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特別支援学級在籍児童の「数概念」の獲得に対する発達支援と「場」への支援

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Academic year: 2021

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1.問題と目的

筆者は、地域の小学校に入学したA児と、特別支援学級担任兼交流学級副担任としてかかわ ることとなった。そこでまず、染色体異常による先天性の心臓疾患があるA児について、筆者 自身が知るところから支援がスタートした。 A児の染色体異常が「比較的強い分野は、言葉の短期記憶、基本的な読み書き、コンピュー ターのキーボード操作、音楽の技能」(大澤・中西,監修.松岡・砂原・古谷,編集.2010) であり、「一般的に苦手とする領域は、眼で見て理解し記憶する視空間的な短期記憶、複雑な言 葉の記憶、作業記憶(情報の貯蔵とともに情報の処理をし、複数の作業を制御する機能:並列 作業下での記憶機能)、読解力、算数、抽象推理、実行機能(計画を立て、系統的な行動をする)」 である(大澤・中西,監修.松岡・砂原・古谷,編集.2010)。知的に中度の遅れがあるA児 に対する、学校教育における発達支援として、得意分野になるであろう基本的な読み書きの力 を身につけさせると同時に、苦手な分野である数概念を獲得させることとした。「科学的概念 は子どもの概念の範囲を拡大する」(ヴィゴツキー,著.土井・神谷,訳.2003)ため、科学 的概念(数概念)を獲得することは大変重要である。しかし、A児の疾患である染色体異常の 数概念の獲得に関する先行研究はない。そこで、「生活的概念」(ヴィゴツキー,2003)を発達 させることで「科学的概念」(ヴィゴツキー,2003)を獲得させることが適切であると考えた。 すなわち、日常生活に必要な概念を身につけさせることで、算数に必要な数概念を獲得させ、

特別支援学級在籍児童の「数概念」の獲得に対する

発達支援と「場」への支援

川 宏

美*

Developmental Support for Number-Concept Acquisition

by Children in Special Needs Classes

and Enhancement of Their Learning Environment

(NAKAGAWA Hiromi)

*近畿大学教職教育部非常勤講師 〔キーワード〕 数概念、生活的概念と科学的概念、発達の最近 接領域、モデリング学習

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A児の概念の範囲を拡大させるということである。 A児の学年は単学級であり、小学校を卒業するまで同じクラスメイトと過ごす。そして、卒 業後も地域で暮らしていく。A児と一緒に附属幼稚園から進学した児童たちだけでなく、他園 所から進学した児童たちとA児とをつなぐ必要があると思われた。 本稿では、「生活的概念」を発達させることによる「科学的概念」(数概念)の獲得に対する 発達支援と、A児と他園所から進学した児童たちとをつなぐ、「場」への支援について述べる。

2.方 法

 発達支援の対象児の概要 年齢:6歳(発達支援開始時) 性別:女 所属:B小学校(特別支援学級在籍) 家族構成:父・母・兄(対象児より4歳年上) 支援・教育歴:親子通園施設に2年間通園後、B小学校の附属幼稚園に2年間通園、B小学 校に進学 発達支援を実施した場所:B小学校(公立小学校) 実施期間:20XX年4月~20XX年+4年3月(計4年間)  アセスメント ① 診断・発達検査等 出生後、染色体異常による先天性の心臓疾患が判明し、数度に及ぶ手術を受けてきたが、特 に運動制限はなかった。しかし、血液の疾患を合併している。幼稚園入園前に、「精神運動発達 遅滞(重~中度)」と診断された。構音の器質上の問題については、手術は必要ないが、これ 以上の発達は見込めないとのことであった。自力歩行が可能になったのは、年少時に、関節の 問題が明らかになり、服薬するようになってからである。 年長時のK式発達検査では、姿勢・運動領域の DQ:28、認知・適応領域の DQ:42、言語・ 社会領域の DQ:44であった。所見には、「理解全般に中度の遅れが見られる。2 次元理解が広 がり、モデルに合わせる課題が可能になってきた。対人面の力は高く、言葉を使って他者とや りとりする力も順調にのびている。しかし、運動面や身辺自立には幼さがあり、様々な場面で

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特別な支援を必要とする。今後集団では、児の発達に合わせたカリキュラムによる個別の指導 が必要である。」と記述されていた。 ② 行動観察 入学当初、数概念に関しては、「1・2・3・4・5・6…わからん。」と、7 で詰まり、10 までの数唱が困難であった。時間割の概念が身についておらず、1 日の見通しが持てなかった ため、体調を崩すことが多く、授業中は「もう終わる?」「次、何?」と、集中して取り組む ことができなかった。その他の認知面については、A児の染色体異常が苦手とする視覚的な記 憶の力が実際には高く、他園所から来た児童たちの顔と名前を1学期中に覚えた。交流学級の 座席を把握し、教室にいなくても、「○○ちゃん、□□くんの横」と発言する場面も見られた。 言語・コミュニケーションに関しては、受容言語の理解力は比較的高いものの、表出言語は 「せんせ、しっこ」というような2・3語文であった。また、構音の器質性の問題により、発 音が不明瞭で聞きとりづらかったため、自分の思いを伝えられないと、「べー」と舌を突き出 したり、たたいたりした。社会性については、日直や係活動に大変意欲的で、チャイムが鳴る と、すぐに号令の準備をしたり、他の児童が日直の時に、「(号令)しいや」と声をかけたりも した。 運動面に関しては、粗大運動を必要とする掃除や学級遊び、体育といった活動には「いや ん!」と消極的であった。手指の巧緻性が高くないので、「書き」が難しかった。生活面につ いては、先割れスプーンを使って、自分で給食を食べることができ、着がえは、ブラウスのボ タンを外したり、脱いだ服を畳んだりすることができ、排泄は、パンツの上げ下げができた。 しかし、牛乳キャップを開けたり、粉薬を飲んだり、ブラウスに腕を通したり、ボタンを留め たり、おしりを拭いたりといった、A児が独力で困難な身辺の処理や長距離の移動、階段の昇 降に支援が必要であった。 ③ 環境・生態学的調査 物的環境に関しては、A児の入学前に、手洗い場の一部の蛇口を操作の容易なレバーにつけ かえたり、トイレの改修をしたり、階段に手すりを設置したりして、整備されていた。 人的環境に関して、A児と一緒に附属幼稚園から進学した児童たちは、A児のことをよく理 解していたが、他園所から進学した児童たちは、身長が 1m に満たないA児に対し、「何歳?」

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といった質問をストレートにぶつけてきた。家庭は大変協力的で、A児の体調や学習の仕方に ついての情報共有ができていた。校内体制としては、血液疾患に関するあるウイルスに他の児 童が感染した場合、筆者に知らせてもらうようにしていた。また、プール学習では、どのよう に取り組んでいたかを附属幼稚園の教員に尋ね、幼稚園から小型のプールを借り、それに湯を 張っていたが、その際、小学校の教職員が「愛のバケツリレー」を手伝ってくれるなど、協力 体制は整っていた。  総合所見 ① 対象児の発達に関する個体能力的観点からの現状 生理・医学的側面: 体温調節が困難であるため、服装や室温、プールの水温等に配慮が必要であった。血液の疾 患に関しては、あるウイルスの流行に注意を要した。遠足などの長距離の移動の際には、バ ギーを使用した。 心理・学習・教育的側面: 体調を崩さないためにも、教育効果を上げるためにも、時間割の概念を身につけさせ、その 上で、数概念を獲得させることが課題であった。 思考を言語化することで情緒を安定させるために、語彙を獲得させることと、コミュニケー ションを円滑にするために、大きな声でゆっくりと発話することを意識させる必要があった。 掃除や学級遊び、体育などの活動に参加しやすくするために、粗大運動を発達させることと、 独力でできる身辺の処理を増やしたり、書き言葉を獲得したりするために、微細運動を発達さ せることが必要であった。 ② 対象児にかかわる人々・環境に関する関係論的観点からの現状 他園所から来た児童たちは、A児とどのようにかかわればよいのかわからない状態であった ため、児童たちのA児に対する理解を促すことが課題であった。

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 支援仮説、長期・短期支援目標の設定、支援計画 ① 対象児への支援 A児の概念の範囲を拡大させるために、科学的概念(数概念)を獲得させることは大変重要 である。しかし、ヴィゴツキー(2003)は、「科学的概念は生活的概念の発達の一定の水準の もとでのみ習得が可能」と述べている。そこで、算数が苦手という特性があるA児の「生活的 概念」を発達させることで、「科学的概念」(数概念)の獲得が可能になるという支援仮説をも とに、特にここでは、「数概念」の獲得に対する発達支援について取り上げ、述べる。 また、発達支援をするにあたっては、「発達の最近接領域」(ヴィゴツキー,2003)を意識し た。なぜなら、A児の「現在の発達水準より少し上を設定することでのみ、発達水準を引き上 げられる」(ヴィゴツキー,2003)と考えるからである。つまり、「現在自分でできる事だけで なく、他者の助けを借りてできる事をも規定する」(ヴィゴツキー,2003)ということである。 ② 対象児にかかわる人々や環境への支援 A児とどのようにかかわればよいのかわからない児童たちの理解を促すことにより、A児と 児童たちとをつなぐことができると考え、彼らがつながれば、筆者はフェードアウトすること 支 援 方 法 短 期 目 標 長 期 目 標 段階 TEACCH の「スケジュールの構造化」を 参考に、時間割を視覚化する。その際、A 児は平仮名の読みが困難なので、教科書や 体操服袋などの写真と文字を組み合わせた カードを用いる。 時間割の概念を身につ け、1日の見通しを持 つことができる。 1から5までの計数・読み 書き、数と指の対応、多少 等比較ができる。 第1 段階 「金曜日は上靴と体操服を持って帰るから、 上靴袋と体操服袋の写真」「一斉下校の日 は、A児の大好きな兄の顔写真」といった 各曜日の特徴を視覚化したものを用いる。 曜 日 の 概 念 を 身 に つ け、1週間の見通しを 持つことができる。 1 か ら10ま で の 数 唱・計 数・読み書き、数と指の対 応、多少等比較、具体物を 用いた1から10までの足し 算・引き算ができる。 第2 段階 月初めに、A児の家庭の予定と学校行事の 予定のカレンダーを一緒に作る。 カレンダーの概念を身 につけ、1ケ月の見通 し を 持 つ こ と が で き る。 1 か ら30ま で の 数 唱・計 数・読 み 書 き、多 少 等 比 較、具体物を用いた1から 20までの足し算・引き算が できる。 第3 段階 時間割の横に、授業の開始と終了の時刻を 掲示し、いつでも時刻を確認できるよう に、お道具箱等にデジタル時計を常備す る。 時 計 の 概 念 を 身 に つ け、1時間の見通しを 持つことができる。 1 か ら60ま で の 数 唱・計 数・読 み 書 き、多 少 等 比 較、指を使った1から20ま での足し算・引き算ができ る。 第4 段階 表1 長期・短期目標と支援計画

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とした。具体的には、児童たちから質問がある度、丁寧に答えるようにした。「何歳?」とい う質問には、「6歳やで、みんなと同じ1年生やで。大人でも、背の高い人もいれば、低い人 もいるやろ?」と答えた。他の児童と異なる活動をする際にも、事前に話すよう心がけた。例 えば、プール学習の前には、「Aちゃんは、みんなと同じプールに入ったら、心臓がびっくり してしまうから、あったかいプールに入ります。」、長距離の移動の際には、「Aちゃんは、長 いこと歩くのは難しいから、バギーを使います。」と知らせた。また、入学当初、A児は国語 と算数を児童たちと学習していたが、片仮名や大きい数を扱う学習内容になった時点で、個別 学習に切りかえた際も、「Aちゃんは、Aちゃんの速さでお勉強するねん。」と説明した。 筆者がA児とかかわる際には、児童たちが「モデリング学習」するであろうことを意識し、 A児にかかわり過ぎたり、かかわらな過ぎたりしないよう留意した。

3.結 果

 対象児の時系列的変化 第1段階では、朝、登校したら、交流学級に掲示している時間割で1日の流れを確認し、授 業が終わる度にカードを外すということを繰り返した。その結果、「次、何?」と尋ねること がなくなり、「給食食べてから掃除」といった前後関係を述べるようにもなった。それまで、 他の児童を見てしていた次の授業の準備を、時間割を見て自分でしたり、筆者と一緒にしてい た1日の流れの確認やカードの取り外しを、自分からするようになったりもした。時間割の概 念が身について、1 日の見通しが持てるようになると、体調を崩すことが少なくなった。カー ドは、平仮名の読みができるようになった時点で平仮名 に、漢字の書きを習得する度に漢字に変えていった。  第2段階では、朝、時間割を確認する際、「今日○○があ るから、□曜日やね。」と、曜日も確認するようにした(写 真1)ところ、帰りの用意をする際、「金曜やから(上靴 と体操服を)持って帰る。」と理由を述べ、自分で支度を するようになった。また、「明日水曜やから、にいにい(兄) と帰れる!」と、1 週間の見通しを持てるようにもなった。  すると、以前にも増して、体調を崩すことが少なくなった。 写真1

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 第3段階では、月初めの算数の時間に、カレンダー作りをするようにしたところ、A児から 「カレンダーしよな!」と発言するようになっただけでなく、「来週遠足やなあ!楽しみ!」と、 1ヶ月の見通しを持てるようにもなった。しかし、月の変わり目が理解しづらいようであった ので、日めくりを併用したところ、「○月終わりやなあ、次は□月。」と、1 年の見通しも徐々 に持てるようになっていった。  第4段階では、デジタル時計を取り入れた(写真2)ところ、 「今、何時?」と、時刻を意識するようになったが、「もう終わ る?あと何分?」と、1 時間の見通しが持ちにくいようであっ たので、「5とび」が理解できるようになった時点で、時間割 の横の授業の開始・終了の時刻とお道具箱等に常備している時 計をアナログ時計に変えた。すると、多少見通しを持ちやすく なったようであった。 A児は、1 対1対応や基数性、数の保存は比較的スムーズに 理解した。書きは、手指の巧緻性が高くなく、困難であったの で、鉛筆に補助具を付け、線を引く練習から始めた。また、指 を折って数えることや足す数を覚えておくことが難しかったの で、外発的動機づけから高められるように、「がんばりカード」 を使って、家庭でも練習してもらった。 その後、脚のストレッチを行う際に、A児が数唱するようにしたところ、1 から100までの数 唱・計数・読み書きができるようになった。さらに、階段の昇降や紙コップのロケットを使っ て、20までのカウントダウンを学習した後には、繰り上がりや繰り下がりを自分で書いて、100 までの筆算もできるようになった。 4年生時の発達検査では、姿勢・運動領域の DQ:32、認知・適応領域の DQ:45、言語・ 社会領域の DQ:47であった。年長時の発達検査では2歳レベルであったのが、4 歳レベルま で成長した。  対象児にかかわる人々の時系列的変化 1年生の時、A児が個別学習で交流学級を出る際、「いってきまーす!」と声をかけるよう 写真2

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にしていたところ、児童たちが「いってらっしゃーい!」と言うようになった。それと同時に、 「Aちゃんは、国語や算数、どんなお勉強してるん?」という質問が多くなされたので、交流 学級の担任と相談し、児童たちに個別学習を見にきてもらう時間を作った。A児の個別学習を 実際に見ることで、児童たちの理解がより深まり、「がんばって~!」という励ましの声がよ りあたたかくなったように感じられた。また、「どんなお勉強してきたん?」と、同じ教室に いなくても、A児の様子を気にかけるようになった。 A児に関する質問は、入学当初は筆者が答えていたが、A児の発話が増えてきたので、「A ちゃんに聞いてみ?」と、筆者はフェードアウトし、A児が答えられない時だけA児に耳打ち したり、児童たちが聞きとれない時だけ「通訳」したりしていったところ、A児と児童たちは 直接つながっていった。  2年生では、スリットの入ったシートを使用することで、A児は近距離の視写が可能になっ た。筆者がA児にかかわる姿を、児童たちがモデリング学習するであろうことを意識して、交 流学級でもこのシートを使っていたところ、A児と他園所から来た児童とで視写する姿が見ら れるようになった。しかし、大なわの学習時には、「『へびさん』やったら、Aちゃんもでき る!」と、大なわを「へびさん」のように動かし、A児が踏み越えていくという「Aちゃん ルール」を児童が考えだし、筆者が教えてもらうことがあった。  3年生では、A児の時間割を見ることで、「『国語』って漢字習ったん?」と、児童たちがA 児の学習進度を知ることができた。 また、A児が「あそぼうね。まっているよ。」といった簡単な手紙を書けるようになってき たので、手紙のやりとりを交流学級でする場面が見られるようになった。しかし、A児ができ ることも児童たちが手伝ってしまうという姿も見られるようになってきてしまった。そこで、 「Aさんができることまでお友達がしてしまうことは、Aさんの為になるのかなあ?」と、今 度は筆者から質問を投げかけてみた。すると、児童たちは「ならへん!」と答え、自分たちに 何ができるのかを考え、行動に移すようになっていった。他園所から来た児童たちも、A児の 苦手なことをよく理解し、場面に応じて、自然に手を差しのべたり、見守ったりするように なった。

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 4年生の時にも、A児は開胸手術を受けた。これまでも、A児の入院や手術の際には、児童 たちは応援メッセージを書いてきたが、この時、「千羽鶴折らへん?」と声をかけたところ、 全員が心を込めて折り上げた。この頃、A児がクラスメイトの一人であることが「あたりまえ」 になっていた。「Aちゃんががんばってるから、うちもがんばろう思うねん!」と、A児に励 まされる児童もいた。 

4.考 察

 対象児の時系列的変化のメカニズムに関する検討 ① 対象児の時系列的変化のメカニズム 時間割を視覚化することにより、1 日の流れを把握しやすくなり、「次、何?」と尋ねるこ とがなくなったり、「給食食べてから掃除」というような前後関係が理解できるようになったり した。認知面における発達が2者の縦列的な関係性を理解していく段階で、視覚的な時間割を 用いたことが、その関係性を明確にし、生活的概念の発達に効果をもたらしたと言える。さら にそこに、1 ・2・3・4・5と順序を示して意識化させることで、  「科学的概念の語義は生活 的概念を介してより豊かに、そしてリアルに」(ヴィゴツキー,2003)なっていった。同様に、 曜日・カレンダー・時計と生活的概念を発達させたことで、1から10、1 から30、1 から60と いう数概念を獲得させることができたと言えよう。 A児が体調を崩すことが少なくなり、午後あるいは週の後半も元気に活動できるようになっ たのは、1 日あるいは1週間の見通しを持てるようになったことによるところが大きいと思わ れる。それと同時に、A児自身の体力が向上したことも考えられる。 ② 対象児にかかわる人々の時系列的変化のメカニズム A児に関する質問の答えや異なる活動の説明を聞いたり、個別学習や筆者のかかわりを見た りすることで、児童たちはA児に対する理解を深めていった。そして、A児の発話が増えたり、 簡単な手紙が書けるようになったりしたことで、A児と児童たちは直接つながっていった。さ らにそれは、会話や手紙のやりとりにとどまらず、同じ教室にいなくても、A児のことを思う という気持ちの面でもつながっていった。

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 目標設定・支援方法の妥当性、支援の効果に関する検討 入学当初、5 までの数唱のみであったが、10  0までの計算ができるようになった。知的に遅 れのある児童にとって、生活的概念を発達させることにより数概念を獲得させることは、ある 程度の数までは非常に効果的であることがわかった。また、「時計の概念を身につける」という 目標までは、学校教育の場においては妥当であったと思われる。しかし、それ以上の数概念の 獲得に対応する生活的概念となると、目標設定が難しい。考えうる生活的概念としては「おか ね」がある。障害の有無にかかわらず、生きていく上で重要なものであるからだ。万の位まで 数概念を獲得することは、学校教育を修了した後の長い人生において、働く意義にもなる。た だ、「100円玉10枚で1000円札と同等の価値がある」といったことを理解する必要があるため、 短期目標に到達することは容易ではないことが予想される。また、「知的障害児の特徴として, 数が大きくなるに従い獲得率が下がる傾向が見られる」(岡本,2007)ため、数概念の獲得も 困難である。 視覚的な記憶の力のあるA児にとって、視覚支援は非常に効果的であったと言える。その他 の支援方法として、外発的動機づけから高めようと、「がんばりカード」を用いたが、A児は シールやハンコにあまり関心がなく、結果的には、習慣化するためのツールとなった。反復学 習は、数概念の定着に不可欠であった。また、交流学級での自習の時間には、児童たちの力を 借りながら、A児用に作成された算数プリントに意欲的に取り組む姿が見られ、「Aちゃん、計 算もできるようになってんなあ!すごいなあ!」という児童たちの言葉が外発的動機づけに なっていた。  新たな理解・評価 筆者は、発達支援をするにあたって、「発達の最近接領域」を意識してきたが、児童たちが 成長するにつれて、A児の現在の発達水準を適切に判断し、「一緒に遊ぶ方法」として「Aちゃ んルール」を考え出したことが非常に興味深かった。 3年生の頃、A児ができることも児童たちが手伝ってしまうという場面が見られるように なってきてしまった理由を考察してみる。A児は1年に半年のペースで確実に成長している。 しかし、他児との成長曲線の開きは年々大きくなっていった。国語と算数以外の学校生活の多 くを交流学級で過ごす中で、支援をする度合いが大きくなってしまっていた。児童たちは、そ んな筆者の姿もモデリング学習していたのではないだろうか。このことは、「支援」とは何かを

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考えるよい機会となった。 A児の成長にとって、児童たちの刺激によるところは非常に大きい。彼らとのかかわりや日 直・係活動を通して、語彙を獲得したり、大きな声でゆっくりと発話したりすることで、言語・ コミュニケーション領域が随分発達した。また、「Aちゃんルール」のおかげで、参加できる 活動が増えたことで、粗大運動も可能になった。一方、児童たちも、A児と一緒にいることが 「あたりまえ」なだけでなく、A児の存在が児童たちの励みになっている。地域の小学校に通う ことは、A児にとっても、児童たちにとっても、非常に意義深いことである。彼らが社会に出 た時、A児以外の障害のある人にも、自然に手を差しのべられるようになってほしい。  おわりに 本稿では、算数に必要な数概念の獲得について取り上げたが、国語や理科、社会についても、 生活的概念を発達させることで、教科に必要な科学的概念を獲得させることができると思われ る。知的に遅れのある児童の概念の範囲を拡大させるために、生活的概念をどのように発達さ せ、科学的概念を獲得させることができるのかを、発達支援をするにあたって、考察していか なければならない。 5.引用文献 大澤真木子・中西敏雄,監修.松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子,編集.(2010)22q11.2欠 失症候群ガイドブック.中山書店. ヴィゴツキー,著.土井捷三・神谷栄司,訳.(2003)―教授・学習過程における子どもの発 達「発達の最近接領域」の理論.三学出版. 岡本功.(2007)知的障害を伴う自閉症児の算数指導の在り方に関する研究~数概念獲得に関 する実態調査による検討~平成18年度 長期研修「研修成果報告書」.独立行政法人国立 特殊教育総合研究所. 6.参考文献 藤村出・服巻智子・諏訪利明・内山登紀夫・安倍陽子・鈴木伸五,著.(1999)朝日福祉ガイド ブック 自閉症のひとたちへの援助システム TEACCH を日本でいかすには.朝日新聞 厚生文化事業団.

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吉田甫・多鹿秀継,編著.(1995)認知心理学からみた数の理解.北大路書房. 謝 辞 A児やクラスメイトたちから、私は非常に多くのことを学びました。彼女たちに教えても らったこと、一緒に過ごした4年間は、私の「宝物」です。みんな、本当に有り難う。 4年間はもとより本稿を執筆するに際しても、A児のご両親の多大なるご理解とご協力を賜 りました。快くお力添えくださいましたことに、心より御礼申し上げます。 本稿の執筆にあたって、石野友子先生(臨床発達心理士)より、きめ細やかなご指導をいた だきました。この御恩は、次世代に還元して参ります。

参照

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