Title
第4回東海支部教育セミナー : プロブレムで考える症例検討
会( 本文(Fulltext) )
Author(s)
村山, 正憲; 夏目, 佳幸; 岡田, 美帆; 鈴木, 俊成; 穂積, 宏尚; 森,
一郎; 吉富, 淳; 森田, 浩之; 兼松, 孝好
Citation
[日本内科学会雑誌] vol.[97] no.[11] p.[2811]-[2819]
Issue Date
2008-11-10
Rights
The Japanese Society of Internal Medicine (日本内科学会)
Version
出版社版 (publisher version) postprint
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/33961
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
第 4 回東海支部教育セミナー
プロブレムで考える症例検討会
司 会:村山 正憲
(岐阜県総合医療センター総合内科) 症 例 提 示:夏目 佳幸
(岐阜県総合医療センター総合内科) ディスカッサント:岡田 美帆
(岐阜県総合医療センター腎臓内科)鈴木 俊成
(三重大学糖尿病・内分泌内科)穂積 宏尚
(静岡県立総合病院呼吸器科) コメンテータ:森
一郎
(岐阜大学総合内科)吉富
淳
(静岡市立清水病院呼吸器科)森田 浩之
(岐阜大学総合内科)兼松 孝好
(名古屋市立大学総合内科・コア診療ユニット) Key words:糖尿病性腎症,急性肺炎,感染後糸球体腎炎,ARDS 〔日内会誌 97 : 2811∼2819,2008〕 村山 患者さんがいくつもの病気を抱えて入 院してくることはままあることです.それぞれ の病気をどのように診断治療し,かつ研修医指 導を行っていくかには課題があります.本日は, 複数の疾病を抱えた症例を取り上げ,その診か たを考える入門編と捉えていただければ幸いで す.3 名の先生をディスカッサントとしてお招き していますので,プロブレムリストを立てて解 説をしていただきます. 夏目 (症例提示) 【症 例】53 歳の男性,石油会社勤務. 【主 訴】発熱. 【既往歴】特記すべきことはない. 【家族歴】父;糖尿病,母;脳梗塞,兄;急性 白血病. 【生活歴】喫煙;30 本!日(約 30 年間),飲酒; ビール大瓶 1.5 本!日(期間不詳). 【現病歴】 数年前から糖尿病を指摘されていたが放置し ていた.200X−1 年から某院を受診.足には浮 腫があり,グリメピリド 1mg!日,フロセミド 20 mg!日が開始された.200X年 2 月には近くの眼 科で網膜症の手術を受ける予定だった(紹介状 に記載).200X年 1 月 30 日から 38℃ の発熱があ り節々が痛んだ.受診してインフルエンザと言 われ薬を使用したが解熱せず,2 月 1 日には痰は 出ないが咳がひどかった.2 月 2 日には体温は 39℃ まで上昇した.朝食に粥を食べた後食事が 摂れず,とにかくだるくて身の置き所がないと 言っていた.2 月 3 日の朝,トイレへ行った後か ら立ち上がれなくなり救急車で搬入された. 【過去の資料】 200X−1 年:某院受診時HbA1c8.3%,尿所見: 蛋白(2+),潜血(−). むらやま まさのり,なつめ よしゆき,おかだ みほ,すずき としなり,ほずみ ひろなお,もり いちろう,よしとみ あつし,もりた ひろゆき, かねまつ たかよし (2008 年 2 月 16 日(土): 名古屋国際会議場 2 号館)2812 図 1. 胸部 X線写真の変化 2 月 7 日 2 月 10 日 2 月 3 日 2 月 21 日 200X年 1 月 17 日:HbA1c5.7%,尿所見:蛋白 2+,潜血+,沈 ;赤血球 2∼3!HPF,白血球 (−),円柱(−). 【入院時身体所見】 意識はやや傾眠.身長 168cm,体重 55kg(申 告).体 温 36.7℃,呼 吸 数 16!分,脈 拍 104!分 整,血圧 162!92mmHg.皮膚は湿潤し,口唇に チアノーゼを認める.両下腿に陥凹した 5∼10 mm大の茶色色素斑が散在し,右母趾に爪白癬を 認める.両下腿に軽度の浮腫があり,表在リン パ節は触知しない.眼瞼結膜に軽度の貧血を認 めるが,眼球結膜に黄疸はない.口腔内は乾燥 している.胸部では右上肺野は打診上濁音を呈 し,呼吸音は減弱している.全肺野に吸気時coarse cracklesと呼気時にrhonchiが著明に聴取される. 胸膜摩擦音はなく,心音にも異常はない.腹部 は平坦・軟で腸雑音は減弱している.右肋骨弓 下に肝を 2 横指触知し,弾性軟,辺縁 鋭 表 面平滑である.両鼠径部に血管雑音を聴取する. 項部硬直はなく,脳神経系に異常はない.深部 腱反射は膝蓋腱,アキレス腱反射共に両側陰性, 病的反射は認めない. 【入院時検査所見】 尿所見:比重 1.025,pH 5.0,蛋白 3+,糖−, 潜血 2+,ウロビリノーゲン 2+,ケトン体−, ビリルビン−,沈 ;赤血球 0∼4!HPF,白血球 5∼9!HPF, 平上皮±,細菌+,顆粒円柱+, 尿蛋白 4.3g!日.血液所見:赤血球 284 万!μl,Hb 9.5g!dl,Ht 27.4%,白血球 5,100!μl,血小板 19.9 万!μl,PT 13.0 秒(基 準 対 照 12.4 秒),APTT 38.1 秒(基準対照 32.1 秒).血液生化学所見:随 時血糖 165mg!dl,TP 5.2g!dl,Alb 2.1g!dl,尿 素窒素 38mg!dl,Cr 1.92mg!dl,UA 6.0mg!dl, AST 39IU!l,ALT 26IU!l,LDH 415IU!l,ALP 178IU!l,CK 157IU!l,Na 136mEq!l,K 4.1 mEq!l,Cl 104mEq!l,Ca 6.97mg!dl,P 3.6mg! dl.免疫学所見:CRP 41.76mg!dl,HBs抗原−, HCV抗体−,インフルエンザ抗原A−B−.動 脈血ガス分析(経鼻O22l!分吸入下):pH 7.431,
PaO2 29.3Torr,PaCO2 43.1Torr,HCO3− 28.2
mmol!l,O2SAT 60.0%.
表 1. 岡田プロブレムリスト 糖尿病 # 1 糖尿病腎症 # 2 糖尿病網膜症 # 3 閉塞性動脈硬化症疑い # 4 肺炎球菌性肺炎 # 5 ARDS # 6 急性腎炎症候群 # 7 はすりガラス様でair bronchogramを認める.心 左 4 弓の辺縁は追跡できる.心電図:HR 104!分, 洞調律. 【入院後経過】 気管挿管し,人工呼吸器管理とした.喀痰塗 沫Gram染色標本では,陽性球菌と陰性桿菌(白 血球貪食菌はどちらか不明)が同量程度存在し た.イミペネム・シラスタチン(IPM!CS)0.5 g!回,3 回!日,およびミノサイクリン(MINO) 100mg!回,2 回!日で開始した.翌日,右内頸静 脈穿刺によるインスリン併用中心静脈栄養を開 始した.また 2 月 5 日からプレドニゾロン(PSL) 20mg!回,2 回!日も開始した. 2 月 7 日CRP 20.4mg!dl,胸部X線写真(図 1 右上)では左肺は含気が増え,すりガラス様で はなくなったが血管影はよく追えない.右上肺 の陰影はやや改善したがair bronchogramは残存 していた.weaningを開始し,2 月 8 日 にPSL を終了した. 2 月 10 日に入院時の喀痰培養で肺炎球菌が同 定された.同日でMINOは終了したが,右上肺, 左肺全体のcoarse cracklesは悪化して再発熱し た.胸部X線写真(図 1 左下)では,右上肺野は 再度含気低下,左肺全体はすりガラス様で,air bronchogramも再出現し,大動脈弓のシルエッ トは追えなくなった.動脈血ガス分析(FiO2 35%):pH 7.448,PaO268.7Torr,PaCO246.9 Torr,CRP 17.53mg!dlと悪化した.同日PSL 40 mg!日を再開.動脈血ガス分析,X線写真所見は ともに徐々に改善し,2 月 14 日に抜管した.2 月 16 日 か らPSLを 3 日 ご と に 漸 減 し,3 月 5 日で終了した. 2 月 17 日でIMP!CSを終了したが,同日の血液 検査所見は,白血球 11,400!μl,CRP 0.97mg!dl, 尿素窒素 42mg!dl,Cr 1.26mg!dlであった.一方, 全身浮腫が増強した.2 月 19 日より食事(減塩 食 3g!日,蛋白 50g!日)を開始し,フロセミド を静脈投与から経口へと変更,中心静脈栄養を 終了した.2 月 21 日の胸部X線写真(図 1 右下) ではair bronchogramを伴うすりガラス様陰影は ほぼ消失したが,右上下葉間胸水を認め,肺野 にはびまん性に軽度の網状影が残っていた. 2 月 25 日に尿蛋白 13.1g!日,血液生化学所見: Alb 1.8g!dl,Cr 1.88mg!dl,CRP 0.28mg!dlと 1 日尿蛋白量の増加がみられた. 2 月 28 日にIgG 1,450mg!dl,IgA 354mg!dl, IgM 354mg!dl,RF<10.0IU!ml, 抗核抗体−, CH50 23.8U!ml,C3 22.1mg!dl,C4 30.2mg!dl, PR3−ANCA−,MPO−ANCA−であった.腹 部超音波と単純CTでは腹水を認め,脾臓 9.2×3.2 cm,右腎縦径 12.7cm,左腎 14.0cmで,左右とも 腎実質はhigh echoic,腎周囲は浮腫と思われる low echo areaが囲んでいた.
3 月 1 日から塩分 0g食,フロセミド 40mg!日, ジピリダモール 300mg!日を開始し,浮腫は漸減 した. 3 月 10 日に尿蛋白 3+,潜血 2+,沈 ;硝子 円柱 2+,顆粒円柱 2+,血液生化学所見はAlb 1.8g!dl,尿素窒素 32mg!dl,Cr 1.61mg!dlだった. 3 月 25 日にある検査を実施した. 村山 岡田先生からお願いします. 岡田 私が考えましたプロブレムリストです (表 1). 1 番目に糖尿病を挙げました.数年前から糖尿 病を指摘され,グリメピリドを内服していまし た. 2 番目に糖尿病腎症を挙げました.200X−1 年に,尿蛋白 2+,潜血−で,足の浮腫がありま す.入院日の血液検査では,アルブミン(Alb) 2.1g!dl,尿蛋白定量 4.3g!日で,ネフローゼ症候
2814 表 2. 鈴 木 プ ロ ブ レ ムリスト 糖尿病 # 1 呼吸器感染症 # 2 低酸素血症 # 3 肝腫大 # 4 下腿色素斑 # 5 貧血 # 6 腎不全 # 7 群の診断基準を満たします.Hb 9.5g!dlと正球性 貧血を認めており,腎性貧血の合併があると思 われます. 3 番目に糖尿病網膜症を挙げました.網膜症の 手術を受ける予定でした. 4 番目に閉塞性動脈硬化症疑いを挙げました. 糖尿病,高血圧,喫煙歴があり,動脈硬化のハ イリスク患者であるということ,両鼠径部の血 管雑音を聴取したということからです. 5 番目に肺炎球菌性肺炎を挙げました.1 日 30 本の喫煙歴があり,もともと酸素運搬能低下, あるいは閉塞性の換気障害が背景に存在するこ とが疑われました.頻脈とチアノーゼ,ラ音の 聴取があり,CRP 42mg!dlから細菌感染で,胸 部X線写真から大葉性肺炎と考えました.
6 番目にARDS(acute respiratory distress syn-drome)を挙げました.喀痰からグラム陽性球菌, グラム陰性桿菌が検出され,IPM!CSとMINO を開始し,入院の翌々日からPSLが併用されてい ます.2月10日の時点で肺炎球菌が検出されMINO を中止していますが,画像所見で再度含気の低 下や,すりガラス様陰影の増強があり,血液ガ スも悪化しています.ステロイド再開後それら が改善していることから,ARDSの併発を考えま した. 7 番目に急性腎炎症候群を挙げています.当初 は潜血を伴わない尿蛋白であったのが,肺炎発 症から 2∼3 週間ほど経過しステロイドを漸減さ れていた時期に蛋白尿の増加と浮腫の増強を認 めています.検尿所見としても血尿等があり, 円柱の出現があることから,糖尿病腎症に加え て急性腎炎を併発した状態と考えられます.血 液検査では,IgMの上昇とC3,CH50 の低下を認 めています. 以上から,補体の低下するステロイド非依存 性の疾患であるということ,先行感染として肺 炎球菌による急性糸球体腎炎もあることから, 感染後急性糸球体腎炎が疑われます.3 月 25 日に行った検査は腎生検と考えました.予想さ れる疾患は,急性糸球体腎炎および糖尿病腎症 です. 村山 2 番目のディスカッサントとして,鈴木 先生お願いいたします. 鈴木 症例サマリから断定できるところだけ 断定したプロブレムリストにしています(表 2). 1 番目に糖尿病を挙げました.家族歴があるこ と,グリメピリド 1mg!日でコントロールできて いることからは,2 型糖尿病の可能性が高いと思 います.発症から数年経っていて,合併症もあ る程度進行しています.網膜症があり手術を受 けるということですから,増殖性網膜症がある ということです.膝蓋腱反射,アキレス腱反射 が消失していますので神経障害,細菌尿があり ますので自律神経障害もあるのではないかと考 えます.両鼠径部血管雑音があり,大血管障害 の存在が示唆されます. 2 番目として,呼吸器感染症としました.喫煙 30 本!日はそのベースになっていると思います. 1 月 30 日からの発熱の原因として,咳があると いう呼吸器症状と胸部の聴診所見から,呼吸器 感染症を疑いました.喀痰の培養で肺炎球菌が 検出され,塗抹ではグラム陽性球菌を認めると いうことですが,白血球とか 平上皮とかがわ からないので,断定するのは止めました. 3 番目は,低酸素血症.だるくて立ち上がれな い,傾眠状態でチアノーゼがある,それらは低 酸素血症で説明できます.PSLで改善し,終了す ると再び悪くなるということから,呼吸器感染 症とは別のものがあるかも知れないと考え,2
表 3. 穂積プロブレムリスト 発熱 # 1 呼吸不全 # 2 糖尿病(網膜症,腎症) # 3 腎機能低下 # 4 低 Alb血症 # 5 浮腫 # 6 潜血・顆粒円柱・蛋白尿 # 7 両下腿の茶色色素斑 # 8 貧血 # 9 軽度の肝障害 # 10 高 LDH血症 # 11 番とは別のプロブレムとしました.すりガラス 陰影とair bronchogramは,2 番か 3 番のどちら に入れるかを迷ったのですが,3 番に入れてあり ます. 4 番目は肝腫大.右肋骨弓下に肝 2 横指触知し ています.他との関連がわからないので,独立 したプロブレムにしています. 5 番目は下腿色素斑.糖尿病関連のものかも知 れません. 6 番目は貧血ですが,Cr 1.9mg!dlなので腎性 貧血もあり得ると思うのですが,腎性貧血は除 外診断が大切だと思いますので,単に貧血とい うプロブレムにしています. 最後に腎不全としました.急性か慢性かはわ からないです.もともと尿蛋白 2+で浮腫があり, 網膜症も進行しているので,糖尿病腎症もあり 得ると思います.ただ,入院後の経過で全身浮 腫が増強して尿蛋白も大分増えているので,他 の疾患を想定しないといけないと考えます.補 体が低くなっているのは腎疾患に関連している と考え,ここに入れています. 最後に行った検査ですが,昨日まで考えてい たのは腎生検でしたが,補体価の再検にしまし た.感染後の糸球体腎炎ですと補体価は 3 月 25 日頃になれば戻ってくるし,他の膜性増殖性糸 球体腎炎では,補体価の低値が続くのではない かと思いました. 村山 3 人目ですが,穂積先生お願いします. 穂積 プロブレムをまとめてみました(表 3). 低Alb血症以下は,プロブレムリストに挙げなく てもよいかなとは思いました.胸部CTや心エコー の所見,BNP(brain natriuretic peptide)はどう でしたか. 村山 胸部CTは撮っていません.BNPも測定 していません.心エコーは,asynergyがなく駆 出率は 74% でした. 穂積 1 番目の発熱ですが,痰に白血球の貪食 像があり,呼吸不全を伴い,経過中に抗菌薬の 投与とステロイドで炎症の改善がみられている ことから,肺炎などの気道感染症を考えました. それから,糖尿病患者ですので尿路感染症,血 液培養をしてないのですが敗血症の合併です. 腎機能障害や,下腿色素斑が紫斑だとしたら, 血管炎症候群の可能性もあるかなと思いました. 2 番目の呼吸不全ですが,肺炎など感染症によ る呼吸不全です.その他の原因として,心原性 の肺水腫ですが,心エコーの所見から可能性は 低いと思います.次に,非心原性の肺水腫,つ まり低Alb血症と感染によって修飾された浸潤影 による呼吸不全.それから,ARDSのような肺障 害,間質性肺炎群や,血管炎に伴う肺胞出血が 鑑別に挙げられます. 3 番目の糖尿病は診断済みだろうと思いました. 4 番目は腎機能低下.長期の糖尿病の罹病期間 があり尿所見を考えますと,糖尿病性腎症があっ てもよいと思いました.血管炎に伴う腎機能障 害というのも鑑別に挙げておきました. 低Alb血症ですが,蛋白尿が多く浮腫も伴って いたところから,ネフローゼ症候群.糖尿病と 関連があったかも知れませんし,別な疾患が合 併した可能性も考えました.浮腫に関しては, 心不全,腎不全もありましたが,心エコー所見 や腎不全の程度も軽いので,原因は低Alb血症と 考えました. 以上から,糖尿病,糖尿病性腎症,ネフロー ゼ症候群が基礎にあり,おそらく肺炎球菌また は別の起炎菌による肺炎と,低Alb血症による非
2816 心原性の肺水腫によって修飾されていると考え ました. 村山 プロブレムリストは,岡田先生,鈴木 先生は,病気の生起順に,穂積先生は,今回入 院の契機となった疾患からに順で挙げていただ きました.挙げ方も,この病気として一括りで よいだろうという挙げ方と,まだ病気としてはっ きりわからないので,それぞれの所見名として 挙げていて,その後検討して 1 つの病気に詰め ていくというリストのようです. 今回は胸部X線写真が各ディスカッサントには 渡っておらず,症例サマリのみでプロブレムリ ストを立てていただきました.広範なair bron-chogramを含んだ浸潤影があり呼吸不全状態でし たが,穂積先生のリストでは,呼吸不全,発熱 に当たるかと思います.鈴木先生のリストでは 呼吸器感染症,岡田先生のでは肺炎球菌性肺炎 というプロブレム名でした.穂積先生は,画像 を見た時点では,何を疑ってどういうような検 査をされますか. 穂積 胸部CTを撮ります.血液検査上で高度 の炎症がありますので,まず感染症を疑い,痰 の培養,血液培養を行いたいと思います.尿中 肺炎球菌抗原とレジオネラ抗原も採ります.挿 管に至るほどの重症呼吸不全ですので,非感染 性の疾患や,感染症であればニューモシスチス 肺炎や真菌も鑑別に挙げ,背景に何らかの免疫 不全や膠原病がないか,検索を進めていくと思 います. 吉富 両肺に浸潤影を認め,血液検査ではCRP が高値の割には白血球数が増加していないこと から,肺炎球菌性肺炎でも末梢白血球数が減少 するようなタイプか,レジオネラ肺炎などの異 型肺炎が想定されます.IPM!CSとMINOによる 治療は妥当と考えます.その後の胸部陰影の改 善が良好で,MINOとPSLを中止してから陰影が 悪化していることから,MINOが有効な異型肺炎 やPSLが有効な肺疾患も鑑別に挙げられます. 村山 このような場合の副腎皮質ステロイド 薬(以下ステロイド薬)の投与についてはいか がでしょうか. 穂積 ARDSにメチルプレドニゾロン(mPSL) 1mg!kg!日を投与し,ICUからの退室率や抜管率 が改善したという論文(Chest 2007;131:954) や,敗血症ショックに対するハイドロコルチゾ ン 200∼300mg!日 7 日間投与(Crit Care Med 2004;32:858)があります.ステロイドパルス 療法をすることもあります.この症例では感染 症を考えたいので,挿管して抗菌薬を続けなが らステロイド薬投与を検討します. 森 PSL 40mg!日を使っていますが,どうい う基準で選択されたのでしょうか. 村山 本例は重症肺炎で,気管挿管しても酸 素量が上がってこないということでステロイド 薬を併用しました.1mg!kgというところで使い 始めました. 森 ステロイド薬の反応性をみるということ で,mPSL 1,000mgではなく 500mgを 3 日間使う という方法もあるようです. 村山 重症感染症があって食事が摂れない状 態でしたのでインスリンを使用していました. 血糖コントロールは重症感染症を合併した場合 には重要です.どの辺りを血糖のターゲットと して考えておられますか. 鈴木 外科的ICUだと,血糖 100mg!dl前後に すると死亡率が下がったという報告(N Engl J Med 2001;345:1359)がありました.内科的ICU ではそこまでの効果はなかった(N Engl J Med 2006;354:449)ということですが,100mg!dl 前後というのは結構厳しいコントロールで,低 血糖ギリギリのところで,現実的には 150mg!dl を下回ればよいくらいにコントロールすると思 います. 村山 岡田先生は,急性腎炎症候群と捉えて いたわけですが,プロブレムを 2 番と 7 番を分 けた理由はいかがでしょうか. 岡田 経過中に検尿所見が明らかに変化して いるということです.数年前から糖尿病,網膜
図 2. 腎生検病理所見 症があり,蛋白尿があったことから,最も可能 性として高いのは糖尿病腎症だと思いました. 7 番と 2 番と分けた理由は,感染に伴う糖尿病腎 症の単純な急性増悪では検尿所見の変化の説明 がつかないと思うからです.血尿や円柱を伴っ ているということは,腎炎型の病変が新しく併 発しているのではないかと考えました. 鈴木 最初は糖尿病腎症でも説明がつくと思 いますが,入院後の検査所見で血尿がかなり多 いので,糖尿病腎症としては典型的ではないと 考えました.プロブレムとして分けようかと迷っ たのですが,腎不全と一括りにしてしまいまし た. 森田 肺と腎臓の病変との関連については, どう考えられたのでしょうか. 穂積 呼吸器科領域で時々経験する肺と腎臓 が傷害される疾患というと,血管炎が頭に浮か びます. 岡田 細菌性肺炎後の急性腎炎ということで, 急性糸球体腎炎を鑑別として考えます.大部分 は溶連菌ですが,ブドウ球菌,肺炎球菌,ウィ ルス,マイコプラズマでも,感染後の腎炎があ ります. 村山 中核は糖尿病と重症肺炎それに併発し たARDSですね.それから,尿蛋白が以前からあっ たところに加わった蛋白血尿の症候群という 3 つの病気が重なりあっている患者さんだったと 思います. 結果の説明に入りたいと思います.行った検 査は,皆さんご指摘のように腎生検でした. 夏目 200X年 3 月 25 日に施行しました腎生検 の結果です.PAS染色標本では,メサンギウム 細胞と基質が増殖しています(図 2 左上).別の 糸球体では,結節状のメサンギウム基質の増加 を認めました(図 2 右上).これらは糖尿病性腎 症の糸球体病変に合致する所見です.HE染色標 本(図 2 左右下)では,糸球体に少数ですが多 核白血球が認められました.電顕では糸球体の 基底膜の肥厚とやや結節状のメサンギウム基質 増加を認め,内腔の狭小化を伴っていました. 糸球体基底膜には膜内沈着物が散在し,多核白 血球浸潤部には内皮下沈着物を認め,内皮下拡 大と内皮の腫大が見られます.上皮細胞の絨毛 状変化と足突起癒合がところどころに見られま
2818 図 3. 臨床経過 200X+ 1 200X 200X- 1 年 9/1 6/19 4/24 3/28 3/3 2/25 2/3 1/17 月日 1.84 13.1 4.3 尿蛋白 g/日 2+ 3+ 3+ 3+ 3+ 3+ 2+ 2+ 尿蛋白 - - ± 2+ 3+ 2+ + - 潜血 112 75.6 22.1 C3 52 45 30.2 C4 3.88 3.2 1.8 2.3 Alb 1.47 1.43 1.63 1.88 1.92 Cr 表 4. 主治医プロブレムリスト 糖尿病[0X.2.3] # 1 糖尿病性網膜症[0X.2.3] # 2 糖尿病性腎症[0X.2.3] # 3 急性大葉性肺炎[0X.2.3] # 4 →急性大葉性肺炎(肺炎球菌)[0X.2.10] →治癒<済>[0X.2.20] 急性呼吸窮迫症候群(# 4)[0X.2.10] # 5 →治癒<済>[0X.3.4] 蛋白血尿[0X.2.27] # 6 →感染後糸球体腎炎(# 4)[0X.5.29] 正球性正色素性貧血[0X.3.17] # 7 →腎性貧血(# 3)[0X.3.26] す.これらは,糖尿病性の糸球体硬化症が主で, 急性腎炎合併の可能性を示唆する所見でした. 村山 臨床経過です(図 3).1 年前には尿潜 血はありませんでしたが,1 月 17 日は 1+で, 入院時は 2+でした.浮腫が出てきたのが 2 月中 旬ですが,2 月 25 日の 1 日尿蛋白定 量 は 13g で円柱も出ていました.C3 がかなり低下してい ました.腎生検を 3 月 28 日に行いましたが,こ の時点で補体は回復してきていました.その後 退院され,外来での蛋白尿は 9 月には 1.84g!日 まで減っています.血清Crも徐々に下がり,Alb も 3.91g!dlまで戻りました.臨床診断としては, 感染後の急性糸球体腎炎の合併と考えられます. 主治医のプロブレムリストを示します(表 4). 日付は病気が発症した時ではなく,リストを書 いた人が認識した日付を記しています.入院時 に記したリストは,入院と同じ日付になります. 糖尿病,糖尿病性網膜症,糖尿病性腎症も,起 こってきた順に書いています.#4 は,肺炎球菌 が検出され,肺炎球菌による急性大葉性肺炎と 認識したとして括弧内に起因菌名を記していま す.最初は重症肺炎という認識でステロイドを 呼吸不全から脱出するために併用したのですが, 一旦止めたらまた浸潤影が出てきたことから, ARDSという別の範疇で捉えた方がよいと考え# 5 として挙げ,(#4)として関連を明確にしてい ます.#6 は,尿蛋白定量(約 13g)の時点で認 識したということです.検査結果を待って診断 名に展開しています.#7 は,感染症が治癒して も同様で,エリスロポエチンを測ってリストに 示しました. 岡田先生のご指摘に有るように,感染後糸球 体腎炎はA群溶連菌の上気道感染後に起こるのが 教科書的ですが,肺炎球菌は連鎖球菌属のB群に 属します.大人でそれに起因するのは稀と報告 (J Nephrology 2007;20:99)されています. 患者さんはしばらく外来通院の後,転院され ました.紹介状には,入院時に立てて展開した プロブレムリストを記しています.一度作った リストは入院外来を問わず継続し,疾病履歴と しての機能を有することになります. プロブレムリストを立てる意義は,患者の全 体像を把握しながらの診療と,診療の継続性の 保証にあると考えています.
兼松 治癒と判断して「→治癒」を付けたプ ロブレムが再燃してきた場合に,治癒と判断し たのが間違っていたとするのか,もしくはプロ ブレムリストを新たに作り直すのかを教えてい ただけますか. 村山 治ったと思ったが燻っていて再燃した, これは同じ病気として扱います.しかし,一旦 治って,また新たに同じように現れたと考える なら,別の事態としてプロブレムを立てます. 個々の施設で,プロブレムの立て方やプロブ レムリストの活用の方法にはそれぞれの流儀が あると思いますが,私共は,「総合プロブレム方 式」(総合プロブレム方式―新時代の臨床医のた めの合理的診療形式:プリメド社)と称してい る様式の下に,プロブレムリストを立て,それ ぞれのプロブレムについて討論しながら診療・ 指導を行い,継続性にも配慮して主治医機能を 果たすことに役立てようとしていることを皆さ んにお伝えして,本日の検討会を終了致します.