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51 Characteristics of Chinese classical dance works performed in Taiwan Chiung-Fang Chang 1 and Akiko Zukawa 2 Abstract The purpose of this study was

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全文

(1)

台湾で上演された中国古典舞踊作品の特徴

張 瓊 方

1)

頭川 昭子

2)

Characteristics of Chinese classical dance works performed in Taiwan

Chiung-Fang Chang1

and Akiko Zukawa2

Abstract

The purpose of this study was to clarify the characteristics of Chinese classical dance works per-formed in Taiwan. Twelve dance works perper-formed by dancers ranging from groups of elementary school children to a professional dance troupe in Taiwan were recorded on VTR and analyzed for composition, outer images and inner images. In order to analyze the compositions of the dances, the theme, genders, music, hand props and movements as dance elements were described on the VTR. Also, in order to analyze and measure dance images through a semantic differential method, a ques-tionnaire with 35 scales for outer images and a quesques-tionnaire with 46 scales for inner images were applied. Raw data for two experiments were obtained from 60 and 62 university students, respec-tively, who responded to these scales for each of the dance works. The results were as follows: 1. It was found that the characteristics of “wen wu” and those of “wu wu” existed, but that both of the characteristics were different. In particular, “wen wu” was expressed in terms of lyrical content, the grace of court women, scenery content, and the atmosphere of wall paintings and sculpture in Tun-huang, using hand props made of fabric, stringed instruments, and curved movements using mainly the upper limbs and upper body. The outer images were obtained in numerous directions in three di-mensions, involving “kinds of movements, and space-time variation”, “toe balance and turning while standing”, and “non-transfer by the whole body” and in few directions in a single dimension, such as “lifting of a partner”. However, these dimensions were similar to “wu wu”. The inner images were strongly portrayed in a “flexibility” dimension, and in a light “weight” dimension. On the other hand, “wu wu” was expressed through substance of content through shows of force using weapons, hand props such as swords and shields, percussion instruments, and with movements involving turning of the upper body using mainly straight lines. The outer images were obtained differently with “wen wu” in two dimensions, using techniques such as “one-legged balance and jumping”, and hand props. The inner images were strongly imaged in a stiff “flexibility” dimension, and in a wide “spatiality”

1)筑波大学人間総合科学研究科

〒 305-8574 茨城県つくば市天王台 1-1-1 2)筑波大学人間総合科学研究科

〒 305-8574 茨城県つくば市天王台 1-1-1 連絡先 張 瓊方

1.Doctoral Program in Graduate School of Compre-hensive Human Sciences, University of Tsukuba 1-1-1 Tennnoudai Tsukuba city, Ibaraki 305-8574 2.Institute of Health and Sport Sciences in

Compre-hensive Human Sciences, University of Tsukuba 1-1-1 Tennnoudai Tsukuba city, Ibaraki 305-8574 Corresponding author cfchang0908jp@yahoo.co.jp

(2)

キーワード:文舞,武舞,構成,イメージ,次元

I

緒   言

台湾では,1949 年以降,政治的な理由により 中国大陸との文化交流が少なくなり,台湾におけ る中国民族舞踊は大陸の発展とは異なり,独自に 発展していると言われている.中国大陸では,ロ シアとの交流で発展した古典バレエの影響を受け て,民族舞踊にバレエの動きや構成が取り入れら れている(孔和平・郭小華,1995).一方,台湾 では,政府が中国文化の保存を提唱し,国の管轄 下で始まった民族文化運動の中で中国民族舞踊も 支援され,育成されてきた(盧健英,1995).中 国民族舞踊の一つである中国古典舞踊は,清時代 (1644 年─ 1911 年)に繁栄した京劇の中の舞踊的 な要素(動作,衣裳,小道具など)が強調され, 現代に至っている.1953 年から政府の支援によ り,毎年「民族舞踊コンクール大会」(2002 年以 降,「全国学生舞踊コンクール大会」に改名)が 開催され,中国古典舞踊,中国民俗舞踊,中国現 代舞踊(現在は現代舞踊に改名)を競演種目とし ている.この舞踊コンクール実施要綱によると, 中国古典舞踊は,中華民族の歴代の古典型式を含 み,伝統文化の内容を表現している舞踊である. 当初,中国から新たに移住した舞踊家と以前から 台湾に在住していた舞踊家が協力し,民族舞踊作 品を創作し,上演した.現在まで多くの舞踊家に 受け継がれて,洗練されてきた中国古典舞踊は, 台湾における重要な舞踊芸術である(表 1 参照). 中国の古典舞踊には,文舞と武舞がある.史料 文献の中に,周時代(BC1020 ─ BC256)の宮廷 における宗廟楽では,「文舞」と「武舞」を舞っ たと記述されている.「武舞」は古代武器を持っ て踊る舞踊であり,「文舞」は羽籥(羽根と横笛) などの小道具を手にして踊る舞踊であり,小道具 の種類によって区別している.周代までに踊られ た多くの舞踊の影響を受け,舞踊は伝承された過 程の中で新しい内容を加えたが,文と武の様式の 違いによる分類は昔から変化していない(殷亜昭, 1991, p. 64).例えば,唐代の「軟舞(文)」と 「健舞(武)」,科挙(官吏試験)の「文科」と 「武科」,中国劇曲の「文場」と「武場」などの分 類も対比的な内容であった(殷亜昭,1991, p. 64). また太極の思想を中心とする陰陽(李維,1970) は,文と武に相当している.文舞と武舞もこのよ うな分類と関連していると考えられる. 文舞と武舞の特性について文献を参考にすると dimension. 2. It was found that the characteristics of Chinese classical dance were similar to those of dances performed in Taiwan. In particular, both kinds of dance works were similar in composition in that they were performed mainly by women, using concerto music, and with hand props. Also, the outer images of both were similar in four dimensions such as “kinds of movements and space-time variation”, “toe balance and turning while standing”, “no transfer by whole body” and “lifting of part-ner”, and the inner images of both were similar in that the directions involved two dimensions, such as “esthetic” in the beauty dimension and “harmoniousness” in the harmony dimension.

Key words : wen wu, wu wu, composition, image, dimension

(Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 51: 737-756, November, 2006) 表 1 台湾における中国民族舞踊の発展 内容 年代 「中国民族舞蹈(舞踊)」は文芸政策の一つ であった 1949 年 国の管轄化で「国防部総政治部民族舞蹈(舞 踊)推行委員会」が発足した 1952 年 中華民族舞踊コンクール大会は,継続して 毎年行われている 1953 年 大学舞踊学科が設立され,中国舞踊は必修 科目になった 1964 年 英才教育における舞踊クラスが設立され, 中国舞踊は必修科目になった 1981 年 プロの台北民族舞踊団が設立された 1988 年

(3)

次のようになる.文舞は柔軟で順調な舞踊であり (李維,1970),「平和的な優雅なものであり(榊 原,1965,p. 292)」,大部分が女性による舞踊で あり,上半身の動作が多く,足部の動作が少なく, 優雅で,柔らかく,美しく,荘厳な側面を表現す る舞踊である(伍曼麗,1999, p. 252).一方,武 舞は剛健的な舞踊であり(李維,1970, p. 131), 尚武(武事,軍事)の強い戦闘的な表現(榊原, 1965, p. 292 ;王克芬,1991, p. 15)である.また, 武舞は,武術と舞踊を結び付けたものであり,難 度が高い技と芸術を融合し,気勢の強い(王克芬, 1991, p. 15)特徴を持ち,武舞は手足の動作が多 く,剛健な気勢を表現する舞踊である(伍曼麗, 1999, p. 252). 以上のことから,中国古典舞踊は文舞と武舞に 分類でき,両者はそれぞれ独自の特性を持ってい ると考えられる. 本研究では,台湾で上演された中国古典舞踊作 品における文舞と武舞の特徴を作品の構成とイメー ジ分析を通して明らかにする.舞踊作品は,内容 をふくむ主題,題目などの作品のテーマ,表現者 の動き(型,種類,人間関係,時空間の組み立て など),音楽,美術などの要素で成り立っている. 本研究では VTR に記録された舞踊作品につい て,題名・題材や構成要素の分析と,多くの観客 による作品に対するイメージの分析をもとに作品 の特徴を明らかにする.本研究で用いた内的イメー ジの構成尺度は,作品の共通の性質や属性であり, 明るい,静かなどの形容詞や形容動詞で表し,観 客の作品に対する情緒的,感性的なイメージを指 す(頭川ほか,2002, p. 47).頭川は,舞踊作品 の内的イメージを明らかにするための意味差判別 法によるダンスの測定尺度を作成し,多数の実験 を重ねて情意的な 8 意味次元(表 2 参照)をもと にモデル化した(以下,「ダンス SS モデル」と略 す)(頭川,1995).これらの 8 意味次元をもとに, 張らは,舞踊団によって踊られた作品の中の中国 女性古典舞踊作品(張・頭川,2002)や民族舞踊 表 2 舞踊の内的イメージ探究のための意味空間モデル(ダンス SS モデル) 尺  度 次元名 次元 愉快な―不快な うれしい―悲しい 明快性 D1 (明快感―暗然感) 明るい―暗い にぎやか―さびしい 楽しい―苦しい 面白い―つまらない (9 尺度) かわいい―にくい 新しい―古い 派手な―地味な  美しい―みにくい 上品な―下品な 審美性 D2 (5 尺度) 清らかな―不潔な 自然な―不自然な すき―きらい (美的感―醜悪感) 激しい―静か 派手な―地味な 力動性 D3 (4 尺度) 積極的―消極的 強い―弱い (活動感―沈静感) 直線的―曲線的 かたい―やわらかい 弾力性 D4 (硬直感―柔軟感) 男性的―女性的 はりつめた―ゆるい (5 尺度) きびしい―やさしい まとまった―ばらばらな 正確な―不正確な 調和性 D5 (4 尺度) 安定した―不安定な 規則的―不規則的 (協和感―不協和感) 軽い―重い 細い―太い 重量性 D6 (2 尺度) (軽量感―重量感) むずかしい―たやすい 複雑な―単純な 難易性 D7 (2 尺度) (難行感―易行感) 広い―狭い 大きい―小さい 空間性 D8 (2 尺度) (広大感―狭小感) ( ― ):各次元における両極の意味 注:D1 から D8 は,8 内的意味次元を表す記号である

(4)

における民俗舞踊作品(張,2002)のイメージを 研究し,内的イメージの特徴を明らかにした. 頭川らは,国際創作舞踊コンクールにおける入 賞作品のイメージを研究するため,舞踊のイメー ジを内的イメージと外的イメージに分類し,考察 した(頭川ほか,2002).外的イメージの構成尺 度は,内的イメージをもたらす舞踊の動き,衣裳, 小道具などの要素に関するイメージを指し,因子 分析を用いて因子負荷量の高い因子を命名し,各 因子の意味次元とその尺度を導き出し,国際創作 舞踊コンクール受賞作品の特徴を分析した.この 外的イメージは,「具体的な対象性を持って把握 することが可能な様相」(頭川ほか,2002, p. 47) により内的なイメージを喚起することができるも のである.また,張らは,台湾で上演された中国 古典舞踊作品における武舞作品の特徴を,作品の 構成とイメージを分析して明らかにした(張・頭 川,2005).本研究は,中国古典舞踊作品におけ る武舞作品だけではなく,文舞作品を加えて,両 者の特徴を導き出した点で,他の論文と異なり, 独自性があると言える.さらに,外的イメージで は 2 回の古典舞踊作品のイメージ調査結果から, 因子分析の手法で導き出した因子負荷量を基に, 共通の意味次元とその尺度を抽出し,客観的な評 定基準を作って分析した点も,本研究の独自性の 一つであると言える. 本研究では,文献で二種類に分類されている中 国古典舞踊作品の特徴を明らかにすることを目的 としている.研究の焦点は,台湾で上演された作 品をもとに,作品の構成と作品のイメージの 2 視 点から作品の特徴を明らかにする.

II

研究方法

1.標本資料の作成 本研究で用いた標本資料は,台湾の民族舞踊界 で,定期的に上演活動を行っている小学生から成 人までの代表グループによる作品から選択した 12 作品である. まず,専門家による台北民族舞踊団によって踊 表 3 2 回のイメージ調査における外的イメージの測定結果を元に因子分析を行った抽出された 9 因子次元 因子尺度 因子次元命名 次元 動きの全体的特徴:動きの種類,時間的変化,空間 的変化,リズミカルな動き,流れるような動き,断 続的な動き 動きの種類・時空間の変化 d1 (7 尺度) 衣裳と音楽:音の時間的変化 移動系:トゥ・バランス,立位回転 トゥ・バランス・立位回転 d2 (4 尺度) 非移動系:トゥ・バランス,立位回転 (3 尺度) 非移動系:上体の動き,上肢の動き,両脚の動き 非移動全身 d3 (3 尺度) 衣裳と音楽:衣裳の種類,衣裳の色,音の種類 衣裳・音の種類 d4 移動系:片脚バランス,ジャンプ 片脚バランス・ジャンプ d5 (4 尺度) 非移動系:片脚バランス,ジャンプ 移動系:人と物との接触 小道具との接触 d6 (2 尺度) 非移動系:人と物との接触 移動系:人と人との接触 人と人の接触 d7 (2 尺度) 非移動系:人と人との接触 移動系:人のリフト 人のリフト d8 (2 尺度) 非移動系:人のリフト 移動系:床との接触 床との接触 d9 (2 尺度) 非移動系:床との接触 注:d1 から d9 は 9 外的意味次元を表す記号である

(5)

られた代表的な古典舞踊の 3 作品を選択した.台 北民族舞踊団は,1988 年に設立され,台湾にお ける唯一のプロ舞踊団であり,政府の援助金を得 て,台湾や海外の公演に参加し,広く国際的なフェ スティバルに出場し,多数の受賞をして認められ ている.次に,台湾の舞踊専攻生による公演の 5 作品を選択した.台湾の学校教育では,特別に舞 踊専攻コース(大学生)と英才教育における舞踊 クラス(小学生・中学生)が設置されている学校 があり,そこでは中国民族舞踊や中国劇における 基本動作などを学習するクラスが設けられてい て,毎年公演を行っている.更に,本研究では 「全国学生舞踊コンクール大会」の中国古典舞踊 に上位入賞している学校や舞踊塾(小学生・中学 生・大学生)の 4 作品を選択した.即ち,本研究 で選択した中国古典舞踊作品は,台北舞踊団によ る作品,大学生,小学生,中学生の舞踊専攻生に よる作品,舞踊コンクール大会で上位入賞した作 品である.資料としての作品は,それぞれの公演 や大会当時に専門家により収録されたものを基に して,選択した作品をダビングしたものである. 作品は文舞が 6 作品であり,武舞が 6 作品であっ た(表 4 ─ 1,表 5 ─ 1 参照).文舞と武舞は,文 献によって明らかにされた特性を持つ題材と小道 具を基準として選択した. 2.古典舞踊作品の作品構成の分析 本研究における中国古典舞踊作品の構成に関す る分析では,作品の題材,演者(人数と性別), 音楽,小道具,動作を記録した.作品の題材は, 公演のプログラムにおける作品解説や題名によ り,振付者の表現意図を明確にし,音楽について は使用された主な楽器の種類,小道具については 名称と使用方法,動作については VTR 資料によ り,動作の特徴を記録した. 3.古典舞踊作品のイメージに関する資料の収 集と資料の処理 2004 年 4 月─ 5 月に,台湾における中国古典舞 踊作品のイメージ調査を 2 回(各 7 作品,2 作品 は重複して測定)に分けて行い,作品を刺激材料 として VTR に記録された作品をランダムに配置 し,運動学習または指導経験のある大学生(台湾 S 大学 60 名,62 名)を被験者として,5 段階評定 の意味差判別法を用いて調査を行った.外的イメー ジの調査には,移動系の動きについて 13 尺度, 非移動系の動きについて 12 尺度,動作全体の特 徴(時間変化,空間変化などを含む)6 尺度,衣 裳と音楽 4 尺度の合計 35 尺度を用いた(頭川ら が作成).内的イメージの調査には,1980 年に頭 川らが作成した両極の形容詞・形容動詞対の 46 尺度が用いられ,副詞の「非常に」「やや」「どち らでもない」などの言葉による 5 段階で評定され るように設定した.頭川らによって日本語で作成 された尺度は,中国語に翻訳(張)されたものを 用いた.内的イメージは,6 刺激に関して意味差 判別法で得られた資料を基に,舞踊の内的イメー ジ探究のための意味空間モデルとしての共通の 8 情 意的意味次元とその構成尺度について,タッカー (Tucker, L.)の因子の頑健性係数の式を用いて 共通因子を導き出し,モデルを確認し,8 次元を 適用した. 外的イメージの資料は,調査毎に因子分析法の 主因子解法,NORMAL VARIMAX 基準による 直交回転を行い,固有値 1.00 以上の基準を設け, 多因子解が導かれた.2 回の実験から得られた 2 種類の多因子解は,負荷量の高い因子から順に配 列され,2 回の調査の因子の類似度を検討するた めに,タッカーの因子的一致係数の式を用いて, 0.75 以上の類似度の高い因子を抽出し,両調査に 一致する 0.50 以上の尺度を抽出し,命名した(表 3 参照).内的イメージは,「ダンス SS モデル」 としての 8 意味次元を用いた(表 2 参照). 2 回のイメージ調査を行った 14 作品の中から (2 作品は重複)12 作品を抽出し,作品のイメー ジを検討した.外的イメージと内的イメージの調 査実験から得られた意味次元については,次元毎 に総計,意味次元得点値としての平均値,標準偏 差値を算出した.外的イメージと内的イメージと も意味次元得点では,5 段階評定の中央点(3.00) からの距離を求め,次元毎の舞踊作品のイメージ の正と負の方向を算出し,作品のイメージの方向

(6)

を考察した.更に,意味得点の上限の 50 パーセ ント以上,下限の 50 パーセント以上をその方向 の強いイメージと解釈して考察した.刺激間の関 係を考察するために,各意味次元得点間と距離の 有意差は F-test,t-test(p < 0.05 有意水準で)を 用いて判定し,イメージの差異を考察した.以上 に述べた方向,強いイメージ,有意差出現数を考 量して,作品の特徴を明らかにした. 表 4 ― 1 中国古典舞踊の文舞作品に関する作品名,時間(長さ),題材,演者(所属・性別人数),音楽(主な 楽器・種類),小道具,動作の特徴 W1『江河水』  時間:8 分 4 秒 題材:川の流れのように過ぎ行く時や人生を悲しむ感情を表現する 演者:大学舞踊専攻生・女性 3 名/音楽:弦楽器・合奏曲/小道具:長い袖 動作:長袖を使った上肢,上体の動き,回転が多い 上肢や胴体で曲線を用いた動き 下肢を上げる 静止する動きなどの動きが多い W2『仕女圖』  時間:8 分 49 秒 題材:中国宮廷に仕える女性の苦楽の心境を表現 演者:舞踊団・女性 8 名/弦楽器・合奏曲/小道具:長い袖 動作:長袖を使った上肢,上体の動き,回転が多い 上肢や胴体で曲線を用いた動き 群の集合と分散を用いた空間の変化が多い   W3『陳映采荷』  時間:7 分 30 秒 題材:池に映る緑の睡蓮の葉とその花の美しさを表現 演者:小学校・舞踊クラス・女性 20 名以上/音楽:弦楽器・合奏曲/小道具:蓮の葉のような傘/長いリボン 動作:傘と長いリボンを使った上肢,上体の動きが多い 上肢や胴体で曲線を用いた動き 群の集合と分散を用いた空間の変化が多い W4『彩幻絲旅』  時間:7 分 30 秒 題材:シルクロードにある敦煌の壁画に描かれた楽師の踊る風景を表現 演者:小学校・コンクール上位受賞・女性 20 名以上/音楽:鐘などの楽器を入れた中国弦楽器・合奏曲 小道具:楽器,服に付けた飾りの短いリボン,多色の長いリボン 動作:楽器を手で持ち,体で「S」字のようなポーズを行う 手首を動かして長いリボンを波のように動き 上肢や胴体で曲線を用いた動きや回転が多い 群の集合と分散を用いた空間の変化も多い W5『妙音反彈』  時間:7 分 45 秒 題材:シルクロードにある敦煌の 156 番壁画に描かれた楽師の踊る風景を表現 演者:舞踊団・女性 6 名/音楽:前 40 秒間女声の台詞・中国弦楽器・合奏曲/小道具:楽器琵琶と長いリボン 動作:上肢の動きが多い 体の「S」字形のようなポーズ 上肢や胴体で曲線を用いた動きが多い 敦煌洞窟で最も特殊なポーズである「反弾琵琶式」を模倣した動き 作品の中間部の 2 分間には,主役とその他の演者は異なる動きを行う 主役は多色の長いリボンを道具として使用していた W6『蓮華世界』  時間:6 分 40 秒 題材:蓮の花をモチーフにして,仏像や天女の平和な世界を表現 演者:中学生・舞踊コンクール上位入賞・女性 23 名 音楽:中国弦楽器・合奏曲(前半:鐘と木魚などの楽器を伴奏する)(後半:女声の歌の曲を用い) 小道具:蓮の花/蓮の座/長いリボン 動作:蓮の花を手で持ち,体でポーズを行う グループ毎に移動や静止の異なる動きを行う 作品の中間部は小道具を用いず/指先の細かい動き,手首の回旋,体の S 字形のようなポーズ 全体では上肢や胴体で曲線を用いた動き 群の集合と分散を用いた空間の変化も多い 注:W1―W6 は 6 文舞作品を表す記号である

(7)

III

結果と考察

1.外的イメージの因子構造 2 回のイメージ調査における外的イメージの調 査の測定結果を元に因子分析を行った結果,一回 目の調査は 10 次元,2 回目の調査は 11 次元が抽 出された.更に,タッカーの因子の頑健性係数を もとに共通因子を導き出し,9 次元を抽出した (表 3 参照). 第 1 次元は,全体的特徴の中の動きの種類,時 間の変化,空間の変化,リズミカルな動き,流れ るような動き,断続的な動き,音の時間的変化に 対して負荷量が高く,「動きの種類・時空間変化」 次元とした.第 2 次元は,移動系,非移動系とも にトゥ・バランス,立位回転に対して負荷量が高 く,「トゥ・バランス・立位回転」次元とした. 第 3 次元は,非移動系の上体の動き,上肢の動き, 両脚の動きに対して負荷量が高く,「非移動全身」 次元とした.第 4 次元は,衣裳と音楽の中の衣裳 の種類と衣裳の色,音の種類に対して負荷量が高 く,「衣裳・音の種類」次元とした.第 5 次元は, 移動系,非移動系ともに片脚バランスとジャンプ に高い負荷量が見られたため,「片脚バランス・ ジャンプ」次元とした.第 6 次元は,移動系,非 移動系ともに人と物との接触に高い負荷量が見ら れ,人と小道具との関連が多いため,「小道具と の接触」次元とした.第 7 次元は,移動系,非移 動系ともに人と人の接触に高い負荷量が見られた ため,「人と人の接触」次元とした.第 8 次元は, 移動系,非移動系ともに人のリフトに高い負荷量 が見られたため,「人のリフト」次元とした.第 9 次元は,移動系,非移動系ともに床との接触に 高い負荷量が見られたため,「床との接触」次元 とした. これらの 9 意味次元を用いて作品の外的イメー ジを考察した.以下,刺激材料としての 12 作品 は,W1 ─ W12 と略し,外的イメージの 9 次元は d1 ─ d9 と略して考察する. 2.文舞作品の特徴 1)文舞作品の構成 文舞の 6 作品の構成は表 4 ─ 1 に示した.文舞 の 6 作品の構成分析について,題材,演者,音楽, 小道具,動作を記録した結果は,次のようにまと められる(表 4 ─ 1,表 6 参照). 本研究の資料である文舞作品の題材は,人間感 情を表現した叙情的な内容,宮廷女性の優美さを 表現した内容,風景を表現した情景的な内容,ま たは,敦煌の仏教や当時の貴族の生活を描いた壁 画と関連のある内容などであった.演者は,通常, 女性によって踊られることが多いが,本研究で用 いた分析作品の演者も全員女性であった.音楽は, 中国弦楽器の合奏曲を用いたものであり,6 作品 中の 4 作品は小道具を使用し,その他の W1『江 河水』と W2『仕女圖』の 2 作品は,衣裳として の長袖が用いられた.長袖やリボンなどの布を小 道具として使用するのは,全作品に共通であった. 動作には,上肢や胴体で曲線を用いた動きが多い が,作品それぞれに異なる小道具を用いた特徴の ある隊形や動きが見られた. 2)文舞作品の外的イメージ 文舞作品における外的イメージの分析の結果 は,次のようにまとめられる(表 4 ─ 2,表 4 ─ 3, 図 1 参照). 外的イメージは,d1「動きの種類・時空間の 変化」,d2「トゥ・バランス・立位回転」,d3 「非移動全身」において多い方向にイメージされ, d7「人と人の接触」,d8「人のリフト」は少ない 方向にイメージされ,この 5 次元において同じ方 向にイメージされた. この 5 次元における 2 作品間の有意差出現数 は,d2「トゥ・バランス・立位回転」(86.67 %, 1 3 / 1 5 ), d 1 「 動 き の 種 類 ・ 時 空 間 の 変 化 」 (73.33 %,11/15),d7「人と人の接触」(60.00 %, 9/15),d3「非移動全身」(40.00 %,6/15),d8 「人のリフト」(33.33 %,5/15)の順に多い.そ の中でも,d3「非移動全身」次元と d8「人のリ フト」次元では,有意差が少なく,類似性が見ら れたと言える.しかし,その意味得点では,「非 移動全身」次元では,全 6 作品が 0.76(意味得点

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の上限の 50 %)以上で,多い方向に同方向であ る強いイメージを持ち,「人のリフト」次元では, 全 6 作品が− 0.91(意味得点の下限の 50 %)で, 少ない方向に同方向である強いイメージを持っ た.即ち,文舞作品は「非移動全身」の動きは同 方向で強いイメージを持ち共通の特徴が見られ, 「人のリフト」はほとんど表現されないという面 で特徴を持った.小学生が踊った敦煌に関連のあ る内容を題材とする W4『彩幻絲旅』は,中学生 が踊った仏像や天女の平和な世界を表現とする W6『蓮華世界』と,同方向の 5 次元において, 「動きの種類・時空間の変化」次元を除く,他の 4 次元において有意差がなく,類似性が高いと言 える.「動きの種類・時空間の変化」では,中学 生は,小学生の方より多く見られた. 以上のことから,文舞の 6 作品の外的イメージ は,「動きの種類・時空間の変化」「トゥ・バラン ス・立位回転」「非移動全身」の 3 次元において 「多い」方向にみられ,「人と人の接触」「人のリ フト」の 2 次元では,「少ない」の方向にみられ たが,以上の 5 次元において同じ方向であった. 特に「非移動全身」の動きは多く表現され,「人 のリフト」の動きは最も少なかった.「非移動全 身」と「人のリフト」の 2 次元においてのみ有意 差が少なく,文舞の 6 作品の共通の外的イメージ の次元であると言える. 3)文舞作品の内的イメージ 文舞作品における内的イメージの分析の結果 表 4―2 意味次元における各文舞作品の外的イメージの意味得点M(3.0 から距離)と SD W6 W5 W4 W3 W2 W1 次元 SD M SD M SD M SD M SD M SD M 0.95 1.04 0.86 1.12 0.97 0.62 0.95 0.83 1.03 0.72 1.16 0.53 d1 1.14 0.16 1.15 1.05 1.08 0.28 1.21 0.67 1.25 0.75 0.83 1.24 d2 0.98 1.19 0.77 1.52 0.77 1.24 0.81 1.38 1.04 1.16 0.90 1.36 d3 1.15 0.85 1.26 0.68 1.14 0.15 1.27 0.34 1.15 − 0.08 0.98 − 1.08 d4 1.16 − 0.18 1.30 0.31 1.11 0.00 1.30 − 0.01 1.17 − 0.43 1.19 0.43 d5 1.11 0.68 1.21 0.81 1.09 0.32 0.80 1.37 1.12 − 0.32 1.21 − 0.18 d6 1.45 − 0.48 1.47 − 0.13 1.34 − 0.65 1.49 − 0.19 1.46 − 0.19 0.87 − 1.11 d7 0.83 − 1.66 1.01 − 1.44 0.74 − 1.60 0.77 − 1.67 0.84 − 1.61 0.50 − 1.82 d8 1.37 0.35 1.37 0.31 1.21 0.63 1.33 0.51 1.53 − 0.29 1.20 0.08 d9 注:d1―d9 は 9 次元を表す記号である 注:W1―W6 は 6 文舞作品を表す記号である W1 多い 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 −0.50 −1.00 −1.50 −2.00 少ない d1 d2 d3 d4 d5 d6 d7 d8 d9 動きの種類・ 時空間の変化 トゥバランス・ 立位回転 非移動全身 衣裳・ 音の種類 片脚バランス ジャンプ 小道具との 接触 人との接触 床との接触 動きの種類・ 時空間の変化 トゥバランス・ 立位回転 非移動全身 衣裳・ 音の種類 片脚バランス ジャンプ 小道具との 接触 人との接触 人の人の リフトリフト 床との接触 W2 W3 W4 W5 W6 図 1 外的イメージの意味次元毎文舞作品の比較

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は,次のようにまとめられる(表 4 ─ 4,表 4 ─ 5, 図 2 参照). 作品の内的イメージは,D2「審美性」,D4 「弾力性」,D5「調和性」,D6「重量性」,D8「空 間性」の 5 次元において美的感,柔軟感,協和感, 軽量感,広大感の同じ方向のイメージになる. この 5 次元における 2 作品間の有意差出現数 は,D2「審美性美的感」(80.00 %,12/15),D4 「弾力性柔軟感」(73.33,11/15),D5「調和性協 和感」(53.33 %,8/15),D6「重量性軽量感」 (33.33 %,5/15),D8「空間性広大感」(33.33 %, 5/15)の順に多い.その中でも,「調和性」「重量 性」「空間性」の 3 次元では,有意差出現数が少 なく,類似性が見られたと言える.しかし,その 意味得点では,「審美性美的感」「重量性軽量感」 では全 6 作品が 0.75(意味得点の上限の 50 %)以 上,「弾力性柔軟感」では− 0.46(意味得点の下 限の 50 %)以上の強いイメージを持つ同方向で あった.「調和性協和感」の方向にある 6 作品中 の W1 は,0.68 で意味得点の上限の 50 パーセント には到達しないが,6 作品中の W4,W5 と有意差 がないため,全 6 作品に共通のイメージであると みなした. 以上のことから,文舞の 6 作品の内的イメージ は,「審美性美的感」「弾力性柔軟感」「調和性協 和感」「重量性軽量感」の 4 次元において同じ方 向に強くイメージされ,共通性が見られたと言え る. 表 4―3 中国古典文舞作品の外的イメージに関する 2 作品の t-test 結果 出現数(%) W5 W4 W3 W2 W1 11(73.33%) ** W2 d1 動 き の 種 類・ 時空間の変化 *** W3 ** W4 *** *** *** *** W5 *** ** *** *** W6 13(86.66%) *** W2 d2 トゥバランス・ 立位回転 *** W3 *** *** *** W4 *** *** * * W5 *** *** *** *** W6 6(40.00%) * W2 d3 非移動全身 * W3 W4 *** *** W5 *** * W6 9(60.00%) *** W2 d7 人と人の接触 *** W3 * * ** W4 *** *** W5 ** *** W6 5(33.33%) * W2 d8 人のリフト * W3 ** W4 *** W5 * W6 *:p < 0.05 **:p < 0.01 ***:p < 0.000 注:d1,d2,d3,d7,d8 は同じ方向にイメージされた 5 次元を表す記号である 注:W1―W6 は 6 文舞作品を表す記号である

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文舞作品についてまとめると,題材は,叙情的 な内容,宮廷女性の優美さを表現した内容,情景 的な内容,または,敦煌の仏教壁画と関連のある 内容などであった.共通の特徴は,構成では,弦 楽器の合奏曲を用い,長袖やリボンなどの布を小 道具として使用し,動作では,上肢や胴体で曲線 を用いた動きが多く,外的イメージでは,「非移 動全身」,すなわち,その場の動作での表現は多 いが,小道具をもって踊るためにリフトがしにく く,「人のリフト」は,ほとんど用いられていな いと言える.内的イメージでは,「美的感」「柔軟 感」「協和感」「軽量感」の方向で強くイメージさ れ,表現内容と関連があると言える. 一方,W1 のタイトルは『江河水』で川の流れ のように過ぎて行く時や人生を悲しむ感情を表現 した叙情的な作品である(表 4 ─ 1 参照).この 作品は下肢を上げる,静止する動きが多く,他の 文舞作品と異なる動作の特徴が見られた.外的イ メージでは,「衣裳・音の種類」「人と人の接触」 の 2 次元においてはわずかであった.内的イメー ジでは,W1『江河水』は全文舞作品の中で唯一 「明快性暗然感」「力動性沈静感」の方向にイメー ジされ,他の作品とイメージの差異が見られた. 内的イメージは表現内容や動作の特徴と関連があ ると言える(表 4 ─ 1,表 4 ─ 5,図 1 参照). また,敦煌の壁画に関連のある内容を題材とす る W4『彩幻絲旅』と W5『妙音反弾』は,楽器 を手で持ち,体で「S」字のようなポーズを行う 共通性が見られた.内的イメージでは,W4『彩 幻絲旅』と W5『妙音反弾』は文舞作品が同方向 にイメージされた 5 次元の中に「調和性」「重量 性」「空間性」の 3 次元において有意差がなく, 表現内容や動作の特徴と関連があると言える(表 4 ─ 1,表 4 ─ 5 参照). 表 4―4 意味次元における各文舞作品の内的イメージの意味得点M(3.0 からの距離)と SD W6 W5 W4 W3 W2 W1 次元 SD M SD M SD M SD M SD M SD M 0.81 0.99 0.73 1.24 0.80 1.05 0.66 1.46 1.01 0.80 0.94 − 0.71 明快性 D1 0.76 1.37 0.73 1.43 0.71 1.31 0.62 1.50 0.95 1.12 0.96 0.75 審美性 D2 1.30 0.06 1.10 0.73 1.26 0.02 1.21 0.30 1.08 0.38 1.09 − 0.61 力動性 D3 0.75 − 1.52 0.86 − 1.31 0.78 − 1.43 0.70 − 1.54 0.91 − 1.34 1.09 − 0.92 弾力性 D4 0.85 1.06 0.94 0.82 0.75 0.77 0.92 0.88 0.84 0.91 1.01 0.68 調和性 D5 0.90 1.45 0.89 1.23 0.82 1.31 0.93 1.36 1.00 1.17 0.99 1.08 重量性 D6 1.08 − 0.42 1.10 0.37 0.97 − 0.50 0.98 − 0.18 1.03 0.25 1.15 0.06 難易性 D7 1.04 0.63 0.95 0.52 1.12 0.61 0.97 0.80 0.85 0.82 1.11 0.35 空間性 D8 注:D1―D8 は 8 次元を表す記号である 注:W1―W6 は 6 文舞作品を表す記号である W1 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 −0.50 −1.00 −1.50 −2.00 D1 D2 D3 D4D4D4 D5 D6 D7 D8 暗然感 沈静感 柔軟感 弾力性 弾力性 弾力性 明快性 明快性 明快性 審美性審美性審美性 力動性力動性力動性 調和性調和性調和性 重量性重量性重量性 難易性難易性難易性 易行感 空間性 空間性 空間性 明快感 美的感 力動感 協和感 軽量感 難行感 広大感 W2 W3 W4 W11 W12 図 図22 内的イメージの意味次元毎の文舞作品の比較

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3.武舞作品の特徴 1)武舞作品の構成 武舞の 6 作品の構成は,表 5 ─ 1 に示した.作 品の構成分析について,題材,演者,音楽,小道 具,動作を記録した結果は,次のようにまとめら れる(表 5 ─ 1,表 6 参照). 本研究の資料である武舞作品の題材は,小道具 の名称を入れた表現内容,また,軍事教練や訓練 の動きを用いて,武力を誇るような表現内容であっ た.通常,武舞の役柄は,女性役を女性演者が演 じ,男性役を男性演者が演じる場合が多い.しか し,本研究における作品の演者は,男性演者で踊 られた作品は,W9『長剣舞』(台北民族舞踊団) の 1 作品だけであり,その他の 5 作品は全員女性 であった.これは,現在,台湾で上演されている 武舞の演者は,女性が中心であり,また,民族舞 踊における女性の演者は,男性より圧倒的に多数 であることが原因であると考えられる.音楽は, 打楽器を中心とした合奏曲を使用し,全武舞作品 は,小道具を武器にみたてて使用している.扇子, 旗などの小道具は,通常,武器として用いないが, 作品では応用して使用されたと考えられる.動作 は,小道具を使った上肢や胴体で直線的な動作, 回転が多く,群の集合と分散を用いた空間の変化 も多い. 2)武舞作品の外的イメージ 武舞作品における外的イメージの分析の結果 は,次のようにまとめられる(表 5 ─ 2,表 5 ─ 3, 表 4―5 中国古典文舞作品の内的イメージに関する 2 作品の t-test 結果 出現率(%) W5 W4 W3 W2 W1 12(80.00%) *** W2 D2 審美性 *** *** W3 ** ** *** W4 ** *** *** W5 * *** *** W6 11(73.33%) *** W2 D4 弾力性 *** *** W3 *** W4 * *** *** W5 *** * ** *** W6 7(46.67%) ** W2 D5 調和性 * W3 W4 W5 *** *** * * *** W6 5(33.33%) W2 D6 重量性 ** W3 * W4 W5 ** * ** W6 5(33.33%) *** W2 D8 空間性 *** W3 W4 * ** W5 * W6 *:p < 0.05 **:p < 0.01 ***:p < 0.000 注:D2,D4,D5,D6,D8 は同じ方向にイメージされた 5 次元を表す記号である 注:W1―W6 は 6 文舞作品を表す記号である

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図 3 参照). 外的イメージは,d1「動きの種類・時空間変 化」,d2「トゥバランス・立位回転」,d3「非移 動全身」,d5「片脚バランス・ジャンプ」,d6 「小道具との接触」において多い方向にイメージ され,d7「人と人の接触」,d8「人のリフト」は, 少ない方向にイメージされ,以上の 7 次元におい て同じ方向にイメージされた.この 7 次元におけ る 2 作品間の有意差出現数は,d6「小道具との接 触」(73.33 %,11/15),d1「動きの種類・時空間 変化」(60.00 %,9/15),d2「トゥバランス・立 位回転」(46.67 %,7/15),d3「非移動全身」 (46.67 %,7/15),d8「人のリフト」(20.00 %, 3/15),d7「人と人の接触」(6.66 %,1/15),d5 「片脚バランス・ジャンプ」(0.00 %,0/15)の順 に多く.その中でも,「トゥバランス・立位回転」 「非移動全身」「人のリフト」「人と人の接触」「片 脚バランス・ジャンプ」の次元では,有意差出現 表 5―1 中国古典舞踊の武舞作品に関する作品名,時間(長さ),題材,演者(所属・性別人数), 音楽(主な楽器・種類),小道具,動作の特徴 W7『金刀銀槍武威揚』  時間:6 分 0 秒 題材:古代の兵士の軍事教練の舞踊である 演者:中学校舞踊クラス・女性 20 名以上/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:刀/槍/旗 動作:前半の 30 秒ほど素手で拳法のような動きをしながら隊列を組んで出場する群舞で始まり 刀,双槍,旗を使った上肢,上体の動き,回転が多い 群の集合と分散を用いた空間の変化も多い W8『枕戈待旦』  時間:4 分 30 秒 題材:軍事訓練し,戦場へ赴任する 演者:コンクール上位受賞・女性 11 名/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:刀/盾 動作:はじめのみ素手の拳法のような動きを用いた上肢,上体の動き,静止する動きが多い 刀と盾を使った上肢,上体の動き,回転が多い 群の集合と分散を用いた空間の変化が多い W9『長劍舞』  時間:7 分 17 秒 題材:剣を道具にして表現された作品である 演者:舞踊団・3 名女性と 5 名男性/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:長い軟剣 動作:剣を廻す,刺す,切るなどの上肢の動き     下肢を振る,上げる,回転するなどの動きが多い  隊列の変化や静止する動きが多い W10『鐵扇』  時間:6 分 41 秒 題材:扇子を持って表現された作品である 演者:コンクール上位受賞・女児 12 名/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:赤い扇子 動作:前半に素手の拳法のような動きを用いた上肢,上体の動き,静止する動きが多い 後半に,舞台袖から赤い扇子をもって舞台にでて,上肢,上体の動き,回転が多い 隊列の変化や,群の集合と分散を用いた空間の変化も多い W11『劍影』  時間:4 分 36 秒 題材:剣を道具にして表現された作品である 演者:小学校高学年舞踊クラス・女性 20 名以上/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:長い剣 動作:はじめに素手の拳法のような動きを用いて上肢,上体の動き,静止する動きが多い 剣を使った上肢,上体の動き,回転が多い 群の集合と分散を用いた空間の変化も多い W12『五嶽獨尊旗振八方』  時間:5 分 0 秒 題材:自分たちは他より一番優れて武力があり,権力が八方に行き渡っている 演者:小学校高学年舞踊クラス・女性 20 名以上/音楽:打楽器・合奏曲/小道具:槍/刀/旗 動作:はじめに素手の拳法のような動きを用いて上肢,上体の動き,静止する動きが多い 刀や旗を使った上肢,上体の動き,回転が多い  群の集合と分散を用いた空間の変化も多い 注:W7―W12 は 6 武舞作品を表す記号である

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数が少なく,類似性が見られたと言える.しかし, その意味得点では,「動きの種類・時空間の変化」 「非移動全身」次元では,全 6 作品が 0.76 以上の 多い方向で強くイメージされ,「人のリフト」で は全 6 作品が− 0.91 の少ない方向で強くイメージ されたため,対比的な方向を持つ次元であると言 える.中学生が踊った W7『金刀銀槍武威揚』と 小学生が踊った W12『五嶽獨尊旗振八方』の間 には,全次元において全く有意差がなく,類似性 が高いと言える.また,舞踊団の大人の演者が踊っ た W9『長剣舞』は,同じ剣を小道具とする小学 生が踊った W11『剣影』と比較すると,「動きの 種類・時空間の変化」次元を除く,他の 7 次元に おいて有意差がなく,類似性が高いと言える. 以上のことから,武舞の 6 作品の外的イメージ は,「動きの種類・時空間変化」「トゥバランス・ 立位回転」「非移動全身」「片脚バランス・ジャン プ」「小道具との接触」の 5 次元において多い方 向にイメージされ,「人と人の接触」「人のリフト」 の 2 次元において少ない方向にイメージされ,以 上の 7 次元において同じ方向にイメージを持っ た.特に,「動きの種類・時空間の変化」と「非 移動全身」の動きは多く表現され,「人のリフト」 の動きは最も少なかった.「動きの種類・時空間 の変化」「非移動全身」「人のリフト」の 3 次元に おいてのみ有意差が少なく,武舞の 6 作品の共通 の外的イメージの次元であると言える. 3)武舞作品の内的イメージ 武舞作品における内的イメージの分析の結果 は,次のようにまとめられる(表 5 ─ 4,表 5 ─ 5, 表 5―2 意味次元における各武舞作品の外的イメージの意味得点M(3.0 から距離)と SD W12 W11 W10 W9 W8 W7 次元 SD M SD M SD M SD M SD M SD M 0.94 0.99 0.92 0.79 0.90 0.78 0.99 0.97 0.92 0.85 0.94 0.99 d1 1.21 0.43 1.22 0.73 1.10 0.53 1.23 0.81 1.22 0.45 1.22 0.43 d2 1.01 1.25 0.76 1.40 0.91 1.15 0.76 1.46 0.84 1.34 1.02 1.26 d3 1.31 − 0.17 1.13 − 0.96 1.15 − 0.10 1.15 − 0.92 1.31 0.01 1.18 − 0.12 d4 1.12 0.68 1.15 0.63 1.14 0.63 1.15 0.66 1.09 0.57 1.13 0.67 d5 0.96 1.08 1.16 0.65 1.21 0.27 1.18 0.62 1.01 1.03 0.96 1.08 d6 1.34 − 0.82 1.36 − 0.63 1.05 − 0.88 1.38 − 0.61 1.25 − 0.78 1.35 − 0.82 d7 0.63 − 1.71 0.80 − 1.60 0.91 − 1.52 0.79 − 1.60 0.94 − 1.51 0.64 − 1.70 d8 1.42 0.10 1.25 0.47 1.36 0.30 1.27 0.50 1.30 − 0.48 1.42 0.07 d9 注:d1―d9 は 9 次元を表す記号である 注:W7―W12 は 6 武舞作品を表す記号である W7 多い 2.00 1.00 0.00 −1.00 −2.00 少ない d1 d2 d3 d4 d5 d6 d7 d8 d9 動きの種類・ 時空間の変化 トゥバランス・ 立位回転 非移動全身 衣裳・ 音の種類 小道具との 接触 人との接触 床との接触 動きの種類・ 時空間の変化 トゥバランス・ 立位回転 非移動全身 衣裳・ 音の種類 片脚バランス・ ジャンプ 片脚バランス・ ジャンプ 小道具との 接触 人との接触 人の リフト 床との接触 W8 W9 W10 W11 W12 図 3 外的イメージの意味次元毎の武舞作品の比較

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図 4 参照). 内的イメージの方向は,D1「明快性明快感」, D2「審美性美的感」,D3「力動性活動感」,D4 「弾力性硬直感」,D5「調和性協和感」,D6「重 量性重量感」,D7「難易性難行感」,D8「空間性 広大感」の全 8 次元において明快感,美的感,活 動感,硬直感,協和感,重量感,難行感,広大感 の同じ方向のイメージになる. この 8 次元における 2 作品間の有意差出現数 は,D3「力動性」(86.67 %,13/15),D1「明快 性」(80.00 %,12/15),D4「弾力性」(66.67 %, 10/15),D5「調和性」(53.33 %,8/15),D6「重 表 5―3 中国古典武舞作品の外的イメージに関する 2 作品の t-test 結果 出現数(%) W11 W10 W9 W8 W7 9(60.00%) * W8 d1 動 き の 種 類 ・ 時空間の変化 *** W9 *** *** W10 ** ** W11 *** ** * W12 7(46.66%) W8 d2 トゥバランス ・ 立位回転 *** *** W9 * W10 * * W11 *** *** W12 7(46.66%) W8 d3 非移動全身 * * W9 *** * W10 ** W11 * * W12 0(0.00%) W8 d5 片脚バランス ・ ジャンプ W9 W10 W11 W12 11(73.33%) W8 d6 道具 *** *** W9 ** *** *** W10 * ** ** W11 ** *** *** W12 1(6.66%) W8 d7 人と人の接触 W9 * W10 W11 W12 3(20.00%) * W8 d8 人のリフト W9 ** W10 W11 * W12 *:p < 0.05 **:p < 0.01 ***:p < 0.000 注:d1,d2,d3,d5,d6,d7,d8 は同じ方向にイメージされた 7 次元を表す記号である 注:W7―W12 は 6 武舞作品を表す記号である

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量性」(53.33 %,8/15),D2「審美性」(33.33 %, 5/15),D7「難易性」(33.33 %,5/15),D8「空 間性」(26.66 %,4/15)の順に多い.その中でも, 「審美性」「調和性」「重量性」「難易性」「空間性」 の 5 次元では,有意差出現数が少なく,類似性が 見られたと言える.しかし,その意味得点では, 「審美性美的感」「弾力性硬直感」「調和性協和感」 「空間性広大感」では全 6 作品が 0.75(意味得点 の上限の 50 %)以上の強いイメージを持つ同方 向であった.「審美性美的感」の方向にある 6 作 品中の W7『金刀銀槍武威揚』は 0.69 で,意味得 点の上限の 50 パーセントには到達しないが,イ メージは同方向であり,また,W12『五嶽獨尊旗 振八方』も 0.68 で同様であった.しかし,意味得 点では,6 作品中の W10『鐵扇』以外の 5 作品と 有意差がないため,共通の内的イメージとした. 中学生が踊った W7『金刀銀槍武威揚』と小学生 が踊った W12『五嶽獨尊旗振八方』の間には, 全く有意差がなく,類似性が高いと言える.また, 舞踊団の大人の演者が踊った W9『長剣舞』は, 同じ剣を小道具とする小学生が踊った W11『剣 影』と比較すると,明快性次元を除く,他の 7 次 元において有意差がなく,類似性が高いと言える. 以上のことから,武舞の 6 作品の内的イメージ は,「審美性美的感」「弾力性硬直感」「調和性協 和感」「空間性広大感」の 4 次元において同じ方 向に強くイメージされ,共通性が見られたと言え る. 武舞作品についてまとめると,題材は,小道具 の名称を入れた表現,または,軍事教練や訓練の 動きを用いて,武力を誇るような表現のものであっ た.武舞作品に共通の特徴は,構成では,打楽器 を中心とした合奏曲を用い,武器や軍事に関連す るような小道具を応用して使用し,動作には小道 具を用いた上肢・上体の動きや回転が多く,群の 集合と分散を用いた空間の変化も多く,外的イメ 表 5―4 意味次元における各武舞作品の内的イメージの意味得点M(3.0 からの距離)と SD W12 W11 W10 W9 W8 W7 次元名 次元 SD M SD M SD M SD M SD M SD M 0.87 0.58 0.91 0.11 0.80 0.90 0.96 0.01 0.89 0.59 0.89 0.56 明快性 D1 0.88 0.68 0.86 0.77 0.77 0.93 0.87 0.76 0.92 0.77 0.89 0.69 審美性 D2 0.91 1.14 1.06 0.72 0.84 0.92 1.07 0.71 0.65 1.38 0.92 1.14 力動性 D3 0.89 1.04 1.05 0.85 0.89 0.85 1.06 0.86 0.96 1.17 0.91 1.07 弾力性 D4 0.91 1.04 0.87 0.80 0.83 1.00 0.91 0.84 0.90 1.04 0.92 1.07 調和性 D5 0.97 − 0.65 1.13 − 0.35 1.10 − 0.46 1.12 − 0.32 1.11 − 0.70 0.98 − 0.66 重量性 D6 0.92 0.45 1.13 0.41 0.93 0.12 1.15 0.42 0.96 0.36 1.05 0.58 難易性 D7 0.80 1.12 0.93 0.97 0.94 0.89 0.94 1.00 0.91 1.14 0.80 1.15 空間性 D8 注:D1―D8 は 8 次元を表す記号である 注:W7―W12 は 6 武舞作品を表す記号である W7 1.50 1.00 0.50 0.00 −0.50 −1.00 D1 D2 D3 D4D4D4 D5 D6 D7 D8 弾力性 弾力性 弾力性 硬直感 明快性 明快性 明快性 審美性審美性審美性 力動性力動性力動性 調和性調和性調和性 重量性 重量性 重量性 重量感 難易性 難易性 難易性 空間性空間性空間性 明快感 美的感 活動感 協和感 難行感 広大感 W8 W9 W10 W11 W12 図 4 内的イメージの意味次元毎の武舞作品の比較

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ージでは,「動きの種類・時空間の変化」と「非 移動全身」の動作での表現が多いが,小道具をも っているため「人のリフト」は少ないと言える. 内的イメージでは,「美的感」「硬直感」「調和感」 表 5―5 中国古典武舞作品の内的イメージに関する 2 作品の t-test 結果 出現数(%) W11 W10 W9 W8 W7 12(80.00%) W8 D1 明快性 *** *** W9 *** *** *** W10 *** * *** *** W11 *** *** *** W12 5(33.33%) W8 D2 審美性 W9 ** ** *** W10 * W11 *** W12 13(86.67%) *** W8 D3 力動性 *** *** W9 ** *** ** W10 * *** *** W11 *** ** *** *** W12 10(66.67%) W8 D4 弾力性 *** ** W9 *** *** W10 *** ** W11 ** * *** * W12 8(53.33%) W8 D5 調和性 *** ** W9 * W10 * ** ** W11 *** ** W12 8(53.33%) W8 D6 重量性 *** ** W9 * ** W10 ** * W11 *** ** W12 5(33.33%) W8 D7 難易性 W9 ** * *** W10 * W11 ** W12 4(26.67%) W8 D8 空間性 * W9 * ** W10 W11 * W12 *:p < 0.05 **:p < 0.01 ***:p < 0.000 注:D1―D8 は内的イメージの 8 次元を表す記号である 注:W7―W12 は 6 武舞作品を表す記号である

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「広大感」の方向で強くイメージされたと言える. 特に,中学生が踊った W7『金刀銀槍武威揚』 は,同じ刀,槍,旗を小道具とする小学生が踊っ た W12『五嶽獨尊旗振八方』と比較すると,外 的イメージと内的イメージとも全次元において全 く有意差がなく,類似性が高い.また,舞踊団の 大人の演者が踊った W9『長剣舞』は,同じ剣を 小道具とする小学生が踊った W11『剣影』と比 較すると,外的イメージでは,「動きの種類・時 空間の変化」次元を除く,他の 7 次元において有 意差がなく,内的イメージでは,明快性次元を除 く,他の 7 次元において有意差がなく,類似性が 高い.武舞作品のイメージの特徴は年齢差より小 道具の使用と関連があると言える. 4.台湾における中国古典舞踊作品の特徴 武舞作品と文舞作品を比較して,考察する(表 6,表 7 参照). 1)作品構成の比較 作品題材では,文舞作品と武舞作品は異なる内 容を持つものであり,共通する内容はみられなかっ た.演者では,文舞作品は,全員女性であり,武 舞作品は,1 作品のみ男性演者によって踊られた が,その他の 5 作品は全員女性であり,文舞作品 と武舞作品に関する演者の性別の差異は無く,ど ちらかといえば女性を中心に踊られた作品が多い と言える.これは,現在,台湾で上演されている 武舞の演者は,女性が中心であり,また,民族舞 踊における女性の演者は,男性より圧倒的に多数 であることが原因であると考えられる.音楽では, 楽器の種類は異なるが合奏曲を伴奏として用いた 点で共通性が見られたと言える.小道具では,異 表 6 「審美性」「弾力性」「調和性」の 3 次元におけ る各尺度の意味得点(3.0 からの距離) 武舞作品 文舞作品 尺 度 次元名 −) (+ 0.46 0.97 不自然的 自然的 D2 審美性 0.75 1.17 低俗的 高尚的 0.91 1.56 醜的 美的 0.97 1.42 不潔的 潔淨的 0.74 1.13 討厭的 喜歡的 0.90 − 0.94 放鬆的 緊張的 D4 弾力性 男性化的 女性化的 − 1.72 1.22 0.81 − 1.53 曲線的 直線的 1.25 − 1.41 軟的 硬的 0.54 0.78 不安定的 安定的 D5 調和性 正確的 不正確的 0.78 0.82 1.22 0.95 零散的 系統的 1.25 0.90 不規則的 規則的 表 7 台湾で上演された中国古典舞踊作品における文舞作品と武舞作品の比較 武舞作品 文舞作品 分析内容 小道具の名称を入れた表現内容,軍事教練 や訓練の動きを用いて,武力を誇るような 表現内容のものである 叙情的な表現内容,宮廷女性の優美さを表 現した表現内容,情景的な表現内容,敦煌 の仏教壁画と関連のある表現内容である 題材 構成 打楽器を中心とした合奏曲を用い,武器や 軍事に関連するような小道具を応用して使 用し,動作には小道具を使った上体や胴体 で直線的な動作,回転が多く,群の集合と 分散を用いた空間の変化も多い 弦楽器の合奏曲を用い,長袖やリボンなど の布を道具として使用し,動作には,上肢 や胴体で曲線を用いた動きが多い 構成要素 「動きの種類・時空間変化」「非移動全身」 動作,「人のリフト」は少ない 「非移動全身」動作のある表現が多いが,「人 のリフト」は少ない 外的 イメージ 「美的感」「硬直感」「協和感」「広大感」の 方向で強くイメージされた 「美的感」「柔軟感」「協和感」「軽量感」の 方向で強くイメージされた 内的 文舞作品と武舞作品の共通点 合奏曲を伴奏として用い,小道具を使用していた 構成要素 構成 「非移動全身」動作のある表現が多いが,「人のリフト」は少ない 外的 イメージ 「美的感」「協和感」の方向に強くイメージされた 内的

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なる小道具を使用しているが,全作品が小道具を 使用している点で共通性が見られたと言える.動 作では,全文舞作品は,上肢や胴体で曲線を用い た動きが多いが,作品それぞれに異なる小道具を 用いた特徴のある隊形や動きが見られた.一方, 全武舞作品の動作は,小道具を使った上肢や胴体 で直線的な動作,回転が多く,群の集合と分散を 用いた空間の変化も多い. 以上のことから,文舞と武舞は異なる動作を用 いて表現していたが,演者の性別の差異は少なく, どちらかといえば女性を中心に踊られたものであ り,合奏曲を伴奏として用い,小道具を使用して いた点に共通性が見られた. 2)外的イメージの比較 文舞と武舞の外的イメージについて,「動きの 種類・時空間の変化」次元に違いが見られ,文舞 作品は,武舞作品に比べて平均得点が少ないが, 両者とも「非移動全身」次元において特徴が強く イメージされ,「人のリフト」次元において最も 「少ない」の方向に強くあらわれた.この 2 次元 は,作品の共通の外的イメージの次元であると言 える. 3)内的イメージの比較 文舞と武舞の内的イメージについて,文舞作品 で「重量性軽量感」,武舞作品で「空間性広大感」 のイメージの次元と方向に違いが見られ,また, 「弾力性」次元において,文舞では,「女性的」 「曲線的」に高い尺度をもつ「柔軟感」,武舞では, 「硬い」「男性的」に高いい尺度を持つ「硬直感」 の対比的な方向に強くイメージされた.しかし, 「審美性」「調和性」の 2 次元において「美的感」 「協和感」の同じ方向に強くイメージされ,共通 性が見られたと言える. 以上のことから,文舞作品と武舞作品の差異性 は,題材,音楽の使用楽器,小道具の種類,動作 の種類の作品構成,「動きの種類・時空間の変化」 次元の外的イメージ,「重量性」「空間性」「弾力 性」次元の内的イメージに見られた.文舞と武舞 は,多くの女性演者によって踊られたが,文舞作 品と武舞作品の印象は,「弾力性」次元において 「女性的」と「男性的」の異なる方向に見られた のは,題材,小道具,動きの特徴が異なるからで ある. 一方,共通性は,女性の演者が多く,合奏曲を 伴奏として用い,小道具を使用して,「非移動全 身」次元において多い方向に強くイメージされ, 「人のリフト」次元において少ない方向に強くイ メージされ,また,「審美性美的感」「調和性協和 感」の方向に強くイメージされ,共通性が見られ たと言える.「審美性美的感」の方向で見られる 作品は,これまでの研究から,レベルの高い作品 に多いことから,本研究が対象とした作品は高度 のレベルの作品であったと言える.

V

結論と展望

1.結 論 本研究は,台湾における中国民族舞踊の古典舞 踊作品の特徴を明らかにするために,文舞作品と 武舞作品の差異点と共通点を考察した.研究方法 は,文舞作品と武舞作品の VTR 資料を刺激材料 として用い,構成分析と外的イメージ,内的イメー ジの統計的分析を行った.両イメージの統計的分 析のための資料を得るために,2004 年に 2 回の調 査に分けて作品の内的イメージと外的イメージを 調査し,全 122 名の大学生が作品としての 14 刺 激(内 2 作品は重複)に反応した結果を用いた. 作品の構成分析は,公演当時のプログラムと題名 により題材を明らかにし,VTR 資料により音楽, 小道具,動作の特徴を記録した内容を分析した. 内的イメージ(46 尺度)と外的イメージ(35 尺 度)で構成された SD 法を用いた 5 段階評定で調 査し,すでに因子分析された内的イメージの「ダ ンス SS モデル」の 8 意味次元と外的イメージを 因子分析した結果の 9 意味次元を使用して統計的 に分析した.その結果,次のような結論が得られ た. 1)文舞作品の特徴 文舞作品の題材は,叙情的な表現内容,宮廷女 性の優美さを表現した表現内容,情景的な表現内 容,または,敦煌の仏教壁画と関連のある表現内 容などであった.文舞作品に共通の特徴は,構成

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では,弦楽器の合奏曲を用い,長袖やリボンなど の布を小道具として使用し,動作には,上肢や胴 体で曲線を用いた動きが多く,外的イメージでは, 「動きの種類・時空間の変化」,「トゥ・バラン ス・立位回転」動作,「非移動全身」動作のある 表現が多いが,「人のリフト」は少なく,内的イ メージでは,「柔軟感」と「軽量感」の方向で強 くイメージされたと言える. 2)武舞作品の特徴 武舞作品の題材は,多くの女性演者により踊ら れ,小道具の名称を入れた表現内容,または,軍 事教練や訓練の動きを用いて,武力を誇るような 表現内容のものであった.武舞作品に共通の特徴 は,構成では,打楽器を中心とした合奏曲を用い, 小道具を武器として使用し,動作には,小道具を 使用して,上肢・胴体の直線的な動作,回転が多 く,群の集合と分散を用いた空間の変化も多く, 外的イメージでは,「動きの種類・時空間変化」, 「トゥ・バランス・立位回転」,「非移動全身」動 作,「片脚バランス・ジャンプ」,「小道具との接 触」のある表現が多いが,「人のリフト」は少な く,小道具が多いため「人のリフト」の動きは少 ないと言える.内的イメージでは,「硬い」と 「男性的」尺度に高い「硬直感」と「広い」と 「大きい」尺度に高い「広大感」の方向で強くイ メージされた.女性演者によって踊られても男性 的にイメージされ,表現内容との関連が見られた と言える. 3)中国古典舞踊作品の特徴 文舞作品と武舞作品の共通点は,女性の演者に よって踊られ,合奏曲を伴奏として用い,小道具 を使用して,その場の動きの多い「非移動全身」 次元において多い方向に強くイメージされ,「人 のリフト」次元において少ない方向に強くイメー ジされ,また,「美的」と「潔淨的」尺度に高い 「審美性美的感」と,「系統的」と「規則的」尺度 に高い「調和性協和感」の方向に強くイメージさ れ,共通性が見られた.これらの共通点は,台湾 における中国古典舞踊作品の共通の特徴であると 言える. 2.展 望 本研究で対象とした作品は,定期的に上演活動 を行う舞踊団が公演した作品の中から,グループ で上演されたものを選択した.これらの作品は, 台湾を代表する作品と言える. 本研究では,演者の年齢に違いのある作品を選 択したが,年齢差よりも文舞と武舞の作品の特徴 の違いの方が,大きく影響してイメージにも現れ たと言える.一方,両者の共通性も明らかにでき, 本研究の問題が解決できたと言える.この研究か ら得られた知見は,中国民族舞踊作品の記述記録 を残す方法を提案し,また,客観的な評定基準に もとづく,文舞作品や武舞作品の特徴を持つ振付 や指導に役立つと考える. 謝 辞 本研究のために資料の VTR を提供いただいた 台北民族舞踊団,台北北安中学校舞踊クラス,高 雄中正小学校舞踊クラス,高雄県政府社会文化局 の皆さんに厚く御礼申し上げます.また,調査に ご協力いただきました皆様にも御礼申し上げま す. 文   献 張瓊方・頭川昭子(2002)中国女性古典舞踊作品の イメージと表現.朝陽學報,7 : 125 ─ 142. 張瓊方(2002)民俗舞蹈品意象與表現之研究.朝陽 學報,7 : 111 ─ 124. 張瓊方(印刷中)台湾で上演された中国古典武舞作 品の特徴.いばらき健康・スポーツ科学. 孔和平・郭小華(1995)舞蹈欣賞:大陸舞蹈發展的 過程與現況.三民書局:台北,pp. 222 ─ 265. 殷亞昭(1991)中國古舞與民舞研究.貫雅文化事業 有限公司:台北,pp. 1 ─ 228. 岩下豊 (1983)SD 法によるイメージの測定.川島 書店:東京,pp. 2 ─ 181. 常 任 ( 1 9 8 5 ) 中 國 舞 蹈 史 話 . 明 文 書 局 : 台 北 , pp. 7 ─ 168. 金城光子(1988)舞踊における美への視点.九州大 学出版会:福岡,pp. 1 ─ 232. 国吉真紀子・金城光子(1975)舞踊イメージの因子 分析的研究(2).沖縄キリスト教短期大学,3 : 43

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─ 97. 教育部(2003)92 学年度全國學生舞蹈比賽實施要點. 台社(五)字第 092011844 号書函. 李維(1970)中華舞蹈與太極原理之探討.華岡藝術 學報,3 : 127 ─ 136. 李 天 民 ( 1 9 8 5 ) 三 十 年 來 的 舞 蹈 教 育 . 藝 術 學 報 , 38 : 193 ─ 203. 李 天 民 ( 1 9 8 6 ) 舞 蹈 藝 術 概 論 . 正 中 書 局 : 台 北 , pp. 1 ─ 60. 劉芹(1993)中國古代舞蹈.台湾商務印書館:台北, pp. 24 ─ 143. 盧健英(1995)舞蹈欣賞:台灣舞蹈史.三民書局: 台北,pp. 184 ─ 219. 三浦弓杖・高柳典子(1989)舞踊構成に関する研究 (2).千葉大学教育学部研究紀要,38(2): 69 ─ 77. 榊原帰逸(1965)アジアの舞踊.わせだ書房新社: 東京,pp. 217 ─ 307. 伍曼麗(1999)舞蹈欣賞:如何欣賞舞蹈.五南書 局:台北,pp. 249 ─ 259. 王克芬(1991)中國舞蹈發展史.南天書局股 有限 公司:台北,pp. 43 ─ 370. 孫玄齡(1996)アジア音楽史:東アジア中国.音楽 之友社:東京,pp. 29 ─ 53. 頭川昭子・松浦義行・川口千代(1980)意味空間に おける舞踊のイメージ.体育学研究,24 : 281 ─ 290. 頭川昭子・松浦義行(1989)意味空間における舞踊 作品の部分と全体に関するイメージ.筑波大学体 育科学紀要,12 : 123 ─ 133. 頭川昭子・林 裕子・松浦義行・若松美黄・和田伊 通子(1990)国際創作舞踊コンクールにおける入 賞作品の一傾向.筑波大学体育科学紀要,13 : 91 ─ 99. 頭川昭子・松浦義行・若松美黄(1992)国際創作舞 踊コンクールにおける入賞作品のイメージ:共通 意味空間におけるイメージ分析.筑波大学体育科 学紀要,15 : 81 ─ 91. 頭川昭子(1995)舞踊のイメージ探究.不昧堂:東 京,pp. 17 ─ 194. 頭川昭子・横山裕子・高橋うらら・張瓊方・島岡彰 子・唐沢優江・三木綾子(2003)国際創作舞踊コ ンクール受賞作品の外的イメージと内的イメージ の関連.身体運動文化研究,10(1): 45 ─ 68. 平成 17 年 7 月 22 日受付

平成 18 年 6 月 24 日受理

表 1  台湾における中国民族舞踊の発展 内容年代 「中国民族舞蹈(舞踊) 」は文芸政策の一つ であった1949 年 国の管轄化で「国防部総政治部民族舞蹈(舞 踊)推行委員会」が発足した1952 年 中華民族舞踊コンクール大会は,継続して 毎年行われている1953 年 大学舞踊学科が設立され,中国舞踊は必修 科目になった1964 年 英才教育における舞踊クラスが設立され, 中国舞踊は必修科目になった1981 年 プロの台北民族舞踊団が設立された1988 年
図 3 参照) . 外的イメージは,d1「動きの種類・時空間変 化」,d2「トゥバランス・立位回転」,d3「非移 動全身」,d5「片脚バランス・ジャンプ」,d6 「小道具との接触」において多い方向にイメージ され,d7「人と人の接触」 ,d8「人のリフト」は, 少ない方向にイメージされ,以上の 7 次元におい て同じ方向にイメージされた.この 7 次元におけ る 2 作品間の有意差出現数は,d6「小道具との接 触」 (73.33 %,11/15) ,d1「動きの種類・時空間 変化」(60.00 %,9/15
図 4 参照) . 内的イメージの方向は,D1「明快性明快感」, D2「審美性美的感」,D3「力動性活動感」,D4 「弾力性硬直感」,D5「調和性協和感」,D6「重 量性重量感」,D7「難易性難行感」,D8「空間性 広大感」の全 8 次元において明快感,美的感,活 動感,硬直感,協和感,重量感,難行感,広大感の同じ方向のイメージになる.この 8 次元における 2 作品間の有意差出現数は,D3「力動性」(86.67 %,13/15),D1「明快性」(80.00 %,12/15),D4「弾力性」 (66.67

参照

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