28)と結論付けている. その作動が抑制される.こうしたことから,資本制人 まず,筆者としては,山崎氏が「農村を給源とする 口法則が機能する前提として,こういった給源からの 労働力の汲みつくし」を 1830 年頃と設定したことに 労働力供給が枯渇することが必要なのである」(山崎 疑問を感じる.山崎氏が参照した『資本論』の該当箇 2014:26). 所にあるように,1830 年頃には農業地方には「過剰 問題は山崎氏が本源的蓄積の完了=「農家人口の枯 人口」が存在し(マルクス 1977:349【283】 ) ,山崎 渇」と把握している点にある.ここでの論点は,二つ 氏が指摘したように農村労働力の工業地帯への供給が ある.1つは,「農家人口の枯渇」をどう捉えるかと 行われたのである.なぜ,「過剰人口」を供給してい.
(3) 50. 農業問題研究 第 50 巻第 2 号[通巻第 83 号] 2019. 1. るのに「汲みつくし」なのであろうか.そもそも,こ. 在することを指摘しているのである.. れらの記述箇所は,絶対的剰余価値の生産を論ずる第 3篇にあり,労働力を食いつぶす資本の野蛮な行動を. この「衰退しつつある・時代遅れの・生産様式」の. 糾弾する部分である.農家人口の枯渇現象を体系的に 主たる部分は,フランス・ドイツの家族農民経営の生 論じているわけではない.この部分では,「農家人口 産様式で,おそらく農家人口が枯渇しないで,農家労 の枯渇」を明示的に把握しつつ議論を展開していると 働力が資本制工業部門に供給され続けていたであろう. はとても言えないのである. この場合でも「資本主義的支配体制」は農民層を間接 また,山崎氏の論理からすると,「過剰人口」を供 的に支配するとマルクスは考えているのである.こ 給し農家人口が「枯渇」した後,資本の有機的構成が の「支配」の法則こそ相対的過剰人口の法則であろう. 高度化し,相対的過剰人口法則が発動されるはずであ したがって,山崎氏の理解と異なり資本主義の確立後, る.「過剰人口」が供給される時期と,有機的構成高 広範な家族農民経営の存在を前提とし農家労働力の供 度化などの時期とがともに 1830 年頃だという山崎氏 給が続けられながらも相対的過剰人口の法則は貫徹さ の上述の指摘は矛盾を含んでいるのではなかろうか. れるというのが,マルクスの考えであったと思われる. 結局, 『資本論』の該当箇所は,相対的過剰人口法 3.山崎氏の賃金論 則下の「過剰人口」が把握されているのではなかろう か.1830 年代は,18 世紀後半から開始された世界で 1)議論の土俵 最初のイギリス産業革命の完了の時期にあたり(角 次の論点,賃金論の考察に移ろう.繰り返すが,山 山 1992:531) ,資本主義の確立の時期である.した 崎氏の最近の主張のひとつは,1980 年代を境に日本 がって,上述の「過剰人口」は,山崎氏のいう相対的 経済は「農家労働力依存型から失業者依存型へ」転換 過剰人口法則発動前の「農家人口」ではなく,まさに, し,その過程は同時に「日本的低賃金」という農業所 その発動の下の「相対的過剰人口」 (潜在的過剰人 得との合算で家計費をやっと賄い得る程度の低賃金の 口)ではないのだろうか.周知のように,マルクスは, 解消過程であったという指摘である. 『資本論』第 23 章で資本主義的な農業生産力の発展に ここでの議論において注意が必要なのは,議論の土 よって農村における潜在的な過剰人口が形成されるこ 俵の問題である.山崎氏の著書の読者にとって,その と,また彼らは低賃金にあえいでいるので常に農外の 若年者を除けば,氏の 1996 年の著書『労働市場の地 労働者として流出する機会を待ちつつ農業に従事して 域特性と農業構造』 (以下,山崎(1996)と呼ぶ)に いることを指摘しているのである(マルクス 1978: おける田代洋一氏「特殊農村的低賃金」批判が記憶に 112-113【671-672】). 刻み込まれている.1970 年代農民層分解論・論争の 3) 「資本論」体系における本源的蓄積・相対的過 中で,田代氏の特殊農村的低賃金論は農村の滞留構造 剰人口法則 の存在とそれに規定される両極分解の困難を示し,当 本節を終える前に,念のため,マルクスの本源的蓄 時両極分解の進展を主張した梶井功氏らや近代経済学 積と相対的過剰人口法則のとらえ方について筆者な 研究者の議論と対峙した.このような中で田代氏の特 りに整理しておく.マルクスは,本源的蓄積を「資 殊農村的低賃金論に対し,その地域性把握の欠落を指 本主義的蓄積に先行する」蓄積(マルクス 1978:201 摘したのが山崎(1996)であった.したがって,氏が 【741】 )と明確に述べ,資本主義の確立後も続く本源 「日本的低賃金」という場合,しかも,山崎(1996) 的蓄積という想定はしていない.だから「ヨーロッパ で使用した三重県亀山市の調査のデータを踏まえての の西部,経済学が生まれた国では本源的蓄積の過程 議論である場合,この「特殊農村的低賃金」と深く関 は,多かれ少なかれすでに完了している」(マルクス わる概念として,古い読者は思い込んでしまうことに 1978:261【792】)と『資本論』執筆の 1860-1870 年 なるのだが,実はこの両者は全く別物であると理解す 代に,述べているのである.また,同じ箇所でマルク ることが重要である.田代氏の特殊農村的低賃金概念 スは「資本主義的支配体制は国民的生産全体をすでに は,日本の農民層分解の理解のための概念であるのに 直接にじぶんに従属させている」国以外にも,「諸関 対し,山崎氏の「日本的低賃金」概念は日本経済の低 係がまだ未発展であるところでは,この体制のかたわ 賃金構造を理解するためのツールなのである. らに存続してはいるが衰退しつつある・時代遅れの・ そして, 「日本的低賃金」は氏にあっては「今日, 生産様式にぞくする諸社会層を,少なくとも間接的に それは解消した」 (山崎 2014:148)とされる.解消 支配している」(マルクス 1978:261【792】)国も存 の開始時期として,氏が指摘するのは,1980 年代半.
(4) 「労働市場基底説」に関する考察. ばである.山崎氏は次のように述べている.. 51. のように定義した低賃金が「切り売り労賃層」の賃金. 「以上,…地域労働市場の構造変化を軸に 1980 年代. だけに限定され,野中(2008)が指摘した,東北の男. の転換を見た.地域労働市場で青壮年男子に「切り売. 子恒常的勤務者の低賃金が除外されている点について. り労賃」が層としては検出しがたい地域があり,しか は理解に苦しむ.野中氏は,近畿の男子青壮年層の恒 もそのような地域が徐々に拡大しつつある,という事 常的勤務賃金は平均的には世帯全体の家計費を賄いう 実を日本的低賃金の解消過程として論じたのである. るのに対し,東北の男子青壮年層の恒常的勤務賃金は そして,このことは…全国の雇用者に農家出身者の占 成人1人あたり家計費に均衡する程度なので,後者の める比重が,ストックで見ても新規雇用者で見ても圧 場合家族総働きの家族規範を前提とせざるを得ない 倒的にマイナー化してきている,ということを同時並 「低賃金構造」であると指摘していた. 行で進行している.つまり,男子青壮年層における 山崎氏の低賃金規定は,上述のように農業所得など 「切り売り労賃層」が消滅している地域の拡大と日本 との合算を前提とする低賃金である.これと似た低賃 的低賃金の解消は,農外への労働力給源としての農家 金把握は多くの論者が行っている.例えば,田代氏は, 人口が枯渇していることを示す社会現象である」(山 農村を基盤とする低賃金の形成メカニズムに小農経営 崎 2014:166-170) に特有の家族協業=家族総働きがあり,それに基づ 以上の引用でもはや明確であろうが,山崎氏の考察 く「価値分割」=「合算を前提とした低賃金」を指摘 は,日本経済の賃金構造に与える農家出身者のプレゼ していた(田代 1984:208).これは,上述の野中氏 ンスの問題である.そのプレゼンスが 1980 年代には の低賃金規定と重なる.田代氏の把握と山崎氏の把握 決定的に小さくなったのだという認識が示されている. は,「価値分割」=「合算を前提とした低賃金」であ 日本の農民層における滞留構造の問題は考察の対象と る点は同じである.ただ,上述のように山崎氏の場合 なっていない点を確認しておきたい.山崎氏の議論を は「切り売り労賃層」のみに限定する.山崎氏の場合, 検討する場合重要なのは,変化する山崎氏の議論の土 個人単位での合算に基づく低賃金論であり,小農経営 俵について留意することである. に特有の家族協業→低賃金の論理が欠落している点に 2)低賃金論 は留意が必要である. 上述の引用部分から,①農外への労働力の給源とし ところで,田代氏の低賃金論は単なる「価値分割」 ての農家人口の枯渇,②農家出身労働力のプレゼンス =「合算を前提とした低賃金」論ではない.独占資本 の圧倒的低下,③日本的低賃金の解消,④「切り売り 主義段階特有の格差構造を前提とした低賃金でもある. 労賃層」の全国的消滅,を山崎氏にあっては一体的に 田代氏にあっては,低賃金は二重の意味で把握されて 理解されていることが読み取れるが,①→②→③は論 いたことになる.一つは,「価値分割」=「合算を前 理としては理解可能であるが,④「切り売り労賃層」 提とした低賃金」であるが,もう一つは独占資本の高 の全国的消滅と他の要素との論理的脈略は難解である. 賃金を頂点とする格差構造の中の低賃金である(田代 例えば,切り売り労賃層の全国的消滅と日本的低賃金 1980:255) .しかも,この格差構造の主たる要因は田 との関係であるが,山崎氏にあっては,「切り売り労 代氏にあっては,独占利潤の存在とその賃金への移転 賃層」の賃金を低賃金の典型として把握し,その消滅 におかれていた.筆者も田代氏の低賃金理解の立場に が低賃金解消の有力な根拠とされている. 立つ. そもそも,山崎氏にあって低賃金をどのように把握 山崎氏の場合は,前者のみのシンプルな規定であり, されているか.これについては,氏は次のように定義 そのような独占資本主義的格差構造の存在について言 している. 及されていない.近年,わが国の相対的貧困率が先進 「この語(低賃金─山本)は,賃金が相対的に低い 国の中でも高く,その率の上昇も指摘されている中で ことを示す語であるが,その一方で,比較する対象を (橘木 2016:123-124) ,格差構造の存在を前提とした 特定しないで用いる場合には,資本が労働者に対して 議論をしないのはなぜか疑問である. 正常な労働力再生産費を支払っておらず,その一部を 3)相対的過剰人口法則下の賃金論 非資本制部門に対し外部化している状態と規定する.」 そ の 他 い く つ か の 疑 問 点 が あ る. 一 つ は, で は (山崎 2014:147) 1980 年代以降は低賃金ではないのかという疑問であ ここで指摘されているのは,農業所得など第1次産 る.これの山崎氏の回答は,相対的過剰人口法則下の 業の所得と合算して労働力の再生産費をカバーしうる 低賃金という把握であろう.1980 年代以降において 程度の賃金を「低賃金」だという点である.ただ,こ は,山崎氏は相対的過剰人口法則に基づく賃金論を.
(5) 52. 農業問題研究 第 50 巻第 2 号[通巻第 83 号] 2019. 1. メインとする.「メインとする」というのは,山崎氏. 析の結果として資本主義の本来的な矛盾の増大とその. は相対的過剰人口法則という「資本主義の一般理論」. 限界が露わになることが期待されるのであるが,この. (北原勇・伊藤誠・山田鋭夫 1977:21)の直接的な適. 点でも疑問を感じる部分がある.それは,資本の農業 用を補完する形で,現代資本主義(独占資本主義)の への作用が強い,氏のいう「近畿型」地域での両極分 論理も部分的に適用されるからである.氏は次のよう 解とその延長線上での高収益の農業法人形成の可能性 に述べている. を主張している点である(山崎 2015:240-243) .一 「…以上でその存在を主張してきた第2の転換は, 方で,「農地の保全・利用の問題」の深刻化という 国内の資本蓄積が相対的過剰人口法則の基礎上で展開 「近畿型」地域における農業の衰退傾向を指摘する箇 する画期となった,という意味で,今後の日本社会の 所も存在するが(山崎 2015:138) ,その位置づけは あり方を展望するうえできわめて重要な意味を持って 弱い.筆者は,現状の資本と日本農業の枠組みの中で いるといえよう.このことは,相対的過剰人口論の帰 は「近畿型」地域について,農業の衰退を支配的傾向 結が,資本制的蓄積の一般法則,すなわち勤労大衆の として把握するのが,正しいと思う1).もちろん,部 窮乏化であることを想起すれば明らかであろう」(山 分的には高収益の農業法人は形成されるが,そのプレ 崎 2014:196-197) ゼンスの増大には大きな限界がある.現状は「近畿 機械など労働手段装備の充実,つまり資本の有機的 型」に限らず,地域差はありつつも全国レベルでも衰 構成の高度化を図り,失業者を形成し低賃金構造を補 退傾向は強まっている.したがって,2015 年農林業 強するという趣旨の賃金論である.ところが,1980 センサス分析の結果による,「日本農業が本格的な縮 年代以降は相対的過剰人口法則が発動し始めたと言い 小再編に突入した」(安藤 2016:113)という指摘は ながら,山崎(2014)終章で,それが「今日,十分に 正当であろう2).もちろん,再生の論理を理論化する 機能していない可能性がある」(山崎 2014:284)と ことは求められる.ただ,それは,現在の資本と日本 指摘している.理由は,「今日技術的腐朽性を強める 農業の枠組みの変革と深く結び合う議論でなければな 現代資本主義のもとで」(山崎 2014:284)の「資本 らないであろう. 制企業における固定資本の巨大化,独占価格の設定, 景気動向への国家の干渉」(山崎 2014:284)だとさ 注 1) 山崎氏は田代氏の特殊農村的低賃金における地域 れる. 性の欠落を批判し,「切り売り労賃層」が検出しえな 著書の最終盤で,このような指摘に接したとき,読 い「近畿型」といまだ「切り売り労賃層」が検出でき 者はどのように理解すればいいのであろうか.いった る「東北型」の2つの類型の差異に注意する問題提起 い全体,山崎氏の主張において,今日,相対的過剰 を行い,筆者もそれに基本的には賛意を示した(山本 人口の法則は作動していると把握していいのかどう (2008) ) .ただ,その時,上述のようにこの山崎氏の か,それを前提とした「窮乏化」はどうなるのか.山 類型化基準が「切り売り労賃層」の存否のみであった 崎氏がこのような不安定な対応を行っている背景に 点について言及しなかった点は不十分であった.また, は,資本の有機的構成の代理指標である,労働装備率 「近畿型」における農外労働市場構造の再編と軌を一 が 1990 年代後半以降停滞的・下降的に推移している にして農業の衰退傾向が深まったことも,同時に指摘 という山崎氏自身が発見した事実の存在がある(山崎 すべきであった.なお,このような労働市場展開地帯 2014:180).そこで急遽持ち出されたのが,現代資本 における農業衰退傾向の指摘は磯辺俊彦氏らが行って 主義(独占資本主義)の論理である.山崎(2017)で いる(磯辺 1993:60-62). は,その正当性をレーニン『帝国主義』の記述に置く 2) このような縮小再編を理解する枠組みとしては,保 のであるが(山崎 2017:123),独占資本主義におい 志恂氏の「三層の格差構造」の下での「農業解体の深 て,技術の発展的な時期とそうでない時期があるとい 化」の視点が今なお最も的確な把握であると筆者は考 うレーニンの言葉だけが内実であるような「独占資本 える(保志 1975:85) 主義論の理論」の適用はあまり説得力を持たない.. 4.結びに代えて このように山崎氏は,基本的には『資本論』に準じ た「資本主義の一般理論」を適用し,1980 年代を分 水嶺とする現代を描こうとする.したがって,その分. 参考文献 安藤光義(2016) 「本格的な縮小再編に突入した日本農 業 2015 年農林業センサスから」『経済』2016 年9月 号 No252. 星勉・山崎亮一(2015)『伊那谷の地域農業システム─.
(6) 53. 「労働市場基底説」に関する考察. 宮田方式と飯島方式』筑波書房. 保志恂(1975)『戦後日本資本主義と農業危機の構造』 御茶の水書房. 磯辺俊彦(1993)「農業生産力構造の組立て」『日本農業 論』有斐閣. 北原勇・伊藤誠・山田鋭夫(1978)『現代資本主義をど う視るか』青木書店. マルクス K(1977) 『学習版資本論』第1巻第1分冊 ① あ ゆ み 出 版( 本 文 の【 】 は, 原 書 で あ る ド イ ツ社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レー. 野中章久(2008) 「東北の在宅兼業の動向と恒常的勤務 の農村的性格」『労働市場と農業─地域労働市場構造 の変動の実相』筑波書房. 橘木俊詔(2016)『21 世紀日本の格差』岩波書店. 田代洋一(1980)「戦後日本の農民層分解」『日本農業の 理論と政策』ミネルヴァ書房. 田代洋一(1984)「日本の兼業農家問題」『先進国農業の 兼業問題─日本とヨーロッパの国際比較─』富民協会. 角山栄「産業革命」(1992)大阪市立大学経済研究所 『経済学辞典第3版』岩波書店.. ニン主義研究所編 集の Karl Marx-Friedrich Engels. 山本昌弘(2008) 「関東における地域労働市場と農民階. Werke, Band23, Das Kapital, Kritik der politischen. 層構造─ 1990 年代の構造」『労働市場と農業─地域労. Okonomie, Buch I, Dietz Verlag, 1962 のページを示 す). マ ル ク ス K(1978) 『学習版資本論』第1巻第3分 冊③あゆみ出版(本文の【 】は,原書であるドイ ツ社会主義統一党中央委員会付属マルクス=レー. 働市場構造の変動の実相』筑波書房. 山崎亮一(1996) 『労働市場の地域特性と農業構造』農 林統計協会. 山崎亮一(2014) 『グローバリゼーション下の農業構造 動態─本源的蓄積の諸形態─』御茶の水書房.. ニン主義研究所編 集の Karl Marx-Friedrich Engels. 山崎亮一(2017) 「誌上討論 山崎亮一著『グローバリ. Werke, Band23, Das Kapital, Kritik der politischen. ゼーション下の農業構造動態』に対する山本昌弘氏の. Okonomie, Buch I, Dietz Verlag, 1962 のページを示. 論難に応える」『農業経営研究』第 54 巻第4号.. す) . 内閣府(2016)『平成 28 年版経済財政白書』日経印刷株 式会社.. (2017 年5月8日受付) (2018 年4月 27 日受理). 要旨:本稿では,山崎亮一氏の「労働市場基底説」について,山崎理論と「資本論」体系との関係,及び賃金論 に分けて考察した.前者については,特に「資本論」体系における「農家人口の枯渇」について探求した.賃金 論については,議論の土俵,東北男子恒常的勤務の低賃金,独占利潤の価値移転と賃金構造などについて検討し た.これらを踏まえ,最後に資本と日本農業との関わりについて検討した. キーワード:労働市場基底説,農家人口枯渇論,賃金論,独占利潤.
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