「地球の科学」講義科目の内容の例
著者名(日)
生沼 郁
雑誌名
東洋大学紀要. 自然科学篇
号
49
ページ
201-209
発行年
2005-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002506/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja「地球の科学」講義科目の内容の例
生 沼 郁*Example of the Content of Course of
the Lecture on“Earth Science”
Kaoru OINUMA
Abstract Earth science is one of courses of general education (natural science)at Toyo University. This course is common and available to students in Faculties of Litera- ture, Economics, Law, Sociology and Business Administration. This paper presents an example of schedule and content of teaching materials in course of earth sci- ence. Purpose of this course, shape of the earth, internal of the earth, construction of the earth’s crust, formation of mineral, use of mineral, origin of the earth, evo- lution of the earth are dealt with in this lecture,1.まえがき
40年以上大学文系学部の学生に対して教養教育のため自然科学科目の「地球の科学」 (古くは地学)を担当してきている.その授業の内容の設定・構成について多くの試みを してきた.地球科学の内容は幅広く,膨大であり,大学の週1回1年間の授業で扱える事 柄はごく限られる.それをどのような観点でどう教えるか,また自分の専攻してきた分野 や専門研究分野をどうそれに関連付けるか多くの方法が考えられる. 筆者は55年間,地球科学の分野で,特に地質学・鉱物学を専攻し,粘土鉱物の研究を してきた.各種の機器分析による粘土鉱物の研究方法の研究,それを応用して広い地域や 各種の堆積物・堆積岩中の粘土鉱物の研究をしてきた.その間高等学校で非常勤講師とし て地学と物理の科目を教えたこともある.また,大学では,長年,化学,地学,物理学の 科目を教えてきた.実際,大学での地球科学の講義において長年扱ってきた経験をもとに, どのようにその内容を授業で展開していくべきか絶えず検討してきた. *東洋大学自然科学研究室 〒351-8510埼玉県朝霞市岡2-11-10 Natural Science Laboratory, Toyo University,11-10,0ka 2, Asaka-shi, Saitama 351-8510, JAPAN202 生 沼 β 有 筆者は本年度で東洋大学を定年退職する.この長い教師生活を通じ地球科学の授業の内 容も学問の発展とともに変えてきた.ここでは最近行っている授業の内容について,その 例としてここに報告する.
2.講義の目的の設定
地球科学の授業で,どのような内容を教えるかは,この授業でどのようなことを理解し てもらうか,その目的を考える必要がある.その目的として以下の4つを掲げた.それと 扱う内容の概要を示す. 1)歴史的な説明から現在の理解へ 我々人間が地球をどのように理解してきたか歴史的な観点から,それを通じてどのよう なことがわかったか,と話を進めていくこともひとつの方法である.地球の形状と地球の 内部という2つのテーマを例に取り,そのような観点から,話を進める.前者は何千年も の長い人間の歴史を通してのテーマであり,後者はそれとは対照的にここ100年位の歴史 しかない. 2) 身近な地球を微視的に更に,巨視的にとらえる 次に身近な所での,地球を考えると,我々のすぐ足の下の地殻である.それがどのよう なものからできているか.目に見えない原子レベル,その結合した地殻で目で見える最小 の単位としての鉱物,さらに,その集まったものとしての岩石と,さらに広く岩石の分布 の様子を地質としてとらえる. 3)地球の生成から進化について理解する 地球の特徴である地球の持つ歴史を考えることが現在の地球の理解につながる.そのた め46億年前の地球の生成から,その後どのように地球が変化して現在に至るか,地球の 進化を扱う. 4)地球と人間との関係をとらえる 以上幾つかのテーマで地球の理解を深めたところで,人間・人間生活との関連で,人間 がどのように地球を利用しているか,しかし,良い面ばかりではなく,自然から受ける害 もある.それは自然災害であり,また,人間活動による自然環境の変化から受ける害もあ ることを理解する.3.実際の授業の講義要項
本年度(平成16年度)の大学の履修要項に掲載した「地球の科学(担当生沼)」の講義 要項を以下に載せる. 講義の目的,内容 地球を人間がどのように理解してきたかを考える.まず地球の形状を例にとり,次には 地球の内部についての理解の発展の様子を概観する.また物質科学的立場から地球を構成 する物質について考える.さらに人間との関係においてエネルギー資源・鉱物資源など地 球の利用面,また地球から受ける害(災害)や地球の利用による環境の変化などについて「地球の科学」講義科目の内容の例 203 も考えたい.本講義は地球を巨視的(宇宙の一員として),微視的(原子の集合として), 歴史的などいろいろ違った角度からとらえることにより,地球の姿を正しく理解し,科学 的な地球観から,さらに地球と人間生活とのつながりを明らかにすることを目的としてお り,知識をただ単に広くまた細かく掘り下げるものではない. 年間スケジュール A(前期):1.地球・地球科学の理解 2.地球の形状 3.地球の内部 B(後期):L地殻を構成する物質 2.地球の進化 3.地球と人間生活 クラスの人数により進度は異なる.講義を中心に行うが,各項目毎に理解を深めるた め,授業時に小テストを行う. 指導方法 授業には遅刻・早退しないで常時出席できる者のみ受講のこと.授業内容は毎回出席し ないと理解できない.また例年受講希望者が多く全員が受講できないことがあるので,毎 回出席できない者は受講を遠慮して下さい. 成績評価の方法 毎回出欠を取り,80%以上の出席を条件とする.授業時に小テストやノート提出などを 行い,それらを総合して成績を評価する.そのため学期末試験は行わない.最初の授業時 に説明を聞くこと. テキスト 使用しない. 参考書 必要に応じて授業時に紹介する.
4.実際の授業の計画
以下のように,平成16年度の毎時間の授業計画(予定)を事前に立てた. 平成16年度 地球の科学の(月1・2)授業内容予定(2004.3.22> A:春学期(前期),B:秋学期(後期) 地球の科学A 回 授業日 授業内容寸⊥20∪4CU
4/12 19 26 5/10 17 ガイダンス 受講者決定・自然科学と地球科学 1.地球の特徴・ 地球科学の特徴・地球科学と他分野 ll.地球の構成 ll-1.地球の形状 a.古代人の地球観,b.地球球形説, c.地球楕円体説204 6 24 7 6/7 8 14 9 21
10 28
11 7/512 12
生 沼 郁 d.地球楕円体,e.長さの単位, f.ジオイド ll-2.地球の内部 a.内部を推定する方法, b.地震波による方法 c.重力による方法,d.地球潮汐から e.密度と圧力,f.温度, g.内部を構成する物質 h.内部の組成 小テスト 予備日 地球の科学B12345678910H
2311
10/4 18 25 11/1 8 15 22 29 12/6 13 20 冬休み 1/17 24 皿 地殻 a.原子のレベルから b,鉱物について ①本質・整理・分類 ②鉱物の生成 ③鉱物の利用 ④粘土鉱物について産状・利用 c.岩石について IV 地球の進化 a.地球の生成 b.地質時代と地球の活動,c.海・陸の発展 小テスト(第2・3回分)VI人間と地球
評価返し・まとめ 予備日5.授業内容の概要
1.地球の特徴・地球科学の特徴・地球科学と他分野 まず地球について,それが層構造をしていること,中心のコアから外側の大気まで,ま た各々の層を見るとそれは目に見えない位巨大なものであるが,それはまた目に見えない 位微細な小さな原子からできていること,これを図にまとめながら説明する.これに加え て,地球はある時誕生し,その後変化をして現在に至る歴史を持っているのが特徴である ことを理解させる.またこの複雑さは丁度人間の社会によく似ていることを説明する. このような地球を理解するのは大変であること,そのため地球各部の様子や現象を明ら かにする学問分野(外側から気象学・海洋学……岩石学・鉱物学・地質学など)のあるこ と,また,地球を化学的,物理学的立場から見ることも必要でありそのような学問分野 (地球化学・地球物理学)があること,また地球を歴史的にとらえる分野(地史学,古地 理学など)もあり,これらを総合してはじめて地球を理解することができること,地球科 学は総合科学の性格を持つことを理解させる. 地球科学は独立したものではなく,自然科学の他の学問分野と関連している.その関係「地球の科学」講義科目の内容の例 205 を説明する. ll.地球の構成 地球の構成として,地球の形状と地球の内部の例を取り説明する.前者は長い何千年も の人間の歴史を通じて現在の理解に至ることを扱い.後者ではここ100年位の間にはじめ て明らかになったことを扱う.地球が我々に理解されるのに,長い年月をかけて,またご く最近になってわかったその例としてこの2つあげた. H-1.地球の形状 1)古代人の地球観 古代人は地球を平らな円板と考えていたところから始まる. 2)地球球形説 それを丸いと考え,それを証明する.最初の大きさの測定,その原理,さらにその後 大きさの測定が多くの人によりなされたことを歴史的に見る. 3) 地球楕円体説 地球完全球が疑われた動機から,理論的に赤道の方が突出した楕円体が考えられ,それ がその後測量による測定から証明される. 4)地球楕円体 地球楕円体の大きさとつぶれ具合(扁平率)を測量で測定された多くの結果を示す.さ らに重力の測定から地球楕円体が求まること,また最近になり,人工衛星の軌道の解析か ら精密な地球楕円体がわかった経過を説明する. 5)長さの単位 このテーマ(地球の形状)と我々の生活との関連で,今使われているメートル(m)が 最初は地球の大きさを基準にして作られたこと,その後のメートルの定義の変遷などにつ いて触れる. 6) ジオイド 厳密な地球の形として,ジオイドを考える.その定義およびそれをどのようにして知る ことができるか.ジオイドは重力測定からさらに現在は人工衛星の軌道の解析から,それ が詳細に求められた.ジオイドの形や世界地図で表したジオイドの凹凸の様子などを説明 する. H-2.地球の内部 地球の内部深くは見たり触れたりできない.それ故どのようなことから推定できるか, それからどのようなことが明らかになったか,幾つかの項目に分けて説明する. 1)内部を推定する方法 内部を推定する方法にどのようなものがあるか,個条書きに整理する.この後,順次説 明する. 2)地震波による方法 遠距離地震の観測から地球深部の構造がわかり,近距離地震の観測から浅いところの構 造を知ることができる.まず最初に地震波から地球の内部の構造を明らかにする.
206 生 沼 有β 3) 重力による方法 歴史的には地震波を使って内部構造が明らかになる以前に,重力の鉛直線偏椅から地殻 のモデルがだされている.重力の測定により地球内部の様子がわかること,またアイソス タシーについて論じる. 4) 地球潮汐から 地球潮汐から地球の内部の様子,外核が液体の性質を持つことを説明する. 5)密度と圧力 地震波の地球内部を進む速度から内部の密度および圧力を知ることができる.内部ほど 密度が高く,また地球深部は非常に高圧であることを示す.
6)温度
地表近くの浅い所は,井戸を使って,その温度を知ることができる,各地の地温勾配の 例を示し,その様子を説明する.深部については測定不能であり,多くの方法でその推定 がなされていることを示し,内部は非常に高温であることを理解させる. 7) 内部を構成する物質 地球内部にはどのようなものがあるか,手に取ることはできないので多くのことから考 える.地下から噴き出すマグマは浅い所を知るのには良い.地球の外から落ちてくる限石 は地球と血縁関係にあると思われ,これはマントル・核の組成を推定するのに役立つ.宇 宙の組成~太陽大気の組成のうち,非揮発性の元素の何が地球内部の物質として考えられ るか.地球内部の高温・高圧で安定に存在する物質など多くのことから地球内部に存在す ると考えられるものを推定する. 8) 内部の組成 上部から順に,地球の内部の組成を検討する.地殻のモデルにより,大陸・海洋の地殻 の特徴を示す.次にモホロビチッチ不連続面の直下のマントル上部の組成,それより下で は圧力が増すためマントル中・下部ではより高密度の物質になっていることを説明する. 性質が極端にかわった高密度の核は限鉄に類似し鉄を主とすることを示す. nl 地殻 我々の身近な足の下に話を戻す.地殻についてどんなものがそこにあるか,どうしてで きたか,また,それら物質を我々がどのように利用しているかなどをまとめる. 1) 原子のレベルから 地球を考える時の最小の単位としての原子のレベルからまず見る.どんな元素からなっ ているか.主要な8元素について,その重量%,また体積%を比較する.量の少ない元素 の例を見る.それらの存在は均質なのか濃集しているのか,地球の特徴を考え,鉱床につ いて説明する. 2)鉱物について 地殻を構成し目に見える最小の単位として鉱物を理解する.原子の結合した鉱物の種類 について考える.①本質・整理・分類
「地球の科学」講義科目の内容の例 207 数多い鉱物を整理し分類する方法は幾つかあるが,ここでは鉱物の本質を考え,化学組 成と構造からの分類とその代表的な鉱物の例を表で説明する.また地殻を構成する主要な 鉱物について説明する.実際の鉱物標本は授業時に見せることもできるが,大教室の場合, あらかじめ撮影し作製したビデオを使い見せる. ② 鉱物の生成 鉱物がどうしてできるか.鉱物の生成は幾つかに分類でき,それについて具体的な例を 挙げて説明する.
③鉱物の利用
鉱物は人間にとつて重要なもので,広く利用されている.それらを整理して具体的に 説明し理解させる. ④粘土鉱物について産状・利用 筆者は粘土鉱物を長年研究してきた.そのため粘土鉱物について少し詳しく説明する. 粘土鉱物とは,どこに存在し,どのように我々が利用しているかを理解させる. 3) 岩石について 鉱物の集まっている岩石について,その生成,種類,利用など具体的に,また製作した 岩石標本のビデオや市販のこれに関したビデオを使い理解させる. 4)地質 地殻はこれら各種の岩石からなっている.実際の岩石の分布を地質図を使い理解させる. IV. 地球の進化 次に,地球の生成から現在に至る経過を扱い,より一層地球を理解させる. 1)地球の生成 地球の生成についての考えがどのように変わってきたか歴史的な経緯をまとめ,現在の 理解について説明する. 2)地質時代と地球の活動 その後の地球の変化を考える.地質時代について,また大気・海洋・地殻・生物の変化 などを考える. 3) 海・陸の発展 現在の地球の陸・海洋ができる迄の経緯,プレートテクトニクスなどについて説明する. V.人間と地球 人間と地球の関係を論ずる.地球の利用,人間活動による静的・動的な地球の変化,ま た地球から受ける害(自然災害と環境破壊)を考える.6.授業の実際・授業の進め方
以上のような内容の授業を進めるに当たり,適当な図書はないので,教科書は使わず, 授業時に学生が講義のノートを取ることにしている.以前は主としては板書とプリントの 配付で講義を行なってきた.受講生人数が多く1コース300~600名であり,どうしても208 生 沼 有 β 大きな教室での授業になり,効果のある授業をするには大変な努力がいった. 本年度は600席の大教室を使用しての2コースである.ここでは板書により授業を進め るのは大変である.この教室には大型の液晶プロジエクターがあり,ビデオやパソコンの 画面また書画を大きく写すことができる.これを有効に使うように授業の進め方を変えた. 設備のなかった時期には板書しか方法はなかったが,現在はそれを全て,パソコン画面ま たオーパヘッドプロジェクターと同様に使える書画画面で行なっている.準備は大変であ るが,学生には良く見えてノートは取りやすいようである.ただ授業の進める速さについ ては慎重に行なう必要がある.また,ビデオも使えるので,あらかじめ準備し製作したも のや市販のものを見せて授業を進めることができる.これ以外に必要に応じてプリントの 配付により授業を進めるので,人数が多くても内容に応じて変化に富んだ授業を行なえる.
7.評価について
授業時の最初に出席者各々に出席カードを配る.遅刻者には後で別のカード(遅刻)を 渡す.これらを毎授業時に行なう.これら出席カードは提出させ,学部・学科・学年・番 号順に整理する.それらは,大学から渡される分厚い受講生名簿を大きな用紙に作り直し た名簿に出席・遅刻を区別して記入する.記入するスペースが狭いので,毎回カラーイン クにより色を変えて正の字で出席の記録をする.20回の出席でも正の4文字で済むこと になる. 小テストを毎期1~2回行なう.これは受講人数が多く個々への十分の指導ができない のを補うために行なってきた.十分な時問を与えて授業内容に関したことを自分でまとめ させるのである. 通年(1年間通し)の授業では,夏休みに課題を出してレポート提出をさせた.本年度 から,春秋と2学期制になったのでこれはできない. 学生はノートを作ることになるが,それは提出させる.しかし,多人数のため,返却が 不可能なので,実際には小テスト実施中に教室内を回り個々のノートを見せてもらい評価 のシールを渡しそれを小テストの用紙に貼って提出させる.これで数百人の学生のノート の点検が可能である.このように全受講生が授業のノートを取ることで,学生も授業を休 まず,講義を良く聞いて,カラーペンなどで見やすいノートの作成に努力している.その 反面,教師としては,ノートを作りやすいように,わかり易い文や図をつくり,プロジェ クターで投影,プリントにまとめて配付するようあらかじめ準備をする必要がある. 評価については,出席80%以上の者に対して,小テスト・レポート・ノートの評価の 平均点を付けることにしている.これは講義要項でまた学期最初の授業時に学生に話をし て周知させている.小テスト・レポート・ノートの各々についての評価はそれを点検した 時に,良いものから順に二重丸A,丸A,A, AB, B, BC, C,……と名簿に記入する. 実際の評価では,出席が悪く評価の付かない(/)学生は毎年10%位出るが,その他 は非常に良い評価が付く,出席95%以上で丸AでSとするが相当数の学生がこれに該当 する.平均Aは大学への提出評価もAで多数が該当する.良く出席してノートなど良く 整理して良く勉強している学生にS,Aの評価の付くのは当然である.またB, Cなどの「地球の科学」講義科目の内容の例 209 評価も付くが,それは小テスト・ノートの成績が悪い者また出席が多少基準に満たない者 である.