IMES DISCUSSION PAPER SERIES
INSTITUTE FOR MONETARY AND ECONOMIC STUDIES
BANK OF JAPAN
日本銀行金融研究所
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無断での転載・複製はご遠慮下さい。CVAにおける誤方向リスク・モデルの潮流
安達あ だ ち 哲也て つ や・末重すえし げ 拓己た く み・吉羽よ し ば 要直と し な お備考: 日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー・シ リーズは、金融研究所スタッフおよび外部研究者による 研究成果をとりまとめたもので、学界、研究機関等、関 連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図し ている。ただし、ディスカッション・ペーパーの内容や 意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究 所の公式見解を示すものではない。
IMES Discussion Paper Series 2016-J-5 2016 年 3 月
CVAにおける誤方向リスク・モデルの潮流
安達あ だ ち 哲也て つ や*・末重すえし げ 拓己た く み**・吉羽よ し ば 要直と し な お*** 要 旨 デリバティブ取引のエクスポージャーの増大と取引のカウンターパー ティの信用低下が同時に生じ、評価損が拡大するリスクを誤方向リスク と呼ぶ。2007~08 年の金融危機においては、デリバティブ取引の信用 評価調整で誤方向リスクが顕在化し、市場全体で巨額の評価損が発生し ており、誤方向リスク管理は金融機関のリスク管理で重要課題となって いる。特に、誤方向リスクをモデル化し、その保有ポートフォリオへの 影響やコストを定量的に認識・把握することで、緊急時の対応性や経営 効率を高めることが金融機関のリスク・経営管理で求められている。一 方、誤方向リスクの顕在化は基本的に低頻度事象(レア・イベント)で、 そのデータの入手が困難であり、モデルの妥当性を評価しにくいことも あって、まだ標準的なモデルは存在しない。こうした背景から本稿では、 OTC デリバティブ取引のプライシングやリスク管理において学術研究 や実務家から提案されている誤方向リスクのモデリング手法を概観し て体系的に整理し、各手法の特徴を分析する。 キーワード:CVA、誤方向リスク、デフォルト強度、構造モデル、ジャ ンプ拡散過程、コピュラ JEL classification: G13 * 日本銀行金融研究所(現 金融庁、E-mail: [email protected]) ** 東京工業大学大学院総合理工学研究科(E-mail: [email protected]) *** 日本銀行金融研究所企画役(E-mail: [email protected]) 本稿の作成に当たり、中川秀敏准教授(一橋大学)から有益なコメントを頂いた。こ こに記して感謝したい。ただし、本稿に示されている意見は、筆者たち個人に属し、 日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者たち個 人に属する。(目 次) 1. はじめに ... 1 2. CVA および WWR のモデル化の基本... 3 (1) CVA の構成 ... 3 (2) 対象とするWWR ... 4 (3) WWR を考慮した CVA 評価 ... 4 (4) 条件付期待エクスポージャーの計算方法 ... 8 3. WWR のモデル化 I:構造モデルと誘導型モデル ... 8 (1) Cpty のデフォルト事象のモデル化 ... 9 (2) エクスポージャーのモデル化 ... 14 (3) エクスポージャーとデフォルト事象の相互依存関係のモデル化 ... 16 4. WWR のモデル化 II:コピュラ・アプローチ ... 21 (1) WWR のための一般コピュラ・モデル ... 21 (2) パス整合的エクスポージャー・ウェイト ... 24 (3) クレジット・デリバティブにおけるコピュラ・アプローチ ... 24 5. WWR のモデル化 III:実務への応用を考慮したアプローチ ... 27 (1) デフォルト強度/確率に関するパラメトリック・アプローチ ... 27 (2) デフォルト時ジャンプ・モデル ... 30 (3) ストレス・シナリオを反映した条件付期待エクスポージャー ... 33 (4) システミック・エクスポージャー ... 35 6. まとめ ... 39 参考文献 ... 39 補論1 構造モデルのもとでのWWR モデリング ... 44 補論2 コピュラ密度を用いたウェイト関数の解析的表現 ... 45 補論3 強度モデルにコピュラを適用した場合の参照体の条件付生存確率 ... 46 補論4 担保取引とMPoR を考慮した場合のエクスポージャー計算 ... 48
1 1. はじめに 誤方向リスク(wrong-way risk:WWR)は、デリバティブ取引のエクスポージ ャーと取引のカウンターパーティ(counterparty:Cpty)の信用水準が負の相互 依存関係を持つ場合に、両者の相乗作用により損失が拡大するリスクとして認 識されている。このとき、エクスポージャーの増大とCpty の信用水準の下落が 同時に起こるため、デリバティブ取引の公正価値を構成する信用評価調整(credit valuation adjustment:CVA)が加速度的に膨らんで巨額の時価損失に繋がる可能 性がある。最近の事例としては、2007~08 年の金融危機時にモノラインや AIG といったCDS(credit default swap)の売り手が信用不安に陥り、これら金融機関 からCDS を購入した金融機関(CDS の買い手)にとっては、Cpty であるモノラ インや AIG の信用リスクとその取引のエクスポージャーが同時にしかも急激に 高まることによってCVA が増大し、市場全体で巨額の公正価値損失が生じた1。 WWR は、それが実現すれば巨額の損失となる可能性が高いため、金融機関にお けるWWR 管理の重要性は高まってきている2。 WWR 管理のためには CVA における WWR のプライシング・モデルを構築し なければならない。WWR の最大の問題は、ストレス・イベント発生時に Cpty の信用水準とエクスポージャーの相互依存関係が平時に比べて大きくしかも急 激に変わることによって、銀行のポートフォリオに甚大な損失をもたらすこと にある。この観点から、WWR のモデル化の要諦は、クレジット変数と市場リス ク・ファクター間の同時分布における裾部分のモデル化に集約できる。一方、 同時分布の裾部分の事象(イベント)は、テール・イベントと呼ばれ、稀にし か発生しない事象(低頻度事象、レア・イベント)の集合となっている。この ため、WWR 発生に関する十分なデータの確保が困難であり、WWR モデルの妥 当性や市場整合性を確認する手段がなく、市場のコンセンサスが得られるよう なモデルが得られていない。このようなことから、WWR のモデル化には大きな 「モデルの不確実性3」が伴うことが知られている。例えば、平静時のデータを 1 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の報告によると、2007 年夏以降の金融危機におけるカ ウンターパーティ信用リスクにかかる損失のうち、Cpty のデフォルトによる直接的損失は 全体の損失の3 分の 1 に止まり、残りは Cpty の信用力の変化に伴う時価変動(CVA 増大) による評価損の拡大に起因した。
2 OTC デリバティブ取引のカウンターパーティ・リスク(CCR: Counterparty Credit Risk)に 関する問題の認識は金融危機前からあったが(Sorensen and Bollier [1994] を参照)、実務上 CVA の認識が浸透したのは 1998 年の LTCM 危機後と考えられている。
3 Cont [2006] は、「モデルの不確実性 (model uncertainty)」をモデル選択における不確実性 (どのモデルが正しいか自明でない場合)と関連付けている。確率分布が既知の場合の結 果に対する不確実性を記述する「リスク」と異なり、「モデルの不確実性」は、そのような 確率分布に関して(どれが正しいか自明ではない)複数の候補が存在する場合に認識され
2 用いた WWR モデルのキャリブレーションの結果得られたパラメータ値を用い ても、大きな損失が発生する結果を再現できないため、特に景気の上昇期で市 場が平穏な状況のもとでは WWR は重視されない傾向がある。一方、市場のス トレス時には、モデルのパラメータ値や変数間の相互依存関係が急激に変化す る結果、想定外の大損失を被る原因となる可能性があるが、ストレス時の変化 をモデルにより合理的に推測することは、過去データの制約もあり、非常に困 難である。このように、WWR はパラメータやモデルの「不確実性」に晒されて いるが、それゆえ、WWR のプライシングに関するモデル化手法について理解を 深め、各手法の利点・欠点を踏まえて適切なモデルを選択することは、WWR 管 理上重要である4。 現状では、WWR のプライシングについて市場関係者の間でコンセンサスのあ るモデル化手法は確立されていない。これまでの学術および実務系の公表論文 等では、資産クラス(金利、為替レート、株式等)によって様々なモデル化が 提案されているが、それらを整理している文献は少なく5、各アプローチの相対 的な特徴や利点・欠点などが十分整理されているとは必ずしもいえない。そこ で本稿では、OTC デリバティブ取引のプライシングやリスク管理において学術 研究や実務家から提案されている WWR モデルを概観し、整理する。なお、本 稿では、CVA を計算する主体(銀行)はデフォルトしないと仮定し、不完全な 担保付のOTC デリバティブ取引にかかる片方向(unilateral)CVA を考察対象と する。 本稿の構成は、以下のとおりである。まず2節では、CVA の考え方の基本を 示すとともに、WWR を表現するために重要となる(Cpty のデフォルト)条件 付期待エクスポージャーを導出する。続く3節から5節では、CVA における WWR モデル化手法について整理する。3節では、信用リスク・モデルの種類(構 造モデル、強度モデル)に依存した分類を行う。4節では、コピュラ関数を応 る。WWR のようなモデルの不確実性を含む要因については、市場で取引可能な金融商品で のヘッジが困難なため、(規制・経済)資本により保全することが一般的である。 4 資本規制においても、WWR を明示的に考慮した資本賦課制度の導入や各金融機関に WWR に対する監視体制の強化が求められている。バーゼル III(BCBS [2010])では、銀行 がCCR 資本賦課計算について期待エクスポージャー方式(IMM)を使用する場合、与信相 当額算定への WWR の保守的考慮、および、ストレス・テスト等を通じて将来エクスポー ジャーにかかるWWR 管理を要求している。また、2015 年 7 月 1 日に公表された CVA の枠 組みの改訂に関する市中協議文書(BCBS [2015])では、規制上の CVA 資本賦課額を内部モ デル・アプローチ(IMA-CVA)または標準的アプローチ(SA-CVA)のいずれかで計算する 場合には、その基礎となるCVA モデルにおいて WWR を考慮することが求められている。 5 桜井 [2011] は、CVA のプライシング・モデルに関して包括的にサーベイしており、その 一部でWWR に関する研究も示している。
3 用した WWR モデルの最近の研究結果について紹介する。5節では、実務(プ ライシング、リスク管理)への実装を意識した相対的にシンプルないくつかの アプローチについて解説する。最後に、6節で本稿をまとめる。 2. CVA および WWR のモデル化の基本 (1)CVA の構成 CVA とは、OTC デリバティブ取引において、デリバティブ価値が正であると き(デリバティブ資産)に取引相手(Cpty)がデフォルトした場合において、 得られるはずであった正の価値を取り損ねることによる損失を市場価値ベース で評価した評価調整額であり、伝統的な貸出金に対する会計上の引当金に類似 している。会計上(国際基準<IFRS>、米国基準、日本基準)、CVA はデリバテ ィブ取引の公正価値を構成する要素として原則としてその計上が求められてい る。CVA は、貸出金に対する引当金と同様に、基本的には、以下のように計算 できる6。 , = (デフォルト時)与信額 × 期待損失率, 期待損失率 = デフォルト時損失率(LGD) ×デフォルト確率(PD), ただし、 は、CVA 考慮後のデリバティブ価値、 は CVA 考慮前の デリバティブ価値を示している。 CVA が引当金と大きく異なるのは、貸出金の与信額に相当するデリバティブ 価値は会計上公正価値測定されており、原資産の市場価格に応じて変動するた め、引当金計算のようにその与信額を固定できないことである。また、満期ま での期間のどの時点でCpty がデフォルトするかによって、デリバティブ価値が 異なる上に、(金利、通貨等)スワップなどの場合、その価値の符号も変わる可 能性がある。デリバティブ価値が正(負)である場合には与信(被与信)とな り、与信である時にCpty がデフォルトすれば損失を被ることになる。この損失 を時価評価したものがCVA である。さらに、会計や自己資本規制ではデフォル ト確率の計算も市場で観察可能な変数(CDS や社債のスプレッド等)を用いて 計算することが求められており、これらスプレッド変動によってCVA も変動す る。すなわち、CVA ではデリバティブ価値変動と Cpty の信用リスクが相互に関 係しており、その変動は非常に複雑なものとなる。 6 ここで、デフォルト確率(PD)や期待損失率は、リスク中立確率の下での評価である。
4 (2)対象とする WWR WWR は、「個別 WWR」と「一般 WWR」に分類できる。個別 WWR とは、 個々の取引に固有なものであり、取引のエクスポージャーとCpty の信用水準の 間に尤もらしい負の相互依存関係が存在する場合に生じる。 例えば、CDS 契 約において、参照体がプロテクションの売り手の関係会社である場合などが挙 げられる。一方、一般WWR は、取引のエクスポージャーと Cpty の信用水準が、 金利、株式、為替等の一般的な市場ファクターの影響を受けて負の相互依存関 係を形成する場合に生じる。例えば、米国の銀行が、エマージング・マーケッ トの銀行をCpty として米ドルを買い、ローカル通貨を売るという先渡契約を行 ったとする。このとき、ローカル通貨が減価すれば、エクスポージャーは増加 するが、Cpty の信用水準は一般的に低下すると考えられる(負の相互依存関係)。 デリバティブのエクスポージャーとCpty の信用水準の間に正の相互依存関係 がある場合には、正方向リスク(right-way risk:RWR)が生じる。このとき、 Cpty の信用水準が下落した場合には、デリバティブのエクスポージャーが縮小 するため、Cpty のデフォルト時のエクスポージャーは小さくなる。したがって、 RWR がある場合の CVA はそれがない場合の CVA よりも小さくなるため、時価 損失は縮小する。本稿では、リスク管理上の保守性7を考慮し、一般WWR に分 析の焦点を当て、RWR は分析の対象外とする。 (3)WWR を考慮した CVA 評価 本稿では、全ての(確率)変数は、フィルター付き確率空間 Ω, , , ℚ ( ≔ , ∞, ≔ : 0 , ⊂ )の上で定義されると仮定する。 ここで、デフォルト事象以外の市場で観察可能な変数により生成される完備で 右連続な -加法族 で構成されるフィルトレーションを ≔ : 0 と し、デフォルト時刻を としたときデフォルト事象から生成される右連続な -加 法族 ( : )で構成されるフィルトレーションを ≔ : 0 とする。 は と の和で構成されるフィルトレーションとする(すなわち、 ≔ ∨ )8。ℚ はリスク中立確率測度を示しており、 ℚ ∙ はℚのもとでの 7 プライシング・モデルと(VaR [Value-at-Risk]等のリスク指標を計算するための)リスク計 測モデルは必ずしも同一ではない。プライシング・モデルの特徴は現在の市場価値に基づ いた評価であり、一般的に、リスク中立測度の下で個別取引単位の評価および正確性(特 にヘッジ計算)が重視される。一方、リスク計測モデルの特徴は(過去の)実現データに 基づいた評価であり、一般的に、実物測度の下でポートフォリオ単位の評価および保守性 (テール・イベント、ストレス・シナリオ[データ]など)が重視される。 8 デフォルト事象が市場で観測される変数のみによって特徴付けられるとき(後述の「構造
5 条件付期待値( ℚ ∙ | )を示している( ℚ ∙ は、評価日時点 0 におけ る期待値)。以下では、 を確率過程 を駆動する標準ブラウン 運動、 をその拡散係数(時間依存する場合は )、そして、確率過程 と の(瞬間的)相関係数を , (時間依存する場合は , )と記述する。 今、銀行と Cpty が OTC デリバティブ取引を行っているものとする。各時間 グリッド ( ∈ 0,1,2, … , 、取引の満期 )で、銀行から見た Cpty の 信用リスクを考慮しない個別取引価値 を(1)式で表す。 ℚ , , (1) ただし、 , は時点 から満期 までの残余キャッシュ・フローの 現在価値の和を示している。一般的に、CVA は Cpty に対する法的に有効なネッ ティング・セット(NS)単位で計測することから、NS 単位の正味デリバティブ 価値 を(2)式のように表現する。 ∈ , (2) ただし、 は特定の NS に含まれる、 というラベルで識別される個別取引 価値を示している。 は時点 の担保価値であり、 0 0 であれば、銀行から見て「受 取担保」(「差入担保」)となる。担保はNS 単位で授受される。Cpty のデフォル ト時刻を と表記する。無担保取引の場合、実際の 直後の時間グリッドで デフォルトすると同時に取引が清算されたものと仮定して CVA の計算を行う。 一方、担保契約がある場合には、 直後の時間グリッドをクローズ・アウト日9と 仮定する。クローズ・アウト日から遡って、デフォルト直前の最終担保授受日 までの期間(リスクのマージン期間:Margin Period of Risk[MPoR]10)を2 週 間(10 営業日)とする11。Cpty のデフォルト時に損失リスクに晒される部分を モデル」の場合など)には、 として確率空間を定義する。 9 Cpty のデフォルトにかかる清算手続きやポジションの再構築等が完了する日。 10 MPoR は、デフォルトした Cpty との取引のネッティング・セットをカバーする担保の最 後の取引時点から当該Cpty との取引がクローズ・アウトし、当該取引にかかる市場リスク が再ヘッジされる(re-hedged)までの期間のことを指す(BCBS [2006])。バーゼル III(BCBS [2010])では、担保取引にかかる非流動性、マージン・コールのディスピュート(係争)期 間および取引の再構築の処理にかかるコスト等を捕捉し、取引のエクスポージャーの過小 評価を防ぐためにMPoR を保守的(長め)に設定している。 11 Cpty の各時点 におけるエクスポージャーの計算に担保授受を考慮する場合には、Cpty のデフォルト時刻( )周りのイベント・スケジュール(クローズ・アウト日[ ]、MPoR [ ]、最終担保授受日[ ]、 )を考慮した上で、担保契約事項(変 動証拠金[VM:Variational Margin]、当初証拠金または独立担保額[IM:Initial Margin]、信
6 「エクスポージャー(exposure)」と呼び、 ∈ , として、max , 0 で表現する。 Cpty のデフォルト時損失率(定数)を 、Cpty が時間 間隔 , 内でデフォルトする確率をℚ ∈ , ( 0ℚ ∈ 1, )で表 す。 以上の条件のもとで、WWR を考慮した は、(3)式で表現できる。 , max , 0 , max , 0 ≅ ℚ , max , 0 ∈ , ℚ , max , 0 ∈ , , ℚ ∈ 1, ℚ , max , 0 | ∈ , ℚ ∈ 1, , (3) た だ し 、 ∙ は 指 標 ( indicator ) 関 数 、 、 お よ び , exp は無リスク金利のスポット・レート に基づく割引ファ クターである。(3)式最終式中の条件付期待値部分を、時点 の「Cpty のデフ ォルト条件付(割引後)期待エクスポージャー」として、(4)式で表現する。 ∶ ℚ , max , 0 | ∈ , . (4) 仮に、割引後エクスポージャー( , max , 0 )と Cpty のデ フォルト時刻 が確率的に独立である場合(WWR を考慮しない場合)、(3)式 は(5)式のように書き換えることができる。 ℚ , max , 0 ℚ ∈ 1, . (5) (5)式の期待値部分を、時点 の「無条件(割引後)期待エクスポージャー」 として、(6)式で表現する。 用極度額[Threshold]、最低引渡額[MTA:Minimum Transfer Amount])をモデル上で考慮 しなければならない。クローズ・アウト日( )の担保額は、時点 (最終担保授 受日)に決定される。担保契約がある場合のCVA 計算上の MPoR の取扱いの詳細は補論4 を参照。
7 ∶ ℚ , max , 0 . (6) (3)式と(5)式の差は、WWR の効果の有無にあり、 と の差に帰着できる。各時点 において、 が成立す るとき、Cpty のデフォルト時に平均的に大きなエクスポージャーが実現する12。 このとき、(3)式から(6)式により、 となり、WWR を考慮 したCVA は考慮しない場合に比べて平均的に大きくなる。 図1 デフォルト時刻( )周りのデリバティブ価値変動と WWR 顕現化のイメージ 図1 は、Cpty のデフォルト時刻( )付近のデリバティブ価値について、WWR の顕現化を表現するパス( ∈ Ω)と WWR の顕現化を表現しないパス( ∈ Ω) のイメージを示している。WWR のモデル化においては、 , のようなデフ ォルト時刻からクローズ・アウト日にかけてデリバティブ価値 が大きくなる ようなパスを多く発生させる仕組みを構築する必要がある。 は、取引のエクスポージャーと Cpty のデフォルト事象の相互依 存関係をどのようにモデル化するかに依存することから、CVA プライシングに おけるWWR のモデル化の要点は、次の 3 点に集約できる。 ① Cpty のデフォルト事象(時刻)のモデル化、 ② デリバティブ・エクスポージャーのモデル化、 ③ Cpty のデフォルト事象とエクスポージャーの相互依存関係のモデル化 (相互依存関係の急激な変化を含む)。 12 各パス( ∈ Ω)レベルでは、Cpty のデフォルト時に大きなエクスポージャーが実現する とは限らない(図1 を参照)。また、コピュラ関数により WWR をモデル化した場合には、 すべての , ∈ 1, ⋯ , について が成立するとは限らな い。詳しくは4節(1)を参照。
8 以下、本稿では、デフォルト条件付期待エクスポージャー の計算方 法に焦点を当てて、WWR のモデル化のアプローチについて概観する。 (4)条件付期待エクスポージャーの計算方法 ここでは、 を計算するためにシナリオにウェイト付けするシミュ レーション手法(scenario-weighting approach)について紹介する(Finger [2000] お よび Ruiz, Pachon, and del Boca [2015] を参照)。
まず、共通の評価日 から評価対象デリバティブ取引の満期日 までの期間 を、 個の(月次程度の)時間グリッド ≔ に分割する。次に、 Cpty の信用水準との相互依存関係(次節以降で説明)を考慮しながら、 個の (割引後)エクスポージャーのパス( , max , 0 , ∈ 1, ⋯ , )を各時間グリッド上で生成する。これと同時に、Cpty のデフォ ルト事象を記述する信用リスク・モデルに基づいて、Cpty の条件付デフォルト 確率のパス( , )を各時間グリッド上で計算する。このとき、各時 間グリッド ∈ 1, ⋯ , の条件付(割引後)期待エクスポージャーは、以下 のように計算できる。 ℚ , max , 0 ∈ , , ≅ 0, max , 0 1 , (7) ただし、 , ∑ , はウェイト関数である。 (7)式において、 , と , max , 0 の 間に正の相互依存関係が存在すれば、相対的に大きいエクスポージャーに対し て大きいウェイトを割り当てることになるため、WWR を表現できる。 3. WWR のモデル化 I:構造モデルと誘導型モデル 本節では、デフォルト事象(時刻)、デリバティブ・エクスポージャー、そし てこれら二者間の相互依存関係という 3 つの観点から WWR のモデル化につい て整理する。計算対象とするデリバティブ取引は、クレジット・デリバティブ (CDS)とそれ以外のデリバティブ(金利、株式、為替レート等を原資産とし たデリバティブ全般)に分けて整理する。
9 (1) Cpty のデフォルト事象のモデル化 デフォルト事象のモデル化には、大きく分けて2 つのアプローチがある。1 つ は、デフォルト事象を企業のバランス・シートの観点から内生的にモデル化す る「構造(structural)モデル・アプローチ」であり、もう 1 つは、デフォルト事 象を外生的なポアソン事象(Poisson events)として取り扱う「誘導型(reduced-form) モデル・アプローチ」である。いずれのアプローチを使うにしても、WWR 管理 におけるCpty のデフォルト事象のモデル化では、以下の 3 つの条件を満たしつ つ、実装上の実行可能性(feasibility)を有していることが重要となる。 ① クレジット市場で観察される信用スプレッド(CDS スプレッド、社債イ ールド・スプレッド等)の期間構造にフィッティングできること、 ② 信用スプレッドの変動(ボラティリティ)を表現できること、 ③ デフォルト事象と市場リスク・ファクター(金利、株式、為替レート、コ モディティ等)との相互依存関係、または異なる主体のデフォルト事象間 の相互依存関係を表現できる仕組みを持っていること。 イ. 構造モデル・アプローチ 構造モデルでは、企業の財務構造を明示的にモデル化して、企業の資産価値 がその負債価値(バリア水準)を下回った時にデフォルトが生じるとみなす。 最もシンプルな構造モデルであるマートン・モデル(Merton [1974])では、企業 の資産価値過程 の(企業の)満期時点 0 における価値 が 特定のバリア(負債価値)水準 を下回った時にデフォルト事象(Cpty のデフ ォルト時刻 )が発生すると仮定する。 , ∞ ifif . このとき、満期時点 0 における株主へのペイオフ は、 max , 0 と表現できるので、現時点 0 の株主価値(株価)を 0 とす れば、ブラック=ショールズ・モデルにより信用スプレッドの解析解を得るこ とができる。また、企業価値が対数正規分布に従うことから、デフォルト確率 ℚ についても容易に解析解を得られる。 マートン・モデルは、信用スプレッドやデフォルト確率について解析解を導 出できるなど扱いやすさの点で利点があるものの、デフォルトが満期時点 で しか生じないとする仮定については、コベナンツ条項の存在や満期の異なる債 権の存在などを考えると現実的な仮定とはいえない問題がある。また、資産価 値過程のボラティリティ およびバリア がともに定数である場合には信用
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スプレッドの期間構造に柔軟にフィッティングできないという欠点がある。 Black and Cox [1976] は、企業の資産価値 が特定のバリア 以下と なった時点でデフォルト事象が生起したものとみなすことによって、満期以前 にもデフォルト事象が生起しうる構造モデルを構築している。ブラック=コッ クス・モデルにおいて、デフォルト時刻 は、(8)式のように表現される。 inf ∈ 0, | . (8) ブラック=コックス・モデルは 4 つの定数パラメータで表現されるモデルで あり、複数の CDS 気配値(4~10)に柔軟にフィッティングさせるには不十分 であることが知られている。Brigo, Morini, and Tarenghi [2011] および Brigo and Tarenghi [2004] は、モデルの市場気配値への柔軟なフィッティングを行うため、 資産価値のボラティリティを時間依存型 に修正しており、バリアについて も時間依存型 に修正した。このとき、一般的には、ある時点 まで生存して いる確率 ℚ の解析的表現を得ることは困難であるが、彼らは、Lo, Lee, and Hui [2003] の結果13を利用し、 に依存する特定のバリア関数 のも とで、(9)式のように生存確率 ℚ の解析的表現を得ている(AT1P: Analytically-Tractable First Passage Model)。
, exp , 0 , ℚ Φ ln 0 2 1 2 0 Φ ln 0 2 2 1 , (9) ただし、Φ ∙ は標準正規分布の累積分布関数である。 資産価格過程 と債務水準で決まるバリア水準 が市場で観察可能 であるとすると、 が拡散項により駆動される連続過程で、 が時間に関 して確定的な関数であれば、(8)式から明らかなように、デフォルト時刻 は可 予測(predictable)14となる。デフォルト時刻が可予測である場合、当初のデフ
13 Lo, Lee, and Hui [2003] は、バリア について に依存する特定の関数形をとる ことでバリア・オプションの解析解を導出している。
11 ォルト距離( 0 / )が大きい場合には、目先の短期間のデフォルト確率はゼ ロに近くなり、現実の市場で観察できる非ゼロ(正)の短期スプレッドを説明 することができない15。これは、構造モデルの欠点となる。実際のデフォルト事 象は、市場で観察可能な変数からの予兆なしに突然顕現化する場合(エンロン [米、2001 年 12 月]、ワールドコム[米、2002 年 7 月]やパルマラット[伊、 2003 年 12 月]のケース等会計上の粉飾が突然明るみになった場合等)も多いが、 マートン/ブラック=コックス・モデルでは、このような可予測ではない (unpredictable、非可予測な)デフォルト時刻を表現することができない。一つ の解決策として、資産価格過程 に下方ジャンプを導入することで、非可予 測なデフォルト時刻を表現できる(Zhou [1997, 2001]、Hilberink and Rogers [2002]) が、この場合、CDS の市場気配値から導かれるクレジット・カーブへの柔軟な フィッティングに必要となる時間依存型ボラティリティやバリア関数下での生 存確率の解析的公式の導出は困難となる。他の解決策としては、企業の資産価 値過程またはバリア(負債価値)水準に関する完備情報(complete information) の仮定を緩めて、これらに関する不完備情報(incomplete information)を仮定す ることにより非可予測なデフォルト時刻を表現するアプローチが存在する (Duffie and Lando [2001]、Cetin et al. [2004]、Giesecke [2004, 2005]、Giesecke and Goldberg [2004a,b]、Guo, Jarrow, and Zeng [2009]、Brigo and Morini [2006]、Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] など)。このうち、Brigo and Morini [2006] および Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] では、比較的簡明な不完備情報のモデルを提 示している。具体的には、(9)式で表現される AT1P モデルをベースとして、離 散的な確率シナリオごとに異なるバリア水準を持たせることでバリア水準に不 確実性を導入し、非可予測なデフォルト事象を表現している。これは、SBTV (Scenario Barrier Time-Varying Volatility AT1P)モデルと呼ばれ、時間依存型ボラ ティリティのもとで短期テナーを含めた信用スプレッドの期間構造に柔軟にフ ィットさせつつ、生存確率についての解析的な表現を得ている。シナリオ数を 個とすれば、シナリオごとのバリア水準は(10)式で表現できる。
exp with prob. 0, ∈ 1, ⋯ , , (10)
ただし、シナリオ確率は、∑ 1 を満たす。
(stopping time)の非減少列 が存在して、 ⋯ , lim → を満た すとする。このとき、停止(デフォルト)時刻 を可予測であるという。ここで、 を ( に対する情報を提供するという意味で)アナウンシング列(announcing sequence)と 呼ぶ。
15 信用スプレッドの期間構造にフィッティングするには、短期テナーのボラティリティ を不自然に大きく設定することになる。
12 SBTV モデルのもとでのポートフォリオ価値 は、AT1P モデルのもとで の各シナリオ ∈ 1, ⋯ , に基づくポートフォリオ価値 のシナリオ確 率加重平均値 ∑ として導出できる。 ロ. 誘導型モデル・アプローチ デフォルト事象を企業の資産価値と負債価値の関係から内生的に取り扱う構 造モデルと異なり、誘導型モデルでは、デフォルト事象をデフォルト強度 (intensity : ℚ ∈ , | , )と紐付いたポアソン 事象として外生的に取り扱う。これより、誘導型モデルではデフォルト時刻は 非可予測となり、構造モデルの欠点であったデフォルト時刻の可予測性の問題 を改善できる。なお、一般的に、誘導型モデルと(デフォルト)強度モデルは 必ずしも同義ではないが、本稿ではこれらを等しいものとして取り扱う16。また、 WWR 管理におけるデフォルト事象のモデル化のために確率的強度モデルを選 択する。 Cpty の デ フ ォ ル ト 時 刻 を 定 義 す る た め に 、 ま ず 停 止 時 刻 の 増 加 列 を考える。このとき、計数過程 ( ∶ ∑ ) は、確率強度(stochastic intensity) 0 を持つ二重確率的ポアソン過程 (doubly stochastic Poisson process、または、コックス過程[Cox process])であ り、 は、 ‐適合かつ右連続なデフォルト強度過程であり、その累積 強度(cumulated intensity)を で表現する。このとき、デフォル ト時刻 は、ポアソン過程 の最初のジャンプ時点となり、(11)式のよう に表現される。 : inf ∈ 0, | 0 . (11) (11)式において、Cpty のデフォルト時刻 について累積強度 を通じ て : と変換すると、 は標準指数分布に従う確率変数となる17。この 16 誘導型モデルでは、デフォルト強度の存在を前提としているわけではない。誘導型モデ ルでは、条件付生存確率を以下で示すような によって特徴付ける(Giesecke [2005]、 Giesecke and Goldberg [2004a,b]、Elizalde [2005])。
ℚ | ℚ exp | ,
ここで、 が に関して微分可能である場合のみ、強度 が存在して、 と表現できる。本稿では、 を前提とし、誘導型モデルを(デ フォルト)強度モデルと同義として議論を進める。
17 確率強度 をもつポアソン過程(Po )を 強度 1(定数)の標準ポアソン過程 (Po 1 )に変換した場合、Po における最初のジャンプ時刻 は、Po 1 におけ る最初のジャンプ時刻 に置き換えられる。
13 とき、時刻 t までの生存確率 ℚ 0 ℚ は、(12)式のように導出 できる。 ℚ ℚ ℚ ℚ | ℚ exp . (12) (12)式より、デフォルト事象の生起は、(デフォルト強度 よりも)累積強 度 により決定されることが分かる。(12)式の最終項の期待値(生存確率) は、金利モデルにおける割引債の導出と類似していることから、ショートレー ト・モデルの幾つかのバージョンを援用することによりその解析的表現を導出 できる。 Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] は、CIR(Cox, Ingersoll, and Ross [1985])モデルに平均 の指数分布Exp に従うジャンプ項 を加えた(13)式 のジャンプCIR(JCIR)モデルを用いている18,19。JCIR モデルは、(12)式の生存 確率に対して解析解を持つ。 , , , ∼ Exp , (13) ただし、 , は定数強度 を持つマーク( ∈ )付きポアソン点過程であ る。 をマルチンゲールとするための補正項(compensator)は となる が、この効果は中心回帰水準 に反映させている20。 現実の目先のデフォルト事象は、市場で観察可能な変数から予測できる(可 予測な)場合とデフォルトが何の予兆もなく突然顕現化(leap to default)するよ うな(非可予測な)場合の中間にあると考えられる21。ところが、強度モデルで は、デフォルト事象が外生的に与えられるため、市場スプレッドを表現するデ フォルト強度( )22 の変動とデフォルト事象の発生( )の間の連関性を
18 正確には、JCIR モデルに確定的シフト項を加えた JCIR++モデル(Brigo and Mercurio [2006] を参照)を用いている。シフト項を加えることで、信用スプレッドの期間構造に対 してより柔軟にモデルをフィットできる。
19 強度モデルにおいても、構造モデルの場合と同様に、短期の(大きい)CDS スプレッド にうまくフィッティングできないという欠点がある。この欠点を改善するために、Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] では、強度過程に「ジャンプ」を導入している。
20 すなわち、ジャンプ項を含まない場合の元の中心回帰水準 とするとき、 / とする。 21 実際の市場では、目先短期間のデフォルト時刻は可予測とは言わないまでも、市場で観 察可能な変数(CDS スプレッド、株価、およびそのボラティリティ等)の動向からある程 度の予測は可能である(リーマン・ブラザーズのデフォルト等)。リーマン・ブラザーズの デフォルトは、CDS スプレッドや株価の動向から市場ではある程度予想されていたものの、 そのデフォルトは流動性不足を直接の原因として突然顕現化した。
22 Cpty のデフォルト強度 と Cpty の CDS スプレッド(シニア) の関係は、Cpty の デフォルト時損失率を として、近似的に ≅ で表現できる。この近似的関
14 うまく表現できないという欠点がある。(12)式でみたように、強度モデルでは、 特定の時刻 までのデフォルト事象の発生を特徴付けるのは累積強度 で あるが、デフォルト強度 の確率過程が連続過程である拡散項のみで駆動さ れている場合、デフォルト強度のサンプル・パス は大きく変動して いるように見えても、累積強度のサンプル・パス は安定的に増加して いくため、デフォルト強度の変動とデフォルト事象の発生がほぼ無関係になる ことがMorini [2011] によって示されている。Morini [2011] は、デフォルト事象 の生起とデフォルト強度の変動を関係付けるためには、デフォルト強度の変動 が累積強度のサンプル・パスに大きな影響を与えるようなモデル化が必要であ り、そのためには、(13)式で示されるような、デフォルト強度過程への「ジャン プ」の導入が不可欠と指摘している。例えば、2008 年 9 月のリーマン・ショッ クでは、デフォルトの直前期において、株価の大幅下落およびCDS スプレッド の急拡大が観察されており、スプレッドの大幅変動とその後のデフォルトが関 連していた。 デフォルト強度モデルのその他の欠点として、デフォルト相関(default correlation)の再現性の低さが挙げられる23。この問題を改善する方法として、 Elizalde [2005] や 桜井 [2011] では、①デフォルト強度への相関ジャンプ (correlated jumps)の導入(Duffie and Singleton [1999])、②特定の参照体のデフ ォルトが他の参照体のデフォルト強度を引き上げるようなデフォルト伝播モデ ル(Jarrow and Yu [2001]、Leung and Kwok [2005])、③3節(2)で後述するコピ ュラ関数の導入(Brigo and Chourdakis [2009]、Brigo and Capponi [2009])、 ④Cpty と参照体の非デフォルト/デフォルト状態をマルコフ連鎖で表現し、両者がと もにデフォルト状態に移行する確率をモデル化したマルコフ・コピュラ・モデ ル(Crepey, Jeanblanc, and Zargari [2009])、といったアプローチが提案されている。
(2) エクスポージャーのモデル化 イ. クレジット・デリバティブ
クレジット・デリバティブの原資産である参照体のデフォルト事象(時刻) は、 係式は、Cpty の生存確率を ℚ ≔ exp と定義し、CDS の Premium Leg の価 値とDefault Leg の価値に関する以下の(連続時間の)近似式で Premium Leg = Default Leg と すれば得られる。
Premium Leg ≅ 0, ℚ ,
Default Leg ≅ 0, ℚ ∈ , 0, ℚ . 23 デフォルト強度が拡散項のみで駆動されている場合、モデルが予測するデフォルト相関 は、過去データから推計されるデフォルト相関と比較してかなり低い値となる。
15 本節(1)で説明したように、① 構造モデル・アプローチ、または、② 誘導 型モデル・アプローチ のいずれかによりモデル化される。一般的には、Cpty の デフォルト事象と原資産(参照体)のデフォルト事象は同じアプローチでモデ ル化される。 ロ. クレジット・デリバティブ以外 CVA の計算は、Cpty のネッティング・セット単位で行われ、その中には様々 な資産クラス(金利、株式、為替レート、商品等)の取引が含まれており、担 保契約や MPoR の効果も考慮することが求められるため、個別取引ごとの計算 に比べて実装の難しさや計算負荷は飛躍的に大きくなる24。このようなことから、 CVA の計算では、時間グリッド上のデリバティブ価値について解析解を導出で きるか、あるいは、シミュレーション負荷の小さい比較的簡易なプライシング 手法を選択することが現実的であろう。例えば、金利モデルについては、異な る期間(テナー)のフォワードレートは相互依存関係を持って無裁定関係を維 持していると考えられるので、Heath, Jarrow, and Morton [1992]や Brace, Gatarek, and Musiela [1997]等のフォワードレート・モデルを用いることが伝統的なファイ ナンス理論との整合性が高い。しかしながら、金融危機後のマルチ・カーブ化 に 伴 う 異 な る テ ナ ー 間 お よ び 異 通 貨 金 利 間 の ベ ー シ ス ・ リ ス ク の 考 慮 や CVA/DVA、FVA(funding valuation adjustment)、KVA(capital valuation adjustment) 等のXVAs がリスク管理で考慮されるようになってきたことにより25、デリバテ ィブのモデル化および実装はより複雑になってきている。このような状況のも と、フォワードレート・モデルではなく、比較的実装が容易で計算負担も小さ い(複数ファクターを持つ)ショートレート・モデル(Black and Karasinski [1991]、 Peterson, Stapleton, and Subrahmanyam [1999]、Hull and White [1994]や Brigo and Mercurio [2006]で示された G2++[Two-Additive-Factor Gaussian Model]の 2 ファ クター・モデルなど)を用いることも考えられる26。 いずれにしても、複雑化するデリバティブ取引についてその評価上の解析的 表現を得ることは困難になりつつあるため、多くの場合はシミュレーションで 計算を行うことになる。特に、ポートフォリオに対するCVA/DVA の評価を行う 24 ポートフォリオ単位での評価が中心となるため、資産クラス間のシナリオの整合性も確 保しなければならない。 25 CVA/DVA、FVA、KVA 等の XVAs の最近の議論については、安達 [2015] を参照。 26 モデルの選択に際しては、現実の市場価格およびリスクの再現性、簡便化することによ るリスクの見落とし、モデル・リスク、パラメータ推定リスク、実装の複雑性、計算負荷、 客観的なインプットの入手可能性、ヘッジの効率性 などの間のトレード・オフを考慮する 必要がある。
16 場合には、金利、為替、エクイティ、クレジットおよびそれらのボラティリテ ィの間の相互依存関係やオプショナリティを全て含むような大規模なハイブリ ッド・モデルが必要になる。現状では、将来エクスポージャーを計算する際に、 アメリカン・モンテカルロ法に頼らざるを得ない状況にある27。 (3) エクスポージャーとデフォルト事象の相互依存関係のモデル化 イ. 構造モデルの場合 (イ). クレジット・デリバティブ 本稿では、クレジット・デリバティブとしてCDS のように参照体が 1 つの場 合に焦点を当てる28。 構造アプローチにおいて、Cpty と参照体のデフォルト事象(時刻)の相互依 存関係を構成するシンプルなアプローチとして、ブラック=コックス・モデル を前提として、以下の(14)式で示されるように、Cpty と参照体の資産価値過程 の拡散項に線型相関を導入する方法がある。 , , , ∈ , , , , , (14) ただし、 と はそれぞれ Cpty と参照体を意味している。このような線型相 関によるアプローチは、実装が比較的容易である一方、WWR を記述するアプロ ーチとしては以下の2 つの欠点がある29。 ① 既に述べたように、完備情報に基づく構造モデルでは、非可予測なデフォ ルト時刻を表現できない。 27 アメリカン・モンテカルロ法とは、早期償還条項を持つデリバティブ取引のプライシン グを行うための効率的なシミュレーション手法の総称である。桜井 [2011] では、アメリカ ン・モンテカルロ法に分類される手法としてLongstaff and Schwartz [2011] の最小二乗モン テカルロ法と Tilley [1993] のバンドリング法を取り上げて概観している。その他、アメリ カン・モンテカルロ法についての解説は、Cesari et al. [2009] および Glasserman [2004] など を参照。
28 一般的には、CDO(collateralized debt obligation)や"N-th to default"のように参照体が複数 のクレジット・デリバティブもある。
29 桜井 [2011] では、構造モデルによるデフォルト確率の期間構造の表現能力の低さに注目 して、これを改善したモデルとして、バリア水準を区分された期間ごとに信用スプレッド の期間構造にフィットするように設定したHull and White [2001]と、資産価値のジャンプ強 度を区分された期間ごとに信用スプレッドの期間構造にフィットするように設定した Lipton and Sepp [2009]、を示している。本稿では、信用スプレッドの期間構造にフィット可 能であることを前提として、WWR を考慮する上での構造モデルの欠点を補完するようなモ デル化を概観する。
17
② 拡散項の線型相関のみでは、金融危機時に見られた資産価格の急激な相互 依存関係の高まり(または、相互依存関係の急激な変化)を表現できない。 これら構造モデルの欠点を改善する方法として、以下の 2 つのアプローチが 考えられる。
A) Cpty と参照体の資産価値の確率過程に「同時ジャンプ(joint jump)」を導 入して、非可予測なデフォルト時刻および急激な相互依存関係の高まりを 表現しようとするアプローチ(Lipton and Sepp [2009]30)
B) デフォルト事象発生の判定基準となる Cpty と参照体のバリア水準(負債 水準)に不確実性と共変動性を導入するアプローチ(Giesecke [2004])。 アプローチA) において、Lipton and Sepp [2009] では、各企業の資産価格過程 に独立ジャンプと同時ジャンプ(ポートフォリオ中の参照体のすべての組合せ を表現31)を導入している。彼らのモデルでは、解析的表現を導出するために資 産価値 の確率過程について(時間に依らず)定数のボラティリティを仮定 しており、信用スプレッドの期間構造へのフィッティングは、資産価値過程の ジャンプ強度(intensity)の推定を通じて行っている。 一方、アプローチB) としては、WWR モデルではないものの、Giesecke [2004] は、複数の参照体のバリア水準がそれぞれ確率的に変動するモデルを考案し、 これらバリア水準の同時分布をコピュラ関数により表現することによって複数 の参照体のデフォルト相関(default correlation)および非可予測なデフォルト時 刻を表現している32。Cpty と参照体のデフォルト事象の相互依存関係の急激な高 まりは、バリア水準の同時分布の裾部分(Cpty と参照体のバリア水準が同時に 高まる)を厚くするコピュラ関数で表現できる。
30 Adachi and Uchida [2015] においても、リスク資産価値過程に独立ジャンプと同時ジャン プを導入することにより、資産価値間の急激な相互依存関係の高まりを同時ジャンプの顕 現化を通じて表現している。 31 ポートフォリオ中の参照体の数が 個である場合、独立ジャンプを含めた同時ジャンプの 組合せ数は、2 1 となる。例えば、 3 である場合、同時ジャンプの組合せは、 1 , 2 , 3 , 1,2 , 1,3 , 2,3 , 1,2,3 で記述され、合計 2 1 7個となる。要素が 1 つの 場合は独立ジャンプ、2 つの場合は 2 参照体の同時ジャンプ、3 つの場合は 3 参照体の同時 ジャンプを示している。このとき、参照体 ∈ 1,2,3 のジャンプ強度 は、 , , , , , , , , , , ∈ 1,2,3 , ただし、 , , は全て異なるものとして表 現される。 32 彼らのモデルでは、資産価値については市場で観察可能であるものの、投資家は企業の バリア水準およびそれらの同時分布に関して不完全な情報(事前分布)しか持たない。投 資家は、ある企業のデフォルトにより生存企業のバリア水準に関する事前分布を更新する。 予期せぬデフォルトは、バリア水準の事前分布を大幅に更新することになり、その結果、 生存参照体のデフォルト確率を大幅に上昇させることになる(デフォルト伝播[default contagion])。
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安達・末重・吉羽 [2016] では、バリア水準の不確実性を WWR モデルに適用 している。彼らは、Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] の SBTV モデルを応用し、 Cpty と参照体の間で整合するバリア水準を持つ複数シナリオ(通常時[低水準 バリア]とストレス時[高水準バリア])を導入することで、非可予測なデフォ ルト時刻および急激な相互依存関係の高まりを考慮している。この方法は、解 析的な取り扱いが比較的容易で、信用スプレッドの期間構造にも柔軟にフィッ ティングできるが、整合するバリア水準のシナリオ(およびシナリオ確率)の 経済的な解釈が困難であるという欠点がある33。 (ロ). クレジット・デリバティブ以外 最もシンプルなアプローチとして、ブラック=コックス・モデルを前提とし て、(14)式の定式化と同様に、Cpty の資産価値とデリバティブの原資産価格の確 率過程の拡散項部分に線型相関を持たせる方法(Levy [1999]、Redon [2006]、 Cesari et al. [2009]、Buckley, Wilkens, and Chorniy [2011]など)がある(モデルの 詳細は補論1を参照)。このアプローチは、モデルが比較的シンプルであること から実装および計算の負荷も小さいという利点がある一方で、(イ)で述べたよ うに、非可予測なデフォルト時刻や市場リスク・ファクターとの急激な相互依 存関係の変化を表現できないという欠点もある。 安達・末重・吉羽 [2016]では、Cpty の信用リスク・モデルとして SBTV モデ ルを採用し、バリア水準および市場リスク・ファクターの双方に不確実性を導 入することで WWR を考慮している。彼らは、通常時シナリオ[低バリア水準 (デフォルト距離大)+ジャンプ無しリスク・ファクター(連続拡散過程)]と、 ストレス時シナリオ[高バリア水準(デフォルト距離小)+ジャンプ付きリス ク・ファクター(ジャンプ拡散過程)]という2 つのシナリオを導入することに より、Cpty の非可予測なデフォルト時刻および市場リスク・ファクターの相互 依存関係の急激な高まりを表現している。 ロ. 誘導型モデルの場合 (イ). クレジット・デリバティブ デフォルト強度モデルを適用する場合、デフォルト事象(時刻)の生起(累 積強度過程に依存)とデフォルト強度の変動との間に連関性を構築するために、 33 経済的な解釈が可能なケースとしては、例えば、Cpty と参照体が緊密な関係を持った企 業同士(親子会社、関連会社等)であり、財務内容の悪化が潜在的かつ同時的に生起する 可能性がある場合などが挙げられる。
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Morini [2011] が主張するように、デフォルト強度過程にジャンプを導入するこ とが考えられる(Brigo and Chourdakis [2009]34)。Brigo, Morini, and Pallavicini [2013] は、①デフォルト強度( , ∈ , )の相互依存関係、および ②デフ ォルト事象(または累積強度 , ∈ , )の相互依存関係、と いう 2 つの観点から、Cpty と参照体のデフォルト事象(時刻)の相互依存関係 のモデル化のアプローチを、以下の3 つのバージョンに分類している。 a) デフォルト強度変動に相互依存関係があるが、デフォルト事象(時刻)は独立 b) デフォルト強度変動は独立であるが、デフォルト事象には相互依存関係がある c) デフォルト強度変動およびデフォルト事象ともに相互依存関係がある デフォルト強度( , ∈ , )の確率過程が拡散項のみによって駆動される 連続過程であれば、デフォルト強度変動はデフォルト時刻にはほとんど影響を 与えない。このとき、バージョンa) において、Cpty と参照体のデフォルト強度 変動の拡散項の間に線型相関が存在したとしても、両者の累積デフォルト過程 には影響を与えないので、デフォルト時刻の相互依存関係も生じない(Morini [2011]、Ghamami and Goldberg [2014])。
バージョンb) および c) では、コピュラ関数を用いることにより、Cpty と参 照体のデフォルト事象の(正の)相互依存関係を構築できる(Brigo and Chourdakis [2009])。このとき、Cpty のデフォルトは、コピュラ関数を通じて参照体のデフ ォルト強度に影響を与えるので、参照体の(Cpty のデフォルト)条件付デフォ ルト確率の計算が複雑化する(4節(3)を参照)。また、過去データの制約に より、コピュラ関数(正規、フランク、グンベル、クレイトン等)の妥当性検 証が困難なため、コピュラ関数の選択には分析者の恣意性が入る。 バージョンc) では、デフォルト強度(=信用スプレッド)間の相互依存関係 も表現できるが、デフォルト強度変動とデフォルト事象の間に連関性を持たせ ながらデフォルト事象の相互依存性を考慮するためには、デフォルト強度過程 にジャンプを導入する等((13)式[JCIR モデル]を参照)の工夫が必要となる (Morini [2011])。さらに、金融危機時のデフォルト強度の同時的高まりとデフ ォルト事象の相互依存性の急激な高まりが顕現化するような状況を表現するた めには、Cpty と参照体のデフォルト強度過程に「同時ジャンプ」を導入するこ とも考えられる(Duffie and Singleton [1999]、安達・末重・吉羽 [2016])35。
34 Brigo and Chourdakis [2009] の強度過程におけるジャンプは、同時ジャンプではなく、そ れぞれの過程が独立にジャンプする「独立ジャンプ」となっている。
35 デフォルト強度の同時ジャンプのみでは、デフォルト事象の相互依存関係の高まりを表 現するのには不十分であり、コピュラ関数の導入によるデフォルト事象の相互依存関係の
20 (ロ). クレジット・デリバティブ以外
連続時間モデルにおいて、信用リスクと他の市場リスク・ファクターとの間 の相互依存関係は、確率強度過程 と市場リスク・ファクターの確率過 程の間の線型相関 ∈ 1,1 で表現する場合がある。例えば、Brigo, Morini, and Pallavicini [2013]では、金利(スポット・レート)過程 として G2++モ デル(本節(2)ロを参照)、原油のスポット価格過程 としてシフト付 対数正規(shifted-log normal)モデル、そして、確率強度過程 として CIR++モデル(Brigo and Mercurio [2006] を参照)を用いており、確率強度とそ れぞれの市場リスク・ファクターとの相互依存関係は、拡散項にかかる相関係 数により表現している。 ただし、既述のように、デフォルト強度モデルでは、強度過程と市場リスク・ ファクターの間に相互依存関係があったとしても、それが直ちにデフォルト時 刻と市場リスク・ファクターの相互依存関係に繋がるわけではない。したがっ て、強度過程と市場リスク・ファクターの相互依存関係とともに、強度過程と デフォルト事象の間に連関性を持たせるための手法が必要となる。この要請を 満たす手法として、強度と市場リスク・ファクターの同時ジャンプを考慮した 方法(同時ジャンプ・アプローチ)と、これら 2 変数の間の相互依存関係をコ ピュラ関数で表現する方法(コピュラ・アプローチ)が考えられる。 同時ジャンプ・アプローチでは、Cpty のデフォルト強度過程と市場リスク・ ファクターの確率過程に「同時ジャンプ」(Duffie and Singleton [1999]、Lipton and Sepp [2009]、Adachi and Uchida [2015])を導入して、デフォルト強度変動とデフ ォルト事象の連関性を高めるとともに、デフォルト事象とエクスポージャーの 間の急激な相互依存関係の高まりを表現する(安達・末重・吉羽 [2016] を参照)。 コピュラ・アプローチでは、Cpty のデフォルト確率 ℚ と市場リスク・ ファクター の確率 ℚ をコピュラ関数で接合することにより、両者の デフォルト事象の相互依存関係を構築する。コピュラ関数を用いた場合でも、 デフォルト強度と市場リスク・ファクターの急激な相互依存関係の高まりと、 強度過程とデフォルト時刻の連関性を高めるために「同時ジャンプ」を導入す ることも可能である。デフォルト時刻と市場リスク・ファクターをコピュラ関 数で接合する場合の注意事項として、デフォルト時刻によっては、必ずしも 明示的なモデル化が必要となる。例えば、Cpty と参照体のデフォルト確率がそれぞれ 1% か ら10% にジャンプしたとしても、デフォルト事象が相互に独立との仮定のもとでは、同時 デフォルト確率は高々 10% × 10%=1% にしかならない。
21 WWR とはならず RWR となる可能性があることが指摘されている(Böcker and Brunnbauer [2014])。この論点を含めたコピュラ・アプローチは4節で整理する。 以上、Cpty の信用リスク・モデルとデリバティブ商品別(クレジット/クレジ ット以外)の関係からWWR モデルについてまとめると表 1 のようになる。 表1 Cpty の信用リスク・モデルに依拠した WWR モデルの分類 デリバティブの原資産 クレジット(参照体) クレジット以外(金利、株式、為替レ ート、コモディティ等) 信用 リスク・ モデル (Cpty) 構造 モデル ① 資産価値変動の線型相関 ② 資産価値の同時ジャンプ ③ バリアの不確実性(Cpty と参照体の 間で整合する複数シナリオ) ① Cpty の資産価値変動と原資産価格 変動の線型相関 ② Cpty のバリアと原資産価格過程の 不確実性 (複数シナリオ) 強度 モデル ① デフォルト強度変動の線型相関(+ コピュラ) ② デフォルト強度の(同時)ジャンプ (+コピュラ) ① Cpty のデフォルト強度変動と原資産 価格変動の線型相関(+コピュラ) ② Cpty のデフォルト強度と原資産価格 の同時ジャンプ(+コピュラ) 4. WWR のモデル化 II:コピュラ・アプローチ コピュラ・アプローチ36では、デリバティブ取引(または、そのポートフォリ オ)の将来価値を駆動する市場リスク・ファクター(または、クレジット・デ リバティブの参照体のデフォルト時刻)とCpty のデフォルト時刻の相互依存関 係をコピュラ関数により関係付けることによりWWR をモデル化する(Gregory [2012] 15 章、Garcia-Cespedes et al. [2010]、Pykhtin and Rosen [2010]、Sokol [2010]、 Cherubini [2013]、Böcker and Brunnbauer [2014]、Lee and Capriotti [2015]など)。こ れまでと同様に、WWR のモデル化においては、以下の(15)式で示されるデフォ ルト条件付期待エクスポージャー( )のモデル化に焦点を置く37。
ℚ max , 0 | , . (15)
(1) WWR のための一般コピュラ・モデル
以下では、Böcker and Brunnbauer [2014] に基づいて、 を2 変量のコピ ュラ , を用いて表現する。
36 コピュラ・アプローチの金融実務への応用については、戸坂・吉羽 [2005] を参照。 37 ここでは、説明の便宜上、連続時点上でのデフォルトで を定義する。
22 Cpty のデフォルト時刻 の分布関数を ℚ (生存確率は 1 、密度関数は )、時点 ∈ , ∞ の割引デリバティブ価値 , ( , max , 0 )の累積分布関数を と して、 および の同時分布関数 , を以下で表現する。 ℚ , ≡ , , ∈ , 0 , ただし、 , は 2 回連続微分可能な 2 変量コピュラであり、そのコピュラ 密度 , は(16)式で導かれる。 , , , , ∈ 0,1 0,1 , ∈ 0, ∞ . (16) これより同時密度 , は、 , として、以下のように表 現できる。 , , , . 以上を用いれば、 は(17)式のように表現できる38。 , ℚ , , (17) ただし、 max , 0 である。(17)式より、 は、コピュラ密度 , をウェイト関数とした正の割引デリバティブ価値の無条件 期待値として表現できることが示された39。Böcker and Brunnbauer [2014] は、(16) 式のようなコピュラ密度を持つコピュラ関数により割引デリバティブ価値と Cpty のデフォルト時刻の相互依存関係を表現するモデルを(WWR モデリング のための)一般コピュラ・モデル(general copula model)と呼んでいる40。 38 割引ポートフォリオ価値 のデフォルト条件付密度を | , / とすると、 | を得られる。同時密度 , とコピュラ密度 の関係より (17)式を得る。 39 各離散時間グリッド ∈ 0, ∞ において、 , , … , , をシミュレートされた無条件割 引ポートフォリオ価値を昇順に並べ替えたものとする。このとき、 → ∞ のもとで大数の 強法則により、1⁄ ∑ , , , → , . . を得る。こ こで、 , は / 1 という経験分布関数で与える。 40 ≔ ℚ ℚ | とすれば、 ℚ , ℚ ℚ ℚ | と表現できる。これより、 は、確率測度 ℚ のもとでのエクスポージャー の無条件期待値として表現できる( 0 は固定)。
23 WWR のモデル化にコピュラ・アプローチを用いる際に注意しなければならな いのは、コピュラ関数によって表現される「裾依存性(tail dependence)」が WWR モデリング上では大きな意味を持たないことである。これは、Cpty のデフォル ト時刻 について、 → ∞ または → 0 のもとで、ポートフォリオ価値 に大きな影響を与える場合に(コピュラにかかる)裾依存性が問題となるが、 実際のデリバティブ取引の満期は有限であり、取引開始から取引満期までの中 間時点でのWWR の顕現化が、WWR のモデル化およびリスク管理上でより重要 となるからである。WWR をうまくモデル化するためには、平均的により大きな ポートフォリオ価値 に対してより大きなエクスポージャー・ウェイト ≔ ∙ , が与えられるようにしなければならない。しかし、多くの コピュラは、 に対して厳密に増加するウェイト関数を構築するわけではない。
Böcker and Brunnbauer [2014] は、リスク管理で典型的に用いられている標準 的な多くのコピュラ関数(正規、t、グンベル、クレイトン、フランク等)にお いて、大きな (分布の裾部分)に割り当てるウェイトは、中間的な大きさの
に対するウェイトよりも小さく、ゼロですらあり得ることを示している。図 2 は、Böcker and Brunnbauer [2014] の図 2 を再現したものであるが(各コピュラ 密度を用いたウェイト関数の解析的表現は補論2を参照)、短期テナー( 3 ) においては、すべてのコピュラ関数で累積確率 1 付近の高い分位点においてウ ェイト関数の頂点を示しているが(特に、グンベルが顕著)、長期テナー( 20 ) においては、より中間的な分位点で頂点に達した後、ウェイト関数はより高い 分位点に向かって減少傾向となっている。 図2 4 つのコピュラ関数に基づくウェイト関数 備 考 : 3 0.025 , 20 0.35 , ス ピ ア マ ン の ロ ー 0.6 に 固 定 ( Böcker and Brunnbauer [2014] 図 2 を再現) 0 2 4 6 8 10 12 14 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 ウェ イ ト 関数 wt 無条件ポートフォリオ価値の累積確率 t= 3Y グンベル 正規 フランク クレイトン 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 ウェイト関 数 wt 無条件ポートフォリオ価値の累積確率 t= 20Y グンベル 正規 フランク クレイトン