奈良教育大学学術リポジトリNEAR
大韓民国の科学教育について(?) ― 新教育課程 による国民学校の自然科教育について ―
著者 池尾 和子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 20
ページ 23‑37
発行年 1984‑03‑23
その他のタイトル The Science Education in Korea (III) ― New Science Education at Elementary School ― URL http://hdl.handle.net/10105/6564
大韓民国の科学教育について(皿)‡
一新教育課程による国民学校の自然科教育について一
泡 尾 和 子榊
(理科教育教室)
I は じ め に
比較理科教育所尭の立場より、我が国ではr分子」という科学用語を用いての 物質概念 の導入が中学校段階より始められているのに較べ、大韓民国(以下韓国という)では国民学校段階 より導入されていることを知り、これをきっかけに数年前より韓国の科学教育の研究に着手した。
1970年代に飛躍的な経済成長を成し遂げた韓国は、新しい時代に対応するべく即ち新しい社会の 建設を可能にするため教育の基礎となる教育課程を1981年12月31日付で改訂した。前々 報1)及び前報2)において旧教育課程における国民学校及び中学校の科学教育の一部を紹介 したが、今回は教育課程改訂後の幼稚園及び国民学校を視察・研究めため再度訪韓し得た資料を もとに新教育課程による自然科教育について報告する。
n 最近の韓国激育
日本とともに韓国はアジア諸国の中では最も高い教育水準を誇る国で、日本の統治から解放さ れてすでに30余年、韓国独自の教育も新たな段階を迎えようとしている。1950年代が、アメリカ 民主主義教育を導入し、日本統治の残澤を払拭した時期とすれば、ユ960年代は、第3共和国(朴大 統領下)の国家経済発展路線に添って国家発展のための教育が模索されつつ教育領域での量的拡 大の時期であった。一方1970年代は教育の質的発展をはかった時期といえる。1968年12月5日大 統領宣布という形で発表された「国民教育憲阜」1〕は韓国の教育目標として、氾濫する外来思想
の中で、国民自らの安定した精神的支柱を明らかにし、更に民族の主体性に基づく「国籍のある 教育」を主張し、現在も各種学校段階においてそれが具体化されている。
r国土が分断され、南北が対峠している韓国の現実は、教育分野においても、世界いずれの国 家よりも、国家の安全保障とか、民族の生存権を確保せねばならない特殊事情の下にあるために 反共教育はもちろん、自衛力の強化とか、自主精神の酒差等の教育に重点をおいている…・…・・…
韓国教育は、1968年に宣布された国民教育憲章の理念をもとに、憂国、愛族の精神に透徹し、
国家の発展に寄与し得る衿持高き韓国人教育を目標としている。…(中一冬) . 国警ある散育をせね ばならないという深い反省と民族教育とか、韓国統一に対する教育、人聞化教育、道義教育、労
‡ The Science Education in Korea(皿)
一服wSci㎝ce Educ鮒㎝at Elementary School一
榊Kazuko IKEO,Department of Science Education,Nara Uhiv町sity of Education
作教育等を重視せねばならない…(後略) ・ 」は光州市光州洞女子中学校長鄭鎮弘氏の 韓国の 教育(海外の教育 第21号 昭和55年6月発行) の中の引用である。この鄭鎮弘氏の講演から
も推察出来るように、現在も準戦闘体制下にあり、韓国をとりまく特殊な情況は、教育上でのさ まざまな改革を必要としている。1)長期総合教育計画の立案(義務教育九ケ年延長等)、2)入 学試験制度の改善、3)国家意識の啓培とr新しい村」教育の発展、4)漢字教育の復活と日本 語教育の開始、5)研究都市の誕生等、1970年代の教育の質的改革の動向を要約したが、経済発 展に伴う物質主義の膨脹に対処する人間教育や価値観教育の欠乏、誤った教育熱が引きおこした 過熱的な課外授業、入試中心の学校教育等々これら数多くの問題をかかえっっ80年代の現在を迎
えた。・)
皿 教育課程の改訂について
1970年代の飛躍的な経済成長に伴う社会情勢の変化に対処し、新しい社会への予測や国民の切 望する新しい社会の実現のために、ユ98ユ年12月31日付で幼稚園・国民学校・中学校および高等学 校すべての教育課程が改訂された。この改訂への移行措置として、1979年3月1日付で教育課程
(和訳の一部:表1)が改訂された。 表1の中で移行措置として、r民族的大業を完遂するた め 民主主義を確立して、主体的、強力な国家を培養するために総力を尽すべきである」と 述べている。一方1981年I2月31日付改訂の新教育課程(邦訳の一部:表2)ではr第5共和国(全 大統領下)は、民主主菱を土着化し 」とし、民主主義を先ず確立して次に民主主義の土着 化へと内容の改訂をスムーズに実行出来るよう工夫されている。また、表1の中で国民教育憲章 の理念にもとづき、イ)国民的資質の酒養、口)人間教育の強化、ハ)知識・技術教育の刷新を 基本方針にするとうたっているのに対し、表2の中では、ア)民主主義を土着化して、イ)福祉 社会を建設し、ウ)正義社会を具現する一方、教育を革新し、文化を達成することを国政の指標
としていると述べている。更に、教育は民主、福祉、正義社会の建設に積極的に役立つことが出 来るように、自主的で創意的な国民を育成することを目的としている。従って、学校教育は、正 しい精神と丈夫な体を鍛練する人、一・・全人的な発達がなしとげられるようにしなければならな いと述べ、妻1のイ)回)ハ)を総括している。また更にこの教育課程は、上のような学校教育 の目的を達成するのに適合した教育内容を精選して、初期には総合的な教育経験(合科授業等を さし)になるようにし、徐々にこれを拡大、深化させるように組織し、1)健全な心身の育成、2)
知力と技術の培養、3)道徳的人格形成、4)民族共同体意識の高揚に重点を置き構成すると述 べている。この新教育課程による国民学校の教科目は、1)の健全な心身の育成は、音楽、体 育及び美術の三教科の合科授業楽しい生活に、2)の知力と技術の培養は自然科及び算数の二教 科合科授業知恵ある生活に、3)道徳的人格形成は社会・道徳及び国語の合科授業正しい生活に、
4)民族共同意識の高揚は、あらゆる教科の総合及び合科授業我々は楽しい1年生のそれぞれに 相応し、国民学校全体としては、低学年では合科授業及び合科的扱いを多くし、学年の進行に従
い、徐々にこれを拡大、深化(教科別指導)させるように配慮されている。表3に新教育課程に よる国民学校教育課程の邦訳の一部を示す。新教育課程における国民学校教育は、学習の日常生
教育課程の推移(表1〜表4)
表1 教育課程の改訂
第1章 教育課程構成の…段目標 1979年3月1日改訂 1)基本方針
私達は祖国の近代化を急速に成就し、平和的な国の統一と民族中興の使命を完遂するために、挙 族的に維新課業を推進しなければならない歴史的時点に立っている。このような民族的な大業を完 遂するために、私達は肯定的に思考し、能率的に行動し、国民の知恵と力量を一つにして、私達に 適した民主主義を確立することによって主体的で強力な国力を培養するところに総力をかたむけな ければならない。これを先導し、後援するためには国家の教育理念を基本にして教育の目標と内容 が普断に再建され、改善しなければならない。こういう点を考えて教育課程を構成するにあたって 国民教育憲章の理念のもとに国民的資質の極養、人間教育の強化、知識・技術教育の刷新を基本方 針にする。
表2 1981年の教育課程の改訂
第1章 教育課程の構成の方向 1981年12月31日改訂
我国は長い間、試練と克服の時代を越えて、今、和合と建設の新しい時代に入っている。第5共 和国は、民主主義を土着化して福祉社会を建設し、正義社会を具現する一方、教育を革新し、文化 を達成することを国政の指標としている。故に、私達の教育は民主・福祉・正義社会の建設に積極 的に役立つことができるように、自主的で創意的な国民を育成することを目的とする。従って学校 教育は正しい精神と丈夫な体を鍛練する健康な人、趣向が高尚で、美を追求する審美的な人、知識
と技術を身につけ問題を合理的に解決する能力のある人、人間を尊重し規範に従って行動する道徳 的な人、自身と共同体のことを自ら決定して実践する自主的な人に育てられるように力を入れ、全 人的な発達が成しとげられるようにしなければならない。この教育課程は、上のような学校教育の 目的を達成するのに適合した教育内容を精選して、初期には総合的な教育経験になるようにし、徐 々に、これを拡大、深化させるように組織し、特に健全な心身の育成、知力と技術の培養、道徳的 な人格の構成、民族共同体意識の高揚に重点を置き構成す孔
表3 国民学校教育課程
第2章 国民学校教育課程 1981年12月31日改訂 1.教育目標と編成
イ)教育目標
国民学校教育は、学習と日常生活に必壌な基本的な能力を養い、正しい生活態度を構成し、全人 的な成長のための土台を養うことを目的とする。
1)保健と安全に対する基本的な知識と機能を習得させ、健康な体を持つようにする。
2)美を感じ養うことが出来るようにし、これを創意的に表現するように基本的な能力を養う。
3)日常生活に必要な基本的な言語能力と数理的な思考カを養う。
4)自然と社会の理解のための基本的な知識を持つようにし、知的に探究することができる基本的 能力を養う。
5)基本的な生活機能と、勤倹、節約する態度を養い、自立に必要な基本的な資質を持つようにす る。
6)日常生活に必要な基本的な礼節と秩序を守り、隣人と国を愛する心を持つようにする。
口)編成と時間配当 1.編成
イ)教科活動と特別活動に分けて編成す孔
ω 教科活動は、道徳・国語・社会・算数・自然・体育・音楽・美術・実科に編成する。
12〕特別活動は、子供会活動・クラフ活動に編成する。
2.時間配当
イ)教科活動時間は、教科間の関連性と児童の発達段階を考慮して、1・2学年は教科問の統合を、
3学年以上は分科を原則とし、配当する。
口)特別活動時間は、3学年以上に配当する。
表3−1 時間配当
輯 1 2 3 4 5 6
道徳 68(2) 68(2) 68(2) 68(2)
国語 374(11) 374(11) 238(7) 204(6) 204(6) 204(6)
教 社会 102(3) 102(3) 136(4) 136(4)
算数 136(4) 136(4) 136(4) 170(5) 170(5)
科 自然 204(6) 68(2) 102(3) 136(4) 136(4) 136(4)
体育 102(3) 102(3) 102(3) 102(3)
活
音楽 204(6) 238(7) 68(2) 68(2) 68(2) 68(2)
美術 68(2) 68(2) 668(2) 68(2)
動 実科 68(2) 68(2) 68(2)
計 782(23) 816(24) 884(26) 952(28) 1020(30) 1020(30)
特別活動 34川(1→ 68〜(2→ 68山(2〜) 68〜(2→
総 計 782(23) 816(24) 1〜27〜 1 〜3〔ト 0 〜 1 〜 3〜 32〜
*①この表に配当した総時間数は、年間34週を規準とした最少時間数 、1ゆ中は、週の平均時間 数である。
②1・2学年の場合、2〜3教科を合わせて時間を配当したのは、総合教科用図書及び資料を活 周して、該当=教科を統合運営することを表わしている。
③1時間の授業は、40分を原則とする。但し、気候・季節・児童の発達程度、学習内容の性格な とを考慮して実状に合うように調節することができる。
④学校の特別な条件とか教務の事情の上、特殊な理由で、時間配当基準による時間数を充当する ことの出来ない場合は、監督庁の許可をもらい、教科活動・総履習時間の5%に該当する時間 を短縮運営することができる。
衰4 国民学校教育課程 一白然科一
自然科 1981年12月31日改訂 イ)教育目標
自然に接触しながら科学に対する関心と基礎素奏を持つようにする。
1)周囲の自然現象を理解するのに必要な基礎的な概念をわかるようにする。
2)周囲の自然現象を探究する初歩的な方法を習得するようにする。
3)周囲の自然現象に興味を持って、これを科学的に観る態度を養う。
口)学年目標及び内容
<1学年>
1)目標
イ)周囲にある生物と無生物を区別するようにし、色々な動物と植物はそれぞれ同じ点と違う点 があるのをわかるようにする。
口)周囲にある色々の物体の特徴をわかるようにし、これらをその特徴により分類できるように する。
ハ)自然環境と気候を観察しその変化をわかるようにする。
二)好奇心を持って、自然現象を観察しようとし、観察したものを自由に表現しようとする態度 を育てる。
2)内容
イ)私達の周囲の生物、私逢の周囲には、色々の生物がいるし、それらは同じ点と違う点を持っ ていて、無生物とは区別され孔
口)色々な物体、私違の周囲には色々な物体があるし、これらは同じ点と違う点を持っている。
ハ)私違の自然環境、山・川・海及び空の天体らは、私達の自然環境で季節と気候は変化してい る。
<2学年〉
1)目標
イ)物体は物質で作られているし、物質には、固体、液体の状態のあることをわかるようにする。
口)太陽の光が照るところと、日陰の差異点をわかるようにし、影遊びを通じて、光に対する好
奇心を持つようにする。
ハ)種子の発芽と生長がわかるようにし、植物の一生を活かすことが出来るようにする。
二)空気の存在を確認させるようにして、気体状態の物質もあるのをわかるようにする。
ホ)昆虫を観察し、それらの形と生活習慣をわかるようにする。
へ)物体が振動する時、音が鳴るというのをわかるようにし、音が伝わる現象についても好奇心 を持つようにする。
ト)太陽と月は、時間が経つに従ってその位置が変化することをわかるようにし、昼と夜の差異 点がわかるようにする。
チ)磁石には、二つの極があり、磁極の間には、カが作用していることをわかるようにする。
リ)好奇心を持って自然現象を観察しようとし、観察したことを自由に表現しようとする態度を 養う。
2)内容
イ)色々な物体 1)物体と物質 2)固体と液体 口)光と影 1)大陽の光 2)影
ハ)植物の一生 1)発芽 2)植物の生長 3)みのり 二)空気 1)空気 2)空気と水
ホ)色々な昆虫 1)草畑に住む動物 2)昆虫の生活 へ)音 1)音を出すこと 2)楽器作り 3)電話 ト)昼と夜 1)昼 2)夜
チ)磁石 1)同じ極と違う極 2)磁石遊び 3)磁石の周囲の鉄粉 4)磁針作り
<3学年>
1)目標
イ)物体の操作を通じて、平衡を作る条件をわかるようにし、両腕天秤を使って、物体の重さを 比較出来るようにする。
口)気温、風、雲などによって天気が変化し、また、これらは時間と場所によって違いがあるこ とをわかるようにする。
ハ)カエル、モンシロチョウの成長過程を観察し、かれらの一生をわかるようにする。
二)粉状物質の性質を利用して、これらを区別できるようにし、液体らもそれぞれ違う性質のあ ることをわかるようにする。
ホ)池と金魚鉢の中の生物を観察し、水中動物と植物の特徴及び相互関係をわかるようにする。
へ)土の生成過程をわかるようにし、士には色々な生物が住んでいることをわかるようにする。
ト)電池と電球を連結して点燈することが出来るようにし、電気回路を見て、予想したものを確 認できるようにする。
チ)単位を利用して、物体の大きさ及び量を測定する方法をわかるようにする。
リ)好奇心をもって、自然現象を観察しようとし、観察したものを客観的に表現しようとする態 度を持つようにし、科学学習に興味を持つようにする。 一
2)内容 イ)物体の平衡 口)気候
ハ)動物の一生 二)物質の性質 ホ)池の生物 へ)石と土 ト)電池と電球 チ)測定
1)物体を吊る 2)バランスとり 3)両腕天秤 1)温度測り 2)天気調べ
1)かえる 2)もんしろちょう 1)色々な粉 2)色々な液体 1)池の生物 2)金魚鉢作り 1)石 2)砂と土 3)土と生物
1)電球に点燈 2)電池つなぎ 3)クイズ箱
1)長さ測り 2)面積測り 3)体積測り 4)粒の個数測り
活に必要な基本的な能力を養い、正しい生活態度を構成し、全人的な成長のための土台を養うこ とを目的とすると述べ、ここでも全人的な成長のための土台を養うことを強調している。
今回の韓国の教育課程の改訂は我が国の1977年の文部省学習指導要領の改訂との類似点が多い。
改訂前は、学習量が授業時間数に対して多すぎたり、学習内容の基準が一部高度であったなどの 問題点があった。それらの問題をかかえた学問中心的な教育課程(我が国の学習指導要領に相当)
から人間中心的な教育課程へ、即ち人格形成を目的とした教育課程へと移行されることになった。
この教育の変遷の傾向は単に日本及び韓国のみならず世界的にほぼ同じ傾向をたどっているとい える。表3中の表3−1は新教育課程における時間配当表であるが、ゆとりのある人間、より豊 かな人間をめざIし、一週間あたりの配当時間数は、1日教育課程のそれより減少していることがわ かる。表4は自然科の新教育課程邦訳の一部を示す。自然科教育の目標は、旧教育課程と比較し て、やさしい言葉の表現にあらためられているが、依然として基礎的な科学概念体系をわからせ るようにすることを強調し、旧教育課程と同様、基礎的な科学概念(エネルギー概念及び物質概 念)を自然科学教育の基礎としている。今回の改訂にあたり自然科学教育では当初低学年(1〜
3学年)をすべて算数教育との合科授業として計画されたが、余り急激な変化はかえって児童に マイナスの影響を及ばしても困るとのことで、とりあえず改訂時は1学年のみ算数教育との合科 授業 知恵ある生活 として出発した。
新教育課程は未来社会を予想しての改訂4)である。高度産業社会を想定し急激な社会変化に対 応するためには、数多くの情報・知識を体系的に組織化または再編成させる適応力を養い、同時 に創造力や問題解決能力を養う必要が予測される。従って学校教育においては知識より知力を伸 長し、事実よりも基本的な概念体系を探究し、技能の習得より基礎原理を理解させる等の基礎教 育の見直しや充実が必要であると、今回の改訂がなされた。この主旨に添い自然科教育の目標を 科学の基礎素養をもつ とし、科学の基礎概念(自然科概念体系)を理解させようとする態度 は、1日教育課程とはかわっていない。
lV 自然科新旧カリキュラムの比較について
今回の訪韓時、視察した国民学校は釜山及び仁川教育大学の附属国民学校と、ソウル特別市の 方背洞国民学校である。(幼稚園及び国民学校の一貫教育を考え幼稚園も視察したが紙面の都合 で次回にゆずる。)国民学校1学級の定員は60名で教育大学の各附層学校では60名編成であった が方背洞国民学校では67名編成であった。教授法や教材論については各国独自の教育理論による が、多人数学級経営及びそれに伴う教授方法の一端を示すため6年生の単元 燃焼 の授業風景
(写真1)をのせる。多人数の児童であるが学習指導法等が工夫されていて実験器目も豊富で授 業時間40分の大部分が実験実習であった。この燃焼の授業(酸素の発生による)も、静かなさわ めきの中で授業が進行した。 r参観者があり児童が緊張していたことも少し関係するかもしれぬ が、殆んど毎時間静かに各自で先生の指示通り工夫して実験をすすめている」と弄錫山校長先生 の説明があった。どの国民学校にも実験準備のための助手が確保されていた。又各教育大学には 科学教育研究所が併設され、科学教育、特に国民学校の科学教育(自然科教育)研究に力を注い でいる。
1981年12月31日改訂以前に使用されていた自然科の教科書及び単元展開(日本との比較研究も 含め)等については、前々報1〕にその一部を紹介したが、今回は新教育課程による教科書にみら れる単元展開と旧教科書のそれを表5に示す。
旧教育課程による自然科教科書はESS,SC I S及びAAASを主な柱として徹底研究され、そ の中から精選された教材と、韓国の伝統的な自然科の基本方針により選ばれたものとで編集され たが、時代の変遷と共にどのように教材観が変化したかを表5で比較したい。更に旧教育課程で
6学年 燃焼 の授業風景、ソウル特別市方背洞国民学校(全校児童数5,200人)
(1組 67人編成)
表5 新旧単元展開の比較
※○:新しく加えられた単元 学 学年 期 旧教育課程 新 教 育 程
1. われわれの教室 1. 形態遊び 2.ボタン遊び 2. いろいろな昆虫
1.数々の物体 知 3.花たん 3. 粘土遊ぴ
1自 恵 4.飼育場 4. 水にうかべる
2.数々の生物ω あ 5.山と野原 5. ゴム粘土舟
然 る 6.春の遠足 6. 実とたね
生 7. いろいろな動物 7. 動物のえさ
第 活 8.おやと子 8. 木の葉
9. 順序を定める 9. 秋の東山
一 2 1O. いろいろな植物 1O. 穀物とやさい
学 口
1.数々の生物12〕 科 11.音 n. 夜の空
年 授 12.積む遊び 12. わたしの一日
2
2.物体と物質 業 13.池 13. きび棒遊び
) 14.川辺 14. 春夏秋冬
15. 気候 15.
十、 i6. 海 ユ6. 磁石遊び組がぞえ
正 2.天(日)気の変化3、植物の成長1.光と影 17. 2.光と影3.1かぞえてみる植物の一生いろいろな物質
警←十一 一 4.空気
w一 一 1. いろいろな昆虫
年 2 1.金魚ばちの生物 2.音
2.数々のカ 3.昼と夜
4.磁石 自然㌧ 一.物体の均衡
1. 物体の均衡
2.溶解 2.天気
3.生物の一生 3. 動物の一生
璽←一丁一 4. 物質の性質
二 1.電気回路 1.池の生物
学 2、年
2.熱と物体の変化 2.石と土
3、 電池と電球
④ 測定
自然 11 1.物質の分離 1. 光の進行
2.光の性質 2.
3.生物と環境 ③
川と海ャさな生物
第
4. 環境と生物
四 1、地表の変化 1. 混合物の分離
学 2年 2.位置と運動 ②3. 地層と化石熱と物体の変化
4. 電気回路
自 1.エネルギーとその変換 1. カと道具
然 1 2.大気と水の循環 2. 溶解
3.生物の群集 3. 天気の変化
第
4. 植物の構造と機能
五 1.分子 1.生態系
学2年
2.カと連動 2、3. 物体の位置と連動地球と月の運動 4.分子
1.電流と磁気場 2.化学変化 3.生態系
雪継岩地震
R、議と塩基の性質
4. わたしたちの体
第⊥
ノ、
学 1.地球と月の連動 ① 環境汚染と自然の保存
年 2 2.人体 2.3. 燃焼季節の変化
4. エネルギー
※ 最初3学年までの合科授業を計画したが 急激な変化をさけて一学年のみにした。
の編集の基本方針は、40分間の授業の中で再現できないものは教材として省くとの原則がたてら れ、「地層と化石」や「火山と地震」等は省かれていた。然し今回の改訂にあたり40分間でたと え再現出来ない教材でもr地震」のようにどうしても児童に理解させたい教材は追加された。
旧教育課程でその学年では理解がむずかしいと判断され、高学年に移行させた単元教材と教材内 容を平易なものとした単元は次のようである。
i)2学年のr天気の変化」が3学年の「天気」となり、旧教育課程の「天気の変化」のなか の一項目のみと内容はやさしくなった。
i)2学年の「植物の成長」は「植物の一生」と5学年の「植物の構造と機能」にわけられ、
植物の生成・成長の意味をより理解させやすく工夫されれ
洲)2学年の「金魚ばちの生物」は、3学年の「池の生物」とより具体的なものへと教材の取 り扱いを工夫された。
iv)3学年のr溶解」は5学年の単元として変更され、3学年の児童では理解されにくい教材 であることが判明した結果だという。
v)3学年のr電気回路」は科学用語としても3学年の児童にはむずかしくr電気と電球」と いう単元を新しく加え、4学年であらためてr電気回路」を理解させる方法をとっれ
vi)4学年の「物質の分離」は、物体と物質の性質をよく理解した上でなけれぱむずかしい教 材であり、その内容をよりやさしいr混合物の分離」とあらためれ
㎜)5学年のr工不ルギーとその変換」は、工不ルギーという科学用…五の概念もむずかしく更 にその変換となるともっと理解が困難となるため、基礎概念としてのrエネルギー」にとどめ6 学年に編成された。
内容の理解が高学年に移行することで可能になると思われるものについて述べたが、単元・教 材内容の理解を助けるため、或はやさしくするため2つの単元項目にわかれたものについて述べ
る。
i)3学年の「生物の一生」は旧カリキュラムでは 植物の一生 と 動物の一生 の二項目 から成り立っていた。 生物 という用語及び概念が児童にむずかしく、2学年のr植物の也 と3学年の「動物の一生」にわけて具体的な理解を通して 生物 をわからせる工夫をした。
五)4学年の「地表の変化」は、3学年の「石と土」と4学年のr地層と化石」及び6学年の r火山と地震」の3つの単元にわけた。それぞれ40分問の授業時間内では再現不能であっても、
何とか児童に理解させたいとこれら新しい単元を追加した。
測)4学年のr生物と環境」は、旧カリキュラムでは 環境と生物 と 環境への適応 の2 項目からなりたっていた。 生物と環境 とはあくまで生物を主体的に捉えるが、実際は環境が 生物をかえることが多いので、単元名をr環境と生物」とし同学年にとどめた。
iv)6学年の「生態系」は、5学年の「生物の群集」とあわせ、5学年の「植物の構造と機能」
で生物の中の植物について理解したあとで引続き「生態系」を理解させたく5学年に編入された。
6学年より5学年への移行で理解されやすいのではと考えがちであるが生態系(エコロジー)と いう科学用語及び概念が具体的なものを通して抽象的な体系を理解させるという教授法で理解が
可能になると考えられた結果と考える。前々報にも報告した通り6年間の義務教育で人生に最少 限必要である科学用語を理解させなければならないので、児童に理解されにくい科学用語でもあ えて教材展開の中で扱う必要がある。
v)6学年の「地球と月の運動」が5学年に移行したのは内容がやさしいからではなく5学年 のr天気の変化」と6学年のr季節の変化」の展開の都合による。
㎞)6学年の「化学変化」は、同学年の「酸と塩基」と「燃焼」にわけられた。旧カリキュラ ムにおいては、「化学変化」は 物質の変化 ・ 酸化と還元 及び 酸と塩基 の三項目より なりたっていたが、そのなかのr酸と塩基」と酸化現象の一つのr燃焼」の二項目になり、理解
しやすいように工夫された。
尚、旧カリキュラムではなかった単元で新カリキュラムに新しく設けられた単元にr測定」が ある。3学年次より実験技術としての測定技術が必要であることから加えられた。「小さい生物」
も新しく加えられた。r地層と化石」r火山と地震」は前にも説明したように自然現象としても 児童にどうしても理解してほしい教材として加えられた。更に「環境汚染と自然の保存」も加え
られた。環境と生物のまとめとして環境が汚染されれば生物が生存出来ないことと、自然の保存 も生物(人間も含めて)の生存のために重要であることを児童にも理解させるため新しく加えら
れた。
新カリキュラムによる自然科教育の第1学年は算数教育との合科授業として 知恵ある生活 とよばれるA5版の教科書を使用する。前々報にものべたように国民学校も2期制をとり従って 教科書も各期1冊で1学年2冊の教科書を使用している。 知恵ある生活 の前・後期の教科書
は33項目より成りたっているがそのなかの各11項目が、自然系概念体系の展開の中での「我々の まわりの生物」・rいろいろの物体」およびr我々の自然の環境」に分類される。
表6は新教育課程による自然科の展開を示す。自然科の教育目標r周囲の自然現象を理解する のに必要な基礎的な概念をわかるようにする」に添い自然科概念体系の展開を示す。この表は国 民学校目然科教室には掲示されていた。我が国の小学校の理科教育の3本柱r生物とその環境」
・r物質とエネルギー」及び「地球と宇宙」を表6中にA項として併記し単元展開の流れは我が 国と同一であることを示す。
韓国国民学校自然科と日本の小学校の理科カリヰエラムの内容の比較を、一般に科学用証が 国民学校から大学まで統一されていて、しかも義務教育が6年間という制限のため、教科の内 容は概して韓国の方が高度である。低学年2 3年を例として行ない表7に示した。例えば3学 年のイ)r物体の平衡」についていえば我が国では物体という用語も平衡という用語も小学校で は用いられないが物体の平衡については6学年の「カとてこ」で取り扱う。このように韓国の低 学年で学習する内容には日本では一部高学年で学習するものがある。韓国では物質と物体のちが いを1学年より理解させるカリキュラムを組み、小学校で物体や物質を もの 又は 物 として 扱う日本のカリキュラムとでは物質への認識過程が異る。韓国では2学年でr物体は物質で作られ、
物質には固体・液体の状態があることをわからせる」とあり、物質の扱い方に特色がみられる。
従来大単元制をとっていた自然科カリキュラムも、今回の改訂により単元数が増え、中単元制
窪
表6 夫韓民国の国民学校自然科概念体系 1981年12月31日改正 学年
A 1学年 2学年 3学年 4学年 5学年 6学年
生
物 我々のまわりの生物 いろいろなこん虫 池の生物 小さな生物 植物の構造と機能 わたしたちの体
と そ
の ※
環 植物の一生 動物の一生 環境と生物 生態系 環境汚染と
境 目然の保存
いろいろな物体 いろいろな物質 物質の性質 混合物の争離 溶 解 酸と塩基の性質
※
芋 気 分 子 □一■
物
質 磁 石 電池と電球 電気回路
と
電磁石n
工
ネ 音 熱と物体の変化 エネルギー
ノレ
ギ 光と影 光の進行
I
物体の均衡 力と道具
測 定 物体の位置と通動
地 我々の目然環境 昼と夜 天 気 天気の変化 季節の変化
球 ※
と 石と土 川と海 地球と月の運動
字 宙
地層と化石 火山と地震
表7韓国の国民学校「自然科」(2年,3年)におけるカリキュラム の内容に該当する日本の 」、学校「理科」のカリキュラムと学年比較
<大韓民国> <日 本〉
2学年 イ)色々な物質 口)光と影 ハ)植物の一生 二)空気と水 ホ)色々な昆虫 へ)音 ト)昼と夜 チ)磁石
2年(日なたと日かげ)
5年(種子の発芽)
3年(空気てっぽう)
3年(夏の木や虫)
5年(音)
4年(太陽・月の動き)
3年(磁石の極)
3学年 イ)物体の平為 口)気候 ハ)動物の一生 二)物質の性質 ホ)池の生物 へ)石と砂 ト)電池と電球 チ)測定
6年(力とてこ)
6年(気温の変化と太陽)
4年(こん虫)
4年(物のとげ方)
6年(地層)
4年(まめ言球の明るさ)
へと移行した。
V ミ11 と め
新教育課程における自然科の教育目標は、旧教育課程のそれと比較し「自然に接しながら科学 に対する関心と基礎素養をもつようにする」と自然科が身近なものと感じさせるやさしい表現 となった。「自然に接しながら一・・」との韓国自然科教育の目標の中の 自然 と、我が国の文 部省学習指導要領に示される理科の目標の中のr観察と実験を通して自然を・一・」の 自然 は、
共に同じ自然認識の上にたつ自然であると考えることが出来る。韓国における自然は日本と同じ く仏教と儒教の自然観、宇宙観を基礎としての自然であり、科学教育が同一自然認議の上になり 立っていると考えられ、比較理科教育の対象としては得がたい国である。この意味で欧米諸国の 異った自然認識の上になりたった科学教育を参考とし、自国の科学教育の基礎を考える上で重要 な研究資料となる。同一自然認識による科学教育が実施されているにもかかわらず国民学校段階 で科学基礎概念を理解させることを強調される理由は新教育課程改訂の趣旨にも添っている一方 義務教育6ケ年の制限によると考えられる。近く義務教育が9ケ年に延長されたときこれらの自 然科学教育がどのように変化するかが興味深い問題である。
学問中心的な旧教育課程から人間中心的な新教育課程へと改訂され、全人格形成教育が強調さ れているが、この傾向は日本及び韓国にとどまらず世界的な傾向である。前報にも述べたように 最近の特色は1国の教育改革は他国の影響なくして行われなくなったことの証でもある。昨年訪 問したタイ本国においても新しい教育課程により小学校においては合科授業が採用されていた。
我が国においても合科授業.についての報告が多くみられる。筆者らも合科による理科授業を行っ た結果よい効果がみられ、理科単独の授業より児童の理解度が増したという研究結果5)牽得てい る。総合理科教育の傾向も、世界的な傾向で 韓国の 知恵ある生活 をはじめとし、日本の中 学校理科第一分野、第二分野、.高等学校理科I・lIや、フィリピン及びシンガポールにおける Integrated Scien㏄(総合理科:Secondary School)、 イギリスのナフィールドのCo血bined
Science等々、その他ヨーロッぐにおいても総合理科として理科教育を扱っている国も多い。
特に東ドイツやオーストリーのよ.ラに歴年的に人格形成を目的とする教育として古くより合科授 業形態の科学教育を行っている国もあるが、上記のように科学教育を総合的にとらえる新しい傾 向もみめがすわけにはゆかない。
知事ある生活 の授拳軍営はむずかしく、自然科と算数を等分に融合させ、又他の 正しい 生活 楽しい生活 との調和をとるのはこれからの授業研究にかかると話されていた。合科授 業のための準備は単独授業より時間もかかり授業の予想がむずかしく、現職教育の方法もかなり 開発されなければならないとのこ一とだった。合科授業が児童の人格形成にどのように影響を及ぼ すか、また教師の指導方法により児童.の理解度がどのように変化するか等、韓国の教官諸氏の実践 例を参考とし比較研究を続けたい。
社会が多様化し価値判断も多様化してゆく中での評価法の確立が急がれている。韓国において は入学試験制度の改善をはじめとして評価方法についても韓国独自の方法が研究開発されている。
国民学校自然科教育においてもぺ一パーテストによる評価にとどまらず、態度・能力・口答質問 を併用し現在はべ一パーテスト40%、その他の総合60%により評価しているが、将来はべ一パー テスト20%、その他の総合80%とで全体の評価を行う方法を研究開発している・と男錫山校長が説 明された。
コンビ旦一夕一による評価法は世界各国ですでに実施され現在それが各種教育機関にまで及び つつある。又パーソナルコンピュータ.一(以下パソコン)の普及により各学校の事務処理に利用 されている。読み、書き、そろばん、といわれたそろばんが、コンビ三一ターに一部かわりっつ あ.る現在、韓国国民学校にコンピューター(パソコンを含む)を導入することが政令で決定され、
すでに国民学校教論のパソコンセミナーも何度か行われたとの話であった。学校連営、学校管理 のためのパソコン導入は日本でもすでに行われているが、特に奈良県の新庄中学校においては生 徒1人パソコン1台の研究授業もすでに行われている。次回訪問に備え我が国の評価法その他の 情報処理に関する研究も併せて続行している。
VI おわ一りに
最後に大韓民国訪問の機会をお与え下さった仁川教育大学南億祐学長、釜山教育大学院快鉱学
長及びソウル教育大学徐章錫学長、教育資料をいただいた口11教育大学の盧在文教授、釜山教育 大学の南相敦教授、河中深教授、及びソウル教育大学中載旭教授、仁川教育大学附属国民学校長
李昌護先生及び釜山教育大学附属国民学校長丁正風先生、方背洞国民学校弄錫山校長及び趙順子 先生をはじめ、これら資料の邦訳をお手伝い下さった奈良韓国教育院長・鄭淳昌先生、奈良教育 大学国費留学生・柳吉東先生、及び資料整理に協力された植田正家先生、岩橋恭子先生、専攻生 東佐和子さん、山田雅三君に感謝の意を表します。
この研究の一部は、去る8月24日、第30回日本理科教育学会 沖縄全国大会において発表した。
w 参考文献
1)池尾和子 奈良教育大学教育研究所紀要 P6117号 1981
2)池尾和子・植田正家 奈良教育大学教育研究所紀要 P1 18号 1982 3)鄭 淳昌 奈良教育大学理科教育研究会資料(印刷中)
4)洪 雄善 海外の教育 P16N皿60 1983
5)池尾和子・松村佳子・岩橋恭子 日本理科教育学会紀要 P1 N皿2.V0123 1982