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貿易と南北問題を学ぶための経済教育

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貿易と南北問題を学ぶための経済教育

加 納 正 雄

Economic Education for Studying Foreign Trade and the

North-South Problem

Masao KANO

Ⅰ は じ め に 本稿の目的は、中学校や高等学校で、貿易と 南北問題 (先進国と発展途上国の経済格差) の 関係を学ぶための経済教育の考え方や方法を検 討することである。中学校の「公民」や高等学 校の「政治・経済」「現代社会」では、経済の グローバル化の問題が必ず取り上げられる。経 済のグローバル化の評価に関しては、論争が多 いテーマであるが、特に貿易の自由化と南北問 題が取り上げられることが多い。公民分野の一 般的な特質であるが、教科書は事実や制度の解 説が中心であり、見方や考え方は強調されない。 しかし、授業で教える場合、教員の考え方が現 われる。特に、貿易自由化と南北問題は、市場 経済に対する考え方が現われるテーマである。 貿易と南北問題の関係を扱う教材として貿易 ゲームがある。貿易ゲームは、開発教育や国際 理解教育の教材としてよく知られたものである。 本稿では、貿易ゲームの考え方をアメリカの NCEE (National Council on Economic Educa-tion) の経済教育と比較して検討する。これは、 両者には、貿易や市場に対する考え方や教え方 の相違が明確に現われているからである。 以下の第Ⅱ節では、高等学校と中学校の教科 書において、貿易に関する考え方や経済のグ ローバル化の評価がどのように記述されている かを確認する。第Ⅲ節では、NCEE の経済教 育における貿易と南北問題に関する考え方や、 アクティビティを検討する。第Ⅳ節では、貿易 ゲームの考え方を検討する。第Ⅴ節では、フェ アトレードを検討する。フェアトレードは先進 国と発展途上国の公正な貿易として、高等学校 の教科書でも取り上げられている。また、フェ アトレードは貿易ゲームの発想と関連している。 第Ⅵ節では、NCEE の考え方と貿易ゲームの 考え方を比較して、貿易と南北問題の関係をど のように考えるべきか、どのように教えるべき かを検討する。第Ⅶ節では、貿易と南北問題と の関連で、経済教育と教育的発想の関係を検討 する。これらの検討によって、貿易と南北問題 の関係を学ぶための経済教育の考え方や方法を 明らかにする。 Ⅱ.経済のグローバル化に関する 教科書の記述 経済のグローバル化に関しては論争が多い テーマである。特に自由貿易に関しては、自由 貿易に対する反対論と賛成論がある。自由貿易 に対する反対論は、自由貿易政策は大企業と豊 かな国に利益をもたらすが、発展途上国に対し て、特に貧しい国に対して、貧困や不平等をも たらすというものである。これに対して、自由 貿易に対する賛成論は、関税や輸入割り当てを 取り除き、自由貿易を推進すれば、資本や生産 がより効率的に配分され、各国が豊かになると いうものである。 本節では、中学校の「公民」と高等学校の

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「政治・経済」「現代社会」において、経済のグ ローバル化に関してどのように記述されている かを確認する。 中学校の「公民」では、グローバル化や南北 問題・南南問題に関してはどの教科書にも記述 がある。ただし、グローバル化と南北の経済格 差の関係に関しては、それを取り上げている教 科書と取り上げていない教科書がある。また、 南北の経済格差の拡大を経済のグローバル化と 関連付けている教科書もある。一方、貿易理論 に関しては、すなわち比較優位や自由貿易と保 護貿易などに関しては、ほとんどの教科書が取 り上げていない。 高等学校の教科書でも、経済のグローバル化 と南北問題・南南問題は必ず取り上げられてい る。グローバル化の評価に関しては、ほとんど の教科書でグローバル化の問題点が指摘されて いる。一部の教科書では、反グローバリズムの 主張の紹介や、グローバル化が南北の経済格差 をもたらしたという記述がある。また、ほとん どの教科書が、発展途上国の困難の原因をモノ カルチャーや植民地としての歴史と関連させて 説明している。また、いくつかの教科書では、 これらの説明の中で、第Ⅴ節で検討するフェア トレードを紹介している。貿易理論に関しては、 中学校の「公民」と異なり、比較優位 (比較生 産費)、自由貿易と保護貿易などの用語を使用 して貿易理論が説明されている。 中学校や高等学校の教科書における、貿易と 南北問題に関する扱いは以上のようである。経 済のグローバル化 (貿易の自由化) と南北の経 済格差の拡大に関しては、論争が多いテーマで ある。グローバル化の進展の中で、発展途上国 のなかでも、豊かになっている国も、貧しく なっている国もある。したがって、格差が拡大 しているかどうかはどのような指標で考えるか による。また、それらの格差が、グローバル化 の進展によるかどうかは議論のあるところであ る。 ただし、本稿の目的は、それらの内容を検討 することではなく、それらをどのように教える か、また、考え方にどのような問題があるかを 検討することである。グローバル化は世界的な 市場経済化の進展である。したがって、グロー バル化の評価は市場経済の評価と密接に関連し ている。これらの問題の考え方や教え方には、 市場経済に対する評価が反映される。経済教育 において、市場経済をどのように評価し、どの ように教えるかは、もっとも重要なテーマのひ とつである。 Ⅲ.貿易とグローバル化に関する NCEE の経済教育 本節では、NCEE の経済教育における貿易 にかかわる考え方や、アクティビティを取り上 げて検討する。日本では、大学以前の経済教育 の内容は体系化されていない。これに対して、 アメリカの NCEE では、学ぶべき内容が 20 の スタンダード (内容標準) として体系化されて いる1)。アメリカの NCEE は、最初に、スタ ンダードとして表わされる原理 (考え方) を学 び、それを現実に応用するという経済教育を行 なっている。貿易に関しても、貿易に関する原 理を学び、それをもとに貿易の現実を考えさせ ようという教育が NCEE の経済教育である。 貿易に関する重要なスタンダードは、スタン ダードの 5 の「自発的な交換は、すべての参加 者が利益を期待できる場合にだけ発生する。こ のことは、国内の個人や組織の間での取引につ いてもあてはまるし、国際間の個人や組織の間 での取引についてもあてはまる」と、スタン ダードの 6 の「個人、地域、国家が、最低の費 用で生産できるものに特化し、他の個人、地域、 国家と取引すると、生産も消費も拡大する」の 2 つである。スタンダードの 6 の 8 学年修了ま での到達目標には「自由貿易は、世界全体の物 質的な生活水準を高める」がある。また、スタ ンダードの 6 の 8 学年修了までの到達目標には 「一国内の個人間の取引と同様に、国際貿易は 特化と分業を促し、産出高と消費を増大させ る」がある。 また、所得に関してはスタンダードの 13 の 「たいていの人にとって、所得は、自分が売る ことのできる生産資源の市場価値によって決定 される。労働者の所得は主に、彼らが生産した ものの市場価値と、彼らがどの程度生産的であ るかによって決まる」がある。

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NCEE では、これらのスタンダードを学ぶ た め の ア ク テ ィ ビ テ ィ が 用 意 さ れ て い る。 NCEE の テ キ ス ト で あ る Focus : Globaliza-tion2)では、スタンダードの 5 を学ぶために、 次のようなゲーム (trading game) がある。た だし、これはゲームといっても結果を競うもの ではない。これは次のようなゲームである。 3 つのグループ (それぞれ 8 人) を作る。グ ループのそれぞれの人に、カードを 1 枚渡す。 カードには、男性用や女性用の服や装飾品が指 定してある。それぞれのカードを、1 (最悪) から 5 (最良) まで、個人で評価させる。次に、 このカードを、グループ内で交換をさせる。 カードは交換しないで、保有しておいていもよ い。交換の数を記録させる。交換の後で、それ ぞれのカードを上述したように評価させる。次 に、3 つのグループ全体で同様の交換をさせる。 交換の後で、カードの価値を同じように評価さ せる。 このゲームで分かることは、自発的な交換に よって全体の満足が増加すること、グループ内 での交換よりも、3 つのグループ全体での交換 の方が交換の数が多い (したがって満足が多く なる) ということである。 また、スタンダードの 6 を理解するために次 のようなアクティビティがある。 A 国の労働者役の生徒 (6 人) に、それぞれ 次のようなカードを持たせる。カードには、一 方の側に 8 台の携帯電話、他方の側に 4 台の電 子レンジが描いてある。これは、A 国では 6 人の労働者がいて、1 日に労働者 1 人が 8 台の 携帯電話、または 4 台の電子レンジを生産でき るという設定を表わしている。カードの組合せ はこの国の生産可能性曲線 (表) を表わす。す べてを携帯電話の生産にすれば、携帯電話が 48 台生産でき、すべてを電子レンジの生産に すれば、電子レンジが 24 台生産できる。 同様に B 国には 6 人の労働者がいて、1 日に 労働者 1 人が 1 台の携帯電話、または 2 台の電 子レンジを生産できるという設定で、6 人の生 徒にカードを持たせる。 A 国は 2 つの財の生産において、B 国よりも 絶対優位である3)。ただし、A 国が携帯電話 1 台を生産する機会費用は電子レンジ 0.5 台であ り、B 国が携帯電話 1 台を生産する機会費用は 電子レンジ 2 台である。一方、A 国が電子レ ンジ 1 台を生産する機会費用は携帯電話 2 台で あり、B 国が電子レンジ 1 台を生産する機会費 用は携帯電話 0.5 台である。したがって、A 国 は携帯電話が比較優位であり、B 国は電子レン ジが比較優位である。A 国が携帯電話に、B 国 が電子レンジに特化することで、両国の生産量 が増加することを示すことができる。 これらのアクティビティはスタンダードとし て表される原理を学ぶためのものであって、現 実の経済を学ぶものではない。NCEE のアク ティビティはこのような方針で作られている。 ただし、これらのゲームだけで、現実の貿易に 関する問題を理解できるわけではない。現実を 理解するためには、例えば次のようなことが問 題になる。 比較優位による分業が長期的に利益をもたら すかどうかは分からない。比較優位に基づく分 業は、短期的な利益であり、長期的な利益では ない。需要の所得弾力性が高く、また将来の生 産性の上昇が望める産業に特化した国は有利で ある。これは、保護貿易 (幼稚産業保護) の根 拠となる。第Ⅱ節で述べたように、これは日本 でも高等学校の教科書の貿易理論には必ず書い てある内容である。また、分業の利益があると いっても、短期的には分業による調整コストが 発生する。すなわち、比較劣位産業の縮小によ り発生するコストなどである。比較優位産業の 拡大が、比較劣位産業の縮小から発生する資源 を吸収できるかどうかという問題である。また、 貿易は国内における所得分配に影響を与える。 分業による貿易によって利益を受ける人と不利 益を被る人がいる。比較優位に基づく分業の利 益を考える場合には、これらを考慮しなければ ならない。 NCEE のテキストでは、グローバル化 (貿 易の自由化) の現実の問題は、これらの原理を 理解した上で、グローバル化に対する賛成意見 と反対意見の比較という形で行われている。た だし、基本的な立場は、グローバル化を否定す るものではない。

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Ⅳ.貿 易 ゲ ー ム NCEE のアクティビティは、貿易に関する 原理 (スタンダード) を学ぶためのものである。 これに対して、南北間の貿易の現実を学ぶため の教材として、イギリスの NGO の 1 つである クリスチャン・エイド (Christian Aid) によっ て開発された貿易ゲームがある。本節では、こ の貿易ゲームの考え方を検討する。 貿易ゲームは、開発教育や国際理解教育の教 材としてよく知られたものである。中学校の教 科書では、文教出版がこれを取り上げている4) なお、本稿で取り上げる貿易ゲームは、基本的 に大津[1992]に基づいている。また、貿易 ゲームの改訂版である新・貿易ゲーム5)を参考 にしている。両者は、状況設定で異なるが、基 本的な内容は同じである。また、貿易ゲームの 実践結果が、インターネットのウェブページで いくつか紹介されている。 貿易ゲームを簡単に紹介すると次のような内 容である。 ゲームの参加者の 3〜4 人を 1 つのグループ として 12 のグループを作る。12 のグループを、 A レベル、B レベル、C レベルと、3 つのレベ ルにそれぞれ 4 グループずつ分ける6)。A レベ ルのそれぞれのグループ (イギリス、フランス、 日本、アメリカ) には、ハサミ 2 本、定規 1 つ、 三角定規 1 つ、分度器 1 つ、コンパス 1 つ、鉛 筆 2 本、B4 用紙 1 枚、貨幣 5 千円が与えられ る。B レベルのそれぞれのグループ (中華民国、 ブラジル、アルゼンチン、韓国) には、定規 1 つ、分度器 1 つ、B4 用紙 10 枚、貨幣 3 千円が 与えられる。C レベルのそれぞれのグループ (ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、バングラ デッシュ) には、鉛筆 1 本、B4 用紙 5 枚、貨 幣千円が与えられる。それぞれのグループは、 与えられた道具と材料を使用して、決められた 規格の紙型を作る。これが製品である。紙型は、 三角定規のサイズ (2 千円)、分度器のサイズ (2 千円)、直径 13cm の円形 (5 千円)、7cm× 10cm の長方形 (3 千円)、1 辺 7cm の正三角形 (千 5 百円) である。ただし、製品の価格は ゲームの途中で変更されることもある。各グ ループの目的は、一定の時間 (30 分) で、与 えられた道具と材料を使ってできるだけ多くの お金を稼ぐ (資産を含む富を増やす) ことであ る。すなわち、このゲームは、できるだけ多く の富を築くことを争うゲームである。 A レベルのそれぞれのグループはすべての 道具と材料がそろっている。ただし、材料であ る紙の量が少ないが、道具や貨幣が多く与えら れている。B レベルのグループと C レベルの グループは与えられた道具と材料だけでは製品 の生産ができない。C レベルのグループはもっ とも不利な状況である。ただし、この配分は ゲームの参加者には知らされていない。C レベ ルのグループは、与えられる道具と材料だけで なく、取引や情報に関して不利な条件が課せら れることもある7) このゲームにおいて、道具や材料は交換 (ま たは貸借) が可能であり、この交換が貿易であ る。「このゲームは現実世界における先進工業 国と発展途上国の貿易関係をあらわしたもので ある」8)とされる。これは、A レベルのグルー プは資本 (道具) が多く与えられており、原料 (材料である紙) が少なく、B と C レベルのグ ループは資本が少なく、原料が多いことを意味 すると思われる。ただし、全体に与えられた、 それぞれの道具の数は、鉛筆が 12 本であるこ とを除けば、グループの数よりも少ない。した がって、すべてのグループが道具を使うために は、貸し借りが必要になる。 そして、このゲームで学ばせたいことは、 「豊かな国はますます豊かに、貧しい国はます ます貧しくなっていくのはなぜか、を身をもっ て理解できる」9)、「貿易が豊かなグループをよ り豊かにし、経済格差を拡大することを実感す る」10)などとされる。また、新・貿易ゲームで は、「このゲームの中では、どのグループも自 由に製品をつくり、マーケットで売ることがで きます。これは、いわゆる「自由貿易」の原則 です。この「自由貿易」が、開発途上国を不利 な立場に追いやり、南北格差を助長するといっ た、構造的な問題があることについて考えてみ てください」11)となっている。 以下では、これらの目的と関連して、この ゲームの考え方や問題点を検討する。もちろん、

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貿易ゲームは、現実の一面を取り入れただけで あり、現実のすべての要素を取り入れられるわ けではない。しかしながら、それから教訓を引 き出すのであれば、それがゲームのどのような ルールまたは前提から引き出されたのか、どの ような限界があるのかを知っておくことは必要 である。 問題点の第一は、このゲームから貿易が経済 格差を拡大するという結論は引き出せないこと である。このゲームでは、一般的には A、B、 C レベルのグループの順に稼ぐ金額が多い。そ れは言うまでもなく、与えられた道具と材料の 量の相違によるのであり、貿易が原因ではない。 NCEE のスタンダードの 6 で表わされるよう に、貿易自体は双方に利益を与えているのであ る。貿易は強制されたものではない。したがっ て、利益がなければ、貿易しなければよいから である。B と C レベルのグループは貿易がで きなければ、製品の生産はできないのである。 ただし、このことは貿易の意義として指摘され ている12) さらに、与えられた資本 (道具) が少ない C レベルのグループが稼ぐ金額がもっとも少ない という結果は必ずしも成立しない。製品を生産 するためには、道具や材料の交換 (貿易) が必 要になる。与えられる道具と材料の量からいえ ば、先進国 A レベルのグループの道具または 貨幣と発展途上国の材料の交換になるが、どの ような交換比率になるかは、交渉 (作戦) のう まさで決まる。このため、必ずしも A、B、C レベルのグループの順に稼ぐ金額が多いとは限 らない。作戦によって A レベルのグループ (先進国) が下位、B や C レベルのグループ (発展途上国) が上位になる可能性がある13) 貿易は、それぞれのグループに与えられた道具 や材料の量をお互いに知らないという状況で、 限られた時間内での交渉による取引である。し たがって、作戦や交渉のうまさで、限られた時 間でより有利な交換ができれば、良い結果が得 られる。それがこのゲームのおもしろさにも なっている。 また、このゲームでは、先進国のグループは 道具と材料 (ただし用紙 1 枚) のすべてを与え られている。しかし、先進国が道具のみで、発 展途上国が材料のみであれば、どちらが有利と はいえない。これは、OPEC と先進国の貿易 を想定してみれば分かることである。なお、 ゲームでは、先進国は原料が少ないが、貨幣 (資金) が多く与えられている。したがって、 材料の購入が可能であるという設定になってい る。 第二に、このゲームでは、貿易による分業の 結果 (特化) が発展途上国 (特に後発発展途上 国) に不利であるという、重要な問題が扱えな いことである。発展途上国の貿易のもっとも重 要な問題は、比較優位に基づく特化にかかわる 問題である。すなわち、発展途上国の経済の問 題は、モノカルチャーに特化していることであ る。それらの作物は、需要の所得弾力性が低く、 価格は不安定である。このことは、授業の中で は触れられているが、ゲームから引き出される 結果ではない。 B と C レベルのグループの場合、どの製品 を作るかは、交渉で手に入れることができた (または借りられた) 道具によって決まる。モ ノカルチャーの問題を取り入れるとすれば、B と C レベルのグループが作った製品を見て、 その価格を不利に扱う (価格を下げる) という 対応になる。ただし、このゲームでは A レベ ルのグループ (先進国) と B と C レベルのグ ループ (発展途上国) が同じ製品を作る可能性 もある。 また、発展途上国が貿易で経済発展するため には、モノカルチャーから脱して労働集約的な 産業やより付加価値の高い産業を発展させるこ とが必要になる。そのために、そのような産業 の製品の輸入を抑制して幼稚産業を育成すると いうのが、保護貿易論である。しかし、この ゲームでは、そのような状況を扱うことはでき ない。 新・貿易ゲームでは、上述したように、「自 由貿易」が、開発途上国を不利な立場に追いや り、南北格差を助長する、と述べられている。 これは、一般的には A、B、C レベルのグルー プの順に稼ぐ金額が多いことを言っていると思 われる。ただし、この場合の「自由貿易」とは、 「このゲームの中では、どのグループも自由に 製品をつくり、マーケットで売ることができま

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す。これは、いわゆる「自由貿易」の原則で す」14)という意味である。したがって、南北格 差を助長しない貿易とは、発展途上国が幼稚産 業保護のために輸入を規制するという意味での 保護貿易ではなく、A レベルのグループ (先 進国) の自由な生産や販売を規制する (生産し てよい製品や量を規制する) という貿易になる。 これは、南北格差の是正のために、世界全体 (特に先進国) の経済活動を調整 (規制) する ということである。 第三に、この貿易は企業の貿易というより、 国が管理する貿易と言ってよい。このゲームで は、材料や道具の交換が、最終生産物である製 品の生産を意識して行なわれる。したがって、 このゲームは国が貿易を管理している状況だと 言ってよい。しかし、通常の貿易は、企業の利 益を求める行動に基づいて決まる。すなわち、 輸出または輸入をする企業に利益があるかどう かで貿易をするかどうかが決まる。したがって、 国全体の利益の観点から、国が企業による貿易 を規制する場合もある。これが保護貿易である。 このような規制をしない貿易が自由貿易である。 しかし、このゲームでいう「自由貿易」は、前 述したように通常の意味の自由貿易とは異なる ものである。 第四に、このゲームはグループ (国) とグ ループ (国) の闘争を表わしていることである。 このゲームは、できるだけ多くの富を築くこと を争うゲームである。順位を争えば、単に自分 達のグループの富を増やすだけではなく、他の グループの生産活動を抑えたいという発想にな る。しかしながら、経済活動の目的は、より豊 かになろうとすることであり、他の国よりもよ り豊かになろうとすることではない。したがっ て、ともに豊かになることを否定するようなも のではない。このような経済は、闘争でも助け 合いでもなく、ビジネスとしての協働が成立す る世界である。また、このゲームの貿易はグ ループ (国) の間の交渉で決まるものであり、 需要と供給で価格が決まるというような競争市 場ではない。この交渉による貿易は不正 (特に 発展途上国に不利な不正) に満ちているという 設定である。 貿易ゲームは、上述したように交換の利益を 示すことはできるが、比較優位に基づく分業と その利益を示すことができない。また、この ゲーム自体が、そのような市場原理に基づいて 演じられるものではない。もとより、そのよう なことはこのゲームの目的ではない。発展途上 国の経済の困難を共感させることが目的である。 しかし、発展途上国の経済の困難は、資本や技 術の不足や産業構造によるのである。貿易自体 は、貿易がない状態に比べれば、利益をもたら しているのである。ただし、発展途上国の経済 状態を現状の貿易で改善しようとするのであれ ば、市場原理とは異なる貿易が必要になるであ ろう。それは、分配の公正という発想であり、 貿易ゲームでも取り上げられているフェアト レードである。次節では、フェアトレードにつ いて検討する。 Ⅴ.フェアトレード フェアトレードは、大津[1992]では「第三 世界ショップ」として取り上げられている。ま た、新・貿易ゲームでも「通常の市場原理とは 異なる、オルタナティブな (もうひとつの) 価 値観に基づく「貿易」として、「フェアトレー ド (公正な貿易)」と呼ばれる取り組みがある ことを知る。フェアトレード団体 (NGO) に 求められること、取り組みの難しさや限界につ いて考える」15)として、取り上げられている。 また、第Ⅱ節で述べたように、高等学校のいく つかの教科書では、南北問題と貿易を扱う個所 でフェアトレードが紹介されている。ただし、 フェアトレードとは、アジアやアフリカ、中南 米の発展途上国と言われる国や地域の人たちが 作った製品を長期的に適正な価格で買い、彼ら の生活と生産が持続可能になるようにしようと する貿易である、というものである。フェアト レード製品には、コーヒーやバナナ、チョコ レートのような食品から、手工芸品や衣服など がある。フェアトレードは、貿易ゲームの貿易 とは異なる「公正な貿易」の発想といってよい。 本節では、このフェアトレードの考え方や問題 点を検討する16) この貿易に関しては以下のような問題を指摘 できる17)。なお、以下では、大津[1992]で

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も取り上げられている。コーヒーのフェアト レードを想定して問題点を検討する。 第一に、フェアトレードで取引されない生産 者に対する影響が問題になる。フェアトレード の生産者はフェアトレードによって利益を得る が、フェアトレードでより高い価格を保証され た生産者が生産量を増加すれば、生産物 (コー ヒー) の価格は下がり、フェアトレードで取引 されない生産者の収入の減少になることである。 第二に、フェアトレードは、生産の改善や転 作に対するインセンティブを生産者に与えない ことである。フェアトレードで価格 (したがっ て生活) が保障されれば、生産者が自立して フェアトレードが不必要になるような状況への インセンティブがない。したがって、買い手が 常に生産者を指導し監督するような生産が必要 になる。もし、それがなければ、単に生産者に プレミアムを支払うだけの取引になってしまう。 第三に、フェアトレードは、発展途上国の生 産者を助ける効率的な方法かどうかということ である。フェアトレードは、発展途上国の生産 者の状況を改善するための資金を与えるという 意義がある。ただし、これがそのためにもっと も効率的な方法かどうかは問題がある。なぜな ら、消費者が提供するプレミアム (市場価格に 対する上乗せ) のすべてがフェアトレードの生 産者のために使われるわけではないからである。 これは、消費者が提供するプレミアムの一部が、 フェアトレードの費用として消えてしまうから である。これは規模の小さい取引にかかわる効 率の悪さに起因するものである。 これらに対するフェアトレードからの反論は、 生産者の困難の原因が過剰生産ではなく、コー ヒーの買い付け業者が生産者から不当に安く買 い叩いている、多国籍企業が不当な利益を得て いるというものである。しかしそうであれば、 フェアトレードでは、生産者から高く買って、 消費者に安く売ることが可能になるはずであ る。しかしながら、フェアトレードの製品の消 費者への販売価格は、そうでない製品よりも高 いのである。大企業は大規模な取引をおこなう ことによる規模の経済 (コストの削減) が達成 できる。小規模の取引であれば、利潤を少なく しても、費用の高さがそれを相殺してしまうで あろう。 Ⅵ.貿易と南北問題の関係を どのように教えるべきか 本節では、第Ⅲ節で述べた NCEE のテキス トの考え方と第Ⅳ節で述べた貿易ゲームを比較 して検討する。貿易ゲームと NCEE のテキス トは 2 つの点で対照的である。1 つは、ゲーム の目的であり、他の 1 つは、貿易や市場の評価 にかかわる問題である。本節では、この 2 つと 関連させて、貿易と南北問題の関係をどのよう に教えるかを検討する。 NCEE のゲームはスタンダードで表わされ る原理を教えることを目的としている。貿易に 関する原理は、交換は相互に利益を与えること と、貿易は比較優位に基づいて行われることで ある。また、比較優位は絶対優位ではないこと が貿易を理解するための基本である。ゲームが 学ばせようとしている結果は、必ず成立する。 ただし、これだけでは、現実を知ることはでき ない。したがって、これらの理解のもとに現実 を知るための工夫が行なわれている。具体的に は、グローバル化に対する賛成意見と反対意見 を取り上げて検討させている。また、現実を理 解するために経済的見方や考え方として重要な ことは、間接的影響や長期的効果である。貿易 の場合には、比較優位に基づく分業の長期的効 果や、分業による調整コスト (比較劣位産業の 縮小により発生するコストなど) である。これ らの間接的影響や長期的効果をゲームで理解す ることは困難である。 一方、貿易ゲームは、南北貿易の現実を教え ようとするものである。しかし、現実の一面を ゲームに取り込むことはできるが、現実をゲー ム化することには、第Ⅳ節で述べたような問題 点もある。また、ゲームで描く状況を一般化し て、現実を説明することは困難である。現実は 複雑であり、現実をゲーム化することは、場合 によってはミスリーディングになる。ゲームの 目的は「貿易が豊かなグループをより豊かにし、 経済格差を拡大することを実感する」18)ことで あるが、貿易によって経済発展している発展途 上国 (アジアの国など) は多く存在する。また、

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世界銀行のレポート[2002]では、貧困化して いる国はグローバル化から取り残されていると 指 摘 し て い る19)。こ れ ら の 国 は、モ ノ カ ル チャーであり、より有利な貿易 (労働集約的な 生産物の輸出) に転換することに失敗した国で ある。ただし、これらの国がモノカルチャーで あることは、多くの教科書で指摘されているよ うに、歴史的な背景がある。いずれにしても、 グローバル化に背を向けて、自給自足の経済で 発展している国は存在しない。 貿易ゲームが目的とすることは、ある種の発 展途上国 (後発発展途上国) の経済的苦境を描 いて、それに対する共感を育成しようとするも のである。ただし、ゲームから、生徒は現状の 問題点とその解決策として、何が必要だと学ぶ のであろうか。これは、市場経済をどのように 評価するかにも関係する問題である。 前述したように、貿易ゲームでは、市場や分 業 (特化) の利益は見えない。また、発展途上 国の経済状態を現状の貿易で改善しようとする のであれば、市場原理とは異なる貿易が必要に なるであろう。したがって、このゲームが示唆 する、発展途上国にとって望ましい貿易は、 「市場原理とは異なる」貿易である。市場原理 に基づく貿易は、競争の世界であり、格差を拡 大する。これに対して、市場原理に基づかない 貿易は、共生の世界であり、平等な世界である という発想である。そして、このゲームを使用 した授業でも示唆されているように、貿易は、 フェアトレードが理想となる。 しかし、すべての貿易がフェアトレードにな るとすれば、次のような問題がある。第一は、 生産量を規制しなければならないことである。 価格を規制するのであれば、生産量も規制する 必要がある。第二に、公正な価格 (分配) をど のように決めるかという問題がある。現在の フェアトレードの価格は、買い手である NGO が与えた公正である。もし売り手と買い手が対 等な関係であれば、話し合って決めることは、 困難である。また価格以外に関しても、どのよ うな生産条件が公正であるかに関しては、多様 な意見があろう。これらを決めることは困難で ある。 ただし、そのような貿易は、新・貿易ゲーム で述べられている「自由貿易の原則」を否定し た貿易の発想とは一致する。このような貿易は、 助け合いの世界の貿易として描くこともできる が、すべてのグループの生産や販売が統制され るような貿易として描けば、支配と従属、権力 闘争の世界になるであろう。 グローバリゼーションを厳しく批判する経済 学者として、スティグリッツがあげられること が多い20)。しかし、スティグリッツはグロー バリゼーション自体を否定しているのでなく、 グローバリゼーションの方法 (貿易などのルー ルの公正) を問題にしているのである21) 貿易の問題は、比較優位に基づく分業にかか わっている。スティグリッツの批判は、貿易 ルールが発展途上国に対して不公正であるとい うことである。具体的には、次のことである。 第一は、発展途上国が比較優位を持つ産業 (労 働集約的産業) に対して、先進国が市場を十分 に開放していないことである。第二には、発展 途上国 (特に貧困国) の調整コストが大きいた めに、発展途上国にとっては貿易自由化の利益 が小さい (一部の小規模の最貧国にとっては、 コストが利益を上回る) ことである。ここで言 う調整コストとは、比較劣位産業が縮小するこ とによって生じる問題である。貿易 (分業) に よって、比較劣位産業は縮小せざるを得ないが、 そこでの資源 (労働力など) が拡大する比較優 位産業に再配分されることが必要になる。この 調整ができないと、失業など資源の遊休が生じ る。したがって、貿易の自由化はそれらのこと を考慮して進められなければならない。 貿易と南北問題の関係を考える場合には、こ れらの問題がフェアトレードよりも重要である。 フェアトレードで先進国の国民が痛みを感じる ことはないが、貿易のルールを公正にすること は、場合によってはかなりの痛みを生じること になる。これは農産物や労働集約的な製品の市 場開放によって生じるのである。 ただし、貿易のルールを公正にしても、発展 途上国の貧困が解決できるわけではない。貧困 の解決はその国の経済力が高まる以外にない。 後発発展途上国の現状などからすれば、貿易の ルールや政策だけでは解決しないであろう。し たがって、発展途上国に対する支援が必要であ

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る。ただし、発展途上国の生産者が直面する問 題を解決するためには、発展途上国の生産者が 市場原理の下で自立できる状態にすることが必 要である。それは、市場原理の理解のうえに、 それを利用することでしか達成できない。 Ⅶ.経済教育と教育的発想との関係 第Ⅵ節で述べたような考え方自体は否定され ないかもしれない。しかし、市場原理によらな い解決は、教育的発想とは親和性が高い。また、 経済的な発想は、教育の場では軽視される可能 性が高い。本節では、そのことに関して検討す る。市場原理によらない解決が教育の場におい て支持されやすい理由としては次の 3 つの理由 が考えられる。 第一に、市場原理によらない解決では、助け 合いとしての協力や協働が強調されるが、これ は教育的には魅力的に見えるからである。小さ な集団での協力や協働の成果は見える。これに 対して、市場の利点は見えない。見えるのは、 市場での不正な行為や競争が引き起こす社会悪 だけである。 第二の理由として、市場原理によらない解決 は、「私たち一人一人に何ができるか」を考え るという態度形成とも親和性が高いことである。 教育の目的は人格の形成である。したがって、 モチベーションに影響を与えることが重視され る。市場原理によらない解決は、私たち一人一 人がみんなのことを考えて行動する美しい世界 を描くことができる。これに対して、市場経済 は、ルールに従って自己利益を追求する経済で ある。これは美しい世界ではない。 第三に、このような発想は、経済現象を人間 行動に起因させるような素朴な考え方と親和性 が高いことである。経済現象は、人間行動を通 じてあらわれる。したがって、経済現象を人間 行動に還元しやすい。素朴な発想では、価格を 下げれば安く買える、価格を上げれば高く売れ る、ということになる。需要と供給によって価 格が決まるという発想ではない。また、このよ うな発想は「誰が悪いか」という発想と結び付 きやすい。「誰が悪いか」は分かりやすいから である。これらの素朴な発想に対して、経済的 な発想は、常識や直感で理解できるものではな い。需要と供給による価格決定や比較優位によ る分業は日常的な常識で理解できるものではな い。また、例えそれらの原理を知っていたとし ても、それらを現実の問題に適用するためには、 それらの考え方を活用したり応用したりする力 が必要になる。 市場原理に基づかない解決が教育の場で支持 される理由として以上のようなことが考えられ る。しかしながら、これらの発想は、小さな社 会には適用できても、大きな社会には適用でき ない。小さな社会というのは、お互いの顔が見 えるような人間関係の社会である。これに対し て、大きな社会というのは、見知らぬ他人と他 人の関係であり、価値観を異にする人たちの集 まりである。具体的には、国全体や国を超えた 国際社会である。 第一の理由に関して言えば、小さな社会にお いてのみ、協力と協働という、市場原理に基づ かない取引が可能である。小さな社会では、お 互いの顔が見える人間関係であり、また価値観 を共有することができる。価値観を共有しない ものは、その集団に入る必要がないからである。 したがって、自分の利益を考えないような協調 と協働が可能になる。しかし、複雑な利害関係 を持つ大きな社会では、市場原理に基づかない 取引は、権力闘争と個人の自由のない世界と なってしまう。大きな社会を、市場競争のない、 協力と協働の世界として描くことは、ユートピ アを描くことに過ぎない。 市場経済は競争の世界として描かれるが、市 場経済は協働の世界でもある。協働は、市場経 済の特性としてみなされることは少ない。しか し、市場経済は、その成果を生み出すためには、 協働が必要である。ただし、この協働は、非市 場経済 (共同体など) での協働とは異なるもの である。この場合の協働は助け合いではなく、 ビジネスとしての協働であり、分業である。市 場の協働は、仲間集団の恒常的な関係ではない。 市場は、他人と他人の協働、目的を同じにしな い人々の間での協働を可能にする。市場経済は、 セルフインタレスト (自分の関心や目的) に基 づいて行動できる経済である。 第二と第三の理由に関しても、このような発

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想を適用できるのは小さな社会に対してのみで あるといえる。その理由に関しては、密接に関 連している。 まず、大きな社会では、個人の行動の社会的 結果を考えて行動することは困難である。小さ な社会では、仲間のことを考えて行動すること はできる。小さな社会ではその結果が見えるか らである。しかしながら、仲間のための行動は、 仲間以外には不利益になることもある。フェア トレードもそうである。フェアトレードの評価 は、その間接的な影響 (フェアトレード以外の 生産者に与える影響) や長期的な効果 (生産者 の自立を可能にするかどうか) という問題にか かわっている。直接的な効果としてフェアト レードで生産者が経済的に助かるということは 見えるのであるが、間接的な影響や長期的な効 果は見えない。大きな社会では、意図とその結 果は別である。個人の行為は、他の行為を誘発 して、意図とはまったく別の結果をもたらした り、他の問題を引き起こしたりすることもある。 意図や目的の正しさを評価するだけなら簡単で あるが、その社会的結果を考える場合には、間 接的な影響や長期的な効果を考えなければなら ない。このことは、経済現象を個人の行動に還 元させるような素朴な発想では、理解できない ことを意味する。消費者が、間接的な影響や長 期的な効果を考えて、製品を購入することなど 不可能である。 大きな社会で、いかに良い社会を構築できる かは、制度や政策にかかわる問題である。私た ち一人一人の願いや思いでは解決できないこと がある。それを解決するのが、政治や経済のシ ステムである。「私たち一人一人に何ができる か」は、教育的には魅力的にアピールする。し かし、それが政治や経済から目をそらすもので あってはならない。 Ⅷ む す び 本稿では、貿易と南北問題の関係に関して、 NCEE の経済教育と貿易ゲームの考え方を比 較検討した。それらの考え方の相違には、市場 経済に対する評価の相違があり、また、それが 問題解決の考え方に反映されている。貿易と南 北問題に関しては論争が多く、単純に結論を出 すことはできない。しかし、いずれにしても、 それらの理解には、市場経済の理解が必要であ り、そのためには経済的な発想が必要である。 教育の役割は、そのような考える力を育成する ことである。このこと自体は否定されないかも しれないが、教育の場では、経済的な発想に対 する無理解もあり、このような発想は希薄であ る。貿易ゲームやフェアトレードでは、発展途 上国の窮状に対する共感や「私たち一人一人に 何ができるか」が強調されるが、それらは政治 や経済に対する関心を育てることでなければな らない。あらゆる問題は、制度や政策を良いも のにすることでしか解決できないからである。 注 1 ) NCEE[1997]参照。

2 ) William Bosshardt et al. [2006],高等学校レ ベルのテキストである。 3 ) 生産には労働力だけが必要であるという仮定に 基づいている。 4 ) 伊東他[2006]p. 156 5 ) 開発教育協会・かながわ国際交流財団[2006] 6 ) 新・貿易ゲームでは A から D の 4 つのレベル の国に分けられるが,D レベルは,鉛筆 1 本, 紙 1 枚,クリップ (貨幣) 1 個という厳しい状 況になっている。これは後発発展途上国の状 況という意味であろう。 7 ) 新・貿易ゲームでは,「仕切りやタイプの人を A レベルの国に配置する」,「A レベルのグ ループの位置は,ゲームの流れから取り残さ れないように,マーケット (製品を集めると ころ) に比較的近いところにする」,「B と C レベルの国が作った製品の価格を突如として 下げる」,「製品の検査を A レベルのグループ にはやさしく,それ以外のグループには厳し くする」など,与えられる道具や材料の量以 外の差がつけられる。 8 ) 大津[1992]p. 67 9 ) 大津[1992]p. 60 10) 大津[1992]p. 62 11) 開発教育協会・かながわ国際交流財団[2006] p. 12 12) 大津[1992]p. 68 13) 「ゲームの結果は,全般的傾向としては,A グ ループ・B グループ・C グループの順に大きい 富を築いたが,C グループの国が 4 位になっ たり,A グループの国が 8 位になったりとい う予想外の成績をおさめたグループもある」

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(大津[1992]p. 66) 14) 開発教育協会・かながわ国際交流財団[2006] p. 12 15) 開発教育協会・かながわ国際交流財団[2006] p. 27 16) 新・貿易ゲームでは,フェアトレードの「有効 性や課題」「取り組みの難しさや限界」(開発 教育協会・かながわ国際交流財団[2006]p. 27)という言葉が出てくる。これらが何を意味 するかは不明であるが,フェアトレードには 「課題」があることが指摘されている。 17) フ ェ ア ト レ ー ド に 対 す る 批 判 に 関 し て は, Economist[2006]参照。 18) 大津[1992]p. 62 19) 世界銀行レポート[2002]では,「グローバル な統合が貧困を削減する可能性は,中国,イ ンド,ウガンダ,ベトナムの事例にはっきり と現れている」(p. 6) とされている。このう ちウガンダは大津[1992]では,C グループ として国名があげられている。 20) スティグリッツ[2006],[2007]参照。 21) 「このように,私はグローバリゼーションの問 題点をきわめて声高に訴えてきたので,グ ローバリゼーションそのものに反対している ものと,多くの人に誤解されている。しかし, 私はグローバリゼーションには ―― それが適 切に管理される限りは ―― 巨大な潜在的力が あると思っているのである」(スティグリッツ [2007]p. 266)。なお,彼の著書に『フェアト レード』(2007) があるが,この本も,現在の 貿易ルールが不公正であるという主張であり, 分配の公正を主張しているものではない。 参 考 文 献

[ 1 ] Bosshardt, William et al. Focus : Globalization, NCEE. 2006

[ 2 ] Economist Voting With Your Trolley. Econo-mist, 2006, 12, 9 [ 3 ] 伊東光晴他『公民』文教出版,2006 [ 4 ] ジョセフ・スティグリッツ著・楡井浩一訳 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正 す』徳間書店,2006 [ 5 ] ジョセフ・スティグリッツ & アンドリュー・ チャールトン著・浦田秀次郎監訳・高遠裕子 訳『フェアトレード 格差を生まない経済シ ステム』日本経済新聞社,2007 [ 6 ] ジョセフ・スティグリッツ著・藪下史郎監 訳・藤井清美訳『スティグリッツ教授の経済 教室 グローバル経済のトピックを読み解く』 ダイヤモンド社,2007 [ 7 ] 開発教育協会・かながわ国際交流財団『新・ 貿易ゲーム[改訂版] 経済のグローバル化 を考える』開発教育協会,2006

[ 8 ] NCEE, Voluntary National Content Standards in Economics, NCEE, 1997 (『ス ダ ン ダ ー ド 20』翻訳研究会訳『経済学習のスタンダード 20 21 世紀のアメリカ経済教育』消費者教育 支援センター,2000) [ 9 ] 大津和子『国際理解教育 地球市民を育てる 授業と構想』国土社,1992 [10] オックスファム・インターナショナル・日本 フェアトレード委員会訳・村田武監訳『コー ヒー危機 作られる貧困』筑波書房,2003 [11] ポール・クルーグマン著・山岡洋一訳『ク ルーグマンの良い経済学 悪い経済学』日本 経済新聞社,1997 [12] 世界銀行・新井敬夫訳『グローバリゼーショ ンと経済開発 世界銀行による政策研レポー ト』シュプリンガー,2002 [13] ティム・ハーフォード著・遠藤真美訳『まっ とうな経済学』ランダムハウス講談社,2006 [14] Wight B. J., Morton J. S., Teaching the Ethical

Foundations ofEconomics, NCEE, 2007 [15] ヤグディシュ・N.バグワッティ『グローバ

リゼーションを擁護する』日本経済新聞社, 2005

*参考文献の NCEE は National Council on Economic Education の略である。

参照

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