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Academic year: 2021

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(1)◇コメント◇ 関西学院大学経済学部 東田 啓作. 貿易の自由化が進むにつれて「生産工程での環境影響などに関する情報」 を,市場を通じて消費者に伝える仕組みが広まってきた。環境に限らず,労働 基準,人権問題,地域社会の持続性など広く外部性の内部化や公共財の提供を 行うものが持続可能性認証制度である。政府による規制とは異なり,民間機関 によって行われる認証(プライベートスタンダード)であるため,現時点 では世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)の貿易の技術的障害に関 する協定(Agreement on Technical Barriers to Trade: TBT)や衛生植物検疫措置 の適用に関する協定(Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures: SPS)の直接の対象とはなっていない 1)。 この認証制度には生産者と消費者の間の情報の非対称性を取り除くという 重要な効果がある。環境負荷の低減や労働基準の順守に対してプレミアムを 支払う意思のある消費者は,認証製品の価格が高くても購入する。このこと が生産者に高いコストを支払ってでも認証を取得しようとするインセンティ ブを与える。一方で,認証を取得するためのコストを支払うことができない 生産者に対して,市場への参入障壁,つまり貿易障壁となる問題が指摘され ている。特に開発途上国の小規模生産者がこの問題に直面する可能性が高い。 この持続可能性認証制度がその本来の目的通り,政府の規制では対応でき ない外部性の内部化や国際公共財の供給を行うことができているのか,また 貿易障壁となって開発途上国の生産者が先進国市場へ参入することを困難に するのか,といったイシューに対する研究が過去 20 年にわたって政治学,法 学,経済学などの幅広い分野で蓄積されてきている。しかし,データ利用の 制約などもあり,まだ明らかにできていない点も多い。どのように制度を運 用するのか,あるいは異なる制度をどう調和させていけばよいのかといった 1). SPS 協定において,SPS に関連するプライベート・スタンダードの定義などについ ての議論は行われてきている。たとえば,内記(2015)を参照されたい。. 52.

(2) 持続可能性認証と国際貿易. ことについて,コンセンサスができているとはいいがたい。道田氏はこの未 解決の問題に焦点を当て,これまでの研究を丁寧にサーベイし,現時点での 課題を明らかにしている。また,パーム油の認証制度である Roundtable on Sustainable Palm Oil(RSPO)を例に挙げて,課題の重要性を浮き彫りにして いる。 道田氏の焦点と貢献は以下の 4 点である。第 1 に持続可能性認証の広まりの 国際貿易への影響である。まず民間認証,あるいは政府の農産物規制や食品 規制の貿易への影響についての実証分析を概観している。これらの結果は対 象とする財や国・地域で異なってくる。輸入国の規制や認証取得要求に対し て輸出国の生産者が適応できるかどうかは,企業や農家の規模,あるいは市 場構造によって異なってくるためである。そのうえで,安定的に実施される 規制と異なり民間認証取得の要求は市場や顧客により変化しうること,およ び規制の目的が社会厚生最大化であるのに対し認証基準設定の目的は認証に よって異なっていることに言及している。データの利用可能性次第であるが, 輸入国市場への参入のために取得可能な認証制度の数や認証基準のバラエ ティが貿易量に与える影響を分析することは,この分野の一つの発展の方向 となり得る。 第 2 に生産への影響である。前述の通り情報の非対称性が取り除かれる効 果により,認証取得は消費者へのアクセスを高めることにつながる。一方で, 認証取得費用が高いと市場参入への障壁ともなり得る。このことから,生産 者(企業や農家)の規模が認証取得の可否を決める要因となっていることが, 既存研究をもとに述べられている。さらに,持続可能性認証の取得が本来の 目的である環境,労働基準の改善といったことにつながるかどうかに関する 研究にも言及している。 第 3 に消費への影響,あるいは市場構造と持続可能性認証制度との関連で ある。まず持続可能性認証ラベルが消費を促進するかどうかについての研究 のサーベイを行っている。支払意思額の計測まで含めるとこの分野には多く の研究の蓄積があるが,消費者の行動について「持続可能性ラベルと消費の. 53.

(3) 関連性の認知」と「実際の消費行動」のリンクに言及している点は面白い。 さらに,市場支配力を持った小売業者の影響,認証制度を政府が利用するこ との影響,途上国市場の拡大と持続可能性認証制度の基準の変化の関係など についても踏み込んでいる。 最後に,最初の 3 つのポイントをパーム油の認証制度である RSPO に当ては めて考察を行っている。パーム油の生産や流通は,環境問題だけではなく労 働者の人権,土地の収奪などの問題なども引き起こす場合があるため,持続 可能性認証制度が重要な役割を果たし得る。 (i)生産されたパーム油に占める RSPO 認証油の比率が高く,またパーム油の多くは輸出されている,(ii)生産 に携わる農家には小規模農家も多く資本や情報を十分に保有していないため それらの農家の認証取得が進んでいない,(iii)流通・消費市場にはネスレな どの大企業も参入しており,また途上国市場の規模も大きい, (iv)EU のエネ ルギー環境政策に利用されている一方で,基準が厳しすぎるとしてインドネ シアやマレーシア政府が独自の認証制度を実施している(それぞれ ISPO, MSPO) ,など持続可能性認証に関するイシューをすべて含んでおり,持続可 能性認証制度に関する一般的なイシューを具体的に理解することができる 2)。 以下では論文中ではとりあげられていない文献を引用しつつ,今後の道田 氏とこの分野の研究の発展のために 4 点コメントを述べたい。 第 1 に,貿易への影響についてである。政府による規制と異なり民間の認 証は一つではない。どの持続可能性認証がどのような基準を満たしているの かが消費者にとっては分かりにくい場合がある。また,先進国の資本規模の 大きな企業・農家と開発途上国の小規模零細企業・農家とに同じ水準の認証 取得を求めることは,後者にとっての参入障壁を高めることにつながる。こ のような観点から重要になってくるのが相互承認(Mutual Recognition)であ る。例えば,持続可能性認証に関する研究ではないものの,An and Maskus (2009)は製造業のデータを用いて,製品検査などの手続きの相互承認が貿易 ISPO や MSPO 設立の経緯やガバナンスの問題については,Shleifer(2016),道田 (2018),Hidayat et al.(2018)などを参照されたい。. 2). 54.

(4) 持続可能性認証と国際貿易. を促進する効果を持つことを実証している。食品規格では,2000 年に設立さ れた世界食品安全イニシアチブ(Global Food Safety Initiative: GFSI)が世界全 体に存在する多くの食品規格のベンチマーキングを行っている 3)。持続可能性 認証の望ましい相互承認のルールを確立することは,小規模企業への参入障 壁を減らしつつ認証のメリットを生かすために必要である。理論および実証 の両面からの研究が望まれる。 第 2 に持続可能性認証が広まることの生産者への影響である。前述の通り 一般的には認証取得コストが大きいことから,小規模生産者,特に開発途上 国の小規模農家にとって,先進国市場に参入する際の障壁となり得る。しか し,Colen et al.(2009)は,セネガルのマンゴーとさや豆の農業のデータを用 いて Global G.A.P 認証の取得が農業労働者の雇用条件を改善したことを検証 している 4)。Andersson(2019)がやはり Global G.A.P. のデータを用いてグラビ ティモデルによって認証取得の貿易に与える効果を検証している。国・地域 での認証取得数の増加は EU への輸出が増えること,および低所得国のほうが 効果が大きいことを示している。これらの結果は必ずしも認証制度が小規模 生産者にとってプラスの効果をもたらすことを示しているわけではない。ま た,Tran and Goto(2019)はベトナムの小規模緑茶生産農家のデータを用いて, 持続可能性認証を取得した農家の販売価格や所得が増加したことを検証して いる。これについても小規模農家間の比較であるため,大規模農家に比べて 認証取得への障壁が高いかどうかは明らかではない。しかしこれらの研究は, 持続可能性認証制度が開発途上国の小規模生産者に利益をもたらす制度であ り得ることを示唆している。認証制度取得と貿易を促進する生産規模,生産 構造,労働契約,生産者と流通業者との契約制度などについて,より詳細な 研究が期待される。これは小規模農家も多く,また伝統的なコミュニティー が存在する地域で生産が行われることもあるパーム油の認証にとっても重要 3) 4). GFSI については,この機関のウェブサイトを参照されたい(https://mygfsi.com/)。 Global G.A.P. についてはこの認証機関のウェブサイトを参照されたい(https://www. globalgap.org/uk_en/)。. 55.

(5) なポイントである。 第 3 に消費者行動と持続可能性認証制度についてである。道田氏は,中国 やインドなどの新興国市場の規模が相対的に拡大したこと,これらの市場で はまだ認証取得財に対する需要が大きくないことを指摘している。また, 「パーム油市場として重要な中国やインド市場では認証財にはほとんど需要が みられない」と述べている。一方で,実験的手法やアンケート調査の手法を 用いて消費者の環境配慮製品やオーガニック食品などに対する支払意思額を 調査した最近の研究の中には,開発途上国の消費者もこれらの財にプレミア ム を 支 払 う 意 思 が 十 分 に あ る こ と を 示 し た も の も あ る(Tait et al. 2016; Thøgersen et al. 2019)。支払意思額が低く認証財に対する需要が存在しないの か,持続可能性に関する問題を知らないのか,持続可能性に関する問題とラ ベルとのリンクを認知できていないのかを明らかにするために,さらに多く の調査が必要である。 第 4 に持続可能性認証制度のあり方についてである。道田氏の研究目的に は「認証と貿易の相互関係の検討課題を議論する」と書かれているが,貿易 が認証制度に与える影響についての議論が少ない印象を受ける。新興国市場 規模の拡大のところで,生産国の持続可能性関連規制に与える影響について は触れられているが,認証制度がどのように変化していくのかについても掘 り下げた考察がほしいところである。1 点目のコメントと重複するが,相互承 認の議論も制度のあり方の観点から重要なポイントである。国境を超える外 部性の内部化や公共財の供給においては費用負担に関する合意が重要であり, 相互承認のルール次第でこの費用負担の配分が異なってくる。どのような国 際ルールの確立をどの機関が担っていくのか,あるいは GFSI のような民間機 関に任せていくのかについての研究の発展が望まれる。 最後に,今回の道田氏の報告は学際的に様々な視点が網羅されており,私 自身にとってとても良い勉強の機会となった。道田氏とコメントの機会を与 えていただいたプログラム委員の方々にこの場を借りて厚く御礼を申し上げ る。. 56.

(6) 持続可能性認証と国際貿易. 参考文献 An, G. and K.E. Maskus (2009), The impacts of alignment with global product standards on exports of firms in developing countries. World Economy 32(4): 552–574. Andersson, A. (2019), The trade effect of private standards. European Review of Agricultural Economics 46(2): 267–290. Colen, L., M. Maertens and J. Swinnen (2012), Private standards, trade and poverty: Global GAP and horticultural employment in Senegal. World Economy 35(8): 1073–1088. Hidayat, N.K., A. Offermans and P. Glasbergen (2018), Sustainable palm oil as a public responsibility? On the governance capacity of Indonesian Standard for Sustainable Palm Oil (ISPO). Agriculture and Human Values 35: 223–242. Schleifer, P. (2016), Private governance undermined: India and the roundtable on sustainable palm oil. Global Environmental Politics 16(1): 38–58. Tait, P., C. Saunders, M. Guenther and P. Rutherford (2016), Emerging versus developed economy consumer willingness to pay for environmentally sustainable food production: a choice experiment approach comparing Indian, Chinese and United Kingdom lamb consumers. Journal of Cleaner Production 124: 65–72. Thøgersen, J., S. Pedersen and J. Aschemann-Witzel (2019), The impact of organic certification and country of origin on consumer food choice in developed and emerging economies. Food Quality and Preference 72: 10–30. Tran, D. and D. Goto (2019), Impacts of sustainability certification on farm income: Evidence from small-scale specialty green tea farmers in Vietnam. Food Policy 83: 70–82. 内記香子(2015),「国際通商とプライベート・スタンダード― WTO・SPS 委員会での 議論と WTO 外の対応―」RIETI Discussion Paper 15-J-046.. 57.

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