タグラグビーの学習内容に関する一考察
:「ボール持ち運び」時の状況に着目して
A study of learning contents of tag rugby : Focus on the situation of ball carrying
梶 山 俊 仁:Toshihito KAJIYAMA 1 寺 田 泰 人:Yasuto TERADA 2 山 本 巧:Takumi YAMAMOTO 3 廣 瀬 勝 弘:Katsuhiro HIROSE 4 大 塚 道 太:Dohta OHTSUKA 5 小 栁 竜 太:Ryuta KOYANAGI 6 1 朝日大学: Asahi University
1851, Hozumi, Mizuho-Shi, Gifu Ken, 501-0296 2 桜花学園大学: Ohkagakuen University
48, Sakaematitakeji Toyoake-shi, Aichi Ken, 470-1193 3 防衛大学校: National Defense Academy
1-10-20 Hashirimizu Yokosuka-shi, Kanagawa Ken, 239-8686 4 京都産業大学: Kyoto Sangyo University
Motoyama, Kamigamo, Kita-ku, Kyoto-shi, Kyoto Fu, 603-8555 5 大分大学: Oita University
700, Dannoharu, Oita-shi, Oita Ken, 870-1192 6 愛知学院大学: Aichi Gakuin University
12, Araike Iwasaki-cho, Nisshin-shi, Aichi Ken, 470-0195
Abstract
In this study, we investigated the various plays selected at the time of a breakthrough into offside lines for tag rugby. The analysis target was 375 instances in five games in the national competition of elementary school children. We attempted to identify the most ideal play at the time of a breakthrough into offside lines in tag rugby using the KJ method. The analysis target comprised 154 instances in which the attacker and defender faced each other statically and 221 instances where the aggressor and the defender faced one another dynamically.
The results were as follows: In an instance where the attacker and the defender were facing each other statically, it was effective to enact a breakout play that creates a favorable situation for the attacker in the next attack based on player numbers and player positioning. Similarly, in an instance where the attacker and defender
Ⅰ.はじめに 1 .「分離型」について 学校における体育科・保健体育科の授業で、球 技注 1)は、児童や生徒から人気がある種目であ り、球技が扱われる機会は多く、他領域と比較し て約 1/3 がこの領域に充てられている(鈴木ら, 2008)。この球技において、平成 29 年 7 月に告 示された中学校学習指導要領解説保健体育編によ り、中学校でタグラグビーの取扱いが初めて示さ れた(文部科学省,2018)。このことは、これま での学習指導要領にも記載されていた小学校のタ グラグビーと高等学校のラグビーを繋ぐ、小学校、 中学校、高等学校の 12 年間にわたる学校種を越 えた学習内容の系統性を保証する役割を担うもの として期待されている(廣瀬,2019)。そのため、 ラグビーの学習において、小学校から高等学校ま での 12 年間の系統的な学習内容や方法の検討、 カリキュラムづくりなどが喫緊の課題となってい る。また、ラグビーはタックルなどのコンタクト プレーを含むので、教師は他領域よりも児童や生 徒の安全を意識した指導内容や方法も目指さなけ ればならない。特に、ラグビーを経験したことの ない児童や生徒、また身体接触を嫌い、運動が苦 手な傾向にある児童や生徒への配慮を怠らずにラ グビーの競技特性を維持しながら、指導内容や方 法の工夫が必要であるといえる。 中学校学習指導要領では、球技をゴール型・ネッ ト型・ベースボール型の 3 つに分類し提示してい る(文部科学省,2018)。ラグビーは、「ドリブル やパスなどのボール操作で相手コートに侵入し、 シュートを放ち、一定時間内に相手チームより多 く得点を競い合うゲーム」の特性を持ったゴール 型に位置付けられている。そのゴール型の目標及 び内容は、「ゴール型はコート内で攻守が入り交 じり、ボール操作とボールを持たないときの動き によって攻防を組み立て、陣地を取り合って得点 しやすい空間に侵入し、一定時間内に得点を競い 合うこと」とされている。 このような学習指導要領における球技の分類 は、ゲームにおける攻撃や守備の特徴、すなわち 戦術的な観点からであるとされている(鈴木ら, 2003)。そのため、学習するべき内容は、分類さ れたゲームの中で共通した戦術的要素が重要視さ れるようになった。すなわち、ゲームにおける戦 術的課題を学習内容の中核に据えた「戦術学習」 を含む授業実践が行われるようになったことは周 知の通りである(宗野,2013)。 本研究で対象とするタグラグビーは、小学校中 学年において「ゴール型ゲーム・陣地を取り合う ゲーム」として、小学校高学年において「ゴール型・ 陣地を取り合うゴール型」として提示されている (文部科学省,2018)。同じくゴール型には、小学 校中学年では「ゴール型ゲーム・味方チームと相 手チームが入り交じって得点を取り合うゲーム」、 小学校高学年では「ゴール型・攻守が入り交じっ て行うゴール型」が提示されており、ゴール型に 位置づくゲームとして、「攻守が入り混じるゲー ム」「陣地を取り合うゲーム」の 2 つに大別され ると理解することができる。 ところが、この 2 つのゲームに該当する小学校 学習指導要領解説の[例示]部分について詳細に 確認すると、「ボールを持たない動き」の学習内 容として提示されている「ボール保持者と自分の 間に守る者がいない空間に移動すること(小学校 低学年)」「ボール保持者と自己の間に守備者が入 らないように移動すること(小学校高学年)」を 含み、その多くは「攻守が入り交じるゲーム」の 学習内容に終始しており、現状では「陣地を取り were facing each other dynamically, it was thought that either a break to allow for an organized defense line or a quick attack should be selected.
As a result of these observations, the following was suggested. One of the important aspects regarding effective tactics for a breakthrough into offside lines is to opt for a break to allow for an organized defense line or quick attack. At that time, it is important to pay attention to the static or dynamic situation, as well as the number and positioning of the both attacker and the defender. It was suggested that the learning effect would be higher when the defense line of the defender was prepared.
Ⅰ.はじめに 1 .「分離型」について 学校における体育科・保健体育科の授業で、球 技注 1)は、児童や生徒から人気がある種目であ り、球技が扱われる機会は多く、他領域と比較し て約 1/3 がこの領域に充てられている(鈴木ら, 2008)。この球技において、平成 29 年 7 月に告 示された中学校学習指導要領解説保健体育編によ り、中学校でタグラグビーの取扱いが初めて示さ れた(文部科学省,2018)。このことは、これま での学習指導要領にも記載されていた小学校のタ グラグビーと高等学校のラグビーを繋ぐ、小学校、 中学校、高等学校の 12 年間にわたる学校種を越 えた学習内容の系統性を保証する役割を担うもの として期待されている(廣瀬,2019)。そのため、 ラグビーの学習において、小学校から高等学校ま での 12 年間の系統的な学習内容や方法の検討、 カリキュラムづくりなどが喫緊の課題となってい る。また、ラグビーはタックルなどのコンタクト プレーを含むので、教師は他領域よりも児童や生 徒の安全を意識した指導内容や方法も目指さなけ ればならない。特に、ラグビーを経験したことの ない児童や生徒、また身体接触を嫌い、運動が苦 手な傾向にある児童や生徒への配慮を怠らずにラ グビーの競技特性を維持しながら、指導内容や方 法の工夫が必要であるといえる。 中学校学習指導要領では、球技をゴール型・ネッ ト型・ベースボール型の 3 つに分類し提示してい る(文部科学省,2018)。ラグビーは、「ドリブル やパスなどのボール操作で相手コートに侵入し、 シュートを放ち、一定時間内に相手チームより多 く得点を競い合うゲーム」の特性を持ったゴール 型に位置付けられている。そのゴール型の目標及 び内容は、「ゴール型はコート内で攻守が入り交 じり、ボール操作とボールを持たないときの動き によって攻防を組み立て、陣地を取り合って得点 しやすい空間に侵入し、一定時間内に得点を競い 合うこと」とされている。 このような学習指導要領における球技の分類 は、ゲームにおける攻撃や守備の特徴、すなわち 戦術的な観点からであるとされている(鈴木ら, 2003)。そのため、学習するべき内容は、分類さ れたゲームの中で共通した戦術的要素が重要視さ れるようになった。すなわち、ゲームにおける戦 術的課題を学習内容の中核に据えた「戦術学習」 を含む授業実践が行われるようになったことは周 知の通りである(宗野,2013)。 本研究で対象とするタグラグビーは、小学校中 学年において「ゴール型ゲーム・陣地を取り合う ゲーム」として、小学校高学年において「ゴール型・ 陣地を取り合うゴール型」として提示されている (文部科学省,2018)。同じくゴール型には、小学 校中学年では「ゴール型ゲーム・味方チームと相 手チームが入り交じって得点を取り合うゲーム」、 小学校高学年では「ゴール型・攻守が入り交じっ て行うゴール型」が提示されており、ゴール型に 位置づくゲームとして、「攻守が入り混じるゲー ム」「陣地を取り合うゲーム」の 2 つに大別され ると理解することができる。 ところが、この 2 つのゲームに該当する小学校 学習指導要領解説の[例示]部分について詳細に 確認すると、「ボールを持たない動き」の学習内 容として提示されている「ボール保持者と自分の 間に守る者がいない空間に移動すること(小学校 低学年)」「ボール保持者と自己の間に守備者が入 らないように移動すること(小学校高学年)」を 含み、その多くは「攻守が入り交じるゲーム」の 学習内容に終始しており、現状では「陣地を取り were facing each other dynamically, it was thought that either a break to allow for an organized defense line or a quick attack should be selected.
As a result of these observations, the following was suggested. One of the important aspects regarding effective tactics for a breakthrough into offside lines is to opt for a break to allow for an organized defense line or quick attack. At that time, it is important to pay attention to the static or dynamic situation, as well as the number and positioning of the both attacker and the defender. It was suggested that the learning effect would be higher when the defense line of the defender was prepared.
合うゲーム(以下、陣取りゲームと表記)」に求 められる学習内容は曖昧な状態であるといえよ う。このことは、授業づくりを行う教師にとって、 陣取りゲームの授業実践を困難にしている一因で あるといえる。同様に、早坂(2018)は、中学校 学習指導要領解説における、陣取りゲームの学習 内容についての詳細な分析を通して、体育授業に おける陣取りゲームの内容表記についての曖昧さ 及びその実践上の課題を提起している。 つまり、学校体育における球技学習では、種目 優先から内容優先へ学習内容が提示されていると はいえ、「○○型(本研究では〈ゴール型・陣取 りゲーム〉)」に含まれるであろう、学習者が当該 ゲーム中に直面する多種多様な課題に対して、見 定めるための枠組みの提起は必須であると考えら れよう。 ところで、鈴木ら(2003)は、球技領域におけ る学ぶべき内容を整理するために、これまでの球 技の分類論の再検討を通して当該課題の提示を行 い、ゲーム中における学習者の視点から、新たな 分類論を提起している。そこでは、ゲームで求め られる判断ならびに行動の仕方などの戦術的課題 解決を学習内容の中核に据えた場合、ゲームとし て存立させている競り合いの場面に着目し、「○ ○型ゲーム」のもとになっている種目において、 どのような仕組み(構造)で競り合いが発生して いるかを特定しておくことは不可欠であり、ここ で特定された内容を児童や生徒が実際に学習する ための教材に反映させていくこと(教材づくり) は重要であると考えられている(鈴木ら,2003)。 前述の通り、現状では、本研究で分析対象とす るタグラグビー(ゴール型・陣取りゲーム)は攻 撃側・防御側の双方が、「結果の未確定性」を保 持しながら争う仕組み、すなわちゲーム構造が不 明瞭であるといえる。この点についての解決に向 けた枠組みの整理、加えて、ゲーム中における学 習者の観察視点について、鈴木ら(2003)の知見 は、それぞれを同定するための重要な示唆を与え るものと考える。したがって、本研究では、鈴木 ら(2003)、鈴木ら(2008)の提起する分類論に 依拠しながら論を進めることとする。 鈴木ら(2008)は、ゲーム構造から球技を「突 破型」「的当て型」「進塁型」に分類している(表 1)。このうち、「突破型」では、攻撃側と防御側 の双方のチームが、最大防御境界面を基準に防御 境界面を層構造化して対峙する「対決情況」が発 生するとしている。つまり、「突破型」では、競 争目的である「目的地へのボールの移動」を達成 するためには、攻撃側は防御側が構成する複数の 壁(防御境界面)を「突破」する競争課題を解決 しなければならないのである。そして、この「対 決情況」は、「混在型」「分離型」「越境型」「交代 型」に識別される(表 2)。 ラグビーは、最大防御境界面が防御の最前線に 位置する「分離型」に位置づく。そのため、ラグ ビーの場合、競争課題の「突破」すべき最大防御 境界面は、スクラムやラインアウト時などのボー ルの位置を基準として形成されるオフサイドライ ン等によって構成される(廣瀬,2006)(図 1)。 ラグビーにおいて、競争課題である防御境界面 の「突破」についての主たる解決方法は、「ボー ル持ち運び、またはキックを用いたパス」である (鈴木ら,2008)。つまり、ラグビーは陣取りゲー ムと言わるように、防御側が構成する最大防御境 界面を、攻撃側はボール持ち運びを駆使してディ フェンスラインの突破を図り、ボールの位置取り 表 1 球技の競争課題(解決過程)の特徴による分類(鈴木ら (2008)) カテゴリー名 突破型 的当て型 進塁型 競争目的 目的地へのボールの移動 目的地へのプレイヤー移 動 競争媒体の個数 プレイヤー全体に対して1 個 各プレイヤーに 1 個ずつ プレイヤー全体に対して1 個 結果の未確定性 の発生要因 防御者による妨害 ボール操作の困難性 防御者による妨害 競争課題 防御境界面の突破 的への接近 ①防御境界面の突破②進塁
を前進させる。または、キックを用いたパスを活 用しながらボールの位置取りを前進させるのであ る。 しかしながら、キックを用いたパスの活用に よってボールを前進させることは、学習を進める 上での困難が発生する。それは、「攻防共にボー ルの前ではプレーができない=分離する」という 「情況の一時的解消=オフサイドの発生」であり、 学習者であるプレーヤーが「新たに攻防を分離し 位置取るための時間が必要となる=オフサイドの 解消」という「分離型の情況復帰」の追加学習が 発生し、結果的に学習がより複雑化するといえる (廣瀬,2019)。また、学校体育における「分離型」 の学習においては、攻防が明確に分離することを 前提としたルールの中で学習することが効果的で あるとされている(廣瀬,2019)。 つまり、学校体育における「分離型」では、競 争課題「突破」の解決方法は「キックを用いたパ ス不可」という学校体育独自のルールを用いて、 「ボール持ち運び」による最大防御境界面の「突破」 に注視した学習課題として位置づけることが効果 的であると考えられる。そのため、キックの使 用がルールで認められていないタグラグビーは、 「ボール持ち運び」によって最大防御境界面の「突 破」を学習するために適した教材と考えられる。 以上のことから、「分離型」の学習内容の 1 つ として、競争目的「目的地へのボールの移動」を 達成するために、競争課題である最大防御境界面 表 2 「対決情況」の識別(鈴木ら (2008) を一部抜粋) 図 1 ラグビーにおける最大防御境界面(オフサイドライン)と競争課題「突破」 「混在型」 最大防御境界面が防御の最終ラインを形成するタイプ サッカー,バス ケットボール,ハ ンドボールなど 「分離型」 最大防御境界面が防御の最前線に 位置する テニス,バレー ボール,ラグビー など 「越境型」 最大防御境界面の前後にまたがっ て防御が展開するタイプ アメリカンフット ボールなど 「交代型」 防御境界面の突破を試みる攻撃側 と,その阻止を図る防御側が,周 期的に役割交代をするタイプ ソフトボール,野 球など
を前進させる。または、キックを用いたパスを活 用しながらボールの位置取りを前進させるのであ る。 しかしながら、キックを用いたパスの活用に よってボールを前進させることは、学習を進める 上での困難が発生する。それは、「攻防共にボー ルの前ではプレーができない=分離する」という 「情況の一時的解消=オフサイドの発生」であり、 学習者であるプレーヤーが「新たに攻防を分離し 位置取るための時間が必要となる=オフサイドの 解消」という「分離型の情況復帰」の追加学習が 発生し、結果的に学習がより複雑化するといえる (廣瀬,2019)。また、学校体育における「分離型」 の学習においては、攻防が明確に分離することを 前提としたルールの中で学習することが効果的で あるとされている(廣瀬,2019)。 つまり、学校体育における「分離型」では、競 争課題「突破」の解決方法は「キックを用いたパ ス不可」という学校体育独自のルールを用いて、 「ボール持ち運び」による最大防御境界面の「突破」 に注視した学習課題として位置づけることが効果 的であると考えられる。そのため、キックの使 用がルールで認められていないタグラグビーは、 「ボール持ち運び」によって最大防御境界面の「突 破」を学習するために適した教材と考えられる。 以上のことから、「分離型」の学習内容の 1 つ として、競争目的「目的地へのボールの移動」を 達成するために、競争課題である最大防御境界面 表 2 「対決情況」の識別(鈴木ら (2008) を一部抜粋) 図 1 ラグビーにおける最大防御境界面(オフサイドライン)と競争課題「突破」 「混在型」 最大防御境界面が防御の最終ラインを形成するタイプ サッカー,バス ケットボール,ハ ンドボールなど 「分離型」 最大防御境界面が防御の最前線に 位置する テニス,バレー ボール,ラグビー など 「越境型」 最大防御境界面の前後にまたがっ て防御が展開するタイプ アメリカンフット ボールなど 「交代型」 防御境界面の突破を試みる攻撃側 と,その阻止を図る防御側が,周 期的に役割交代をするタイプ ソフトボール,野 球など の「突破」に着目し、その解決方法である「ボー ル持ち運び」を位置付けることができる。 2 .本論のねらい 岩田(2016,p.5)によれば、球技の学習内容は、 球技では多様なプレー状況を判断しながら技能的 な対応(ボール操作の技能=on-the-ball skill、ボー ルを持たないときの動き=off-the-ball movement) をしなければならないところに大きな特徴がある とされている。また、そのような判断に支えられ た意図的な達成行動があるからこそ、チームの協 同的なプレーが学習のターゲットとなり、球技の 教育的価値の基盤をそこに見出すことができると もしている。そのため、チームのメンバーの中で、 ゲームで生み出したいプレーについてのイメージ や、状況に応じた行動についての理解を共有して いくことが重要であるとしている。 そこで本研究では、タグラグビーを対象として、 最大防御境界面の競争課題「突破」についての解 決方法「ボール持ち運び」時の状況を明らかにす ることを目的とした。学校体育は様々な技術レベ ルの児童や生徒が存在し、さらには限られた授業 時間の中で、学習成果を得られる指導が目指され る。そして、球技の学習では、チームの協同的な プレーの学習が目指される。そのため、本研究に おいて「ボール持ち運び」時の状況を明らかにす ることは、学校体育の球技指導における児童や生 徒の「分離型」の最大防御境界面の「突破」につ いての理解や、作戦などを考案する際の基礎資料 を得ることが期待される。 3 .研究の方法 本研究では、上述の「2.本論のねらい」を踏 まえ、タグラグビーの最大防御境界面の「突破」 の「ボール持ち運び」時の状況について分析する こととした。 【分析データ】 分析に用いたデータは、小学生が参加した全国 小学生タグラグビー選手権大会 A 県地区予選大 会 5 ゲームの映像を対象とした。ゲームは、前後 半 7 分とハーフタイム 1 分で実施された。肖像権 を有する大会主催団体に対し、本研究の目的と意 義、個人情報の取扱い方法、また個人や団体に不 利益が生じないことを十分説明し、本研究協力と 同意を口頭及び文書で得た。 学校体育のタグラグビーの授業ではなく、全国 小学校タグラグビー選手権大会を分析対象とした のは、まず両方ともに競争目的の解決方法は最大 防御境界面「突破」の「ボール持ち運び」が相違 ないためである。また、球技は、「判断的な行為」 と「技術的な行為」を同時に要求される難度の高 い運動領域である(岩田,2016,p.17)。そのため、 様々な運動技能と知識が混在する児童や生徒の学 校体育では、最大防御境界面の「突破」の「ボー ル持ち運び」時に個人的な能力で「突破」するこ とがあると考えられる。本研究では、タグラグビー についての戦術理解やパス・ランニングの技術が、 より高いものを分析対象とした方が、最大防御境 界面に対する「突破」の「ボール持ち運び」時に 求められる判断や行動の仕方などについても、よ り理解してプレーしていると考え、本研究の分析 に相応しい対象として判断した。 【手順】 鈴木ら(2008)の先行研究では、「最大防御境 界面はボールの位置を基準とするオフサイドライ ン等」とあることから、本研究での最大防御境界 面は、ボールの位置を基準とするオフサイドライ ンとした。しかしながら、タグラグビーの公式試 合では、試合開始や相手の反則後、もしくは相手 のトライ後のフリーパス時に形成されるオフサイ ドラインはボールの位置を基準としておらず、フ リーパスをするプレーヤーの 5m もしくは 7 歩下 がった位置にオフサイドラインが形成される(日 本ラグビーフットボール協会,2018)。そのため、 このような場面は、ボールの位置を基準としない オフサイドラインを最大防御境界面とした。そし て、このような場面は、攻撃側と防御側が動きの ない向かい合った状況であることから、「攻撃側 と防御側が静的に対峙している状況」と命名した。 一方、最大防御境界面がボールの位置を基準とす るオフサイドラインとなる場面は、防御側のタグ 奪取時の攻撃側と防御側が動きながら向かい合っ た状況であることから、「攻撃側と防御側が動的 に対峙している場面」と命名した。 そして、ラグビーを専門とし、タグラグビーの 指導経験がある 3 名の指導者(ラグビー競技歴平
均 18.7 ± 6.6 年、ラグビー指導歴 16.7 ± 4.7 年) が、録画されたタグラグビーゲーム中の最大防御 境界面の突破を試みた 375 場面を抽出した。その 結果、最大防御境界面の突破を試みた場面は、試 合開始や相手の反則後、もしくは相手のトライ後 のフリーパスによって生じる「攻撃側と防御側が 静的に対峙している 154 場面」と、攻撃側のタグ を防御側が奪取した時やターンオーバー時に生じ る「攻撃側と防御側が動的に対峙している 221 場 面」に分類された。 次に、タグラグビーにおける最大防御境界面「突 破」についての「ボール持ち運び」時の状況を明 らかにするため、「攻撃側と防御側が静的に対峙 している状況」の 154 場面と、「攻撃側と防御側 が動的に対峙している状況」の 221 場面について、 その状況の特徴を上述の指導者 3 名に記述方式で 回答してもらい、その内容について KJ 法を参考 にしながら整理を行った。 記述方式の回答では、中川(1986)のボール ゲームにおける状況判断過程の四つの段階での外 的ゲーム状況に対する選択的注意を参考にした。 ゲーム状況とは、「ゲームにおいて、プレーヤー に影響を与える刺激の総体」と定義されおり、一 方、外的ゲーム状況とは、ゲーム状況を構成する 刺激要素である。具体的には、外的ゲーム状況と は、プレーヤーの眼前に存在する外的環境を形 作っている要素のことであり、ボール・プレー ヤー、競技場の形状や、ボール・プレーヤーの位 置、ボール・プレーヤーの運動、ゲームの経過時間、 得点、気象要素、ルールなどである。中川(1986) によれば、プレーヤーは適確な状況判断を行うた めには、まず注意すべき重要な情報源が外的ゲー ム状況のどこにあるのかを効果的に選択的注意が できるようになるべきであると述べている。その ため、本研究では、分析者 3 名がタグラグビー ゲーム中の最大防御境界面の突破を試みた 375 場 面において、最大防御境界面の突破するための注 意すべき重要な情報源が外的ゲーム状況のどこに あるのかについて記述方式で回答してもらい、本 研究ではそれを最大防御境界面「突破」の「ボー ル持ち運び」の状況とした。なお、回答の結果、 外的ゲーム状況のうち、ボール・プレーヤー、ボー ル・プレーヤーの位置、ボール・プレーヤーの運 動に関する記述はあったが、競技場の形状や、ゲー ムの経過時間、得点、気象要素、ルールなどに関 する記述はなかった。 実際のゲームでは、ゲーム状況を構成する要素 には、眼前に存在する客観的要素(外的ゲーム状 況)だけでなく、味方や相手の長短所、相手のプ レーの傾向、ゲームのペースやリズムなどのゲー ム展開の結果、主体的実体として存在する主観的 要素もあるとされている(中川,1986)。そのた め、本研究が対象としたゲームにおける最大防御 境界面「突破」の「ボール持ち運び」の状況にお いても、主観的要素によって判断や行動がなされ ていたと考えることができ、ゲーム中のすべての プレーが客観的要素(外的ゲーム状況)による適 切な状況判断に基づいてプレーしているとは限ら ないと考えられる。しかしながら、その主観的要 素は、外的ゲーム状況の連続的認知に基づき積 極的な思考活動を経て初めて認識される(中川, 1986)。本研究では、学校体育の球技運動指導に おける児童や生徒の「分離型」の最大防御境界面 の「突破」についての理解や、作戦などを考案す る際の基礎資料を得ることを目的としているた め、ゲーム状況を構成する要素について主観的要 素までは言及しないこととした。 そして、上記の回答について、KJ 法を参考に した具体的な収斂・整理手順は、次のとおりであ る。それは、(1) 自由記述の記載内容ごとに小グ ループをつくる、(2) 小グループの数などを勘案 して大グループをつくる、(3) 大グループのタイ トルをつける、である。この収斂・整理から、そ れぞれの特徴についての考察を行った。 このような手順を用いた理由として、球技にお けるゲーム状況については、複数の専門家や指導 者の判断を基準に実施されることが多く(下園ら, 2008)、タグラグビーの最大防御境界面の「突破」 に起こりうる状況を導出するためには有効である と考えたからである。 Ⅱ. 最大防御境界面「突破」の「ボール持ち運び」 の状況について 1 . 「攻撃側と防御側が静的に対峙している状況」 に関する考察 映像録画された 5 ゲームから、指導者 3 名が抽
均 18.7 ± 6.6 年、ラグビー指導歴 16.7 ± 4.7 年) が、録画されたタグラグビーゲーム中の最大防御 境界面の突破を試みた 375 場面を抽出した。その 結果、最大防御境界面の突破を試みた場面は、試 合開始や相手の反則後、もしくは相手のトライ後 のフリーパスによって生じる「攻撃側と防御側が 静的に対峙している 154 場面」と、攻撃側のタグ を防御側が奪取した時やターンオーバー時に生じ る「攻撃側と防御側が動的に対峙している 221 場 面」に分類された。 次に、タグラグビーにおける最大防御境界面「突 破」についての「ボール持ち運び」時の状況を明 らかにするため、「攻撃側と防御側が静的に対峙 している状況」の 154 場面と、「攻撃側と防御側 が動的に対峙している状況」の 221 場面について、 その状況の特徴を上述の指導者 3 名に記述方式で 回答してもらい、その内容について KJ 法を参考 にしながら整理を行った。 記述方式の回答では、中川(1986)のボール ゲームにおける状況判断過程の四つの段階での外 的ゲーム状況に対する選択的注意を参考にした。 ゲーム状況とは、「ゲームにおいて、プレーヤー に影響を与える刺激の総体」と定義されおり、一 方、外的ゲーム状況とは、ゲーム状況を構成する 刺激要素である。具体的には、外的ゲーム状況と は、プレーヤーの眼前に存在する外的環境を形 作っている要素のことであり、ボール・プレー ヤー、競技場の形状や、ボール・プレーヤーの位 置、ボール・プレーヤーの運動、ゲームの経過時間、 得点、気象要素、ルールなどである。中川(1986) によれば、プレーヤーは適確な状況判断を行うた めには、まず注意すべき重要な情報源が外的ゲー ム状況のどこにあるのかを効果的に選択的注意が できるようになるべきであると述べている。その ため、本研究では、分析者 3 名がタグラグビー ゲーム中の最大防御境界面の突破を試みた 375 場 面において、最大防御境界面の突破するための注 意すべき重要な情報源が外的ゲーム状況のどこに あるのかについて記述方式で回答してもらい、本 研究ではそれを最大防御境界面「突破」の「ボー ル持ち運び」の状況とした。なお、回答の結果、 外的ゲーム状況のうち、ボール・プレーヤー、ボー ル・プレーヤーの位置、ボール・プレーヤーの運 動に関する記述はあったが、競技場の形状や、ゲー ムの経過時間、得点、気象要素、ルールなどに関 する記述はなかった。 実際のゲームでは、ゲーム状況を構成する要素 には、眼前に存在する客観的要素(外的ゲーム状 況)だけでなく、味方や相手の長短所、相手のプ レーの傾向、ゲームのペースやリズムなどのゲー ム展開の結果、主体的実体として存在する主観的 要素もあるとされている(中川,1986)。そのた め、本研究が対象としたゲームにおける最大防御 境界面「突破」の「ボール持ち運び」の状況にお いても、主観的要素によって判断や行動がなされ ていたと考えることができ、ゲーム中のすべての プレーが客観的要素(外的ゲーム状況)による適 切な状況判断に基づいてプレーしているとは限ら ないと考えられる。しかしながら、その主観的要 素は、外的ゲーム状況の連続的認知に基づき積 極的な思考活動を経て初めて認識される(中川, 1986)。本研究では、学校体育の球技運動指導に おける児童や生徒の「分離型」の最大防御境界面 の「突破」についての理解や、作戦などを考案す る際の基礎資料を得ることを目的としているた め、ゲーム状況を構成する要素について主観的要 素までは言及しないこととした。 そして、上記の回答について、KJ 法を参考に した具体的な収斂・整理手順は、次のとおりであ る。それは、(1) 自由記述の記載内容ごとに小グ ループをつくる、(2) 小グループの数などを勘案 して大グループをつくる、(3) 大グループのタイ トルをつける、である。この収斂・整理から、そ れぞれの特徴についての考察を行った。 このような手順を用いた理由として、球技にお けるゲーム状況については、複数の専門家や指導 者の判断を基準に実施されることが多く(下園ら, 2008)、タグラグビーの最大防御境界面の「突破」 に起こりうる状況を導出するためには有効である と考えたからである。 Ⅱ. 最大防御境界面「突破」の「ボール持ち運び」 の状況について 1 . 「攻撃側と防御側が静的に対峙している状況」 に関する考察 映像録画された 5 ゲームから、指導者 3 名が抽 出したタグラグビーのゲーム中の最大防御境界面 の突破を試みた場面は、375 場面であった。その うち、「攻撃側と防御側が静的に対峙している状 況」である 154 場面について、KJ 法を参考にし ながら前述の 3. 研究の方法【手順】における (1) ∼(3) の手順によって整理を行った。 まず、「攻撃側と防御側が静的に対峙している 状況」の特徴についての記述の内容について整理 し、小グループ化を行った。その結果、様々なフ リーパス時のオーバーラップとギャップに関する ことが示された(表 3)。 次に、「攻撃側と防御側が静的に対峙している 状況」の特徴についての記述の全内容を紹介する ことは、時間的な問題を含めて困難が予想され る。そこで、小グループ化した内容から類似した 内容を大グループ化として統合し、内容の厳選を 通して、表 3 の【 】に示したように命名した。 「ゲーム開始によるフリーパス時の攻撃側と防御 側にオーバーラップの状況が生じていない」「ト ライ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にオー バーラップの状況が生じていない」「ノックオン などの反則によるフリーパス時の攻撃側と防御側 にオーバーラップの状況が生じていない」「4 タ グ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にオーバー ラップの状況が生じていない」は、その攻撃側と 防御側の人数に差の特徴から【攻撃側と防御側の 人数に差が生じない状況の特徴】と命名した。 また、「4 タグ後のフリーパス時に攻撃側と防 御側にオーバーラップの状況が生じている」「フ リーパス時に攻撃側と防御側にオーバーラップの 状況が生じている」は、その攻撃側と防御側の人 数に差の特徴から【攻撃側と防御側の人数の差が 生じている状況の特徴】と命名した。 次に、「ゲーム開始によるフリーパス時の攻撃 側と防御側にギャップの状況が生じていない」「ト ライ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にギャッ プの状況が生じていない」「ノックオンなどの反 則によるフリーパス時の攻撃側と防御側にギャッ プの状況が生じていない」「4 タグ後のフリーパ ス時の攻撃側と防御側にギャップの状況が生じて いない」は、その防御側の立ち位置の特徴から【防 御側の立ち位置が適切な状況の特徴】と命名した。 「4 タグ後のフリーパス時に攻撃側と防御側に ギャップの状況が生じている」「フリーパス時に 攻撃側と防御側にギャップの状況が生じている」 は、その防御側の立ち位置の特徴から【防御側の 立ち位置が不適切な状況の特徴】と命名した。 このように、最大防御境界面の突破を試みた場 面における「攻撃側と防御側が静的に対峙してい る状況」では、この 4 つの状況の特徴が導出され た。 タグラグビーのゲームは、ボールを保持する攻 撃側のフリーパスでゲームが開始される。また、 ゲーム中に反則による攻撃権の交替時やトライ後 も、ボールを保持する攻撃側のフリーパスでゲー ムが再開される。タグラグビー競技規則(日本ラ 表 3 攻撃側と防御側が静的に対峙している状況の特徴 【攻撃側と防御側の人数に差が生じない状況の特徴】 ・ゲーム開始によるフリーパス時の攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じていない ・トライ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じていない ・ノックオンなどの反則によるフリーパス時の攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じていない ・4 タグ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じていない 【攻撃側と防御側の人数の差が生じている状況の特徴】 ・4 タグ後のフリーパス時に攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じている ・フリーパス時に攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じている 【防御側の立ち位置が適切な状況の特徴】 ・ゲーム開始によるフリーパス時の攻撃側と防御側にギャップの状況が生じていない ・トライ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にギャップの状況が生じていない ・ノックオンなどの反則によるフリーパス時の攻撃側と防御側にギャップの状況が生じていない ・4 タグ後のフリーパス時の攻撃側と防御側にギャップの状況が生じていない 【防御側の立ち位置が不適切な状況の特徴】 ・4 タグ後のフリーパス時に攻撃側と防御側にギャップの状況が生じている ・フリーパス時に攻撃側と防御側にギャップの状況が生じている
グビーフットボール協会,2018)によれば、こ のフリーパスは攻撃側のボールを持ったプレー ヤーがその位置から動かずに、味方のプレーヤー に行うパスのことを意味する。フリーパスを受け るプレーヤーはパスを行うプレーヤーの真横また は後方 2m 以内に立ち、パスを受けてから走り出 すことができるとされている。このタグラグビー のフリーパスは、「攻撃側と防護側が静的に対峙 している状況」に含まれる。そして、フリーパス 時の最大防御境界面は、ボールを基準としたオフ サイドラインではなく、前述の通り、フリーパス をするプレーヤーの 5m もしくは 7 歩下がった位 置にオフサイドラインが形成され、それが最大防 御境界面となる。その際、防御側のチームは、そ の最大防御境界面であるオフサイドラインに防御 網(ディフェンスライン)を整備する、すなわち、 相手ゴールライン方向に顔を向け、均等に立ち並 ぶこととなる。 本研究の分析から、フリーパスは、最大防御境 界面「突破」の 375 場面中の 154 場面(41.1%) であり、攻撃側がゲーム中に最も多く関わる最大 防御境界面「突破」の機会であると考えられる (表 4)。タグラグビーもラグビーのように、攻撃 側は様々な攻撃を仕掛けることにより、防御側の 人数を減らしたり、防御側の立ち位置が整備され ていない状況(=均等に並ばせない)を生じさせ たりと、防御側が守らなければならない空間(ス ペース)をいかに広げ、攻撃側が攻撃できるスペー スを増やそうとする工夫が必要である。しかしな がら、タグラグビーのフリーパス時における攻撃 側と防御側が静的に対峙している場面では、図 2 のように、攻撃側と防御側の人数の差は生じず、 攻撃側が人数的に優位に立つことは、ほぼ不可能 である。 また、攻撃側と防御側が静的に対峙した状態か らゲームが開始もしくは再開される場合では、防 御側は各々のプレーヤーがマークする攻撃側のプ レーヤーの真正面に設定されるオフサイドライン 上に立ち、位置取ることができる。このような防 御側の立ち位置の適切な状況であれば、防御側の ディフェンスラインの陣形は整備された状況であ るといえ、攻撃側に有利となる状況が生じること は本来あり得ない。そのため、攻撃側と防御側が 静的に対峙している場面においては、ボールを基 準とした最大防御境界面を、攻撃側による「一度 の攻撃」で突破できるようなことは考えにくい。 これらのことから、フリーパス時における攻撃 側と防御側が静的に対峙している場面では、防御 側にタグを奪取された次の機会で優位になるため に、攻撃側は、「崩しのプレー」を選択すること で、ゲームを優位に進めていくことができると考 えられる。つまり、攻撃側の「ボールの持ち運び」 によって、防御側の整備されたディフェンスライ ン、すなわち、均等に立ち並ぶ個々の防御者を意 図的に 1 ヶ所に集中させ、その整備の解消を試み る「崩しのプレー」により、次の攻撃で攻撃側に 数的有利な状況を作り出すことが有効であること が示唆された。 しかしながら、分析の過程で、フリーパス時 に本来であれば考えにくいディフェンスを突破 する場面が、フリーパス全 154 場面中で 13 場面 (8.4%)あった。それらは攻撃側の個人的なラン ニングスキルや、防御側のディフェンスラインに ついての理解不足であると推測された。そのため、 様々な体力レベルや競技理解力が存在すると考え られる学校体育では、このような本来であれば考 えにくいフリーパスから大きくディフェンスを突 破してトライに直接つながる場面が多くみられる ことが予想されるといえる。 学校体育などにおける初学者を対象とする指導 表 4 最大防御境界面「突破」の場面 攻撃側と防御側が 静的に対峙している場面 攻撃側と防御側が 動的に対峙している場面 フリーパス 1 タグ 2 タグ 3 タグ ターン オーバー 154 (41.1%) 117 (31.2%) 59 (15.7%) 31 (8.3%) 14 (3.7%)
グビーフットボール協会,2018)によれば、こ のフリーパスは攻撃側のボールを持ったプレー ヤーがその位置から動かずに、味方のプレーヤー に行うパスのことを意味する。フリーパスを受け るプレーヤーはパスを行うプレーヤーの真横また は後方 2m 以内に立ち、パスを受けてから走り出 すことができるとされている。このタグラグビー のフリーパスは、「攻撃側と防護側が静的に対峙 している状況」に含まれる。そして、フリーパス 時の最大防御境界面は、ボールを基準としたオフ サイドラインではなく、前述の通り、フリーパス をするプレーヤーの 5m もしくは 7 歩下がった位 置にオフサイドラインが形成され、それが最大防 御境界面となる。その際、防御側のチームは、そ の最大防御境界面であるオフサイドラインに防御 網(ディフェンスライン)を整備する、すなわち、 相手ゴールライン方向に顔を向け、均等に立ち並 ぶこととなる。 本研究の分析から、フリーパスは、最大防御境 界面「突破」の 375 場面中の 154 場面(41.1%) であり、攻撃側がゲーム中に最も多く関わる最大 防御境界面「突破」の機会であると考えられる (表 4)。タグラグビーもラグビーのように、攻撃 側は様々な攻撃を仕掛けることにより、防御側の 人数を減らしたり、防御側の立ち位置が整備され ていない状況(=均等に並ばせない)を生じさせ たりと、防御側が守らなければならない空間(ス ペース)をいかに広げ、攻撃側が攻撃できるスペー スを増やそうとする工夫が必要である。しかしな がら、タグラグビーのフリーパス時における攻撃 側と防御側が静的に対峙している場面では、図 2 のように、攻撃側と防御側の人数の差は生じず、 攻撃側が人数的に優位に立つことは、ほぼ不可能 である。 また、攻撃側と防御側が静的に対峙した状態か らゲームが開始もしくは再開される場合では、防 御側は各々のプレーヤーがマークする攻撃側のプ レーヤーの真正面に設定されるオフサイドライン 上に立ち、位置取ることができる。このような防 御側の立ち位置の適切な状況であれば、防御側の ディフェンスラインの陣形は整備された状況であ るといえ、攻撃側に有利となる状況が生じること は本来あり得ない。そのため、攻撃側と防御側が 静的に対峙している場面においては、ボールを基 準とした最大防御境界面を、攻撃側による「一度 の攻撃」で突破できるようなことは考えにくい。 これらのことから、フリーパス時における攻撃 側と防御側が静的に対峙している場面では、防御 側にタグを奪取された次の機会で優位になるため に、攻撃側は、「崩しのプレー」を選択すること で、ゲームを優位に進めていくことができると考 えられる。つまり、攻撃側の「ボールの持ち運び」 によって、防御側の整備されたディフェンスライ ン、すなわち、均等に立ち並ぶ個々の防御者を意 図的に 1 ヶ所に集中させ、その整備の解消を試み る「崩しのプレー」により、次の攻撃で攻撃側に 数的有利な状況を作り出すことが有効であること が示唆された。 しかしながら、分析の過程で、フリーパス時 に本来であれば考えにくいディフェンスを突破 する場面が、フリーパス全 154 場面中で 13 場面 (8.4%)あった。それらは攻撃側の個人的なラン ニングスキルや、防御側のディフェンスラインに ついての理解不足であると推測された。そのため、 様々な体力レベルや競技理解力が存在すると考え られる学校体育では、このような本来であれば考 えにくいフリーパスから大きくディフェンスを突 破してトライに直接つながる場面が多くみられる ことが予想されるといえる。 学校体育などにおける初学者を対象とする指導 表 4 最大防御境界面「突破」の場面 攻撃側と防御側が 静的に対峙している場面 攻撃側と防御側が 動的に対峙している場面 フリーパス 1 タグ 2 タグ 3 タグ ターン オーバー 154 (41.1%) 117 (31.2%) 59 (15.7%) 31 (8.3%) 14 (3.7%) の場合、攻撃側と防御側が静的に対峙している場 面での最大防御境界面「突破」における「崩しの プレー」選択の必要性については、学習者の理解 を明確にするために、防御側のディフェンスライ ンが整えられた状況である方が学習効果は高いと 考えられる。 2 . 「攻撃側と防御側が動的に対峙している状況」 に関する考察 前項同様に指導者 3 名が抽出した「攻撃側と防 御側が動的に対峙している状況」は、221 場面で あった。この攻撃側と防御側が動的に対峙してい る場面については、攻撃側のタグが防御側に取ら れた 1 回目の場面(タグ 1)、2 回目の場面(タグ 2)、3 回目の場面(タグ 3)、パスミス等によりフ リーパスを経ないで攻守が入れ替わって攻撃が開 始された場面(ターンオーバー)に分類するこ とができた(表 4)。「攻撃側と防御側が動的に対 峙している状況」である 221 場面について、KJ 法を参考にしながら前述の 3. 研究の方法【手順】 における(1)∼(3)の手順によって整理を行った。 まず、「攻撃側と防御側が動的に対峙している 状況」の特徴についての記述の内容について整理 し、小グループ化を行った。その結果、攻撃の展 開時もしくは攻守の入れ替り時のオーバーラップ とギャップに関することが示された(表 5)。次 に、小グループ化した内容から類似した内容を大 グループ化として統合し、内容の厳選を通して、 表 5 の【 】に示したように命名した。 「攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展 開したが防御側がディフェンスラインを形成し オーバーラップが生じなかった状況」「攻撃側は タグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが攻撃 側のミスによりオーバーラップが生じなかった状 況」「ターンオーバーにより攻守が入れ替わった が防御側がディフェンスラインを形成しオーバー ラップの状況が生じなかった状況」「ターンオー バーにより攻守が入れ替わったが攻撃側のミスに よりオーバーラップの状況が生じなかった状況」 は、その攻撃側と防御側の人数に差の特徴から 【攻撃側と防御側の人数の差が生じない状況の特 徴】と命名した。 「攻撃側がタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展 開し攻撃側と防御側にオーバーラップが生じた状 況」「ターンオーバーにより攻守が入れ替わり攻 撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じた状 況」も、その攻撃側と防御側の人数に差の特徴か ら【攻撃側と防御側の人数の差が生じている状況 の特徴】と命名した。 また、「攻撃側は、タグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と 攻撃を展開したが、防御側がディフェンスライン を形成しギャップが生じなかった状況」「攻撃側 は、タグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが 攻撃側のミスによりギャップが生じなかった状況」 「ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが、防 御側がディフェンスラインを形成しギャップの状 況が生じなかった状況」「ターンオーバーにより攻 守が入れ替わったが、攻撃側のミスによりギャッ 図 2 タグラグビーのフリーパス時における攻撃側と防御側が静的に対峙している場面の一例
プの状況が生じなかった状況」は、その防御側の 立ち位置の特徴から【防御側の立ち位置が適切な 状況の特徴】と命名した。 「攻撃側が、タグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を 展開し、攻撃側と防御側にギャップが生じた状況」 「ターンオーバーにより攻守が入れ替わり、攻撃 側と防御側にギャップの状況が生じた状況」も、 その防御側の立ち位置の特徴から【防御側の立ち 位置が不適切な状況の特徴】と命名した。 このように、最大防御境界面の突破を試みた場 面における「攻撃側と防御側が動的に対峙してい る状況」では、この 4 つの状況の特徴が導出され た。 ところで、タグラグビーでは、フリーパスで ゲームが開始もしくは再開された後、攻撃側は 「ボール持ち運び」によって最大防御境界面の「突 破」を試みようとする。一方、防御側は攻撃側の ボールを保持しているプレーヤーが装着している 左右どちらかのタグを奪取することで、攻撃側の 前進を阻止し、最大防御境界面を「突破」されな いようにしなければならない。タグラグビー競技 規則によれば、防御側が攻撃側のタグを奪取する と、タグを奪取された攻撃側のプレーヤーは、た だちにボール持ち運び(ランニング)するのをや めて立ち止まり(タグを奪取されて 3 歩以内まで の移動なら認められる)、できるだけ早く味方の 攻撃側にボールをパスして攻撃を継続することが できる(日本ラグビーフットボール協会,2018)。 これは、攻撃側と防御側が動的に対峙している場 面となっているといえる。なお、フリーパス時と は異なり、ボールを基準としたオフサイドライン が最大防御境界面であり、防御側のチームはその 最大防御境界面であるオフサイドラインに防御網 (ディフェンスライン)を再整備することとなる。 「攻撃側と防御側が動的に対峙している状況」 において、防御側プレーヤーが攻撃側プレーヤー のタグを奪取した場合、防御側のプレーヤーはそ のタグを攻撃側のプレーヤーに手渡すまで、つま り、タグを奪取された攻撃側のプレーヤーは、そ のタグを腰に再び装着するまでは、各々ゲームに 参加することができないと規定されている。その ため、「攻撃側と防御側が動的に対峙している状 況」は、静的に対峙している状況と同様に、攻撃 側と防御側の人数の差は生じないといえる。 一方、防御側の 2 人が同一の攻撃側プレーヤー のタグを取ってしまうことを除いては、「攻撃側 と防御側が動的に対峙している状況」において、 攻撃側と防御側の人数の差が生じていない場合、 表 5 攻撃側と防御側が動的に対峙している状況の特徴 【攻撃側と防御側の人数に差が生じない状況の特徴】 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが防御側がディフェンスラインを形成しオーバーラップが生 じなかった状況 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが攻撃側のミスによりオーバーラップが生じなかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが防御側がディフェンスラインを形成しオーバーラップの状況が生じ なかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが攻撃側のミスによりオーバーラップの状況が生じなかった状況 【攻撃側と防御側の人数の差が生じている状況の特徴】 ・攻撃側がタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開し攻撃側と防御側にオーバーラップが生じた状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わり攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じた状況 【防御側の立ち位置が適切な状況の特徴】 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが防御側がディフェンスラインを形成しギャップが生じなかっ た状況 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが攻撃側のミスによりギャップが生じなかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが防御側がディフェンスラインを形成しギャップの状況が生じなかっ た状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが攻撃側のミスによりギャップの状況が生じなかった状況 【防御側の立ち位置が不適切な状況の特徴】 ・攻撃側がタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開し攻撃側と防御側にギャップが生じた状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わり攻撃側と防御側にギャップの状況が生じた状況
プの状況が生じなかった状況」は、その防御側の 立ち位置の特徴から【防御側の立ち位置が適切な 状況の特徴】と命名した。 「攻撃側が、タグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を 展開し、攻撃側と防御側にギャップが生じた状況」 「ターンオーバーにより攻守が入れ替わり、攻撃 側と防御側にギャップの状況が生じた状況」も、 その防御側の立ち位置の特徴から【防御側の立ち 位置が不適切な状況の特徴】と命名した。 このように、最大防御境界面の突破を試みた場 面における「攻撃側と防御側が動的に対峙してい る状況」では、この 4 つの状況の特徴が導出され た。 ところで、タグラグビーでは、フリーパスで ゲームが開始もしくは再開された後、攻撃側は 「ボール持ち運び」によって最大防御境界面の「突 破」を試みようとする。一方、防御側は攻撃側の ボールを保持しているプレーヤーが装着している 左右どちらかのタグを奪取することで、攻撃側の 前進を阻止し、最大防御境界面を「突破」されな いようにしなければならない。タグラグビー競技 規則によれば、防御側が攻撃側のタグを奪取する と、タグを奪取された攻撃側のプレーヤーは、た だちにボール持ち運び(ランニング)するのをや めて立ち止まり(タグを奪取されて 3 歩以内まで の移動なら認められる)、できるだけ早く味方の 攻撃側にボールをパスして攻撃を継続することが できる(日本ラグビーフットボール協会,2018)。 これは、攻撃側と防御側が動的に対峙している場 面となっているといえる。なお、フリーパス時と は異なり、ボールを基準としたオフサイドライン が最大防御境界面であり、防御側のチームはその 最大防御境界面であるオフサイドラインに防御網 (ディフェンスライン)を再整備することとなる。 「攻撃側と防御側が動的に対峙している状況」 において、防御側プレーヤーが攻撃側プレーヤー のタグを奪取した場合、防御側のプレーヤーはそ のタグを攻撃側のプレーヤーに手渡すまで、つま り、タグを奪取された攻撃側のプレーヤーは、そ のタグを腰に再び装着するまでは、各々ゲームに 参加することができないと規定されている。その ため、「攻撃側と防御側が動的に対峙している状 況」は、静的に対峙している状況と同様に、攻撃 側と防御側の人数の差は生じないといえる。 一方、防御側の 2 人が同一の攻撃側プレーヤー のタグを取ってしまうことを除いては、「攻撃側 と防御側が動的に対峙している状況」において、 攻撃側と防御側の人数の差が生じていない場合、 表 5 攻撃側と防御側が動的に対峙している状況の特徴 【攻撃側と防御側の人数に差が生じない状況の特徴】 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが防御側がディフェンスラインを形成しオーバーラップが生 じなかった状況 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが攻撃側のミスによりオーバーラップが生じなかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが防御側がディフェンスラインを形成しオーバーラップの状況が生じ なかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが攻撃側のミスによりオーバーラップの状況が生じなかった状況 【攻撃側と防御側の人数の差が生じている状況の特徴】 ・攻撃側がタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開し攻撃側と防御側にオーバーラップが生じた状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わり攻撃側と防御側にオーバーラップの状況が生じた状況 【防御側の立ち位置が適切な状況の特徴】 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが防御側がディフェンスラインを形成しギャップが生じなかっ た状況 ・ 攻撃側はタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開したが攻撃側のミスによりギャップが生じなかった状況 ・ ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが防御側がディフェンスラインを形成しギャップの状況が生じなかっ た状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わったが攻撃側のミスによりギャップの状況が生じなかった状況 【防御側の立ち位置が不適切な状況の特徴】 ・攻撃側がタグ 1 →タグ 2 →タグ 3 と攻撃を展開し攻撃側と防御側にギャップが生じた状況 ・ターンオーバーにより攻守が入れ替わり攻撃側と防御側にギャップの状況が生じた状況 次の攻撃で攻撃側に有利な状況を作り出す「崩し のプレー」が有効であると考えられる。例えば、 それは、攻撃側 1 人のプレーヤーが防御側 2 人 を引き付けるような「ボール持ち運び(ランニン グ)」や、ボールを保持していない攻撃側の 1 人 が防御側を引き付けるランニングなどにより、防 御側の整備されたディフェンスライン、すなわ ち、均等に立ち並ぶ個々の防御者を意図的に 1 ヶ 所に集中させ、その整備の解消を試みる「崩しの プレー」などに代表される。 しかしながら、「攻撃側と防御側が動的に対峙 している状況」では、防御側の立ち位置が不適切 となり、ディフェンスラインの陣形を整備するこ とができなかったり、その準備が遅れたりするな どして、部分的に攻撃側と防御側に人数の差が生 じ、攻撃側に有利となるオーバーラップやギャッ プの状態が生じることがある。オーバーラップと は、攻撃側のアタックラインに並ぶ人数が防御側 のディフェンスラインに並ぶ人数を上回り、ディ フェンスラインの外側にノーマークのスペースが 出来た状況(図 3)のことである。また、ギャッ プとは、図 4 のように、防御側のプレーヤーが形 成したディフェンスラインが一直線にならず、凸 凹が生じている状況を意味する(李,2016)。 このような場合には、直接トライにつながった り、大きく最大防御境界面(オフサイドライン) を突破できたりする可能性が高い「速攻」を、プ レー選択するべきであると考える。「速攻」とは、 防御側がディフェンスラインを再整備する前に、 攻撃側が攻撃を開始し、最大防御境界面を超える ことである。 これらのことから、「攻撃側と防御側が動的に 対峙している状況」においては、攻撃側と防御側 の人数と立ち位置から、「速攻」もしくは「崩し のプレー」を選択しなければならない。本研究の 分析では、攻撃側と防御側が動的に対峙している 場面における「速攻」と「崩しのプレー」は、そ れぞれ 138 場面(36.8%)と 83 場面(22.1%)で あった(表 6)。タグラグビーの公式ルールでは、 攻撃側のタグが奪取された後、攻撃側に攻撃する 権利が継続され 3 回まで認められているため、た とえ攻撃側に有利となる状態が生じていなくて も、「崩しのプレー」を意図的に選択することで、 次の機会で「速攻」のプレーを期待できる状態を 作ることが効果的であると考えられる。 ラグビーの場合、攻撃側は防御側のディフェン スラインのギャップを利用してゲームを優位に進 めていくことができる、すなわち、効果的に陣地 を進めるとされている(李,2016)。しかしながら、 本研究の分析では、全 375 場面を通じてギャップ が生じたのは 20 場面しかなく、タグラグビーの 最大防御境界面「突破」の多くはオーバーラップ から生じる「速攻」であった。これは、ラグビー と比較するとコートが狭く、タックル(身体接触 を伴い攻撃側の前進を阻止する防御側の行為)が ない上にラック・モール(身体接触を伴い攻防双 図 3 攻撃側に有利となるオーバーラップの一例
方の複数のプレーヤーによるボール争奪の行為) を経ずにボールを迅速に供給できるタグラグビー の競技特性であり、このことは、ラグビーの競技 特性との違いでもあると言える。 そのため、小学校と中学校の学校体育における タグラグビーでは、「オーバーラップ」を想定し た「速攻」を中心にした学習内容を、高等学校の ラグビーでは「ギャップ」から生じる「速攻」を、 各々主たる戦術的な課題として設定することによ り、分離型についての最大防御境界面「突破」を 系統的に学習できるような学習過程をデザインす ることが考えられる。 本研究の分析は、タグラグビーのゲーム中の最 大防御境界面の突破を試みた 375 場面を、1 つひ とつを抽出し、観察及び分析を進めた。しかしな がら、ゲームは意味のあるまとまりで構成されて おり、つまり「動き続ける情況」であるため、当 然ながら、ある 1 つの場面におけるプレーは、そ の前後場面のプレーの影響を受けていると考えら れる。また、本研究の分析対象は、前述の通り、 技術的・戦術的に高度なプレーを展開することが できるために、1 つの場面のみで判断し行動して いないことも考えられる。このことは前述したよ うに、本研究の目的は、学校体育の球技指導にお ける児童や生徒の「分離型」の最大防御境界面の 「突破」についての理解や、作戦などを考案する 際の基礎資料を得ることを目的としたことから、 抽出した場面の前後におけるプレーの影響につい てまでは言及しないこととした。この点について は、本研究の限界であり、今後の課題としたい。 Ⅲ.まとめ 本研究では、学校体育において「ゴール型・陣 取りゲーム」の授業づくり及び授業実践における、 現状の課題に応えるため、タグラグビーを対象と して、最大防御境界面の競争課題「突破」につい ての解決方法「ボール持ち運び」時の状況を明ら かにすることを目的とし、以下のことが明らかに なった。 (1) タグラグビーの最大防御境界面の「突破」 の「ボール持ち運び」時の状況には、「攻 撃側と防御側が静的に対峙している状況」 図 4 攻撃側に有利となるギャップの一例 表 6 突破と崩しの判断状況数(回) 攻撃側と防御側が 静的に対峙している場面 攻撃側と防御側が 動的に対峙している場面 速攻 崩し 速攻 崩し 14 (3.7%) 140 (37.3%) 138 (36.8%) 83 (22.1%)