はじめに 平成10年の学習指導要領改訂において,ボール運動にボール運動の型が3つ示された。従 前の学習指導要領では,バスケットボール,サッカーといった運動名が実施すべき例示に示 されており,それらの運動を指導することを定めていたことと比較すると,ボール運動を型 により分類し例示したことは,ボール運動の指導における大きな転換であった。 この改定で示された3つのボール運動の型とは,ゴール型ボール運動(ゲーム),ネット 型ボール運動(ゲーム),ベースボール型ボール運動(ゲーム)である。この例示において 特筆すべきは,ネット型ボール運動が初めて小学校学習指導要領に取り入れられたことであ る。ゴール型ボール運動は攻防入り乱れ型,ベースボール型ボール運動は攻守交代型として 小学校学習指導要領の内容に取り上げられていたが,ネット型ボール運動は主として中学校 以降で指導され,小学校では指導内容として示されてはいなかった。 そうした経緯の中,平成10年の学習指導要領改訂によりボール運動の分類が新たに示さ れ,ネット型ボール運動(低学年はネット型ボールゲーム)が小学校の体育授業でも指導が されるようになった。ネット型ボール運動で最も多く指導されているバレーボールは,ボー ルを自陣の地面に落とさないようにしてボールをつなぎ,相手の陣地にボールを落とすこと を競うゲームである。その攻防で用いられるボールをつなぐための中心技能は,打つ,はじ く技能である。ボールをはじく技術,オーバーハンドパス,アンダーハンドパスの技能は中 学生でも体育の授業時間で習得することが難しい。そのため,小学校のネット型ボール運動 では,市販されているバレーボールではなく,軽く柔らかいボールを教具として取り入れた り,ボールをワンバウンドさせてレシーブしても良いルールを取り入れたり,子どものボー ル操作の能力を考え,かつバレーボールの面白さを損なわないようにゲームを楽しめる様々 な工夫がされてきている。 ⑴
中学校体育授業における
ネット型ボール運動の実施状況に関する研究
─ 中学校のバレーボール授業を中心として ─
上 條 眞紀夫
※※総合福祉学部 准教授
バレーボールの面白さはボールを自陣に落とさないように仲間とボールをつなぎ,相手 コートのスペースにボールを落とそうとする攻防にある。相手コートへの返球はボールをつ なぐ技能がまだ備わっていない段階では,山なりのボールで相手コートに返球されるが,技 能の高まりとともに,相手コートのスペースにより強く速いボールを意図的に返球しようと するように変化していく。(スパイク,攻撃的なサーブなど)こうしたゲーム様相の変化, ゲームの深まりは,プレーヤーのボールをつなぐ技術,所謂レシーブ技術を身につけていか ないと,そうした攻撃が出現するゲームに発展していくことは困難である。 小学校でのネット型ボール運動の授業は,児童の技能が未熟であるため,カリキュラムや 児童の実態に応じたゲームの教材化が必ずされている。しかし,中学校においては教育実習 の巡回指導や研究授業を参観した際には,バレーボールの教材化は積極的にはなされておら ず,競技スポーツとして行われているバレーボールをそのまま指導している授業を目にする ことが多い。中学校では部活動との兼ね合いから長きにわたり,スポーツそのものを指導し ようとしてきた経緯があるためバレーボールの教材化に取り組みにくいことも背景にある。 しかし,多くの中学生は体育のバレーボール授業でバレーボールの面白さを味わえる活動が 出来ているのか,その授業実態と学習成果は明らかにされていない。 こうした実態を踏まえ,中学校の体育授業でどのようなネット型ボール運動が指導されて いるか調査する。特にネット型ボール運動で最も多くの時間,指導されていると考えられる バレーボールの授業に焦点を当て,どのような授業が計画され,実践されているのか,授業 研究を設定した。 Ⅰ.研究目的 中学校における教育実習の巡回指導や研究授業では,バレーボールの教材化は積極的には なされておらず,競技スポーツとして行われているバレーボールをそのまま指導している事 例が多いと述べた。こうした現状を,研究室に所属する大学生に小学校,中学校でのネッ ト型ボール運動でどのような授業を受けてきたか,聞き取りを行った結果は,以下のようで あった。 小学校体育では, ・グループに分かれて円形になり,パスのつながった回数を競うドリルゲーム ・メインゲームはバドミントンコート程度の広さのコートを使用 ・3∼5人で実施し,ローテーションを行う ・ネットはバドミントンネットやスズランテープなどで代用 ・軽くて柔らかいボールを使用 ・ワンバウンドやキャッチを認めるルールの適用 ⑵
といった修正がされて実施されていた。しかし,中学校でのバレーボール授業においては小 学校の体育授業で行われていたような修正はほとんど行われていなかったと大学生は回想し ている。 小学校の体育授業においての大学生の回答からは,「技能が未熟な児童でもバレーボール の楽しさを味わえる教材化」が教師に意識されていると推察されるが,中学校のバレーボー ル授業では小学校で行われているような,ルールを子どもに合わせることや,教具を扱いや すい用具にするなどの配慮はされなくなってしまっているようである。中学校へ進むと部活 動の関係などから,競技スポーツに近づくことをねらいとした授業が行われているように推 察される。運動が苦手な児童への配慮がないまま,競技ルールでネット型ボール運動の指導 を行うと,運動嫌いを生み出すのではないかという恐れを感じる。こうした問題意識に基づ き,千葉市内にある中学校全55校を対象に,ネット型ボール運動の実施状況,及び,その 体育授業の実態を明らかにしようとした。 Ⅱ.研究方法 1.対象 千葉市内の中学校55校,及びそれぞれの学校で実施されているネット型ボール運動の体育 授業。 2.期日 ネット型ボール運動の実施状況を調査するアンケートは,2018年7月から2019年11月中旬 にかけて行った。ネット型ボール運動の授業実態を明らかにするための授業観察(VTRに よる分析)は,アンケート調査に協力してもらえた中学校の中から実施したため,アンケー ト調査より遅れて2019年11月中旬∼2月下旬にかけて実施した。 3.アンケート調査の方法 アンケート調査は,中学校と連絡を取りアンケート用紙を届け,調査の同意を得られた後 に体育担当者から聞き取りをする手順で実施した。 アンケートで回収できたのは,全55校中,28校である。その28校の中から授業のビデオ撮 影に承諾してくれた中学校のうち,今年度中にバレーボールの授業を実施する予定の8校の 授業観察とビデオ撮影を実施した。 4.授業観察の方法 ビデオ撮影は,体育館の前と後ろに2台設置し,練習の様子とゲーム中の触球数,ラリー ⑶
数,三段攻撃の出現回数,技能の習熟度を調べた。 5.アンケート調査の内容 アンケートの調査項目は,以下の11項目である。 ①ネット型ボール運動の教材として指導している運動 ②単元の総時間数 ③実施時期 ④授業を実施する場所 ⑤指導のねらい(教材選択の理由) ⑥教材化のためのルール(1チームの人数など),ゲームで適用される修正・誇張 ⑦使用する教具(ボールの種類・ネットの高さや材質)について ⑧ゲームを行うコートの広さ ⑨指導しているネット型ボール運動の教材価値 ⑩指導しているネット型ボール運動は生徒にとって適切な教材か ⑪指導しているネット型ボール運動は教師として指導がし易い運動領域であるか,難しい領 域であるか Ⅲ.アンケート結果と考察 1.千葉市内28中学校のネット型ボール運動アンケート調査結果 <問 1>中学校の1−3年で扱われているネット型ボール運動の運動教材 中学校で行われるネット型ボール運動ではバレーボールとシッティングバレーボールが, 80%以上を占めている。選択制が導入される中学3年ではバドミントンを取り入れている学 校が半数見られた。選択制では生徒の希望で履修者を調整できるので体育館でのコート数が 4面あれば授業が実施できるので3年生で取り扱われていると推察される。シッティング バレーボールはカリキュラムに掲載されてはいない学校が大部分であるが,2020年パラリン ピックで千葉県がパラスポーツの会場になっているため,障がい者スポーツへの理解と促進 をする観点から,パラリンピックの前年のみ特別に授業に取り入れている学校が多かった。 <問 2>ネット型ボール運動教材への単元配当総時間数 バレーボールの授業の単元の配当時間では10時間から12時間が最も多かった。年間のボー ル運動に配当できる時間数から考えると,中学校の体育授業ではバレーボールがネット型 ボール運動の指導の中心になっている教材であることがわかる。 <問 3>それぞれのネット型ボール運動の実施時期 実施時期では多くの学校が2学期に実施している学校が多い。実施時期については他の教 ⑷
材との関連や場所の問題が関係するので,一概には断定できないが一般的にはボール運動は 学習集団の結びつきが築かれてきた2学期以降に実施する場合が多い。 <問 4>それぞれのネット型ボール運動を実施する場所 ネット型ボール運動の授業は,1校を除いて,全ての運動種目が体育館で実施されてい た。小学校では,ソフトバレーボールやプレルボールの授業は校庭でペットボトルを利用し た手作りの支柱を立てて授業を行っている学校も多いのと対照的である。他の種目との割り 振りもあるものと考えられるが,バレーボールは体育館で行う運動であるといった考えや ボールが汚れてしまうので校庭では行えないといった理由も見られた。しかし,体育館での みバレーボールを実施する考え方だと,問5,6の1チームの人数を減らすことは体育館の 広さの関係上,困難になってしまう。 <問 5>プレーヤーの人数と教師の指導のねらい 中学校1年生では,小学校でのソフトバレーボール授業のルールや行い方に倣う形で約3 分の1の学校が,1チームの人数を4人以下でゲームを行っている。2年生では4人以下は 4分の1に減り,3年生では2校のみとなる。逆に6人でゲームを行う割合は学年が進むに つれ増加し,3年生では約90%の学校で実施されるようになる。9人制で実施している学校 は2校である。9人制を実施している理由は,クラス人数が多いためである。 6∼8人のゲームを実施する理由も,人数の問題が理由として多かった。1チームのプ レーヤーの人数を小学校の体育授業のように3∼4人とすると,チーム数が多くなってしま い,体育館では活動する場の確保が出来なくなること,試合数が減ってしまうことが主な理 由としてあげられている。中学校でのバレーボール授業では,予め設置されている正規のバ レーボールのコートをそのまま授業に使用している場合が多いため,体育館にバレーボール コートは2面しか確保できない。コート数にプレーヤーの人数を合わせてしまっている現状 が見られる。 注目すべき理由として,正規のルールに近づけるためと数校から回答されている。体育の 授業は競技スポーツに近づけることが目的ではないはずであるが,正規のルールの知識や技 能を教えることが学習内容であり,体育授業のねらいであると考える体育教師も依然として 多いことがうかがえる。 <問 6>バレーボールのルールの中で生徒のプレーを易しく行えるようにするため,ゲー ムを活性化するために設けているルール 1年生ではワンバウンドでのレシーブを12校が採用しており,続いてサーブの投げ入れが 7校,セッターのオーバーハンドレシーブをキャッチでも良いが6校,返球回数を増やす, ボールを柔らかい材質に変えるがそれぞれ5校であった。 2年生になるとワンバウンドでのレシーブは4校に減る一方,オーバーハンドレシーブを ⑸
キャッチでも良いに修正している学校は7校に増えている。返球回数とボールの変更は1年 生と変わらない数値であった。 3年生になると,ワンバウンドでのレシーブを採用する学校は6分の1に減り,オーバー ハンドレシーブをキャッチでも良いも2分の1に減っている。3年生で増加したのは,3段 攻撃で得点を増やすである。バレーボールの攻防のおもしろさである3段攻撃を生徒に指導 しようという教師の意図がうかがえる内容である。 返球回数は,2年生と変わらない数値であった。レシーブ技能が未熟な中学生には,返球 回数まで正規のルールにしてしまうとゲームそのものが成立しなくなる事が要因であると考 えられる。 <問 7>バレーボールで使用しているボール・ネット,及びネットの高さ 中学校のバレーボール授業では,1年生から中学校のバレーボール公式球を使用している 学校が25%,ソフトバレーボールやレクレーションボールを使用している学校が75%であ る。この割合は学年が上がるにつれ,公式球の比率が高まり,ソフトバレーボールなどの割 合が減少する。用具の選択においても,公式ルールに則ったバレーボールに近づけた指導を 展開しようとしている教師の意図が感じられる。 バレーボールネットは,1年生では,バドミントンネットやスズランテープなどを使った 自作ネットが半数以上を占めているが,2年生以降はバレーボールネットが用いられるよ うになる。ゲームを行うコートにバレーボールコートを選択した場合は,必然的にバレー ボールネットを使用せざるを得ないからである。そうした中でも,10%程度の学校はバドミ ントンコートで実施をしている実態も見られる。ネットの高さは200cm以下で指導している 学校は1校しかなく,それ以外は200∼210cm(中学校女子の正規の高さ),もしくは215cm, 230cmであった。 <問 8>バレーボールの場の設定(ゲームを行うコートの広さ) ゲームを行うコートの広さはプレーヤーの人数と密接な関係にある。結果としては,問5 とほぼ同様に,1年生では,バドミントンコートが40%とバレーボールコートが60%という 結果となった。2年生以降はバドミントンコートや自作のコートは使用されなくなり,3年 生ではほぼ全ての学校がバレーボールコートを使用するようになっていく。コートについて も学年が進むにつれ,通常のバレーボールのコートを使用し,公式ルールに近いゲーム形式 を採用している学校が多いことが分かる。 <問 9>生徒にとってネット型ボール運動教材の長所(総回答校数30,複数回答あり) 中学校の体育担当教員がネット型ボール運動を指導する上で良い点と考えている内容につ いて回答数の多かった順番に記載すると,最も多かった長所は,「接触,怪我が少ない(回 答数15)」である。安全面が第1に上げられたのは意外であった。体育の授業は他教科と比 ⑹
較して怪我をする割合が高く,特にボール運動が最も多い。ボール運動で怪我が最も多い運 動は,ゴール型ボール運動のバスケットボールである。ゴール型ボール運動は攻防が入り乱 れるため,相手チームのプレーヤーとの身体接触をルールで規制しても,全ての身体接触を 避けることは出来ないため,怪我をする場面が多くなってしまう。反面,ネット型ボール運 動は攻防がネットを隔てて分離されているため,生徒同士の身体接触による怪我や至近距離 からのボールにぶつかるといった怪我が起きにくく,生徒が萎縮せずにゲームに積極的に向 かうことが出来ることが一番の長所であると回答している。 2番目に多かった長所は,「チームワークが学べる(回答数14)」である。理由としては, ネット型ボール運動の特徴として自陣内でボールをつなぐことが出来ることによって,仲間 のミスをカバーすることが出来る,連携プレーを行いやすい,作戦を考えることが出来ると いった回答がされていた。作戦に関しての回答をした理由としては,味方同士での作戦を立 て協力しやすい,繋ぐことを意識できる,チームで攻め方や守り方を工夫できる,チームで 戦術を考えるのが楽しい,作戦を話し合い仲間の学習を援助することができるといったネッ ト型ボール運動の教材特性から見いだされる長所が5校から提示された。 3番目に多かった長所は,「どんな生徒でも楽しみやすい(回答数9)」であった。身体接 触を嫌う生徒にとって身体接触がないこと,コートが狭いため移動距離が少なく体力に自信 のない生徒にも取り組みやすい,運動が苦手な子もルールを工夫することでボールに関わろ うとすることが出来るといった,運動が苦手な生徒の立場からネット型ボール運動の有効性 が示されている。 4番目の長所は,話し合い活動ができる(回答数7)である。プレーの合間に,話し合い 活動ができ,声を掛け合える場面が増えることがその理由である。チーム内で声をかけた り,話し合ったり出来ることにより,作戦の話し合いが活発化する,声掛けの効果を実感で きる,コミュニケーション力の形成にも役立つといった長所が示された。 5番目の長所は,ネットを挟んでラリーをする楽しさがある(回答数5)である。ラリー はネット型ボール運動ならではの楽しさである。記述例としては,ボールを落とさないよう につなぐ面白さとラリーが続ける楽しさ,相手コートの人のいないところに落とす醍醐味, ネットをはさんでの攻防の切り替えといったネット型ボール運動特有の教材としての長所が 示された。 6番目の長所は,教師の授業の工夫によって生徒を楽しませることができる(回答数4) といった,教材の修正や誇張できる余地が大きい教材であることを感じている教師も見られ た。ネット型ボール運動教材を使って学習内容を生徒に身につけさせるためには,大切な視 点であり,バレーボールを丸ごと教えるのではなく,バレーボールという運動素材を基本と して,より有効な教材を開発していこうとする回答である。記述内容は,ルール次第で生徒 ⑺
が楽しめる幅を広げられる,コートの広さやネットの高さ,ボールの種類などの工夫できる 点が多い,生徒自身がルールの工夫を考えやすいであった。 <問 10>生徒にとってネット型ボール運動教材の短所(総回答校数28,複数回答あり) 第1にあげられた短所は,「技能習得が難しい(回答数9)」である。教師が難しいとして いる技能は,個人技能であり,特にボールをつなぐ技能の習得に時間がかかることを指摘し ている。レシーブやトスといったつなぐ技能の指導に苦労している実態がうかがえる。中学 校の体育授業では,キャッチやワンバウンドでのレシーブのように易しくしたゲームではな く,スポーツ競技として行われているバレーボールを実施している学校が多いため,ボール をつなぐ技能がバレーボールの短所として一番にあげられたものと考えられる。 また,現在指導されているネット型ボール運動の授業時間では,基礎技能を身につけるこ とが出来ずにいると悩んでいる教師の実態も見られる。 2番目以降にあげられた短所は,「ラリー,パスが続かないとつまらない(回答数8)」, 「運動量が確保できない(回答数6)」,「能力差が出やすい(回答数5)」,「得意な子のみが プレーしてしまう(回答数3)」,「プレーに責任が伴いやすい(回答数3)」である。これら は何れも,第1の短所であるボールをつなぐ技能が難しいため,ラリーがつながらず,プ レーがすぐに途切れてしまう実態を示している。ボールがつながらない局面を打開しようと 上手な子が頑張ると結果的には,上手い子だけが活躍し,技能の低い子はプレーに参加しな くなってしまう。 6番目以降にあげられていた短所は,「準備,片付けに時間がかかる(回答数3)」,「痛み がともなってしまう(回答数2)」である。準備で多くの時間がかかるのは,ネットを張る ための時間である。正規のバレーボールの支柱は重たく,ネットをきちんと弛まないように 張ることは難しい。バレーボールの痛みはレシーブする際に生じると思われるが,教具の選 択で回避できる短所である。 <問 11>先生方にとって,ネット型ボール運動は,他のボール運動と比べて指導しやすい 運動領域か,それとも指導が難しい運動領域か,あるいは指導上の差はボール運動で差がな いと感じているか。(総回答校数28) ネット型ボール運動を,先生方が指導されていて,どのような悩みや問題を抱えられてい るか,また感じられていたりしているか,を知るためにこの調査項目を設けた。その結果, 指導しやすいが14校,指導が難しいが8校であった。指導しやすいと回答している先生は, 既存のバレーボールを生徒の実態に合わせたルール,コートの広さ,人数等の変更をするこ とによって,バレーボールのおもしろさに触れられる授業が出来ると答えている。アンケー トの問9のバレーボールの長所で多くの先生が指摘していたように,ゴール型のバスケット ボールやサッカーと違い,相手との接触がほとんどないため,指導がしやすい(安全面の留 ⑻
意やファールの指導など)と回答している。 それに対して,指導が難しいと回答している先生は,既存のバレーボールを指導すること を前提にしている学校が多かった。ボールをつなぐ基礎技能の習得が進まないとラリーが続 かず,つなぐ楽しさを生徒が味わえないといった問題を感じている。 一方,指導しやすい,難しいの判断を決めかねる,どちらともいえない(回答数6)と回 答している先生の中には,教員側が球技の特性をとらえて授業を工夫できるかどうかだと思 うので指導が難しいかどうかは個人差が出てくる,教員側が生徒の実態に応じた指導できる かどうかにかかっているといった,教師の教材に対する知識や経験によって変わるので一概 には断定できないといった回答もある。こうした先生方の回答から伺えるのは,バレーボー ルを指導しようとしているか,バレーボールを使って指導しているのか,教師の立ち位置, 教材に対する考え方によって,指導しやすいか,難しいか分かれている。スポーツ種目は, 運動文化として受け継がれてきたものではあるが,学習内容を身につけさせるための運動 財,手段であることを再認識する必要がある。 Ⅳ.授業の実態と授業分析の結果と考察 1.分析対象 アンケート調査に回答して下さった中学校30校の中から,2019年11月以降にバレーボール 単元が計画されており,授業のビデオ撮影,授業分析に同意してもらえた中学校10校におい て授業研究を実施した。 2.データ収集の方法 授業分析を行うためのビデオ撮影は2台のカメラで体育館の前側と後ろ側から生徒の技能 様態を観察するため,プレーの様子を撮影した。授業は,オリエンテーションの時間を除い た単元の始めの時間に1回と単元の中盤から最終回にかけて1∼2回撮影した。単元開始時 と後半の生徒の技能,及びゲーム様相を比較することで指導の実態を把握しようとした。 3.研究の方法 生徒がサーブをした後にラリーが途切れるまでのひとまとまりのプレーが行われた回数を ゲームが行われた回数「ゲーム数」(G)と定義した。(サーブの失敗はカウントせず。サー ブは拳で打たずに投げ入れでも良いこととした)1試合で何回のサーブからラリーが実施さ れていたか,つまり1授業でどれくらいのゲームが実施されていたかを記録している。 サーブを行った後にネットを超えてボールが移動した回数をラリーが継続した回数,「ラ リー数」(R)と定めた。ラリー数は,ボールをつなぐ技能がどの程度あるかを示す指標と ⑼
見ることが出来る。しかし,キャッチを何回してつないでも良いルールを取り入れていた ゲームはボールを弾いてつなぐ技能とは見ることは出来ないのでラリー数は計測しなかっ た。 ゲームでプレーヤーがボールに触った回数の合計を「触球数」とした。触球数もラリー数 と同様に,つなぐ技能が向上するとともに増加すると考えられる。 ボールをつなぐ技能が向上していくのに伴い,相手コートに強いボールを返球しようとす るプレーが出現するようになる。技能が未熟な段階でのボールをつなぐ面白さから,ボール をつながせない「ゲームを切る」プレー,スパイクやアタックである。こうした技能の高ま りとともに生まれる三段攻撃がゲームの中で行われた回数も,ゲーム様相を変化させるボー ルをつなぐ技能向上の指標として計測した。 1授業でのクラス平均ラリー数,クラス平均触球数は,以下の計算式によって導いた。 クラス平均ラリー数(R/G)=(ネットを超えてボールが移動した回数の総数)÷(ゲーム 総数) クラス平均触球数(回/G)=(プレーヤーがボールに触った全回数)÷(ゲーム総数) クラス平均ラリー数,クラス平均触球数を算出することによって,授業における生徒の ボールをつなぐ技能の指標とともに,ラリーを通してのボールを落とさないゲームの攻防を 楽しめているかを評価しようとした。 4.授業分析の結果と考察 (1)A 中学校(1年男子)の授業の実態とゲーム分析の結果 ①授業概要 単元の始めの授業ではボールをつなぐ技術の指導だけが行われ,ゲームは実施されなかっ た。単元後半では3人のボールをつなぐ練習から,6∼8人でボールをつなぐ練習をバドミ ントンコートでゲームを行った。 前半は2人組でのバス練習,後半は6∼8人グループでオーバーハンド,アンダーハンド パスのみで3回で相手コートに返球(アタックは習っていないためパスで空いているところ へ返球)する試合であった。ボールは公式球が用いられた。 ②ゲームにおける修正ルール ゲームは,3人が必ず触って返球しなければならないが,ワンバウンドでレシーブして味 方への返球はしても良い,キャッチをしてから味方への返球はしても良いといった,修正 ルールが適用された。 ③授業分析の結果と考察 この授業におけるラリー数は,2.4ラリー/G,1回のサーブで平均してボールがネット ⑽
越しに2,3往復,移動をしていたゲームが展開された。触球数は,平均して5.8回/G, 1回のサーブで平均約6回,6人のプレーヤーがボールに触れていたゲームである。 単元の始めはボールをつなぐことが出来ず,ラリーが続かない状態であったので,ボール がつながるように,キャッチをしても良い,ワンバウンドでのレシーブをしても良いといっ たルールを取り入れたことによって,単元始めよりもボールはつながるようになった。しか し,ラリー数が示すように,1回のラリーで半数以上の生徒はゲームに参加出来ておらず, ラリーも自陣で3回つないで相手に返球したらゲームが途切れてしまっている。単元の途中 から思い切ったルールの修正はされていたが,生徒の技能に適合したボールの使用やのびの びと活動できる適正な広さのコートと人数にも配慮をすべきであった。(3回触って返球す るゲームではあったが,スパイクは行わないルールであったため,三段攻撃の回数は計測し ていない) (2)B 学校(2年女子)の授業の実態とゲーム分析の結果 ①授業概要 屋外での授業であったため,可動式ネットに2mの高さでスズランテープを張って,コー トを作成していた。ボールはレクリエーションバレーボール(molten製)と掌よりやや大き く,軽く,柔らかいボールを使用していた。生徒の実態に合うように教具は準備されていた が,授業は個人のボールをつなぐ技能を習得することから指導は行われ,チーム対抗のゲー ムは最後の時間でスキルテストを実施した残り時間で15分程度行われた。しかし,それ以前 の授業では,全くゲームは実施されなかった。その理由を教師は「1年生でアンダーハンド パスやオーバーハンドパスといったボールをつなぐ基礎技能を身につけ,併せてサーブやス パイクの技能を身につけるようにする。その上で2年生から技能の反復と習熟を行いつつ, ゲームを取り入れていく。」と説明していた。 ②ゲームにおける修正ルール チームの人数は9∼12人であった。ボールに触れられる回数は3回,その中で何度でも ボールをキャッチしても良く,ワンバウンドで捕球しても良いルールであった。 ③授業分析の結果と考察 どの場面でもキャッチをして良く,ノーバウンドでレシーブしなくて良いため,アンダー ハンドパスやオーバーハンドパスでレシーブをする生徒は少なかった。さらにキャッチして も,ボールをすぐトスしなくても良いルールのため,ボールを持ったままどこへボールをつ ないだら良いか立ち止まってしまう生徒も見られた。ボールをつなぐ楽しさやボールを落と さないように落下点に入り込んでつなぐ,ネット型ボール運動のおもしろさや楽しさが見ら れなかった。ボールをつなぐラリーではなく,動かないでボールを投げてパスする,投げっ ⑾
こゲームの様相になっていた。 生徒の技能に適した教具は準備されていたのであるが,扱いやすい教具を使用するメリッ トを十分に引き出せていなかった。ボールキャッチ,ワンバウンドレシーブといったルール の修正はボールをはじく技能が未熟な生徒には有効な指導の1つであるが,全てのボールを つなぐ動きに適用してしまうとバレーボール教材そのもののおもしろさや特性が失われてし まうことになってしまう。 (3)A 中学校(2年男子)の授業の実態とゲーム分析の結果 この授業は(1)で分析したA中学校の2年生である。(1年男子) ①授業概要 バレーボールコートを使用し,ネットの高さは2m,バレーボールの公式球を使用してい た。 ②ゲームにおける修正ルール 1チームは,6∼7人と1年生と変わらないが,ルールの修正は全くなかった。(アタッ クはなし),サーブはアンダーサーブか投げ入れで3回以内にパスで返すであった。 ③授業分析の結果と考察 1年生ではキャッチをしても良く,ワンバウンドでのレシーブも認められていたが,2年 生ではワンバウンドレシーブやボールキャッチといったルールがなくなった。ボールは公式 球なので,硬く操作が難しい。こうした要因もあり,ラリー数は1ゲームあたり2.4ラリー/ Gから1.7ラリー/Gに減少,触球数の1ゲームあたりの平均は5.8回/Gから3.8回/Gに 減少,いずれも30%減っている。ボールをつなぐだけがバレーボールの面白さではないが, ボール操作に難しさを感じながら,失敗を繰り返す学習は生徒の意欲を高めるとは言えない であろう。 運動経験を積み,1年間の身体的な成長があっても,ボールをつなぐ技能がそれに伴って 向上するとは言えないので,実態に合わせた指導が必要である。 (4)C 中学校(2年男子)の授業の実態とゲーム分析の結果 ①授業概要 ボールはMIKASA製レッスンボール5号で公式用のボールに比べ30∼40g軽いボールを用 いていた。このボールは軽く,指先にボールが当たっても痛くないため小学校高学年のソフ トバレーボール授業で使用されているボールである。このボールを使用していたのは,今回 授業研究に訪れた中学校ではこのC中学校だけであった。このボールを教具として用いてい ることで,授業展開が変わり,ゲーム様相も変化した。他の中学校で使用しているボールよ ⑿
り,指先で弾くことが容易なため,難しいオーバーハンドパスも行いやすい。またアンダー ハンドパスもボールが大きいため,ボールの中心からレシーブポイントがずれてもレシーブ がし易い。ボール操作が容易になったことでレシーブなどの基礎練習の時間を減らすことが 出来,その時間をゲームに充てることができていた。コートはバドミントンコート2面の間 に可動式のポールでもう一面を設置し,練習用コートとして使用した。バレーボールコート 1面はメインゲームを行うコートとして用いられた。 ②ゲームにおける修正ルール ボール操作が容易なため,ルールの修正は全くされていなかった。サーブも多くの学校が 投げ入れ等の方法で行っていたのに対し,拳でコートの端から打って行うルールであった。 ③授業分析の結果と考察 ボール操作が容易なため,相手コートに返球する際に強くボールを打とうとしたり,練習 をしていないスパイクを打とうとして,ミスをするブレーが見られた。その結果,単元の 2回目の授業では,1ゲームあたりの平均ラリー数は1.5ラリー/G,1ゲームあたりの平 均触球数は3.0回/Gに過ぎなかったが,単元の8時間目の授業では,平均ラリー数は1.8ラ リー/G,平均触球数は3.7回/Gに改善した。ゲーム様相は,力強いサーブを行い,その サーブをレシーブしてつなぎ返球しようとする競技バレーボールの様相に似たゲームであっ たが,ラリー数,触球数はそれほど向上してはいない。その原因としては,サーブの際に強 くボールを打とうとしてミスをしたり,たまたま強いサーブが入るとサービスエースになっ たりしているゲームが多く,平均すると総ゲーム数の45.2%もあった。その割合が最も多い ゲームでは60%がサーブで終わってしまっているゲームになっていた。サーブをアンダーハ ンドだけに限定したり,山なりのボールでの投げ入れにしたりすれば,ラリー数は増加し, 三段攻撃の出現数も,多くなったはずである。(今回のゲームでは30回のゲームの中で,約 6回,三段攻撃が行われている)授業のねらいが正規のバレーボールゲームのようなパワー バレーボールに近づけることであると設定されると,個人の力に頼った単調なゲーム様相が 引き起こされてしまう。ラリーが続く攻防が展開されたとき,生徒はチーム全員で協力して ボールを追いかけ,生徒の歓声が上がっていた。全ての子が関わることができるラリーを学 習の中核とした授業展開を指導すべきである。 (5)D 中学校(2年男子)の授業の実態とゲーム分析の結果 ①授業概要 ボールは公式球,ネットの高さは2m10cmから2m,正規のバレーボールコートの広さで 6人のプレーヤーで実施された。D中学校のバレーボール授業も基本的にはボールをつなぐ 基礎技能の指導をし,その技能が身についてきた段階でゲームを取り入れていく展開であ ⒀
⒁ る。そのため,授業の前半は,アンダーハンドパスやオーバーハンドパスのレシーブ練習を 2∼3人で行い,その後,レシーブからトスを上げて,スパイクへつなげる三段攻撃の練習 を取り入れていた。 ②ゲームにおける修正ルール 第1サーブはアンダーハンドでコートの端から打たなくてはいけない,第1サーブを失敗 した場合の第2サーブは下手投げの投げ入れサーブで開始すること,であった。その他の修 正はなく,競技ルールに準じてゲームは行われていた。 ③授業分析の結果と考察 教具やルール変更を積極的にはしていない「一般的によく見られる」バレーボール授業で あった。生徒の実態に合わせて教材化を行うのではなく,既存のスポーツに生徒を合わせて 指導をする従来から行われてきた指導方法と言える。そうした観点から見ると,このD中 学校の授業は2年生であることもあり,中学校ネット型ボール運動の授業の典型例と見て良 いだろう。 授業分析の結果,2ゲーム実施された1ゲーム目は,1ゲームあたりの平均ラリー数は 1.8ラリー/G,1ゲームあたりの平均触球数は2.8回/G,2ゲーム目は,平均ラリー数は 1.8ラリー/G,平均触球数は3.0回/Gであった。この結果は同様なルールで実施されたA 中学校,C中学校とラリー数はほとんど変わらない。触球数は他校と比較してやや低い結果 となっていた。触球数が低くなってしまっていた原因は,正規のルールに近いため,強い サーブを打とうとして,相手コートにサーブが入らなかったり,レシーブが出来なかった り,サーブでゲームが終わってしまっている割合が,全ゲームの53%にも上ってしまってい る。反面,6回以上ラリーが続いたゲームは14%にとどまっている。競技バレーボールで は,易しいサーブでは相手の攻撃が容易になるため,失敗するリスクがあっても強いサーブ を打つ場合が多い。そうした競技バレーボールのプレーから影響を受けたり,憧れたりする 生徒は当然いて然るべきであるが,みんなでボールをつないでラリーを楽しむことをねらい とする体育の授業とは合致しないので,指導が求められる点であった。しかし,積極的に攻 撃しようとする生徒の意識は高く,三段攻撃に挑戦していた回数は14回見られた。 (6)E 中学校(2年男子)の授業の実態とゲーム分析の結果 ①授業概要 ボールは柔らかいレクレーションバレーボールを使用,1チーム6人でバレーコートを 使ってゲームは行われた。単元の前半は,ボールをつなぐ技能,アンダーハンドパスやオー バーハンドパスの練習を中心とした技術指導が行われた。基礎技能が身についてからゲーム に入るべきとの教師の指導観から,5時間目まではゲームは行わなかった。授業での学習内
⒂ 容はゲームよりも技能を身につけることが中心であった。 ②ゲームにおける修正ルール ワンバウンドしたボールをレシーブしても良いルールを単元を通して取り入れていた。 (始めは何回でも良かったが単元後半には相手に返球するまでに自陣で1回のみの制限を加 えていた)また,サーブは下手投げで優しく相手コートに入れることで,2番目のプレー ヤーに安定したボールを送り,三段攻撃につながるプレーに導こうとしていた。(実際の ゲームでは優しく投げ入れていない場合が多かったため,安定したファーストレシーブは実 現されていない場合もあった)片手でのスパイクは禁止,両手でボールを叩くことはしても 良い,返球する回数は何回で返球しても良い,点を入れられた場合のみ,ローテーションを してポジションを変わるようにするといったルールの修正がされていた。 授業分析を行った学校の中でこのような細かいルールの修正を行っていた中学校はこの学 校だけであった。中学校では競技スポーツのルールに基づいた指導が多く見られるが,この 先生は生徒の実態に合わせた指導を展開していた。バレーボール教材について研究し,実践 を積み重ねられていることが感じられた。修正して生徒に提示したルールも生徒の技能が高 まってきた場合には,変更を提案するなど,生徒の実態に即してルールを柔軟に変更する姿 勢で授業を進めていた。 ③授業分析の結果と考察 この授業ではワンバウンドレシーブをしても良い,3回以上レシーブして返球しても良 い,この2つの修正ルールがまだボールをつなぐ技能が十分に身についていない生徒に仲間 とボールをつなぎ,ラリーが続くゲームを保証していた。(サーブの下投げでの投げ入れも, 正しく実行されていればもっとボールはつながったはずである)ワンバウンドレシーブを2 回以上しても良いルールで実施した単元9時間目のクラスのゲームでは,1ゲームあたりの 平均ラリー数は4.1ラリー/G,1ゲームあたりの平均触球数は12.1回/Gと最も高い分析 結果を示した。同じ日に行われたワンバウンドレシーブを1回に制限した別のクラスのゲー ムでは,1ゲームあたりの平均ラリー数は2.1ラリー/G,1ゲームあたりの平均触球数は 5.5回/Gと,平均ラリー数は2.6ラリー/G,平均触球数は6.7回/Gであった。この結果 は,ワンバウンドレシーブ1回とキャッチを1回しても良いルールで実施されたA中学校の 結果とほぼ同じ値である。ボールをつなぐ技能が身についていない中学生には,トスを上げ るためのキャッチを取り入れた修正よりも,落下点に入り遅れたプレーをカバーしてくれる ワンバウンドレシーブや返球回数の制限をなくす方が,ボールを仲間とつなぎ相手コートに 返球することが容易になっていることがわかる。
⒃ Ⅴ.まとめ アンケート調査の結果から,中学校の体育授業ではネット型ボール運動の教材としてバ レーボールが最も多く指導されており,年間10時間程度を指導している。中学校3年間では 全ての中学校で20時間以上(選択の場合は30時間)が配当されていることから,バレーボー ルはボール運動の重点教材の1つであることが確認された。 また中学校の先生方は,バレーボールは攻防が分離されているので,安全面での教材価値 を第1に認めているが,バレーボールのオーバーハンドパスやアンダーハンドパスの技能を 身につけさせるには,体育授業だけで習熟することが難しいと感じていた。そのため,バ レーボールの技術的な難しさを緩和し,生徒が取り組みやすいゲームにするために,ルール を修正したり教具を変更したりすることで,みんなが楽しめる授業を展開しようと,様々な 手立てを講じていることも示された。アンケート調査ではこうした先生方の意図が明確に示 されているが,実際のバレーボールの授業では,こうした修正の多くが2年生からは適用し ない学校が多く見られ,公式ルールに則ったゲームを実施している学校が多かった。学年が 上がるにつれて生徒の技能も比例して向上していくのであれば,修正ルールを減らしたゲー ムを行うことも可能である。(*あくまで技術ベースで見た場合の見方であり,ルールや学 び方をどのように生徒が選択していくかを学習内容とした場合,指導は変わってくる) しかし,実際の授業を分析した結果,2年生になって正規のバレーボールのルールで行っ たゲームでは,1ゲームあたりのラリー数,蝕球数,6回以上のラリー継続ゲーム数はいず れも減少し,サーブだけでプレーが終わってしまう割合は50%前後にも上っていた。生徒の ボールをつなぐ技能は学年の上昇に比例して伸びてはいないことが分かる。 そうした中で,2年生でも継続して細かいルールの誇張と修正を取り入れていた中学校 のゲームでは,1ゲームあたりの平均ラリー数は4.1ラリー/G,1ゲームあたりの平均触 球数は12.1回/Gと最も高い分析結果であった。平均触球数12回は12名のプレーヤー全員が ボールに触れられる回数であり,ネット越しにボールが行き来するラリーが4回以上,毎回 のゲームで行われていることを示している。1回1回のプレーで,プレーヤー全員がボール に関わり,ボールをつなぐ楽しさ,仲間と協力することの楽しさをあじわえる授業である。 こうした指導の工夫によってバレーボールの楽しさ,運動の楽しさを感じられるのである。 体育の授業の究極の目標は,生涯にわたって運動に親しむ素地を培うことである。こうし た観点から,基本的な技能がまだ身についていない生徒でも,今持っている力でみんなと楽 しめるバレーボール授業,ひいては体育授業を全ての校種で実践していく必要がある。
⒄ 参考文献 1)文部科学省(2008)「中学校学習指導要領解説 保健体育編」東洋館出版社. 2)文部科学省(2009)「高等学校学習指導要領解説 保健体育編・体育編」東洋館出版社. 3)文部科学省(2017)「中学校学習指導要領(2017年告示)解説 保健体育編」東洋館出版社. 4)文部科学省(2018)「高等学校学習指導要領(2018年告示)解説 保健体育編・体育編」東洋 館出版. 5)東洋館出版社編集部(2017)「中学校 新学習指導要領ポイント総整理」東洋館出版社. 6)杉山重利・高橋健夫・園山和夫(2009)「教師を目指す学生必携 保健体育科教育法」大修館 書店. 7)公立高校教諭・岡崎太郎(2020)「体育科教育」大修館書店. 8)吉田清司・渡辺啓太(2016)「考えて強くなるバレーボールのトレーニング スカウティング 理論に基づくスキル&ドリル」大修館書店. 9)豊田博他(2004)「バレーボール指導教本」大修館書店. 10)福原祐三・鈴木理(2005)「みんなが主役になれるバレーボールの授業づくり」大修館書店. 11)辻新六・有馬昌宏(1987)「アンケート調査の方法 実践ノウハウとパソコンの支援」朝倉書 店. 12)高橋健夫・立木正・岡出美則・鈴木聡(2010)「新学習指導要領準処 新しいボールゲームの 授業づくり」大修館書店. 13)文部科学省 指導資料集(2010)「ゲーム及びボール運動」東洋館出版. 14)吉田武男・岡出美則(2018)「初等体育科教育」ミネルヴァ書房. 15)岩田靖・吉野聡・日野克博・近藤智靖(2018)「初等体育授業づくり入門」大修館書店. 16)清水由(2010)「小学校体育 運動と指導のポイント ボール運動」大修館書店. 17)リンダ-L-グリフィン〔著〕・高橋健夫・岡出美則〔監訳〕(1999)「ボール運動の指導プログラ ム 楽しい戦術学習の進め方」大修館書店.
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