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『フランスにおける基本計画
と行政訴訟』(1)
見 上 崇 洋 皿 v 1 2 指導スキームに対する行政裁判官の内容的統制の範囲 Vlまとめ 1 指導スキームの対抗性・両立性 2 行政判断の統制理論 3 おわりに わが国における基本計画との関連で 1 はじめに 1 問題の所在 2 フランスの都市計画制度の概要 皿 「両立性」原則と指導スキーム 1 両立性原則の意義 2 指導スキームの法的性質と訴訟可能性 両立性原則と判例一その1(以上本号) 両立性原則と判例一その2 指導スキームに対する訴訟的統制 指導スキームと訴訟上の諸問題 1 は じ め に 1.問題の所在 行政事件訴訟法の採用する抗告訴訟制度のもとで,裁判所は各種の行政計画 を行政処分とみることなく,これをめぐる法的な紛争を司法的に解決するみち を極めて限定的にとらえてきた。また,処分性が問題とされないレヴェルにお いても,訴訟では行政計画になんらかの法的意味ないし役割が認められること は極めて少なく,「計画行政」時代の行政活動に対する法的統制を結果的には22 彦根論叢第244号 弱めることとなっている。 このような結論が導かれる根拠として,処分性については,行政計画が単な る行政内部の青写真・ガイドラインであること,行政計画は固有の効力を有さ ずその効力は法令の規定から「附随的に」生じるものであること,行政計画の 1) 段階は未だ最終段階ではないため紛争の成熟性がないこと,あるいは,行政計 画は不特定多数の者に関わるのであって特定の者にのみ特別に関わるものでは 2) なくその効果は一般的・抽象的なものにとどまること,などの理由が挙げられ てきた。 また,従来の関心が処分性を中心とするものであったため,これ以外の点に 関する計画の具体的法効果などについての検討は乏しかったといってよいであ ろう。 処分性を否認する最:高裁判決に対してはすでに多くの学説が行政計画に処分 3) 性を否定すべき理論的根拠はないと批判していることは周知の通りである。し たがって,最高裁の判例の態度を固定的なものとみていくべきではないであろ うし,また,処分性以外の問題に関しても様々な角度から法的な意義を認めて いくことがはかられるべきであろう。 ただ,従来,上記のような結論が導かれてきた背景を学説の側についてみる ならば,初期における行政計画論は「行為形式」論を軸に,行政計画一般もし くは拘束的計画一般に共通する性質を明らかにしたうえで,それからいわば演 繹的に行政計画の法性質なるものを引き出そうとしていたように思われる,言 い変えれば,非常に多様な各種の計画につき,個々の相違を厳密に分析するこ となく性急に一般的特徴をそれも全面的に見出そうとしてきたところがあるよ 1)最高裁昭和4i年2月23日判決・民謡20巻2号271頁。 2)最高裁昭和57年4月22日判決・判例時報1043号41頁。 3)学説の状況については,文献をすべて挙げることはできないので,最近の全般的ま とめでもある芝池義一「行政計画」・雄川=塩野=園部編『現代行政法大系』2(1984 年・有斐閣)所収とくに355頁以下およびそこに挙げられている文献,その後のもの として山村恒年「計画行政と行政訴訟」『判例における法理論の展開一民商法雑誌創 刊五十周年記念論集1』 (昭和1985年・有斐閣)所収などを参照。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 23 の うに思われるところに問題がなかったわけではないであろう。この点,最近で はやや状況が変化し,各種の計画が,具体的局面においていかなる法的意味・ 機能を与えられ,それがとりわけ争訟においていかなる役割を演じているかを うう みる必要を説くものも多くなっている。また,近年わがくににおいても判例の 分析により,行政計画にかんする重要な指摘が行われている。ただ,上記の様 にその当否はともかく,最高裁の判例の存在が大きな意味をもっており,処分 性をめぐる議論が中心的位置を占めることとなり,その他の点の議論も含めた 検討は,素材上の制約もありなお十分ではない。 判例において行政計画が検討されているという点でみれば,フランスの都市 計画法制は興味深い素材を提供してくれるようである。そこで,本稿では,ま ず,そのうちで,わがくににおいては非拘束的計画とされ行政計画のうちでも 法的検討からは最も無関係とみられている基本計画について検討するものとす る。 フランスを素材としてみる場合,大きく二つの点をことわっておく必要があ る。すなわち,わがくにとは都市計画法制が異なることと,行政訴訟のありよ うが異なることとである。都市計画制度の概要は後に触れるものとして,行政 活動に対する裁判的統制の相違についてみれば,すでに多くの優れた研究によ って裁量統制のありかたや抗告訴訟制度と越権訴訟制度の構造的相違が分析さ れている。たとえば,フランスの越権訴訟においては,「行政過程における違 4) この点については,さしあたり,拙稿「行政計画と行政法学の関わり方」『彦根論 叢』204号(1980年)。もちろん,行為形式論自体が無意味であるなどというのではな い。また,行政計画が行政法の体系においていかなる位置を占めるかということも問 題である。ただ,「行政行為か行政立法か」という形の処理ですませることができる ものではないということである。この点について,本稿は直接の対象としないので, さしあたり,高木光「行政上の事実行為と行政の行為形式論一目ドイツにおける理 論の推移に照らしてみた」(4)『国家学会雑誌』98巻5・6号(1985年)とくに336, 342頁,芝池・前掲333頁以下参照。室井力編・新版『現代行政法入門』1(1981年 ・法律文化社)65頁く見上執筆部分)も基本的に「行政計画」なる概念は機能に着目 した概念であり法的性質による概念ではないとしている。なお,同67頁注参照。 5) この点についての,最近の代表的な文献として芝池・前掲論文参照。 6) ここでも文献をすべて掲記することはできない。代表的なものとして,阿部泰隆 『フランス行政訴訟論』(1970年・有斐閣)を挙げるにとどめる。
24 彦根論叢 第244号 法の存在と認定と,それにもとつく特定の行為の効果の否定(消極的形成)と が概念上峻別されえず,判決の論理構造のなかで,後者が前者から独立した存 在をもたないことを意味する」ため,「越権訴訟の対象をいわゆる法律効果を もつ行為に限定すべき必然性,および,“訴訟物”の範囲を行為の同一性によ って確定すべき必然性が,ともに失われ」,また,「越権訴訟において紛争解決 7) の観念が比較的稀薄である」との分析がある。処分性については,「越権訴訟 の対象となる行為の法的性質における実体的概念の放棄とそのコロラリーとし ての行為主体に重点を置く形式的概念の採用の帰結である。その意味では,越 権訴訟における『処分性』と狭義の訴えの利益の観念は別だといえる」ともい s) われる。さらに,コンセイユ・デタを頂点とするフランスの行政裁判制度その 9) ものの国家制度における位置もフランス特有のものとなっている。これらの分 析を前提とすれば,行政計画についてフランスの行政裁判が訴訟対象性を広く 10) 認め,わがくににおけるとは異なった状況を呈していることは,むしろ,当然 のことであるとも思われるし,フランスにおいて行為形式論がそれ自体として それほど深められないことも容易に理解できるかもしれない。 したがって,これらの基本的な相違において行政計画の裁判的統制がどのよ うに位置付けられるかの分析こそが本格的課題となるであろうが,本稿では, さしあたり,その前提作業として,判例を通じて,基本計画(Sch6ma direct− eur, SD,;指導スキームとの訳語が定着しつつあり,本稿も以下ではこれに従 7)小早川光郎「取消判決の拘磁力」同『行政訴訟の構造分析』所収(1983年・東京大 学出版会)240頁以下。 8)室井敬司「行政立法と越権訴訟一行政立法の行政行為への包摂過程をめぐるコンセ イユ・デタ判例の変遷一」『東京都立大学法学会雑誌』26巻1号(1985年)668頁。 9)晴山一穂「フランスにおけるコンセイユ・デタの位置と役割」杉村敏正先生還暦記 念『現代行政法と法の支配』(有斐閣・1978年)所収,平田和一「フランスにおける 行政裁判」『名大法政論集』76号(1979年)等参照。さらに,フランスにおけるコン セイユ・デタを中心とする行政裁判制度の確立の特徴を浮彫りにするものとして,村 上順『近代行政裁判制度の研究』(成文堂・1984年目がある。 10)80年代初頭までのフランスの行政訴訟全体において都市計画関係の訴訟の占める割 合がかなり高いことなどをはじめとした詳しい分析としてはDaniel LABETouLLE〈Le contentieux du nouveau droit de 1’urbanisme: analyse prospective> in CERCOL, ‘‘Le nouveau droit de i’urbanisme”1984, pp.101 et s.がある。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟∫(1) 25 号))に関する紛争とそれに対する統制の状況をみることとしたい。判例をみる ことによって,わが国の判例が,ややもすれば抽象的・一般的基準性を優先し つつ現実には形式論理であって行政の判断を追認する傾向が強いのと比較して みることにそれなりの意義はあるであろう。 2.フランスの都市計画制度の概要 リ フランスの都市計画制度については,すでにすぐれた紹介もあるので,ここ では,必要とされる範囲で概要を説明することとしたい。 1967年法以来,都市区域における土地の計画化の制度は,基本的に二つに分 けられる。田長期の方向づけ……これは予測的文書の中で原則を示すことであ る,および(2)土地の利用者に直接適用可能な規則制定(r6glementation)…… これは定められた目標を達成する一つの手段である,の二つである。(1)が指導 スキーム(shc6ma directeur;SD,83年目制度改正以前においてはi整備都市計 画指導スキームshc6ma directeur d’am6nagement et d’urbanisme;SDAU とよばれた。本稿においては,基本的に同一のものとして扱う)によって定め られ,(2)の基本的手段が土地占用フ。ラン(POS, plan d’ocupation des sols)で ある。 (1}まず,長期の方向づけのうちのある部分は,国土全域に関わる内容をも つので,これについて全国一律の基準が定められる。これが全国整備要綱 (DAN., directives d’am6nagement national)である。これは当初におい’ては 必ずしもその意味するところの明確なものではなかったが,判例による都市計 11) 稲本洋之助・戒能通厚・田山輝明・原田純孝ほか編『ヨーロッパの土地法制』(昭 和58年・東京大学出版会),渡辺洋三・稲本洋之助編『現代土地法の研究』下(昭和58 年・岩波書店)など。 . 1)稲本・戒能・田山・原田編・前掲書23頁以下。稲本洋之助「都市における計画と法 一一フランス」『比較法研究』45号(1984年)49頁以下。同「フランスの地方制度改 革と都市計画権限」『法律時報』57巻9号(1985年)86頁以下など。以下の概要は, これらの文献および上巴11)に挙げた文献ならびにRobert.SAvY;Droit de 1’ur・ banisme, 1981: Rene CRisTiNi;Droit de 1’urbanisme, 1985: Code de 1’urbanisme, comment6 et annot6 par F. Bo−uYssou et J. HuGoT,1985などに拠る。
26 彦根論叢 第244号 画法典(Code de 1’urbanisme,以下CUと略すこともある)R.111−15条の 解釈によって,その具体的中身が与えられ,1977年にデクレで定義された。要 ラ 綱(ディレクティヴ)という場合,その内容は法的には多様なものを含むが, 全国整備要綱は,行政立法的な効力をもつ行為であり行政にも私人にも対抗し うるものであるとされている。特に重要な機能としては,指導スキームが作ら れていない地域,あるいはそれが作られていても公告とか認可などの手続を経 ていないために未だ効果を生じていない場合に,この全国整備要綱が直接に適 用されることがあることが挙げられる。要するに,都市計画地域外に適用され る全国一律の基準といったところであろう。 これに対して,各地三隅に効果を有するものとして上記の指導スキームをは じめ,農村整備計画(PAR, plan d’am6nagemant rural),海岸開発利用計画 (SAUM, sch6ma d’aptitude et d’utilisation de la mer)がある。PARにつ いてはすでに簡潔な紹介もあり,また,SAUMについても対象の特殊性など があるものの,その骨格は指導スキーム,指導スキームとほぼ同じであって, いずれも本稿との関連では説明を省略する。 指導スキームの特徴を以下に挙げる。 現在では,指導スキームに関する基本的規定は,都市計画法典のL.121−1 ヨラ 条以下に定められている。まず,指導スキームと土地占用プランは,それぞれ 都市計画制度において,都市計画(urbanisme)の予測(pr6visions)と規準 (r691es)を示す(L.121−1)。これらの二つの文書は補完しあう。すなわち, 指導スキームは,特に,市街地(agglom6ration)と周辺地域との関係を考慮 2)本稿では,ディレクティヴを一応「要綱」と訳しておく。その意味内容や機能を考 慮した訳語ではない。訳語については,亘理格「フランスにおける法規命令的通達法 理の現代的変容一誘導的行政手法の出現との関連で」小島和司博士東北大学退職記 念『憲法と行政法』(良書普及会・1987年)所収820頁注(4)参照。また,ディレクティ ヴについての邦語文献としては,同論文および交告尚史「個別審査と画一的処理一一 フランスの行政裁判に見る裁量統制の一側面」(1)一(3}『自治研究』60巻12号∼61巻4 号(1984年)参照。 3)都市計画法典は従来複数の規定によって存在してきた都市計画関係の条文を整理し, まとまった形にしたものであり,法律編と命令編に分けて編成されている。前者は L.…条,後者はR.…条と示される。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』① 27 しつつ国土の「整備の基本的方向付を定める」(L122−1)。ここでは,国土整 備政策と市街地の段階で示された政策との連絡が行われるのである。土地占用 プランは「指導スキームが存在している場合には,それの方向付の枠内で…… …」土地利用の規準を定める(L.123−1,aL le「)。 サヴィの簡潔なまとめを以下にみておこう。「指導スキームは,基本的に予 測の機能を有している。時間についてみれば,それは,約三十年を限界として, 中・長期の期間に関わる。空間についてみれば,それは,人ロー万人以上の市 街地のすべてにおいて,長期の明らかな発展の可能性のすべてを考慮するため む にきわめて広い地域を対象としなければならない」。 指導スキームは,計画書(rapPort)と図面(documents graphiques)から なる。計画書は四つの内容を含む。1.将来の成長の見通し,2.整備する部 分の指示,3.基本的な施設の予定の大綱,4.環境についての分析,である。 図面は5分の1の地図に次の事柄を示す。1.市街地の発展地区(zone),2. 主要な空地・植樹地区(espace bois6),3.主要な景観,4.主要な活動およ び重要な公共的施設,5.交通網,等である。 この指導スキームについて,現行法制の基礎を創った1967年法成立回しばら くの間は,その法的性質を「行政を拘束するが,私人は拘束しない」とと説明 お るのが一般的であったが,判例によりこれと異なる意味付が与えられつつある ことは後述するとおりである。 ② これに対して,土地占用プランはフランスの都市計画制度におけるもっ とも基本的な文書である。その公告以降は行政ならびに第三者に対抗可能であ り,土地利用に関するすべての個別的決定の根拠となる。それは,「……とり わけ建築の禁止をもたらしうる土地利用の一般的基準および地役」を定める (L.123−1)。 土地占用フ。ランは,1.説明書(rapPort de pr6sentation),2.図面(do cuments graphiques),3.規則(r6glement),4,附属書類(annexes)など 4) R. SAvy, op. cit., p. 83. 5)第二章2参照。
28 彦根論叢第244号 からなる。いわゆるゾーニングはこの土地占用プランにおいて定められる。条 文からも明らかなように,土地占用プランは,通常,行政立法的性格をもつも のであると解されており,行政のみならば私人をも拘束する。したがって,こ 6) れの認可行為などは早くから越権訴訟の対象とされてきているのである。 1 「両立性」原則と指導スキーム 1 両立性概念の意義 フランスの都市計画法に関する裁判的統制の特徴の一つは,制定法にある指 導スキームと他の行為との「両立性」(compatibilit6)の規定を根拠として指 導スキームに明確な法的意味を認めてきていることである。それは,行政に関 する指導スキームの効果として説明されている。 整備都市計画指導スキーム(SDAU)に定められ指導スキーム(SD)にも引 き継がれた都市計画法典のL.122−1条の最後の項の公式によれば,指導スキ ーム「に関するプログラムおよび行政決定はそれの条項と両立しなければなら ない」。この条文は,行政に対する義務を創設し,同時にそれの適用の範囲と 1) 内容を示しているものと理解されている。 行政にかかる義務の適用範囲は,何らの限定的要素もなく,一般的包括的に 指導スキームに「関する」「プログラムおよび行政決定」を対象とするように 思われるが,この明白な外観にもかかわらず,L.122−1条の適用について定 められたR.122−20条は,指導スキームと両立しなければならない「プログラ ム」と「行政決定」のリストとして次の四種のものしか示していない。つまり, a.土地占用フ。ラン,b.協議整備地区(ZAC)の場所決定・プログラム・整備 プラン,c.公共団体・公施設・その特許権者の土地取得プロジェクト,d.大 6) これについては別稿を予定している。 1)わがくにの計画法制において,この両立性規定に対応するように思われる規定とし て,他の計画等に「適合する」,「基く」,「即する」ことなどを要求する規定がある。 これにつき,芝池・前掲論文349頁以下は計画内容に対するこのような規制を法的な ものととらえたうえでこれを「整合性の原則」と呼んでいる。わがくにの状況につい ては,この論文を参照されたい。なお,本稿では,この「整合性の原則」と「両立性 の原則」の異同などについては立ち入ることができない。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 29 規模施設事業が対象とされているだけである。この列挙は,L.122−1条の文 言を考慮すれば,限定的性格のものではないとの理解もあり・うる。コンセイユ ・デタは,しかしながら,反対の解釈を採用し,そして,R.122−27条に明示 的に言及されていない決定やプログラムとの両立性の義務を排除したのである。 すなわち建築許可,分面許可(permis de lotir),門前設置許可(permis de c16ture)などの都市計画に密接な関連をもつ処分が排除されているのである。 すなわち,ひとことでいえば,すべての土地利用上の許可が排除されたともい われるのである。この点については,後に判例とともに検討する。 このように今日では行政の義務の内容は両立性の概念によって確定されるも のとされている。この概念は,現在では,都市計画法に固有のものであるとい ってよいようである。都市計画プランに,ついで指導スキームに利用されたこ の概念は,ユ983年の大幅な改正においても規定された。 ところで,通常一般に,上級の規範と下位の規範ないし行為との間で問題と される「正常な」関係は,「適合性」(conformit6)の関係であるといういい方 をされてきたし,また今日でも一般にそうである。両立性と適合性の関連につ いて「下位の規範は,もはや,それの適法性を条件づける上級規範が命じるそ れ以下のあるいはそれとは別のものとはならないのは確かである。ただし;狭 いとはいえ,適合性の関係は重要な自由の幅をもっているの.も確かである。い ずれにせよ,都市計画法は,かなりの場合に,適合性という古典的原則に対し, より最近のものでより柔軟な両立性のそれをおきかえているのである」と.評価 ヨ されるのである。 この概念は都市計画法では以前から用いられていた。1958年12月 31日デクレ はすでにそれを二重に用いていた。一方で,改訂中の都市計画プランに適合し ない許可は,知事が「企画された事業」が「改訂される都市計画プランの条項 と両立」するものとみなしたとき知事によって付与されうると定めていた。他 2)CRIsTINI, oP。, cit., PP.83 et s。:なお,「両立性」概念全般について簡潔にまとめ たものとしては,W. CouLLET, La notion de compatibilit6 dans le droit de 1’ur. banisme, AJDA.,1976, PP.291 et s.参照。
30 彦根論叢 第244号 方,都市計画プランの範囲内で企画された事業は,このプランと両立しなけれ ばならないと定めていた。 この両立性の概念の法的意味づけはいかなるものなのか,適合性の概念との 相違はどのようなものかということが大きな問題となるであろう。これまで, 条文および判例により,両立性の概念の分析が進められてきた。噌言でいえば この概念により,直接に私人に対する法的効果を生じるか否かにかかわらず, 指導スキームが具体的な法的意味をもったものとしてとらえられるようになっ たということができよう。これが,後述するようにフランスのひとつの特徴で ヨラ あるといえる。 2 指導スキームの法的性質と訴訟可能性 指導スキームの法的性質については,法令の定めかたとの関係で不明確なと ころがあり,判例によって深められてきたという特徴を持つ。指導スキームを 最初に採用した1967年の「土地利用方向づけ法」以来その法的性質に関する明 示的な規定がおかれていないことから,先に見た土地占用プランとの二重構造 を主な根拠として,当初は次のような見解が一般的であった。 すなわち,行政に対しては指導スキームは拘束的性質を有するが,私人に対 しては法的効力は有しない,というような説である。たとえば,1967年法の成 立当時から指導スキームをその典型とする「展望的行為」というカテゴリーが 提唱され,新しい法性質をもったものとの性格づけがなされてきているが,こ れにつきシャパルは次のように述べていた。 指導スキーム(を含む展望的行為)は,行政に対して課せられる。それは, 私人に対してはそれを要因とする法的行為の介在によって課せられる。すなわ 3)指導スキームについての全般的説明としては,前節注1)に挙げたもののほか, L. JAaQuiGNoN et Y.一M. DANAN, Le droit de L’urbanisme, 1978, pp. 30 et s.; Y。JEGouzo et Y. PITTARD, Le droit de 1’urbanisme,1980, pp.39 et s,などを参 照。 1)拙稿「フランスの経済計画をめぐる法的議論の動向」『彦根論叢』204号(1980年) 82頁以下,磯部力「フランス行政法学の新傾向」『公法研究』38号(1978年)244頁以 下,拙稿「フランスの計画法論の一挙面」『法律時報』53巻8号(1981年)参照。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』{1} 31 ち,計画により「国は自らに対して約束する」。このような行政に対しては義 務的であるが,私人に対しては対抗できないという性格は,内部的行為と同様 に越権訴訟による取消しを不可能なものとする。「この訴訟の不可能性の正当 化は行政に広い自律性を委ねる必要に依拠している」と。 このような説は法の沈黙という根拠もさることながら,国会における施設大 臣の「指導スキームの規定は私人には対抗しえない………。というのは,仮の (previzoir)性質の文書であるからである………しかしながら,全体として効 果を有しないわけではない。というのは,公的および私的イニシャティヴにと っての枠として働くはずであり,また,プログラムおよび行政決定はこれらの 条項と両立するものでなければならないからである」との発言が大きな影響を 3) あたえていたといわれている。 これに対してその後の学説は,立法者が,明示的にこのことを確認している わけではないことおよび土地利用方向づけ法の条文もこれに矛盾する規定を含 んでいたこともあって指導スキームが私人に対しては全く法的効力を有しない とされる点を批判的にとらえるようになる。たとえばサヴィに代表される私人 拘束論は次のように指摘していた。 指導スキームは,従来の都市計画プランや土地占用計画と異なって公聴問の 後で策定されるのではなく,土地利用方向づけ法は,それが認可されると「国 民に公表される(ala disposition du public)」べきものと定められていたの であった。この公開性が指導スキームを対抗可能なものとするためのものでは ないとしても,当然これに関して当時導かれていた帰結について疑問を呈する ことはできる。そのうえ指導スキームは策定中に国民に委ねられるのである (L.122−1−2,R.122−11)。 そこで,整備都市計画指導スキームも指導スキームも行政客体に対して効果 2) P. CHApAL, 〈Recherche sur la notion et le regime des actes juridiques a caract6re“prospectif”》AJDA,1968, PP.323 et s.拙稿・前掲(『彦根論叢』204 号)89頁以下。 3) CRIsTINI, op. cit., p. 83.
32 彦根論叢 第244号 を生じうるものとなる。都市計画法典のL.13条は,土地利用方向づけ法から のものであるが,植樹地域に分類された土地での建築の許可は,一・一一・定の条件の もとで,それが指導スキームと両立する場合でなければ認められないことを定 めている。とくに,プログラムおよび行政決定は指導スキームの条項と両立し なければならない(L.122−1)と定められている。行政の負担においてこのよ 4) うに設定された義務は,行政が行政客体に関して行う決定を条件づける。 また,L.122−1−3条は,「指導スキームは……執行的となる」ことを示して いる。「こ.の出来の悪い公式はこの文書が効力をもつにいたることを目指して 5) いるように思われる」。都市計画法制にも影響を与えることとなったミッテラ 6) ン政権の分権化法の後の1983年7月22日法も,この点では何ら新しい要素はも たらさなかった。 ただ,こ・のような見解も,これを認める方向の判例がないこともあって,70 年代はただちに主流の説を形成するには至らず,その後の判例の展開によって 徐々に法的意味付けがなされつつあるのである。ただ,後でみるように,コン セィユ・デタは,指導スキームを認可する行為は不利益を生じうる(faisant 7) grief)一方的行政決定であることを認め越権訴訟の対象となるものとしたと 4)土地利用方向づけ法の公布以後では,1977年7月7日デクレが一定の指導スキーム を直接第三者に対抗しうる全国整備要綱と同じ性格のものとみなした。第一章2参照。 5) SAvy, 〈Les effets des schemas directures d’am6nagement et d’urbanisme> AJDA., 1970, pp. 460 et s.; 〈Le contor61e juridictionnel de la 16galite des deci− sions 6conmiques de 1’administration> AJDA., 1972, pp. 12 et s. 6) こ.の改革と都市計画法制の関連については,CERCOL, Le nouveau droit de Purbanisme,1984にフランスの都市計画法の著名な研究者達による全般的な検討が ある。そめ他,J.一P. MARTIN,《Urbanisme, Environnement l6galite;les nouvelles conditions du contr61e des decisions locales>, in “decentralisation, urbanisme et environnemenV’ 1983, pp. 119 et s. : J. CHApuisAT et autres 〈L’urbanisme apres Ia d6centralisation》AJDA,1984, pp.275 et s.;稲本・前掲(法時),地方制度改革 全般については,稲本洋之助・乗本せつ子・伊藤洋一「フランスの地方制度改革一議 会資料から」,乗本せつ子「フランスの地方制度改革と元老院」,伊藤洋一「フラ.ンス の地方制度改革と『市町村社会主義』」(法時57巻7号∼10号・1985年),パトリス・ ジェラール,竹内康江訳「フランスにおける分権化」(自治研究62巻3号・1985年), バトウス・ジェラール,亘理格訳「フランスにおける分権化」 (立命館法学183・184 号・1985年)など参照。 7)J.リヴェロ著・兼子仁=磯部力=小早川光郎編訳『フランス行政法』(東京大学出 版会・1982年)262頁。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 33 8) 考えられている。 立法者の意思および制度の精神に依拠するとすれば,指導スキームは,とく に公当局の意図により創設され,実際には,行政客体には,例外的場合をのぞ いて,それから生じる特に土地占用プランのような媒介行為によってのみ影響 9) を受けるというようにみるべきであるとの説もあるといわれる。ただ,このよ うな説を採用するとしても,そこにいう例外的場合にはどのような取扱いがさ れるのか,また,私人が直接的な影響を受けるものではないとしても,媒介行 為との関係でいかなる機能を有し,あるいは,それは法的にはどう評価される べきであるのかといった問題があり,以下,この点について判例の状況を検討 する。 皿 両立性原則と判例……その1一 以下,この点に関する基本的な判例を検討しよう。 1) ①アダム氏事件判決(コンセイユ・デタ1974年2月22日判決) [事実]ストラスブール市街地について認可された指導スキームに予定されていた自 動車道A34が,この自動車道の公益性宣言(わがくにの事業認定にあたる)を行うデク レにより,経路を変更された。公益性宣言の内容は指導スキームと同一でないことは明 らかであった。 [判示]都市計画住宅法典12条4項,これの規定は都市計画法典,L.122−1条に再規 定されているが,によれば次のように定められている。「指導スキーム……は,国,地 方公共団体,公施設,公役務の,経済社会発展計画の枠内において策定されたプnグラ ムを方向づけ,調整する。……これに関わるプログラムおよび行政決定はこれの条項と 両立しなければならない。」と。1969年5月28日デクレ20条,これの条文は都市計画法 典,R.122−20条に再規定されているが,は「次のものは指導スキームの条項と両立し なければならない。…4,大規模施設事業」と。 1973年6月15日デクレで公益性宣言された自動車道A34の全長6,5キロの経路が 8) CRISITINI,, OP., Cit., 9) CRISITINI., OP., Cit,, 1) CE., Assemb!ee,22 f6vrier 1974, Sieur Adam et autres GADU,2e皿e6d., n。13; RDP., 1974, p. 1780, note WAuNE,;AJDA., 1974, p. 197, chronique, FRANa et BoyoN, ; RDP, 1975, p. 486, conclusion M. GENToT.
34 彦根論叢 第244号 1973年3月9日デクレによって認可されたストラスブール市街地の指導スキームに示さ れている経路と異なっているとしても,一件書類から,この相違は,指導スキームの基 本的選択も,土地の一般的用途も問題とするものではなく,また,それは,指導スキー ムに場所を指示されている森林地域の保全や景観の保護を危うくするものでもないこと が明らかである。かくて,自動車道A34の建設事業は指導スキームの諸条項と両立する のである。このことから,公益性宣言は,都市計画住宅法典1条および1969年5月28日 デクレ20条の規定に反してなされたものではない。 指導スキームは都市の理想的で望ましい成長の長期のヴィジョンを示すもの である。これの枠内で,一ないし複数の土地占用フ。ランが,空間利用と規準と 都市計画制限を定める。指導スキームの目的の実現にむけて段階的に,土地占 用プランの修正もしくは改訂が可能とされる。このように,方向づけを示す長 期の展望的行為(指導スキーム)と規準および地役を定める短期中期の命令的 な行為(土地占用プランなど)とが連結されていると説明される。 2) アダム氏判決の意義は次のような点であるといわれる。第一に,指導スキー ムは私人との関係で一丁目法的な効力を持つものであると理解されたというこ とである。この点は明示的に示されたわけではないが,公益性宣言の適法性の 検討に入り,かつそれを指導スキームとの関連で行っていることから,このア 3) ダム判決がその最初の事例であると言われているのである。 第二に,指導スキームの射程距離を定めた。指導スキームは,実は,規準と か都市計画制限ではなく方向づけのみを定めるのである。そのことから,これ に関わる決定もそれの条項に正確に適合する必要はないことになる。それと両 4) 立しないことがなければ十分であることを確認したのである。 ただし,この両立性の義務は,事件が示すように精確な基準として理解する 2)J.一P.G肌I et H. CHARLEs, Commentaires, GADU,2eme 6d.t n。13:判決直後の ワリーヌをはじめとする評釈(古注参照)では,両立性そのものにはあまり注目がな されておらず,「対照表の理論」による統制の可否ないしはそれにかかわる内容的判 断に多くが言及されていた。「対照表の理論」については注19)参照。 3) J.一P. GiLLr et H. CHARLEs, loc., cit. 4)丁.一P.GILLI et H. CHARLEs,10c., cit。:本件判決の結論については,多数の評釈が 批判しており,実質的には両立しないとみている。ジャントの論告自体もそういう立 場であった。判決は論告と異なる結論を採用したのである。注1)の各評釈参照。
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』{1) 35 ことは難しい。実定法が要求するように指導スキームと両立しないかにつき, 最も権威をもつ判決が,両立すると肯定的に答えたのであった。それは,基本 的選択ないし土地の全体的方向づけは問いなおされることはできず,同様に, 指導スキームによって定められている植樹地域の維持とか景観の保護が公益性 宣言によって危うくされるものではないことを明らかにした。かくて,コンセ イユ・デタによれば,「堅固で:不可侵の核」となる指導スキームのいくつかの 5) 要素があり,他のものは変化しうるものであるというのである。すなわち,前 者について両立性の原則が妥当するかのようであるが,その内容はここでは明 らかにはされていないのである。 道路事業に関して同様の判決が続いて出されている。 ②ル・マンームルザン間国道185号線沿線住民協会事件判決(コンセイユ・ 6) デタ1975年10月22日判決) [請求] 道路の拡幅事業の公益性を宣言するデクレの取消 [判示]県会の審議の不存在から引き出された事由について……一方で,本件デクレ によって公益性を宣言された事業が国道158号線と県道140号線を繋ぐ新道の創設を危 うくするとしても,このデクレはこの新道を県道に分類する効果も目的を持たない。他 方,県道92号線を国道158回線と連結する事業はこの道路を二倍にするという結果を伴 うし,県道の利用条件を修正しない。その結果,これらの事業全体は,サルテ県会の事 前の審議を経なくとも適法に公益性宣言される。 聴問手続の適正さについて……利害関係所有者が下問委員,彼らは聴問の期間中ずっ と県庁に居なければならないものではない,に会うことができなかったという事情は, それ自体としては,手続に違法性を付着させるものではない。 県不動産活動委員会の諮問の適正さについて……一件書類から,請求の主張に反して, 県不動産活動委員会は自分の管轄しているところのプロジェクトについての認定に必要 なすべての要素を保有している。この委員会は,それが勧告を発してから数ヵ月後に認 可されたマンの指導スキームの規定とプロジェクトとの両立性を検証することはできな い。 公益性を宣言された事業とマンの指導スキームの規定との非両立性から引き出された 5) J.一P. GiLLr et H. CHARLEs, loc. cit. 6) CE., 22 oct. 1975, Association des riverains de la route nationale n O 158 entre Le Mans et Mulsanne, Lebon 527.
36 彦根論叢p第244号 事由について……マンの南での国道158四線の拡幅が指導スキームに記入されていなか ったとしても,一件書類から,この事業が,指導スキームの基本的選択も土地の一般的 用途も再検討させるものではなく,また,森林地域の維持を危うくさせるものではない。 逆に,自動車の競争のためのサーキットの整備を目的とする範囲で,公益性を宣言され た事業は市街地南部の地区についてスキームによって定められている方向づけに対応す る。結論的に上に分析した事由は維持されない(下線は筆者)。 公益性について……それがもたらす私的所有権にたいする侵害,財政支出,あるばあ いには社会的不利益がそれのもたらす利益と比較して過度でないときにのみ適法に宣言 される。 ここでも,両立性原則の中身を吟味することなく,道路事業が指導スキーム の内容に影響しないとの結論を導いているのである。 この両立性の義務は,指導スキームが関わりうるすべての行政処分に適用さ れるのであろうか。下記のドマ氏判決が与えたのは否定的返答であり,この結 論に対する批判は多い。 7) ③ドマ氏事件判決(コンセイユ・デタ1977年3月2日判決) [事実]ヴァル・ドワーズ知事は,無権限の蝦疵があるとして,1974年7月10日にボ スチク会社に付与した建築許可を取り消した。1575年2月25日の本件デクレによって, 同知事が同会社に取消されたものと同じ内容の建築許可を認めたのであるが,周辺住民 であるドマ氏が,手続の濫用や指導スキームと本件許可が両立しないことなどを理由に 取消を求めた。 [判示]手続の濫用はない。 行政がドマ氏に,ボスチク会社に付与された前述の建築許可および策定中の都市計画 文書を伝達するのを拒否したことは認めるが,このことが,本件処分の適法性に影響を 与えるものではないであろう。他方,ドマ氏はボスチク会社によって出された建築許可 の請求書類を彼に見せられることが拒否されたと主張したとしても,このことから別の 意味が生じるわけではない。それゆえに,本件処分は違法な手続に基づいて行われたと 主張する根拠はない。 本件処分が建築を許可した倉庫は第一種に分類される危険施設である。この特定施設 の開設許可および建築許可は,独立した手続に従う別個の立法によって認められ,相互 に関連性はもたない。かくて,1917年12月19日法のヴィザの本件処分による欠落および その3条違反から引き出された事由は成立しない。 7) CE., 2 mars 1977, Sieur Domat; GADU, nO13.
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 37 本件許可が倉庫を公共下水に繋げることを予定したとしても,一件書類から,とくに 私的使用の水の排水の許可から,ボスチク会社の雨水および廃水は鉄道の地域内にある 二つの排水路に流される。公的下水道網の拡張は,このような条件においては,許可が だされた時点においては倉庫との連絡のためには必要ではなかった。それゆえ,原告は, 本件処分が都市計画法典L.421−5,R.110−10丁目反して行われたと主張する根拠をも たない。 一見書類に挿入された文書から,本件処分が建築を許可した倉庫は都市計画法典,R・, 110−19条によって要求されるそれの下にあるドマ氏の土地の境界とは離れてあることが 明らかである。 本件処分が出された日には,モンマニィ市の地域についての土地占用プランの策定が 命ぜられたとしても,この計画は公告されていない。それゆえ,この土地占用プランの 草案の侵犯から引き出された事由は,いずれにせよ,採用できない。 結局,都市計画法典L.122−1,R.122−20条より建築許可は,その適法性が指導スキ ームの条項を根拠にして認定される行政決定にははいらない。それゆえ,ドゥル・ラ・ ヴァール,モンマニィ,ヴィルタヌーズ市の指導スキームの侵犯から引き出された事由 も採用されない(下線は筆者)。 上述のことから,ドマ氏は,本件判決において,ヴェルサイユ行政裁判所が1975年2 月25日のヴァル・ドワーズ知事の処分の取消しを求めた請求を棄却したのは違法であっ たと主張する理由を有しない。 ここで問題となったのは指導スキームと両立すべき行政の処分はどのような ものかということである。都市計画法典R.122−20条,1969年5月28日デクレ に起源があるが,は行為もしくは事業の四つのカテゴリーが指導スキームと両 立しなければならないと定めている。すなわち,土地占用プラン,協議整備地 区(ZAC)の場所・プログラム・プラン,公共団体・公施設・その特許者の土 地取得の計画,大規模施設事業である。これらの行為および事業にとっては問 題はない。これらの指導スキームとの両立性は要求され,行政裁判官は,その 場合には,それの統制を要請されるのである。それは,すでに,公益性宣言に つき(①アダム氏事件判決,②ル・マンームルザン事件判決,前述),土地占 用プランのゾーニングにつきなされている(後述)。また,すべての利害関係 者はこれらの行為の一による指導スキームの侵犯の事由を主張することができ る。
38 彦根論叢 eg 244号 しかし,都市計画法典L.122−1条,土地利用方向づけ法に起源をもつ,は 次のような一般原則を定めているとの理解もありうる。すなわち,それはよれ ば,前記の四つの行為は例示にすぎず,指導スキームに関わるすべてのプログ ラム,すべての行政決定は指導スキームの条項と両立しなければならない,と いうものである。③ドマ氏事件判決は,しかしながら,このような解釈をとら ず,都市計画法典の命令編に明示的に示されている行為もしくは活動の四つの カテゴリーに両立性の義務を限定したのである。このようにこの判決は,両立 性原則を媒介にして指導スキームの条項を根拠として適法性が認定される許可 のうちに建築許可を数えなかった。この判決を前提とすれば,土地の占用に関 する他の許可と同様に分画許可など都市計画の実現に関わるすべての処分につ いても同様の結論であろう。ただし,それらが基本的施設の実現を関係しない という留保を伴うものであるように思われるが。このような結論は批判を招い8︶ た。 両立性の原則自体の理解は前述のものと差異はないが,指導スキームの法的 意味をやや詳しくみたものが次の判決である。 9) ④カヌ夫人事件判決(コンセイユ・デタ1979年3月23日判決)。 [事実]原告であるカヌ夫入,市町村間協議会,市町村は,公益性を宣言された事業 が指導スキームに記入されないという事情は,指導スキームによって通常は予定される べき重要な事業にこの指導スキームが言及していないとして指導スキームとこの事業を 非両立にするものであると考えた。都市計画法典のR.122−1条2項は「指導スキーム は国土整備全国要綱(DNAT)および,存在する場合に圏は,の知事によって与えられ た特別の要綱の枠内で設定される」と定めている。このことは当然のことながら,指導 スキームは『要綱』との適合性まで要求されないとしても,両立していなければならな い,との意味であると理解されると原告たちは考えた。 計画された事業は,認可されていたルーアンーエルブーの市街地の指導スキームに予 定はされていたが,この文書の基本的な方向づけは,ブース空港の拡張計画について, 全国整備要綱の性格を明らかに持つ次の二つの文書を根拠にして命ぜられている。すな 8) Y.一M. DANAN, chronique, AJDA, 1977 p. 447; JAa〈tuiGNoN et DANAN, op. cit., p. 31; SAvy, op. cit. (1981) 9) CE., 23 mars 1979, dame Canu et autres, JCP. 19418. note M. RicARD.
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 39 わち,バス一八ーヌの整備スキーム,これはフランスの整備全国スキームの一要素とな っている,および空港設備基本スキーム,である。 原告らは空港拡張計画が全く違法にルーアン一二ルブーの指導スキームに記入された ということを導きだした。その理由は,バスーセーヌの整備スキームは,全く行政内部 の展望的文書でしかないからであり,指導スキーームの認可の時点では特別の公表されて いたわけでもなく,政府の承認を得ていたわけでもない。空港設備基本計画は政府の認 可を1973年になってはじめて受けているのであり,また,何らの手段でも公表されてい ないのであった。要するに知らぬ間に作られた行政内部文書に拘束されるいわれはない というのであった。 [判旨] 団体と市町村は,空港の拡張事業の公益性宣言に関するデクレを,本件デク レの実施(intervention)後に下記の法文が効力をもつに至ったことを理由に取消しを 求めるにつき,公聴問に服せしめられた書類の中に影響調査(6tude d’impact)を入れ ることに関する1976年10月12日デクレの諸条項の不遵守を利用するという根拠を有しな い。 市の土地占用プランは二つの市の合同体(fusion)から零せられたのだが,本件デク レの日付には公告されておらず,原告は,次の事を主張するのに空港の拡張計画とこの プランの規定の間の非両立性を援用することはできない。次のこととは,公聴問は,都 市計画法典のL。123−8条に適合して,事業の公益性とプランの修正の双方に関わる のが当然であろうということである。市の都市計画簡略プランが本件デクレの日付に効 力あるものとして一時的に残っていたとすれば,一件書類から,旧来の市町村の領域内 の建築可能地区は,空港に隣接することによる不都合にさらされるわけではなく,従っ て,このプランの修正について公聴問を行う必要がないことが明らかである。諮問をう けた航空施設運行上級委員会が本件デクレに示された計画につき,この手続に関する法 の規定に適合して勧告を発した日と,本件デクレの日付との間の間隔は,手続の正規性 (r6guralit6)に影響を与えるものではない。 本件デクレはデクレによって認可された指導スキームの執行手段としての性格をもた ないので,このデクレの違法性から引き出された事由は,いずれにしても無効(inop6− rent)である(下線は筆者)。 市街地に空港施設を整備することを目的とする飛行場の拡張は,事業のもたらす社会 的な不都合も,その財政上の高額さも,その公益的な性格を認めない性格のものではな い。 10) [判示]本件デクレの内的適法性について……本件デクレは認可された指導スキーム の執行手段としての性格をもたない。したがってこのデクレについて主張された違法性 10)簡単にはJ.リヴェロ著・前掲276頁。この問題については阿部・前掲書が詳しい。 後述第五章2注3)参照。
40 彦根論叢 第244号 から引き出された事由は,いずれにしても,無効である。空港の拡張計画は,市街地に ついて他の中心都市および隣接地域との間の適正な航空関係の設定を可能にする性質の 空港の基本設備を備えさせる目的を有している。……事業のもたらす不便さも,これは とくに計画の実施に関わる農用地の所有権者にとってであるが,また,その事業コスト も本件においては事業から公益性をなくす性質を有しない。 この事件の主要な論点は,空港の公益性宣言に対して,その前提としての指 導スキームが違法で.あると主張する抗弁が成り立つかであった。 判示は「……本件デクレは,ルーアンーエルブー市街地のよって認可され た指導スキームの執行手段としての性格をもたない。したがって,このデク レについて主張された違法性から引き出された事由は,いずれにせよ,無効 (inOP6rent)である」とした。 従来の判例からはこのような結論が導かれるのも当然であった。従来の判例 は,個別決定の根拠となる命令(先行行為)と個別決定との宅診につき次のよ うに示してきた。すなわち,原告が抗弁によ.って,直接の訴えが行われる期間 の嬉嬉の後に,決定の根拠となるレグルマンの条項の適法性を争いうることが ll) 認められる。また,この決定が個別的行為の性格を示すことが認められるとし !2) 13) ても,また,行政立法的な性格を示すことが認められるとしても,原告たちは, 14) それにもかかわらず,主要な請求(litige)と無関係であるような,あるいは決 うラ 定によっては適用されないような,その行政立法の諸条項の違法性を援用する ことは受理可能ではないとされていたのである。さらに,行政立法の執行を確 保するために行われたものであるが,適用の手段を構成しない手段に対しては 違法の抗弁は受理可能ではない。 n). CE., Ass. 30 j uin 1961, Groupement de defense des riverains de la Route de Pinterieur: Rec., p. 452; D. 1961, 663, concl. Kahn, note JossE. 12) CE., 26 oct. 1932 Jeanneney: Rec., p. 870 13) CE., 28 fev. 1948, Bassac: Rec., p. 87 14) CF., Sect, 18 fev. 1948, darne Denayer: Rec., p. 80;Ass. 26 juin 1953, Det ruiseux : Rec., 320 ; Sect,, 14 fev. 1958, Laboratoires Roger bellon: Rec., p. 100, AJDA. 1958 II. 171, concl. LoNG. ls) CE,, Sect., 10 fev., 1967, Ste des Ets Petitjean:Rec., p. 63 16) CE., 24 juillet 1930, Crts Faucqueur, Rec., p. 798;6 janv. 1932, Ville de Meaux, Rec., p. 10
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』① 41 指導スキームによって計画された事業の実現のためになされた公益性宣言が この文書の執行手段の性格を示さないとの断定に関しては,政府委員の次のよ うな論告で説明されている。 「……空港の拡張は,道路や運河,他のタイプの公の設催との関係の実現と して,法的には指導スキームの存在に依拠しない。それは,行政管理の枠内お よび個別の立法およびレグルマンの条文を根拠として検討され,決定され,実 現される。あなた方は,すでに,事業は,それが指導スキームによって予定さ れていない場合にあっても,それがこの文書の基本的な選択を再び問題としな 17)いので,適法に公益性を宣言できると判示している。この判例から,反対解釈 として,指導スキームに予定されている事業はこの文書の執行手段でしかない ということを導くことはできない。すなわち,このことは,すでに引用した都 市計画法典のL.122−1条によって,指導スキームが公的団体の活動および公 行政のプmグラムを『方向づけ』,『調整する」ことのみ可能である,というこ とを忘れているからである」。以上が,政府委員の論告であった。 ④カヌ夫人事件判決は,まず第一に,今日では,指導スキームそれだけでは, 国土整備の手段に適法性の根拠を与えるに十分ではない,として③ドマ氏事件 判決を補完したのである。前述したようにサヴィは,つとに,この点に関する 法律の沈黙および指導スキームの行政への対抗性から,その私人への対抗性を 導いていた6ところが,カヌ夫人判決に従えば,そのとき用いた公式は逆に説 明されるべきもののように思われる。すなわち,スキームは「必要的」根拠の となる規範(norme)ではなく,行政は,計画を私人}こ対抗させる(③ドマ氏 事件判決)あるいは第三者に対抗させる(④カヌ夫人事件判決)適法な事由を 指導スキームに見出すことはできないということになる。 実際に,もし,都市計画法典のL,122−1条によって,指導スキ・一ムの規定 が公共団体の計画に対抗しうるとしても,互換性「は存在しない。いかなる場合 であっても,この規定そのものが,この指導スキームの対象にされている計画 17)前述②ル・マンームルザン判決
42 彦根論叢 第244号 の実現のために行われた活動手段に対する訴えの防御手段としては対置されな い。活動手段は指導スキームのなかにその正当化もしくは適法の根拠を見出し えない。そうではなく,行政当局に執行的手段をとる権限を与えている法的秩 序(ordonnancement juridique)そのものに適法性の根拠が見出されるので lg) ある。この観点からは,活動的手段は完全に自律的であり,スキームの規定が それにとって何らの助けになりえないが,ただ,活動手毅に固有の暇疵には対 応しなければならないのである。かくて,原子力発電所とか空港の建設とかそ れに近い場所設定が指導スキームによって定められたような場合,その固有の 19) 蝦疵から公益性宣言の誤りを正すことは可能であるとされる。 第二に,都市計画法典のL.122−1条およびL.122−2条の適用に関する1969 年12月4日の寸間通達は次の様に述べている。指導スキームは「国土の整備お よび設備に関するプラン,プログラム,決定の物定に関する責任を有するすべ ての公共団体に課せられる。」そして,学説は,この実際的な可能性について 疑問を示しながら,「私人に対する」効果と「行政に対する」効果を区別する 20) ことで結論づける。本件判決は,単なる私人ではなく,その一つは地図から全 部削除されることを要求された市町村を含む原告の請求についてなされたもの である。判決は,市町村の請求をカヌ夫人および市町村間保護協議会のそれと 18) M. RiaARD, JCP. 19418 19) リカールは,場所に由来する不便宜が計画された事業の公益性をなくしてしまうよ うな場合の統制は,「対照表の理論theorie de bilan」によって可能であるとする。 この理論は「ある事業は,それが含むところの私的所有権への侵害・財政の規模・あ りうべき社会的不便が,その事業が示す利益に比して過度なものでないときにのみ, 公益性を有する」というもので,「比例性の統制」における事実の評価を詳細に行う 一つの型を提起したことを特徴とする。この理論については,拙稿「フランスの都市 計画法における『適用途外』についての一考察」(2)『彦根論叢』192号(1978年)と くに92頁以下に紹介したことがある。また,小原清信「フランス公法判例研究」『法 政研究』52巻2号(1985年)204頁以下にもこの理論にかかわる分析がある。ただ し,裁量統制の新たな前説を画すものとして70年代に期待されたこの理論の活用も, 現実には十分ではないといわれている。この点につき,小原・前掲論文209頁参照。 RICARD, op. cit.なお,第五章2,最後のまとめをも参照。 20) G.LIET−VEAux, JCP.,1968,工.2147;J. de LANvERslN, AJDA,1968,271;Ros・ slLLioN, AJPI., 1968, 13;SAvy, op. cit.;A. de LAuBADERE, Traite elernentaire de droit administratif, t. 2, 1975, n O843, etc.
『フランスにおける基本計画と行政訴訟』(1) 43 区別することなく取り扱っている。指導スキームの規定は,公共団体に対して 対抗しうることが共通に認められていたにもかかわらずである。リカールによ ればこのことは論理的に,抗弁(exception)よりも:本訴(action)によって指 2正) 導スキームの適法性を争う権能(vocation)をそれらに与えうることであった。 ま.た,コンセイユ・デタは,指導ス.キームは,性質上,それ自体として,公共 団体に対抗しうる文書ではなく,国土の整備および施設の政策にかかわる決定 を行う権限をもつ公共団体にのみ対抗しうる,というのである。すなわち,学 説上,かなり一一ma的に認められていたように.みえる行政への対抗性が,判例上 初めてその内容に関わるやや詳細な認定をされたのである。ただし,ここでの 公益性宣言が指導スキームの執行手段ではないとすることによって,違法性の 抗弁までも排除されたかのようにみえる点は,本件判決の重要なポイントであ 22) り,この点も批判されている。 つぎにあげる判決は,指導スキームと土地占用プランとの両立性を判断した 最初のものである。 23) ⑤ブシュマーン市事件判決(コンセイユ・デタ1979年3月23日判決) [事実] ブシュマーン市を含むアンジェル圏域の指導スキームは,市の北部に将来道 路を通過させることを予定していた。ところがこれも広域のアンジェル都市区域の土地 占用プランはこの地域を保全すべき自然地域(ND地区という)に指定しようとしてい た。ブシュマーン市は,後者を認可する処分を指導スキームと両立しないことを理由に 違法であるとして,それの取消を求めたのである。 [判示]一件書類から「それを構成する景観の質,性質,自然の要素からして保全す るのが適当である自然空間」としてND地区に分類するにあたり,道路が通過する部分 は二つのND地区を連結し,また二つの住宅地区の間に緑地帯を創ることになるので, これを創ったとしても,行政は評価の明白な過誤を犯したとはいえない。 また,指導スキームの予定する道路は,出訴の時点から10年後に創られるべきものと されているので,土地占用プランがND地区ではなく,道路を創るように定めること 21) RICARD, op. cit. 22) RlaARD, op. cit. : J. MoRAND−DEviLLER, 〈L’evolution de la jurisprudence admi− nistrative sut les condition d?elaboration des plan d’occupation des sols et sur leur articulation avec d’autres r6gle s d’urbanisrne> JCP, 1982, 3074. 23) CE., Sect. 23 mars 1979, Commune de Bouchernaine, GADU, 2emeed., no12
44 彦根論叢 第244号 を義務づけられることはない。 本判決は,判決自身が両立性の原則を明示的に論じているわけではないが, 内容そのものは原則にかかわるものであり,指導スキームと占用プランとの両 立性を判断したこととともに,その結論をやや技術的に判断しすぎたきらいが なくもないと思われるものである。すなわち,両者において土地の用途が非常 に異なることにもなるのであるから,判示のように簡単には言い切れないであ ろう。いずれにしても,両立性の原則は,計画内容の統制の手掛かりをもつ可 能性を示しながらも,必ずしも十分には機能しきれないでいたといってよいで 24) あろう。また,とくに土地収用の分野において利用されてきた「対照表の理 論」による統制を排除しつつ「限定された統制」である評価の明白な過誤の理 25) 論の採用の可能性について判示した点も本件判決の一つの意義ではあるが,こ 26) の点は後に検討する。 24) ここでの判断は,両立性に関してのみ検討するのではなく他の観点も考慮するとす れば,わがくにについての芝池・前掲論文の分析を基礎として考えるなら,整合性の 原則を越え,考慮事項一一reの問題に立ち入っているようにも思われるが,今回は,こ の点については留保しておき,詳細は別の機会に譲らざるをえない。第六章2注8)参 照。 25) AJDA. 20mai 1979. 26) 第五章2参照。