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<論文>所得税と相続税の二重課税について

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(1)近畿大学産業理工学部かやのもり 22(2015). 論文. 所得税と相続税の二重課税について. About Double Taxation of the Inheritance Tax and the Income Tax 中牟田 智朗1) Tomoaki Nakamuta. Abstract: Abstract: Recently the double taxation of income tax and the inheritance tax becomes the problem. It is influence of the judgment of the Supreme Court. Double taxation is that two taxes are taken for having occurred for the same cause. I am surprised at anyone from the taxation office if pointed out that it is double taxation suddenly. When I do not understand, I will sue in the court. The court does not readily accept the claim of the tax payer. However, in the suit of Nagasaki, the court accepted the claim of the tax payer. I am going to study this article mainly on a trial of this Nagasaki キーワード:所得税 相続税 二重課税 譲渡所得. Key words:income tax inheritance double taxation capital gain. 20. 1.はじめに. 行った。X は、本件年金は相続税法3条1項1号所定の保. 平成22年に判示されたいわゆる長崎年金二重課税事件以. 険金に該当し、いわゆるみなし相続財産にあたり所得税法9. 来、相続税と所得税の二重課税問題が注目されるようになっ. 条1項15号により所得税を課することはできず、上記加算は. てきた。それまではこの二重課税の問題は殆ど存在していな. 不当である旨主張して、更正処分の一部取り消しを求めた。. かったようであるが、最高裁判決であったため、その影響と. 第1審(長崎地裁)は原告の請求を容認した(平成18年11月. 反応が大きいものであった。すなわちそれは年金保険にとど. 7日) 。次の通りである(1)。. まらず、相続により取得した土地等を譲渡した場合に、相続. 本件年金受給権は、 「年金の形で受け取る権利であるとし. 税と所得税が課税されることになり、ここでも二重課税では. ても、実質的にみて納税者が相続によって取得したのと同視. ないかという争いが生じてきた。. すべき関係にあり、相続税法3条1項1号に規定する『保. そこで本稿は、この年金保険と土地譲渡益に関する二重課. 険金』に当たるとするのが相当である。よって相続に伴って. 税問題を検討してその本質を見極めていくこととしたい。. 取得した年金受給権に対して相続税が課されていながら、そ の受給権を行使して受け取った年金に対して所得税が課税さ. 2.長崎年金二重課税事件. (1)事実の概要と第1審および控訴審判決. れるのは二重課税である」旨判示し、原告の主張が支持され た。課税庁はこれを不服として控訴した。そして控訴審(福. 原告 X の夫 A(被相続人)は、生前の平成8年に生命保険. 岡高裁)は、原判決を取り消し、課税庁の主張を採用した ( 平. 会社との間で、年金払生活保障特約付終身保険契約(契約者:. 成19年10月25日) 。主な判決内容は次の通りである。. 夫 A、受取人:妻 X)を締結し、保険料を契約者である被相. すなわち相続税法3条1項1号に規定する「保険金」の. 続人 A が支払ってきた。そして平成14年10月28日に夫 A が死. 解釈に関しては、それは金銭そのものではなく「保険請求権. 亡したため、相続人である原告 X は保険契約に基づき、死. (債権) 」を意味するため、個々の年金自体はこの「保険金」. 亡保険金(4000万円)と年金受給権(年額230万円で10年間). に該当しない、と判示した(2)。. を相続して支払いを受けた。 原告 X は平成14年分の所得税確定申告書を提出したが、本. (2)上告審判決. 件年金を除外して申告したところ、Y 税務署長は X が支払い. 納税者は原判決を不服とし上告した。最高裁は原判決を取. を受けた本件年金(230万円)から既払込保険料相当額を控. り消した(平成22年7月6日) 。次の通りである(3)。. 除した金額を雑所得として、平成14年分所得税の更正処分を. まず所得税法9条1項15号において「 (所得税を課さない. 1)近畿大学産業理工学部経営ビジネス学科 准教授 [email protected].

(2) 所得税と相続税の二重課税について. とする)『相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するも. (1)事実の概要. の』とは、相続等により取得し又は取得したものと見なされ. 原告 X は、平成19年8月に、夫 A の死亡を原因として相続. る財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりそ. により不動産を取得した(広島県及び東京都) 。X は平成20. の者に帰属する所得を指すものと解される ・・・・(括弧書き筆. 年5月に本件不動産を含めた相続税の申告を行った。本件不. 者)」とした。したがって「当該財産の取得によりその者に. 動産の評価額を合計4020万円と計算した。. 帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当. 次に X は、平成21年9月に本件不動産を4150万円で譲渡し. する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課. た。この譲渡に関わる所得税確定申告書を平成22年3月に. 税対象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈. 所轄税務署長宛てに提出した。申告は分離長期譲渡所得であ. 与税の課税対象となる経済価値に対しては所得税を課さない. り、当該所得金額は約754万円である。そのほかの所得等を. こととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と. 含めて計算された税額は約134万円であった。. 所得税との二重課税を排除したもの」と述べている。. しかし X は平成22年7月、上記確定申告に対する更正の請. そして年金による受取の場合については、「年金の方法に. 求書を所轄税務署長に提出した(税額0円) 。本件の譲渡財. より支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期. 産は上記の相続財産であり、相続時に相続税の課税の対象と. 金債権に当たるものについては、相続税法3条1項1号の. なっているため、所得税法9条1項15号により非課税とすべ. 規定により、・・・・ その残存期間に受けるべき年金の総額に. きものであったこと等を理由とするものである。. 同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該当該年金受給権. これに対し課税庁は、本件上と二関して所得税法9条1. の価額として相続税の課税対象になる」として、「・・・・ この. 項15号の非課税の適用はないとして、本件の譲渡所得を約. 価額は、当該年金受給権の取得の時における時価、すなわち、. 721万円とする更正処分とした。X は本件更正を不服として、. 将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の. 本件更正の取り消しを求めて提訴した。. 現在価値に引き直した金額の合計額に相当し、その価額と年 金総額との差額は、当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元. (2)当事者の主張. 本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定さ. ①原告の主張. れているものと解される。」とした。このことから、「これら. 本件譲渡所得の課税対象となった譲渡所得の中には相続に. の年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は、相. より取得したものがあり、当該財産については既に相続税が. 続税の課税対象となる経済価値と同一のものということがで. 課税されていることから二重に所得税を課税することは不合. き、所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならな. 理である。譲渡所得のうち相続税の課税対象となった経済的. いというべきである。」としている。. 価値と同一の経済的価値については、本件非課税規定により. このように最高裁は、本件の年金受給権は、年金の方法に. 譲渡収入金額から控除され、所得税を課税されないようにす. より支払を受ける上記保険金のうちの有期定期金債権に当た. べきである。すなわち平成22年最高裁判決を踏襲すべきとの. り、また本件年金は、被相続人の死亡日を支給日とする第1. 主張である。個別には下記の通りである。. 回目の年金であるから、その支給額と被相続人死亡時の現在. イ)非課税規定の趣旨(所得税法9条1項15号). 価値とが一致するものと解している。そのことから、本件年. 所得税法9条1項15号にいう「相続、遺贈又は個人からの. 金の額は、すべて所得税の課税対象とならないことになり、. 贈与により取得するもの」とは、相続等によって取得したま. これに課税することは許されないこととなると判断してい. たは取得したものとみなされる財産そのものをいうのではな. る. く、当該財産の取得によるその者に帰属する所得を指すもの. 。. (4)(5). と解される。そして当該財産の取得の時の価額に相当する経. 3.土地譲渡益二重課税事件. 済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象. 長崎年金二重課税事件後、相続税と所得税との関係での二. となるものである。本件非課税規定の趣旨は、相続税又は贈. 重課税の問題が論議されるようになった。ここではまだ第1. 与税の課税対象となる経済的価値に対して所得税を課税しな. 審および控訴審の判断があったものの最高裁判決までは至っ. いこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税. ていないが、相続で取得した不動産を譲渡した場合に生じた. と所得税との二重課税を排除したものであると最高裁が判示. 課税関係で相続税と所得税との間での二重課税が生じたので. した長崎年金二重課税事件をあげている。 . はないかと言うことで訴訟となったケースを取り上げたいと 思う。. 21.

(3) 近畿大学産業理工学部かやのもり 22(2015). 22. ロ)所得税法60条1項の規定. 受贈者等の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者等が当. 所得税法60条1項1号は、居住者が贈与、相続又は遺贈に. 該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り. より取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の. 延べられた贈与者等の資産の保存期間に係る増加益も含めて. 計算については、その者が引き続き等が資産を所有していた. 受贈者等に課税されることになる。. ものとみなす旨を定めている。しかし長崎年金二重課税事件. このように、相続により取得した資産に係る譲渡所得に対. の最高裁判決では、非課税規定による二重課税排除の対象に. する課税は、①被相続人の保有期間中に抽象的に発生し蓄積. ついて、相続時の相続財産の取得という所得にとどまるとす. された資産の増加益と②相続人の保有期間中に抽象的に発生. る従来の解釈を否定し、非課税所得とされた所得が後に実現. し蓄積された資産の増加益とを合計し、これを所得として、. した所得にも及ぶとした。所得税法60条1項の規定は、所得. その資産が後に譲渡された時点において、上記の所得が実現. 税法38条1項の別段の定めとして、取得価額、取得の時期を. したものと取り扱って所得税の課税対象としているものであ. 被相続人の取得価額、取得の時期とすることを定めているに. るということができる。したがって所得税法は、被相続人の. 過ぎず、所得税法33条3項の総収入金額に算入すべき金額や. 保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産の増加益につい. 譲渡所得の金額の計算構造そのものに影響を及ぼし、被相続. て、相続人が相続により取得した資産の経済的価値が相続発. 人の資産の保有期間に係る増加益を含めて、相続人に課税が. 生後にそれが譲渡された時において、相続人に対する所得税. 行われることを定める規定であるとか、本件非課税規定が適. の課税対象となることを予定していると解される。. 用を否定し、再度課税所得とする規定であると解することは. ②原告の主張に対して. できない。. 平成22年最判で問題とされた所得は、相続人が原始的に取. ②課税庁の主張. 得した生命保険金に係る年金受給権に係るものであるとこ. 譲渡所得の課税対象は、相続人が相続により財産を取得し. ろ、この年金受給権は、それを取得した者において一時金に. たことによる経済的利得ではなく、資産の値上がりによる増. よる支払を選択することにより相続の開始時に所得を実現さ. 加益であるから、相続税の課税対象となる経済的価値との. せることができ、その場合には本件非課税規定が適用される. 同一性を欠き、相続税と所得税との二重課税の問題は生じな. こととの均衡を重視して、平成22年最判は、年金による支払. い。したがって、平成22年最高裁判決によっても、被相続人. を選択した場合においても、年金受給権の金額を被相続人死. の保有期間中の増加益について本件非課税規定の適用がある. 亡時の現在価値と同一のものということができるとして本件. ということはできない、としている。. 非課税規定の適用を認めたものと理解することができ、そう. 課税庁の具体的主張については、第1審が被告の主張を支. であれば、年金による支払を選択した場合であっても、現在. 持したのでそこでみていくこととしたい。. 価値に引き直した価額に相当する部分については相続の開始 時に実現した所得として取り扱っていると理解することがで. (3)判決要旨. きる。. 〔第1審〕. これに対し、本件で問題とされている所得は、所得税法60. 原告の請求は棄却された(東京地裁、平成25年7月26日判. 条1項1号により、相続人が被相続人から承継取得した不. 決)。理由は次の通りである。. 動産を更に譲渡した際に実現するものと取り扱われるもので. ①相続により取得した資産に係る譲渡所得に対する課税. あって、同号が存在する以上、単純承認をした相続人は、相. イ)所得税法60条1項1号は居住者が贈与、相続又は遺贈. 続時点において被相続人の保有期間中に蓄積された増加益を. により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額. 実現させるという選択ができないという点で、平成22年最判. の計算については、その者が引き続き当該資産を所有してい. で問題とされた所得とはその性質を異にするものである。そ. たものとみなす旨定めている。これは、譲渡所得課税につい. して、平成22年最判の判示には、本件非課税規定が被相続人. てその時における価額に相当する金額により譲渡があったも. の死亡後に実現する所得に対する課税を許さない趣旨のもの. のとみなして譲渡所得課税がされるべきところ、同法60条1. か否かという点に関する明示的な言及がない。そうすると、. 項1号所定の贈与等にあっては、その時点では資産の増加益. 平成22年最判は、本件非課税規定が、相続時には非課税所得. が具体的に顕在化していないため、その時点における譲渡所. とされた所得が後に実現するものと取り扱われて課税される. 得課税について納税者の納得を得難いことから、これを留保. 場合の所得にも一般的に適用される旨を判示したものという. し、その後受贈者等が資産を譲渡することによって」その増. ことはできないと解すべきである。. 加益が具体的に顕在化した時点において、これを精算して課. また、相続人が被相続人から相続により取得した資産を譲. 税することとしたものである。そして、同項の規定により、. 渡した場合、当該資産の譲渡により相続人に帰属する所得.

(4) 所得税と相続税の二重課税について. は、①被相続人の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資. うな内実を有するもので、これらとの関係で、どのような点. 産の増加益と②相続人の保有期間中に抽象的に発生し蓄積さ. が不当であると主張するものであるか明らかでないから、採. れた資産の増加益とによって構成されるところ、上記譲渡所. 用の限りではない。なお、被相続人保有期間中の増加益を課. 得に対する所得税の課税対象となる被相続人の保有期間中の. 税対象とする相続税相当額については、租税特別措置法39条. 増加益は、被相続人の保有期間中にその意思によらない外部. により同条所定の限度額で所得税法33条3項所定の資産の取. 的条件の変化に基因する資産の値上がり益として抽象的に発. 得費に含めることができ、控訴人は本件更正処分においてそ. 生し蓄積された資産の増加益が相続人によるその資産の譲渡. の適用を受けているのであるから、上記②の主張は実質的に. により実現したものである。そうすると、被相続人の保有期. も理由がないというべきである。. 間中の増加益に対する譲渡所得税の課税は、被相続人の下で 実現しなかった値上がり益への課税を相続人の下で行おうと. 4.二重課税問題の検討. するものであり、理論的には被相続人に帰属すべき所得とし. これまで二つの二重課税に関する事例をみてきたが、これ. て被相続人に課税されるべきものであるから、相続人が相続. らの裁判例を基にさらにこの税問題について検討していきた. により取得した財産の経済的価値にして二重に課税されると. い。. いう評価は当を得ない。 本件譲渡のような場合に、所得税法60条1項1号を適用し. (1)従来の取り扱い. ないというのであれば、同法はおよそ適用の余地のない定め. 長崎年金二重課税事件において、最高裁判所が違憲判決を. をあえて設けていることとなるので、同法が60条1項1号の. 下したことにより、それまでの税実務を根底から覆す判断が. 規定と本件非課税規定をそのようなものとして定めていると. 示された。その影響を受けた例の一つが土地譲渡益二重課税. は考え難いというべきである。. 事件である。それまでは、このような二重課税問題はこれま. 以上のことから、原告の主張は排除された。. でも議論されてきたようであるが、一応の結論に達していた. [控訴審] 控訴棄却(東京高裁平成26年3月27日判決)。. ようである。 政府税制調査会「所得税法及び法人税法の整備に関する答. (第1審の引用があり、その後の判断部分を引用する・・・筆者). 申」 (昭和38年12月6日)は、 「一般に資産を相続した際相続. 控訴人は、被相続人保有期間中の増加益に対しても所得税. 税が課され、さらに相続人がその資産を譲渡すれば被相続人. 法60条1項1号により所得税が課されるとすると、①当該増. の取得価額を基として所得税が課税されることと同じ問題で. 加益に対する所得税相当額は、相続債務であるから、共同相. あって、所得税と相続税とは別個の体系の税目であることか. 続の場合に当該資産を相続した者のみが負担する理由はない. ら、両者間の二重課税の問題はないものと考える。 」と述べ. はずであるのに、その者のみが負担することになって不当で. ている(6)。とりわけ、年金受給権については、 「被相続人が. ある旨、②当該増加益に対する所得税相当額は、相続税の算. 掛金を負担した年金契約に基づく年金受給権は、相続財産と. 定過程で控除されるべきであるのに、控除されず不当である. して直煮より評価し、相続税の課税が行われ、さらに相続人. 旨、③当該増加益に対する所得税相当額は、被相続人の納税. がその年金受給権に基づき支払を受けるときは、その年金か. 義務であるのに、これを相続人の納税義務に付け替えること. ら被相続人が負担した掛金を控除した残額に対して所得税が. となり、個人単位で課税するという所得税法の理念に反する. 課税されることとなっていることから、二重課税の弊をまぬ. ことから不当である旨主張する。. がれないとの意見がある。・・・・ これについては、一般に資. しかし、被相続人保有期間中の増加益は、相続人が当該資. 産を相続した際相続税が課税され、さらに相続人がその資産. 産を他へ譲渡したときに相続人保有期間中の増加益とともに. を譲渡すれば被相続人の取得価額を基として所得税が課税さ. 具体的に顕在化するものであり、これは当該資産を相続し譲. れることと同じ問題であって、所得税と相続税とは別個の体. 渡した相続人のもとで顕在化するのであるから、当該相続. 系の税目であることから、両者間の二重課税の問題は理論的. 人にこれに対する譲渡所得税相当分を含めて課することにな. にはないものと考える。 」と答申している。従来の扱いでは、. ることが不合理であるとはいえないこと、当該資産の価格は. 年金二重課税問題や土地譲渡益二重課税問題なども存在しな. 相続人保有期間中に低下する場合もあり、これを譲渡するま. かったと考えられていた(7)。. では譲渡所得税相当額は金額的にも不確定なものであって債. 相続税と所得税の二重課税の問題が急展開し始めたのは、. 務と認めるに足りないものであることからすると、上記①及. まさに長崎年金二重課税事件に他ならない。長崎年金二重課. び②の主張を採用することはできないし、③の主張について. 税事件は、年金受給権に係る相続税と所得税の二重課税の問. は、そこにいう個人単位課税ないし所得税法の理念がどのよ. 題であったが、これが引き金となり土地譲渡益二重課税問題. 23.

(5) 近畿大学産業理工学部かやのもり 22(2015). へと広がっていった。. 税法3条1項1号に規定する『保険金』に当たるとするの. そこで、この問題に関する判示内容を図示しながら比較検. が相当である。よって相続に伴って取得した年金受給権に対. 討していき、この問題の本質を見極めたいと思う 。. して相続税が課されていながら、その受給権を行使して受け. (8). 取った年金に対して所得税が課税されるのは二重課税であ. (2)長崎年金二重課税事件の検討. る」旨判示した。これを図に示したものが図2である。. 第1審(長崎地裁平成18年11月7日判示)は、納税者の主 張を認めたのは前述の通りである。そこでは、「相続税法に. 図2 長崎年金二重課税事件・控訴審の判示. よる年金受給権の評価は、将来にわたって受け取る各年金の 当該取得時における経済的な利益を現価に引き直したもので あるから、これに対して相続税を課税した上、更に個々の年 金に所得税を課税することは、実質的・経済的には同一の資 産に関して二重に課税するものであるのは明らかであって、 ・・・・ 所得税法9条1項15号の趣旨により許されない」と判 示した。これを図示すると、図1のようになる。 図1 長崎年金二重課税事件・第1審の判示 第2審は、年金受給権をたとえ年金の形で受け取る権利で あっても、相続税法3条1項1号に規定する「保険金」の 解釈に関しては、それは金銭そのものではなく「保険請求権 (債権) 」を意味するため、個々の年金自体はこの「保険金」 に該当しないと判示している。つまり相続税の課税対象と所 得税の課税対象は別物である。したがって、二重課税ではな 24. いとの理解である。 ちなみに納税者が二重課税と主張するのは、図2における 「A」の部分である。 図1が示すように第1審の判断では、被相続人が死亡し. 最高裁(最高裁平成22年7月6日判決)は、納税者の主張. た時点すなわち相続が開始したときの財産である年金受給権. を認めたが、第1審とは異なる内容であった。所得税法9. は、将来相続人が受けるであろう年金価額を現在価値に引き. 条1項15号において「 (所得税を課さないとする) 『相続、遺. 直したものであるので、相続課税で全てが完結するという理. 贈又は個人からの贈与により取得するもの』とは、相続等に. 解と解される。その意味で、相続財産としての年金受給権と. より取得し又は取得したものと見なされる財産そのものを指. 将来受け取る年金金額の合計額は同一であり、かつ同一財産. すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得. であるという判断である。. を指すものと解される。・・・・ 当該財産の取得によりその者に. なおここで相続課税の対象となる財産価額は、既払込保険. 帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当. 料を含めた「A +保険料」であるのは、相続税の対象となる. する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の対. のは被相続人財産でありそれは相続時における現価であるの. 象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈与税. で、図1条の保険料を差し引く意味はないものと考えられ. の課税対象をなる経済価値に対しては所得税を課さないこと. る。また年金受給時における所得税の課税標準の計算は「収. として、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得. 入金額(支給額)-必要経費(既払込保険料)」であるので、. 税との二重課税を排除したもの」と判断している。これを図. 非課税所得とする分は、図1では必要経費を含まない「A +. 示したものが図3である。. B」として表示される。 第2審(福岡高裁平成19年10月25日判決)は、課税庁の主 張を認めたものである。すなわち、本件年金受給権は、 「年 金の形で受け取る権利であるとしても、実質的にみて納税者 が相続によって取得したものと同視すべき関係にあり、相続.

(6) 所得税と相続税の二重課税について. 図3 長崎年金二重課税事件・最高裁の判示. されるのである。 この循環プロセスの間に、資産を購入した者が死亡した場 合には、相続が起こる。土地という非貨幣性資産として現金 等が投入され、増加益が生じたとしてもそれは未実現である ので所得税が課税されないことになる。 図4において、被相続人が取得した資産が実現するのは、 譲渡時である。しかしその前に被相続人が死亡することに よって相続人に資産が相続人に移転する。そして被相続人が その資産を譲渡することで増加益が実現することになる。そ うすると、この実現した増加益は相続人の譲渡所得として所 得税が課税されることになるが、増加益が発生したのは被相. 最高裁は、本件の年金受給権は、年金の方法より支払を受. 続人だけでなくその前に資産を所有していた被相続人の期間. ける保険のうちの有期定期金債権に当たり、また本件年金は. も含むことが考えられる。. 被相続人の死亡日を支払日とする第1回目の年金であるか. ただここで、相続税と所得税の関係が問題となる。資産の. ら、その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するも. 取得から譲渡に至るまでの間で、仮に相続が起ると否にかか. のと解される。図3は相続税の課税対象となった部分を控除. わらず、増加益が実現した時点で譲渡所得として所得税が課. する形で所得税が課税されている。二重課税が排除されてい. される。すなわち、所得税と贈与税はそれぞれ別個独立に課. るのである。. 税されるものと考えているのが司法の判断であるように思わ れる。. (3)土地譲渡益二重課税事件 第1審、控訴審とも原告の主張を退けた。. 長崎年金二重課税事件の場合は、資本の循環プロセスが土 地譲渡益二重課税事件の問題とは異なっている。土地譲渡の 場合は、 「貨幣性資産→非貨幣性資産→貨幣性資産」であっ. 図4 土地二重課税事件. た。これに対して年金の場合は、 「貨幣性資産→貨幣性資産 →貨幣性資産」となる。現金等の資産が他の貨幣性資産(保 険債権)へと姿を変え、それが保険金の受取でまた貨幣性資 産へと変わっていく。絶えず貨幣性資産として存在するの で、土地のような場合のようには実現の概念が当てはまらな いことになる。 . 5.むすび 相続税と所得税の二重課税の問題を長崎年金二重課税事件 相続人が被相続人から相続により取得した資産を譲渡した. と土地譲渡益二重課税事件を中心にみていき、筆者なりの検. 場合、当該資産の譲渡により相続人に帰属する所得は、①被. 討を行った。そこでは、年金保険と土地譲渡益を取り上げた。. 相続人の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産の増加. 年金保険と土地譲渡がそもそも年金受給権という債権である. 益と②相続人の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産. か、また土地という非貨幣性資産であることが大きな相違点. の増加益とによって構成される。土地に含まれる増加益に所. である。そこでは「実現」ということが課税の対象となるか. 得税が課税されるのは、増加益が実現された段階でありそれ. あるいは課税のタイミングの問題となる。. は当該資産が譲渡され時点である。. 土地譲渡益二重課税の問題では、相続税と所得税の関係を. ある人が資産を取得して、それを保有し譲渡するまでの間. いかに位置づけるかによって、二重課税の問題が存在するか. に資産の増加益が生じた場合にその増加益が実現して、譲渡. 否かとなってしまう。裁判事例ではそのあたりの真の問題が. 所得が生じて課税されることになる。それは「貨幣性資産. 解決できないように思える。この問題はキャピタル・ゲイン. (現金等)→非貨幣性資産(土地等)→貨幣性資産(現金等) 」. 課税を中心として、別の機会に分析手法を変えて検討したい. で説明できる。すなわち、現金等の資産を土地等に投入、そ の時を譲渡して現金等で回収する循環プロセスで、現金等で 回収した時に増加益があれば所得税法上譲渡所得として課税. と思う。. 25.

(7) 近畿大学産業理工学部かやのもり 22(2015). 【脚注】. (1)長崎地裁平成18年11月7日訟務月報54巻9号2110頁 (2)福岡高裁平成19年10月25日訟務月報54巻9号2090頁 (3)最高裁平成22年7月6日第三小法廷民集64巻5号1277 頁 (4) 「そもそも二重課税をどのようにとらえるかという問題 がある。人格の異なる法人における法人税と個人に配分. 年。 (10)水野忠恒『相続税の根拠と課税方式の変遷』、税研23巻. れていない。 課税であると定義付け、これは当然に排除されなければ ならないとするならば、所得税と地方税には二重課税が 一般に許容されていることを説明付けられない。かよう に考えると、二重課税が排除されるべきかどうかはある 意味では政策的な配慮が働いているということも可能で あろう。 議論すべきは、租税法が排除すべきとする二重課税がど のようなものであるかという点であり、この点は各個別 税法に則して考えざるを得ない。」(酒井克彦「所得税法 の論点研究-裁判例・学説・実務の総合的検討-」10頁、 財経詳報社、2011年5月。 (5)第1審の判例評釈としては下記のものがある。 三木義一「判例批評」税理50巻2号117頁。品川芳宣「判 例批評」税件22巻5号90頁以下。高野幸大「判例批評」 ジュリスト1370号249頁。 控訴審の判例評釈。浅妻章如「判例批評」税研25巻3号 77頁。. 討」 、近畿大学産業理工学部かやのもり19号、2013年。 (8)橋本守次『ゼミナール相続税法』、大蔵財務協会、2012. 問題とされ、所得税法上の配当控除によって調整される. また、同一所得に対して、二重に課税されることが二重. 26. 学九州工学部研究報告 第32号、2006年。 (7)中牟田智朗「相続税と贈与税の一体化についての再検. (9)水野忠恒『租税法(第3版)』 、有斐閣、2007年。. 係る所得税との間の二重課税の調整は租税法上手当てさ. 時精算課税制度とシャウプ税制の比較研究-」、近畿大. された配当所得に対する所得税との二重課税はしばしば 一方で、同じ利益処分であっても、法人税と役員賞与に. (6)中牟田智朗「相続税と贈与税の一体化について-相続. 上告審の判例評釈。木村弘之亮「判例批評」ジュリスト 415号100頁以下。. (6)税制調査会昭和38年12月「所得税法及び法人税法の整 備に関する答申」6-7頁。 (7) 「退職年金契約に基づき継続受取人に支払われる退職年 金の年金受給権については相続税が課税されるが(相法 3①六)、この段階では未だ退職年金に対する課税がな されていないので、相続人が年金を受領した段階で所得 税が課税されることになる。長崎地裁判決のように理解 するのであれば、これについても所得税法9条1項16号 により非課税とされることになるはずであるが・・・」と 疑問される向きもある(酒井克彦前掲著、15頁)。 (8)年金受給権がみなし相続財産に該当するか否か、年金 の所得区分を如何にするべきかなどの論点もあるが、本 稿では二重課税の問題に限定している。. 【参考文献】. (1)岩崎正明『相続税制改正の必要性』、税経通信40巻4号、 中央経済社、1995年。 (2)岩下忠吾『総説相続税贈与税』、財経詳報社、2010年。 (3)金子宏『租税法(第19版)』、弘文堂、2014年。 (4)酒井克彦『所得税法の論点研究-判例・学説・実務の 総合的検討-』、財経詳報社、2011年。 (5)シャウプ使節団日本税制報告書、1949年(Report on Japanese taxation、 by Shoup Mission,1949)第8章A。. 6号。.

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参照

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