No.31 p.p.33-38,1981
侵 略 の定 義一 国際 連 合 にお け る発 展
土 屋 茂 樹
1974年12月14日 、 国 際 連 合 総 会 は 侵 略 の定 義 に 関 す る 決 (1)を採 択 し、24年 にわ た る 侵 略 の 定 義 に 関 す る検 討 を 終 了 した 。 これ で 国 際 聯 盟 以 来 、半 世 紀 以上 を 経 た この 試 み も、 一 応 の終 止 符 を 打 つ こ と とな った 。 そ の成 果 に つ い て は も と よ り種 々 の評 価 が あ ろ う。 しか し、 とも か く も、 永 年 の論 争 の 対 象 とな った この 問 題 が一 応 の結 着 を見 た こ と は、 今 後 の 国 際連 合 の実 践 の上 で 大 き な意 義 を 持 つ と考 え て よい の で は な いか と思 わ れ る。 い か な る人 間 の企 て も、 所 詮 は人 間 に よ って どの よ うに も動 か され る も の で あ り、 侵 略 の定 義 を 如 何 に活 用 す るか も ま た 、 諸 国 の 実 践 の態 度如 何 にか か って い る。 とす れ ぽ、 い た ず らに定 義 の 有 益 性 を疑 うよ り も、諸 国 の見 解 の 一 応 の一 致 点 と して の 定 義 が成 立 し た こ とに よ り、 今 後 の 国 際 連 合 の 活 動 の指 針 が 得 られ た こ とを 率直 に評 価 す る こ との 方 が 、 よ り適 切 で は な い か と思 わ れ る か らで あ る(2)。 私 事 に わ た る が 、 本 稿 執 筆 に あ た っ て の 筆者 の所 感 を 若 干 述 べ て お き た い。 筆 者 が 京 都 大学 大 学 院 に 在 学 中 、修 士 論 文 の題 目 と し て選 ん だ のが 侵 略 の 定 義 で あ った 。 後 に 、 国 際 連 合 に お け る侵 略 の 定 義 を1954年 の時 期 ま で に限 定 して 検 討 した も の を 国際 法 外 交 雑 誌 に 発 表 し た が(3)、 そ の 後 は 久 し く この 問 題 か ら遠 ざか り、1974年 に国 連 総 会 で 定 義 が 採 択 され た時 も、 さ ほ どの 関 心 は持 た な か った 。 し か し、最 近 、 この 問 題 に関 す る い くつ か の 外 国 文 献 に接 し、 か って 研 究 者 と して の最 初 の 仕 事 と して選 ん だ 問 題 を 、 一 応 整 理 し て見 る こ と も必 要 で は な い か と考 え た こ とが 、 執 筆 に 至 った 動 機 で あ る。 国 際 連 合 で の 定 義 追 求 の 年 数 と、 筆 者 の研 究 生 活 の年 数 とが ほ ゴ同 一 と な っ た こ とに は 、 い さ さ か の 感 慨 が な い わ け で はな い。 (1)サ ン フ ラ ン シ ス コ 会 議 か ら第1回 特 別 委 員 会 ま で この 期 間 に お け る問 題 の経 緯 につ い て は 、 す で に筆 者 が 別 の機 会 に論 じ て い る の で 、 こXで は 簡 単 に記 述 す るに 止 め る。 サ ン フ ラ ン シス コ 会 議 に お い て現 憲 章 第39条 の原 案 が 審 議 され た 時 、 侵 略 行 為 の 定 義 の 必 要 性 が論 議 の 対 象 と な った 。 しか し、 如 何 な る定 義 も完 全 な もの で は あ り得 ず 、 そ の 結 果 は 、む しろ 安 全 保 障理 事 会 の活 動 に と って 障 害 とな りや す い と い う理 由 か ら、 憲 章 中 に は明 文 の定 義 を取 り入 れ ず 、 す べ て 安 全 保 障 理 事 会 の判 断 に 委 ね る こ と と な っ た ω。しか し、そ の 後 の安 保 理 事 会 の 活 動 は、常 に拒 否 権 の行 使 に よ っ て 妨 げ られ 、 期 待 され た よ うな 迅 速 な平 和 維 持 の為 の 活 動 は、 ほ とん ど 不 可 能 で あ る こ とが 明 らか とな った 。 この 為 、 朝 鮮 戦 争 を 契 機 と し て 、1950年11月3日 、 総 会 で"平 和 の為 の 統 合 決 議"が 採 択 さ れ 、 平 和 維 持 の 機 能 は 安 保 理 事 会 か ら総 会 に重 点 が 移 さ れ た。 同 年 、 ユ ー ゴ ー ス ラ ビ ア の提 案 に よ り、 総 会 の 議 題 の 中 に、"戦闘 行 為 発 生 時 に お け る国 家 の義 務"が 取 り入 れ られ 、 こ の議 題 が 第 一 委 員 会 で 審 議 され て い る 時 、 ソ ビエ ト代 表 が 侵 略 行 為 を 列 挙 した いわ ゆ る列 挙 方 式 に よ る"侵 略 の 定 義 に 関 す る決 議 案"を 提 案 した 。 これ が 国 連 発 足 後 、最 初 に提 案 され た定 義 で あ る(5)。総 会 は 同年11月17日 、 第378(V)B決 議 に よ り、 こ の 問題 を 国 際 法 委 員 会 に 付託 した 。 国 際 法 委 員 会 で は 、 ソ ビエ ト提 案 に 準 じた 列 挙 方 式 に よ る 定 義 と、 一 般 的 抽 象 的 表 現 に よ る定 義 とが対 立 し、結 局 何 れ の 定 義 も採 択 され な か った(6)。翌 1951年 、 この報 告 を受 け た 総 会 は 、 第6委 員 会 で の検 討 を 経 て 、 翌 年 の 総 会 に持 ち越 し、1952 1981年10月15日 受 理34 土 屋 茂 樹 年12月20日 、 第688(VII)決 議 に よ っ て 、 侵 略 の 定 義 に 関 す る 第1回 の 特 別 委 員 会 を設 立 した 。 15ケ 国 の 代 表 で構 成 され た この 委 員 会 で は 、 列 挙 方 式 、 一 般 方 式 、 混 合 方 式 の三 種 類 の 定 義 が 提 案 され た が 、何 れ も採 択 され ず 、 これ らの 諸 提 案 を そ の まL総 会 に 付 託 す る こ と とな つだ η。 (2)第2回 特 別 委 員 会 か ら第4回 特 別 委 員 会 まで 1954年12月4日 、 総 会 は第895(IX)・ 決 議 に よ り、19ケ 国 で構 成 す る新 た な特 別 委 員 会 を 設 置 し、 第11回 総 会 に 報 告 書 お よび 定 義 草 案 を 提 出 せ しめ る こ と と した 。 この第2回 特 別 委 員 会 は 、 1956年10月 か ら11月 にか け て 会 合 を持 った 。 ソ ビエ トを 始 め とす る多 くの諸 国 代 表 が 、 定 義 の 必 要 性 を 主 張 した の に対 し、 イギ リス お よ び ア メ リカの 代 表 は 、 定 義 の完 全 性 に 対 す る疑 問 を 主 た る理 由 と して 反 対 した。 定 義 の方 式 に つ い て は 、 依 然 と して 一 般 方 式 と列 挙 方 式 とが 対 立 し、 そ の 結 果 、 混 合 方 式 が 多 くの 代 表 に よ っ て 支 持 され た。 しか し、 この第2回 特 別 委 員 会 で も具 体 的 結 論 に 到 達 す る こ と はで きず 、報 告 書 が総 会 に提 出 され た に止 ま った 。 総 会 の 審 議 は 第12回 総 会 に 持 ち 越 さ れ 、 第 1181(XII)決 議 に よ り、 侵 略 の 定 義 に 関 し て 、 新 加 盟 国 の意 見 を 求 め 、 これ を 事 務 総 長 が 一 般 委 員 会 の メ ンバ ーで 構 成 され る委 員 会 に 付 託 し て検 討 させ る こ と と した。 事 務 総 長 は この 委 員 会 か らの 報 告 を受 け て、 第14回 総 会 以 降 に 議 題 に加 え る こ と とな った 。 この 決 議 の結 果 、 第3 回 特 別 委 員 会 の設 置 と第14回 総 会 以 降 へ の 問 題 の持 ち 越 しが 決定 され た こ とに な る⑧。 第3回 特 別 委 員 会 は、 第1会 期 と して1959年 4月14日 か ら24日 ま で会 合 した 。 しか し、14の 加 盟 国 か ら寄 せ られ た 回 答 に は、 この 問題 につ い て の 議 論 に 変 化 を 与 え る もの が なか った た め 、 委 員 会 は1962年4月 まで 延 期 され た 。 第2会 期 で は 加 盟 国 か らの新 た な回 答 は 寄 せ られ ず 、 会 合 は1965年4月 に延 期 され た。 この 時 ま で に11ケ 国 か らの 回 答 が届 い た が 、 委 員 会 は1967年 まで 、 ま た もや 延 期 され た 。1967年4 月 か ら5月 に か け て の 第4会 期 で は 、 検 討 延 期 案、第22回 総 会 で の 検 討 要 請 案 、事 務 総 長 の行 動 要 請 案 な どが提 案 され た が 、 何 れ も採 択 され な か った 。 1967年9月22日 、 第22回 国 連 総 会 に お い て 、 ソ ビエ ト代 表 は 、 侵 略 の定 義 に 関 す る特 別 委 員 会 を設 立 し、 この 定 義 が第23回 総 会 に 提 出 され る こ とを求 め た 決 議 案 を提 案 した 。1967年12月 18日 、35ケ 国 で構 成 され る特 別 委 員 会 を 設 立 し、 第23回 総 会 に報 告 さ せ る こ と を 内 容 と し た 第 2330(XXII)決 議 が 採 択 され 、 第4回 特 別 委 員 会 が 設 立 され た。 国 連 最 後 の 特 別 委 員 会 で あ り、 定 義 を 完 成 させ た最 初 に して 最 後 の委 員 会 で あ る(9)。 第4回 特 別 委 員 会 の第1会 期 は、1968年6月 に 開 か れ 、 三 つ の 定 義 が 提 案 され た。 何 れ も混 合 方 式 に よ る もの で あ っ た が 採 択 さ れ ず 、 総 会 に 、 本 委 員 会 を1968年 末 ま で に 再 召 集 す る こ と を 要 請 した に止 ま った 。 同年 の 第23回 総 会 は、 1969年 に委 員 会 が そ の作 業 を 継 続 す べ き こ と を 決 議 し(第2420(XXIII)決 議)、 こ れ に 基 い て 、1969年2月 、 委 員 会 が 開 か れ た。 討 議 の 中 で 若 干 の進 展 は 得 られ た もの の 、 結 論 は 得 られ ず 、 さ らに 翌70年 ま で作 業 を 継 続 す る こ とが 決 議 され た。1969年12月 の総 会 第2549(XXIV)決 議 に よ り、 委 員 会 は1970年7月 か ら8月 に第3 会 期 を 持 っ た。 この 会 期 で 、8ケ 国 で 構 成 され る特 別 作 業 班 が 設 置 され 、定 義 作 製 の 作 業 が 進 め られ た。 総 会 に 対 して は 、 更 に 作 業 の 継 続 が 要 請 され 、 総 会 第2644(XXV)決 議 に よ って71 年 で の 再 開 が決 定 され た。1971年2月 か ら3月 に か け て、 第4会 期 が 開 か れ 、 作 業 班 に 対 し て、 明 文 の 定 義 を作 成 す る こ とが 求 め られ た 。 そ の 結 果 、二 つ の 報 告 書 が 提 出 さ れ 、 委 員 会 は72年 で の再 開 を 総 会 に求 め た 。71年12月 の 総 会 第2781(XXVI)決 議 に よ り、 委 員 会 は五 度 目 の 会 期 を72年1月 か ら3月 ま で持 った 。 作 業 班 が 再 度 編 成 され 、 作 業 班 は 更 に交 渉 班 を編 成 し て 検 討 が 進 め ら れ た。 同 年12月 、 総 会 は 第 2967(XXVII)決 議 に よ り、73年 で の委 員 会 再 開 を決 定 し、六 度 目の会 期 が 、73年4月 か ら5 月 まで 開 か れ た 。 作 業 班 、 協 議 班 、 草 案 班 の三 班 が 構 成 され 、 会 期 末 に 統 一 定 義 草 案 が全 体 委 員 会 に提 出 され た(10)。委 員 会 の要 請 に よ り、 総 会 は第3105(XXVIII)決 議 に よ って 、1974年 に
お け る 委 員 会 の再 開 を 決 定 し、 委 員 会 は 、74年 3月 か ら4月 まで 七 度 目 に し て 最 後 の 会 期 を 持 った 。 作 業 班 と三 つ の 交 渉 班 が編 成 され 、 後 に 四番 目の交 渉 班 が 作 られ て 、最 終 草 案 が 提 出 され た 。74年4月12月 、 委 員 会 は全 会 一 致 で こ の草 案 を 採 択 し、7年 間 にお た る 任務 を 完 了 し た。 同 年9月17日 、 第29回 総 会 は 、 委 員 会 か ら の報 告 書 を受 け て 第6委 員 会 に付 託 し、 そ の賛 成 を得 て 、12月14日 、 この侵 略 の 定 義 を 承 認 し、 第3314(XXIX)決 議 と して採 択 した(11)。 (3)総 会 決 議 に お け る侵 略 の定 義 始 め に 第3314(XXIX)決 議 の 全 文 を 訳 出す る。 瞠総 会 は 、 1968年12月18日 の第2330(XXII)決 議 を遂 行 され た 侵 略 の 定 義 の 問題 に 関 す る特 別 委 員 会 の 、 1974年3月11日 か ら4月12日 まで の作 業 を 網 ら し、 特 別 委 員 会 に よ り全 会 一 致 で採 択 され 総 会 で の 採 択 を 勧 告 され た 侵 略 の 定 義 草 案 を 含 む 報 告 書 を検 討 し、 侵 略 の 定 義 の採 択 が 国 際 の平 和 と安 全 の 強 化 に 寄 与 す る こ とを深 く確 信 して 、 1.そ の 本 文 が この 決 議 に附 属 して い る侵 略 の 定 義 を 承 認 す る。 2.侵 略 の定 義 の 完 成 を 得 た 侵略 の 定 義 の 問 題 に関 す る特 別 委 員 会 の作 業 に謝 意 を表 す る。 3.す べ て の 国 家 に 侵 略 のす べ て の行 為 お よ び 国際 連 合 憲 章 と一 致 す る 国 家 間 の 友 好 関 係 と 協 力 に 関 す る 国 際 法 の 諸 原 則 に つ い て の宣 言 に 反 す る そ の 他 の 武 力 の 行 使 を差 し控 え る こ とを 要 請 す る。 4.以 下 に掲 げ る侵 略 の定 義 に 対 して 安 全 保 障 理 事 会 の 注 意 を 喚 起 し、 国 際 連 合 憲 章.に従 っ て 侵略 行 為 の 存 在 を決 定 す る に あ た り、適 宜 そ の指 針 と して 本 定 義 を考 慮 す る こ とを 勧告 す る。 附 属 書 侵 略 の定 義 総 会 は 、 国 際 連 合 の基 本 的 目的 の一 つ が 国際 の 平 和 と 安 全 を維 持 し平 和 に対 す る 脅 威 の防 止 と除 去 の た め 、 お よ び侵 略 行 為 ま た は そ の他 の平 和 の 破 壊 の 抑 制 の た め に有 効 な集 団 的措 置 を とる こ と で あ る事 実 に基 き、 憲 章 第39条 に 従 って 安 全 保 障理 事 会 が いか な る平 和 に対 す る脅威 、 平 和 の破 壊 また は侵 略 行 為 の 存 在 も決 定 し、 勧 告 を行 い 、 また は憲 章 第 41条 お よび 第42条 に 従 っ て い か な る措 置 を取 る か を 決 定 す べ きで あ る こ とを 想 起 し、 国 際 の平 和 お よび 正 義 を 危 う くせ ぬ た め に そ の 国 際 紛 争 を平 和 的 手 段 に よ って 解 決 す る こ と が 憲 章 に お け る国 家 の義 務 で あ る こ と を も想 起 し 、 本 定 義 中 の 何 物 も 国際 連 合 の 諸 機 関 の機 能 と 権 限 に 関 して 憲 章 の諸 規 定 の 範 囲 に影 響 を与 え る もの と解 され て は な らな い こ とを 念 頭 に 置 き、 侵 略 が 違 法 な武 力 の 行 使 の も っ と も深 刻 で 危 険 な形 態 で あ り、 あ らゆ る種 類 の 大 量 破 壊 兵 器 の存 在 に よ っ て惹 起 され た 状 態 に お い て 世 界 的 紛 争 とそ の あ らゆ る破 局 的 結 末 の 脅 威 の 可 能 性 に満 ち て い る故 に 、 侵 略 は現 段 階 に お い て 定 義 され るべ き で あ る こ と も考 慮 し、 人 民 か らそ の 自決 権 、 自由 、 独 立 の 権 利 を 奪 い 、 ま た は領 土 的 保 全 を分 裂 させ るた め に武 力 を使 用 し な い 国 家 の 義 務 を再 確 認 し、 国家 の 領 土 が 他 国 の憲 章 に 違 反 して 取 られ た 軍 事 占 領 ま た は そ の他 の武 力 手 段 の 、 一 時 的 に も対 象 とし て侵 害 され る べ きで は な く、 そ の よ うな手 段 ま た は そ の脅 威 に よ っ て 生ず る他 国 の取 得 の 対 象 とな るべ き で は な い こ とを も再 確 認 し、 国際 連 合 憲 章 と一 致 す る国 家 間 の 友 好 関 係 と 協 力 に 関 す る国 際 法 の 諸 原 則 に つ い て の宣 言 の 諸 規 定 を も再 確 認 し、 侵 略 の 定 義 は潜 在 的 侵 略 者 を 抑 制 す る効 果 を 持 た ね ぽ な らず 、 侵略 行 為 の決 定 と、 そ れ らの 行 為 を抑 止 す る措 置 の履 行 を 容 易 に し、 犠 牲 者 の 権 利 と合 法 的 利 益 の 保 護 お よび援 助 の提 供 を 容 易 に す る こ とを確 信 し、 侵 略 行 為 が な さ れ た か 否 か の 問 題 は個 々 の 事 例 の あ らゆ る事 情 に 照 して 考 慮 され るべ き で は あ る が 、 そ の 決 定 へ の 指 針 と して 基 本 原 則 を 規 定 す る こ とは望 ま しい こ とを確 信 し、 以下 の 侵 略 の定 義 を 採 択 す る 。 第1条 侵 略 は 、 国 家 に よ る他 国 の主 権 、 領 土 的 保 全 、 また は政 治 的 独 立 に 対 す る 、 も し く
36 土 屋 茂 樹 は こ の定 義 に 述 べ られ て い る よ うな 国 際 連 合憲 章 と一 致 しな い 他 の い か な る方 法 に も よ る武 力 の 行 使 で あ る。 注 解:こ の 定 義 に お い て'個 家"と い う用語 は (a>,承 認 の 問 題 ま た は 国 家 が 国 際 連 合 の 加 盟 国 か否 か にか か わ りな く用 い られ る。 (b)適 切 な場 合 に は"国 家 集 団"の 概 念 を 含 む 。 第2条 国 家 の憲 章 に 違 反 した 武 力 の最 初 の 行 使 は 侵 略 行 為 の一 応 の 証 拠 とな ら な けれ ぽ な ら な い。 も っ と も安 全 保 障 理 事 会 は憲 章 に 従 っ て 、 当該 行 為 ま た は そ の 結:果が重 大 な危 険 を 持 た な い とい う事 実 を 含 め 、 他 の 関 連 事 情 に 照 し、 侵 略 行為 が 行 お れ た とい う決 定 が 正 当化 され 得 な い と結 論 付 け る こ とが で き る。 第3条 、 以 下 の 行 為 の 何 れ も、 宣 戦 布 告 とか か わ りな く、 第2条 の 規 定 に も とづ き 、従 って 侵 略 行 為 と され る。 (a)国 家 の軍 事 力 に よ る他 国 領 土 へ の 侵 入 ま た は 攻 撃 、 ま た は か か る 侵 入 また は攻 撃 の 結 果 と して の 一 時 的 に もせ よす べ て の 軍 事 占 領 、 若 し くは武 力 に よ る他 国 の 領 土 また は そ の一 部 の す べ て の併 合 。 (b)国 家 の 軍 事 力 に よ る他 国 領 土 に 対 す る爆 撃 また は 国家 の 他 国 領 土 に対 す るす べ て の 武 器 の 使 用 。 (c)他 国 の 軍 事 力 に よ る国 家 の港 ま た は 沿 岸 の 封 鎖 。 (d)国 家 の 軍 事 力 に よ る他 国 の陸 海 空 軍 又 は 海 兵 隊 お よび 飛 行 隊 へ の攻 撃 。 (e)受 入 国 と の協 定 に よ り他 国 の 領 土 間 に あ る一 国 の軍 事 力 の 当 該 協 定 に定 め られ た 条 件 に 違 反 す る 使 用 ま た は協 定 の 期 限 を 越 え た 当 該 領 土 内 で の 滞 在 のす べ て の 延 長 。 (f)国 家 が 、 他 国 の 使 用 に委 ね た 領 土 を 、 当 該 他 国 が 第 三 国 へ の 侵略 行 為 の 侵 透 の 為 に 用 い る こ とを 許 す 行 為 。 (9)上 述 の諸 行為 また は そ の 実 質 的 要 素 に 該 当す る 程 度 の重 大 性 を有 す る他 国 へ の武 力 行 為 を実 行 す る武 装 群 、 集 団 、不 正 規 軍 、 ま た は 傭 兵 の 、 国 家 に よ りまた は 国 家 に代 っ て の派 遣 。 第4条 、 上 述 の 行 為 は網 ら的 な も の で は な く、 安 全 保 障 理 事 会 は そ の 他 の 行 為 を 憲 章 の 諸 規 定 に 基 い て 侵略 行 為 を構 成 す る と決 定 す る こ とが で き る。 第5条 1.政 治 的 、 経 済 的 、 軍 事 的 そ の 他 い か な る 性 質 の考 慮 も、 侵略 の 正 当化 と して 働 い て は な らな い 。 2.侵 略 戦 争 は 国 際 の 平 和 に対 す る 犯 罪 で あ る。 侵 略 は 国際 責 任 を生 じる。 3.侵 略 か ら生 じ る領 土 取 得 また は 特 別 の 利 益 は 合 法 と認 め られ ず 、 認 め られ るべ きで は な い。 第6条,本 定 義 中 の何 物 も、 武 力 の 行 使 が 合 法 と認 め られ る場 合 に関 す る規 定 を含 め て 、 憲 章 の 範 囲 を拡 大 し ま た は縮 少 す る よ うな 形 で 解 さ れ て は な らな い 。 第7条 本定 義 、 お よび 特 に第.3条 に お け る 何 物 も、 自決 、 自 由 、独 立 に 対 す る権 利 を強 制 的 に 奪 わ れ 、 国 際 連 合 憲 章 と一 致 す る国 家 間 の 友 好 関 係 と協 力 に関 す る 国 際 法 の諸 原 則 につ い て の 宣 言 に お い て 言 及 され て い る民 族 、 特 に植 民 主 義 的 、 人種 差 別 主 義 的 、 また は そ の 他 の形 態 の 外 国 支 配 の 下 に あ る 人 民 の、 憲 章 に 由来 す るか か る権 利 を 害 し得 な い 。 ま た 、 か か る民 族 の 、 憲 章 に 従 い 上 述 の宣 言 と一 致 す る この 目 的 の為 に 闘 い支 援 を 求 め 受 け る権 利 を害 し得 な い 。 第8条 上 述 の諸 規 定 はそ の解 釈 と適 用 に 当 り相 互 に 関 連 付 け られ 、 また 、 各 規 定 は他 の 規 定 との 関連 にお い て解 釈 され なけれ ぽ な らない。" こ こ で定 義 の 中 で 、 注 目す べ き点 を い くつ か 指 摘 して見 よ う。 ま ず 、 第1条 で 、 侵 略 が武 力 の 行 使 に 限 定 され て い る。 そ の た め 、 特 別 委 員 会 や 第 六 委 員 会 で しぼ しぼ 議 論 の 対 象 と な っ た 、 経 済 的 圧 力 や 、 イデ オ ロギ ー の 浸 透 に よ る他 国 へ の 干 渉 な どは 侵 略 とみ な され ない 。 も っ と も、 第4条 に よ って 、 安 全 保 障 理 事 会 は 定 義 に あ げ られ て い な い 行 為 を 侵略 と決 定 す る こ とが で き る とさ れ て い る か ら、 武 力 の 行 使 以 外 の行 為 が 侵 略 と され る可 能 性 が あ る とす る見 方 も あ るが 、 第1条 との 関 連 か ら見 て 、 全 く武 力 の行 使 と関 連 しな い 行 為 を 侵略 と決 定 し得 る か につ い て は疑 問 が あ る(12〕。 次 に 、 第2条 に よ り、 国 家 に よ る憲 章 に違 反
した 武 力 の 最 初 の 行 使 が 、侵 略 行 為 の一 応 の 証 拠 と され る。 国 際 連 盟 以 来 、 度 々唱 え られ て 来 た 第 一 撃 説first blow theoryが 、 一 応 の 証 拠 prima facie evidenceと して採 用 され て い る。
も っ と も 、 安 全 保 障 理 事 会 は 、(D憲 章 に従 って 、 ② 他 の 関 連 事 情 に照 して 、 この 推 定 を くつ が え す こ とが で き る とされ て い る。 そ の場 合 に は、 当 該 行 為 ま た は そ の結 果 が重 大 な も の で は ない とい う こ とが 考 慮 され な け れ ぽ な らな い。 従 っ て"第 一 撃"を 行 っ た こ とが 、 常 に絶 対 的 な決 め 手 と な る訳 で は な い〔13)。 第3条 で は(a)から(9)まで七 つ の 侵 略 行 為 が挙 げ られ て い る。(a)か ら(e)まで は直 接 侵 略 行:為を 構 成 す る もの と して 、過 去 に も度 々主 張 され て 来 た 事 柄 で あ り、(f)と(9)はい わ ゆ る 間 接 侵 略 と 呼 ば れ る 行 為 で あ る。 侵 略 行 為 は直 接 的 な行 為 に 限 定 さ れ るべ き で な い とい う主 張 が あ る程 度 取 り入 れ られ て い る。 第4条 で は、 第3条 に 列 挙 され た 行 為 が 限定 的 な も の で は な く、 安 全 保 障 理 事 会 は 、 そ の他 の 行 為 を 憲 章 に基 い て 侵 略 行 為 を構 成 す る と 決 定 す る こ とが で き る とされ て い る。 列 挙 方 式 に 加 え て 一 般 的表 現 に よる 定義 の 色 彩 を 残 した い わ ゆ る混 合 方 式 の 現 わ れ とい う こ と が で き る。 但 し、 第1条 との 関 連 に お い て 、 武 力 の 行 使 と 無 関 係 の 行 為 まで 包 含 し得 るか につ い て は疑 問 が あ る こ とは 前 述 の通 りで あ る。 以 上 の 考 察 か ら明 らか な よ うに 、 この 定 義 の 特 徴 は、 常 に 相 対 立 す る主 張 の妥 協 乃 至 は 中 間 点 の 上 に 成 立 し て い る こ とで あ る。 侵 略 行 為 を 武 力 の行 使 に限 定 して一 応 列 挙 す る方 式 を取 り なが ら、 安 全 保 障 理 事 会 の決 定 に よ っ て 、 列 挙 され て い な い そ の 他 の 行 為 が 侵略 行 為 と され る 可能 性 を 残 した こ と、第 一 撃 を加 え た 側 が 一 応 侵 略 行 為 を 行 った も の と推 定 され る と し なが ら、 反 対 の 証 明 の 可 能 性 も残 され て い る こ と、 侵 略 行為 と して は直接 侵 略 を構 成 す る行 為 を主 と して 列 挙 しつ つ 、 間 接 侵 略 に 当 る行 為 も若 干 は挙 げ られ て い る こ と、 な ど従 来 の 各 委 員 会 で 対 立 し た主 張 を 妥 協 させ 、 両 立 させ る形 で定 義 を作 成 し た 明 らか な事 例 と見 る こ とが で き る。 そ れ は ま た 、過 去 半 世 紀 以 上 に わ た っ た論 争 の 結 末 と し て 当 然 選 ぽ ね ぽ な らな か っ た唯 一 の 解 決 方 法 で もあ り、 国 際 連 合 が採 用 し得 る唯 一 の 定 義 で もあ った(14)。 第5条 以 下 は 、定 義 に関 連 す る事 項 を 付 け加 え た 規 定 で あ る た め 、 簡 単 に紹 介 す る に 止 め る。 第5条 は、(1)政 治 的 、 経 済 的 、軍 事 的 そ の 他 の考 慮 に よ って 侵略 を 正 当 化 して は な らず 、(2) 侵 略 戦 争 は犯 罪 で あ り、 侵 略 は 国 際責 任 を 生 ず る こ と、(3)侵 略 か ら生 じ た領 土 取 得 また は特 別 の 利 益 は認 め られ ない こ とを定 め る。 第6条 は 、 この 定 義 が 国 際 連 合 憲 章 の範 囲 を 拡 大 し ま た は 縮 少 す る よ う な解 釈 を さ れ て は な ら ない こ とを 規 定 し、 第7条 は民 族 自決 権 、 自 由 、 独 立 に対 す る権 利 を害 し ない こ とを定 め て い る。 最 後 の 第8条 は 、諸 規 定 が 相 互 の 関 連 に お い て 解 釈 され るべ き こ と を定 め る。 何 れ も付 帯 事 項 とい うべ き規 定 で あ っ て 、特 に説 明 す べ き問 題 は な い 。 (4)定 義 の意 義 と将 来 この 定 義 は 総 会 決 議 の形 で 採 択 され た た め 、 そ れ 自体 と して は勧 告 的 性 格 しか 有 しな い こ と は 明 らか で あ る。 も し、 定 義 が 拘 束 力 あ る も の と し て 、安 全 保 障 理 事 会 を 始 め とす る 、 国 際 連 合 の 諸 機 関 や 、 各 加 盟 国 を 拘 束 す る性 格 を有 す る力 を持 つ もの で あ る な らぽ 、 特 別 委 員 会 で 主 張 され た よ うに 、 憲 章 改 正 の 形 で 明 文 の 規 定 を 憲 章 の 中 に織 り込 む 以外 に 方 法 は な か った で あ ろ う個 。 しか し実 際 に は この 方 法 は採 用 され ず 、 総 会 決 議 と して採 択 され た。 従 って 、 定 義 の 第 6条 に もあ る よ うに 、 憲 章 自体 が この 定 義 に よ っ て拡 大 また は縮 少 され る訳 で は な く、 逆 に 憲 章 の 諸 規 定 に 基 い て 定 義 が 運 用 され ね ぽ な ら な い筈 で あ る。 しか し、 この こ とは 、 定 義 が 何 の影 響 力 も持 た な い とい う こ とで は な い 。 国 連 総 会 に お い て 、 反 対 な し に 採 択 され た 以 上 、 こ の 定 義 は 、 総 会 は 云 うに及 ばず 、 安全 保 障 理 事 会 に と って も、 無 視 し得 な い行 動 の 指 針 と し て 大 き な 力 を 持 っ て い る筈 で あ る。 国 際 社 会 に お け る世 論 の 力 が 、 少 数 の 大 国 の専 横 を 次 第 に許 さ な くな って 来 て い る こ と は、1960年 代 以 降 の 国 連 総 会 に お い て顕 著 に見 られ る現 象 の 一 つ で あ るが 、安 全 保 障 理 事 会 も ま た 、 この 現 象 に 無 関 心 た り得 ない こ とは 明 らか で あ る。 従 って 、
38 土 屋 茂 樹 安 全 保 障 理 事 会 が 、 そ の 第 一 義 的 責 任 を 負 う 国 際 の 平 和 と安 全 を 維 持 す る こ と に 当 り、 こ の 定 義 に 挙 げ ら れ た 事 柄 を 遵 守 す る こ と な く機 能 す る の は 、 恐 ら く不 可 能 で あ ろ う。 同 時 に ま た 、 各 加 盟 国 に と っ て も 、 国 際 世 論 の 非 難 を 意 識 し つ つ 、 定 義 に 該 当 す る 侵 略 行 為 を 行 う こ と は 、 極 め て 大 き な 負 担 と な る こ と も 確 か で あ る 。 そ の 意 味 で 、 半 世 紀 以 上 の 歴 史 を 経 た 侵 略 の 定i義 が 、 と も か く も 成 立 し た こ と の 意 義 は 、 高 く評 価 さ れ て 良 い と思 わ れ る 。 (後 記 。 本 稿 の 大 部 分 は 、 筆 者 が ロ ン ド ン 大 学 のInstitute of Advanced Legal Studiesに 留 学 中 執 筆 し た も の で あ る。同Instituteに 滞 在 中 、多 大 の 便 宜 を 与 え ら れ たMr. J. A. Boxhall とMiss K. B. de la Hayeの 御 好 意 に は 、 感 謝 の 言 葉 も な い 。 ロ ン ドン で の 日 々 を 極 め て 有 益 に 過 し 得 た の は 、 全 く両 氏 の 御 支 援 の 賜 物 で あ る 。 終 り に 記 し 、 謝 意 を 表 す る 。) 註 (1)国 際 連 合 総 会 第3314(XXIX)決 議 。 (2)Ahmed M. Riffaat;"lnternational Aggression"
(1979), p.279.
(3)拙 稿 「国 際 連 合 に 於 け る 侵 略 の 定 義 」,国 際 法 外 交 雑 誌 第58巻 第6号 。
(4)前 掲 拙 稿,P.36. Benjamin B. Ferencz;"Defining International Aggression"Vol. II,(1974), p.3.
(5》General Assembly Official Records, Annexes,
Agenda Item 72,1950.(A/C 1/608)PP.4∼5. (6)前 掲 拙 稿,P.45.
(7)同 上,PP.55∼57.
(8)国 連 総 会 第1181(XII)決 議(1957年9月29日 採 択)。 (9)第 六 委 員 会 の 原 案 で は 、 こ の 委 員 会 の 構 成 国 は30ケ
国 で あ っ た が 、 総 会 で35ケ 国 に 修 正 さ れ た 。 構 成 国 名 に つ い て は 、General Assembly Official Records, Twenty・Ninth Session, Supplement No.19(A/9619
and corr.1), Annex II, PP.41∼42.
(10)GAOR. Twenty・Eight Session, Supp. No.19(A/ 9019) Annex II。PP.13∼18.
(11) GAOR.(A/9619 and Con.1)op. cit. (12》 Rifaat;op. cit., P.275.
(13) Ferenz;op. cit., Vol. II,P.32.