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非可換確率論と非可換エントロピーの研究

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(1)

非可換確率論と非可換エントロピーの研究

著者

日合 文雄

(2)

非可換確率論と非可換エントロピーの研究

(課題番号09640152)

平成9年度∼平成1 1年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))

研究成果報告書

平成12年3月

研究代表者 日合 文雄

(東北大学大学院情報科学研究科教授)

(3)

非可換確率論と非可換エントロピーの研究

(課題番号09640152)

平成9年度∼平成1 1年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))

研究成果報告書

平成12年3月

00010175194

■■l-研究代表者 日合 文雄

(東北大学大学院情報科学研究科教授)

(4)

目  次 はしがき 研究組織 研究経費 研究発表 (1)学会誌等 (2)口頭発表 (3)出版物 研究成果 (1)部分因子環の研究 (2)ランダム行列に対する大偏差原理と自由エントロピーの研究 (3)作用素・行列のノルム不等式,トレース不等式の研究 --研究論文と出版物の抜粋 論文【1】 論文【2】 論文【3】 論文【41 論文【51 論文【6】 論文[7] 論文[81 論文【9】 論文[101 論文【11】 論文【12】 出版物【1】 1     2     2 3     4     4 5     6     9

(5)

は し が き

本書は平成9年度∼平成1 1年度科学研究費補助金(基盤研究(C) (2))

による研究

「非可換確率論と非可換エントロピーの研究」

(課題番号09640152)

の研究成果報告書である.本研究は下記の代表者および分担者によっ

て組織され,作用素論・作用素環論を基礎とした非可換確率論と非

可換エントロピー(特に自由確率論と自由エントロピー)の研究を

行った.なお,平成1 0年度の代表者の転出にともない,分担者の

大幅な変更があった.ご協力いただいた研究分担者の方々に感謝い

たします.

平成12年3月

日合文雄

(6)

研究組織(平成9年度)

研究代表者:日合 文雄 茨城大学・理学部・教授

研究分担者:荷見 守助 茨城大学・理学部・教授

研究分担者:田村 英男 茨城大学・理学部・教授

研究分担者:長谷川 博 茨城大学・理学部・助教授

研究分担者:中本 律男 茨城大学・工学部・教授

研究組織(平成1 0-1 1年度)

研究代表者:日合 文雄 東北大学

研究分担者:金子 誠 東北大学

研究分担者:岡田 正巳 東北大学

研究分担者:浦川 肇 東北大学

研究分担者:中本 律男 茨城大学

大学院情報科学研究科・教授

大学院情報科学研究科・教授

大学院情報科学研究科・教授

大学院情報科学研究科・教授

工学部・教授

研究経費

平成 9年度    1, 300千円

平成10年度

平成1 1年度

800千円

800千円

2, 900千円

2

(7)

研 究 発 表

本科学研究費による研究発表のうち,研究代表者による学術研究雑誌等への発表,招待講演等で の口頭発表および出版物について,以下に挙げる.

(1)学会誌等

ll] F・ Hiai, Log-majorizations and norm inequalities for exponentialOperaJtOrS, in

Linear Operators, I. Janas, F. H. Szafraniec and ∫. Zemanek (eds.), Banach Center

Publications, Vbl・ 38, 1997, pp・ 119-181・        ,

[2】 F・ Hiai, Standard invariants for crossed products inclusions of factors, Pacific J・

Math. 177 (1997), 237-267.

[3] T・ Andoand F・ Hiai, H61der type inequalities for matrices, Math・ Ineq・ Appl・ 1

(1998), 1-30・

[4] F・ Hiai and M・ Izumi, Amenability and strong amenability for fusion algebras with applications to sub factor theory, Intemat・ J・ Math・ 9 (1998), 669-722・

[5】 F. Hiaiand D・ Petz, Maximizing free entropy, Acta Math・ Hungar・ 80 (1998),

633-646.

[6] F. Hiaiand D・ Petz, A large deviation theorem for the empiricaleigenvalue

dis-tribution of randomunitary matrices, Ann. Znst・ H・ Poincar6 Probab・ Statist・, to

appear・

[7】 D・ Petzand F・ Hiai, Logarithmic energy as an entropy functional, in Advances in

DiHerential Equations and Mathematical Physics, E. Carlen etal. (eds・) , Cotemp.

Math., Ⅵ)1. 217, Amer. Math. Soc., 1998, pp. 205-221・

[8] F・ Hiaiand D・ Petz, Eigenvalue density of the Wishart matrix and large deviations,

InPn. Dimens. Anal. Quantum Probab. Relat. Top. 1 (1998), 633-646.

[9] F. Hiai and H・ Kosaki, Comparison ofvariousmeans for operators, J・ Funct・ Anal・

163 (1999), 300-323・

[10] F. Hiai and H・ Kosaki, Means for matrices and comparison of their norms, Indiana

Univ. Mach. J. 48 (1999), 899-936.

lll] F. Hiai and D・ Petz, Properties offree entropy related to polar decomposition, Comm. Mach. Phys. 202 (1999), 421-444.

[12】 T. Ando, F・ Hiaiand K・ Okubo, mace inequalities for multiple products of two

(8)

(2)口頭発表

[11日合文雄, Large deviations fb∫ random matrices,研究集会「作用素環における双加群と 量子群の研究」 , 1997,数理解析研講究録1003 (1997), 28-58・

[2]安藤毅・日合文雄, Matrix H61der inequality,研究集会「作用素論における不等式とその

周辺」 , 1997,数理解析研講究録1027 (1998), 126-134・

【3】 F・ Hiai, Large deviations fわr random matrices, Mark Krein lnternational

Confer-ence "Operator Theory and Applications" , 1997, Odessa, Ukraine・

[4】 F. Hiai, Random matricesand large deviations, Maximizing free entropy, A Se一

mester on Analysis in Erwin Schr6dinger Institute, 1998, Vienna, Austria・

[5] F. Hiai, Random matrix models in free probability theory,

"InternationalConfer-ence on Mathematical Analysis and lts Applications (ICMAA2000)" , 2000,

Kaoh-siung, Taiwan・

(3)出版物

[1】 F. Hiaiand D・ Petz, The Semicircle Law, Free Random Variables and Entropy, Math. SuⅣeys and Monographs, Amer・ Math・ Soc・, to appear・

(9)

研 究 成 果 関数解析学の重要な分野であるHilbert空間上の(有界)線型作用素のなす作用素環は,位相の とり方の違いにより, CL境とvon Neumann環に大別される.大雑把に言って, C*一環は位相空 間の非可換化に, Yon Neumann現は測度空間・確率空間の非可換化に対応する.作用素の特性で ある非可換性(ab≠ ba)を強調して,作用素環上で展開される解析・確率論は,非可換解析・非可 換確率論と呼ばれる. 近年の作用素環(特にⅦn Neumann環)の発展においては, Ⅴ・F・R・ Jonesが創始した部分 因子環の指数理論とD. Ⅵ)ic山escuが開拓した自由確率論の2つの大きな流れがある.本研究で は,これらと関連して作用素舞上の非可換確率論と非可換エントロピー論を研究した.他に,作用 素・行列のノルム不等式やトレース不等式の研究も行った.以下に,いくつかの項目に分けて,研 究成果の概要を述べる. (1)部分因子環の研究 7 0年代に冨田一竹崎理論を基礎にvon Neumam舞の構造理論が完成した後, 8 0年代に入って

V.ど.氏. Jonesが部分因子環の指数理論を創始した.部分因子環論は, A. Ocneanu, S. Popa,

氏. Longoや国内の幸崎,河東,泉,綿谷らによって発展させられ現在も様々な方向に拡大深化 している.部分因子環の指数理論で札標準不変量(またはパラグループ)と呼ばれるグラフ静的な 不変量が登場する. 論文【21では,指数有限の因子環の包含関係N⊂Mに群Gが作用しているとき・接合積 nxG⊂MxGの壕準不変量を元のN⊂Mのそれと比較した.また,泉正己氏(京大)との共 同研究【4】で,部分因子県の場合をモデルとして,一般のフュージョン環についてamenability およびstrong amenabilityを研究した・これらの概念に対するいくつかの同値条件を与え, PopaによるⅠIl型部分因子環の(stro喝) amenabilityに関する結果の証明を簡易化することに 成功した. 論文【21の概要: N⊂Mを指数有限の因子環の包含関係とし,群Gの作用αがN⊂M上 に与えられたとすると,接合積の包含関係(舟⊂h)-(NxαG⊂MxαG)が定義できる.プ リンシパル・グラフrN,Mとウエイト・ベクトルS-の組gN,M=(rN,M,S-)をN⊂Mの「標 準不変量」という・この論文では, N⊂MとN⊂hの壕準不変量gN,Mとgjq,Mを比較し・ (strong) amenabilityなどの性質がN ⊂ Mと舟⊂ hの間でどの程度遺伝するかを調べた・ Gが離散群の場合と局所コンパクト可換群の場合に分けて考察した.例えば, αが有限群Gの

強外部作用とすると,有限depth, subexponential growth, amenability, strong amenability

などの性質について, Ⅳ⊂〟とⅣ⊂〟は同値であることが示された. Ⅳ⊂〟がⅠⅠIl型因子

現の包含関係のときは(1g⊂ A) - (NxqR⊂ M xqR)はⅠⅠ∞型因子環の包含関係であり,

Takesaki双対定理より(N⊂M) -(舟×eR⊂hxeR)となる.双対作用伊が強外部的で あることに注意して, ⅠⅠⅠ型槙準不変量QN,MとⅠⅠ型療準不変量g凡血を比較する結果を得た・ Ⅳ⊂〟がⅠⅠⅠ入型(0<入< 1)で同時離散接合横分解をもつときも同様なことがいえる・

(10)

論文【4】の概要: Jonesの指数理論においては,指数有限の部分因子莞Ⅳ⊂ 〟に付随した プリンシパル・グラフ(各頂点にbimoduleが対応する)とウエイト・ベクトル(各bimodule の次元からなる)が基本的に重要な役割を果たしているが,これらはbimodulesの横によって 「フュージョン環」の構造をもつ.このフュージョン現は離散的な超群(hypergroup)の一種で, 離散群やコンパクト群の表現環を一般化したものである. N ⊂ Mから決まるフュージョン環の上 には自然にランダム・ウオークが定義できる.この論文の目的は,部分因子環Ⅳ⊂ 〟とそれに付 随するフュージョン最上のランダム・ウオークとの関係を確立することである. Popaが部分因子

環に対して定義したamenability, ergodicity, strong amenabilityの条件がフュージョン環上の

ランダム・ウオークの言葉で明解に記述される.例えば, amenabilityはFOlner型の条件で特徴 づけることができる.以前の論文

M. Chodaand F. Hiai, Entropy for canomiCalshifts・ II, Publ・ RIMS, Kyoto Univ・ 27

(1991), 46ト489,

F. Hiai, Entropyand growth for derived towers of sub factors, in Subfactors (Proc・ TaniDuChi Symposium 1993), H. Araki, Y・ Ka;wahigashi and H・ Kosaki (eds・), World

Scie血i丘C, 1994, pp. 206-232,

F. Hiai, Entropy for canonicalshifts and strong amenability, Intemat・ J・ Math・ 6

(1995), 381-396,

で考察したキヤノニカル・シフトのエントロピーを含む不等式がランダム・ウオークの観点から説 明される.さらに,ランダム・ウオークの手法を応用して,部分因子環に関する多くの新しい結果 を示すことができた.

(2)ランダム行列に対する大偏差原理と自由エントロピーの研究

8 0年代以降の作用素環には, D. Voiculescuが創始した自由確率論(free probability theory)

というもう一つの大きな潮流がある.この理論は作用素桑の自由横と密接に関連した新しい非可換 確率論であり,古典確率論の独立性の代わりに自由性の概念が特徴的である.標語的には 「自由確率論-非可換確率論+自由性」 である.この理論の急速な発展において,複素解析,ランダム行列,ポテンシャル論,組合せ論な どの他分野との関連が多く見出されている. ランダム行列に対する大偏差原理と自由エントロピーについて, D. Petz (ハンガリー)と共同 研究を行った.論文【51では1変量自由エントロピーのいろいろな制限条件の下での最大化問題を 考察し,論文【6, 7, 81ではランダム行列の模本固有値分布に対する大偏差原理を体系剛こ研究し た.かなり一般な形の自己共役,非自己共役,ユニタリのランダム行列を扱った・すべての場合で レイト関数はある自由エントロピー型汎関数のマイナス符号をとったものであり,棲限分布はその 自由エントロピー型汎関数の最大化によって決定される.また, Voiculescuが導入した多変皇自由 ェントロピーは,非可換確率変数として,自己共役,非自己共役,ユニタリの3種類のものが定義 6

(11)

できる.論文【11】では,これらの3種類の自由エントロピーの間の関係を確立し,自由エントロ

ピーの加法性や最大化問題に応用した.

この科学研究費の期間中に,自由確率論に関する専門書"The Semicircle Law, Flee Random

Variables and Entropy" (380ページ)をD・ Petzと共同執筆し, Amer・ Math・ Soc・のMath・

surveys and Monographsのシリーズから出版予定である(出版物川)・このプロジェクト推進

のため,日合はPaul Erd6s Visiting Professorship (ハンガリー数学会)を受けて,平成10年に

2ケ月間ハンガリーに滞在した. 論文【5】の概要:自由確率論に関するVoiculescuの一連の仕事のなかで, A (またはC)上の 確率測度〝に対する二重積分 ∑(〟) :-

log Ix - yl dp(X) dFL(y) がBoltzmann-Gibbsエントロピーの自由確率版として現れ「自由エントロピー」と呼ばれてい る. (これはしかし,ポテンシャル論で重要な「対数エネルギー」のマイナス符号をつけたものに 他ならない.)この論文では,確率測度がそれぞれR, R+, [-1,1】にサポートをもつ場合に,各 p > oに対して, p次モーメントの制限条件の下で自由エントロピーを最大化する問題を考察した・ Frostmanの古典的な方法を適用してMhaskar-Sa丘が証明した重みつき対数エネルギーの最小化 に関する定理を使うと,これらの間違を完全に解くことができる.自由エントロピーを最大にす る確率分布として,従来より知られていたUllman分布(特に半円分布)や自由Poisson分布 などが現れる. Ⅵ)ic山escuが導入した多変数の自由エントロピーの最大化も考えた.さらに, CおよびT上の確率測度についても,適当な制限条件の下で同様な問題を扱うと,自由エントロ ピー最大の確率分布として楕円分布(特に円分布)やGross-Wittenが量子ゲージ理論のモデルと して考察したT上の分布が現れる.

論文【61の概要: 「大偏差原理(large deviation principle)」は確率論の興味あるテーマで

ある. Ⅵ)ic山escuの自由確率論では,ランダム行列が自由確率変数の(漸近的)モデルとして重 要な役割を果たしているが,実はこのような事情の背景に強力な大偏差原理が成立している・ Ben Arous-Guiometは最近,自己共役なGaussian行列の模本固有償分布が自由エントロピー を主要項にもつレイト関数に従った大偏差原理を満たしており,その極限分布が半円分布であるこ とを示した.この事実は自由エントロピーの正当化にもなっている.この論文では,非常に一般な ランダム・ユニタリ行列の標本固有値分布についても同様な大偏差原理が成立することを証明した. 例として, T上のPoisson核の分布やGross-Wittenが考察した分布が極限分布として現れるも のを取り上げた. 論文【71の概要: Ⅵ)iculescuの自由確率論で特にランダム行列と関連する話題を概観した後・ 自己共役でないGsuSSian行列の標本固有値分布に対する大偏差原理を証明した.扱ったGaussian 行列は「楕円型」と呼ばれるもので,樋限分布は楕円分布(i.e.稽円上の一様分布)になる.この分 布はBen Arous-Guionnetが扱った半円分布の場合と完全な円分布になる場合を連続的に補間し ている.

(12)

論文【8】の概要: px n次のWishart行列は正規分布に従うn個のp次元確率変数の模本共 分散行列と見ることができ,多変量統計解析で重要である. Wishart行列の模本固有値分布がa.S. にMarchenko-Pastur分布に収束することはよく知られている.この極限分布が自由確率論で現 れる自由Poisson分布と一致することは興味ある事実である.この論文では, Wishart行列の標 本障有償分布がMarchenko-Pastur分布を極限分布にもつばかりでなく,さらに大偏差原理を満 た〔ていることを証明する・レイト関数は対数エネルギー(自由エントロピーのマイナス)である主 要項と積分で表される線形項との和で与えられる.最初に非特異Wishart行列の場合を示し,さら に特異な場合も扱った.特異Wishart行列の大偏差原理では,原子(atom)をもつ極限分布が現 れることが面白い.

論文[11]の概要: (Ju,T)をトレース的W*一確率空間, i・e・ JMはvonNeumann環,

TはJVt上の忠実正規なトレース状態とする. Juの自己共役元である非可換確率変数al,‥.,aN に対しVoicuoescuが導入した多変量自由エントロピーX(a1,... ,aN)札 自由群因子環の解析 などで非常に強力な道具となっている. 冗(al, … ,aN)の定義を修正して,非自己共役な確率変数 a1,...,aNに対する自由エントロピー文(al,‥.,aN)およびユニタリ確率変数ul,-,uNに対 する自由エントロピーxu(ul,…,uN)が定義できる・ユニタリの場合でも自己共役の場合と同様 に,加法性xu(ul,.・・,uN) -∑iXu(ui)がul,-,uNの自由性と同値であることが示される・

非可換確率変数の棲分解ai -uihiに関連して, 3つの自由エントロピーi,xu,Xの間の相互関 係が考察される.劣加法性 i(al,‥.,aN) ≦ xu(u1,...,uN)十X(hf,・-,h2N)十constant が一般に成立し,さらに(u1,...,uN,u;,・・・,輸), hl,-,hNが自由のとき,上で等号が成立 することが証明される.この結果は,かこ対するいくつかの最大化問題に応用できる・ 出版物【11の概要:自由確率論と呼ばれる新しいタイプの確率論が,近年D・ Ⅶicdescuを中 心として急速に発展している.自由確率論の骨格は,古典的な確率論のそれと非常な類似が見られ, 両者の間に完全な平行関係がある.しかし,各論の細部においては,両者の違いは大きく方法論も かなり異なる.従来からの非可換(量子)確率論は,古典確率論の非可換アナロジーで理論体系は同 じであり,可換系の場合には古典確率論に戻る.他方,自由確率論は古典論と本質的に異なる理論 体系をもち,非可換性が極めて高いという特徴があり,ランダム行列や作用索環の自由横と密接に 関係している. 本書では,自由確率論の初歩から応用までを,古典確率論との対比を重視して,分かりやすく解 説する.自由確率論では,確率論および関数解析(特に作用素論・作用素環論)からの方法の他に, 複素解析,組合せ論,エントロピー論などの多様な数学を用いるが,できる限り予備知識なしに理 解できるように配慮する.関数解析,確率論だけでなく,他の数学分野や統計物理・量子物理から の読者も想定している. 本書は全部でOverviewと7章に分かれる.最初のOverviewで全体的な概観を与える.以 下,各章の内容を簡単に要約する.第1章ではまず,正規分布, Poisson分布,半円分布などのよ 8

(13)

く知られた確率分布がHilbert空間上の作用素の分布として実現されることを示す.次に,非可換 確率空間を導入し,非可換確率変数のモーメント, (同時)分布などの基礎的事項を説明する・第2 章では,非可換確率変数に対する自由性の概念を導入する.これは,古典論における独立性の概念 に対応し,自由確率論において中心的な役割を果たす概念である.自由な非可換確率変数の列に 対し,自由中心権限定理を証明する.自由畳み込みとR一変換(またはR-級数)について説明し, モーメントとR一級数の係数であるキュムラントの間の組合せ論的な関係を非交叉分割を用いて

説明する.第3章では, Cauchy変換, Poisson積分, Hilbert変換などを簡単に解説した後,

Cauchy変換とR一級数との関係を説明し,さらに自由畳み込みの意味で無限分解可能な分布の特徴 づけを与える. Pick-Nevanlinna関数などの複素解析の手法が用いられる. 第4章以降が本書の主要部分となる. E. WignerがGauss型ランダム対称行列の固有値の模本 分布が,行列のサイズを無限にしたとき,半円分布に収束することを示して以来,確率論と(量子) 統計物理の分野で,ランダム行列の固有値分布の棲限について膨大な研究がなされてきた.しかし, Ⅵ)ic山escuが示した(Gauss型)ランダム行列の漸近的自由性は,ランダム行列の新しい側面を明 らかにした.第4章の前半では,各種のランダム行列の固有値分布とそれらの極限分布について詳 しく説明する.後半では,ランダム行列の漸近的自由性をまずランダム・ユニタリ行列の場合で証 明し,それからユニタリ不変分布をもつ(特にGauss型の)ランダム行列の場合に証明する・その 結果,ランダム行列が自由確率変数の漸近的モデルとして重要であることが示される・第5章では, ランダム行列の模本固有値分布に関連した大偏差原軌こついて説明する.大偏差原理は確率論の主要 テーマの1つであり多くの研究があるが,ランダム行列に関連したものは緒についたばかりである. 初めに大偏差原理とは何かを解説し,古典論のBoltzmann-Gibbsエントロピーについて大偏差原 理の立場から考察する.次いで,確率測度の空間上で定義され対数エネルギーと符号だけ異なる (1変皇)自由エントロピーを主要項にもつ各種の汎関数に対する最大化問題を考える・さらに, Gauss型ランダム行列,ユニタリ・ランダム行列, Wishartランダム行列などに関連した大偏差原 理を証明する.第6章では, Vbiculescuによって導入された非可換確率変数に対する(多変童)自由 エントロピーについて説明する.まず,自己共役な確率変数に対して自由エントロピーの定義を与え, その性質を調べる.最も重要な性質として,確率変数の組の自由性が自由エントロピーの加法性と同 値であるということがある.これの証明には,非可換変数の巾級数に対するカリキュラスや自由エ ントロピーの変数変換公式が必要である.さらに非自己共役な確率変数やユニタリ確率変数に対す る自由エントロピーも'*入し,異なるタイプの自由エントロピーの間の相互関係を明らかにする. 自由群から生成されるvon Neumann因子現の研究は,ランダム行列や自由エントロピーを用 いることによって,非常な発展を遂げた(しかし,作用素環における最大の未解決問題である自由群 因子環の同型問題は未だに未解決である).最後の第7章では,自由確率論の自由群因子環への応用 について,いくつかの話題を取り上げる. (3)作用素・行列のノルム不等式,トレース不等式の研究

(14)

Hilbert空間上の作用素(特に有限次元の行列)のノルム不等式やトレース不等式についても-連の研究を行った.論文【11では,作用素の指数関数に対するlog-majorizationとノルム不等式 を総合的に纏めた.安藤毅氏(北星学園大)との共同研究【3】で,行列(またトレース) H61der不 等式がどのような形で成立できるかを研究した.関連して, p> 1のとき(AP+BP)1/pのトレー スの同時凸性について考察した.安藤,大久保(北海道教育大)との共同研究【12】では, 2つの行 列の正数ベキの多重積に対するトレース不等式をlog一majorizationの方法を用いて考察した・ 幸崎秀樹氏(九大)との共同研究【9, 10】で,作用素のユニタリ不変ノルムに関して,算掛幾何 平均不等式を精密化したノルム不等式を与えた.さらに,算術平均,対数平均,幾何平均,調和平 均およびそれらを自然に補間する各種の平均を比較する多くのノルム不等式を導いた・ 論文【11の概要:この論文はHilbert空間上の作用素の指数関数に対するlog一majorization とノルム不等式を総合報告抑こ纏めたものであるが, Sec. 4, 5の大部分は新しい結果である・ see. 1ではマジョリゼ-ション理論を概観し,作用素の特異値に関するLidskii-Wielandtの定理 とGelfand-Naimarkの定理の補間法に基づく証明を与えた. See. 2ではマジョリゼ-ションの 手法を強調して対称ノルム空間の理論を纏めた. See. 3は論文

F. Hiai, nace norm convergence of exponentialprodut formula, Lett・ Math・ Phys・

33 (1995), 147-158,

と同じ内容であるが,テクニカルな部分をより詳しく書いた. See. 4の目的は,論文

T. Ando and F・ Hiai, Log maJOrizationand complementary Golden-Thompson type

inequalities, Linear AlPebru Appl・ 197/198 (1994), 113-131,

のlog-majori2;ationとそれに関連する結果を無限次元の作用素の場合に拡張することであ

る.そのため,作用素平均に対するnotter型の指数横公式を与え,それを用いて「逆向き」

Golden-Thompson型のノルム不等式を導いた・ Sec・ 5は他のいろいろなlog-majorizationの

結果と無限次元の行列式に関する不等式を含んでいる. 論文【3】の概要: 1 <p,q<∞, 1/p+1/q- 1のとき, H61der不等式の最も簡単な形は (lalp+lblp)1/p(Lclq十Idlq)1/q≧ lac+bdL (a,a,C,d∈C) と書ける.この論文では, H61der不等式が行列に対してどのような形で成立できるかを研究した・ 結果として, (半正定値)行列A,Bに対し(tAIp+ lBLp)1/pぁるいは(AP+BP)1/pを含む行列 不等式やトレース不等式,さらにある種のマジョリゼ-ションを得ることに成功した・また行列の H61der不等式が(p- q - 2の場合を除き)スカラーの場合と同じ形では成立できないことを 示す幾通りかの反例を与えた.関連した事柄として, (A,B) -Tt(AP十BP)1/pがA,B ≧0 の2変数について凸関数かという問題があるが, p> 2のときは否定的であることを示した・ 1 <p<2のときは未解決である・ 論文【9】の概要: Hilbert空間上の作用素H,K,Xに対し・ H,K >-0のとき,算術一幾何平 均に関するノルム不等式 日HixKil‖ ≦旧主(HX・XK)L= 10

(15)

が任意のユニタリ不変ノルム侶・ lllに対し成立することが知られている.この論文では,上のノル ム不等式を算術-対数-幾何平均を含む平均の系列にまで精密化した. H, K, XはHilbert空間上の 作用素でH,K≧0とし, ‖・日はユニタリ不変ノルムとするとき,任意の自然数m(≧1)と n(≧2)に対し

)..HBxK%.=鳥"EIH#xK#… ≦..・LIHtXKl-tdt・.I

・鳩HAxKB坤‖ ≦去・..HX・XK・ll

が成立することを示した.さらに忍‖∑T=lH嘉xK等半日はmについて単調増加であ。, iHl∑;=-olH去xK駕半日lはnについて単調減少である・ hl‖∑T=1H嘉xK駕辞= および訓∑冨=-.lH去xK等半日IのIllloIHtXKl一朝卜の収束についても吟味した・ 論文【10】の概要:前論文【9】でHilbert空間上の作用素に対していろいろな平均のノルム比較 を行ったが,この論文では行列の場合に制限して,平均のノルム比較をもっと体系的に研究した. 行列の平均を公理的に定義し, 2つの平均の間のノルム不等式がいくつかの比較条件と同値である ことを示した.証明には, Hadamard積に関するノルム不等式が重要な働きをする.この比較定理 を基に,算術-対数一幾何-調和平均を含むいくつかの自然な平均の系列について,ユニタリ不変ノル ムに対するノルム不等式をたくさん導いた. 論文【12】の概要: 2つの半正定値行列の正数ベキの多重積に対するトレース不等式を log-ma.jorizationの方法を用いて考察した・例えば, A,Bが半正定借行列でpi,qi >_ 0が pl+-+pK-ql+-+qK=1を満たすとき,トレース不等式

ITr(APIBqlAP2Bq2 ・ ・ ・ APKBqK)I ≦ n(AB)

がpi,qiに対する付加的な仮定の下で証明される・また, fi,giが非負単調関数のき,行列A,B の異なる固有値の個数が2または3であるという制限の下で, n(fl(A)91(B)f2(A)92(B))と

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研究論文と出版物の抜粋

以下は,各研究論文【1卜【12】のIntroduction部分と出版物【1】のPre払ceおよびOverview

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TOUR : Tohoku University Repository コメント・シート 本報告書収録の学術雑誌等発表論文は本ファイルに登録しておりません。なお、このうち東北大学 在籍の研究者の論文で、かつ、出版社等から著作権の許諾が得られた論文は、個別にTOUR に登録 しております。 TOUR http://ir.library.tohoku.ac.jp/

参照

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