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ワクチン開発の新戦略と今後の方向性

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特集 最近の医療における感染症対策と研究の進歩 1:最近話題の感染症 −ゲノム解析から臨床まで−

ワクチン開発の新戦略と今後の方向性

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部先端医療創生科学講座生体防御医学分野 (平成16年10月22日受付) (平成16年11月2日受理) はじめに 新しい感染症の流行や制圧されたはずの感染症の再流 行により,今なお世界で死亡する人の1/3が感染症を 原因としている。このような新興・再興感染症の発生・ 拡大には,社会構造の変化,交通手段の発達,戦争災害 などをきっかけとする人の大移動や公衆衛生の悪化,あ るいは薬剤耐性菌の出現などがかかわっている。現在, 世界的に見て薬剤耐性マラリアおよび結核菌の感染拡大, アフリカ,インド,中国での AIDS の拡大が問題とされ ている。さらに,新興感染症としてアフリカのエボラ出 血熱の勃発,アメリカでのウェストナイルウイルスの感 染拡大,アジア地域での SARS・鳥インフルエンザウイ ルスの感染拡大などは記憶に新しい。これらの感染防御 にはワクチン接種が最も有効であるがまだ存在しない。 近年,遺伝子工学やゲノム解析などの基礎研究の発展を 背景に新たな観点と技術で新しいワクチンの開発が進め られている。 1.現行ワクチンとその問題点 現行ワクチンには,弱毒化ワクチン(BCG,ポリオ, 麻疹),不活化ワクチン(風疹,日本脳炎,流行性耳下 腺炎),成分(コンポーネント)ワクチン(インフルエ ンザ,B 型肝炎),トキソイド(破傷風,ジフテリア) などがある。それぞれにおいて,誘導・増強できる免疫 応答(細胞性免疫・体液性免疫),免疫記憶の持続期間, 開発にかかる期間や経費,技術的難易度,保存の簡便性 などに長所短所がある(表1)。例えば,弱毒生ワクチ ンは他のワクチンと比べて,細胞性免疫を誘導すること ができるのが特徴であり,強力で長期間の免疫を誘導で きるのが長所であるが,安全性や開発にかかる費用や期 間に問題がある。その他のワクチンは感染因子の不活化, トキソイド化,または成分化したものであり,抗体産生 の誘導・増強には有効である。したがって,それらは抗 体を中心とした体液性免疫で対応できる病原体に対する 防御には十分に有用であるが,細胞性免疫の誘導が必要 な感染症や疾病には無力である。細胞性免疫とくに Th1 型免疫応答や細胞傷害性 T 細胞(CTL)を誘導すること が,強力なワクチンを開発するために必要とされている。 2.理想のワクチンとは? 表2に理想のワクチンの要件を示した1)。現在,個々 の要件をクリアするための様々な試みが実施されている。 まずワクチンの安全性に関しては,AIDS などの免疫不 全患者や貧困による栄養失調で免疫が低下した人に対し ては,弱毒生ワクチンの接種は副作用を引き起こす可能 性が高いことから避けたほうが良いと考えられる。その ため病原性は全くないが,免疫原性の高いワクチンの開 発が望まれている。安全性と免疫原性という一般に相反 する要件を満たすワクチンを開発するためには新しい戦 略が必要であり詳細は後述する。 その他の重要な要件として,接種法の改良がある。医 師や看護士の不足した発展途上国では注射によるワクチ ン接種には限界があり,一般の人でも容易にできる接種 法の確立が望まれている。後述する粘膜ワクチンは,そ 表1.従来のワクチンの種類と特徴 成 分 誘導される 免疫応答 持続 期間 弱毒生ワクチン 生きた病原体 細胞性免疫 体液性免疫 終生 免疫 ト キ ソ イ ド 無毒化した毒素 体液性免疫のみ 数年 不活化ワクチン 不活化したウイル ス・菌体成分 主に体液性免疫 数年 成 分 ワ ク チ ン 感染防御抗原 主に体液性免疫 数年 133 四国医誌 60巻5,6号 133∼139 DECEMBER20,2004(平16)

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の問題を解決できる有力な戦略である。 3.ワクチン開発の新戦略 新興・再興感染症に対しては,とくに短期間でワクチ ンを開発することが重要であるが,旧来の方法論ではき わめて難しい。最近,その問題点を克服すべく,遺伝子 工学を利用したアプローチや新しい戦略を用いたワクチ ン開発が行われている(表3)1,2) 遺伝子工学的手法が取り入れられて実用化された最初 の例は,B 型肝炎ワクチンである。B 型肝炎からの回復 には細胞性免疫が必要であるが,感染予防には B 型肝 炎ウイルス表面抗原(HBsAg)に対する抗体で十分であ る。そこで,HBsAg 遺伝子を酵母に発現させ,精製さ れた HBsAg 抗原はワクチンとして使われている。マラ リア(SERA 蛋白)などの感染防御抗原の生産・精製に も応用されている。このように,ワクチン開発の新しい 戦略として,遺伝子工学的手法が取り入れられ,従来の ワクチンの問題点を克服できる可能性を示す種々の有望 なワクチンが開発・実用されつつある。その一部を以下 に紹介する。 ! 組換えウイルスワクチン 新しい生ワクチンを開発する試みは,ワクシニアウイ ルス(VV)を発現ベクターに用いるシステムから始まっ た3)。VV の増殖に必須ではないウイルス遺伝子部分に B 型肝炎ウイルス抗原(HBsAg)遺伝子を発現できるよ うに組込んだプラスミドを作製し,ウイルス DNA とと もに細胞に導入して,相同組換えを介して HBsAg 抗原 を発現できる組換え VV が作製された。この組換えウイ ルスを接種することによって,VV に対してだけでなく HBsAg に対しても,細胞性免疫と体液性免疫の両方が 誘導できる。現在では,病原性が問題になりにくいカナ リア痘瘡ウイルス,単純ヘルペスウイルス,パラミクソ ウイルス,ポリオウイルス,水痘ウイルス(生ワクチン 株)などが遺伝子改変技術によって,それぞれのウイル スの特徴を有する組換えウイルスワクチンベクターとし ての利用が考えられている。 " 組換え細菌ワクチン 腸管系細菌を用いて外来抗原を発現させることにより, 経口投与で外来抗原に対する粘膜免疫を誘導できる。と く に Salmonella typhi や Shigella の 弱 毒 株 は,経 口 投 与 で 外 来 抗 原 に 対 す る 粘 膜 免 疫 を 誘 導 で き る。と く に Salmonella typihiは細菌ベクターとしてよく研究されて おり,これを用いたワクチンは臨床試験が行われている。 そのほか,BCG は細胞性免疫を誘導する特徴から組換 えワクチンの有力な候補である。 # ハイブリッドワクチン(hybrid vaccine) 遺伝子の一部を組換えたワクチンであり,組換えウイ ルスワクチンの一種とも言える。キメラワクチンとも呼 ばれる。実例としては,デングウイルス4型の外皮蛋白 を西ナイルウイルスの外皮蛋白に置き換えて,デングウ イルスの増殖機構を利用した自己増殖する西ナイルウイ ルスワクチンがある。西ナイルウイルスに対する感染防 御免疫は得られるが,デングウイルスに対しては十分に 得られない4)。このデングウイルスは変異型で病原性が 高くないが,免疫誘導には有効に働き,その後排除され る。 $ サブユニットワクチン(subunit vaccine) 組換え B 型肝炎ウイルスワクチンと無細胞百日咳ワ クチンは,組換えサブユニットタンパクワクチンの成功 例である。サブユニットワクチンの利点は,反応部位が 最小限に限られており,そのため安全性が非常に高い。 % コンジュゲートワクチン(conjugate vaccine) 免疫原性の低い抗原(多糖やペプチド)に免疫原性の 表2.理想のワクチンの要件 ◆老若男女を問わず,免疫不全の患者にも十分に安全であること ◆老若男女を問わず,長期間高いレベルの効果が誘導されること ◆1回の投与で防御能・免疫記憶を誘導できること ◆投与して2週間以内に防御能が獲得されること ◆針・シリンジなしで投与できること(経口,経鼻,経皮など, あるいは針なしの注射装置) ◆他のワクチンとの同時投与に問題ないこと ◆品質管理が簡単で大量生産ができること ◆製造過程での高温・低温に対して活性を失わないこと(厳しい 保存環境でも安定であること) 表3.今後有用なワクチン開発の新戦略 ■特定遺伝子の不活化による病原体の合理的弱毒化 ■組換え細菌ワクチン・ウイルスワクチン ■ハイブリッド(キメライワクチン) ■サブユニットワクチン ■コンジュゲートワクチン ■DISC ワクチン ■ゲノム学に基づくワクチン戦略(“リバース(逆)”ワクチン学) ■DNA ワクチン ■樹状細胞を用いたワクチン ■プライム─ブースト異種ワクチン接種法 ■粘膜ワクチン 岸 原 健 二 134

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高いタンパク(破傷風毒素やジフテリア毒素)を結合し たもの。海外で認可されているものに,H. influenzae b 型, 肺炎球菌,髄膜炎菌に対するコンジュゲートワクチンが あり,安全であるとともに高い免疫原性があることが乳 児で確認されている。

! DISC(Disabled Infectious Single Cycle)ワクチン 1回だけ感染でき細感染できない組換えウイルスワク チンである。この方法は,病原性の強いウイルスの病原 性回避のために,ウイルスの増殖に必要な蛋白を欠損さ せた増殖不能ウイルスで免疫する方法である。このワク チンは病原性が低く,ウイルスが体内に残る潜伏感染を 回避できるのが特徴である。DISC ワクチンの原理は図 1に示した5) " ゲノムに基づくワクチン戦略 容易に培養することができない病原体や他の方法では 容易に有効な抗原が見つけ出せない病原体などの場合, ゲノムからのアプローチが有用である。Neisseria

menin-gitidis group B のゲノムの塩基配列より group B ワクチ ン抗原の候補が同定されている6)。コンピュータでのゲ ノム解析で選抜された29個の抗原が,大腸菌で生産・精 製され,動物に免役された。その血清中の抗体の殺菌活 性を調べた結果,数種類の抗原がワクチンの候補として 認められた。今後,このアプローチがゲノムが解読され ている病原体に関して広く応用されるであろう。 # DNA ワクチン DNA ワクチンは,設計・製造の容易さ,特異抗体や 細胞傷害性 T 細胞(CTL)の誘導能,優れた熱安定性・ 保存性など,従来のワクチンに比べていくつかの有利な 点を有する(表4)。 DNA ワクチンは,細胞性免疫と体液性免疫の両方を 誘導できる7,8)。DNA ワクチンの本体であるプラスミ ド DNA(目的のタンパクをコードする遺伝子を含む) は,注射器による筋肉内注射法または遺伝子銃を用いた 皮下接種法によって生体へ導入される。DNA ワクチン の作用機序は図2に示した。筋注法の場合,筋細胞や筋 肉組織中の抗原提示細胞にプラスミド DNA が取り込ま れ,生合成されたタンパクは適当な長さに分解されてか ら MHC クラスⅠ分子に提示されて CD8陽性 T 細胞を 活性化する。一方,筋細胞や抗原提示細胞から分泌・漏 洩したタンパクは他の抗原提示細胞に取り込まれ,適当 な長さに分解されてから MHC クラスⅡ分子に提示され て CD4陽性 T 細胞を刺激する(主に Th1細胞を誘導す る)。ヘルパー T 細胞は,サイトカインや細胞間の相互 作用を通して,B 細胞を刺激して抗体産生を誘導するほ 図1.DISC ワクチンの原理 単純ヘルペスウイルス(HSV)の糖タンパク gH は,ウイルス感染増速に必須であり,gH 遺伝子に変異をもつウイルス粒子は, 生体内で1サイクルのみ増殖し,再感染できない。 ワクチン開発の新戦略と今後の方向性 135

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か,細胞傷害性 T 細胞(CTL)の誘導も支援する。また, 一部の T 細胞や B 細胞はメモリー細胞として,病原体 の再感染に備える。遺伝子銃の場合は,主に皮膚のラン ゲルハンス細胞が抗原提示細胞として働き,同様な機序 である免疫応答が誘導される。しかしながら,Th2細胞 が誘導される傾向が指摘されている。現在,筋注法や遺 伝子銃法以外にも,粘膜系を介した投与法なども検討さ れている。 ! 樹状細胞ワクチン 樹状細胞の培養や目的の抗原(オリゴペプチド)の MHC 分子上への結合など技術と手間と時間がかなりか かることから,感染症に対する予防接種法には応用し難 表4.DNA ワクチンと従来のワクチンの比較 DNA ワクチン 弱毒生ワクチン 不活化/成分ワクチン 免疫応答 体液性免疫 B 細胞 細胞性免疫 Th1細胞 CTL 抗原提示 + +++ ++ MHC クラスⅠ/Ⅱ +++ +/− +++ MHC クラスⅠ/Ⅱ +++ +/− +/− MHC クラスⅡ 免疫記憶 体液性免疫 細胞性免疫 +++ ++ +++ +++ +++ +/− 製造 開発・生産の容易さ 開発経費 運搬・保存 +++ +++ +++ + + + ++ + +++ 安全性 +++ ++ +++ 図2.DNA ワクチンの作用機序 MHCI : MHC クラスⅠ分子,MHC Ⅱ : MHC Ⅱクラス分子,Ag:抗原,TCR : T 細胞レセプター,CTL:細胞障害性 T 細胞 (キラー T 細胞) 岸 原 健 二 136

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い面があるが,現在,新しい抗腫瘍免疫療法への臨床応 用に期待が持たれている。樹状細胞は,強力な抗原提示 細胞であり,その性質を利用している9)。樹状細胞上の MHC 分子を目的のペプチドに置換して,その樹状細胞 を被験者に移入することによって,目的のペプチドに対 する細胞性・体液性免疫応答が誘導される。 ! プライム−ブースト異種ワクチン接種法

(heterologous prime-boost vaccination strategies) 多くのウイルスが組換えベクターとして考案されてい るが,ヒトや類人猿におけるほとんどの知見は,ポック スウイルスおよびアデノウイルスに基づくベクターから 得られている。このような異なる二種類の組換えウイル ス(同一の抗原遺伝子が導入されている)を,免疫誘導 (プライム)と免疫増強(ブースト)の二段階で接種す ることによって,目的の抗原に対する免疫応答のみを増 強することができる10)。したがって,運び手としてのウ イルスに対する反応性をむやみに増強することがないの で,自己に対する交差反応や副作用などをできる限り抑 える効果もあり,安全性の面からも有用な方法である。 " 粘膜ワクチン 粘膜は絶えず外界からの病原体の侵入を受けており, その直下には多数(全免疫細胞の半数)の免疫細胞が存 在し,病原体を含む多様な抗原に対処している。粘膜免 疫システムを利用したワクチンが「粘膜ワクチン」であ る。粘膜ワクチンは粘膜面での防御免疫を形成している 分泌型免疫グロブリン A(sIgA)を中心とした体液性免 疫応答と細胞傷害性 T 細胞(CTL)を中心とした細胞性 免疫応答を誘導する(表5)。それに加えて血清中にも 抗原特異的 IgG が誘導され,感染防御に働く。粘膜免 疫誘導機構は,抗原の投与法あるいは病原体など異物の 侵入経路の違いにより,呼吸器系の鼻咽頭関連免疫リン パ組織(NALT),気管支関連免疫リンパ組織(BALT), 腸管関連免疫リンパ組織(MALT)などに大別される。 このような粘膜関連リンパ組織や皮膚が免疫誘導組織と して働き,そこで感作されたリンパ球は,一旦,その場 を離れて粘膜免疫循環帰巣システムに乗った後,粘膜固 有層などの実効組織に到達して最終分化する(図3)11,12) 精製した抗原を単独で粘膜に投与しても,期したよう な抗原特異的免疫応答を誘導することはできない。この 表5.注射ワクチンと粘膜ワクチンの比較 生 ワ ク チ ン 皮 下 接 種 不活化ワクチン 皮 下 接 種 経 鼻 経 口 ワ ク チ ン 全身の IgG ○ ○ ○ 局所の IgA × × ○ 細胞性免疫 ○ △ ○ 投与時の苦痛 × × ○ 手技の簡便さ × × ○ 図3.粘膜免疫システムとそれを利用したワクチン戦略 腸管における粘膜免疫は,パイエル板を中心とした誘導組織と粘膜固有層を中心とする実効組織に分別され,粘膜免疫循環帰 巣システムが両組織つないでいる。 ワクチン開発の新戦略と今後の方向性 137

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問題を克服するためには,免疫増強効果のあるアジュバ ントの併用が必須である。代表的免疫アジュバントとし てコレラトキシン(CT)と大腸菌易熱性トキシン(LT) が知られている13)。粘膜アジュバントと抗原を混合して 経粘膜投与することにより,粘膜系と全身系の免疫機構 の両方に体液性・細胞性免疫を誘導することができる。 現在,毒素の毒性を欠損させ,免疫増強効果のみを保持 している無毒変異型アジュバントが開発されている。例 えば,CT の A サブユニットの ADP‐リボシルトランス フェラーゼの活性中心に変異導入した変異型サブユニッ ト(mCT-A)と LT のレセプター結合ドメインである B サブユニットを組合わせたキメラ型アジュバント (mCT-A/LT-B)が開発されている14) 最近,究極の粘膜ワクチンとして,ワクチン抗原を発 現する植物を食べることによって免疫を誘導する“食べ るワクチン”が開発中である。低価格で生産することが でき,ワクチン抗原の精製の必要もなく,植物細胞内で 生合成されたワクチンタンパクはきわめて安定である。 現在までに,タバコ,レタス,トマト,アルファルファ, ジ ャ ガ イ モ な ど で,ワ ク チ ン 抗 原 と し て CT,LT, HBsAg,ノーウォークウイルス・カプシド抗原,RSV F 抗原などを発現させ,ヒトを含む動物実験でそれらの免 疫原性も確認されている15)。植物はワクチン製造工場と しては魅力的だが,常温保存が長期間できないことが発 展途上国においては保存の問題が生じる。そこで,今後 はトウモロコシなどの穀物種子での発現が食べるワクチ ンの主流となると考えられている。これからもさらなる 改良が進められることであろう。 4.おわりに 遺伝工学などの技術の進歩によって感染症に対する新 しい合理的なワクチンの開発が可能となり,世界中で精 力的に開発・治験が進められている。しかしながら,重 篤な感染症の多くが発展途上国を中心に蔓延しているこ とを考えると,安価なワクチンを大量に生産することは 重要であるが,ワクチン購入にかかる資金などの社会的, 経済的問題も多い。これからのワクチン開発や臨床試験 にかかる費用は膨大であるし,臨床試験をどのような形 で行うのかという倫理的な問題も持ち上がっている。日 本においては,審査にかかる時間が長いことやワクチン 関連の専門部署が厚生労働省にないことなど,まだ十分 な対応がなされていない。日本ワクチン学会は厚生労働 省に対して,「ワクチンの審査に対する要望書」を昨年 末に提出し,改善を求めている。 文 献

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New vaccine development strategies

Kenji Kishihara

Department of Immunology and Parasitology, Institute of Health Biosciences, The University of Tokushima Graduate School, Tokushima, Japan

SUMMARY

There are still many infectious diseases for which we lack effective vaccines. A vaccine such as measles or polio can be used effectively in developing countries, where mortality from these diseases is still high. The development of vaccines therefore remains an important goal of immunology and recently we saw a shift to a more rational approach, based on a detailed molecular understanding of microbial, viral and parasitic pathogenecity, analysis of the protective host response to pathogenic organisms, and the understanding of the regulation of the immune system to generate effective T-and B-lymphocyte responses. Thus, modern technologies offer rational strategies for the development of new and important vaccines against diseases of public health importance. In this review, such new strategies for vaccine development are introduced, which include recombinant bacterial/viral vaccines, hybrid(chimera)vaccines, subunit vaccines, conjugate vaccines, DISC vaccines, reverse vaccinology, DNA vaccines, dendritic cell vaccines, Heterologous prime-boost vaccination strategy, mucosal vaccines and so on. On the other hand, financial and bioethical impediments make some of the most complicated problems for the realization of the full application of the new technologies in developing countries where many people are still suffering from infectious diseases. We also need to consider and discuss such aspects of vaccine development.

Key words :vaccine development, DNA vaccine, DISC vaccine, hybrid vaccine, mucosal vaccine

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