オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴
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(2) 10. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. 2020. 1,300年程度,1回当たりの上下方向の地殻変動量は3m程. 山体崩壊によって生じた御殿場泥流(町田,1964;宮地ほ. 度と見積もられている(地震調査研究推進本部地震調査委. か,2004;山元ほか,2016)の堆積面である鴨 宮面が広く. 員会,2015) .. 分布する(大矢ほか,1991;山崎,1994).足柄平野東縁. しかし,断層活動履歴の詳細が明らかになっているのは. には大磯丘陵から流下する小河川によって形成された崖錐. 最近2回の活動に限られており,2,600年前以前の活動につ. や扇状地が断続的に分布する.また,平野東部には箱根東. いては活動時期の特定には至っていない.特に,5,000年. 京軽石層などの箱根新期軽石流堆積物から構成される残丘. 前以前については,丸山・斎藤(2008)が断層活動による. 状の高まりである千代台地が分布する.. 地層変位を報告しているほかは,後述する大磯丘陵周辺に. 他方,国府津―松田断層帯の東側には,中部∼上部更新. おける完新世段丘の研究(松島・新井,2003;宮内ほか,. 統から構成される大磯丘陵(町田ほか,1974;関東第四. 2003)などから可能性が提示されていたに過ぎず,さらな. 紀研究会,1987)と完新世海成・河成段丘面(遠藤ほか,. る検討が必要である.国府津―松田断層帯は断層形状の特. 1979;熊木・市川,1981;宮内ほか,2003など)が分布す. 徴から相模トラフを震源とする海溝型地震と同期して活動. る(第1図).完新世段丘面は縄文海進高頂期以降に段階的. する可能性が高いと考えられている(地震調査研究推進本. に離水してきたことが明らかにされており(遠藤ほか,. 部地震調査委員会,2015)が,同期するタイミングやメカ. 1979;松島・新井,2003;神奈川県,2003;宮内ほか,. ニズムは明らかになっていない.本断層帯と海溝型地震と. 2003),遠藤ほか(1979)は3∼4面に,宮内ほか(2003) は6. の関係性を理解するためにも,より長期にわたる国府津―. 面に段丘面を細分している.なお,第1図ではこれらの完. 松田断層帯の活動履歴を明らかにしていく必要がある.. 新世段丘面を細分せず,一括して図示している.. 本研究ではこのような問題点を踏まえ,従来,断片的な. 本断層帯の活動履歴については,これまでに山崎ほか. 可能性が指摘されていた完新世中期における国府津―松田. (1991), 山崎・水野(1999),神奈川県(2003・2004),丸山・. 断層帯の活動履歴について,足柄平野で掘削されたボーリ. 齋藤(2008) などの研究がある.神奈川県(2003・2004) は. ングコア試料を用いたオフ・フォールト古地震学的方法か. 曽我原地区(Loc. 2,第1図)で実施したトレンチ調査の結. ら検討を行った.平野南東部の3か所で掘削されたボーリ. 果から,最新活動時期をAD1,100∼1,350年頃(650∼900年. ングコア試料について層相観察,珪藻化石分析,火山灰分. 前)と推定し,それ以前の2,000∼2,400年前に1回,2,600∼. 14. 析および放射性炭素( C)年代測定を行い,それらの結果. 4,500年前に少なくとも2回の活動があったことを示した.. から復元された堆積環境変遷の対比に基づいて,断層活動. また,丸山・斎藤(2008)は曽我原地区(第1図)における. 履歴について考察した.. トレンチ調査・群列ボーリング調査から7,660±40yrs BP (8,540―8,390cal BP)以降に断層活動が生じたことを示し. 2.地域概観. た.国府津地区や曽我谷津地区(Loc. 3およびLoc. 1,第1 図)では山崎・水野(1999)により,トレンチ調査で複数の. 国府津―松田断層帯は大磯丘陵と足柄平野との地形境界. 地割れや地すべりが確認されており,2,800∼3,200年前頃. をなし,北西―南東走向に神奈川県大井町付近から相模. に断層活動によって形成された可能性が指摘されている.. 湾内に至る全長約35kmの逆断層である(第1図;大河内,. また,鴨宮面上で掘削されたボーリングコア試料(Loc. 4,. 1990;宮内ほか,2008,2009;森ほか,2010;地震調査研. 第1図) の解析からは,カワゴ平軽石(KgP,3,126―3,145cal. 究推進本部地震調査委員会,2015).反射法弾性波探査から,. BP,奥村ほか,1999;町田・新井,2003)の降下以降,富. 断層面は30°∼50°北東傾斜と推定されている(Sato, et al.,. 士砂 沢 スコリア(F-Zn,2.5∼2.8ka,町田,1964;町田・. 2005;地震調査研究推進本部地震調査委員会,2015).本. 新井,2003)の降下以前に,淡水生珪藻が減少して汽水生. 断層帯の上下方向における平均変位速度が鬼界アカホヤ. 珪藻が増加することから地震性の沈降イベントが生じた可. 火山灰(K-Ah;7.3ka;町田・新井,2003)や箱根東京軽石. 能性が指摘されている(山崎・水野,1999) .この沈降イ. 層(約66ka;青木ほか,2008)の高度差から推定されてお. ベントについては,最近,足柄平野内で掘削されたコア試. り,約0.5∼3.5m/1,000年の推定値が示されている(松島,. 料のCNS元素分析や花粉分析からも再確認されている(佐. 1982;山崎,1984;産業技術総合研究所,2008;地震調査. 藤ほか,2019).. 研究推進本部地震調査委員会,2015).. 他方,大磯丘陵側では断層活動の直接的な証拠は報告さ. 国府津―松田断層帯の西側に広がる足柄平野は,北西―. れていないが,約6,500yrs BP頃(7,400∼7,500cal BP頃) に. 南東方向に約12km,北東―南西方向に約4kmの大きさを. おける古中村潟の形成要因のひとつとして,地震性隆起が. 有し,以下の地形面から構成される(第1図).平野南部の. あげられている(松島・新井,2003).また,大磯丘陵を. 酒匂川と森戸川の間には,約2,500∼2,900年前に富士山の. 構成する地層起源の偽礫が淡水湖沼堆積物と推定される泥.
(3) 活断層研究 52号. オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. 11. 層中に多数混入することから断層活動に伴って斜面崩壊が. 孔口標高は5.57mであり,本研究では深度17.0m以浅を分. 発生した可能性が示されており,地層中から得られた年代. 析対象とした.コア試料の層相観察,珪藻化石,火山灰分. 測定値から5,300∼5,750yrs BP前後(6,000∼6,700cal BP頃). 析,14C年代測定を実施した.. に斜面崩壊が発生したと推定されている(松島・新井,. これに加えて,GS-ASG-3コアの周辺の計2地点で地質. 2003;米田,2003).. 調査所により掘削された既存ボーリングコア試料(M3, B-11コア)を対象として,珪藻化石分析,火山灰分析およ び14C年代測定を実施した.M3コアは1989年にGS-ASG-3. 3.試料と方法. コアの約300m南西で掘削されたコアで,掘削長25.0m, 孔口標高7.44mである(表1).また,B-11コアは1995年に. 3.1 ボーリングコア試料の概要 足 柄 平 野 南 東 部 の 北 緯35 °17 2.584 , 東 経139 °12. GS-ASG-3コアの約600m北東で掘削されたコアで,掘削長. 8.748においてGS-ASG-3コアを掘削し,オールコア試料を. 50m,孔口標高12.83mである(表1) .B-11コアは掘削長. 採取した(第1図,表1).孔径は86mm,掘削長は30.0m,. 50.0mのうち,深度27.0m以浅について分析対象とした.. 地形・地質分布 足柄層群. 更新世段丘. 箱根火山. 完新世海成段丘. 浜堤. 完新世河成段丘 御殿場泥流堆積面 (鴨宮面). 河川. 第四系 箱根軽石流堆積物. . ҅. ဋ. ≐. ޖ. 0. ࠘. 2 km. . ࡅ. 60. 㛵ᮏୣ㝠. 活断層. N. ૺ. 60. . 等高線 (m T.P.). 10. 活断層 ( 推定 ). 70. ޛ. 崖錐・扇状地. 50. ☾ୣ㝠. 50. 40. . 40. ᣒ. ≐. ѻ. 30. Loc.1. ⟽᰿ⅆᒣ. ߷. ㊊ᖹ㔝 20. Loc.2. . ᭮ᡃ㇂ὠ. ᭮ᡃཎ ༓௦ྎᆅ ౕ ৎ 㬞ᐑ㠃 ߷. ဋ. B-11 GS-ASG-3. Loc.4 M4. Loc.6. Loc.3. ૺ. Loc.5. M3. ᅜᗓὠ ޖ. ࠘ 調査地点 ボーリングコア掘削地点. ᑠ⏣ཎ. 既存研究の調査地点. ┦ᶍ‴. 第1図 足柄平野の地質・地形分布および主なボーリング調査地点の位置図.地形・地質分布は関 東第四紀研究会(1987),山崎(1994)および小田原ほか(2014)を一部改変して作成.国府津― 松田断層帯の位置は宮内ほか(2008・2009)に基づく. Fig. 1 Geomorphological and geological classification map and location of drilling sites and outcrops in the Ashigara Plain. Distribution of geology and geomorphology is based on Association for Kanto Quaternary Research (1987), Yamazaki (1994) and Odawara et al. (2011). Distribution of active faults is based on Miyauchi et al. (2008, 2009)..
(4) 12. 2020. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. 表1 ボーリングコア試料の詳細. Table 1 Details of boring cores. GS-ASG-3. M3. B-11. (緯度). N 35°17′ 02.58″. N 35°16′ 55.48″. N35°17′ 20.89″. (経度). E 139°12′ 08.75″. E 139°11′ 59.29″. E 139°12′ 17.96″. 掘削年. 2014. 1989. 1996. 掘削機関. 産業技術総合研究所. 地質調査所(当時). 地質調査所(当時). 孔口標高(m T.P.). 5.57. 7.44. 12.83. 掘削長(m). 30.0. 25.0. 50.0. コア名 位置. 3.2 調査・分析方法 1)層相記載. 4.コア試料の記載と解釈. GS-ASG-3コアについて,縦方向に半分に切断して粒度 や色調,堆積構造などを肉眼観察し,記載とコア写真の撮. 4.1 GS-ASG-3コア. 影を行った.さらに,堆積構造を詳細に観察するため,軟. GS-ASG-3コアの柱状図および堆積環境の解釈を第2図. X線写真撮影を実施した.撮影は電圧40kV,電流1.5A,照. に,代表的なコア写真および軟X線写真を第3図に示す.. 射時間5∼10秒の条件下で行った.. このコアは,層相の特徴から計8ユニットに細分される. 以下に各堆積ユニットの特徴について記載するとともに,. 2)珪藻化石分析. 堆積環境についての解釈を示す.. コア試料のうち泥質堆積物を対象として試料を分取し た.分析試料数は,M3コアが34点,B11コアが19点,GSASG-3コアが65点である.試料処理は小杉(1993)に準拠. 1)ユニットASG3-1(深度14.00∼17.00m,標高−8.43∼− 11.43m). し,過酸化水素水による酸処理を行った.光学顕微鏡を用. 本ユニットはシルト質極細粒砂∼極細粒砂混じりシルト. いて1,000倍の倍率で観察し,各試料について200殻以上を. から構成される(第2図).全体に生痕が認められる.とこ. 目安に種同定および計数を行った.なお,B-11コアの深度. ろどころに貝化石が認められ,一部は合弁である.深度. 15.30―15.45mは産出数が少ないため,計113殻となってい. 14.18∼14.24mと深度14.49∼14.52mで特に貝化石が多産し. る.種同定は小林ほか(2006),渡辺編(2005)などを,生. た.深度14.18∼14.24mからは,潮間帯∼水深10mの泥底. 息環境は千葉・澤井(2014) をそれぞれ参照した.. に生息するハイガイTegillarca granosa,潮間帯中部∼下部 の泥底に生息するイボウミニナBatillaria zonalisが産出し. 3)火山灰分析. た.このうち,深度14.18mから採取したイボウミニナから,. 火山ガラスの屈折率測定を行った.火山ガラスの屈折率. 7,851―7,998cal BPの14C年代測定値を得た(表1,第2図) .. 測定は,産業技術総合研究所の温度変化型屈折率測定装置. 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種が卓越す. MAIOT(古澤地質製,古澤,1995)を用いた.屈折率の測. ることで特徴づけられ,なかでもTryblionella granulata,. 定精度は±0.001である.. Tryblionella lanceola,Cocconeis scutellumが5∼20%程度の高 い産出頻度を示した(第2図) .また,淡水生種のFragilaria. 14. 4) C年代測定. 属,Cocconeis placentula,Planothidium lanceolatumお よ び. 堆積物試料中に含まれる植物片や貝化石など計18点. Gomphonema属をそれぞれ5∼10%程度伴う(第2図) .. (GS-ASG-3コア:6点,M3コア:5点,B11コア:7点)につ 14. このユニットは,砂泥互層からなること,海水泥質干潟. いて,加速器質量分析(AMS)法による C年代値の測定を. 指標種のT. granulataや海水藻場指標種のC. scutellumが多. 地球科学研究所および加速器分析研究所に依頼して行っ. 産すること, 潮間帯に生息する貝化石が多産することから,. た.暦年較正はCALIB 7.1(Stuiver et al., 2018)を用いて行. 混合干潟∼砂質干潟の堆積物(Reineck and Singh, 1980;. い,データセットはIntCal13.14c(Reimer et al., 2013) また. 坂倉,2004)であると考えられる(第2図) .14C年代測定値. はMarine13.14c(Reimer et al., 2013)を用いた.. から,干潟環境の成立は少なくとも7.9kaよりも前である と考えられる..
(5) オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. Hantzschia amphioxys. Nitzschia palea. Reimeria sinuata. Cymbella spp.. Gomphonema parvulum. Gomphonema spp.. Pinnularia spp.. Diadesmis contenta. Planothidium lanceolatum. Fragilaria spp.. Nitzschia frustulum. Tryblionella lanceola. 13. 淡水生. Cocconeis placentula. 淡水∼汽水生. Tryblionella granulata. Amphora coffeaeformis. Cocconeis scutellum. Planothidium hauckianum. [ASG3-]. 7. Thalassiosira sp.. 礫. 砂. 深度 (m) 0. 泥. GS-ASG-3. ユニット. 汽水∼海水生. Rhopalodia gibberula. 活断層研究 52号. 堆積環境 耕作土. 後背湿地. 6. 扇状地. 5. 混合干潟 ∼砂質干潟. 4. 後背湿地. 3. 混合干潟 ∼砂質干潟. 5 6020-6281 6730-6891. S2. K-Ah 10. 7423-7551. S1. 7587-7675 2. 砂質河川 チャネル. 1. 混合干潟 ∼砂質干潟. 7851-7998 15. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 20. 巣穴. 礫. 貝化石. 植物片. 20. 産出頻度 (%). 粘土∼シルト 極細粒砂∼中粒砂. 粗粒砂∼極粗粒砂 砂礫. 泥炭・腐植質泥. テフラ C 年代測定値 8175-8334 (cal BP, 2V) 14. 人工改変土. 第2図 GS-ASG-3コアの地質柱状図および珪藻分析結果.コアの掘削地点は第1図に示す. Fig. 2 Geological columnar and diatom fossil assemblages of GS-ASG-3 core. Location of the core is shown in the Fig. 1.. 第3図 GS-ASG-3コアコア写真および軟X線写真. Fig. 3 Core photographs and radiographs of GS-ASG-3 core.. 植物根 S1 沈降イベント.
(6) 14. 2020. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. 2)ユニットASG3-2(深度11.40∼14.00m,標高−5.83∼−. 汽 水∼ 海 水 生 珪 藻 が ほ と ん ど 産 出 せ ず, 中∼ 下 流性 河 川 指 標 種 のP. lanceolatumや 最 下 流 性 河 川 指 標 種 のN.. 8.43m) 本ユニットは淘汰の悪い細粒砂∼粗粒砂を主体とする砂. frustulumが多産すること,貝化石を含まないことから,. 質堆積物から構成される(第2図).ユニットASG3-1との. 河川環境の堆積物であることが示唆される.大部分が中粒. 地層境界は不明瞭で遷移する.深度12.00∼13.33mは径2∼. 砂以上の粒子を主体とすることから,河川の掃流によって. 4cmの亜円スコリア礫を主体する礫層と細礫混じりの中粒. 堆積物が供給されたと推定される.これらの特徴から,こ. 砂層との互層からなり,ところどころ植物片や木片,偽礫. のユニットは砂質河川のチャネル堆積物と解釈できる(第. が混じる.ユニットASG3-1に比べて生物擾乱をあまり受. 2図).泥質堆積物の卓越するユニット上部(深度11.40∼. けておらず, 斜交層理あるいはリップル葉理が発達する(第. 12.00m)は,チャネルの放棄後に淡水湿地環境で堆積した. 3図).ユニット最上部の深度11.40∼12.00mは泥質で,植. 泥質堆積物であると推定される(第2図).上下のユニット. 物根痕が認められる(第2図).. から得られた14C年代測定値から,砂質河川チャネルの形. 本ユニットの珪藻化石群集は,全体として淡水生珪藻. 成時期は7.9ka頃以降であり,7.6ka頃までにはチャネルが. が 多 産 し,Fragilaria属,C. placentula,P. lanceolatumが. 放棄されたと推定される.. それぞれ10%前後産出する(第2図).また,Gomphonema parvulum,D. contentaが5%前後の産出頻度を示す.ユニッ ト下部の深度13.33∼14.00mでは淡水生種のNitzschia palea. 3)ユニットASG3-3(深度8.19∼11.40m,標高−2.42∼− 5.83m). が20%程度,淡水∼汽水生種のNitzschia frustulumが10∼. 本ユニットは淘汰不良の細粒砂混じりシルト∼シルト質. 20%の産出頻度を示し,やや多く産出する.. 細粒砂を主体とする(第2図) .深度9.24∼9.88mはやや粗. 表2 放射性炭素年代測定結果一覧.Lab. No. 欄の*印は水野ほか(1996)からの引用であることを示す.暦年較正のためのデータセッ トは,IがIntCal13.14c(Reimer et al., 2013) MがMarine13.14c(Reimer et al., 2013) を用いたことを示す. Table 2 List of radiocarbon ages. Marked (*) samples of Lab. No. means that conventional ages are cited from Mizuno et al. (1996). Dataset for calibration, I: IntCal13.14c (Reimer et al., 2013); M: Marine13.14c (Reimer et al., 2013). Site. Depth (m). Material. d13C (‰ ). Conventional age (yrs BP). Calibrated age (cal BP, 2s). (% ). GS-ASG-3. 5.82. organic sediment. −27.30. 5380±30. 7.13 10.09. plant fragments wood. −23.12 −31.30. 5970±30 6550±30. 11.37 14.18. wood shell. −31.30 −1.50. 6790±30 7470±30. 6020―6050 6060―6079 6110―6155 6173―6281 6730―6891 7423―7508 7549―7551 7587―7675 7851―7998. 7.3―7.4. wood. −26.15. 5340±30. 7.4―7.5. charcoal. −25.41. 5360±30. 9.4―9.5 15.1―15.2 17.62―17.67. wood shell wood. −28.88 0.61 −27.43. 6030±30 7450±30 7300±30. 4.74. unknown. ―. 2940±70. 8.10―8.15 9.73―9.87 18.37. peat organic sediment unknown. −28.6 −27.9 ―. 4490±80 5000±70 7290±60. 19.8―19.9 20.98―21.15 25.0―25.11. shell wood wood. −0.28 −26.7 −26.1. 7500±30 7890±80 7650±80. M3. B-11. Median (cal BP). Lab. No.. Dataset. 5.5 2.8 15.2 76.4 100.0 99.6 0.4 100.0 100.0. 6204. Beta―403715. I. 6802 7457. IAAA―150512 Beta―403716. I I. 7635 7932. IAAA―150513 Beta―403717. I M. 6001―6210 6250―6262 6005―6082 6099―6161 6168―6219 6234―6275 6789―6951 7833―7978 8029―8175. 97.8 2.2 25.1 28.6 30.4 15.9 100.0 100.0 100.0. 6120. IAAA―141161. I. 6149. IAAA―141162. I. 6875 7913 8105. IAAA―141163 IAAA―141164 IAAA―141165. I M I. 2884―2910 2919―3257 3290―3332 4872―5318 5609―5898 7971―8202 8267―8278 7875―8029 8547―8991 8331―8595. 2.1 93.9 3.9 100.0 100.0 99.1 0.9 100.0 100.0 100.0. 3095. *. I. 5136 5743 8101. * * *. I I I. 7958 8736 8455. IAAA―142563 * *. M I I.
(7) 活断層研究 52号. オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. 粒であり,細礫混じりの中粒砂∼極粗粒砂からなる(第2. 15. 5∼20%の産出頻度を示す.また,G. parvulum,Cymbella. 図).下位のユニットASG3-2との地層境界は明瞭である(第. 属,Reimeria sinuataお よ びHantzschia amphioxysも5 % 前. 3図) .全体に生物擾乱を受ける.深度10.09mから産出し. 後とやや多く産出する.ユニット上部では淡水∼汽水生種. た木片から7,423―7,551cal BP,ユニット基底の深度11.37m. のRhopalodia gibberulaと淡水生種のD. contentaが10%とや. 14. から産出した木片から7,587―7,675cal BPの C年代測定値. や多く産出し,これに次いでFragilaria属やPinnularia属,. が得られた(表2,第2図) .また,深度8.90mでは火山ガ. P. lanceolatumなどが多産する.. ラスが堆積物粒子中の8%を占め,火山ガラスの屈折率は. 淡水生珪藻が卓越することから,淡水環境で堆積したこ. 1.509∼1.516を示す.. とが示唆される.さらに,腐植物や植物根が認められる. 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種が多産す. ことや有機質な泥質堆積物を含むこと,陸域指標種のH.. ることで特徴付けられる(第2図).なかでもPlanothidium. amphioxysやD. contentaが多産することから,流水の影響. hauckianumお よ びC. scutellumが 多 く 産 出 し, そ れ ぞ れ. が少なく恒常的に冠水しない陸域であった可能性が高い.. 5∼15%前後の産出頻度を示す.さらに,T. granulata,. ユニット下部の砂質な層準は,河川の氾濫堆積物に特徴的. Amphora coffeaeformisがそれぞれ2∼5%程度を占める.ま. な上方粗粒化を示すこと(伊勢屋・増田,1985),中∼下. た,淡水生種や淡水∼汽水生種を随伴し,Fragilaria属,C.. 流性河川指標種のP. lanceolatumやR. sinuataを多く含むこ. placentula,P. lancelatumなどが5∼10%前後を占める.深. とから,河川の洪水堆積物である可能性が示唆される.こ. 度9.24∼9.88mは汽水∼海水生種がやや減少し,代わって. れらの特徴から,このユニットは後背湿地堆積物であると. 淡 水 生 種 のGomphonema属 やPinnularia属,D. contentaな. 解釈できる(第2図).下位にあるK-Ahテフラ,および14C. どがわずかに増加する傾向を示す.. 年代測定値から,後背湿地環境の成立時期はK-Ah(7.3ka). 火山ガラスの屈折率がK-Ahテフラとほぼ一致すること. 以降,6.8ka以前と推定される.. から,深度8.90mをK-Ahテフラの降灰層準と解釈できる (第2図) .汽水∼海水生珪藻が多産し,かつ淡水∼汽水生 珪藻および淡水生珪藻が混在することから,潮汐の影響. 5)ユ ニ ッ トASG3-5( 深 度5.78∼6.85m, 標 高 −0.21∼ − 1.28m). を受けて堆積した可能性が高い.海水砂質干潟指標種のP.. 本ユニットは細粒砂混じりシルトからなる(第2図).下. hauckianumが多産することから,このユニットは砂質干. 位のユニットASG3-4との地層境界は明瞭である(第3図) .. 潟あるいは混合干潟の堆積物(坂倉,2004)であると考え. 全体に生物擾乱が認められる.また,深度6.50m付近より. 14. られる(第2図).K-Ahテフラおよび C年代測定値から,. 上位ではところどころに層厚5∼20mmの細粒砂の薄層を. 干潟環境の成立は7.6ka頃と推定され,少なくともK-Ah. 挟む.上位から植物根の混入が認められる.ユニット最上. (7.3ka)以降も維持されていたと考えられる.また,地層. 部の深度5.78∼5.82mは黒色を呈する泥炭質シルトからな. 境界が明瞭であることから,砂質河川チャネル(放棄チャ. る.この泥炭質シルトからは6,020―6,281cal BPの14C年代測. ネル) から干潟への環境変化は急激であったと推定される.. 定値が得られた(表2,第2図). 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種が優占的. 4)ユ ニ ッ トASG3-4( 深 度6.85∼8.19m, 標 高 −1.28∼ −. である(第2図).T. granulataが5∼25%程度,T. lanceola が5∼10%程度と多く産出し,C. scutellum,P. hauckianum. 2.42m) 本ユニットはシルト質細粒砂∼中粒砂からなる下部(深. が 随 伴 す る. ま た, 淡 水∼ 汽 水 生 種 のR. gibberulaが5∼. 度7.43∼8.17m)と,暗灰∼暗褐色を呈する有機質なシルト. 15%程度の産出頻度を示す.淡水生種のFragilaria属やC.. からなる上部(深度6.85∼7.43m)から構成される(第2図) .. placentulaが5∼10%前後産出する.. 全体に植物片や炭化物が多く混じり,植物根痕も多く認め. 汽水∼海水生珪藻が卓越することから,海成層であ. られる.下位のユニットASG3-3との地層境界は不明瞭で. る と 推 定 さ れ る. 特 に, 海 水 泥 質 干 潟 指 標 種 で あ るT.. 遷移する.ユニット下部は,細粒砂主体から中粒砂主体へ. granulataや海水藻場指標種のC. scutellum(千葉・澤井,. と上方粗粒化する.深度7.50∼7.75m付近では平行葉理や. 2014)が多産することから,泥質干潟あるいは混合干潟の. 低角斜交層理が発達する(第3図).深度7.13mから採取し. 堆積物である可能性が高いと考えられる.干潟環境の成立. 14. た植物片からは6,730―6,891cal BPの C年代測定値が得られ. 時期はユニット上部から得られた14C年代測定値から少な. た(表2,第2図) .. くとも6.0kaよりも前であり,下位のユニットASG3-4最上. 本ユニットの珪藻化石群集は淡水生種が多産し,汽水∼. 部から得られた14C年代測定値を考慮すると,およそ6.8ka. 海水生種をほとんど含まない(第2図).ユニット下部では. 頃と推定される.また,地層境界が明瞭であることから,. 淡 水 生 種 のFragilaria属,C. placentula,P. lanceolatumが. 後背湿地から干潟への環境変化は急激であったと推定され.
(8) 16. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. る.この干潟環境は少なくとも6.2kaまでは継続した.. 2020. micra(Pilsbry) ,アサリRuditapes cf. philippinarum(Adams & Reeve))を多く含み,サンドパイプなどの生痕が認めら. 6)ユニットASG3-6(深度3.49∼5.78m,標高2.08∼−0.21m). れる.深度15.11∼15.20mの貝化石からは,7,833―7,978cal. 本ユニットは径1∼3cm程度の亜円∼亜角礫を主体とす. BPの14C年代測定値が得られた(第4A図,表2).また,. る淘汰の悪い砂礫からなる(第2図,第3図).基質はシル. 深度17.62∼17.67mから産出した木片から,8,029―8,175cal. ト混じりの中粒砂∼極粗粒砂である.基質支持礫層と礫質. BPの14C年代測定値が得られた(第4A図,表2).. 支持礫層の互層からなる.下位のユニットASG3-5を明瞭. 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種が多く産出. な地層境界を介して覆う.貝化石は産出しない.. することで特徴付けられる(第4A図) .ユニット下部(深. このユニットは,貝化石を含まないこと,中粒砂よりも. 度21.41∼24.80m)で はThalassiosira sp., Cyclotella striata,. 粗粒な堆積物から構成されることから,河川性の堆積物で. C. scutellumが5∼7%程度を占める.また,淡水∼汽水生. あると考えられる.全体として淘汰が悪く基質がやや泥質. 種や淡水生種も認められ,P. lanceolatumやN. frustulumが. であることや礫質支持礫層と基質支持礫層の互層からなる. 5∼10%程度産出する.上位(深度14.71∼15.40m)では,. こと,掘削地点の近傍に小規模な扇状地が多数分布するこ. 上述した汽水∼海水生種に加えてDelphineis surirellaやT.. とから, 扇状地堆積物である可能性が高いと推定される(第. granulataがそれぞれ2∼16%,1∼3%産出する.. 14. 2図) .下位のユニットASG3-5で得られた C年代測定値か. 珪藻群集から海水と淡水が混合することから,河川河口. ら,扇状地堆積物の堆積は少なくとも6.2kaよりも後であ. 部(エスチュアリー)の潮下∼潮間帯で堆積したと推定さ. ると推定される.. れる.干潟の指標種が増加することや産出する貝化石から, 深度15.40m以浅は潮間帯干潟の堆積物と推定される.得. 7)ユニットASG3-7(深度0.00∼3.49m,標高5.57∼2.08m). られた14C年代測定値から,エスチュアリーの環境の成立. 本ユニットは極細粒砂混じりの有機質シルトからなり,. は8.1ka頃よりも遡る可能性が高く,少なくとも7.9ka頃ま. 植物片や植物根痕が多く認められる(第2図,第3図).下. で継続したと推定される.. 位のユニットASG3-6との地層境界は不明瞭である.深度 2.55m付近を境として上方に暗色を帯びて有機質となり, 深度1.56∼2.35mでは黒色あるいは暗褐色を呈する泥炭質. 2)ユ ニ ッ トM3-2( 深 度8.70∼14.08m, 標 高 −1.26∼ − 6.64m). シルトとなる.深度1.11m以浅は極粗粒砂∼細礫の混じる. 本ユニットは暗褐色あるいは黒褐色を呈する有機質なシ. 極細粒砂混じりシルトからなり,腐植質で植物根や炭化物. ルトを主体とする.深度11.18∼12.53mおよび深度13.22∼. が著しく多く混入する.. 14.08mは粗粒で,亜角∼亜円礫混じりの粗粒砂∼砂礫か. 有機質な泥質堆積物からなることから,堆積物供給量の. らなる.深度9.42∼9.65mには上方粗粒化する細粒∼中粒. 比較的少ない静穏な環境で堆積したことが示唆される.砂. 砂の薄層が泥質堆積物中に挟在し,この層準から産出した. 質堆積物の薄層を挟むことを考慮すると,このユニットは. 木片からは,6,789―6,951cal BPの14C年代測定値が得られた. 後背湿地堆積物である可能性が高い(第2図).このユニッ. (第4A図,表2).また, 深度10.20∼10.60mではバブルウォー. トの堆積年代は,年代資料が得られていないため,明らか. ル型火山ガラスを含み,深度10.20∼10.30mから産出した. でない.深度1.11m以浅は,コア掘削地点が休耕田である. 火山ガラスの屈折率は1.509∼1.514を示した.. ことを考慮すると,耕作土層であると解釈される.. 本ユニットの珪藻化石群集はThalassiosira sp., C. striata の産出頻度が低下し,淡水生種が増加することで特徴. 4.2 M3コア. 付 け ら れ る. 全 体 と し て 淡 水 生 種 のP. lanceolatum, C.. 層相および珪藻化石群集の特徴から,このコアは下位か. placentula, Navicula属がそれぞれ5∼15%と多く産出し,G.. ら順にM3-1∼6の6ユニットに区分される(第4A図).. parvulum,D. contentaを5%程度伴う.下部(深度12.61∼ 13.10m)ではEunotia minor,Eunotia bilunarisが多く産出. 1)ユ ニ ッ トM3-1( 深 度14.08∼25.00m, 標 高 −6.64∼ − 17.56m). する.上部(深度8.71∼11.10m)ではCymbella属が多産する. 火山ガラスの屈折率がK-Ahテフラとほぼ一致すること. 本ユニットは暗灰色あるいは暗褐色を呈するシルトを. から,深度10.20∼10.60mの間をK-Ahテフラの降灰層準と. 主体とする.深度15.77∼17.35mおよび深度19.62∼21.26m. 解釈できる(第4A図).このユニットは,有機質な泥質堆. ではやや砂分が卓越し,シルト質細粒砂∼中粒砂を主体. 積物を主体とすること,止水域に特徴的なCymbella属や. とする.全体に潮間帯∼浅海域に生息する貝化石(ウミ. Eunotia属,G. parvulumなどが多産することから,後背湿. ニナの仲間 Batillaria sp.,ヒメカノコアサリVeremolpa. 地堆積物であると推定される(第4A図).泥質堆積物中に.
(9) 深度 (m) 0. 5. 10 K-Ah. 20. 25 6. 15. 27. B-11. 20. 20. 20. 20. 粘土∼シルト. 粗粒砂∼極粗粒砂. 泥炭・腐植質泥. 極細粒砂∼中粒砂. 砂礫. 人工改変土. 20. 8175-8334. 14. 20 20 産出頻度 (%). 20. テフラ. C 年代測定値. (cal BP, 2V). Fig. 4 Diagram of diatom fossil assemblages of M3 core. Location of the M3 core is shown in Fig. 1.. 1図に示す. 20. 20. 20. 貝化石. 礫 Hantzschia amphioxys. 20. Nitzschia amphibia. 淡水∼汽水生 20. Gomphonema spp.. 20 20. 20. Nitzschia amphibia. Pinnularia spp. Cymbella spp.. Gomphonema parvulum. Navicula spp.. Diadesmis contenta. Cocconeis placentula. Staurosirella spp. Eunotia minor Eunotia bilunaris Eunotia spp. Planothidium lanceolatum. 淡水∼汽水生. Pinnularia spp.. 産出頻度 (%). Navicula spp.. Luticola mutica. 20. Diadesmis contenta. 20 40. Cocconeis placentula. 汽水∼海水生. Nitzschia frustulum Rhopalodia gibberula. Staurosira construens. Tryblionella granulata. 汽水∼海水生. Planothidium lanceolatum. 20 40. Rhopalodia gibberula. B. Tryblionella granulata. 20. Tryblionella lanceola. 6789-6951 K-Ah. Diploneis smithii. 6001-6262 6005-6275. Nitzschia cocconeiformis. 5 5. Cyclotella striata Thalassiosira sp. Cocconeis scutellum Diploneis pseudovalis Diploneis smithii Delphineis surirella. 6. Grammatophora oceanica. M3. ユニット [M3-]. 礫. 砂. A. ユニット [B11-]. 15. 礫. 10. 砂. 泥. 深度 (m) 0. 泥. 活断層研究 52号 オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. 7833-7978. 8029-8175 4 3. 後背湿地 泥質干潟. 2. 後背湿地. 1. エスチュアリー. 20. 2884-3332 5. 4. 7971-8278 3. 混合干潟. 2. 後背湿地 ・自然堤防. 7875-8029. 1. 17. 淡水生 堆積環境 後背湿地・ 耕作土 礫質河川 チャネル または扇状地. S2. 25 20. 淡水生. 堆積環境 埋土. 4872-5318. 後背湿地. 5609-5898. 礫質河川 チャネル または扇状地. S1. 8547-8991. 泥質干潟. エスチュアリー. 8331-8595. 20. S1 沈降イベント. 偽礫. 第4図 M3およびB-11コアの地質柱状図および珪藻分析結果.A:M3コア,B:B-11コアコア.各ボーリングコア試料の掘削地点は第.
(10) 18. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. 2020. 挟在する砂質堆積物は上方粗粒化する特徴を示すことか. 5)ユニットM3-5(深度1.61∼6.92m,標高5.83∼0.52m). ら,酒匂川や大磯丘陵から流下する小河川の洪水堆積物(伊. 本ユニットは暗褐色あるいは暗灰色を呈する中粒砂から. 勢屋・増田,1985)である可能性が示唆される.K-Ahテフ. 砂礫からなり,径0.5∼3cmの亜円あるいは亜角礫の安山. 14. ラと得られた C年代測定値から,後背湿地環境の成立時. 岩,砂岩,緑色岩,玄武岩,スコリア,チャート礫を多く. 期は少なくとも7.3ka以前であり,おおよそ7.9ka頃と推定. 含む.ユニット最下部の深度6.45∼6.92mは黒色スコリア. される(第4A図).また,後背湿地環境は少なくとも6.9ka. が多く混入する.. 頃までは維持された.. 砂礫質であり, スコリア以外の礫も多く混じることから, 礫質河川チャネルまたは支流性の扇状地堆積物であると推. 3)M3-3(深度7.80∼8.70m,標高−0.36∼−1.26m). 定される.ユニット最下部の深度6.45m以深は,スコリア. 本ユニットはオリーブ灰色∼暗緑灰色を呈する粘土∼シ. が多く混じることから御殿場泥流堆積物の可能性がある.. ルトからなる.よく締まっており,有機物が散在する.. このユニットの堆積時期は下位のユニットM3-4から得ら. 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種,特にT.. れた14C年代測定値から少なくとも6.1kaよりも新しく,河. granulataの多産によって特徴付けられ,Diploneis smithii,. 川侵食によって下位のユニットM3-4が削剥されている場. Diploneis pseudovalisが5%程度の産出頻度で随伴する.珪. 合はさらに年代が新しくなる可能性がある.. 藻帯上部では淡水∼汽水生種のR. gibberulaや淡水生種のC. placentulaが増加傾向を示す.. 6)ユニットM3-6(深度0.00∼1.61m,標高7.44∼5.83m). 有機物混じりの泥質堆積物を主体とすること,海水泥質. 暗褐色あるいは暗黄褐色を呈する礫混じり粘土からな. 干潟指標種のT. granulata多く産出することから,このユ. る.深度0.92∼1.10mは軽石を多く含む.. ニットは潮間帯上部の泥質干潟堆積物(坂倉,2004)であ. 後背湿地と耕作土と解釈される.. ると推定される.下位のユニットM3-2から得られた年代 測定値から,干潟環境が形成された時期は6.9ka頃と推定 14. 4.3 B-11コア. され,上位のユニットM3-4最下部から得られた C年代測. 層相および珪藻化石群集の特徴から,このコアは下位か. 定値(後述)から6.1ka頃まで干潟環境が継続したと推定さ. ら順にB11-1∼6の6ユニットに区分される(第4B図).. れる. 1)ユ ニ ッ トB11-1( 深 度19.10∼27.00m, 標 高 −6.27∼ − 4)M3-4(深度6.92∼7.80m,標高0.52∼−0.36m). 14.17m). 本ユニットは灰色∼黒オリーブ色を呈する有機質なシ. このユニットは淘汰不良の礫混じり粘土∼シルトを主. ルトからなり,深度7.50∼7.57mは黒色で特に有機質であ. 体とし,ところどころ層厚5∼数10cmの中粒砂∼細礫の. る.木片や植物片が多く混入し,深度7.3∼7.4mの木片か. 薄層が挟在する(第4B図).貝化石は内湾潮間帯・泥底に. ら6,001―6,262cal BP, 深 度7.4∼7.5mの 炭 化 物 か ら6,005―. 生息するシオヤガイAnomalocardia squamosa,潮間帯中. 14. 6,275cal BPの C年代測定値が得られた(第4A図,表2).. ∼下部の泥底に生息するイボウミニナB. zonalisが産出し. 本ユニットの珪藻化石群集は淡水生種の多産によって. た.深度19.80∼19.90mのシオヤガイA. squamosaから7,875. 特 徴 付 け ら れ,G. parvulum,P. lanceolatum,Pinnularia. ―8,029cal BPの14C年代測定値が得られた(第4B図,表2) .. 属,Nitzschia amphibiaな ど が5∼20 % 程 度,E. minorや. 深度21.86m以深は上位に比べて貝殻片が少なく,径2∼. E. bilunarisが5%程度と多く産出する.一方で,汽水∼. 5mm程度の亜円∼亜角細礫を多く混入する.深度20.98∼. 海水生種はほとんど産出しない.淡水∼汽水生種のN.. 21.15mおよび深度25.00∼25.11mから産出した木片はそれ. frustulumを3∼5%程度伴う.. ぞれ8,547―8,991cal BP,8,331―8,595cal BPの14C年代測定値. 有機質な泥質堆積物を主体とすること,淡水生種が優占. を示した(第4B図,表2).. 的に産出することから,淡水湿地堆積物であると推定され. 本ユニットの珪藻化石群集は汽水∼海水生種の多産で特. る.また,中∼下流性河川指標種のP. lanceolatumや最下. 徴付けられる(第4B図).特に,海水泥質干潟指標種のT.. 流性河川指標種のN. frustulumを伴うことから,河川下流. granulataやT. lanceola,D. smithii,N. cocconeiformisが そ. 部あるいはその近傍に位置しており,わずかに汽水∼海水. れぞれ最大で10∼20%程度の産出頻度を示す.また,ユニッ. が流入していたと考えられ,後背湿地堆積物と解釈される.. ト下部では,中∼下流性河川指標種のP. lanceolatumの産. 14. 得られた C年代測定値から後背湿地環境の成立は,およ. 出頻度が高く,最大10∼20%程度である.. そ6.1kaと推定される.. 泥質堆積物を主体とすること,潮間帯∼浅海域に生息す る貝化石を多く含むこと,海水泥質干潟指標種の珪藻化石.
(11) 活断層研究 52号. オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. 19. が多産することから,このユニットは泥質干潟堆積物であ. のユニットB11-2から得られた14C年代測定値から少なくと. ると解釈できる(第4B図).ユニット下部では砂礫を多く. も8.2kaよりも新しく,後述する上位のユニットB11-5にお. 含むことや中∼下流性河川指標種が増加することから,河. けるK-Ahテフラの降灰層準との関係から,7.3kaよりも遡. 口域のエスチュアリーで堆積した可能性がある(第4B図).. ると考えられる.. 2)ユ ニ ッ トB11-2( 深 度16.24∼19.10m, 標 高 −3.41∼ −. 4)ユ ニ ッ トB11-4( 深 度10.85∼15.30m, 標 高1.98∼ −. 6.27m). 2.47m). このユニットは粘土∼シルトとシルト質中粒砂の互層. このユニットは砂礫質で,礫混じりの中粒砂∼粗粒砂を. からなる.深度18.37∼19.10mは泥質で,黒褐色を呈する. 主体とする.ところどころ径2∼6mm程度,最大径22mm. 有機質なシルトからなる.緩やかに上方粗粒化する.深. の亜円∼亜角礫が混じる.. 度18.37mからは水野ほか(1996)により7,971―8,278cal BP. 本 ユ ニ ッ ト の 珪 藻 化 石 群 集 は 淡 水 生 種 が 多 産 し,. 14. (7,290±60yrs BP)の C年代測定値が得られている(表2).. Navicula属,P. lanceolatum,Gomphonema属が10∼20%前. 本ユニットの珪藻化石群集は淡水生種が優占的に産出す. 後の産出頻度を示す(第4B図) .. ることで特徴付けられる(第4B図).中∼下流性河川指標. 淡水生珪藻が卓越することから,淡水環境で堆積したこ. 種のP. lanceolatumが最大で15%程度,淡水生付着性種のC.. とが示唆される.亜円∼亜角礫を含む砂礫から構成される. placentulaやGomphonema属をそれぞれ5∼20%程度産出す. ことから,礫質河川チャネル堆積物または扇状地堆積物と. る.. 推定される(第4B図).本堆積ユニットも,後述するユニッ. このユニットは,淡水生珪藻が卓越することから,淡水. トB11-5におけるK-Ahテフラの降灰層準との関係から,. 環境で堆積したと考えられる.中∼下流性河川指標種のP.. 7.3ka以前に堆積したと考えられる.. lanceolatumを多く含むことや中粒砂が多く含まれること から,河川の堆積場であった可能性が示唆される.珪藻化. 5)ユニットB11-5(深度1.16∼10.85m,標高11.67∼1.98m). 石群集には汽水∼海水生種が含まれておらず,エスチュア. 本ユニットは黒色あるいは黒褐色を呈する有機質な粘. リーなどの汽水域で堆積したとは考えにくい.ユニット下. 土∼シルトを主体とし,部分的に木片や亜円礫が混じる.. 部に有機質シルトが認められることや,止水域に特徴的な. ところどころに層厚10cm前後のシルト質砂の薄層を挟在. Gomphonema属を多く伴うことも考慮すると,このユニッ. す る. 深 度4.00∼4.74mは 径10∼30mm, 最 大60mmの 亜. トは河川氾濫原の後背湿地あるいは自然堤防の堆積物であ. 円∼亜角礫を含む粘土・シルト混じり砂礫層が認められ. 14. ると推定される(第4B図).得られた C年代測定値から,. る.水野ほか(1996)により,深度9.73∼9.87mから5,609. 干潟環境から氾濫原環境への移行は,8.1ka頃に生じたと. ―5,898cal BP(5,000±70yrs BP) ,深度8.10∼8.15mから. 推定される.. 4,872―5,318cal BP(4,490±80yrs BP),深度4.74mから2,884 ―3,332cal BP(2,940±70yrs BP)の年代測定値が得られて. 3)ユ ニ ッ トB11-3( 深 度15.30∼16.24m, 標 高 −2.47∼ − 3.41m). い る( 表2) . こ の 地 層 下 部 の 深 度10.61mに は 層 厚1mm 程度の火山ガラス濃集層があり,火山ガラスの屈折率は. 本ユニットは明黄褐色または黒褐色を呈する砂質シル. 1.512∼1.514であった.. ト∼シルト質砂で,細粒砂∼中粒砂とシルトとの細互層か. 本ユニットの珪藻化石群集は淡水生種が優占的に産出. ら構成される.単層の層厚は0.5∼1.0cm前後である.. することで特徴付けられ,Pinnularia属,Navicula属,N.. 本ユニットの珪藻化石群集は,珪藻化石の保存状態が悪. amphibiaなどが10∼20%の産出頻度を占める(第4B図) .. く珪藻殻数が200殻に達していないものの,淡水生種がほ. また,陸域指標種であるD. contenta,Luticola muticaおよ. とんど産出せず,汽水∼海水生種が卓越することで特徴付. びH. amphioxysが3∼10%前後産出する.中∼下流性河川. けられる(第4B図).特に,Grammatophora oceanicaとT.. 指標種のP. lanceolatumも5∼20%程度産出する.. granulataが優占的に産出する.また,淡水∼汽水生種のR.. 深度10.61mの火山ガラス濃集層は,屈折率からK-Ahテ. gibberulaも7%程度伴う.. フラの降灰層準と考えられる.このユニットは,止水域に. 淡水生珪藻が産出せず,汽水∼海水生珪藻が卓越するこ. 特徴的なPinnularia属やGomphonema属が多いこと,陸域. とから,海成層であると推定される.特に,海水泥質干潟. 指標種を多く伴うこと,有機質な泥質堆積物から構成され. 指標種のT. granulataが多産すること,細かい砂泥互層を. ることから,河川下流部の後背湿地の堆積物と推定される. 呈することから,このユニットは混合干潟で堆積した可能. (第4B図).後背湿地環境の成立は,ユニット基底にK-Ah. 性が高い(第4B図).干潟環境が形成された年代は,下位. テフラの降灰層準が認められることから,7.3ka頃と推定.
(12) 20. 2020. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. され,14C年代測定値から少なくとも3.1ka頃以降もしばら. 地環境から潮間帯干潟環境への急激な環境変化が生じた.. くは継続したと推定される.. この潮間帯干潟環境は少なくとも6.2ka頃まで継続した. その後,干潟堆積物を覆って河川性堆積物が堆積した.. 6)ユニットB11-6(深度0.00∼1.16m,標高12.83∼11.67m) 本ユニットは茶褐色あるいは暗褐灰色を呈するローム質. 2)M3コア. シルトからなる.. この地点では,少なくとも8.1ka頃までに潮間帯干潟が. 草本の多く混じることから人工改変土(埋土)と解釈さ. 形成され,7.9ka頃に後背湿地への環境変化が生じた.そ. れる.. の後,後背湿地環境でK-Ahテフラが降灰した後,6.9ka頃 に再び潮間帯干潟が形成された.この潮間帯干潟環境は 6.1ka頃まで継続した後,淡水湿地へと移行した.その後,. 5.考察. 後背湿地堆積物を覆って厚い河川堆積物が堆積し,陸化し た.. 5.1 各ボーリングコア試料から推定される堆積環境変遷 14. コア試料の層相観察,珪藻化石分析,火山灰分析, C 年代測定値から,各ボーリングコア掘削地点における堆積. 3)B-11コア. 環境変遷を復元した(第5図).. この地点では,少なくとも8.4ka頃までに潮間帯干潟が 形成された後,8.1ka頃に後背湿地へと堆積環境が変化し. 1)GS-ASG-3コア. た.その後,再び潮間帯干潟が形成された.潮間帯干潟の. この地点では,少なくとも7.9ka以前までに縄文海進に. 成立年代は,8.1ka頃より後であり,かつK-Ahテフラ降灰. よって潮間帯干潟が形成された.その後,7.9ka頃以降,. 時期(7.3ka)よりも遡る.その後,潮間帯干潟を覆って礫. 砂質河川チャネルが形成され,チャネルの放棄後には淡水. 質河川チャネルまたは扇状地が形成された後,7.3kaより. 湿地で細粒堆積物による放棄チャネルの充填が進んだ.. 後に後背湿地環境が成立した.. 7.6ka頃になると,淡水湿地環境から潮間帯干潟環境への 急激な環境変化が生じた.この潮間帯干潟はK-Ahテフラ. 5.2 堆積環境変遷から推定される断層活動履歴. 降灰後に淡水湿地へと移行した.6.8ka頃には再び淡水湿. 本節では前節で復元した堆積環境変遷に基づき,国府. ດఝඎ ཤ୭ S1 ఋॖঋথॺ. 8. 0. %. *6 $6*. 6. 4. B cal kyr BP. ఏৈ P73
(13). A. ফ৻க Vরఙகك. 4. 4 3. S2. 5 4. 2. 6. 4. S2. 3. 2. -12. 1. 0. -10. -20. -30. S1. 7. *6 $6* ". 4. 8. S2. 4 2. 1. 6 5. 5. 3 2. 2 1. " 4. 3. S1 -8. ਲශ. 5 0. 3. -4. 10. 5. 6. 0. %. 5. 7. 5. &. 1 ". 1 ". 4" 3 " 2. 7. K-Ah. S1 淡水環境の成立. 8. 1. 9. ". ఏৈ P73
(14). 9. 第5図 GS-ASG-3コア, M3コアおよびB-11コアの堆積環境変遷の対比.柱状図の数字は各コアのユニッ ト区分を示す. Fig. 5 Comparison of Holocene environmental change of GS-ASG-3, M3 and B-11 cores. The numbers in the column diagrams indicate the unit each boring core..
(15) 活断層研究 52号. オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. 21. 津―松田断層帯の断層活動履歴について議論する.環境変. ら,急激な環境変化であったことが示唆される (第2, 3図) .. 化は断層活動を直接的に示す証拠ではないが,Nelson et. また,B-11コアでは地層境界の産状は不明であるものの,. al.(1996)などが示したように,ボーリングコア掘削地点. 淡水生珪藻がユニット境界を挟んでほぼ産出しなくなるこ. における環境変化の突発性や地点間での同時性などを検討. とから(第4B図) ,環境変化が急激であったと考えられる.. することで局所的な環境変化と区別し,断層活動履歴の確. また,これらの環境変化が生じた年代は,GS-AGS-3コア. 実性を高めることができる.. が7.6ka頃,B-11コアが7.3kaから8.1kaの間であり,同一の. 国府津―松田断層帯が活動して大磯型地震が発生した際. 環境変化に対応する(第5B図).さらに,羽根尾貝塚遺跡. には,足柄平野では急激な沈降が生じると考えられている. でも,国府津―松田断層の活動による急激な隆起によって. (松田,1985;山崎,1993;地震調査研究推進本部地震調. 6,500yrs BP頃(おおよそ7.4∼7.5ka頃)に内湾から潟湖へ. 査委員会,2015).したがって,淡水環境から汽水∼海水. の環境変化が生じ,最も高位の完新世段丘面(中村原面). 環境への環境変化は地震性地殻変動に起因する可能性があ. が離水した可能性が指摘されており(第6図,松島・新井,. る.上述したボーリングコア試料から復元された堆積環境. 2003) ,GS-AGS-3コアやB-11コアの環境変化に対比できる.. 変遷をみると,そのような環境変化は,GS-ASG-3コアで. したがって,S1イベントは環境変化が突発的であり,かつ. 2層準(ユニットASG3-3から4,ユニットASG3-5から6),. 国府津―松田断層帯を挟んだ広域で対比可能である.さら. M3コアで1層準(ユニットM3-2から3),B-11コアで1層準. に,東側では相対的隆起,西側では相対的沈降が起こって. (ユニットB11-2から3)の計4層準が認められた.これらは. おり,断層帯の変位様式とも調和的である.これらの特徴. ①標高−1∼−2m付近と,②より下位の標高−3∼−6m付. は,Nelson et al.(1996)が示した堆積環境変化から地震性. 近の2グループに分けられ(第5A図),K-Ahテフラの降灰. 地殻変動を読み取るための指標(①突発性,②変位量,③. 層準との関係から前者がK-Ahテフラ以前 (S1イベント層) ,. 連続性,④イベント堆積物の有無,⑤同時性)のうち,①. 後者がK-Ahテフラ以後(S2イベント層)に生じたと考えら. 突発性と⑤同時性の要件を満たしている.以上から,S1. れる(第2図,第3図,第5B図).. イベントは国府津―松田断層帯の活動に起因する可能性が 高いと考えられる.断層活動の年代は少なくともK-Ahよ. 1)S1イベント. りも前であり,イベント層準直上で得られたGS-ASG-3コ. S1イベントに対比される環境変化は,GS-ASG-3コアの. アの14C年代測定値を重視すると,7.6ka頃と推定される(第. ユニットASG3-2から3への環境変化とB-11コアのユニット. 6図) .. B11-2から3である(第2図,第4B図,第5図).. なお,M3コアではK-Ahテフラ降灰前に淡水環境から汽. 足柄平野では縄文海進に伴って海域が拡大した後,. 水∼海水環境への明瞭な環境変化は検出されなかった.こ. K-Ahテフラの降灰前に海退へ移行し,潮間帯干潟から淡. れは,S1イベントの発生時期(7.6ka)にM3コアでは粗粒. 水湿地あるいは河川河口部への環境変化が生じた(第5図).. な砂質堆積物が卓越し(第4A図),削剥による堆積物欠如. この淡水環境の形成開始はGS-ASG-3コア,M3コア,B-11. や珪藻化石の産出数不足ため,環境変化を詳しく検討でき. コアのいずれでも確認でき,その年代は7.9∼8.1kaと推定. ていないことに起因する可能性が考えられる.また,M3. される.この時期は,地殻変動の影響が比較的小さいとさ. コアは検討した3本のコアのなかで最も断層トレースから. れる東京低地で復元された海水準変動曲線(遠藤ほか,. 離れており(第1図),地震性沈降の影響が相対的に小さく,. 1989;田辺ほか,2012)を参照すると,海水準上昇速度が. 環境変化として現れなかった可能性もある.. 鈍化し始めた時期にあたる.このことから,海水準上昇に 伴う堆積空間の拡大よりも河川などからの土砂供給の影響. 2)S2イベント. が相対的に大きくなったことが示唆される(第5B図).同. S2イベントに対比される環境変化は,GS-ASG-3コアの. 様の環境変化は, 最も高位の完新世段丘面(遠藤ほか(1979). ユニットASG3-4から5への環境変化とM3コアのユニット. の中村原面)上に位置する羽根尾貝塚遺跡でも確認でき,. M3-2から3である(第2図,第4A図,第5図).. 遅くともK-Ah頃までに淡水湿地環境の拡大などの海退に. S2イベントに対比される環境変化は,GS-ASG-3コアで. 伴う環境変化が生じたことが明らかにされている(松島・. は6.8ka頃,M3コアでは6.9ka頃に生じており,時期が重複. 新井,2003).したがって,足柄平野周辺ではK-Ahテフラ. することから同時期の環境変化に対応しており(第5図) ,. 降灰前に既に海退に移行していたと考えられる.. 河道の移動などの局所的な河川営力の変化に起因する可能. S1イベント層準は,7.9∼8.1ka以降の海退トレンドとは. 性は低いと推定される.さらに,GS-ASG-3コアのユニッ. 明らかに逆行する環境変化である(第5B図).GS-ASG-3. トASG3-4と5の地層境界は明瞭であり,急激な環境変化で. コアのユニットASG3-2と3の地層境界が明瞭であることか. あったことが示唆される(第2図,第3図).また,M3コア.
(16) 22. 2020. 佐藤善輝・水野清秀・中島 礼・山崎晴雄. K-Ah. 8. 7. 6. 5. KgP 3. 4. Gmf 2. 1. દஸ 7.9. cal kyr BP . 6 ୡ⣖. Loc.1. 12 ୡ⣖. 2.8. ਼. ਉ Loc.2. 4.5. 2ᅇ. 2.6. 4 ୡ⣖. 2.4 1 ୡ⣖. 3.2. 2.8. বਿஸ Loc.3. 2.5. 3.1. . S1. Loc.4. 6.9. মଢ଼. 3.1. S2. 2.9. ᩿ᒙάືᮇ 㸦 ᅇ㸧. 6.8. ᩿ᒙάືᮇ 㸦 ᅇ௨ୖ㸧. 7.6. ৗ਼ ഗ. ?. Loc.5. ಭஉஏ ༏ౖ. 7.5. 7.4. 5.7-5.9ka ௨๓㞳Ỉ 6.7. 6.0. S2. ỿ㝆࣋ࣥࢺ ⅆᒣ⅊㝆⅊ᖺ௦ ⅆᒣ⅊ᄇฟᖺ௦. Loc.6. 第6図 完新世中期以降の国府津―松田断層帯の断層活動履歴.各地点における断層活動履歴は,それぞれ以下の既存 研究を参照した;曽我谷津,国府津および鴨宮:山崎・水野(1999),曽我原:神奈川県(2003・2004),完新世段丘: 宮内ほか(2003),羽根尾貝塚遺跡:松島・新井(2003).各調査地点位置(Loc. 1∼6)は第1図に示す. Fig. 6 Middle to late Holocene palaeoseismic history of the Kozu-Matsuda Fault Zone. Palaeoseismic history in Soga-Yatsu, Kozu and Kamonomiya, Sogahara, Holocene marine terraces, and Haneo Shell Mound Site are based on Yamazaki and Mizuno (1999), Kanagawa Prefecture (2003, 2004), Miyauchi et al. (2003), and Matsushima and Arai (2003) respectively. Location of excavated sites, Loc. 1 to 6, are shown in the Fig. 1.. でも,ユニット境界を挟んで汽水∼海水生種が急激に増加. 代はGS-AS 3コアおよびM3コアの14C年代測定値から6.8∼. しており,堆積環境変化が急激であったことが示唆される.. 6.9ka頃と推定される(第6図) .. これらの環境変化が生じたのはK-Ahテフラ降灰後であり,. 宮内ほか(2003)は国府津―松田断層帯上盤側に分布す. 東京低地で復元された海水準変動曲線(遠藤,1989;田辺. る完新世段丘面のうち高位から2段目の段丘面(II面)に関. ほか,2012)を参照すると,海水準がほぼ安定的な時期に. して,離水後に堆積した腐植土層から得られた年代測定値. 合致する(第5B図).したがって,淡水環境から汽水∼海. (5,050±40yrs BP)から,5.7∼5.9ka頃よりも前に段丘面が. 水環境への環境変化の要因としてユースタティックな海水. 離水していたと推定している.離水時期の下限を示す資料. 準上昇は考えにくく,地震性地殻変動に起因する可能性が. が得られておらず不確定性は大きいものの,S2イベントに. ある(第5図).羽根尾貝塚遺跡では,淡水湖沼堆積物中. よる隆起によってII面が形成された可能性がある(第6図) .. に周辺の丘陵を構成するシルト岩の礫などを含む粗粒層. なお,B-11コアではK-Ahテフラ降灰後のユニットB11-5. が挟在し,地震などに伴う斜面崩壊によって供給された. 中に汽水∼海水環境への明瞭な環境変化は検出されなかっ. 可能性が指摘されている(松島・新井,2003).この粗粒. た. ユ ニ ッ トB11-5基 底 は 標 高1.98mで あ り,GS-ASG-3. 層を含む地層からは5,341±57yrs BPから5,751±55yrs BP. コ ア お よ びM3コ ア のS2イ ベ ン ト 層 準( そ れ ぞ れ 標 高. 14. (6.0∼6.7ka頃)の C年代測定値が報告されており(米田,. −1.28m,−1.26m)に比べて高位に位置することから(第. 2003),斜面崩壊のおおよその発生年代を示すと考えられ. 5A図) ,沈降しても淡水環境のままであったため,環境変. る.最大で数100年の年代誤差は残されるものの,年代値. 化として記録されなかった可能性が考えられる.. が近接することから羽根尾貝塚遺跡で指摘された斜面崩 壊イベントはS2イベントに対比される可能性がある(第6. 6.まとめと今後の課題. 図) .これらの特徴から,S2イベントは国府津―松田断層 帯の活動に起因する可能性が高いと考えられ,その発生年. 本研究では,足柄平野東南部で新たに掘削したボーリン.
(17) 活断層研究 52号. オフ・フォールト古地震学的手法から推定される完新世中期の国府津―松田断層帯の活動履歴. グコア試料(GS-ASG-3,M3,B-11コア)について層相観察, 14. 23. 頂いた.査読を担当していただいた佃 栄吉氏および匿名. 珪藻化石分析,火山灰分析および C年代測定を行い,こ. の査読者1名,ならびに編集担当者の柳田 誠氏による御. れらの解析結果から復元された各ボーリング地点における. 指摘・御助言により本稿は大幅に改善された.以上方々に. 堆積環境変遷の対比から,完新世中期における国府津―松. 記して感謝申し上げる.. 田断層帯の活動履歴について検討した.その結果,以下の. M3コアとB-11コアの掘削には,科学技術振興調整費「マ. 知見が得られた.. グニチュード7級の内陸地震の予知に関する研究(第I期昭. 1)足柄平野では縄文海進によって海域が拡大し,潮間帯. 和62年∼平成元年度) 」,平成7年度補正予算「要注意活断. 干潟が形成された後,海水準上昇速度の鈍化によって. 層調査(3)国府津―松田―神縄断層系の調査」をそれぞれ. 7.9∼8.1ka頃には海退に転じ,淡水湿地や河川チャネル. 用いた.GS-ASG-3コアの掘削および各種分析には,平成. への環境変化が生じた.. 27年度運営費交付金「沿岸域の地質・活断層調査」を使用. 2)GS-ASG-3コアとB-11コアでは,7.6ka頃に淡水湿地ら. した.本研究の成果の一部は,日本第四紀学会2015年秋季. 潮間帯干潟環への急激な環境変化が生じた(S1イベン. 学術大会(早稲田大学)と日本地質学会2016年学術大会(日. ト).これは国府津―松田断層の活動に起因する可能性. 本大学) において発表した.. が高く, 断層上盤側における最高位の完新世段丘面(遠 藤ほか(1979)の中村原面)の形成イベントに対比され. 文 献. る可能性がある. 3)GS-ASG-3コアとM3コアでは,6.8∼6.9ka頃に淡水湿地 から潮間帯干潟への急激な環境変化が生じており(S2 イベント) ,国府津―松田断層の活動に起因する可能性 が高い.断層上盤側におけるII面(宮内ほか,2003)の 形成はこの断層活動に起因する可能性がある. 本研究で可能性を指摘した2回の断層活動の間隔は700∼ 800年と見積もられ,地震調査研究推進本部地震調査委員 会(2015)の示した平均活動間隔(800∼1,300年程度)と調 和的である.しかしながら,①B-11コアにおけるS1イベン トの発生年代を示す年代資料が少なく誤差が大きいこと, ②S1,S2イベントの両方を記録しているコアがGS-ASG-3 コアに限られており,断層活動履歴の連続性に問題が残さ れていること,③これまでのトレンチ調査ではS1,S2イベ ントに対比される地層変位が報告されていないこと,④断 層帯の平均活動間隔からS2イベントと山崎・水野(1999) などが指摘した3,000年前頃の断層活動の間に1∼2回の断 層活動が生じた可能性が想定されるものの,これまでこれ らに対比される環境変化や地層変位が報告されていないこ と,などの問題点が残されている.今後,より連続性の高 いコア試料や複数のコア試料を組み合わせることで断層活 動記録の空白域を減らすとともに,トレンチ調査などでよ り確実性の高い証拠を積み重ね,検証していく必要がある. 謝 辞 本研究を遂行するにあたり,ボーリング調査地の地権者 並びに管理者の方々には,調査用地の借用について快諾し て頂いた.コア記載およびサンプリング作業について,産 業技術総合研究所地質情報研究部門の國本節子氏にご協力. 青 木 か お り・ 入 野 智 久・ 大 場 忠 道,2008, 鹿 島 沖 海 底 コ ア MD01―2421の後期更新世テフラ層序,第四紀研究,47,391― 407. 千葉 崇・澤井祐紀,2014,環境指標種群の再検討と更新, Diatom(珪藻学会誌) ,30(別冊),17―30. 遠藤邦彦・関本勝久・辻誠一郎,1979,大磯丘陵南西部,中村 川下流部の完新世の層序と古環境,日本大学文理学部自然科 学研究所研究紀要(応用地学) ,14,9―28. 遠藤邦彦・小杉正人・松下まり子・宮地直道・菱田 量・高野 司,1989,千葉県古流山湾周辺域における完新世の環境変遷 史とその意義,第四紀研究,28,61―77. 古澤 明,1995,火山ガラスの屈折率測定および形態分類とそ の統計的な解析に基づくテフラの識別,地質学雑誌,101, 123―133. 伊勢屋ふじこ・増田富士雄,1985, 逆グレーディング構造 : 洪水堆積物認定の指標,筑波の環境研究,9,63―69. 地震調査研究推進本部地震調査委員会,2015,塩沢断層帯・ 平山―松田北断層帯・国府津―松田断層帯(神縄・国府津―松 田断層帯)の長期評価(第二版),55p. https://www.jishin.go.jp/ main/chousa/katsudansou_pdf/36_kannawa_kouzu_4.pdf(2019年 8月19日確認). 神奈川県,2003, 「平成14年度地震関係基礎調査交付金 神奈 川県活断層調査事業神縄・国府津―松田断層帯に関する調査 成果報告書」,78p. 神奈川県,2004, 「平成15年度地震関係基礎調査交付金 神縄・ 国府津―松田断層帯に関する成果報告書」 ,76p. 関東第四紀研究会,1987,大磯丘陵の層序と構造,関東の四紀, 13,3―46. 小林 弘・出井雅彦・真山茂樹・南雲 保・長田敬五,2006, 「小林弘珪藻図鑑第1巻」 ,内田老鶴圃,531p. 小杉正人,1993,珪藻,日本第四紀学会編, 「第四紀試料分析法」, 東京大学出版会,19―26. 熊木洋太・市川清次,1981,大磯丘陵南苑部の中村原面・前川 面の変位について,国土地理院時報,55,24―28. 町田 洋,1964,Tephrochronologyによる富士火山とその周辺地 域の発達史(その2),地学雑誌,73,337―350. 町田 洋・新井房夫,2003,「新編火山灰アトラス」 ,東京大学 出版会,336p. 町田 洋・新井房夫・村田明美・袴田和夫,1974,南関東にお.
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