椙山女学園大学
青年期から成人期にかけての発達障害とパーソナリ
ティ障害 : 重ね着症候群とアスペルガー障害
著者
宮川 充司
雑誌名
教育学部紀要
号
5
ページ
107-114
発行年
2012
URL
http://id.nii.ac.jp/1454/00001775/
椙 山 女 学 園 大 学 教 育 学 部 紀 要Journal of the School of Education, Sugiyama Jogakuen University, 5:107 −114(2012)
論 文(Article)
青 年 期 か ら 成 人 期 にか け て の 発 達 障 害 と
パ ーソ ナリ テ ィ 障害十 っ
\ .. エ
重 ね着症 候群と アスペルガ
ー障害-Developmental Disorders From Adolescence to Adult
Periods and Personality Disorders:
Layered Cloths Syndrome and Asperger's Disorder
宮 川 充司
Miyakawa, Juji* ニ 発 達 障害 どりわけ アスペルガ ー障害を巡る 最近の関心 事項であ=る非行とい った二次 障害と併 存症 の概念的区 別,重 ね着症候群 やパ ーソナ リテ ィ障害ど の重 複性につい て, 最 近の諸研 究 を概観し,今 後の アスペルガ ー障害 を巡 る研 究動向 を探 っ た。 キーワ ード:発達 障害, アスペ ルガ ー障害,重 ね着症候群, パこ ソナリ ティ障害 Key Words : Developmental Disorders, Asperger's Disorder, Comorbidity, Layered Cloths Syndrome, Personality DisordersI −
青 年 期以 降 の発 達 障害 と二 次 障害 ・併 存 症
青 年 期 か ら 成 人 期 に か け て の 発 達 障 害 が 、 研 究 者 あ る い は 社 会 の 関 心 を 集 め て い る 。こ の 問 題 に つ い て の 最 大 の 関 心 事 項 は 、 二 次 障 害 ・ 併 存 症 の 問 題 で あ る ( 杉 山 、2007, 2011a, 2011b ; 斉 藤. 2009; 宮 川, 2011a)。 発 達 障 害 と い っ て も 、上こ の 場 合 、 主 と し て 知 的 障 害 を 伴 わ な い ア ス ペ ル ガ ー 障 害 (Asperger ’s Disorder)・ 特 定 不 能 の そ の 他 の 広 汎 性 発 達 障 害 (Pervasive Developmenta トDisorder Not Otherwise Specified, PDDNOS )とい っ た 広 汎 性 発 達 障 害 、ADHD 犬(Attention-Deficit/ Hyperactive Disorder 注 意 欠 如 ・多 動 性 障 害 ) と い っ た 近 年 関 心 事 項 と な づ て い る 発 達 障 害 に 関 し て で あ る 。 二 次 障 害 と い う の は、 発 達 障 害 の 症 状 を 有 し て い る 子 ど も が 、家 族 や 周 囲 の 人 た ち あ る い は 社 会 か ら め 無 理 解 や 理 解 不 足 √不 適 切 な対 応 に よ り、 症 状 的 に がら に 悪 化 ノ・ 複 雑 化 し て い き 、 別 の 障 害 が 加 わって い く と い う 図 式 で 描 か れ る 問 題 で あ る 。 素 行 障 害 (Condud Disorder ) の 発 症 メ カ ニ ズ ム に 関 し て オ ーツ ド ッ タ ス な 図 式 で よ く 論 じ ら れ る、「ADHD → 反 抗 挑 戦 性 障 害 → 素 行 障 害 =非 行」 の 図式 等 が 、 そ の 二 次 障 害 の 典 型 的 な 図 式 の1 つ で あ ろ う 。 た だ し 、 杉 山犬(2007 ) や 星 野 (2010, 2011 )づが 論 じ て い る よ う に、ADHD → 反 抗 挑 戦 性 障 害 ま で の 二 次 障 害 は 生 じ や す い も の で は あ る が 、 そ の 先 の 素 行 障 害 に 至 る に は そ う 直 線 的 に 移 行 し て い く わけ で は な く 、 子 ど も 虐 待 等 の 要 因 が 加 重 さ れ た 場 合 が 多 い と推 定 され て い る。 107宮 川充司/青年 期から成人期に かけての発達障害 とパーソナリ ティ障害:重 ね着症候群とアスベルガ ー障害 108 ま た、 素 行 障 害 の 場 合 、 先 行 条 件 と し てADHD → 反 抗 挑 戦 性 障 害 と は 限 ら な い 。 ADHD に 限 ら ず 広 汎 性 発 達 障 害 と い っ た 他 の発 達 障 害 が 背 景 に 疑 わ れ る 素 行 障 害 の 事 例 も 推 定 で き る か ら で あ る 。 藤 川 (2010 ) は 、 家 庭 裁 判 所 の 調 査 官 が 面 接 し た14 歳 以 上20 歳 未 満 の 男 女862 名 の 非 行 少 年 につ い て 独 自 に 作 成 し た 発 達 障 害 を 鑑 別 す る ス ク ー リ ー ニ ング カ ード に よ る 調 査 デ ー タ を 分 析 し て い る 。 そ の 結 果 、 非 行 少 年 の う ち 、 発 達 障 害 の 疑 わ れ る も の は 広 汎 性 発 達 障 害24 名(2.8% )、ADHD49 名 (5.7% )、 知 的 障 害19 名 (2.2% ) で あ っ た と 報 告 し てい る 。 家 庭 裁 判 所 で 扱 わ れ る 非 行 少 年 が、 直 ち に 素 行 障 害 とい え る 訳 で は ない 。 小 栗 (2010 ) は 、 少 年 鑑 別 所 に 収 容 さ れて い る 非 行 少 年 の 発 達 障 害 に つ い て の 調 査 研 究 ( 近 藤 ・ 渕 上, 2005;渕 上 ・ 近 藤. 2005 ) を 紹 介 し 、 自 閉 症 ス ペ ルト ル 指 数 日 本 語 版 の 得 点 に よ り ア ス ペ ル ガ ー 障 害 が 疑 わ れ る 者 が3.1 % 、 作 成 し たADHD ス ク リ ー ニ ン グ 尺 度 の 得 点 に よ りADHD が 疑 わ れる 者 が12.4% だ っ た と い う 結 果 に ふ れレて い る 。 家 庭 裁 判 所 が 受 理 し た 少 年 事 件 のう ち 、 少 年 鑑 別 所 へ の 観 護 措 置 が と ら れ る の は 全 体 の 約9% 相 当 で、 非 行 の 内 容 が よ り 悪 質 で あ る か 、 非 行 が あ る 程 度 進 行 し た 事 例 が 多 い こ と を 考 え る と、ADHD だ け で な く 広 汎 性 発 達 障 害 と い っ た 発 達 障 害 を も つ 少 年 の 二 次 障 害 とし て 、 非 行 に 至 っ てい る 事 例 が 多 い の で は な い か とい う 。 た だ し 、 い ず れの 研 究 に お い て も非 行 少 年 につ い て の 発 達 障 害 の 鑑 別 は 、 医 師 に よ る 正 確 な 診 断 が な さ れ て い る わ け で は ない し 、 ま た 非 行 が 即 素 行 障 害 と 診 断 で きる わ け で は な い 。 し か し 、 少 年 鑑 別 所 や 非 行 少 年 に収 容 さ れる 少 年 の 非 行 内 容 が 重 篤 で る こ と を 考 え る と、 そ うし た 非 行 少 年 に か な り の 割 合 で 素 行 障 害 といっ た 障 害 の 診 断 が 成 立 す る の で は な い か と い う こ と は 十 分 推 測 で き る と こ ろ で あ る。 少 年 に よ る 殺 人 事 件 で 、 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 あ る い は ア ス ペ ル ガ ー 障 害 が 、 基 盤 と な る 発 達 障 害 と し て 診 断 さ れ た 事 例 とし て 、1997 年 に 神 戸 で 発 生 し た 児 童 連 続 殺 傷 事 件 の14 歳 の 加 害 者 の 男 子 中 学 生 、2000 年 に 豊 川 で 発 生 し た[ 人 を 殺 し て み た か っ た ] とい う 不 可 解 な 動 機 に よ る 殺 傷 事 件 の加 害 者 の 男 子 高 校 生 の 事 例 な どが そ れ ら に あ た る事 例 で あ る ( 杉 山 、2007)。 ち な み に 、 日 本 の 非 行 少 年 を 巡 る 鑑 別 で 、 素 行 障 害 ( 当 時 は 行 為 障 害 の 訳 が 定 訳 ) の 適 用 第1 号 と もい わ れ る の が 、 神 戸 の 児 童 連 続 殺 傷 事 件 の 加 害 少 年 で あ っ た。 こ う 七 た 事 例 の 図 式 は 、 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 / ア ス ベ ル ガ ー 障 害 → 素 行 障 害 の よ う な 図 式 と な り 、 反 抗 挑 戦 性 障 害 の 中 間的 な 二 次 障 害 が 前 段 階 に 過 渡 的 に 生 じ て い た か ど う か確 認 で きな い が、 神 戸 児 童 連 続 殺 傷 事 件 の加 害 少 年 の 事 例 の よ う に、 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 に 子 ど も 虐 待 の 要 因 が 加 重 さ れ て い た 素 行 障 害 の 事 例 と 位 置 づ け る こ と が で き る だ ろ う 。 そ の 他 、 発 達 障 害 の 二 次 障 害 と し て、 不 登 校 と と もに 引 き こ もり の事 例 の 中 に、 高 い 割 合 で 発 達 障 害 の 事 例 が 含 ま れて い る と い う こ と が 指 摘 さ れ る よ 引 こな っ て き て い る 。 こ の 引 き こ も り と 発 達 障 害 と の 関 連 性 につ い て 、 小 宮 山 ・ 近 藤 (2009 ) は、 診 断 が 確 定 し た125 事 例 の引 きご も り 事 例 を、治 療・援 助 方 針 を 中 心 に3 つ の群 に 分 類 し た。 第 一 群 統 合 失 調 症 ・気 分 障 害 ・ 不 安 障 害 な ど の 精 神 疾 患 (31 %)、 第 二 群 広 汎 性 発 達
椙 山 女 学 園 大 学 教育 学 部 紀 要 Vol. 5 2012 年 障 害 や 知 的 障 害 な ど の 発 達 障 害 (33 % )、 第 三 群 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 ・ 適 応 障 害 ・ 身 体 表 現 性 障 害 等 の 障 害(36 % )で あ っ た。こ の う ち 第 二 群 に 分 類 さ れ た41 件 の 事 例 に は、 軽 度 の 精 神 発 達 遅 滞 ( 知 的 障 害 )12 件 、 自 閉 性 障 害11 件 、 ア ス ペ ル ガ ー 障 害10 件 、 特 定 不 能 の広 汎 性 発 達 障 害4 件 、 中 程 度 の 精 神 発 達 遅 滞2 件 、ADHD2 件 、 算 数 障 害1 件 、 下 位 分 類 の 記 載 が ない 広 汎 性 発 達 障 害 が1 件 と、 引 きこ も り の 中 に 発 達 障 害 の 青 年 が多 い こ と が示 さ れ て い る 。 次 に 、併 存 症 は 、診 断 上 の11 つ 疾 患 に め 場 合 特 定 の 発 達 障 害 )に 、他 の 合 併 症 状 に の 場 合 他 の 精 神 疾 患 や 発 達 障 害 ) を 示 す 疾 患 が 併 存 し て い る こ と を さ す。1 つ の発 達 障 害 の 診 断 を もっ た 子 ど も あ るい は 成 人 が 、 別 の発 達 障 害 の 診 断 を もつ 場 合 (子 ど も の 広 汎 性 発 達 障 害 と学 習 障 害 等 )、あ る い は 別 の 精 神 疾 患 の 発 症 が 認 め ら れ る 場 合 ( 成 人 のADHD と 気 分 障 害 等 ) が そ れ に 該 当 す る 。 た だ し 、 実 際 に は 併 存 症 と二 次 障 害 と の 区 別 が 難 し い 、 あ る い は厳 密 に は 区 別 で き ない も の も少 な く な い ノ 杉 山 (2007, 2011a ) は 、 子 ど も 虐 待 ( 子 ど も 被 虐 待 症 候 群 に 同 じ ) に よ る 後 遺 症 を 新 た な 発 達 と し て 位 置 づ け 、 第 一 グ ル ー プ 精 神 遅 滞 ( 知 的 障 害 )、 第 二 グ ル ー プ 広 汎 性 発 達 障 害 ( 自 閉 症 ス ペ ク ト ラ ム 障 害Autism Spectrum Disorder )、 第 三 グ ル ー プADHD ・ LD ( 学 習 障 害Learning Disorders )・DCD ( 発 達 性 協 調 運 動 障 害 Developmental Coordination Disorder ) に、第 四 グ ル ープ と し て 子 ど も 虐 待 を 加 え て 、 幼 児 期 ・ 児 童 期 ・ 青 年 期 の 臨 床 的 特 徴 を 記 述 す る と と も に 、 併 存 症 に つ い て の 整 理 を 行 っ てい る 。 第一 グ ル ープ の場 合 、知 能 検 査 でIQ70 未 満 の 精 神 遅 滞 と70 以 上85 未 満 の 境 界 知 能 に 分 け ら れ、 前 者 の 場 合 幼 児 期 に 言 葉 等 の全 般 的 な 遅 れ が 見 ら れ、 児 童 期 に は 学 習 困 難 、 青 年 期 に 特 別 支 援 教 育 を 受 け て い ない 場 合 学 校 不 適 応 や 被 害 念 慮 、 う つ 病 な ど が 併 発 し て い く。 後 者 の 場 合 、 児 童 期 に 学 業 不 振 、 青年 期 に は不 登 校 の か た ち を と る 場 合 も多 い こ と、 併 存 症 と し て 自 閉 症 ス ペ ク ト ラ ム 障 害 ) 等 の 発 達 障 害 が 認 め ら れ る こ と が 多 い と し て い る 。 第 二 グ ル ー プ は 、 知 的 障 害 を 伴 う も の と 伴 わ な い も の が あ り、 前 者 は幼 児 期 に言 葉 の 後 れ 、 視 線 が 合 わ ない 等 の 症 状 が 示 さ れ、 児 童 期 に は さ ま ざ ま な こ だ わ り 行 動 が 生 じ 、 特 別 支 援 教 育 以 外 で は 教 育 困 難 と な る が 親 子 の愛 着 関 係 は 進 む 。 青 年 期 に な る と 適 応 的 な 者 は きち ん と し た 枠 組 み の 中 な ら安 定 す る が 、 激 し い パ ニ`ツ ク を 生 ず る場 合 が あ り 、づ多 動 性 行 動 障 害 ・ 気 分 障 害 ・ て ん か ん な ど の 併 存 症 が 生 じ や す い 。 知 的 障 害 を 伴 わ な い 後 者 は 、 幼 児 期 で は 親 子 の 愛 着 行 動 の 遅 れ や 集 団 行 動 が 苦 手 、 児 童 期 で は 社 会 的 状 況 の 読 み 取 り 困 難 ・集 団 行 動 の 著 し い 困 難 ・ 友 人 を作 り に くい ・フ ァ ン タ ジ ー の 没 頭 等 、 青 年 期 に至 る と 孤 立 傾 向・限 定 さ れ た 趣 味 へ の 没 頭 、 得 手 不 得 手 の 著 し い 格 差 が 出 て く る 。 併 存 症 とし てLD ・ DCD ・ ADHD 等 の発 達 障 害 、 気 分 障 害 等 多 彩 な 症 状 が 併 存 し て く る と し て い る 。 第 三 グ ル ー プ 、ADHD で は 幼 児 期 に多 動 傾 向 や 若 干 の 言 葉 の 後 れ、 児 童 期 に は 着 席 困 難 ・ 衝 動 的 行 動 ・ 学 習 の 遅 れ ・ 忘 れ物 等 の 不 注 意 行 動 、 青 年 期 に な る と不 注 意 ・抑 う つ ・ 自信 の 欠 如 ・ 時 に非 行 等 の 症 状 、 併 存 症 とし て 反 抗 挑 戦 性 障 害 ・抑 う つ ・ 非 行 ( 素 行 障 害 ) が 見 ら れ る。 LD の
宮川充 司 /青年期から成 人期にかけ ての発 達障害とパ ーソ ナリ ティ障害:重 ね着症 候群とアスペ ルガ ー障害 場 合 、 幼 児 期 で は 若 干 の 言 葉 の 遅 れ を 呈 し 、 児 童 期 に は 学 習 で の苦 手 が 目 立 ち、 純 粋 なLD の 場 合 青 年 期 で は ハ ン デ ィ を 持 ち つ つ 社 会 的 な 適 応 は 良 好 な者 が多 い 。 併 存 症 と し て は 、 他 の 発 達 障 害 と の 併 存 が 多 い 。 DCD の 場 合 、 幼 児 期 は 不 器 用 、 小 学 校 高 学 年 に は 生 活 の 支 障 と な る よ う な 不 器 用 さ は改 善 し 、 青 年 期 に至 る と 不 器 用 で は あ る が そ れ な り に 適 応 し て い く が・、た だ し 他 の発 達 障 害 が 併 存 症 でこ と が多 い とし て い る 。 第 四 グ ル ー プ の 子 ど も虐 待 の 場 合 、 幼 児 期 に は 愛 着 の 未 形 成 ・ 発 育 不 良 ・ 多 動 傾 向 か あ り 、 児 童 期 に は多 動 性 の行 動 障 害 と と も に徐 々 に 解 離 症 状 が 発 現 し 、 青 年 期 に な る と 解 離 性 障 害 お よ び 非 行 ・ う つ 病 、 最 終 的 に は 複 雑 性PTSD へ 移 行 し て い き、 併 存 症 は 反 応 性 愛 着 障 害 と 解 離 性 障 害 、 特 に 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 は 虐 待 に対 し て 高 リ ス ク で あ る とし て 記 述 し てい る 。 杉 山 (2007, 2011a) に よ る 発 達 的 な 症 状 の変 化 や 併 存 症 の 記 述 は、 注 目 を 集 め て き た も の で あ る が 、 と り わ け 発 達 障 害 の 二 次 障 害 と 併 存 症 と の 鑑 別 が 青 年 期 に 至 る と 複 雑 化 し な お 鑑 別 困 難 と な っ て き て い る 。 発 達 障 害 の 二 次 障 害 と 併 存 症 を 巡 る 近 年 の 議 論 は、 主 とし て 幼 児 期 ・ 児 童 期 あ る い は 少 な く と も 青 年 期 前 期 頃 まで に 発 達 障 害 の 診 断 ・ 治 療 を受 け た 子 ど も 達 の 事 例 につ い て の 議 論 で あ る 。 治 療 的 観 点 か ら よ り 深 刻 な の が、 発 達 障 害 が あ り な が ら子 ど も の 時 に そ のこ と が 見 逃 さ れ、 子 ど も の 時 に 適 切 な 治 療 ・ 教 育 を受 け る こ と な く成 人 と な り、 職 業 や犯 罪 行 為 あ る い は 様 々 な 社 会 的 ト ラ ブ ルを 引 き 起 こ し て い く 事 例 につ い て で あ る 。
12
。 青年 期以 降() 発 裸障 声ど
+y ナリt イ障害=重 ね 着症 候群 を巡 る
青 年 期 以 降 、 特 に 成 人 期 の 発 達 障 害 を 巡 る も う1 つ の 最 近 の 関 心 事 項 は 、 発 達 障 害 と パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と の 重 複 性 に つ い て の 議 論 で あ る 。 こ の 問 題 で 、 近 年 大 き な 関 心 を 集 め て い る の が 、 衣 笠 ・池 田 ・ 瀬 木 田 ・谷 川 ・菅 川 (2007 ) や 衣 笠 (2008 ) の 「 重 ね 着 症 候 群 土 の 概 念 で あ る 。 は じ め ス キ ゾ イ ド パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と い っ た 疑 い で 診 断 治 療 を 開 始 し 、 診 断 を 突 き 詰 め て い く と そ の 背 後 に 、 ア ス ペ ル カy 障 害 の 所 在 を 診 断 す る に 至 っ た 事 例 に 、 衣 笠 ほ か (2007 ) や 衣 笠 (2008 ) は 「 重 ね 着 症 候 群 」 と い う 診 断 名 称 を 与 え て い る 。 \ 衣 笠 ほ か (2007 ) は 、重 ね 着 症 候 群 の 臨 床 像 を 、「18 歳 以 上 ( 広 義 に は16 歳 以 上 ) で 、 知 的 障 害 が な く (IQS5 以 上 )、初 診 時 の 主 訴 は 多 彩 で ( 統 合 失 調 症 ・噪 う つ 病 ・う つ 病 ・ 摂 食 障 害 ・ 性 倒 錯 ・ 対 人 恐 怖 症 ・ 醜 形 恐 怖 ・ 強 迫 ・ 境 界 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 ・ ス キ ゾ イ ド パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 ・ 自 己 愛 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 な ど )、 背 後 に 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 が 潜 伏 し 、 高 知 能 の た め に 課 題 達 成 能 力 が 高 く 就 学 時 に 発 達 障 害 が 疑 わ れ て い な い 、 一 部 に 児 童 期 ・ 思 春 期 に 不 登 校 や 神 経 症 な ど の 既 往 が あ る が 発 達 障 害 を 疑 わ れ た こ と が な い 」 と し て い る ○ ・ 。 犬特 に 子 ど も の 時 に 発 達 障 害 が 見 逃 さ れ 、 未 診 断 ・ 未 治 療 の ま ま 成 人 に な り 、 職 場 で さ ま ざ ま な ト ラ ブ ル ・ メ ー カ と な り 、 周 囲 を 困 ら せ て い る と い っ た 人 が 、 成 人 の 精 神 110椙山女学 園大学教育学部紀要 Vol. 5 2012 年 科 医 を 受 診 す る と、 こ う し た 重 ね着 症 候 群 の 適 用 事 例 と な る 可 能 性 が 高 い 。 た だし 、 こ れ ら は 成 人 の発 達 障 害 の 事 例 で あ る 。 ヶ 川 畑 (2007 ) も 、 ア ス ペ ル ガ ー 障 害 と ス キゾ イ ド パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 と の 診 断 の 重 複 し た 事 例 を 分 析 し 、 ス キゾ イ ド パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は、 ① 自 閉 症 や ア ス ペ ル ガ ー 障 害 の 連 続 線 上 にあ る と い う 説、 ② 自 閉 症 の マ イ ル ド フ ォ ー ム で あ る とい う 説 、 ③ ア ス ペ ル ガ ー 障 害 が そ の 危 険 因 子 と な っ てい る とい っ た 説 が あ る こ と を 論 じ て い る。 先 に 論 じ た 、 神 戸 で 発 生 し た お よそ 少 年 犯 罪 の 前 例 を大 き く 超 え た 奇 異 で 残 虐 な 犯 行 内 容 に よ る 児 童 連 続 殺 傷 事 件 の 加 害 少 年 に つ い て 、 当 時14 歳 の 中 学 生 で あ っ た に も か か わ ら ず 、 精 神 鑑 定 が な さ れ そ の 結 果 が 「 反 社 会 性 人 格 障 害 」( 現 在 は 反 社 会 性 パ ー ソ ナリ テ 子障 害 が 定 訳 ) で 医 療 少 年 院 送 致 と い う 一 部 の新 聞 報 道 で な さ れ た が こ れ は 誤 報 だ っ た よ う で 、 実 際 の 審 判 の 際 の 鑑 定 書 に は 、 動 物 の 嗜 虐 性 に 始 まる サ デ ィ ズ ム と 虐 待 に よ っ て 生 じ た 解 離 症 状 が 記 述 さ れ て い た (「 少 年A 」 の 父 母 、1999)。 後 に 医 療 少 年 院 に 収 容 後 、 そ れ ら の 非 行 の 背 景 に 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 の 診 断 が 加 わ り 診 断 内 容 が 修 正 さ れ た と い う (杉 山 、2007)。 こ の 反 社 会 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ・障 害 は、 冷 酷 な 連 続 殺 人 事 件 の 加 害 者 な ど の 凶悪 犯 罪 者 の 精 神 鑑 定 等 に 適 用 さ れる べ き 診 断 概 念 で あ る。 た だ し 、 一 時 期 社 会 問 題 と な っ た 高 額 な 保 険 期 が ら み の 殺 人 事 件 、 ト リ カ ブ 手 殺 人 事 件 の 加 害 者 や 和 歌 山 カ レ ー毒 事 件 の 加 害 者 に 精 神 鑑 定 で 適 用 さ れ た 診 断 名 は 、寸 自 己 愛 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 で あ っ た 。 管 見 で は 果 た し て 「 自 己 愛 性 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 」 だけ で 冷 徹 な殺 人 事 件 に 結 び つ く か ど う か は か な り の 疑 問 が あ る 。 こ う し た 残 虐 で 対 人 的 共 感 性 と良 心 の 欠 如 を 特 徴 とし た 凶 悪 犯 罪 の場 合 、 診 断 的 に は 自 己 愛 性 パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 と 反 社 会 性 パ ユ ソ ナ リ テ ィ 障 害 と の 複合 的 な パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 と 診 断 上 は考 え る と 合 理 性 が 高 い 。 た だ し 、 成 人 に よる 異常 な 殺 人 事 件 で 行 わ れ る 精 神 鑑 定 の 焦 点 は 「 心 身 喪 失 ま た は 耗 弱 状 態 」 の 判 例 上 の 根 拠 と な る 統 合 失 調 症 か 否 か が 争 点 に なっ て お り 、 複合 的 な パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 か 単 一 の パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 か とい っ た 議 論 は判 決 上 の 関 心 事 項 と は な っ て い な い た め に 、 正 確 な 診 断 が 確 定 し て い な い と い う 事 情 で も あ る 。 こ こ で 複合 的 な パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 の 診 断 とい っ た わ か り に くい 診 断 概 念 を 持 ち 出 し た の は、 正 常 と はい え ない が 狭 義 の 精 神 病 と も い え ない 、 い わ ゆ る グ レ ーゾ ー ン の成 人 の 事 例 を 診 断 的 に 突 き 詰 め て い く 過 程 で 、 複 数 の パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 の 診 断 的 可 能 性 が 浮 上 し て く る ケ ー ス は 珍 し く ない 。 本 当 に 異 常 な パ ー ソ ナリ テ ィ 像 は、 む し ろ 単 一 な パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 よ り 、 複 合 的 な パ ー ソナ リ テ ィ 障 害 の ケ ー ス の方 で あ る (宮 川, 2011b )。 さ ら に そ の 背 景 に ア ス ペ ルガ ー 障 害、ADHD や 子 ど も 虐 待 と い っ た 発 達 障 害 、 非 行 や 素 行 障 害 と い っ た 二 次 障 害 め 問 題 を 検 討 す べ き で あ ろ う 。 ト 町 沢 (2003 ) は、DSM-IV の パ ー ソ ナ リ ティ 障 害 概 念 は、 実 際 に は 各 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 相 互 に 完 全 独 立 で は な く 、 オ ー バ ー ラ ッ プ が あ る。 妄 想 性 パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 が 一 番 オ ー ラ ッ プ し や す い の が 統 合 失 調 型 パ ー ソ ナ リ ティ 障 害 、 ス キ ゾ イド パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 が 一 番 オ ー バ ー ラ ッ プ し や す い の は 統 合 失 調 型 パ ー ソ ナリ テ ィ 障 害 、 反
宮川充司 /青年期から成人期 にかけて の発達 障害とパーソナリティ障 害:重ね着症候群と アスペ ルガー障害 112 社 会性パ ーソ ナリ ティ障害が 自己愛パ ーソナリ ティ障害であ る。境 界性パーソ ナリ テ ィ障害 はい ろいろ なパ ーソ ナリ ティ 障害と オーバ ーラップ が多 く、 なかで も演技性 パ ヴ ソナリ ティ障害、 次いで依存 性パ ーソナリテ ィ障害、続い て妄想性 パーソナリ ティ 障害と のオーバ ーラップが多い といっ たデ ータを論じてい るが、上 記の複合的パ ーソ ナリ ティ 障害の問 題は、こうし た問題 である。 十 一方で、発達 障害 とパーソナリ ティ障害 との関連性 について 関心が寄せら れる一方、 こ う七 だ 傾向に批判 的な臨床医 の見解 もあ る。 十一 (2011) は、 アスペ ルガー障害 とパ ーソ ナリ ティ障 害との鑑 別を問題として取 り上 げ、特 に鑑別 が問題 となるのは、 スキゾイド パーソ ナリ ティ障害 と境 界性パ ーソ ナリ ティ 障害とし て、その鑑 別の観点 を詳しく論じ ている。 スキゾ イド パーソナリ テ ィ 障害は、 感情面 の固さ、疎 通性の とりにくさや コミュニ ケーショ ン量 の少なさ、所 作 ・言語 の非 流暢性 など不自然 さが指摘 さ れ、社 会的立場や面 子な どの感覚が保持 さ れてい る が、 広汎性 発達障害 は関心領域 について は一方的であ りな がら多 弁となるこ とを考え ると、鑑別 はさほ ど困難では ない 。むしろ、 鑑別が 問題 となるのは、境界性 パ ーソ ナリ ティ障害 である とし ている。 関係者 を混乱に巻 き込む行動 (クレ ーマ ーを 含 む)や 自傷行為が見 ら れる場合 、支援 機関ショ ッピ ング ・治療者や支援 者に対す る 攻撃、 相 乎の個人情 報を探し 出すといっ た「操作性 」を初 めとした境 界性 パーソ ナリ テ ィ障害 の特 徴は、 他者と も目線が合い、 奇妙 な仕 草 もな く、 挨拶や コミュニケ ーシ ョ ンも一応 で きる ので発達障 害がある とは見え にくい広汎性発 達障害 であ るとしてい る。 こうし た広汎性発 達障害 の人が、社 会的知識 を活用し理 詰めで要求をし、 相手 の 不備 を細 か く指摘し たり、 ことあ るご とに文 書を送 りつけ る等 の行動 を示 した場合 、 境界性 パ ーソナリ ティ障害の人 の操作的・攻撃 的行動 と見 えやす く鑑別が困難であ る。 要 は、 対人的 相互性 の困難 により、他者 ・社会が はっ きり理 解で きない のが広汎性発 達 障害で、対 人的相 互性があ る故に自己 の病理 を他者との 関わりの中 で解消 し よう ど 行動化 してい るのが 境界性パ ーソナリ ティ障害であ るとしてい る。 アスペ ルガー障害 への社会的 な理解が広 まってい る今 日の社会情勢 を反 映して、 も う1 つ の興 味深い最 近の事例「 自称アス ペルガ ー障害」の事 例を、金井・加藤 (2011) が紹介 してい る。空気 が読め ない、 他人 とのコミュ ニケ ーションが苦手 とい った症状 か ら、 自分 をアスペ ルガー障害 ではない かと訴え て精神科 の外 来を訪 れる事例が増 え てい るが、こ れら の中には アスペルガ ー障害で はなく、境界 性パ ーソ ナリ ティ障害 と いっ たパ ーソ ナリ ティ障害の診 断が成立 する例 が含 ま れてい るとい うこ とである。
な お、American Psychiatric Associationのweb サ イ丿 は、2013 年 に 改 訂 を 予 定 し て い るDSM-V の 進 行 状 況 を 漸 次 公 開 し て い る。。 そ れ に よ る と、 発 達 障 害 Developmental Disordersは、神 経発達 障害Neurodevelopmental Disordersとい う名 称 に変 わり、広 汎性 発達 障害Pervasive Developmental Disordersとい う名称 が自 閉 症 スペクト ラム障害Autism Spectrum Disorders という名称 に変 わるとと もに、そ の 中 の自閉性 障害・小児 期崩壊性 障害・レ ッド障害 ・アスペ ルガ ー障 害・その他の特定
椙 山 女 学 園 大 学 教 育 学 部 紀 要 Vol. 5 2012 年
不 能 の 広 汎 性 発 達 障 害 と い っ た 下 位 区 分 名 称 が な く な り、 障 害 の 重 篤 度 に よ りレ ベ ル 1 ∼3 と い っ た 連 続 体 的 表 記 に変 更 と な る こ と が示 さ れ て い る。 他 の 発 達 障 害 に つ い て は、 現 行 のDSM −IV-TR と 大 き な 変 更 は な さ そ う で あ る 。
パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 は 、 自 己Self ( ア イ デ ン テ ィ テ ィIdentity ・ 自己 志 向 性Self-Direction) の 特 性 と 対 人 的Interpersonal な 特 性 ( 共 感 性Empathy ・親 密 性Intimacy ) に 関 す る パ ー ソ ナ リ ティ 機 能 の 水 準Level of Personality Function (O ∼4 ) に よ る 新 た な 診 断 枠 が 提 示 さ れ て い る 。 ま た 、 パ ー ソ ナ リ テ ィ 障 害 の タ イ プ を 、 反 社 会 性Antisocial 、 回 避 性Avoidant 、 境 界 性Borderline 、 自 己 愛 性Narcissistic、 強 迫 性 Obsessive-Compulsive 、 統 合 失 調 型Schizotypal の6 つ のノメー ソ ナリ テ ィ 障 害 に 整 理 す る 模 様 で あ る (http://www.dsm5.0rg/Pages/Defaultaspx )。
DSM-V へ の 改 訂 は 、 ご の 分 野 の 医 療 や 研 究 領 域 に 大 き な 影 響 が あ る も の だ け に、 今 後 の動 向 につ い て 大 き な 関心 を 払 っ て い く 必 要 が 高 い だ ろ う 。
■ 引 用 文 献
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