山梨県下における小児悪性新生物の発症状況に関する疫学調査
犬 飼 岳 史,手 塚 徹,小 林 浩 司,杉 田 完 爾,
雨 宮 伸,中 澤 眞 平
山梨医科大学小児科 抄 録: 1989 年(平成元年)5 月から 1997 年(平成 9 年)12 月までの 8 年 8 ヶ月間に山梨県下で 提出された,のべ 1,938 件の小児慢性特定疾患公費負担申請書をもとに,山梨県下における小児悪 性新生物の疫学的検討を行なった。15 歳未満の新規悪性新生物症例は 166 例(男児 94 例,女児 72 例)で,この間の 15 歳未満 10 万人当たりの悪性新生物罹患率は,12.29 人/年であった。白血病及 び類縁疾患の罹患率が最も高く 4.76 人/年であり,以下,脳腫瘍が 2.30 人/年,神経芽細胞腫が 1.41 人/年,悪性リンパ腫が 1.11 人/年と,国内外の報告とほぼ同様の傾向であった。診断時年齢 別では,1 歳未満で神経芽細胞腫が最も多かった以外は,各年齢層で白血病が第 1 位であった。小 児慢性特定疾患公費負担申請書は,提出率がほぼ 100 %と推測され,疫学調査に有用であると考え られる。今回の検討で,疾患によっては罹患率に地域間格差が認められたことから,全国レベルで 同様の比較を行なうことで,環境要因の影響を検討しうることが示唆される。 キーワード 小児悪性新生物,疫学,環境要因,小児慢性特定疾患公費負担申請書 1.はじめに 小児がんの発生要因としては環境要因と宿主 要因が想定されているが,実際のがんの発生過 程では,この 2 つのさまざまな要因が相互に作 用しあっていると考えられる。近年の分子生物 学の急速な発展に伴い,数々のがん遺伝子やが ん抑制遺伝子が同定され,宿主要因の根幹をな す遺伝要因については理解が深まりつつある。 環境要因については,生活様式の変化に伴い, 電磁波などの物理学的要因,農薬などの化学的 要因,ウイルスなどの生物学的要因,両親の職 業などの社会的要因など多様な因子が関与して いる。近年,配偶子あるいは在胎中ないし授乳 期に,両親あるいは母体を通して受けるこれら の諸因子の小児がん発症に対する影響が注目さ れ,またこれら環境要因の悪化からその重要性 が増しつつあることが考えられる1)。 こうしたがんの発生要因を明らかにするうえ で疫学的調査は重要な情報を提供する。わが国 においても,数々の小児悪性新生物に関する疫 学的検討が行なわれており,特に 1969 年に開 始された小児がん全国登録は,1994 年までに 32,294 件が登録され2),わが国の小児がん発生 の概要を明らかにするうえで貢献してきた。し かし,登録率が十分でないことから,人口動態 にもとづいた検討が不可能であり疫学的検討に おいては問題点が多いのが現状である。 小児の悪性新生物の予後は治療の進歩に伴い 年々向上し,18 歳未満の悪性新生物患者では, 小児慢性特定疾患治療研究事業の一環として治 療費用の公費負担が行なわれている。公費負担 申請書は,診断時に各医療機関から保護者を通 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 1999 年 6 月 14 日 受理: 1999 年 7 月 26 日原 著
じて居住地の管轄保健所に提出され,各都道府 県・政令指定都市の協議会で審査を受け認可さ れる。申請書の提出はほぼ 100 %と推測され, 区域外の医療機関を受診した症例も全て含まれ ている。こうした状況から,小児悪性新生物の 発症状況をより正確に把握するために,小児慢 性特定疾患公費負担申請書の内容をデータベー ス化する試みが,厚生省の事業として平成 9 年 度より開始された。この事業の一環として,今 回我々は,山梨県下における小児慢性特定疾患 公費負担申請書を検討し,その疫学調査におけ る有用性と問題点を検討するとともに,山梨県 下の小児悪性新生物罹患率を算出し各地域にお ける罹患率を比較した。 2.対象ならびに方法 山梨県小児慢性特定疾患治療研究事業協議会 が発足した 1989 年(平成元年)5 月から 1997 年(平成 9 年)12 月までの 8 年 8 ヶ月間に,山 梨県下で提出された,のべ 1,938 件の小児慢性 特定疾患公費負担申請書を対象とした。申請書 の記載内容にもとづき,診断病名,診断区分 (悪性新生物,慢性腎疾患,ぜんそく,慢性心 疾患,内分泌疾患,膠原病,糖尿病,先天性代 謝異常,血友病等血液疾患,神経・筋疾患), 性別,居住地(市/郡),診断確定時年齢,診 断確定年月,申請年月について検討した。患者 のプライバシー保護に配慮し,患者氏名,生年 月日,申請者氏名,住所,受診医療機関など患 者の特定につながる項目は対象から除外した。 疫学的検討においては,従来の報告と比較する ために,診断時年齢が 15 歳未満の症例を対象 とした。疫学的検討のための人口動態は,1990 年(平成 2 年)10 月 1 日の国勢調査結果を用い た3)。平成元年の観察期間は 8 ヶ月であったが, 件数はそのまま実数で検討し,罹患率の算出に あたっては 8/12 年として検討した。地域間の 罹患率の比較については,Poisson 分布を用い て検定し,地域での各疾患間の罹患率の相関と, 地域ごとの諸統計データ3)と疾患罹患率の相 関もあわせて検定した。 3.結 果 Ⅰ 全申請における小児悪性新生物の割合 1,938 件のうち,悪性新生物の申請数はのべ 283 件であり,申請全体の 14.6 %であった。こ のうち,中断による再申請,医療機関の追加, 転入を除く新規総申請数は 1,411 例で,うち悪 性新生物は 190 例,13.5 %であった。 Ⅱ 診断時 15 歳未満新規申請例の疾患別罹患 率 悪性新生物の新規申請 190 例のうち,診断時 15 歳未満は 166 例で,新規総申請数の 87.3 % であった。そのうち,男児が 94 例(56.6 %), 女児が 72 例(43.4 %)であった。内訳は表 1 に示すように,白血病及び類縁疾患が 64 例 (38.6 %)と最も多く,このうち急性リンパ性 白血病(ALL)が 46 例,急性非リンパ性白血 病(ANLL)が 13 例,その他の白血病類縁疾 患 が 5 例 で あ っ た 。 続 い て 脳 腫 瘍 が 3 1 例 (18.7 %),神経芽細胞腫が 19 例(11.4 %),悪 性リンパ腫が 15 例(9.0 %),網膜芽細胞腫が 9 例(5.4 %)であった。この結果にもとづき, 1990 年(平成 2 年)の国勢調査結果から算出 した 15 歳未満人口 10 万人当たりの年間罹患率 は,悪性新生物全体で 12.29 人であった。主な 疾患の罹患率は,白血病が 4.76 人,脳腫瘍が 2.30 人,神経芽細胞腫が 1.41 人,悪性リンパ 腫が 1.11 人,網膜芽細胞腫が 0.67 人であった。 Ⅲ 主な疾患の年次別の種類と発症件数 図 1 上段に示すように,15 歳以上を含む悪 性新生物の総申請数(年平均 32.3 件)は増加 傾向を認めたが,新規申請数(年平均 21.7 件) と 15 歳未満の新規申請数(年平均 18.4 件)に は明らかな増加傾向は認められず,複数の医療 機関から申請が出される症例が増加していた。 診断時 15 歳未満の新規申請例の主な疾患別の 年次推移(図 1 下段)では,神経芽細胞腫が 1993 年までに 5 例,1994 年以降が 14 例と増加 傾向を認めた。ALL,ANLL と悪性リンパ腫は
図 1 悪性新生物申請件数の年次別推移 悪性新生物申請件数(折れ線グラフ;右側縦軸)と各疾患新規例数(棒グラフ; 左側縦軸)を年次別に示す。 表 1.疾患別頻度 疾患名 山梨県 全国登録 米国 NIH 集計 1989 ― 97 年 1992 年 1973 ― 87 年 全体 166(100 %) 1225(100 %) 9308(100 %) 白血病 64(38.6 %) 399(32.6 %) 2925(31.4 %) 急性リンパ性白血病 46(27.7 %) 279(22.8 %) 2194(23.6 %) 急性非リンパ性白血病 13(7.8 %) 85(6.9 %) 436(4.7 %) 悪性リンパ腫 15(9.0 %) 86(7.0 %) 1154(12.4 %) 脳腫瘍 31(18.7 %) 109(8.9 %) 1642(17.6 %) 神経芽細胞腫 19(11.4 %) 227(18.5 %) 735(7.9 %) 網膜芽細胞腫 9(5.4 %) 70(5.7 %) 269(2.9 %) ウイルムス腫瘍 4(2.4 %) 38(3.1 %) 582(6.3 %) 肝腫瘍 3(1.8 %) 40(3.3 %) 117(1.3 %) 骨腫瘍 4(2.4 %) 27(2.2 %) 467(5.0 %) 横紋筋肉腫 4(2.4 %) 21(1.7 %) 336(3.6 %) 卵巣・睾丸腫瘍 5(3.0 %) 56(4.6 %) 299(3.2 %) その他の腫瘍 8(4.8 %) 152(12.4 %) 782(8.4 %)
不変であったが,脳腫瘍は 1993 年までに 21 例, 1994 年以降が 10 例と減少傾向を認めた。 IV 診断時年齢別の疾患の種類 表 2 に示すように,診断時の年齢ごとの症例 数では,5 歳未満が 87 例と最も多く,特に 1 歳 未満が 34 例を占めた。一方,5 歳以上 10 歳未 満が 30 例と最も少なかった。疾患別でみると, 1 歳未満では神経芽細胞腫が 16 例と最も多く, この年齢層の 47.0 %を占めた。1 歳以上 5 歳未 満,5 歳以上 10 歳未満,10 歳以上 15 歳未満の 各年齢層では ALL が第 1 位で,それぞれ 17 例 (32.1 %),13 例(43.3 %),13 例(26.5 %)で あった。15 歳以上では ANLL が 8 例(33.3 %) と最も多かった。 V 地域別での罹患率 表 3 に示すように地理的・経済産業的要因か ら,中央部(甲府市,および中巨摩郡),中東 部(塩山市,山梨市,東山梨郡,および東八代 郡),北西部(韮崎市,および北巨摩郡),南部 (南巨摩郡,および西八代郡),東部(富士吉田 市,都留市,大月市,南都留郡,および北都留 郡)の 5 つの地域に分けて,15 歳未満人口 10 万人当たりの年間罹間率を比較した。悪性新生 物全体としては,各地域間の罹患率(10.56– 12.90)には明らかな差を認めなかった。主な 疾患別の罹間率では,悪性リンパ腫では地域間 格差が比較的少なく(0.88–1.87),脳腫瘍は中 東部でやや低い以外は地域間格差が比較的少な く(中東部; 0.88,その他の地域; 1.87–3.00), 神経芽細胞腫も南部で低い以外は地域間格差が 比較的少なかった(南部; 0,その他の地域; 0.78–1.94)。一方,白血病全体では地域間格差 が比較的少なかった(3.73–7.77)が,ALL の 頻度が比較的高い地域では ANLL の頻度が低 く(北西部; ALL/ANLL = 7.77/0,中央部; 3.54/0.71,中東部; 3.08/0.44),ALL の頻度が 比較的低い地域では ANLL の頻度が高い(南 部; ALL/ANLL = 2.80/0.93,東部; 1.87/ 2.18)傾向を認め,ALL では北西部の罹患率が, ANLL では東部の罹患率が,全県の罹患率に比 し有意に高かった。 VI 地域別での罹患率と諸統計データとの相関 地域別の疾患罹患率間の相関を検討したとこ ろ,神経芽細胞腫と悪性リンパ腫の地域別罹患 率に相関係数 0.938 ・危険率 1.5 %で逆相関を, 全悪性新生物と脳腫瘍の地域別罹患率に相関係 数 0.906 ・危険率 3.3 %で正の相関を認めた。 ALL と ANLL の地域別罹患率の間では,V で 述べた負の相関傾向(相関係数 0.756)をみた が,統計学的には有意な関係ではなかった(危 険率 16.2 %)。これら以外の地域別の疾患罹患 率間には,明らかな相関は認めなかった。 さらに,表 3 に示した各地域の諸統計データ と疾患罹患率との相関を検討し,表 4 に危険率 20 %以下の相関を認めた疾患と諸統計データ を示した。このうち,危険率 5 %以下の相関を, ALL ・白血病全体と田面積(正相関),ANLL と自動車保有台数(負相関),全悪性新生物と 出生数(正相関),白血病と人口増加数(正相 関)の間に認めた。 表 2.診断時年齢別の主な疾患 年齢 総数 1 位 2 位 3 位 0 ―01 歳 34 神経芽細胞腫 16 例 急性非リンパ性白血病 5 例 急性リンパ性白血病 3 例 網膜芽細胞腫 3 例 ウイルムス腫瘍 3 例 1 ―05 歳 53 急性リンパ性白血病 17 例 脳腫瘍 12 例 網膜芽細胞腫 6 例 5 ― 10 歳 30 急性リンパ性白血病 13 例 脳腫瘍07 例 悪性リンパ腫 3 例 10 ― 15 歳 49 急性リンパ性白血病 13 例 脳腫瘍 11 例 悪性リンパ腫 9 例 15 ― 18 歳 24 急性非リンパ性白血病 8 例 脳腫瘍05 例 急性リンパ性白血病 3 例 卵巣・睾丸腫瘍 3 例
4.考 察 小児がんの疫学調査は,これまでは死亡診断 書や小児がん全国登録票を用いた調査が主に試 みられてきた。しかし,治療成績の向上により 死亡診断書に基づく検討では実態の把握は困難 であり,また登録によるものでは登録率が低い と人口動態に基づいた検討が不可能であり,現 行の全国集計もこの点から問題がある。表 1 に 併記した 1992 年のわが国の小児がん全国登録 集計結果4)を,1973-1987 年の米国 NIH の集計 表 3.各地域の背景と主な疾患の罹患率 地域 人口 15 歳未満 面積 人口密度 人口増加数 出生数 耕地面積 果樹園面積 田面積 自動車保有台数 人口■■ (km2) (人/15 歳未満 (a/15 歳未満 (台/15 歳未満 人口 100 人当たり) 人口 1 人当たり) 人口 1 人当たり) (%) (%) (%)(15 歳未満) 全県 852966 155849 4465.4 191.0 1.5 5.7 17.3 7.3 5.7 3.60 (100 %)(100 %)(100 %)(34.9) 中央部 349257 65279 516.1 676.8 1.8 6.0 9.0 4.5 3.3 3.54 (40.9 %)(41.9 %)(11.6 %)(126.5) 中東部 147286 26236 790.3 186.4 1.8 5.2 33.9 28.1 1.7 4.06 (17.3 %)(16.8 %)(17.7 %)(33.2) 北西部 85474 14847 765.5 111.7 9.2 5.8 48.6 5.2 27.6 4.07 (100 %)(9.5 %) (17.1 %)(19.4) 南部 75485 12372 1149.4 65.7 − 4.7 4.9 21.2 2.7 4.9 3.85 (8.8 %)(7.9 %) (25.7 %)(10.8) 東部 195464 37115 1244.1 157.1 − 0.3 5.9 6.5 0.1 2.7 3.12 (22.9 %)(23.8 %)(27.9 %)(29.8) 地域 全悪性 主な疾患 新生物 白血病 ALL ANLL 悪性リンパ腫 神経芽細胞腫 脳腫瘍 (%) (%) (%) (%) (%) (%) (%) 全県■ 166[12.29] 64[4.76] 46[3.41] 13[0.96] 15[1.11] 19[1.41] 31[2.30] (100 %) (100 %) (100 %) (100 %) (100 %) (100 %) (100 %) 中央部 73[12.90] 26[4.60] 20[3.54] 4[0.71] 5[0.88] 11[1.94] 17[3.00] (44.0 %) (40.6 %) (43.5 %) (30.8 %) (33.3 %) (57.9 %) (54.8 %) 中東部 24[10.56] 9[3.96] 7[3.08] 1[0.44] 2[0.88] 3[1.32] 2[0.88] (14.5 %) (14.1 %) (15.2 %) (7.7 %) (13.3 %) (15.8 %) (6.5 %) 北西部 16[12.43] 10[7.77] 10*[7.77] 0[0] 2[1.55] 1[0.78] 3[2.33] (9.6 %) (15.6 %) (21.7 %) (0 %) (13.3 %) (5.3 %) (9.7 %) 南部■ 12[11.19] 4[3.73] 3[2.80] 1[0.93] 2[1.87] 0[0] 2[1.87] (7.2 %) (6.3 %) (6.5 %) (7.7 %) 13.3 % (0 %) (6.5 %) 東部■ 41[12.75] 15[4.66] 6[1.87] 7#[2.18] 4[1.24] 4[1.24] 7[2.18] (24.7 %) (23.4 %) (13.0 %) (53.8 %) (26.7 %) (21.1 %) (22.6 %) [ ]; 15 歳未満人口 10 万人あたりの年間罹患率 ALL ;急性リンパ性白血病,ANLL ;急性非リンパ性白血病 *; p =.01,#; p =.05(Poisson 分布) 表 4.各地域の疾患罹患率と環境要因の相関 疾患 環境要因 相関係数 危険率 ALL 田面積 .960 .006 白血病 田面積 .955 .008 ANLL 自動車保有台数 −.910 .031 全悪性新生物 出生数 .900 .037 白血病 人口増加数 .897 .040 ALL 人口増加数 .865 .063 ALL 耕地面積 .810 .111 神経芽細胞腫 小児人口密度 .807 .114 ANLL 耕地面積 −.803 .117 脳腫瘍 果樹園面積 −.788 .131 全悪性新生物 果樹園面積 −.744 .175 ALL ;急性リンパ性白血病, ANLL ;急性非リンパ性白血病
結果5)と比較すると,ほぼ同様の傾向であっ たが,わが国の小児がん全国登録集計では脳腫 瘍が少ない傾向にある。これに対して,今回の 我々の検討では,脳腫瘍の割合は小児がん全国 登録集計結果に比べて高く,米国 NIH の集計 結果とほぼ同様であった。小児がん全国登録集 計は,小児科・小児外科を中心に行われており, 脳外科を受診することの多い脳腫瘍の発症が過 小評価されていると推測され,この結果は小児 慢性特定疾患公費負担申請書に基づく疫学調査 の有用性を示唆すると考えられる。一方,今回 の検討では,15 歳未満の小児人口 10 万人当た りの白血病罹患率が 4.76 人であった。同時期 のがん登録にもとづいた白血病罹患率は,北海 道で 4.01 人(1989-1993 年)6),長崎県で 3.0 人 (1980-1992 年)7)と報告されている。さらに, 京都府内の医療機関で加療した京都府在住の患 者数,および九州地区内の医療機関で加療した 患者数にもとづいた罹患率は,それぞれ 3.70 人(1990-1994)8),3.66 人(1990-1994)9)であっ たと報告されており,今回得られた罹患率はこ れらの報告に比較するとやや高めであった。今 回は罹患率の算出にあたり,1989 年(平成元 年)から 1997 年(平成 9 年)までの観察期間 に対して 1990 年(平成 2 年)の人口動態を用 いたため,出生率低下による小児人口の減少傾 向を考慮すると,罹患率を過大評価している可 能性は低い。今回の検討では,患者プライバシ ー保護の一環として受診医療機関名は調査対象 から除いたために詳細は不明であるが,一部の 患者は周辺の都県で加療されていると推定され る。従来の報告では,調査対象区域外の医療機 関で加療された症例は検討から漏れた可能性が 高いのに対して,今回の検討では山梨県外の医 療機関を受診した山梨県下在住の症例も全て含 まれているために,より正確な罹患率が得られ, 結果的に比較的高い数字となったと考えられ る。 以上から,小児慢性特定疾患公費負担申請書 は登録漏れが少ないという点では,疫学調査に 最適であると考えられる。しかし,従来の申請 書を用いた本研究では,幾つかの問題点と限界 があった。まず,早期提出が必要であるため, 特に固形腫瘍では病理診断が確定されていない 例が多く,脳腫瘍や悪性リンパ腫においては, 約 3 分の 1 の症例で組織型の記載がなかった。 また転入に伴う受診医療機関の変更のための申 請を明記する欄がないため,記載がないものに ついては,新規発症例に集計されてしまう可能 性があった。しかしこれらの問題点の多くは, 申請書の改訂と更新時の追跡で克服できるもの であり,平成 10 年度に改訂された申請書には, 転入症例を明記する欄が設けられた。一方,今 回用いた小児慢性特定疾患公費負担申請書に は,患者と両親の生活歴や,近親者のがんの発 生状況などの家族歴に関する記載項目は一切含 まれていない。このため,宿主要因に関する情 報や,環境要因に関係する両親の職業や患児及 び両親の生活嗜好に関する情報は全く得られな い。これらの情報については,本申請書の性質 からも,また患者とその家族のプライバシー保 護の点からも申請書の記載事項に追加すること には問題が多く,改訂は事実上不可能であると 考えられる。 こうした限られた情報ではあるが,今回の検 討により,山梨県下における最近の小児悪性新 生物の発症状況の実態を明らかにすることがで きた。近年,環境要因の悪化が懸念されるが, 悪性新生物全体の発症に明らかな変化はなかっ た。そのなかで,神経芽細胞腫が増加傾向を認 めたが,全国集計でもマス・スクリーニングの 受診率の上昇に伴い増加傾向が報告されてい る10)。今回の検討においても,マス・スクリ ーニングによって発見された症例が 19 例中 16 例を占め,同様の影響が考えられる。一方,が んの発生要因となりうる環境因子のうち,自然 放射線,ウイルス感染11),農業で使用される 除草剤・駆虫剤・肥料,また大気汚染状況12) などの影響は,居住地域ごとの各疾患の罹患率 を比較検討することで,ある程度分析が可能で あると考えられる。今回の検討でも,地域別の 疾患罹患率に差が認められ,環境要因を反映す
ると考えられる諸統計データとの関連性を検討 したところ,表 4 に示したように,幾つかの疾 患で有意な相関が認められた。限られた地域と 症例数での検討結果から,これらの諸統計デー タに関わる環境要因と疾患発症の関連性を単純 に論ずることはできないが,小児慢性特定疾患 治療研究事業は日本全国で行なわれており,今 後各疾患の罹患率における地域間格差を全国各 地で比較検討することにより,居住地域におけ る環境要因の小児悪性新生物の発生への影響を 明らかにすることが可能であると考えられる。 なお本研究は,平成 9 年度厚生省心身障害研 究の小児慢性特定疾患等の疫学に関する研究 (柳沢班,研究協力者;中澤眞平),及び山梨県 小児慢性特定疾患治療研究事業協議会(雨宮 伸,田中 均,土橋静男,矢田昌三,久保雅子) における検討の一環として行なった。 文 献
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