米国における「教員の効果に関するシステム」
創設をめぐる改革動向
―― コロラド州の取り組みに着目して ――
藤 村 祐 子 *
Reforming Coloradoʼs Teacher Evaluation System
―― Implementation of New Teacher Effectiveness System ――
Yuko FUJIMURA
Abstract
The Obama administrationʼs Race to the Top competitive grant program initiated an unprecedented wave of state teacher-evaluation reform across the country. Over $4 billion has been dedicated to 19 states that have created robust plans that address the four key areas of K-12 education reform. One of them is effective teachers and school leaders. For teachers and school leaders to become more effective, states should have undertaken new teacher evaluation based on student outcomes. Two of the states―Tennessee and Delaware―were initial Race to the Top winners, while the other states, including Colorado, won smaller grants in later rounds. This paper offers an assessment of how Colorado has undertaken the preparation and implementation of new teacher evaluation system. Colorado was selected because it has ever implemented “teacher evaluation approached professional development”, and because it also identified lessons that be incorporated into national Teacher Incentive Fund program. Research consisted of analysis of reports and data from the state education departmentsʼ websites and from a working group of Educator Evaluation ; a study of media coverage of the reform efforts. Results of the study indicated how Colorado has been conflicted over teacher evaluation based on student outcomes. Race to the Top program has demanded states in 50% teacher performance assessment based on student achievements and Colorado had no choice but to implement it.
キーワード:教員政策、職能開発、教員評価
1.課 題 設 定
本研究は、オバマ政権による教育政策下で進められる teacher effectiveness system (以下、「教員 の効果に関するシステム」) 創設をめぐる改革の動向を明らかにすることを目的とする。
1990 年代後半以降、連邦政府による州や学区の教員政策に対する本格的な関与がすすめられてき た。とくに、2002 年の「どの子も置き去りにしない法 (No Child Left Behind Act of 2001)」(以下 NCLB 法) 制定以降、学力テストに基づく生徒の学力成長度 (performance achievement) を教員評 価や処遇へ反映させる仕組みが形成されつつある。2009 年のオバマ政権の誕生以降も、連邦政府の 教員政策に対する本格的な関与はこれまで同様、継続された (高橋 2012)。
オバマ政権は、「米国再建・再投資法 (American Recovery and Reinvestment Act of 2009)」の一 環とする「頂点への競争 (Race to the Top)」という名の教育政策を打ち出した。これにはおよそ 43.5 億ドルの予算措置が講じられ、世界の競争市場の中で勝ち残れる人材を育成するために、公教育 の抜本的な改革が目指された。「Race to the Top」(以下、RTTT) は、その予算が全米に均等に分配 されるのではなく、州対抗レースを勝ち抜いた州のみが優先的に分配される“トップ”を目指した競 争プログラムであった。つまり、各州は賞金獲得をめざし、連邦政府の示す基準に基づき教育改革を すすめることになる。実際、第 1 回 RTTT では 40 州と D. C. が参加し、連邦政府の示す選考基準に 沿った改革プランを提出しており、RTTT プログラムが州の教育に与える影響は小さくないことが 分かる。 RTTT プログラムの特徴は、教員関連政策に重点が置かれた点にある。それは、生徒の「成長度」 に基づく教員評価システムをベースとする教育効果を高めるための「教員の効果に関するシステム」 の構築を重要な選考基準として示している点や、その実現に妨げとなる州法の整備を RTTT 資金の 需給要件のひとつとして示している点からも明らかである。 教員評価をめぐってはこれまでも、NCLB 法のアカウンタビリティ条項のもと、生徒の学力成果 を評価と処遇へ関連付ける教員評価報酬システムの導入がすすめられつつあった。しかし、州が改革 を進める際には、システムに対する教員の同意を得ること、また教員間の「協働性」を維持しシステ ムを通して職能開発を促進することに腐心するなど、各州は連邦の方針に基づきながらも、教員の専 門性や「恊働性」を保障しながら共同的に改革を進めてきた (藤村 2011a)。一方 RTTT プログラム では、競争的資金獲得をえさに、生徒の学力成長度を活用した評価尺度の設定やその阻害要因となる 関連法の整備などの重要な事項の改革を州に迫るものであり、「自主的参加」の形態をとりながらも、 連邦の方針に基づく教員評価システムの改革が強引にすすめられていると予測される。 そこで本稿では、RTTT プログラムの下、州レベルで教員政策がどのように進められているか、 教員の専門性や共同性の保障という視点から、その改革の動向を明らかにする。その際分析対象とし て、コロラド州の「教員の効果に関するシステム」創設の過程に着目する。同州に着目する理由は 2 点ある。まず同州はこれまで、教員の職能開発を意識した共同的な教員評価システムを創設してきた 州である。とりわけ、コロラド州デンバー学区による教員評価システムは、職能開発を目指す教員評 価報酬システムの全米モデルとされたシステムであり、教員の職能開発を重要視し共同的に教育改革 を進めてきた経緯を有する (藤村 2011b)。このような特徴を有する同州は、教員の成果の追求やそ のための法改正を強制する RTTT プログラムに対しても、他の州以上に、教員の専門性や共同性の 確保に腐心しながら改革を進めてきたと予測される。さらに、同州は第 1 回、第 2 回の申請で敗者と なり、第 3 回目の申請で賞金を獲得している。2 回の敗北を受け 3 回目でようやく勝者となった過程 に、何らかの改革方針の変更があったと予測される。これらの過程を明らかにすることは、州が RTTT プログラムの下、教員政策をすすめる際に抱える葛藤や苦悩を描き出せると考えるためであ る。本研究では資料として、連邦や州の行政文書、会議録、報告書を中心に、新聞記事、関連する教 育団体の資料などを参照する。 本研究に関連する先行研究には、RTTT プログラムに関連するもの、教員政策に関するものなど、 多様な研究がみられる。杉浦 (2012) は、州が RTTT にいかに対応したのか、州の教育政策受容課 程の実態を、ワシントン州の事例を基に明らかにしている。敗者となった同州でさえも、申請に向け て行った法改正による新たな規定や規制による制度的縛りが残る結果となったと述べており、敗者に
さえも影響を与える連邦の集権的な教育政策の実態が明らかにされている。また、北野・吉野・大桃 ら (2012) は、1960 年代からの連邦の教育政策の展開を明らかにしたうえで、最新の教育改革の動 向を分析している。特に、RTTT による教員政策は、教員の資質を「効果」という限定的な概念へ と矮小化するとともに、教師の専門性それ自体をも揺るがすものであると指摘している。また、高橋 (2012) は、RTTT プログラムのもとで展開される教員施策が教員関連法制にいかなる影響を与えて いるか分析している。「RTTT プログラムへの申請にあたり、多くの州が教員評価、テニュア関連の 立法改正を行ったため、資金獲得の可否にかかわらず、連邦教育省の求める教育改革の体制づくりが 全州的に行われた」(155 頁) と述べている。また米国では、NCLB 法から続く一連の連邦による教 育政策に対し「成果」を追求するテスト政策を行き過ぎた改革であると批判する声も上がっている (Ravitch 2010)。 このような先行研究の知見を踏まえ、本稿では、教員の専門性や共同性の保障という視点から、 RTTT プログラムの州の教員政策への影響を「教員の効果に関するシステム」創設に関わる政策決 定過程に着目し、分析する。 2.RTTT プログラムの概要 RTTT プログラムは、連邦政府の示す要件に見合った教育プランを申請した州が賞金を獲得でき るという教育予算獲得競争である。6 つの選考基準と配点が設定され、各州は取得した合計得点で競 い合うことになる。示された基準は、(A) 遂行要素 (125 点)、(B) スタンダードとアセスメント (70 点)、(C) 教育をサポートするためのデータシステム (47 点)、(D) 有能な教員と校長 (138 点)、 (E) 学力不振校のターン・アラウンド (50 点)、(F) 選択基準 (55 点) の 6 つ (500 点) であり、 教員政策に関する選択基準の配点が最も高い。 さらに (D) 項目には、5 つの中項目が設定されている。 (D) (1) 意欲的な教員と校長になるた めの質の高い経路の提供 (2) 成果に基づく教員と校長の効果の改善 (3) 効果的な教員と校長の適切 な配置の保障 (4) 教員と校長の養成プログラムにおける効果の改善 (5) 教員・校長への効果的な支 援の提供、の 5 つである。中でも (2) は、生徒の学力成長度で教員の成果を測定し、処遇を結びつ ける教員評価システムの創設を求める項目であり、その配点は (D) 項目の中で最も高い (表 1 参照)。 当初連邦政府は、勝利したいずれの州も 2 億から 5 億ドルの賞金を獲得することができるとしてい たが、最終的な指針では、獲得できる賞金が州の人口規模に応じて 5 つのカテゴリーに分類された。 3.5 億から 7 億ドル、2 億から 4 億ドル、1.5 億から 2.5 億ドル、6,000 万から 1.75 億ドル、2,000 万か ら 7,500 万ドルの 5 段階であった。コロラド州が獲得可能な財源は、6,000 万から 1.75 億ドルであっ た。ただしこれらの額は目安であり、州の規模や学区教育機関の参加の程度、プラン内容などの要素 学力不振校のターン・アラウンド E 55 一般事項 F 配点
出典:U. S. Department of Eudcation, Race to the Top Program Executive Summary (2009) に筆者加筆修正 選考基準項目
表 1 Race to the Top プログラム選考基準
70 スタンダードとアセスメント B 47 教育をサポートするためのデー タシステム C (21) (58) (25) (14) (20) 138 (1) 意欲的な教員と校長になるための質の高い経路の提供 (2) 成果に基づく教員と校長の効果の改善 (3) 効果的な教員と校長の適切な配置の保障 (4) 教員と校長の養成プログラムにおける効果の改善 (5) 教員・校長への効果的な支援の提供 有能な教員と校長 D 50 125 遂行要素 A
も含めて決定すると示された。また、募集は 2 回に分けて行われ、1 回目の締め切りは 2010 年 1 月 19 日に設定され、準備が間に合わない州は 2 回目に申請することもできた。また、1 回目の敗者も再 度申請可能とされた。審査は、各州が提出した申請書に基づき実施される書類審査と、書類審査で選 ばれた最終候補者へ課せられるプレゼンテーション審査で実施された。 2011 年 5 月 25 日、ダンカン (Duncan, A.) 連邦教育省長官より、3 回目の RTTT プログラムの募 集を行うことが急遽発表された。第 3 回 RTTT プログラムは 2 種類で構成されており、早期教育 (early education) を対象とする新しいプログラムと第 2 回の最終候補者 9 州を対象とした敗者復活 プログラムであった。第 3 回に配分された 7 億ドルの資金のうち、敗者復活プログラムには 2 億ドル が割り当てられた。第 3 回ではこれまでの 2 回と比べて規模が縮小されており、それに合わせ、コロ ラド州の申請可能額も 1,000 万〜5,000 万ドルに縮小された1 ) 。 3.コロラド州の「教員の効果に関するシステム」創設の課程 (1) 第 1 回 RTTT 申請へ向けて ① 背景と申請までの流れ コロラド州は当初より、RTTT 申請に勝算があるといわれ、教育関係者らの間でも申請に対する 姿勢は積極的であった。同州では 2008 年に就学前から後期中等までの一連の教育の改善を目的とす る新しい教育スタンダードやアセスメントの創設を求める生徒の学力プラン (the Colorado Achieve-ment Plan for Kids) プログラムが導入されており、(B) スタンダードとアセスメント、(C) データ の収集と活用に関する選考基準については同プログラムを活用することができ、申請のための教育改 革の素地がすでに整えられつつあった。その一方、(D) 教員政策については抜本的な改革が求めら れた。同州では、教員は“満足”“不満足”の 2 段階によって評価されるなどの教員評価の具体的事 項に関する規定や試用期間教員やテニュア教員の雇用条件に関する規定が州法において示されてお り2 ) 、教員評価に関する改革を進める際にはこれらの法規定の改定が求められたためである。このよ うに、(D) の選考基準に関しては、州法改正を含む抜本的な改革が必要であった。 同州では、RTTT 申請に向け、① 長期的なデータシステム、② スタンダードと評価、③ 教員の効 果、④ 低学力校の 4 つの領域ごとにワーキンググループが設置された。RTTT 申請書は、各ワーキ ングが作成した改革の草案をもとに、RTTT コンサルタント3 ) によってまとめられた。このワーキン グのメンバーは多様な教育関係者で構成されており、広範な意見を取り入れながら共同的に改革が進 められた。 教員の効果ワーキンググループでは、ロペス (Lopez, N.) 州教育庁長官補佐と自然科学博物館長 のスパークス (Sparks, G.) が議長を務めた。ワーキングはテーマごとに 5 つの部会 (効果の差別化、 教員と管理職の養成、実践をサポートするためのデータの活用、指導困難校での教育と経営、教員不 足教科の教育実践) に分けられた。ワーキングの会合は 2009 年 8 月 14 日より 4 回にわたって実施さ れ、最終的に 2009 年 11 月 14 日に草案4 ) 示された。 コロラド州は、2010 年 1 月 19 日、152 頁にわたる申請書を提出した。第 1 回 RTTT プログラムに は 40 州と D. C. が参加した。2010 年 3 月 4 日、コロラド州を含む 16 州が最終候補者として発表され た5 ) 。3 月 15 日に実施された最終審査では、プレゼンターとして、オブライエン (OʼBrien, B.) 副知 事、ジョーンズ (Jones, D.) 州教育庁長官、ウェニング (Wenning, R.) 副長官、ロペス (Lopez, N.) 長官補佐、バーカー (Barker, L.) 長官補佐、コロラド州最大の教員組合である Colorado Education Association (CEA) の代表者の 5 名が参加した。ここで注目されるのは、CEA のメンバーも加えら れていた点である。
② 共同的な教員政策
か。先にも述べたように、申請書の改革案は各ワーキンググループによって作成されたものである。 まず、提出された教員の効果ワーキングによる草案の内容を見てみると、大きく 2 つの方針が示され ている6 ) 。I.学校と教員の継続的な改善を促すデータとスタンダードの活用、II.個人とチームレベ ルでの生徒の学力成果の測定と報酬の提供、の 2 つである (表 2 参照)。 I は教員評価の結果を改善へとつなげるシステムの創設とそのためのスタンダードの作成を目指す ことにより、教員の「専門性」の向上をねらいとしている。II は個人だけでなく組織としての成果を 評価し、報酬を提供するシステムづくりを進めることで、教員間の「協働性」を保障しようとするも のである。この組織単位で成果を追求し教員間の「協働体制」を生み出そうとする点は、これまでの 同州の教員評価システムの特質であり、この理念は第 1 回申請書においても重要視されたと言える。 つまり、連邦政府の示す方針に従いながら、教員の「専門性」「協働性」を保障する教員政策が示さ れた。この原案に基づき、「教員の効果に関するシステム」創設に向けた改革が構想された。 次に、提出された申請書を見てみると、ここに同州の教育改革の特徴が見いだされる。具体的に、 上述の方針に基づく「教員の効果に関するシステム」創設に向け、教育者の効果に関する州知事審議 会 (Governorʼs Council for Educator Effectiveness) の設置が提案されている。同審議会は、教員と 校長の効果の定義と新しい教育者評価システムのガイドラインの作成を任された審議会であり、教育 委員会や教員、校長、保護者、生徒など幅広い 15 のメンバーで構成された (表 3 参照)。この中には、 CEA 委員長であるダールマン (Dallman, K.) も含まれていた。同審議会には、以下の 4 つの任務が ②職能開発プログラムの効果を測定する州統一基準と評価システムの 創設 ③共通の教育者スタンダードと教員評価のためのフレームワークを教 師教育プログラムと学区が共有する ①指導困難校や教員不足教科の教員の確保と維持するためにインセン ティブを活用する。 Ⅱ.個人とチームレベルでの生徒の学力 成果の測定と報酬の提供 ②並外れた生徒の学力向上を達成したチームへのボーナスの提供 ③教員評価への 360 度評価の導入 (同僚、校長、保護者、生徒) ①個人の成長のニーズと職能開発プランをリンクさせる評価
出典:Colorado Department of Education (2009) Coloradoʼs Race to the Top and the American Recovery and Reinvestment Act (ARRA) : Great Teachers and Leaders より筆者加筆修正
Ⅰ.学校と教員の継続的な改善を促す データとスタンダードの活用
表 2 教員の効果ワーキンググループの示す方針
Margaret Crespo, Director Secoundary Education, Thompson School District Lorrie Shepard, Dean, School of Education, University of Colorado-Boulder 大学教員
Kim Ash, Principal, Littleton Preparatory Charter Schools
校 長
Mandi Marcantonio, Student Representative, Colorado State University
生 徒
Towanna Henderson of Denver Public Schools 保 護 者
Matt Smith, Vice-President of Engineering, United Launch Alliance
出典:state council for educator effectiveness〈http : //www.cde.state.co.us/educatoreffectiveness/partner-scee-who〉(2013 年 9 月 30 日アクセス) より筆者作成
議 長
表 3 教員成果ワーキンググループメンバー一覧
事務局長
Kerrie Dallman, President, Colorado Education Association 教員組合 Amie Baca-Oehlert, Vice President, Colorado Eucation Association
Brenda Smith, President, Douglas County Federation of Teachers Jim Smith, President, Douglas County Federation of Teachers Sandra Smyser, Superintendent of Eagle County Schools 学区教育長
Nina Lopez, Special Assistant to Education Commissioner コロラド州教育庁
Bill Bregar of Pueblo District 70, Jo Ann Baxter of Moffat County
学区教育委員会 Jo Ann Baxter, Former Member, Board of Education, Moffat County School District RE-1 Katy Anthes, Colorado Department of Education
副 議 長
課せられた。① 教員と校長の成果の定義づけ、② 成果の段階と能力スタンダードの設置、③ 公正で 厳密な透明性のある教員と校長の評価システムの創設、④ 教員と校長の養成、評価、サポートに関 わる州の教育改革への提言、の 4 つである。これらの事項を盛り込んだ提案書を 12 月 31 日までに作 成することが指示された。 教員の評価と生徒の学力成長度のリンクは、州法改正の必要性を伴う論争的なテーマである。その ためコロラド州では、強引に法改正をすすめるのではなく、多様な教育関係者で構成される「教員の 効果に関するシステム」を構築するための審議会を設置し、その審議会を中心に共同的に改革を進め ることを方針として示した。つまり賞金獲得をめざし、連邦政府の方針に従順なトップダウンによる 教育改革が求められる中、同州では、あくまでも政策決定プロセスにおける「共同性」を重要視しな がら、慎重に教育改革を進めることを選択したのである。これは、法改正をも要求する強引な連邦政 府の方針に鑑みると、大きな賭けであったといえる。 このようにコロラド州では、教員の専門性を重要視する教員政策を、多くの教育関係者と「共同 的」に進めていくことを方針として打ち出したのである。 ③ 教員組合の対応 コロラド州において最大の教員組合である CEA は、教育者の効果に関する州知事審議会の設置を 評価し、第 1 回 RTTT への参加に対し好意的な姿勢を示した。CEA 委員長のイングル (Ingle, B.) は RTTT に関する記者会見に州知事、副知事と共に参加し、以下のようにコメントを残している7 ) 。 CEA の 38,000 人のメンバーを代表して、RTTT 申請の企画をサポートできたことをうれしく 思う。CEA は生徒の学力向上を促進し学力格差を埋めることに取り組んでいる。これには、有 能な教員や管理職がキー要素となる。 CEA は当初より、この学校改革への共同的な取り組みに関与してきた。我々が申請書作成に 取り組む中で、教員と校長の妥当な評価が、我々が達成しようとしているものの基礎になるとい うことが明らかになった。教育者の効果に関する州知事審議会は、我々にこの重要な課題に取り 組み、決着をつける機会を与えてくれるだろう。生徒や教員は報われるだろう。 CEA は、教員や管理職が生徒の利益のために共に働くことを促す公正で透明性のある評価シ ステムを生み出すための対話と共同を楽しみにしている。 州知事審議会の設置を高く評価していることが分かる。さらにイングルは、ダンカン長官宛てに、 コロラド州の RTTT 参加を積極的にサポートすることを伝える文書8 ) を、申請書と共に提出した。 また、AFT (American Federation of Teachers) 支部の Douglas County Federation 委員長であるス ミス (Smith, B.) は、学区と共同で教育改革を進めてきたこれまでの州の特質をあげ、改革を州政府 に一任する姿勢を示した。 このような教員組合の肯定的な姿勢からも分かるように、第 1 回申請に向けたコロラド州の教員政 策は、教員の専門性や共同性を重要視するこれまでの同州の教員政策を踏襲しつつ、連邦政府の示す 基準に従いながら「教員の効果に関するシステム」の創設が進められたといえる。 2011 年 3 月 29 日、連邦教育省よりコロラド州は 13 位で敗北したことが伝えられた9 ) 。敗因は、 (D) 有能な教員と校長に関する項目における低得点であった10) 。つまり、コロラド州の共同性を重要 視する取り組みは認められなかったと言える。第 2 回 RTTT 申請では、教員政策に関する改革方針 の変更が必須となった。 (2) 第 2 回 RTTT 申請に向けて ① 先導的な教育改革 教員政策に対する低評価が敗因であった第 1 回申請の結果を受け、第 2 回申請では、教員政策の抜
本的な改革が要求された。具体的にその焦点は、教員関連法の改正に向けられた。では、どのように して、教員関連法の改正が行われたのであろうか。 議員の中には、連邦政府の要求する教員政策に関わる州法整備を行わず、政策決定プロセスでの共 同性を優先した州の方針を批判し、第 1 回での敗北を予測する者もいた。中でも、ジョンストン (Johnston, M.) 上院議員は、現行の教員評価に関する法規定を変更しなければ勝利は程遠いと述べ、 独自に包括的な教員評価・テニュア改革法案 (以下、ジョンストン法案) を作成し、法整備の準備を 行っていた。第 1 回申請時には、その成立が間に合わなかったが、申請結果が公表され勝者となった テネシー州、デラウェア州の両州がジョンストン法案と同様の新しい教員評価法を成立させたことが わかると、教員評価に関する法改正は必要不可欠であるという認識が、議員の中で広まった。さらに、 第 2 回 RTTT 申請のスケジュールが発表されると、上述の州知事審議会での活動に第 2 回申請に向 けた教員政策の決定を委ねる時間的余裕がないことが判明し、これもまた、ジョンストン法案への期 待を高める誘因となった。 このような背景のもと、第 2 回申請に向け、ジョンストン上院議員が独自に作成したジョンストン 法案に依拠する形で、法整備がすすめられた。具体的に、ジョンストン法案を基礎とし、第 1 回申請 書における改革案を一部盛り込む形で新しく教員の効果法案 (Great Teachers and Leaders Bill) が 作成された。そして 2010 年 4 月 12 日、Senate Bill 10-191 (SB10-191) として州議会両院の 2 党合 わせたメンバー11) によって正式に提出され、可決された。同法案の成立を受け、2010 年 6 月 1 日、コ ロラド州は 193 頁にもわたる RTTT 申請書を提出した。第 2 回申請では、35 州と D. C. が申請書を 提出した。 では、同州の第 2 回申請書で描かれた教員政策は、どのようなものであったのだろうか。既述の通 り、第 2 回申請書における最大の変更点は、生徒の成長度に基づく教員評価システム創設に関わる法 改正を行ったことであった。 そこで SB10-191 法案の具体的内容を見てみると、テニュアの有無にかかわらず全教員と校長に対 する年 1 回の評価の要求、教員の評価尺度としてその 50% を生徒の学力成長度のから測定、校長の 評価尺度としてその 3 分の 2 を生徒の学力成長度と教員の業績から測定することが求められている。 さらに、テニュアは評価によって決定される連続した 3 年間の能力から提供され、テニュア取得後も、 2 年間評価結果が良好でなければ、その返還も可能となることが示された。また、特定の学校におけ る教員の配置に関して、学校と教員の互いの合意が求められることが規定された。さらにレイオフ実 施の判断材料として教員評価結果の活用が可能であることなどが示された。つまり、SB10-191 法案 の可決は、教員のテニュア取得要件やレイオフに関わる教員の身分保障に関する事項や、教員の異動 などに関する雇用条件などの論争的な事項をも含む一方的な法改正が認められたということであった。 その一方で、教育者の効果に関する州知事審議会の活動は継承された。生徒の学力成長度以外の評価 尺度の活用や評価基準などの教員評価の詳細に関しては、州知事審議会にその決定を委ねることとさ れた。 ② 教員組合の対応 これら一連の教員政策に対し、CEA は第 1 回申請時の共同的な姿勢から一転、反対の意を唱えた。 CEA 委員長のイングルは、SB10-191 法案は教育者の能力や評価、テニュアなどの教員の身分保障に 関する内容が含まれた重要な法案であるにも関わらず、十分な議論がなされていないことを痛烈に批 判した12)
。さらに CEA の サラザー (Salazar, T.) 執行委員長 (executive director) は、ジョーンズ (Jones, D.) 州教育庁長官に文書を送り、「最終候補者としてプレゼンテーションを行った中で、プレ ゼンターに教員組合の代表が参加していた州はほとんどいない」ことをあげ、「第 1 回申請において 重要項目であった教員と州との強固な共同関係を断念する」のかと、長官を批判した13) 。 このように、第 1 回申請時における重要な決定に多様な教育関係者を取り込みながら「教員の効果 に関するシステム」創設を進めるコロラド州の共同的な教育改革から一転、第 2 回申請では、一部の
議員による法案に先導される形で、強引に教員政策が決定された。 2010 年 7 月 27 日、コロラド州を含む 19 の州14) が、第 2 回最終候補者として発表された。そして 8 月 10 日に実施された最終審査を踏まえ、フロリダ、ジョージア、ハワイ、マサチューセッツ、メ リーランド、ニューヨーク、ノースカロライナ、オハイオ、ロードアイランド、D. C. が賞金を勝ち 取った。コロラド州は 420.2 ポイントを獲得し、17 番目であった。敗因のひとつは、(A) 学区の参 加、教育関係者からの幅広いサポートに関する項目のスコアを下げた点にあった。特に、同州におい て最大の教員組合団体である CEA の不参加が影響を与えた15) 。 (3) 第 3 回 RTTT 敗者復活戦に向けて ① 第 3 回申請書提出に向けて 既述の通り、第 3 回 RTTT 申請では、申請可能額が引き下げられた。これを受け連邦教育省は、 第 3 回 RTTT 申請では、第 2 回で申請した要旨の中から重点すべき事項を選択し、選択された改革 が ど れ ほ ど 生 徒 の 学 力 向 上 や、科 学・技 術・工 学・数 学 (science, technology, engineering, and math) 教育の改善に影響を与えるかどうかを説明することを要求した。コロラド州は、① 教育改革 を実施するための州全体の人材の確保、② 大学での学習や社会で生き抜くための学力スタンダード への移行、③ 教育者の効果、④ 科学・技術・工学・数学分野の統合の 4 つの要素を選択した。 ③ 教育者の効果に関する項目では、最も重要な事項として、生徒の学力を引き上げる装置となる 教育者評価システムの創設に焦点が絞られた。その内容は、第 2 回申請時と同様、SB10-191 法案に 基づくものであった。州政府は、① すべての学区に教員評価システムを設置させること、② システ ムの目的、到達目標の概要を示すことを、目標として示した。また、学区に評価の 50% は生徒の学 力成長度に基づき、他の 50% は授業観察や教育者スタンダードに基づく新しい教員評価システムを 導入することを指示した。 このように、SB 10-191 法案で示された教員評価システムの創設を進める方針を継続する形で、第 3 回申請書が作成された。コロラド州は、評価指標やツール、州でのトレーニングなどの実践的な支 援の提供など、学区が教育者システムを導入・実施するための予算として、350 万ドルを要求した。 全体の予算額 1,790 万ドルのうち、その内訳は、① RTTT 運用:200 万ドル、② 教育スタンダード 作成:300 万ドル、③ 教員の効果:350 万ドル、④ 科学・技術・工学・数学教育:50 万ドルであり、 「教員の効果に関わるシステム」の創設に、最も高い予算額が請求された。 ② 資金獲得とその後 第 3 回 RTTT では、参加を辞退したサウスカロライナ州と、申請書を提出したが内容不十分とみ なされ却下されたカリフォルニア州以外の 7 州が賞金を勝ち取ることができた。連邦政府は、「コロ ラド州は、新しい評価システムを導入に向けた準備のための技術的な支援や州全体でのトレーニング を提供し、第 2 回申請書に合わせた新しい教育者評価システムを学区が採用することを導く法案を通 した。」と新しい教育者評価システム法案の成立をめぐる同州の取り組みを評価した。 コロラド州は、1,790 万ドルを賞金として受け取った。第 1 回申請時の申請可能額は 3.77 億ドルで あり、これを予算として構想された大規模な教育政策を実施するには、あまりにも不十分な額であっ たと言える。今日、同州では教育プログラムに対する十分な予算の確保の問題は、裁判に持ち込まれ る16) ほど州議会において深刻な課題となっている。RTTT プログラムに関しても州が RTTT におい て申請した教育改革を実施するためには、3.84 億ドルの予算が必要であるとの調査結果が報告されて おり、例外ではない17) 。コロラド州教育庁は、2012-2013 年度において SB 10-191 法案を実施するた めの予算として 50 万ドルを要求した。また、2011 年に就任したヒッケンルーパー (Hickenlooper, J.) 州知事も、SB 10-191 法案実施に関わる予算として 770 万ドルを予算委員会に求めている。つまり、 勝者となった同州であったが、連邦政府からの RTTT 資金だけでは RTTT プログラムを実施するに は不十分であり、他の教育予算や教育プログラムを削減するなど予算獲得に紛糾しながら、RTTT
教育政策を進めている。 3.お わ り に RTTT プログラム下において、コロラド州はどのように教員政策を進めたのであろうか。 これまで同州では、教員の専門性や共同性を保障し教員組合と連携しながら教員政策が進められて きた。とりわけ、生徒の成長度に基づく教員評価システムの導入の際は、教員組合と共同で評価シス テムを開発、導入しており、他の州以上に、政策決定プロセスにおける教員との共同性の確保に腐心 してきた。この姿勢は、第 1 回申請に向けての取り組みの中でも見られた。教員の効果を追求する評 価システムの導入に際し、具体的内容の決定や関連法の改正における州当局からのトップダウンによ る決定は避けられ、多様な教育関係者と共同で、慎重に改革を進めるための体制作りを整えることを 方針として示した。これは、形式上は自由参加を装いながらも、強引に連邦政策へ従わせようとする 集権的な連邦の方針に対し、これまで学区を主体とし教員と共同で教員改革を実施してきた同州の体 制を守るための同州なりの「抵抗」と「工夫」であったといえる。 しかし、1 回目の敗北を受け、その方針の転換が迫られた。第 2 回申請に際しては、ジョンストン 議員による政策に先導される形で、教員評価・テニュア法の改正を含む教員政策が進められた。ジョ ンストン議員は、コロラド州の上院議員であり、上院教育委員会の副議長を務めている。また、2008 年のオバマ議員の大統領選挙の際の教育政策のアドバイザーを務めたという経緯を有しており、 RTTT プログラム方針に基づき、積極的に教育改革を進めた点も納得される。しかし、政策決定プ ロセスにおける「共同性」を重んじるコロラド州で、このような先導的な政策決定が可能であったの は、莫大な予算という強烈なインセンティブで州対抗レースに参加させ、短期間での教育改革プラン の考案を命じることで議論の余地を与えない連邦政府の巧みなやり方が背景にあったからである。 RTTT プログラム下において、「教員の効果に関するシステム」創設にあたり、教員の専門性や共同 性の保障は困難であったと結論づけることができるだろう。 RTTT プログラムでの勝者となり、十分ではないが予算を受け取ったコロラド州では、同プログ ラムを実施する義務を有している。他の教育予算を削減してまで資金獲得に紛糾する同州は、本当に 「勝者」であったのだろうか。本稿では、「教員の効果に関するシステム」を創設するまでの政策決定 プロセスに着目したため、システムそのものの特質や課題に関しては、十分に検討できていない。そ れらに関しては、次稿に譲りたい。 註 1 ) EdNews Colorado, May 25th
2011, Wednesday Churn : Another Race shot. 2 ) Colorado Revised Statutes. 22-9-106(1), 22-63.
3 ) RTTT コンサルタントは、大学の研究機関 ( the School of Public Affairs at CU-Denver) や 民間の教育評 価・研究機関 (Augenblick, Palaich and Associates and the Third Mile Group) などの多様な教育関係機関 で構成された。また、全体のコーディネータには、州副知事である Barbara OʼBrien が指名された。 4 ) Colorado Department of Education (2009) Colorado’s Race to the Top and the American Recovery and
Reinvestment Act (ARRA) : Great Teachers and Leaders.
5 ) Colorado, Delaware, the District of Columbia, Florida, Georgia, Illinois, Kentucky, Louisiana, Massachusetts, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, Rhode Island, South Carolina の 16 州が選ばれた。 6 ) Colorado Department of Education (2009) DRAFT.
7 ) EdNews Colorado, Jan 20th, 2010, Analyzing Coloradoʼs shot at the Top.
8 ) 2010 年 1 月 30 日、CEA 委員長の Beverly Ingle と執行委員長 Tony Salazar の連名で、Arne Duncan 長官 あてに文書が送られた。
9 ) U. S. Department of Education (2010) Race to the Top Phase 1 Final Results.
11) Senate Sponsorship : Mike Johnston and Nancy Spence, House Sponsorship : Christine Scanlan, 12) EdNews Colorado, Apr 14th 2010, CEA won’t sign on for round 2 of R2T.
13) For immediate release, March 29, 2010, CEA on Race to the Top.
14) Arizona, California, Colorado, the District of Columbia, Florida, Georgia, Hawaii, Illinois, Kentucky, Louisiana, Maryland, Massachusetts, New Jersey, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, Rhode Island and South Carolina の 19 州が選ばれた
15) U. S. Department of Education (2010) Race to the Top Phase 2 Final Results.
16) the Lobato v. the State of Colorado, 学区と保護者の代表が不十分な教育予算を理由に、教育の機会均等の理 念に反すると州政府を訴えたケース。
17) Augenblick, Palaich and Associates and the Colorado School Finance Project (2011), Analysis of the Costs of Colorado’s Achievement Plan for Kids (CAP4K) Second Interim Report.
【参 考 文 献】
北野秋男・吉良直・大桃敏行 (編) (2012)『アメリカ教育改革の最前線 ―― 頂点への競争 ――』学術出版会。 杉浦慶子 (2012)「米国オバマ政権下の Race to the Top による教育改革 ―― ワシントン州の分析から ――」日
本教育制度学会『教育制度学研究』第 19 号、198-211 頁。
高橋哲 (2012)「NCLB 法制下の連邦教育政策の教員の身分保障問題」『アメリカ教育改革の最前線 ―― 頂点へ の競争 ――』145-160 頁。
藤村祐子 (2011)「米国ミネソタ州における「職能開発型」教員評価・報酬制度に関する考察 ―― The Quality Compensation Program for Teachers の分析」日本教育行政学会『日本教育行政学会年報』第 37 号 、135-152 頁。
藤村祐子 (2011)「米国における公立学校教員報酬制度の今日的傾向と特質」日本教育制度学会『教育制度学研 究』第 18 号、175‒190 頁。
Ravitch, D. (2010) The Death and Life of the Great American School System : HowTesting and Choice Are Undermining Education, New York : Basic books.
Superfine, B. Gottlieb, J. Smylie, Ma (2012) The Expanding Federal Role in Teacher Workforce Policy, Educa-tional Policy, v. 26 n. 1 p. 58-78, Jan 2012.
〈Race to the Top 連邦関連資料〉 U. S. Department of Education (2009) Race to the Top Executive Summary. U. S. Department of Education (2010) Race to the Top Phase 1 Final Results. U. S. Department of Education (2010) Race to the Top Phase 2 Final Results.
〈Race to the Top コロラド州関連資料〉
Executive Office of the state of Colorado (2010) Race to the Top Application Assurances CFDA No. 84. 395A. Colorado Department of Education (2010) Race to the Top Application for Phase 2 Funding.
Colorado Department of Education (2011) Race to the Top Application for Phase 3 Funding.
Colorado Department of Education (2009) Colorado’ s Race to the Top and the American Recovery and Reinvestment Act (ARRA) : Great Teachers and Leaders.
A bill for an act concerning ensuring quality instruction through educator effectiveness, second regular session, sixty-seventh General Assembly, State of Colorado.