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土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否-最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決-

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(1)法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否 一最高裁平成 1 9年 7月 6日第二小法廷判決(金判 1 2 7 1号 3 3頁,金判 1 2 7 8号 6 1頁,金法 1 8 2 0号 4 3頁,判時 1 9 8 2号 7 8頁,判タ 1 2 5 1号 1 4 1頁). 下. 江. 村. 【事案の概要】. Y l(被告・控訴人・上告人)は本件土地を, A ( Y lの夫)は本件土地上に本 4年 5月 2 9日,本件土地及び本件建物に 件建物をそれぞれ所有していた。昭和 4 ついて, Aを債務者. B信用金庫を根抵当権者とする共同根抵当権(以下「本. 件 1番抵当権」という。)が設定され,同月 3 0日,その旨の登記がされた。. Aは,昭和 5 3年 9月 2 6日に死亡し,妻である Y l及び子である Y2ないし Y5 (被告・控訴人・上告人)が本件建物を共同相続し,本件建物の共有者となっ た。平成 4年 1 0月 1 2日,本件土地について,. cを債務者, D信用組合を根抵当. 権者とする根抵当権(以下「本件 2番抵当権」と L寸。)が設定され,同月 1 5日 , その旨の登記がされた。 本件 1番抵当権の設定契約は,平成 4年 1 0月 3 0日に解除され,周年 1 1月 4日 , 根抵当権設定登記の抹消登記がされた。 その後,本件 2番抵当権が実行され,平成 1 6年 7月 2日 ,. x(原告・被控訴. 人・被上告人)が本件土地を競売により買い受けてその所有権を取得した。. Xが本件土地の所有権に基づいて, Y lないし Y5に対し,建物収去・土地明 渡しを請求し, Yらは本件土地の占有権原として法定地上権の成立を主張した。 第 1審(仙台地判平成 1 7年 1 2月 2 0日金判 1 2 7 1号 4 2頁)は, Xの請求を認容し. たが,その判断は次のとおりである O t 円. Qd.

(2) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. 「同一土地上に複数の抵当権が設定された場合において,先順位抵当権設定 当時は土地所有者と建物所有者が異なっていたが,後順位抵当権設定当時は同 一人の所有に帰していた場合,抵当権の実行により先順位抵当権が消滅すると きには,法定地上権の成立は認められない(最判平成 2年 1月2 2日民集4 4巻 1 号3 1 4頁 )oJ 「このことは,後順位抵当権の設定後に先順位抵当権が解除された場合にお いても同様であると解すべきである O すなわち,先順位抵当権設定当時を基準 にすれば法定地上権の成立が認められない場合には,後順位抵当権者は,前記 平成 2年最判に照らし,法定地上権の負担のない土地としての担保価値を把握 することが期待できる地位にあった。それが,先順位抵当権が解除されたとし て法定地上権の成立を認めると,後順位抵当権者のかかる期待を損なうことに なるからである 。 実質的にみても,もともと先順位抵当権を基準にすれば法定地上権の成立は 認められないのであるから,土地及び建物を所有することになった者としては, 建物については従前設定されていた土地利用権しか存在しないことを甘受すべ き地位にあったものである 。それが,たまたま先順位抵当権が後に解除された からといって,法定地上権の負担がないものとして担保価値を把握していた後 順位抵当権者の期待を害 してまで,法定地上権の成立という利益を与えられる 必要性はない。 」. Yらが控訴したが,原審(仙台高判平成 1 8年 5月1 6日金判 1 2 7 1号4 2頁)も以 下のとおり判断して, Xの請求を認容した。 「この場合に法定地上権の成立を認めると,法定地上権割合が高く,先順位抵 当権の被担保債権額が少額のときには,法定地上権の成立による土地価額の低 下が先順位抵当権の消滅による後順位抵当権の把握する価値の増加を上回り, 後順位抵当権に対する配分額がむしろ減少し,法定地上権の負担のない土地と しての担保余力を把握していた後順位抵当権者の利益を不当に害する結果とな. - 98-.

(3) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. るからである。これを避けるために,土地に後順位抵当権を設定する場合に, 法定地上権の負担を受けない先順位抵当権が将来消滅し,法定地上権が成立す ることを仮定して担保余力を評価すべきものとする解釈は,その時点でその土 地の有する法定地上権の負担のない担保価値の完全な活用が阻害される不都合 が生じるから,許されな L、。この点,後順位抵当権の設定によって法定地上権 が成立するとしても,抵当権によって把握される担保価値がかえって増加し, このような不都合が生じる余地のない建物を目的とする抵当権の場合と同列に 論じることはできな L、 。 」. Y らは,本件は. 1番抵当権が抵当権実行時にはすでに抹消されている点で,. 原判決(第 1審判決)引用の最判平成 2年 1月2 2日民集4 4巻 1号 3 1 4頁の事案 とは異なることなどを主張して,上告受理申立てを行った。. 【判決理由】 破棄自判。 「土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後, 甲抵当権が設定契約の解除により消滅し,その後,乙抵当権の実行により土地 と地上建物の所有者を異にするに至った場合において,当該土地と建物が,甲 抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても,乙抵当権の設 定時に同一の所有者に属していたときは,法定地上権が成立するというべきで ある。」 「上記のような場合,乙抵当権者の抵当権設定時における認識としては,仮に, 甲抵当権が存続したままの状態で目的土地が競売されたとすれば,法定地上権 は成立しない結果となる(前掲平成 2年 1月2 2日第二小法廷判決参照)ものと 予測していたということはできる O しかし,抵当権は,被担保債権の担保とい う目的の存する限度でのみ存続が予定されているものであって,甲抵当権が被 担保債権の弁済,設定契約の解除等により消誠することもあることは抵当権の. - 99-.

(4) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. 性質上当然のことであるから,乙抵当権者としては,そのことを予測した上, その場合における順位上昇の利益と法定地上権成立の不利益とを考慮して担保 余力を把握すべきものであったというべきである。したがって,甲抵当権が消 滅した後に行われる競売によって,法定地上権が成立することを認めても,乙 抵当権者に不測の損害を与えるものとはし、えな L、。そして,甲抵当権は競売前 に既に消滅しているのであるから,競売による法定地上権の成否を判断するに 当たり,甲抵当権者の利益を考慮する必要がないことは明らかである O そうす ると,民法 3 8 8条が規定する「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属 する」旨の要件(以下「同一所有者要件」という。)の充足性を,甲抵当権の 設定時にさかのぼって判断すべき理由はない。 民法 3 8 8条は,土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合に おいて,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その抵当権の実行により 所有者を異にするに至ったときに法定地上権が設定されたものとみなす旨定め ており,競売前に消滅していた甲抵当権ではなく,競売により消滅する最先順 位の抵当権である乙抵当権の設定時において同一所有者要件が充足しているこ とを法定地上権の成立要件としているものと理解することができる O 原判決が 引用する前掲平成 2年 1月2 2日第二小法廷判決は,競売により消滅する抵当権 が複数存在する場合に,その中の最先順位の抵当権の設定時を基準として同一 所有者要件の充足性を判断すべきことをいうものであり,競売前に消滅した抵 当権をこれと同列に考えることはできない。」 「これを本件についてみるに,同一所有者要件の充足性の判断は,本件 2番抵 当権の設定時を基準とすべきであり,この時点では,本件建物の共有者の一人 である上告人 Y lが本件土地を単独で所有していたのであるから,本件では法 定地上権の要件を充足している(最高裁昭和 4 6年(オ)第 8 4 4号周年 1 2月2 1日 第三小法廷判決・民集 2 5巻 9号 1 6 1 0頁参照)。よって,本件建物のために法定 地上権が成立しているというべきである。」. -100-.

(5) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 【検討】. 1 問題の所在 本件は,土地上の抵当権の実行としての競売により本件土地を買い受けた者 が,本件土地上にある本件建物の共有者らに対し,建物収去土地明渡しを求め たため,法定地上権の成否が争われた事案である(1) 。 土地及びその土地上の建物が同一の所有者に属し,その土地又は建物につき 抵当権が設定され,その抵当権の実行により土地と建物が異なる所有者に属す るに至ったときには,建物所有者のために法定地上権が成立することを民法. 3 8 8条は規定している O これはわが民法が土地と建物を別個独立の不動産とし ており,同一所有者に帰属する土地・建物の一方の所有者が変わると土地利用 権が必要になるが,自己の土地の建物を所有するために土地利用権(自己借地 。 権)を設定することができないことから認められるとされる ω 法定地上権はわが民法に特有の規定であり悶,その存在理由は,一般には,建 物収去という社会経済上の不利益防止という公益的理由と抵当権設定者及び抵 当権者の土地利用権存続の意思の合理的推測にあると説かれる仏)。そして,公 益的な理由と当事者意思の推測のいずれを重視するかにより解釈上差異が生じ ( 1 ) I 本件判批」 として,原田昌和・法セミ 6 3 5号 1 0 6頁 ( 2 0 0 7年).小沢証行・金法 1 8 1 3号 4頁 ( 2 0 0 7. 年).亀井洋一 ・銀法 2 1・6 8 0号4 0頁 ( 2 0 0 7 年).升田純・ L e x i s判例速報 2 4号 3 6頁 ( 2 0 0 7 年).古賀 政治・ NBL8 6 5号 1 4頁,浅田隆・ NBL8 6 5号 2 0頁 ( 2 0 0 7 年)がある 。 但) 借地借家法 1 5条は,自己借地権を認めるが,借地権設定者が借地権を他の者と共に有することに. なる場合に限定しており, 一般的に自己借地権を利用できる制度にはなっていな L、 。 この制度は, 土地所有者が借地権付マンションを分譲する場合等を想定して制定されたものである 。 この点につ. 9 9 2年) 1 4 3頁以下,広中俊 き,法務省民事局参事官室編 『 新しい借地借家法.J (商事法務研究会. 1 9 9 3 年)8 7 9頁 〈 生熊長幸>.稲本洋之助 =津野順彦 『コンメン 雄編『注釈借地借家法J(有斐閣. 1 0 0 3年) 1 0 6頁以下,川井健 『民法概論 〔 第 2版) J( 有 タール借地借家法 ( 第 2版)J(日本評論社. 2 0 0 5 年) 3 6 2 .3 6 3頁参照。 斐閣. 2 侶) 法定地上権制度の制定過程については,松本恒雄 「 民法三八八条(法定地上権) J広中俊雄=星. 有斐閣. 1 9 9 8 年) 6 4 5頁以下に詳し L、 。 野英一『民法典の百年IlJ(. 心 (. 柚木馨編 『 注釈民法 ( 9 ) J (有斐閣. 1 9 6 5年) 1 7 6頁以下 〈 柚木馨 =上回徹一郎>.我妻祭 『 新訂担. 9 6 8 年) 3 4 9頁以下,鈴木禄弥 『物権法講義 4訂版. J (創文社. 1 9 9 4 年) 2 1 7 保物権法J(岩波書店. 1 頁,柚木馨 =高木多喜男編『新版注釈民法 ( 9 ) J (有斐閣. 1 9 9 8年) 4 8 2頁 〈 生熊長幸> .高木多喜男 j( 有斐閣. 2 0 0 5年) 1 8 9頁以下,道垣内弘人 『担保物権法第 2版 ( 現代民法 『担保物権法 [ 第 4版J.

(6) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. うることが指摘されてきている印。. 8 8条が規定するのみであるが,法定地上権の成 法定地上権については民法 3 否に関する判例及び裁判例は多数公刊されている O そして,判例・通説は, ( 1 ) 抵当権設定当時,土地の上に建物が存在すること, ( 2 )抵当権設定当時,土地と 建物とが同ーの所有者に帰属していたこと, (①土地と建物の一方または双方の 上に抵当権が存在すること, ( 4 )競売が行われて土地と建物の所有者が異なるに 至ることを法定地上権の成立要件とする O 最高裁平成 1 9年 7月 6日第二小法廷判決(金判 1 2 7 1号 3 3頁,金判 1 2 7 8号6 1頁 , 金法 1 8 2 0号4 3頁,判時 1 9 8 2号 7 8頁,判タ 1 2 5 1号 1 4 1頁,以下「本判決」という。) は,上記要件のうち,第二の成立要件(以下, i 同一所有者要件」とし寸。)に 関する最高裁判決である。本判決は. 1番抵当権の設定当時は土地と建物の所. 有者が同一ではなかったが,土地上に 2番抵当権が設定された当時は,土地と 建物が同ーの所有者に帰属していたところ番抵当権が解除され,その後, 土地の競売がなされた場合において,法定地上権の成立を認めるものである。 第 l審判決及び原判決が引用する最判平成 2年 1月2 2日民集4 4巻 1号 3 1 4頁( 6 ) (以下, i 平成 2年判決」という。)は,競売によって消滅する抵当権が複数存. mH(有斐閣, 2005年) 210頁,田高寛貴「法定地上権」法学セミナー 623号 8 2頁以下 ( 2 0 0 6年 ) , 0 0 1 年) 1 5 8頁以下,松井宏興『担保物権法I J(成文堂, 2 0 0 1年) 高橋民『担保物権法J(成文堂, 2 1 2頁等。なお,法定地上権制度の合理的な存在理由を疑問視し,これを廃止すべきとの見解もみら J (東京大学出版会, 2 0 0 5 年) 4 1 9頁)。 れるところである(内田貴『民法理(第 3版) 侶) 松山恒昭「法定地上権」中川善之助=兼子一監修『強制執行・競売I J(青林書院新社, 1 9 1 4年) 4 3 3頁以下。 的 , ) i 本件判解(最判平成 2年 1月2 2日)J として,小田原満知子・最高裁判所判例解説民事篇平成 2 年度 3 4頁以下がある 。 また,平成 2年判決の判例研究として,本田純一 ・法学セミナー 3 5巻 1 1号 1 3 0頁,半田吉信・判例評論 3 8 2 号1 9 2頁,村田博史・法学教室 1 1 9 号1 0 8頁,岩城謙二 ・法令ニュー ス2 5巻 1 0号 4 8頁(以上, 1 9 9 0年),稲田龍樹・平成 2年度主要民事判例解説 〔 判例タイムズ臨時増 刊1 6 2号 J4 4頁,角紀代恵・法学協会雑誌 1 0 8 巻1 1号 1 9 0 4頁,近江幸治・平成 2年度重要判例解説1 2 頁 , 荒川重勝・私法判例リマークス 2号 4 4頁,高畑順子・法律時報 6 3巻 1号 9 6頁,花本広志・ 一橋 0 5巻 l号 9 3頁,小杉茂雄・民商法雑誌 1 0 3巻 4号 1 2 1頁,副田隆重・判例タイムズ 1 4 3号 3 5頁 , 論叢 1 伊藤進・金法 1 2 6 1号 6頁(以上, 1 9 9 1年),清水元・法学 5 1巻 1号 1 0 8 頁 0 993年),秦光昭・担保 5 4頁 0994 年),遠藤浩・民事研修 4 9 9号 2 1頁 0998 年 ) , 松本恒雄・民法判例百選 I 法の判例 11 ( 第 5版 新 法 対 応 補 正 版 ) 1 8 8頁 ( 2 0 0 5 年)等がある 。.

(7) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 在する場合に,最先順位の抵当権の設定時を基準として同一所有者要件の充足 性を判断していたことから,一見したところ,本判決は平成 2年判決と異なる 基準を用いているようにみえなくもな~,。本件は,平成 2 年判決とは異なり,. l番抵当権が 2番抵当権の実行時点では解除されていた点に特徴があり,本判 決は,民法 3 8 8条が競売により消滅する最先順位の抵当権である乙抵当権の設 定時において同一所有者要件が充足していることを法定地上権の成立要件とし ているものと理解して法定地上権の成立を肯定している。本判決の結論自体は 一応は妥当な判断と思われ,また,法定地上権の成立が認められる場合を明ら かにしたものとしての意義は大きいが,担保価値の有効利用の問題等も残され ていると考えられる O. 2 先例 ( 1 ) 抵当権設定当時,土地と建物が異なる所有者に帰属していた場合には,. 建物のために土地に利用権を設定する機会があったと考えられるから,民法. 3 8 8条の適用を否定するのが判例の立場である(九本件の事案は,土地抵当権に 関するものであり,抵当権設定当時は,土地と建物が異なる者に属し,後に同 一の者に帰属するに至ってから,競売がなされたといえるが,平成 2年判決は, 本件と同様,土地について複数の抵当権が設定され,後順位抵当権について法 定地上権の成立要件を満たす場合において,法定地上権の成否は先順位抵当権 8 ) 。すなわち, I 土地について一番抵当権 を基準とすることを明らかにしている ( け) 大判明治 3 8年 6月2 6日民録 1 1輯 1 0 2 2頁(建物抵当権の事案),大判昭和 6年 5月 1 4日法律新聞 3 2 7 6 号 7頁(土地抵当権の事案)。 なお,法定地上権に関しては,多数の判例の集積があり,条文からはその成否が判断できない判 例法理が形成されていると言って大過ないだろう 。 これらの判例及び裁判例を扱うものとして,高 木多喜男 『金融取引と担保 J(有斐閣, 1 9 8 0年) 1 2 5頁以下,村田博史 「法定地上権」星野英一編集. r. 代表 『民法講座第 3巻 J(有斐閣, 1 9 8 4年) 1 3 9頁以下,松本恒雄「法定地上権と法定賃借権J 金. 9 8 5年) 2 4 1頁以下,高木多喜男「法定地上権の成否を決定する判 融担保法講座 I巻 J(筑摩書房, 1. r. 9 9 8年) 2 2 3頁以下を参照。 例上のルールJ 現代における物権法と債権法の交錯J(有斐閣, 1 ( 8 ) なお,さしあたり,登記を具備していることを前提としている 。. -103-.

(8) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり,法定地上権成立の要件が 充足されていなかった場合には,土地と地上建物を同一人が所有するに至った 後に後順位抵当権が設定されたとしても,その後に抵当権が実行され,土地が 競落されたことにより一番抵当権が消滅するときには,地上建物のための法定 地上権は成立しな L、」とするが,その理由としては, I 民法三八八条は,同一 人の所有に属する土地及びその地上建物のいずれか又は双方に設定された抵当 権が実行され,土地と建物の所有者を異にするに至った場合,土地について建 物のための用益権がないことにより建物の維持存続が不可能となることによる 社会経済上の損失を防止するため,地上建物のために地上権が設定されたもの とみなすことにより地上建物の存続を図ろうとするものであるが,土地につい て一番抵当権が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり,法定地上権 成立の要件が充足されていない場合には,一番抵当権者は,法定地上権の負担 のないものとして,土地の担保価値を把握するのであるから,後に土地と地上 建物が同一人に帰属し,後順位抵当権が設定されたことによって法定地上権が 成立するものとすると,一番抵当権者が把握した担保価値を損なわせる」こと を挙げる。もっとも,本件では,抵当権実行時には 1番抵当権が消滅している ので,平成 2年判決と同様に考えられるかは別個の問題となろう o また,建物抵当権に関しては,最判昭和 4 4年 2月1 4日民集 2 3巻 2号 3 5 7頁ωは , 抵当権の実行による競売時には同一所有者要件を充足する場合に,法定地上権 の成立を否定するが,先順位抵当権設定時には土地と建物が別の者に帰属して いたが,後順位抵当権設定時に土地・建物の所有者が同一に帰していた事案に つき,大判昭和 1 4年 7月2 6日民集 1 8巻 7 7 2頁ωは,法定地上権の成立を認め,平 成 2年判決も認めるごとくに述べている。このように判例は,抵当権が土地上 か建物上かで基準を異にしているといえ,この点において抵当権者の予測など ω ) 判例解説として,奈良次郎・最高裁判所判例解説民事篇昭和 4 4 年度 9 5 6頁を参照。 ω ) 判例研究として,四宮和夫・法学協会雑誌 5 1巻 1 1号 1 8 5頁,柚木馨・民商法雑誌 1 0巻 6号 1 1 4頁が ある 。. -104-.

(9) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. による整合的な説明の必要性が生じており,判例による処理が一貫していると は言えない状態にある。 ( 2 ) 本件では直接の争点になっていないが,本件事案においては,本件 2番. 抵当権設定時には,本件土地は Ylの 所 有 , 本 件 建 物 は も な い し も の 共 有 に なっている o 土地または建物に共有関係がみられる場合に,法定地上権の成立 が認められるかが問題となっているがω,本判決が引用する最判昭和 4 6年 1 2月. 2 1日民集 2 5巻 9号 1 6 1 0頁ωは ,. r 建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土. 地を単独で所有する場合においては,同人は,自己のみならず他の建物共有者 のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから,同人が右土 地に抵当権を設定し,この抵当権の実行により,第三者が右土地を競落したと きは,民法三八八条の趣旨により,抵当権設定当時に同人が土地および建物を単 独で所有していた場合と同様,右土地に法定地上権が成立する」と判示する o r oo ( 3 ) 本件事案において. 1番抵当権設定当時,本件土地は Ylの所有,本件. 建物は Aの所有であり,土地と建物が別人に帰属する場合と考えられるが, Yl とAは夫婦の関係にあった。このように土地・建物の所有者間に夫婦や親子と いった親密な関係が存在する場合には明示的に約定の土地利用権が設定されて いないことも多いと思われるところから ω ,かかる場合に法定地上権の成立が 認められるかが問題となる O 本件でも, Yらは法定地上権以外に Xに対抗しう. ω この問題に関しては,生熊長幸「土地共有・建物共有と法定地上権」大阪市立大学法学雑誌53巻 4号 2 8頁以下 ( 2 0 0 7年)に詳し L、 。 また,東京地方裁判所民事執行センタ一実務研究会編 『民事執 J (金融財政事情研究会, 2 0 0 7年) 3 7 2頁以下(以下, r 民 行の実務一不動産執行編(上) ( 第 2版 ) 事執行の実務」とする 。)も参照。. 0 2 ). 判例解説として,千種秀夫・最高裁判所判例解説民事篇昭和 4 6 年度 2 6 9頁がある 。 0 3 ) 通説がこのような場合に法定地上権の成立を認めることにつき,生熊・前掲注ω33頁を参照。. ω もっとも,前掲注ω「民事執行の実務J365頁は,明示的に約定の土地利用権が設定されていな くとも,黙示的に使用貸借契約が成立しているのが通常であるとする 。 ただし,使用貸借の場合は対抗力が認められないことになるから,法定地上権の成否は重要にな ろう。 この点につき,近江幸治 『民法講義皿. 担保物権 〔 第 2版 補 訂)J (成文堂, 2 0 0 7年) 1 9 1頁は,. 使用貸借と考えるのは妥当ではなく通常の賃貸借に還元して扱われるべきであるとする 。. -105-.

(10) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否 る土地利用権を主張 ・立証していないため,法定地上権の成立が否定されると 本件建物の存続は認められないと考えられる o 抵当権設定時において,土地及び地上建物の所有者間に親子・夫婦の関係が. 1年 1 0月 8日判時8 3 4号 5 7頁,金判 5 1 2号 2 1頁,金法 ある場合につき,最判昭和 5 8 0 7号 2 5頁0 ) 5は , i 民法三八八条により抵当権設定者がいわゆる法定地上権を設 定したものとみなされるためには,抵当権設定当時に土地とその地上建物が同 一の所有者に属することを要し,これらが別個の所有者に属するときには法定 地上権を設定したものとみなすことはできないのであって,この理は両所有者 の聞に親子・夫婦の関係があるときでも同様であると解するのが相当である O けだし,同法条の定める法定地上権の制度は,建物の存続には敷地の利用権を 必要とするが,抵当権設定当時に土地とその地上建物が同ーの所有者に属する 場合には,土地の利用権を設定することが法律上不可能であるので,競売の結 果土地と建物の所有者を異にするに至ったときに建物所有者のため地上権が設 定されたものとみなすことにより建物の存続をはかろうとするものであるとこ ろ,土地と建物が別個の所有者に属する場合には,たとえその聞に親子・夫婦 の関係があっても,土地の利用権を設定することが可能なのであるから,その 聞の土地利用に関する法律関係に従って競売後の土地所有者と建物所有者との 聞の法律関係も決せられるべきものであって,このような場合にまで地上権を 設定したものとみなすべきではな L、からである」とする O また,下級審裁判例. 1年 7月1 3日下民集 7巻 7号 1 8 3 7頁も同旨を述べる o であるが,東京高決昭和 3. 3 学説 本判決は. 1番抵当権の設定当時は土地と建物の所有者が同一ではなかった. が,土地上に 2番抵当権が設定された当時は,土地と建物が同一の所有者に帰 属していたところ,いずれの順位の抵当権の設定時を基準とするかで同一所有 的. 判例研究として,田尾桃二=東篠敬・担保法の判例 11 6 0頁がある。. -106-.

(11) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 者要件の充足性の結論が異なるため,この点が争点となったものである O この 問題については,先にみたように平成 2年判決が 1番抵当権設定時を基準とす ることを明らかにしたのであるが,本件の事案のように競売前に 1番抵当権が 消滅していた場合も同様の判断がなされうるのかの問題が生じることが,平成. 2年判決を契機として論じられてきていた ω 。 この問題については,学説で大いに議論されているとはいえないが,まず,. 2番抵当権の設定時を基準として,法定地上権の成立を肯定する見解がみられ る民その理由としては. 2番抵当権者は,抵当権設定時で法定地上権の成立. することのある土地として土地の評価をすることが可能であり,法定地上権の 成立を認めても 2番抵当権者の予期に反するとはいえないことが挙げられてい る0 8 )0. また,. 2番抵当権者は観念的には約定土地利用権の存する土地に抵当権の設. 定 を 受 け た の だ か ら 番 抵 当 権 が 消 滅 し て も 2番土地抵当権者との関係では 約定土地利用権は消滅せず,建物所有者は約定土地利用権を土地買受人に主張 しうるだけであるとする考え方もありうることが指摘されている 0 9 ) 。さらに, 本判決の評釈において,後順位抵当権者に予見可能性がなく不測の損害を与え 。 ることを懸念して,一番抵当権の設定時を基準とする見解もみられる ω. Q 6 ) 生熊(新版注民)・前掲注( 4 ) 5 5 9頁,角・前掲注(6) 19 1 4頁,小杉 ・前掲注(6) 14 1頁。 6 ) 14 1頁,生熊(新版注民)・前掲注( 4 ) 5 5 9頁,裁判所書記官研修所監修 『不動産執 小杉・前掲注 ( 行事件等における物件明細書の作成に関する研究 J(司法協会, 1 9 9 4年) 4 5 6頁。 また,本判決掲載 6 2頁)によると, 一般的な競売実務はこの考え方を前提としていると考えられ の金判のコメント (. 仰. るようである。. Q 8 ) 生熊(新版注民)・前掲注( 4 ) 5 5 9頁,小杉・前掲注(6) 14 1 .1 4 2頁。 側 前 注 仰 参 照。 側. 浅田・前掲注(1)2 3頁。 また,松田佳久「銀行業務に基づく法定地上権制度の改正提案J ジュリス ト1 2 1 8号 1 1 5頁以下 ( 2 0 0 2 年)は,立法提案としてであるが,最先順位抵当権が解除されても,解 除された最先順位抵当権で判断することを主張する 。. -107-.

(12) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. 4 検討 ( 1 ) 本判決は,土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設. 定された後,甲抵当権が設定契約の解除により消滅し,その後,乙抵当権の実 行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において,当該土地 と建物が,甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても, 乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは,法定地上権が成立する というべきであるとして,乙抵当権の設定時を基準に同一所有者要件を判断す ることを明らかにしたものである O 先に見た学説からも,本判決の結論は予想 されるところであり,一応は妥当なものであるといえよう叱本件事案におい て,法定地上権の成立が肯定される理由として,本判決は,①抵当権は,被担 保債権の担保という目的の存する限度でのみ存続が予定されているものであり, 甲抵当権が被担保債権の弁済,設定契約の解除等により消滅することもあるこ とは抵当権の性質上当然のことであること,②乙抵当権者としては,そのこと を予測した上,その場合における順位上昇の利益と法定地上権成立の不利益と を考慮して担保余力を把握すべきものであること,③甲抵当権が消滅した後に 行われる競売によって,法定地上権が成立することを認めても,乙抵当権者に 不測の損害を与えるものとはいえないこと,④甲抵当権は競売前に既に消滅し ているのであるから,競売による法定地上権の成否を判断するに当たり,甲抵 当権者の利益を考慮する必要がないことを挙げる。 甲抵当権が,抵当権の性質上,被担保債権の弁済や抵当権設定契約の解除に より消滅する可能性があることは確かであり,乙抵当権の競売申立ての時点で すでに抹消されている甲抵当権を法定地上権成否の判断において考慮すること は,抹消された抵当権の設定時にさかのぼって同一所有者要件の充足性を検討 する必要を生じさせることになるから,法定地上権の成立に関する予測を困難 にするものといわざるをえな L、。そこで,上記①及び④に関しては,首肯しう. ω 小沢・前掲注(1)5頁も本判決の考え方を妥当とする 。 -108-.

(13) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. るとしても,②及び③の点については本件の場合にこのようにいえるかは問題 があるようにも思われる O 本件の第 1審判決及び原判決は,平成 2年判決を引 用し,甲抵当権が存続したままであれば法定地上権は成立しないのであるから, 乙抵当権設定時の乙抵当権者は法定地上権の不成立を予測し担保価値を把握し ていたと考えられること,法定地上権が成立することを仮定して担保余力を評 価すべきものとする解釈は,その時点でその土地の有する法定地上権の負担の ない担保価値の完全な活用が阻害される不都合が生じることを理由に,法定地 上権の成立を否定していたところであるから,. xの買い受けの際には,法定地. 上権が成立しないものと評価されていた可能性がないとはいえない ω。また, 乙抵当権者が抵当権設定時に,甲抵当権が将来消滅することを予測し,甲抵当 権の消滅による「順位上昇の利益」と「法定地上権成立の不利益」を考慮、して 担保余力を把握するのは実際上は困難ではな L、かと考えられる ω 。 法定地上権の成否に関しては,当事者の意思の推測も判断要素として考慮さ れていると考えられるが,本件のような場合,乙抵当権設定者は建物所有者 (共有者)でもあり,本件土地に乙抵当権が設定されたときには,本件土地の 担保価値が法定地上権成立のために低下するとしても,設定者には自己のため に地上権を享受しうる意思があったと推測することは可能であろう D したがっ て,乙抵当権の設定時には,法定地上権の成立要件を充足していたことから, 法定地上権が成立しても乙抵当権者の予測に全く反するともいえないと考えら れるし,乙抵当権者が担保余力の把握をすべきという困難に由来する不都合は, 建物所有者の利益(法定地上権の成立)に優先されることになると考えられる o そこで本判決は,法定地上権成立によって土地上の後順位抵当権者の把握した. ω 小沢・前掲注(1)5頁。 もっとも,本件においては,乙抵当権者は法定地上権の制約があると考え 3頁は,本件の乙は法定地上権の負担のない ていたものと推測されている 。他方,浅田・前掲注(1)2 ものと考えていたと推測される 。 仰. 亀井・前掲注(1)4 3頁は,このような予測のうえ担保価値を判断することを求めるのは酷であると される 。 nwu. ハU.

(14) 土地上の複数の抵当権と法定地上権の成否. 担保価値が低減することよりも,法定地上権による建物保護という公益的目的 が重視された結果になっていると思われる。 ( 2 ) 本件の場合,本件土地及び本件建物上に甲抵当権が設定されたときには,. 土地及びその地上建物は別の者に帰属していたから,約定利用権が存在するは ずであり,その後,土地と建物が同一の者に帰属することになろうとも,土地 に抵当権が設定されているときには,土地の利用権は混同の例外として消滅し ないと考えられている 079 条 1項ただし書) ω。そこで,本件でも甲抵当権の 消滅後も,甲抵当権設定時の約定利用権が存続していたはずであり,その約定 利用権の対抗の問題と考えるべきであるとの批判が,本判決に対してなされて いる ω。この点に関しては,本件の土地及び建物の所有者が夫婦であったこと から,このような親しい関係において法律関係を明らかにすることがされてい ないという社会的状況から考えても,所有者が異なると扱うことの当否が問わ れることになろう o かかる場合における建物存続のための法律構成としては, なんらかの対価性があるとして賃借権の存在を認定するとかω ,民法3 8 8条の類 推適用により法定土地賃借権の成立を認めること切などが主張されている o こ の問題については,本判決にとどまらず,法定地上権の成否に関するこれまで の判例法理との整合性等を検討する必要があろう o. ( 3 ) 本判決により,競売により消滅する抵当権が複数存在する場合に,その 中の最先順位の抵当権の設定時を基準として同一所有者要件の充足性を判断す べきことをいうのが平成 2年判決であるとの判例の考え方が明らかになったと いえる。それでも,同一所有者要件に限定してみても,その判断や土地または 建物が共有の場合の法定地上権の成否については,土地抵当権と建物抵当権と ω 我妻・前掲注( 4 ) 3 5 7頁,川井・前掲注侶) 3 6 7頁,近江・前掲注ω195頁,高木・前掲注( 4 ) 19 4頁,道 垣内・前掲注( 4 ) 2 1 4頁等。 伺原田・前掲注(1)10 6頁。 田尾=東・前掲注Q 5 )1 6 2頁 。 0 8 1 3頁。 的 生 熊 ・ 前 掲 注Q. 。 。. nU.

(15) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. で異なるなど判例法理としては明確であるとは言い難し、。本判決で考慮、された 理由(上記①. ④)が今後参考となりうる場合があるかについて検討する作業. 。 も必要と思われる ω. [本稿は(財)全国銀行学術研究振興財団 2 0 0 6年度研究助成に基づく研究成果 の一部である。]. 伺. 抵当権設定時には同一人に帰属していた土地と建物の一方が譲渡され,競売時には別人に帰属す るに至った場合に,法定地上権の成立を認めるのが判例・通説であるとされている ( 松本・前掲注. ( 7 ) 2 4 7頁以下等)。浅田・前掲注(1)は,このような場合で,先順位抵当権の消誠後,従来の判例理論 が維持されるのか検討の必要があることを指摘する 。かかる場合には,約定利用権の対抗の問題と して処理することが可能となる場面であるように思われる 。.

(16)

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