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アート/表現と表面の二重性

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Academic year: 2021

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(1)Japanese Journal of Ecological Psychology 2021, Vol. 13, No. 1, 21 - 22. 生態心理学会第 8 回大会 シンポジウム. アート/表現と表面の二重性 Art and Visual Awareness 特別講演:ホンマタカシ(写真家) 話題提供:佐分利. 敏晴(博士・無職),野澤. 光(東京大学),佐藤. 由紀(玉川大学). 共催:日本認知科学会「身体・システム・文化」研究分科会. J.J. Gibson(1979)は, 「画家にしても写真家にしても,自分が現実の場所やもの,人,出来事をまさに見て いるという感じを,見る人に与えようとするべきではない.そんなことをする必要はないし,そうしようとした ところで,その努 力は失敗に終わるに違いない」と述べた.これは,いかに精巧であったとしても,自然の不 変項のすべてを提示することはできないためであり,また,情報には限りがないからである. むしろ開口視を強制されていない鑑賞者は,そこに提示されている何かについて知覚しながらその表面自体も 知覚している.画像は光景でもあり表面でもあるのだ.Gibson はこれを二重性(Duality)と呼んだ. さて,画家や写真家が「まさに見ているという感じを与えようとしている」のではないとすると,表現とは何 に向かう活動なのか,また表現を鑑賞するものは何を体験しているのか.本シンポジウムでは,ギブソンの指摘 する二重性を,表現の限界としてではなく,むしろ表現が発生する本質的な裂け目として積極的に 位置づけ議 論を深めたい. Keywords: アート,表現,表面の二重性. 日本で流布しているセルルックアニメーションだけで. 【特別講演】 写真家にとっての,生態学的視覚論. なく,粘土で作るアニメーションや人形で作るアニメーシ ホンマタカシ. ョンなど,全てのアニメーションはその手法上,Gibson の 言う「現実の場所やもの,人,出来事」を通常の環境に存. 【話題提供】 1. 「この感じ」と実在感を表現するアニメーション 佐分利敏晴 セルアニメーションとして作成された TV アニメーショ. ンで,このような逸話がある. アニメーション作品「アルプスの少女ハイジ」(小田部 羊一監督)で,たき火で溶けたチーズを黒パンに乗せて食 べるシーンが放送された.その放映後,「あのチーズはど こで売っているのか」という問い合わせが放送局に多々寄 せられたというのだ.. 在している知覚情報とはかけ離れた表現しかできないが, 「まさに見ているという感じ」を目指して事象の中の変化 や動物の動きを作成し,表現している.そのとき,実写の ような精巧な絵や動きによって表現されている必要は全 くなく,むしろ省略されたものしか作ることができない, 制約が多い中で本物らしさを見せるべく抽出され表現さ れた「この感じ」=不変項の提示により,生命感にとどま らない実在感が知覚されるのである. 2. ダイナミクスとディスポジションの二重性. 野澤光. 本発表は,ダイナミクスとディスポジションの二重性と いう視点から,臨書行為(模倣による書の制作)の最新の研. しかしそのチーズの表現は,現在の例えば「精巧にでき. 究成果を報告する.発表ではまず,佐々木正人の論考,F.. ている」3DCG で作られたものではなく,光が当たってい. Jullien の比較哲学を参照し,描画痕跡に埋め込まれた他者. る部分,影の部分,照っている部分の 3 色で塗り分けられ,. の運動情報の研究可能性を示す.発表の後半では,熟達者. 溶けて見えるように変化させただけのアニメーションで. の臨書行為の全身協調パターンを解析した本研究の知見. 作られていた.特別な手法を全く使わず,リアリティのレベ. を示し,痕跡を介して継承される,描画姿勢の歴史性につ. ルの低いセルアニメーションで,もっともらしく「溶けるチ. いて論じる.. ーズ」を「美味しそうに溶ける変化」の「この感じ」すなわ ち不変項を抽出して表現した結果作成された表現であった.. 佐々木(1994)はかつて,Gibson の絵画論について論考を 進める中で,他者の描いた描画痕跡を見るとき,そこでピ. Copyright © 2021, The Japanese Society for Ecological Psychology.

(2) 22. Takashi HONMA, Toshiharu SABURI, Hikaru NOZAWA and Yuki SATO. ックアップされる情報は何か,という問いに焦点を当て,. 康 有為(著), 中村 不折・井土 霊山 (訳) (1914). 六朝書道. つぎのように述べたことがあった.「絵画の知覚が発見す. 論 二松堂書店 Jullien, F. (1992). La Propension des choses. Pour une histoire de l'efficacité en Chine. Des Travaux Seuil. (中島 隆博. るのは他者が発見したアフォーダンスである.絵画を見る ということは他者の探求を探求することである」.この. 訳(2004). 勢:効力の歴史. 佐々木の指摘は,情報学的に挑戦的な,一つの論点を示唆 しているように思われる.すなわち,絵画を見るとは,そ れを描いた他者の知覚と行為に関する情報をピックアッ プすることであり,しかも,この他者に関する情報は,画 面上に描画痕跡として物理的に埋め込まれている可能性 がある. 本研究は,痕跡を介した他者に関する情報の検出の具体. 3. 知泉書館). 不在に定位する俳優の身体:マイクロスリップに着 目して. 佐藤由紀. Gibson(1979)は画像の独自性として二重性(duality)を指 摘した.画像という表現された表面(以下「表現表面」 ) とは, 「今そこにある面」の背後に,周囲の持続とは切り. 例として,臨書行為を扱う.そもそも書とは,毛筆の運動. 離された「処理された面」が「同時にある」ことなのだ.. を紙上の痕跡として凍結させ,紙上の文字痕跡の中に持続. 彼が言及した表現表面は,写真や映画といった空間芸術で. する運動を知覚可能にする表現――言わば,ダイナミクス. あったが,それは時間芸術にもあてはめることができるの. として表現されたディスポジションである.臨書とは,こ. ではないだろうか.例えば,夕焼けを投影したホリゾント. の紙上に凍結された他者の運動ダイナミクスを,自らの運. や,あるキャラクターとしての俳優の身体は,劇場と地続. 動によって解凍する行為だと言える.Jullien(1992)は,中国. きに配置された「今そこにある面」をもつと同時に,劇場. 書論が筆でかかれた形態と筆の運動を等しいものとして. から切り離された肌理をもつ「処理された面」がある.ま. 語っていることに着目し,書は形状の中に働くダイナミズ. た時間芸術では,画像のように面の光学的配列が「いった. ムを表現する特権的な芸術である,と指摘している.静的. ん停止」しておらず,テレビとおなじように刻々と変化す. な文字痕跡からそれを描画した毛筆の動きが知覚できる. る「イベント(event)の流動」が,その表現表面に現される.. という仮定は,中国書論における自明の前提でもある.た. そこで本研究では,俳優の身体という面に注目し,その. とえば康有為(1914)は言う. 「古人書を論じ,勢いを以って. 面に「二重性」が顕在化すること,つまり,あるキャラク. 先と為す.中郎曰く九勢,衛恒曰く書勢,羲之曰く筆勢と,. ターの身体として振る舞えるようになることがその俳優. 蓋し書は形学なり,形あれば則ち勢あり(傍点筆者)」.言い. の表現の一つの到達点ととらえ,そこに現れる「マイクロ. 換えれば,かかれた書を見るとき本質的なのは,線の形で. スリップ(Reed ら 2009; 鈴木ら 1997)」に着目し,それ. はなく,その運動である.. が稽古から本番に至るまでどのように変容するのかを記. 以上の理論的背景に基づいて,本研究は,古典作品を臨 書する書家 1 名の筆尖・頭部・体幹の 3 変数の相互結合の 度合いを,相互相関解析を用いて評価した.その結果,書. 述することで,行為が「演技」へと変化する瞬間になにが 起こっているのか,を検討する.. 描画姿勢を,部分的に継承している可能性が示唆された.. 文献 Gibson, J. J. (1979/1986), The ecological approach to visual perception. Houghton Miffilin. Reed, E. S., Palmer, C. F., & Schoenherr, D. (2009). On the nature and significance of microslips in everyday activities. 生態心理学研究, 4(1), 51–66.. この結果は,臨書行為が,痕跡を介したダイナミクスの. 鈴木 健太郎, 三嶋 博之, 佐々木 正人(1997). アフォーダ. 継承を検証するパラダイムとして,有用であることを示し. ンスと行為の多様性 : マイクロスリップをめぐっ. ている.人間の制作する物のほとんどは可塑的な素材でで. て. 日本ファジィ学会誌 9(6), 826-837.. 家の身体は,字画を描画する場面に応じて協調パターンを 変化させる,全身を使った描画姿勢を獲得していた.さら に,この運動解析の結果を,近代日本の書家の描画姿勢に 関する文献と比較した結果,書家が,明治期に考案された. きており,物の表面に残る動作痕跡を介した,運動ダイナ ミクスの伝達(技能の伝承や,他者との運動協調)が可能で あると考えられる.このように考えたとき,Gibson(1979) の情報実在論は,配置と運動を分けへだてない造形理論を 構築するための,情報学的根拠となる可能性があるだろう. 文献 Gibson, J. J. (1979). The ecological approach to visual perception. Houghton Mifflin. (古崎 敬 他 訳(1985). 生態学的視覚論: ヒトの知覚世界を探る サイエン ス社).

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