高校生におけるスマートフォン依存傾向が時間管理を媒介
して先延ばし行動に与える影響
○難波 菜摘 福岡 欣治 (川崎医療福祉大学) (川崎医療福祉大学) キーワード:先延ばし,時間管理,スマートフォン依存,高校生 問題と目的 やらなければならないことを後回しにしてしまうこ とを「先延ばし(procrastination)」という。先延ばしの 定義として,Solomon & Rothblum(1984)は,学業場面について,「主観的な不快感を経験する時点まで,不 必要に課題を遅らせる行為」としている。また,Lay (1986)は,日常的な先延ばしを「何らかの達成する 必要がある課題を遅らせること」と定義している。 日本での先延ばし研究は,海外と同様,大学生の学 業面を中心におこなわれてきた。ただし,先延ばし自 体は学業面に限らず日常生活全般にみられる。林(2007) は Lay(1986)の General Procrastination Scale(GPS) の日本語版を作成し,抑うつとの関連等を報告してい る。また,大学生のみならずそれ以前の年代において も重要である。特に高校生は,中学生に比べて学業面 の負担が増える一方,スマートフォンの個人使用がい っそう本格化する時期であり(総務省, 2019),日々の 課題を遅延なく進めることが求められる。 先延ばしに関連すると考えられる要因に,時間管理 とスマートフォン依存を挙げることができる。時間管 理は,目標を達成するために時間を効率よく利用する 行動であり(Cassens et al., 2007),大学生を対象とした 研究において先延ばしとの関連が報告されている(井 邑他, 2016)。スマートフォン依存は,過剰使用や使用 制御の困難,使用しない場合のイライラや不安などが 問題視される(館農, 2019)。スマートフォン依存の状 態になった場合,時間管理が困難になると考えられる。 以上をふまえ本研究では,高校生の日常生活全般に おける先延ばしに着目し,スマートフォン依存,時間 管理,先延ばしの関係について検討する。本研究の仮 説は,図 1 に示すように,スマートフォン依存傾向に ある人は時間管理が困難であるために先延ばしをしや すい(スマートフォン依存傾向が低い人は時間管理が できるため先延ばしをしにくい)というものである。 図 1 変数間に仮定される基本的な関連性 方 法 対象者 岡山県内の私立X高校の 1 年生 178 名を対象とし, 157 名から有効回答を得た(有効回答率 88.2%;男性 77 名,女性 80 名,平均年齢 15.59 歳,SD=0.49)。 測定内容 先延ばし 学業面に限定されない一般的な先延ば し傾向を測定するために,林(2007)の GPS 日本語版 を用いた。13 項目 1 因子から構成され,自分自身にど の程度あてはまるか,5 件法で回答を求めた。 時間管理 井邑他(2016)を用いた。目標を達成す るために時間を効果的に使用する行動を測定し,「時間 の見積もり」8 項目,「時間の活用」6 項目,「その日暮 らし」5 項目(逆転処理される)の 3 下位尺度計 19 項 目からなる。回答方法は先延ばしと同じ 5 件法とした。 スマートフォン利用 利用の有無および平日と休 日それぞれの利用時間をたずねた。 スマートフォン依存傾向 戸田・西尾・竹下(2015) を用い,スマートフォン利用者に回答を求めた。各 7 項目の「ネットワークコミュニケーションへの没頭」 「スマホの優先と長時間使用」「ながらスマホとマナー の軽視」の 3 下位尺度計 21 項目からなる。回答方法は 先延ばし,時間管理と同じ 5 件法とした。 実施手続き 高校の教員に実施依頼を行い,承諾が得られた場合, 授業後に対象者へ無記名の調査票と依頼状(倫理的配 慮について記載)を配布しその場で回収してもらった。 実施時期は 2020 年 10 月中旬であり,回答所要時間は 10~15 分程度であった。 結 果 スマートフォン利用状況 回答者の 99.4%(1 名を除く N=156)がスマートフ ォンを利用していた。利用者における 1 日あたりのス マートフォンの平均利用時間は,平日が約 2.4 時間, 休日が約 4.5 時間であった。また,平日では 4 時間以 上が約 20%,休日では 6 時間以上が約 25%みられた。 尺度の項目分析と信頼性の確認 先行研究はいずれも大学生を対象として実施されて
尺度 得点範囲 平均値 標準偏差 先延ばし 13-65 40.51 8.79 時間管理 時間の見積もり 8-40 24.13 5.91 時間の活用 6-30 16.63 5.23 その日暮らし 4-20 9.96 3.54 スマートフォン依存 ネットワークコミュニケーション 7-35 13.13 5.06 スマホの優先と長時間利用 7-35 18.65 6.71 ながらスマホとマナーの軽視 6-30 15.72 5.78 いるため,まず項目毎に度数分布を確認し,偏りのあ ったスマートフォン依存の1項目(授業中や仕事中に スマホを使う)を削除した。さらに,Cronbach のα係 数を算出したところ,時間管理の「その日暮らし」の み,IT 相関が極端に低く不適切であった 1 項目(予定 を入れすぎないようにしている)を削除した上で 0.66 であった。しかし他は 0.7―0.8 の範囲内であり,やや 低いものも含めいずれも使用には耐えうると判断した。 記述統計量と個人属性よる差異 項目分析を経て採用した項目の単純加算により尺度 得点を算出し,まず性別によるt検定をおこなった。 その結果,時間管理の 3 下位尺度についていずれも女 性の方が有意に高得点であった(t = 2.48―4.01, p < .05 ―.001)。他の尺度には有意差は認められなかった。 また,スマートフォン利用者について,平日および 休日のスマートフォン利用時間による尺度得点の違い を検討した(分布を勘案して各 4 群を設定し,1 要因 分散分析)。その結果,平日ではスマートフォン依存の 「ネットワークコミュニケーションへの没頭」(n.s.) を除く 6 尺度,休日でも有意傾向(p < .10)であった 2 尺度(時間管理の「時間の活用」とスマートフォン 依存の「ネットワークコミュニケーションへの没頭」) を除く 5 尺度において,有意な主効果が認められた(F > 2.81, p < .05―.001)。Bonferroni 法による多重比較の 結果,概して長時間利用者ほど先延ばしの傾向が強く, 時間管理ができない傾向が認められた。 表 1 各尺度の記述統計量 先延ばし,時間管理,スマートフォン依存の相互関係 尺度間の相関関係を検討した。性別を統制した偏相 関係数も算出したが顕著な影響はなかったため,単相 関係数の結果を示す(表 2)。先延ばしは時間管理の 3 尺度とは負,スマートフォン依存の各 3 尺度とは正の, いずれも有意な相関がみられた。時間管理とスマート フォン依存の間にも,「ネットワークコミュニケーショ ンへの没頭」を除きおおむね有意な関連性があった。 相関分析の結果をふまえ,図 1 に示した関連性の仮 定に沿って変数を配置し,共分散構造分析をおこなっ た。その結果,図 2 に示すとおり,スマートフォン依 存の中で特に「スマホの優先と長時間使用」が時間管 理の 3 尺度全てに有意な影響をもち,「時間の見積もり」 と「その日暮らし」から先延ばしに有意な影響を与え ていた。また「スマホの優先と長時間使用」から先延 ばしには時間管理を介さない直接の影響も見出された。 表 2 変数間の相関係数 図 2 先延ばし,時間管理,スマートフォン依存の 関係に関する共分散構造分析の結果。 考 察 本研究の結果は,仮説を基本的に支持するものと言 える。すなわち,スマートフォン依存傾向が時間管理 の困難を生じさせ,結果として日常生活全般の先延ば しにつながることが示唆される。なお,下位尺度とし て特に「スマホの優先と長時間使用」が時間管理を媒 介した間接的影響のみならず,直接的な影響を先延ば しに対して及ぼしていた。スマートフォン利用時間が 本研究で用いた尺度得点とそれぞれ有意に関連してい たことから,先延ばしおよび時間管理に対する実際的 な対策として,まずはスマートフォン利用時間を一定 範囲内に抑えることが有効であると考えられる。 ■本発表の調査は,発表者の所属学科が定める倫理指針に沿ってお こなわれました。新型コロナウイルス禍の中,ご協力くださった 高校の先生方と生徒の皆さまに,心より深く御礼申し上げます。 ■本研究の遂行にあたり,利益相反関係にある企業等はありません。