37(1):35-45.2021
小学校中学年の多様な動きをつくる運動の授業
における歩数と体育授業場面との関連
長野 康平
(山梨大学大学院医工農学総合教育部・山梨大学教育学部)篠原 俊明
(東京未来大学)中村 和彦
(山梨大学教育学部)研究資料
1. 緒言
子どもの体力・運動能力低下が叫ばれて久し く,1964 年から毎年実施している体力・運動能 力調査では,小学生の体力・運動能力は 1985 年 頃を境に長期的に低下し,近年では向上傾向にあ るものの依然として低い水準であることが報告さ れている(スポーツ庁,2019).また,森ら(2010) の 1966 年から 2008 年まで 6 回にわたる全国規模 の調査による時代推移を検討した報告では,幼 児期においても小学生と同様の傾向がみられて いる.さらに,体力・運動能力及び運動習慣の 二極化も問題となっている(平川と高野,2008; 豊島,2006;スポーツ庁,2019).このような体 力・運動能力低下の原因には,身体活動量の減少 と基本的動作の未習得が挙げられている(日本学 術会議,2017).中村ら(2011)は 1985 年と 2007 年の幼児の 7 種類の基本的動作の動作様式の比較 から,2007 年の幼児は未熟な動作様式の割合が 高く,5 歳児の基本的動作は 1985 年の 3 歳児に 相当することを報告している.このように子ども においては,体力テストの結果に代表される量的 な低下とともに,基本的動作の動作様式に代表さ れる質的な低下も指摘されている.近年では先進 諸国を中心に子どもの身体不活動が問題となって おり,国際的に子どもの身体活動量のガイドラ インとして,「1 日に少なくとも 60 分以上の中強 度以上の身体活動」が推奨されており(National Association for Sport and Physical Education, 2004, 2009;Strong et al, 2005;Department of Health and Ageing, 2010),我が国では,アクティブチャイル ド 60min(日本体育協会,2010)や幼児期運動指 針(文部科学省,2012a)が策定され,時間とし ては 1 日あたり 60 分以上身体を動かすことが推 奨されている.また,肥満傾向児の出現率は低下 傾向にあるものの依然問題であり(文部科学省, 2020),伊藤と篠田(2015)は,肥満傾向児は標 準児と比べて運動実施状況が不良であることを報 告している.子どもの頃の身体活動は,成人期以 降まで持ち越されることが報告されており,子ど もの頃の身体活動が成人期以降の健康状態に影響 を及ぼす可能性も指摘されている(Boreham and Riddoch, 2001).これらのことからも,子どもの 身体活動を推進していくことは重要である. 運動する子どもとそうでない子どもの二極化や子どもの体力・運動能力低下が依然深刻であると いった課題を受けて,2008 年 3 月に学習指導要 領(以下,2008 告示学習指導要領)が告示され た(文部科学省,2008a).小学校の 2008 告示学 習指導要領の体育科における改訂のポイントとし ては,「体つくり運動」の低学年からの導入が挙 げられる.1998 年に告示された学習指導要領で は,高学年以降で実施されていた体つくり運動が (文部省,1998),2008 告示学習指導要領では低 学年から導入され,すべての学年において取り扱 われることとなった.また,2017 年 3 月に告示 された学習指導要領(以下,2017 告示学習指導 要領)においても,2008 告示学習指導要領に引 き続き,体つくり運動注 1)が低学年から取り扱わ れている(文部科学省,2018a). 体つくり運動のねらいについて,学習指導要領 解説体育編(文部科学省,2018b)には「体を動 かす楽しさや心地よさを味わい運動好きになると ともに,心と体の関係に気付いたり,仲間と交流 したりすることや,様々な基本的な動きを身に付 けたり,体の動きを高めたりして,体力を高める ために行われる運動である」と記されており,そ の内容は,低学年は「体ほぐしの運動遊び」と 「多様な動きをつくる運動遊び」,中学年は「体ほ ぐしの運動」と「多様な動きをつくる運動」,高 学年では「体ほぐしの運動」と「体の動きを高め る運動」から構成されている.このような構成か らも確認できるように,体つくり運動では,体力 の向上を直接的な学習の目的とするのではなく, 様々な学習の結果としての体力の向上を最終的な アウトカムとしていると捉えられる.一方で,子 どもの体力向上のための取組ハンドブック(文部 科学省,2012b)によれば,子どもの体力・運動 能力を向上させるためには,体育・保健体育の授 業における運動量注 2)の確保と,児童の発達の段 階に見合った運動実践ができるような教材研究を 行い,学校体育の一層の充実を図ることが重要で あると示されている.体つくり運動においては, 子どもの体力・運動能力低下の背景を鑑みれば, その原因である基本的な動きを習得するととも に,他の領域同様に十分な身体活動量を確保した 授業を展開することも重要であると考えられる. 「体ほぐし運動」では体を動かす楽しさや心地よ さを味わうことを通して,自己や友達の心と体の 状態に気付いたり,みんなで豊かに関わったりす ることといった,運動に対する情意面での重要性 が示されているが,「多様な動きをつくる運動」 においては,様々な基本的な動きを身に付け,そ の質を高めていくことといった運動面の重要性が 示されている(文部科学省,2018b).体つくり運 動で,子どもの体力・運動能力低下に対応してい くことを前提とすれば,「多様な動きをつくる運 動」において,基本的な動きの充実だけではなく, 体力・運動能力低下の原因とされている身体活動 量にも着目していくことが重要である. 現代の小学生の平日 1 日の歩数は男子で約 13,300 ∼ 14,000 歩,女子で約 10,000 ∼ 11,500 歩, 学校内での歩数は男子で約 5,000 歩,女子で約 4,000 歩であり,さらに休日は平日と比べ,男子 で 3,000 ∼ 4,000 歩,女子で 2,000 ∼ 3,000 歩少な くなることが報告されている(東京都教育委員会, 2012).また Rezende et al.(2015)は,子どもが 1 日の多くの時間を過ごす学校は,身体活動を推 進していく上でも重要な存在であると指摘してい る.さらに加賀ら(1997)は,体育授業のある日 の歩数は,体育授業がない日の歩数と比べて有意 に多いことを報告している.このような状況を考 慮すると,体育授業における身体活動量は,日常 生活全体における身体活動量の確保の点からも重 要であると考えられる.特に,放課後に運動やス ポーツを実施する機会のない児童にとっては,体 育授業における身体活動の果たす役割は大きい. 体育授業における歩数に関する研究としては, 加賀ら(1997)は取り扱う教材間の歩数を比較
しており,走り高跳びで 1,595 ± 570 歩,リレー で 1,905 ± 474 歩,跳び箱・マットで 1,940 ± 641 歩,バスケットボールで 2,459 ± 660 歩と報告し ている.また大平と荒井(2016)は,小学 5 年生 のティーボールの授業における歩数について,単 元が進むにつれて上昇すると報告している.この ように体育授業における歩数は,領域による違い だけでなく,取り扱う時限によっても異なること が知られている.しかし,体育授業の歩数に関す る研究は少なく,体つくり運動の授業に関する研 究は報告されていない. 体育授業を捉える方法として,授業場面を「運 動学習」「認知学習」「学習指導」「マネジメント」 の 4 つに区分して観察・記録する「授業場面の期 間記録法」が知られている(高橋,1994).福ヶ 迫ら(2003)は器械運動とボール運動の授業場面 について,器械運動では練習を中心に授業が展開 されるため,まとまった運動学習場面が確保され る一方で,ボール運動ではグループでの作戦や ゲームの振り返りなどにより認知学習場面が多く なることを明らかにしている.児童が準備運動や 練習,運動を行う運動学習場面の充実は,授業内 での身体活動量の増大につながると考えられるこ とから,体育授業場面と身体活動量に関する研究 が近年実施されている(大坪ら,2019a;大坪ら, 2019b;春日ら,2019).大坪ら(2019a)は小学 5 年生の 1 クラスの 6 種目の授業について,活動強 度と体育授業場面の種目間の違いについて報告し ている.また大坪(2019b)は小学 5 年生の 1 ク ラスの 5 種目の授業について運動学習場面に着目 して活動強度の違いを検討している.このような 授業場面と活動強度に関する研究は実施されてい るが,歩数に関する報告はなく,さらに対象が 1 クラスの授業だけでありサンプリングが限定的で ある. 体つくり運動においては,鈴木ら(2016) が指 摘するように,授業に関する実証的な研究が少な く,データに基づいた議論がなされていない実態 がある.七澤と本田(2014)の低学年におけるリ ズム刺激が技能の習得と学習従事率に与える影響 を検討した研究や,佐伯と藤田(2018)の小学校 中学年における教材の仲間づくりの効果を検討し た研究のように,体育授業を通じた子どもの変容 を検討するような研究が多く,授業の実態がどの ようなものであるのかといった情報(横断研究) 注 3)に関する研究は少ない.また,体育授業場面 や児童の身体活動量に関する体つくり運動領域に おける特徴について捉えた研究もみられない.白 旗(2013)の我が国においては教育行政学的体育 科教育研究の積み重ねが弱く,基本的な資料とな り得る調査や報告が欠如しているとの指摘とも一 致する. 本研究では,複数の授業者によって行われる体 つくり運動領域の中学年の「多様な動きをつくる 運動」の単元なかの授業における歩数と体育授業 場面の実態を明らかにすることと,歩数と体育 授業場面の関連を検討することを目的とした.ま た,体力・運動能力低下の問題点の観点から,歩 数については性差と体格による差についても検討 した.
2. 研究方法
2.1 対象 東京都の公立小学校 3 校 12 授業,及び山梨県 の公立小学校 16 校 19 授業の計 31 授業を受講し た児童 882 名を対象とした.なお 31 授業はすべ て異なる学級の授業を対象とした.対象とした授 業は,第 3 学年及び第 4 学年における体つくり運 動領域「多様な動きをつくる運動」の単元なかの 授業であった.高橋と吉野(2003)の「運動学習 が中心になる単元なかの授業では,運動学習時間 が十分に確保され,マネジメントや教師の学習指 導場面が少なくなる」との指摘を考慮し,対象とする授業は単元なかとした.なお対象とした授業 の指導案の作成等には,著者らは関与しなかった. 各授業について,男女それぞれ 2 名を授業者がラ ンダムに抽出し,計 124 名の児童の歩数を測定し た.解析にはデータに不備のなかった 123 名(男 子 62 名,女子 61 名)のデータを用いた.なお調 査は 2011 年 6 月から 12 月にかけて実施した. 2.2 評価項目 2.2.1 歩数 児童の腰部に,加速度センサーを内蔵した SU-ZUKEN 社製カロリーカウンター e-style を装着し, 45 分間の授業における歩数を計測した.授業開 始直前にカロリーカウンターを児童の腰部に装着 し,授業終了時に数値を確認し,1 授業時間にお ける歩数を算出した. 2.2.2 体育授業場面 各授業がどのような時間配分によって展開され たかを把握するためシーデントップ(1988)によ り紹介され,高橋(1994)により加筆修正された 「体育授業場面の期間記録法」を用いた.授業場 面は「運動学習」「認知学習」「学習指導」「マネ ジメント」の 4 つに区分され,各授業場面に費や された時間を観察・記録した.記録した授業場面 については,各授業場面について,配当された時 間量(秒),時間的割合(%),出現頻度(回)を 算出した. 2.2.3 体格 身長及び体重,年齢のデータを収集した.身長 及び体重については,測定から調査に最も近い既 存データを収集した.得られた体格データから BMI を算出した.また体格データから日本学校 保健会(2015)の基準に従い肥満度を算出し,肥 満度の値に基づき肥満傾向児と非肥満傾向児に分 類した. 2.3 統計解析 対象者の特徴,及び歩数については,対応のな い t 検定により性差を検討した.肥満傾向児の出 現率の性差については独立性の検定を用いた.ま た非肥満傾向児と肥満傾向児の歩数についても, 対応のない t 検定によりその差を検討した.体育 授業場面の期間記録法によって収集した運動学習 場面の時間量(秒)の中央値により,対象授業を 2 群に分類し,各群に属する児童の歩数を対応の ない t 検定を用いて比較した.さらに運動学習場 面の時間量の中央値により 2 群に分類した授業に ついて,対応のない t 検定により体育授業場面の 特徴を比較した.なお基本属性における特徴以外 の解析においては効果量 d も算出した.対応のな い t 検定における効果量 d の大きさは,0.20 で小, 0.50 で中,0.80 で大であることが知られている(水 本と竹内,2008).解析は IBM SPSS Statistics 24.0 を用い,統計的有意水準はすべて 5% 未満とした. 2.4 倫理的配慮 本研究を遂行するにあたり,研究データに関し て書面及び口頭にて説明し,保護者,学校長及び 授業者に同意を得た.
3. 結果
対象者の特徴を表 1 に示した.中学年の多様 な動きをつくる運動の授業における歩数は 1966.3 ± 523.1 歩 で あ っ た. ま た 男 子 で は 2053.2 ± 544.6 歩,女子では 1878.0 ± 488.9 歩であり,対 応のない t 検定を用いて性差を検討したところ, 性差は認められなかった.表 2 に非肥満傾向児と 肥満傾向児の歩数を比較した結果を示した.男女 ともに体格の違いによる歩数に違いは認められな かった. 表 3 は,31 体育授業を対象に各授業場面の時 間量,及び時間的割合と出現頻度を示している.全体(n=123) 男子(n=62) 女子(n=61)
t p Mean SD 95%CI Mean SD 95%CI Mean SD 95%CI
学年(年) 3.4 ± 0.5 3.3-3.5 3.4 ± 0.5 3.3-3.5 3.4 ± 0.5 3.3-3.5 0.00 1.000 年齢(歳) 9.0 ± 0.7 8.9-9.1 9.1 ± 0.7 8.9-9.2 9.0 ± 0.7 8.8-9.2 0.40 0.689 身長(cm) 132.0 ± 6.3 130.9-133.2 132.2 ± 6.1 130.6-133.7 131.9 ± 6.6 130.1-133.6 0.23 0.821 体重(kg) 29.9 ± 6.7 28.7-31.1 30.8 ± 7.5 28.9-32.7 29.0 ± 5.7 27.5-30.5 1.47 0.144 BMI(kg/m2) 17.0 ± 2.8 16.5-17.5 17.5 ± 3.2 16.6-18.3 16.5 ± 2.2 16.0-17.1 1.84 0.069 肥満度(%) 2.5 ± 15.9 -0.3-5.5 4.8 ± 18.6 0.0-9.6 0.1 ± 12.5 -2.9-3.6 1.62 0.109 肥満傾向児(人)1) 15 (12.1) 10 (16.1) 5 (8.1) 1.90 0.168 歩数(歩) 1966.3 ± 523.1 1861.0-2052.8 2053.2 ± 544.6 1899.3-2183.0 1878.0 ± 488.9 1742.0-2000.4 1.88 0.063 ※ 1)肥満傾向児については,人数(割合)を示している 表 1 対象者の特徴 非肥満傾向児 肥満傾向児 t p d Mean SD Mean SD 男子 2046.5 ± 558.7 2014.3 ± 526.7 0.17 0.867 0.06 女子 1875.1 ± 515.4 1829.6 ± 206.2 0.19 0.846 0.09 ※ 1)表中の Mean ± SD の数値は歩数を示す 表 2 肥満度判定別にみた児童の歩数 表 3 授業場面の時間量,時間的割合および出現頻度 Mean SD 中央値 最小値 最大値 時間量(秒) 運動学習 1524.7 ± 326.2 1509 753 2268 認知学習 67.9 ± 95.3 0 0 362 学習指導 769.7 ± 301.6 740 70 1488 マネジメント 337.6 ± 177.2 334 75 850 時間割合(%) 運動学習 56.5 ± 12.1 55.9 27.9 84.0 認知学習 2.5 ± 3.5 0.00 0.00 13.4 学習指導 28.5 ± 11.2 27.4 2.6 55.1 マネジメント 12.5 ± 6.6 12.4 2.8 31.5 頻度(回) 運動学習 10.4 ± 4.3 11 2 19 認知学習 0.9 ± 1.4 0 0 6 学習指導 11.3 ± 5.5 11 1 20 マネジメント 6.8 ± 2.9 6 2 13 総授業場面 29.4 ± 10.1 32 8 45
運動学習場面には 56.5 ± 12.1%(約 25.4 分)が費 やされており,学習指導場面に 28.5 ± 11.2%,マ ネジメント場面に 12.5 ± 6.6%,認知学習場面に 2.5 ± 3.5% が費やされていた.各授業場面の出現頻 度については,最も多く出現した場面は学習指導 場面であり 11.3 ± 5.5 回であった.次いで運動学 習場面が 10.4 ± 4.3 回,マネジメント場面 6.8 ± 2.9 回,認知学習場面 0.9 ± 1.4 回であった. 31 体育授業を運動学習場面の時間量の中央値 (1509 秒)によって 2 群に分類し(運動学習場面 が長い授業:A 群;運動学習場面が短い授業:B 群),それぞれの児童の歩数を比較した結果を表 4 に示した.男子では,運動学習場面が長い授業 を受講していた A 群は 2219.7 ± 596.3 歩であり, 運動学習場面が短い授業を受講していた B 群は 1875.6 ± 425.0 歩と,運動学習場面が長い授業を 受講していた児童の 1 授業時間における歩数が有 意に多かった.女子では,運動学習場面が長い授 業を受講していた A 群は 2028.9 ± 521.6 歩であり, 運動学習場面が短い授業を受講していた B 群は 1722.0 ± 404.3 歩と,1 授業時間における歩数が 有意に多かった.運動学習場面の時間量の中央値 A 群 B 群 t p d Mean SD Mean SD 男子 2219.7 ± 596.3 1875.6 ± 425.0 -2.60 0.012 0.66 女子 2028.9 ± 521.6 1722.0 ± 404.3 -2.56 0.013 0.66 ※ 1)表中の Mean ± SD の数値は歩数を示す ※ 2)A 群は運動学習場面が長い授業、B 群は運動学習場面が短い授業をそれぞれ示す 表 4 授業の運動学習場面の多寡別にみた児童の歩数 A 群 B 群 t p d Mean SD Mean SD 時間量(秒) 運動学習 1768.6 ± 211.3 1264.7 ± 199.6 -6.82 0.000 2.45 認知学習 37.1 ± 58.3 100.8 ± 116.5 1.91 0.071 0.70 学習指導 603.2 ± 234.2 947.4 ± 265.8 3.83 0.001 1.38 マネジメント 291.1 ± 130.5 387.1 ± 209.7 1.54 0.134 0.55 時間割合(%) 運動学習 65.5 ± 7.8 46.8 ± 7.4 -6.82 0.000 2.45 認知学習 1.4 ± 2.2 3.7 ± 4.3 1.90 0.072 0.70 学習指導 22.3 ± 8.7 35.1 ± 9.8 3.83 0.001 1.38 マネジメント 10.8 ± 4.8 14.3 ± 7.8 1.55 0.133 0.56 頻度(回) 運動学習 10.9 ± 5.3 9.8 ± 3.0 -0.70 0.488 0.25 認知学習 0.7 ± 1.5 1.2 ± 1.4 0.99 0.329 0.36 学習指導 11.1 ± 6.4 11.5 ± 4.4 0.24 0.816 0.08 マネジメント 5.3 ± 1.9 8.4 ± 3.0 3.43 0.002 1.25 総授業場面 27.9 ± 11.6 30.9 ± 8.4 0.82 0.420 0.29 ※ 1)A 群は運動学習場面が長い授業、B 群は運動学習場面が短い授業をそれぞれ示す 表 5 運動学習場面の違いによる授業場面の時間量、時間的割合および出現頻度
により 2 群に分類した授業場面の特徴を表 5 に示 した.時間量及び時間割合については,運動学 習場面が長い授業の A 群が運動学習場面におい て有意に高い値を示し(時間量:A 群 1768.6 ± 211.3 秒,B 群 1264.7 ± 199.6 秒;時間割合:A 群 65.5 ± 7.8%,B 群 46.8 ± 7.4%),運動学習場面が 短い授業の B 群が学習指導場面において有意に 高い値を示した(時間量:A 群 603.2 ± 234.2 秒, B 群 947.4 ± 265.8 秒;時間割合:A 群 22.3 ± 8.7%, B 群 35.1 ± 9.8%).また出現頻度については運動 学習場面が短い授業の B 群がマネジメント場面 において有意に高い値を示した(A 群 5.3 ± 1.9 回, B 群 8.4 ± 3.0 回).
4. 考察
本研究では,複数の授業者によって行われた体 つくり運動領域の中学年の「多様な動きをつくる 運動」の単元なかの授業における歩数と体育授業 場面の実態を明らかにし,歩数と体育授業場面の 関連を検討することを目的とした.また,体力・ 運動能力低下の問題点の観点から,歩数について は性差と体格による差についても検討した. 中学年の多様な動きをつくる運動の単元なかの 授業の歩数は,1966.3 ± 523.1 歩(男子:2053.2 ± 544.6 歩, 女 子:1878.0 ± 488.9 歩 ) で あ り, 性差については認められなかった(表 1).これ まで体つくり運動に関する歩数を報告した研究は なく,その他の領域においても複数の授業者が行 う授業をサンプリングした研究はなく,本研究で はこれらの知見を提供することができた.体育授 業における歩数としては,走り高跳びで 1,595 ± 570 歩,リレーで 1,905 ± 474 歩,跳び箱・マッ トで 1,940 ± 641 歩,バスケットボールで 2,459 ± 660 歩,ティーボールで約 2,000 ∼ 3,000 歩と 報告されている(加賀ら,1997;大平と荒井, 2016).体つくり運動の授業では,ゲーム・ボー ル運動領域ほどの歩数はみられないが,その他の 授業と同程度,あるいはそれ以上の歩数が確認さ れた.一方で,先行研究(笹山ら,2009;新本と 山 ,2013;加賀ら,1997)では,日常生活だけ でなく体育授業における歩数にも男子優位の性差 があることが報告されているが,体つくり運動に おいては,歩数に性差はみられなかった.さらに 肥満度別に行った解析においても有意な差は認め られなかった(表 2).高田(2017)が主張する ように体つくり運動はスポーツの勝ち負けに着目 せず,個の運動能力に向き合えるため,性や体格 の違いによる歩数の差がなかった可能性があり, 体つくり運動は多くの児童が主体的に参加し,活 動しやすい授業であると考えられる. 中学年の多様な動きをつくる運動の単元なか の体育授業場面については,運動学習場面が 56.5 ± 12.1%,認知学習場面が 2.5 ± 3.5%,学習指導 場面が 28.5 ± 11.2%,マネジメント場面が 12.5 ± 6.6% であった(表 3).福ヶ迫ら(2003)によれ ば,対象は高学年ではあるが,器械運動の体育授 業場面については,運動学習場面が 64.2%,認知 学習場面が 3.2%,学習指導場面が 14.9%,マネジ メント場面が 17.7% であり,ボール運動では,運 動学習場面が 55.5%,認知学習場面が 13.1%,学 習指導場面が 12.6%,マネジメント場面が 18.8% と報告されている.体つくり運動を特徴づける場 面としては,学習指導場面の割合がボール運動, 器械運動と比べて大きいことが挙げられる.多様 な動きをつくる運動の授業では,1 単元を「動き を確認しながら運動する時間」と「動きを選び, 工夫しながら運動する時間」の 2 つに分けて展開 していくことが有効であるとされている(文部科 学省,2009).「動きを確認しながら運動する時間」 では,教師が一つ一つの動きを提示しながら,動 きをじっくり経験させながら授業を行っていくた め,学習指導場面の時間量が多くなった可能性が ある.一方で「動きを選び工夫しながら運動する時間」は「動きを確認しながら運動する時間」で 取り組んだ動きを,さらに工夫してより複雑な動 きへと発展させていく時間であるため,運動学習 場面もある程度確保できたものと推察される. 運動学習場面の時間量の多寡による児童の歩 数を比較した結果,運動学習場面が多い授業の 児童は男女ともに有意に歩数が多かった(表 4). 福ヶ迫ら(2005)は体育授業における運動学習場 面の時間量を確保することの重要性を強調してい る.しかし,大坪ら(2019a)では,運動学習場 面の多さが必ずしも身体活動量の多さに関連しな いことを報告している.運動学習場面の時間量が 多ければ歩数が多いという本研究の結果は,福ヶ 迫ら(2005)の主張を支持するものであった.一 方で,運動学習場面の時間量が異なれば,その他 の授業場面に差異が生じる.そこで,運動学習場 面の時間量によって分類した群における授業場面 の時間量,時間的割合,出現頻度の違いについて 比較した(表 5).その結果,運動学習場面が少 ない授業では,学習指導場面の時間量・時間割合 が多くなることが明らかになった.一方で,出現 頻度についてはマネジメント場面のみに群間差が 認められ,運動学習場面の時間量が多い授業では マネジメント場面の出現頻度が少ないことが明ら かになった.マネジメント場面の頻度が大きくな るということは,児童が待機したり,用具を準備 したりするなどの学習成果に直接つながらない場 面が増え,授業が細切れになり,子どもの体育授 業への評価も低下する可能性がある.いくつかの 先行研究(中井ら,1994;高橋,2000;深見ら, 2000)で示されているように,このような現象が, 単元なかに限定して起こるのか,体育授業場面の 分布が単元の時間経過に伴い変化するかについて は検証が必要である.一方で,必ずしも身体活動 量が多い授業が優れた体育授業であるということ はない.しかし体育授業における身体活動量に関 する特徴を把握することは,より良い体育授業を 創出する上では重要であり,今後は体育授業にお ける身体活動量と児童の評価やその他の評価の関 連を検討するような研究が望まれる.
5. 研究の限界と今後の課題
本研究は,小学校中学年の体つくり運動におけ る多様な動きをつくる運動の単元なかの授業に関 する歩数と体育授業場面に関する横断研究であ り,複数の授業者によって行われる授業に関する 歩数と体育授業場面の情報提供という意味で価値 が高い.一方で,本研究は単元なかに焦点化し たものであり,単元を通じた情報については提供 できず,複数の授業者が行う縦断研究が今後求め られる.さらに,中学年だけではなく,低学年の 「多様な動きをつくる運動遊び」や高学年の「体 の動きを高める運動」に関する研究や,体ほぐし の運動(遊び)に関する実態調査についても,よ り良い体つくり運動の授業を検討していく上では 重要になると考えられる.また本研究では,季節 や対象学級の人数・男女比等が十分に考慮されて おらず,これらが結果を左右する可能性は否定で きない.本研究では,身体活動量の指標として歩 数について報告した.近年では体育授業における 身体活動量の指標として活動強度に着目した研究 (Hollis et al, 2016;Tanaka et al, 2019)もなされて おり,これらの情報も歩数と合わせて報告する必 要がある.以上のような研究上の課題や展望を踏 まえ,実証的な研究を蓄積してくことが今後の課 題であると考えられる.6. 結論
本研究では,複数の授業者によって行われる体 つくり運動の「多様な動きをつくる運動」の歩数 と体育授業場面を明らかにすることと,歩数と体 育授業場面の関連を検討することを目的とした.公立小学校 19 校の 3 年生と 4 年生の 31 授業にお いて,各授業 4 名(計 124 名)の歩数を測定し, 体育授業場面の期間記録法を用いて授業場面を観 察・記録した. その結果,以下のことが明らかになった. 1)多様な動きをつくる運動の授業における歩数 は 1966.3 ± 523.1 歩であった(男子:2053.2 ± 544.6 歩,女子:1878.0 ± 488.9 歩). 2)多様な動きをつくる運動の授業における授業 場面は,運動学習場面 56.5 ± 12.1%,学習指導 場面 28.5 ± 11.2%,マネジメント場面 12.5 ± 6.6%,認知学習場面 2.5 ± 3.5% であった. 3)運動学習場面が長い授業は,短い授業に比べ 児童の歩数が有意に多かった(男子:長い授業 2219.7 ± 596.3 歩,短い授業 1875.6 ± 425.0 歩; 女子:長い授業 2028.9 ± 521.6 歩,短い授業 1722.0 ± 404.3 歩). 【注】 1) 領域名については,2008 告示学習指導要領(文部科学 省,2008b)では,低学年から高学年まで「体つくり 運動」であったが,2017 告示学習指導要領(文部科学省, 2018b)では,低学年は「体つくりの運動遊び」,中学 年と高学年では「体つくり運動」となっていることか ら,「体つくり運動系」と表記されている.本研究で は 2008 告示学習指導要領の内容についても取り扱っ ているため,2017 告示学習指導要領も含めて,「体つ くり運動」の表記を使用している. 2) 種々の行政資料(文部科学省,2010;文部科学省, 2012b)においては「運動量」の表記が散見されるが, 本研究では近年の研究でも多く用いられている「身体 活動量」の表記を用いている.身体活動量の評価方法 としては METs や活動強度なども知られているが,本 研究では身体活動量の代表値として歩数を用いてい る. 3) 横断研究(横断的研究)とは,観察的研究の 1 種であ り,ある一時点における現象をありのまま観察する手 法である.多くの授業研究においては,研究者あるい は授業者がなんらかの意図により授業(介入)を行う ため,観察的研究ではなく,実験的研究の側面が強い. 本研究では,単元なかに限定して観察を実施している が,これが単元のはじめ・なか・おわりのすべてを収 集するなど複数の地点を測定していれば,縦断的研究 となる. 【引用・参考文献】
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